――用務員小屋の異形を倒して後、ケルベロス達は手分けして室内を調べて回った。
部屋の中は何処もかしこも煤けていて、焦げ臭い。今も燻る土間のバケツの焚火の所為で、空気はむっとして熱かった。窓を開けようにも細くしか開かず、外の警戒も兼ねてドアを全開にする。
「……これって」
室内の何処も、触れる端から煤で手が汚れる。閉口しながら、根気よく捜索する事暫し。
「日記、でしょうか?」
火種の足しにするつもりだったか、部屋の片隅に積まれた紙束の中に、帳面が紛れていた事に気付くアイリス・フィリス(アイリスシールド・e02148)。
「誰の日記ですか?」
知識欲が刺激されたか、藤木・友(滓幻の総譜・e07404)は興味津々の面持ちで、後ろから覗き込む。
「えっと……」
他の仲間も集まってくる間に、パラリと中身を確認するアイリス。
「うわ、ボロボロじゃない」
顔を顰めるエルス・キャナリー(月啼鳥・e00859)の言う通り。半世紀分の汚れと紙の劣化で、読める所は少なそうだ。
それでも、拾える情報はある。
――(日付は煤で判然としない)。生徒会長の指示で、バリケード作りが始まった。学校中の机と椅子を集めている。昨日の朝から何も食べてない。力仕事でもっとお腹空いた。
――戦いが何時まで続くか判らないから、ご飯は配給制になった。炊き出しの塩むすび、美味しかった!!
――家族は大丈夫だろうか? 連絡が取れないのは辛い。でも、皆一緒だから、私一人が弱音を吐くわけにはいかない。
――外は、気持ち悪い豚でいっぱい。こわいこわいこわいこわい。
どうやら、ドラゴンの襲撃で町が壊滅し、校舎に立て篭もった生徒の日記のようだ。
「皆で協力して、生き抜こうとしていたのね」
痛ましげな表情で小首を傾げるフィオネア・ディスクード(箱庭の鍵花・e03557)。
「……あ、この日記の持ち主って」
――生徒会長から直々に役目を任された。火を絶やさず、燃やし続けるようにって。私は頭わるいし、運動神経にぶいし、力もないから、ずっとやくたたずだった。絶対、生徒会長の役にたつ!!
「女の子、だったんだな。さっき倒したのって」
思わず、溜息が零れた。藤波・雨祈(雲遊萍寄・e01612)の視線の先、燃え尽きた骸は既に跡形無い。
――みんなで、がんばる! 生き抜く! 負けない!
日記は、見開きに大きく書かれた決意の言葉で最後だった。以降、日記を書く余裕が無くなったのだろう。
「彼女の役目は、夜間警戒と火種の確保、だったという所でしょうか」
「皆で役割分担して、この学校を守ろうとしたんだね」
結城・レオナルド(弱虫ヘラクレス・e00032)の言葉に、円城・キアリ(傷だらけの仔猫・e09214)はオルトロスのアロンが被った煤を払いながら頷く。
「という事は……さっきの異形も、全員?」
「おそらくは。あんな存在に成り果てても、彼らはまだ学校を守っているんだな」
須々木・輪夏(翳刃・e04836)は、やりきれないという表情だった。
どうして、生徒達が人外と化してしまったのか、そのまま、半世紀以上も留め置かれてきたのか、その原因も理由もまだ知れない。
だが、これから、為すべき事は、ケルベロスの誰もが判っていた。
「かつてはこの学校の生徒でも、今は敵。倒さなければ、月喰島の安全は確保出来ません」
「そうね。彼らも、あんな姿で生き延びたいとは思っていない筈よ」
エルスとフィオネアの言葉に否やは無い。無意識に銀細工のピアスを弄りながら、キアリは先刻の戦闘を思い出す。
「あの指揮官は……生徒会長かな? 最終防衛ラインと言ってたよね」
「多分、さっきと同じバリケードを作って、そこで迎撃してくるんじゃないか」
「あの程度のバリケードなら、問題は無いと思います」
