●陸上から
キャンプ地奪還からすぐ後。
ケルベロス達は動きだした敵の本丸、難破船の調査に乗り出した。
難破船の死角になっていた大岩の陰に隠れると、遠巻きに船の様子を見つめる。
「海岸の様子を察知しているなら、こちら側を警戒している可能性が高いか……」
飛行して偵察しようと考えた神野・雅(玲瓏たる雪華・e24167)だが、海岸の異変に気づいているなら気配を消しても見つかる可能性は高いことに気づき、歯噛みする。
「ならば、陸地から迎撃できそうな場所を探してみよう」
斑目・黒羽(時代遅れの風来坊・e14481)は、嘲笑うように航行している難破船を見やる。
元は大型モーターヨットだったと思われるが、船体は赤錆でひどく変色し、フジツボも付着している。
損傷も激しい上に、海底に落ちてかなり時間も経っているだろう――とても機関部が機能しているとは思えない。
「あれは元々沈んでいたのだな?」
コロッサス・ロードス(金剛神将・e01986)の問いかけに、黒羽は頷き返し、これまでの様子を思い出し始める。
「海中から突然現れて、それからずっと海上に留まっている。潜水する気配はなかったから潜ることは出来ないのかと……それに、こちらの退路を断とうとするほど用心深い相手だ」
潜行できるなら、潜って奇襲しようとするハズ。
――つまり『なんらかの理由』で海上に浮くことしかできないと推測できる。
「難破船の様子はちょっと分からないですね……あっ、あそこの崖とかどうですか?」
暗視双眼鏡で状況を確かめていた鈴原・瑞樹(アルバイト旅団事務員・e07685)は指差し、視線を向けるよう促す。
そこには切り立った断崖が洋上を見下ろしていた。
崖上は少し出っ張りがあり、おそらく船から崖上の様子は見えにくそうだ。
崖下にも海岸から通っていける岩礁があることから、足場にして即座に攻撃できそうだ。
「岩礁から迎撃出来れば多少有利に動けるかもな、敵の上陸を許してしまうことが難点か」
「船の上へ奇襲したら混乱させられそうだが……混乱している間に勝負をつけられるか、だな」
黒羽と雅は唸り、コロッサスも顔をしかめてみせる。
「船でも陸でも、長引けばこちらの消耗も激しくなりそうだ」
「それにしても、あんなにボロボロな船でどうやって動いているのでしょうね?」
瑞樹は全く想像がつかないと首を傾げるが――おそらく、彼女の想像を大きく上回っているだろう。
●海中より
「グッドラック、だよっ」
「おう、イカした情報持ってくるからな!」
一方、海寄りの岩陰に隠れた4人は、海中から調査を試みようとしていた。
帰還地点を確保しようと陸で待機する月鎮・縒(迷える仔猫は爪を隠す・e05300)がビシッと親指を立てれば、ペーター・ボールド(ハゲしく燃えるハゲ頭・e03938)もイカしたサムズアップを返す。
ペーター達は静かに潜りこむと暗い海の中を泳いでいく。
(「……あれが、船の影?」)
防水ライトを手に、懸命に潜行する狼森・朔夜(ウェアライダーのブレイズキャリバー・e06190)は不審な影を見つける。
頭上からは指揮官と思われる、男の罵声がぼんやり聞こえてきた。
『なにをノロノロしているのだ! 早く動かんか!!』
ガンッ! ガンッ! と船底を叩く鈍い音が響き、朔夜は眉をしかめつつ『もう少し近づいてみよう』とハンドサインを送り、さらに近づいていく。
カルナ・アッシュファイア(燻炎・e26657)も諾の意を示し、後を追うと、目下に息絶えている巡視船の残骸を見つける。
(「ひっでぇことしやがるぜ……さてさて、なにがあるか――ッ!?!?」)
カルナが視線をあげると、目の前の光景に思わず吹きだしそうになり、慌てて口を押さえる。
――船底には大量の異形が、砂糖に群がるアリのようにひしめき合っていた。
その数は30前後だろうか。
両手を船底に置き、もがくように両脚をバタつかせる姿は、支配者の御輿を担ぐ奴隷のようだ。
動揺するカルナを引き連れて、ペーター達は縒の元へ一旦戻ることに。
「ど、どうしたの!?」
「難破船の動力源を見つけたぜ……しっかし、なんだあの、仲間のイカしてねぇ扱いは!?」
――まさか難破船の動力が『人力』とは!
予想外の事実は筆舌し難く、ペーターと同じようにカルナと朔夜も顔をしかめていた。
縒にも目撃した光景を伝えると、同じようになんとも言えぬ表情に変わる。
「で、でも船底にいる連中が動力なら、あいつら倒せば船は沈められるじゃねぇか? いきなり襲われりゃあ上も下も大混乱だろうぜ」
「そっか! 船を動かしている間は増援にも来られないよね、じゃあ海の中で戦った方がいいのかなぁ?」
前向きな意見を述べるカルナと縒に、朔夜が「ちょっと待て」と制止した。
「敵は何時間でも潜水できるが、生身の私達は違う。それにあの数を一気に相手するのは難しいのでは……」
遮蔽物になるような物もなく、なにより水中という不慣れな環境での戦闘となると、一概に良策とは言い切れないと慎重な姿勢を見せる。
「まあまあ、確かに水中の敵を放っておいても、異変に気づけば乱入してくるかもしれねぇもんな? だがイカした作戦を立てねぇとこっちがやられちまうことに違いはないぜ」
ペーターの言葉に三人は頷き返す。
ヘリオライダーからの予知はない、ケルベロス達の選択が自らの命運を決することになる――。
参加者 | |
---|---|
コロッサス・ロードス(金剛神将・e01986) |
ペーター・ボールド(ハゲしく燃えるハゲ頭・e03938) |
月鎮・縒(迷える仔猫は爪を隠す・e05300) |
狼森・朔夜(ウェアライダーのブレイズキャリバー・e06190) |
鈴原・瑞樹(アルバイト旅団事務員・e07685) |
斑目・黒羽(時代遅れの風来坊・e14481) |
神野・雅(玲瓏たる雪華・e24167) |
カルナ・アッシュファイア(炎迅・e26657) |
●新月の闇に紛れ
いまだ夜の闇が覆う中、ケルベロス達は崖上に集まって難破船を待ち構えていた。
崖より少し先、翼を広げて飛行する神野・雅(玲瓏たる雪華・e24167)は船の様子を見つめる。
(「怒鳴り散らし、扱き使うとは……まるで奴隷扱いだな」)
海面を滑るように移動する船影が崖に近づき始めると、頃合いを見て、雅は仲間達に合図を送る。
(「ここからが本番、まだまだ頑張らないと!」)
先陣を切って突撃しようと、月鎮・縒(迷える仔猫は爪を隠す・e05300)は真っ先に飛び降り、カルナ・アッシュファイア(炎迅・e26657)も続けて飛び込んでいく。
船尾甲板に次々着地すると、海岸を警戒していた異形達は驚いてすぐに動けなかった。
「指揮官は甲板に居ないようだ」
「だったら中に突っこむぜ!!」
唯一、指揮官を目撃していた斑目・黒羽(時代遅れの風来坊・e14481)が姿がないことを伝えると、ペーター・ボールド(ハゲしく燃えるハゲ頭・e03938)は業炎のモヒカンを燃え上がらせ船内へ突入する。
内部はホテルのスイートルームのような内装で、ガラス窓が開放感を演出した造りになっていたが、今はガラスも砕け、調度品は海水で傷んでいる。
手下に警戒させて一人寛いでいた太っちょな男は、ソファで空のブランデーグラスを煽っていた。
「侵入者!? つ、使えん奴等めぇ!」
指揮官はケルベロスを見るや表情を醜く歪める。
「そんな、道具みたいに……」
指揮官の発言に鈴原・瑞樹(アルバイト旅団事務員・e07685)は『信じられない』と愕然とした。
「てめぇ以外は家畜扱いか?」
「小悪党め、慈悲も容赦もないと思え!」
狼森・朔夜(ウェアライダーのブレイズキャリバー・e06190)は罵倒すると同時に轟雷狼牙で先制攻撃をしかけ、コロッサス・ロードス(金剛神将・e01986)も暗い炎を纏う神剣を形成し、無防備な指揮官を斬りつける。
「いけ、ボル!」
ペーターもライドキャリバーのボルを全速力で突撃させるも、指揮官はボルを踏み台にして飛び退く。
「さっさと迎え撃て、馬鹿どもッ!!」