輪夏の予測に、愛用のアームドフォートを撫でるアイリスの横顔は、いっそ不敵を浮かべている。
「あの指揮官……生徒会長だけは人の形を留めていたからな。手ごわいかもしれないが、俺達なら必ず勝てる筈だ」
「行きましょう、終わらせる為に」
再度、後ろ髪を結い直し、気合を入れ直す雨祈。温厚な口調に戦意を覗かせ、友が外へ出れば、ケルベロス達も次々と続く。
(「足も手も震える……でも、逃げるわけには行かない!」)
両足で踏ん張り、ぐっと両手を握り締め、レオナルドは最後に用務員小屋を後にする。
終決の舞台は――体育館。そこで、彼らは待っている。
参加者 | |
---|---|
結城・レオナルド(弱虫ヘラクレス・e00032) |
エルス・キャナリー(月啼鳥・e00859) |
藤波・雨祈(雲遊萍寄・e01612) |
アイリス・フィリス(アイリスシールド・e02148) |
フィオネア・ディスクード(箱庭の鍵花・e03557) |
須々木・輪夏(翳刃・e04836) |
藤木・友(滓幻の総譜・e07404) |
円城・キアリ(傷だらけの仔猫・e09214) |
●月喰島奇譚――承前
秋の夜闇は、肌を刺すような緊張感を孕んでいた。
最終防衛線――渡り廊下の果て、体育館で彼らは待ち構えているだろう。
「ずっと守ってきた、のね」
小首を傾げる仕草で、フィオネア・ディスクード(箱庭の鍵花・e03557)は悼む。
「終わりが見えない中、きっと苦しかったわよね」
「怖かったでしょうね……」
武器を握り締め、ポソリと呟く結城・レオナルド(弱虫ヘラクレス・e00032)。
火の番の日記から、この高校はオークの大群に包囲されたと窺えた。家族の安否も知れず、大人達に助けも求められず……それでも、彼らは諦めなかった。
(「最後まで生き抜こうとして、そして変わり果てた姿となった今も戦い続けている……」)
臆病を自認するからこそ、彼らの勇気にレオナルドは敬意を払う。
「だけど、もう終わりにしましょう」
「そうですね、この終わらない苦痛から、解放してあげましょう」
白椿咲く銀髪を揺らし、エルス・キャナリー(月啼鳥・e00859)も静かに頷く。
「もう50年も前に、この学校を守る、という役割は終えていますから。せめて、安らかに」
藤木・友(滓幻の総譜・e07404)も、全てをドライに割り切った訳でも無さそうだ。
一方で、アイリス・フィリス(アイリスシールド・e02148)は沈痛な面持ちだ。
「もう、これ以上戦わせない為にも、私が眠らせなきゃ……」
「皆で、だよ……戦い、やめられないなら、わたしたちが、止める」
だが、須々木・輪夏(翳刃・e04836)は静かに頭を振る。仲間を守りながら、自分も長く戦場に立つ――それが、彼女の決意。
円城・キアリ(傷だらけの仔猫・e09214)も、オルトロスのアロンと並んで力強く頷いた。
「生も死も忘却した果て……俺らで思い出させてやるぜ」
迷う案内人じゃご不満だろーケド、なんて。自らを方向音痴の運び屋と嘯く藤波・雨祈(雲遊萍寄・e01612)は、不敵な表情を浮かべる。
「今回はキッチリ送るよ……冥土まで」
渡り廊下の道々、レオナルドがケミカルライトを撒いて来たが、体育館の入口にも篝火が焚かれ、視界は悪くない。
その体育館の入口を塞ぐように、机と椅子のバリケードが築かれていた。
バリケードの前に居並ぶ異形は5体。机の防壁越しに、指揮官――生徒会長を中心にやはり異形が身構えるのが垣間見えた。体育館の入口を守るように立つ、後衛の数が1番多いようだ。
「後衛は7、他は各5か……」
碧眼を眇める雨祈。敵数はケルベロスのほぼ倍。まず数を減らす――何処から崩しに掛かるか、見定める。
――――!