指揮官の罵声を聞きつけた配下が甲板、海中から這いずるように姿を現し始める。
「勇猛なる風よ! 勝利の凱歌を謳え!」
「こ、このままだと囲まれちゃうよぉっ!?」
雅の起こす重力の風はコロッサス達を後押しし、甲板から迫る敵を塞き止めようと縒は気魄を込めたオーラを放つ。
配下が集まりきらぬ内に一発いれてやろうと、カルナは重厚な大剣を軽々と構えて指揮官に迫る。
「ケッ、胸糞悪ぃ……さっさと終わらせてもらうぜ」
地獄の炎を纏った一撃を、指揮官は肥満な体を弾ませるように飛び退き
「甘いわ!」
携える手斧を横から振り抜くと、左脇腹に突き刺さる重い一撃がカルナの息を詰まらせる。
「オウガメタルさん、お願い」
祈るように両手を組む瑞樹の周囲に光の粒子が広がり、奮戦する朔夜達を包みこんでいく。
五感は研ぎ澄まされていき、集中力も一時的に強化される。
「くっ、さすがに数が多過ぎる!」
戦力数も未知数の中、指揮官のみを狙って突き進んだのは拙かった。
黒羽が一体の動きを止めても、まだ他に十数体はいる。
しかも、主力が壁役の配下に気を取られているせいで、ノーマークの異形は好機とばかりに狙い撃ち、斬りかかり、貫こうと次々に仕掛けていく。
一体が弱くとも、束になって襲われれば脅威となり得る――気づいたときには、すでに包囲されていた。
司令塔を潰すべく指揮官に集中攻撃を試みるが、やはり強力な敵とあって頑丈で素早い上に
「さっさと俺様を守れ、愚図ども!」
指示を受けた手下が次々と割り込んで攻め手を阻害し、そのままの勢いで攻撃を仕掛けてくる。
船を動かしていた配下も、異変に気づいた動ける者が次々と入り込んできた。
「ど、どうしましょう、回復が追いつきません……!」
「手を止めたら一環の終わりだ、続けるぞ!」
瑞樹と雅は後方支援に専念するが、複数を対象とするグラビティでは単体に向けるものに比べて、やはり回復できる度合いは見劣りする。
「覆面でハゲ隠しするような奴がイカしてる訳無いとは思っていたが、ここまでのイカれ野郎だとはな!」
ペーターも庇いながら、多数の紙兵をばらまいて治療に回るが、苛烈な攻撃が新たな負傷を増やしていく。
黒羽も懸命に指揮官を援護する敵を斬り伏せるものの
「これではキリがないぞ!」
数に圧倒されて、手応えをあまり感じられなかった。
「ち、チロちゃん、ゴー!」
四方から迫る跳弾を縒は必死で避けながら、ファミリアロッドである青目の黒猫チロちゃんをけしかける。
赤いリボンを振り乱しながら引っ搔き回す傍らで、銛を構えた一体が縒の背後に投擲――狙いは朔夜だ。
「仲間を盾にしやがって、畜生以下め」
ファミリアロッドと砲撃モードの竜槌を両手に構える朔夜は、立ちはだかる手下に気を取られ、背後ががら空きになっていた。
「危ないっ!」
縒が身を呈して銛を受け止めると、穂先が肩を貫き、鮮血が飛び散る。
「ちょこまかすんな、クソ野郎!」
なかなか直撃を与えられず、苛立つカルナが追尾弾を放つと指揮官を船内の端に追い込む。
隙間を縫うように迫る魔法矢は指揮官を捉え、狙い通りに押し込み、
「頭上がガラ空きだ!」
捨て身で迫る手下の猛攻で、防具を傷だらけにされるコロッサスが壁を蹴り上げて飛びかかった。丸太のように太い脚は勢いよく燃え盛り、指揮官の横っ面に迫る。
気づいた指揮官は首だけ逸らすと、炎が頬を掠めてなんとも言えぬ悪臭を放つ。
「舐めた真似を!!」
着地するコロッサスの脳天めがけて、高々と振りかざされる手斧が落とされる直前。
『DRRRRRRRNN!!!』
マフラーを吹かし、加速するボルが乱戦を飛び越えて守りに入る。
コロッサスを狙う凶刃はボルの装甲を粉砕し、一瞬にして消し去ってしまう。
貴重な戦力の喪失は、ケルベロス達をより困窮した状況に追いやる。
目に見えて配下の数が減ってきた頃には、瑞樹達も疲労困憊しきっていた。
「ま、だまだぁ……」
「仲間を踏みつけにして、ふんぞり返ってるとか……許せないし……!」
ペーターと縒はもはや立っているだけでも精一杯、気力が尽きればすぐに膝をついてしまうだろう。
「どうせ救えねぇなら、さっさと楽にしてやる……それがせめてもの情け、ってもんだろ……」
カルナも威力を重視したグラビティの編成が隙を作ることになり、指揮官の反撃を受け続けて息も絶え絶えに……しかし、その全てが当たらなかった訳ではない。
「しぶとい連中め、さっさとくたばれ!」
指揮官も壁役が減ってきたことで朔夜達も攻撃する機会が増え、はちきれそうなスーツはボロキレ同然。
変色した血にまみれ、不快な臭いを放出している。
「今日のうちは、すっごく、怒ってるんだからね……!」
「合わせるぞ、いくぜ!!」
膝が笑う縒にカルナが練気を飛ばし、応急処置を施すと闇猫印の鎖鎌が投げられると同時に走りだす。
「テメェは何故ドラゴンに従っている? そもそもテメェらの主は誰だ!?」
肩口が裂かれる指揮官に一矢報いようと、カルナは膨大な重力を込めた拳を突き込むが、隙の大きい一撃は標的が避けたことで船体に向かう。
余波は船体を大きく揺らし、海上に大きな飛沫となって拡散する。
「貴様らに教えてやることなど何もない!」
カルナの振り向きざまに迫る刃は、負傷する脇腹に喰らいつき、傷口をさらに深くする。耐えきれなかったカルナはガクン、と体勢を崩して床に手をついた。
「カルナ!?」
黒羽が敵兵を斬り捨てながら道を開き、共に駆け寄った雅が緊急手術を始める。
「くそ、血が止まらない」
グラビティでの回復では治癒しきれず、裂傷の縫合を試みる雅に焦りが募る。
敗戦濃厚。このままでは押し負ける――負けてしまう。
最悪のイメージが嫌でも思い浮かび、言いようの知れない絶望が広がろうとしていた。
「聖王女様、どうかお力をお貸しください……」
祈る瑞樹は蒼白しながら、負傷の激しい縒に癒しの加護を与えるが、疲労した体を癒すには時間が必要だと自身も理解している。
ペーター達の精も根も尽き果てようとしていた。
それに指揮官も気づくと、口元を歪め――下卑た笑みを浮かべた。
「俺様の敷地に無断で踏み入るからだ、愚か者ども! しかも、その程度でドラゴン様に立てつこうとはなぁ? 片腹痛いわ、がぁーっはっはっはっは……!!」
せせら笑う男の掠れた声は夜のしじまに響き、8人の耳に届く――だが、それは悪手だった。
それがかえって、ペーター達の闘志に、怒りに再び火をつけてしまったのだから。
「お前みてぇな、イカれ野郎に……負けるかぁッッ!!」
――怒髪天、ここに極まる。
モヒカンヘアーを噴火させたペーターは、既に限界を迎えた体に鞭打ち、黒い太陽を射出する。
真っ暗な船内に現れた光球は、指揮官にしてみれば目晦まし程度で大した威力はない――しかし、その一瞬が命取りだった。
「これ以上はさせませんっ」
瑞樹は爆竹をばら撒き、極彩色の爆風でコロッサス達を鼓舞する。
「我、神魂気魄の閃撃を以て獣心を断つ――」
鮮やかな爆風を背に受けたコロッサスも、赤く燃える刃を宙に生み出すと指揮官めがけて放つ。黎明の剣は吸い込まれるように穿ち、上半身の衣服はついに役目を放棄。
直撃を受けて大きくよろめく男に、縒も最後の力を振り絞る。
「猫の牙だからって侮ったら後悔するよ……!」
ライオンさんなりきりモードを迸らせて咬牙の魄を放つ。
指揮官の脚に喰らいつかせて動きを止めるが、これ以上の追撃を阻止しようと、斬りかかってきた配下の一撃が縒の背を大きく斬り裂いた。
「まだこんな余力が!? き、貴様ら、早く盾に――」
「遅ぇんだよ、三下デブ」
続く言葉よりも早く、朔夜は動いていた。
抑えていた激情を煽るようなことを言ったのだ、相応の『罰』を与えねばなるまい!