翳した縛霊手より迸る巨大光弾。バリケードを越え、御霊殲滅砲を生徒会長と居並ぶ中衛へ浴びせる。少なくとも前衛より打たれ弱いだろうと。その判断は、間違ってないだろう。
「―――斬る、よ」
まだ回復を要しない初手は、攻撃の一手。ディフェンダーの輪夏は殺気を無数の剣戟と為し、メディックのエルスも雨祈の標準に合わせてファイアーボールを放つ。
「まだ判らない? 君たちは既に生きてる人間じゃなくなったのよ……」
零れた憐憫の応えは、獰猛なる雄叫び。まさか、列攻撃の大半が庇われようとは。
「前衛、全員ディフェンダーです!」
紙兵を撒き、アイリスが叫ぶ。前衛の数は前哨戦より1人増え、5人と1体。エフェクトの付与率低下はエンチャントとて免れないが仕方ない。
対して、敵は最大効率で手分けして範囲ヒールを前衛と中衛に掛ける。
「メディックから行きましょう!」
すかさず、ガトリングを連射するレオナルド。フィオネアは妖精の加護を宿した矢を放つ。仲間に追随したい友だったが、生憎と後衛に届く技の用意は無い。連続して庇った前衛を狙い、戦術超鋼拳を放った。
「行くよ、アロン」
ケルベロスの戦闘方針は『配下優先』。だが、キアリのブレイジングバーストは生徒会長を狙う。指揮官の牽制が、キアリとアロンの役割だ。
(「やっぱり、こっちの方が狙い易いね」)
元より、素早さに秀でるキアリ。だが、前哨戦にて螺旋氷縛波をかわされた悔しさが念頭にあった。
「よし!」
爆炎の弾丸は、狙い過たず生徒会長を穿つ。だが、オルトロスの白刃をバックステップでかわし、陰鬱な眼差しがキアリを睨み付けた時。
――――!!
怨嗟に満ちた苦鳴が轟いた。
●最終防衛線
「っ!」
爆ぜた怨念が後衛3人の傷口を石化するや、怒涛の反撃が連なる。
生徒会長と並ぶ異形共が虫食いの単語カードをばらまき、ボロボロの縫ぐるみを投げ付け、折れたモップの先から怪光線を放てば、石化の呪いは加速度的に浸透していく。
「な……」
急ぎオラトリオヴェールを編むエルスだが、解けた石化は僅か――生徒会長を始めとする中衛全員がジャマーなのは、明らかだ。
石化の発動率はかなり低い。だが、ジャマーが執拗に厄を重ねれば――大群相手に手数が減るのは致命的となりかねない。
ジャマーの厄にはジャマーのキュアを充てるのが1番手っ取り早いが、ケルベロスの編成にジャマーはいない。
たとえ、アイリスや輪夏が庇ったとして、厄の解除に遅れが出る。回復に回れば、それだけ火力が減じるのだ。
――――!!
動揺するケルベロス達を嘲うように、後衛の異形4体は、次々と正確な攻撃を浴びせ掛けてくる。
前哨戦と打って変わった統率取れた戦いぶりに、ケルベロス達は苦戦を強いられた。
前衛は総じて盾となり、ジャマーが弱体化した敵を、スナイパーが的確に攻撃する。ディフェンダーが凌ぎきれば、すかさずメディックが回復を図る。その回復も、キュアはジャマー、ヒールはメディックと明確な役割分担で、無駄が無い。
最終防衛線――その名に違わぬ防戦体制を、彼らは半世紀掛けて構築してきたという事か。
「仲間で助け合って、という訳ですか」
多を以て狩り立てるのは地獄の猟犬の十八番の筈が、まさか同様の連携戦術を被ろうとは。その皮肉に、思わず唇を噛むレオナルド。
それでも、まだ退けない。攻撃を集中させ、各個撃破しようとするケルベロス達。
「こんな姿に、なって……もう、ゆっくり休んで良い、の」
フィオネアのガトリング連射に続き、雨祈の跳弾射撃が縦横無尽に戦場を駆け巡る。
「友さん!」
「了解です!」
超加速突撃で中列を乱すアイリスに合わせて、友は声と音を反響させる。反響はグラビティを乗せて幾重もの刃と化し、ジャマーを1体斬り伏せる。
「あの時何が起きたか、まだ覚えている? 私たちは君たちを助けに来たの」
その間にも、エルスは時に強張る華奢を叱咤し、オラトリオヴェールを編み、脳髄の賦活させて仲間の戦意を支え続ける。エルスのヒールが遅れれば、輪夏がマインドシールドを具現化し、黄金の果実を掲げて援護した。
「わたしたち、ドラゴンとかオークじゃない、よ。お願い、話聞いて」
――――!!