「ドテっ腹に風穴空けてやる……行け!」
淡々と宣言する朔夜は狼を模したエネルギー体を作り上げ、その巨躯が形を成した時、怒りの咆哮をあげて指揮官に飛びかかる。
「や、やめ――ああああああああっ!!?」
縒の一撃で動きを止められていた指揮官の太鼓腹に、雷狼の牙が深々と突き刺さると異様な臭いと奇妙な肉片が飛び散り、脂肪まみれの体に大穴を空けた。
断末魔は辺り一帯にこだまし、男も白目を剥いて倒れながら黒い霧となって消えた。
司令塔を失った配下達も、形勢不利とみたのか蜘蛛の子を散らすように逃げ始める。
「逃がすか……っつ」
「ダメだ、それ以上動くと傷に障る」
「あの様子なら各個撃破できるだろう、まだ動ける者で……」
カルナを雅が制止し、黒羽が次の行動を提案をしようとすると――難破船が傾き始めた。
どうやら船を支えていた配下も離脱しているらしく、難破船は再び海底に沈もうとしている。
「ボールドさん達を連れてキャンプ地に後退します」
「治療を任せた。こちらは追撃に向かうぞ」
瑞樹と雅は負傷の激しい縒とペーター、カルナを連れてキャンプ地に戻ることにして、残存する異形達の討伐にコロッサス、朔夜、黒羽の3人で向かう。
残った配下達はケルベロスの敵ではなく、掃討戦はひどくあっけなく終わった。
●払暁の時
残党狩りを済ませたコロッサス達がキャンプ地に戻る頃には、空も白み始め、長い夜は終わりを告げようとしていた。
微かな音を辿ってまだ暗い西の空を見れば、そこには8台のヘリオンの姿。
「これでようやく全部解決したのですね……っきゃ!」
「っと、大丈夫か?」
緊張の糸が切れたのか、立ち上がろうとして体勢を崩した瑞樹を咄嗟にコロッサスが支えると、瑞樹は恥ずかしそうに頬を染めて俯く。
「埋葬してやる時間もないか」
「アタシ、根に持たれねぇかなぁ」
朔夜が残念そうに海岸に残った死体を見つめ、カルナはバツが悪そうに呟く。異形の夫婦に対して、彼女なりに思うところがあるようだ。
「あの男を倒したことで少しは贖罪になっただろう、彼らもやっと眠れるのだから」
着陸したヘリオンに乗ろうと黒羽はカルナに肩を貸し、8人が搭乗するといよいよ離陸し始める。
「せめて……安らかな眠りを」
「ぞんびとか言ってごめんなさい、ゆっくり休んでね」
雅と縒は離れていく海岸を見下ろしながら冥福を祈っていると、迎えに来た他のヘリオンも島中のあちこちから姿を現す。
(「他の皆も大丈夫だろう……これで、月喰島もようやく解放されるのだな」)
長い一日だった――黒羽がそう思った矢先だった。
「変な臭いがしないか? 異臭というか」
コロッサスが眉を顰めていると、朔夜も耳をピクと震わせる。
「なんか聞こえる――これは、唸り声……?」
「……気のせいだろうか、島が震えているような」
島を一望できるほどの高度に上昇したとき、島を眺めていた雅は様子がおかしいと言い、黒羽も身を乗り出して覗き込む。
「確かに、島の周りが波立っている」
「敵が居なくなったから結界が消えたんじゃねぇの?」
カルナが覗く後ろから、ペーターも眺めていると
「……いや、ちげぇ! あそこを見ろ!!」
指し示したのは島の中央。
崩壊していくそこから爆発に似た衝撃音が生じた直後、余波が飛翔するヘリオンを大きく揺らす。
「きゃああ!?」
揺れる機内で慌てて手すりにしがみつく瑞樹が、噴き上がる土煙の中に見たのは――。
「……ド、ドラゴン……?」
巨大な黒龍はヘリオンを見つけるや否や、青い火球を放つ。
『なんという事をしてくれたのだ。 あと少しで、神造デウスエクス……屍隷兵(レブナント)が完成したものを。決して、許されるものでは無いぞ!』
怒りの咆哮をあげるドラゴンは、なおも撃墜しようと攻撃を続ける。
突如現れたドラゴンの言葉に雅は怒りで肩を震わせた。
「あれが……あれが月喰島の人達を、あんな姿にした黒幕か!!」
「まさか、自らを島に封印して定命化を免れていたというのか?」
動揺する瑞樹を落ち着かせようと、肩を抱き寄せるコロッサスはドラゴンの姿を凝視し
「神造デウスエクス・屍隷兵……そんなモノの為に、島の人間に手ぇ出したのか」
「皆の生活を滅茶苦茶にして、無理やりあんな姿に改造して……酷すぎるよ!」
朔夜と縒も怒りの声をあげるが、この状況ではなす術もない。
艦内のスピーカーから微かなノイズが走り、黒羽達に向けてアナウンスがかかる。
『皆様。負傷者もいる以上、本土への帰還を最優先します。全速力で離脱しますので、しっかり捕まってくださいませ!』
オリヴィアの放送直後、ヘリオンは前のめりに飛翔する。
『冥龍ハーデス』――それが、かのドラゴンの名だ!
作者:木乃 |
重傷:ペーター・ボールド(ハゲしく燃えるハゲ頭・e03938) 月鎮・縒(迷える仔猫は爪を隠す・e05300) カルナ・アッシュファイア(炎迅・e26657) 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2016年10月7日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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