必死の呼掛けも、異形の鬨の声が掻き消さんばかり。キアリは顔を顰めて、螺旋掌を放つ。
「火の番の女の子、あなたを信じていたよ? その子を見捨てて、最終防衛線なんておかしいよ!」
倦まず弛まず、生徒会長の牽制してきたキアリ。彼に生前の人格や記憶が残っている事を期待して、言葉を投げ続ける。
「……」
だが、生徒会長は無反応のまま。鋭く踏み込み包丁を振るう。
ギャンッ!
踊るような斬撃は容赦ない。堪え切れず、アロンは霧散する。
(「どうすれば……」)
粘り強く敵戦力を削り続けるも、長期戦となれば疲れ知らぬ異形の優位が増すばかり。左の指先を噛み切り、血潮を以て束縛の影法師を放つ雨祈を焦燥が食む。
「前哨戦はこんなに苦労しなかったよな……」
「確かに」
前と今の戦いの違いは――ハッと碧眼を見開く輪夏。
「先に指揮官を!」
すぐさま反応したキアリより迸るブレイジングバースト。レオナルドのグラインドファイアが炎熱して突き刺さる。
「この夢が貴方にとって、幸せなものでありますように」
フィオネアが見せるのは花喰いの夢――猛毒の花片が、偽りの生を甘く蝕んでいく。
――――!!
初めて、生徒会長から絶叫が迸る。闇雲に振るわれる包丁を自ら遮り、流血も構わずその両手を掴むアイリス。
「あなたは最期までみんなを守ろうと必死だったんでしょう? その行いはとても立派で尊敬します」
自然と涙流れるまま、熾炎業炎砲を叩き付けた。
「でもね、もういいんだよ、戦わなくて」
「何してるんですか!?」
血相変えて駆け寄った友は、オウガメタルの拳で周囲を牽制しながらアイリスを叱る。
「もっと、生に貪欲になって下さい……それが、彼らの叶えられなかった望みなんです」
「ごめんなさい……」
(「……ホント、無茶するわ」)
小さく肩を竦めたエルスにヒールされながら、燃え上がる生徒会長を見上げるアイリス。おやすみなさい、と呟いた。
●玉砕の学び舎
異形が指揮官を喪った事で、戦況は忽ち逆転した。些か時間は掛かったが、見る間に動きが鈍った異形をケルベロス達は掃討する。
辛くもであっても、勝利は勝利だ。
「結局、何も、答えてくれませんでしたね」
肩を落とすアイリス。生徒会長は灰すら残らず燃え尽きて、名前すら知れなかった。
「先に、進もう」
キアリのオルトロスの回復を待つ間にバリケードを壊し、ケルベロス達は体育館に向かう。
「これは……」
窓ガラス割れた雨ざらしの中、朽ち果てた布団に、白骨化した遺体が幾つも寝かされていた。
「霊廟、だったんだね」
それが、彼らが最期まで守っていたもの――ケルベロス達は痛ましげに黙祷する。
「助けられなくてごめん、ね」
叶うなら、全員弔ってあげたい輪夏。きちんと埋葬して、安らかに眠らせたかった。
(「わたしが、許されたいだけなのかもしれないけど」)
だが、骸の数があまりに多過ぎて、今すぐは難しそうだ。
「先に調べてしまおうよ」
学校を一通り見て回るケルベロス達。異形を掃討した現状、キアリが期待する異形化していない動物は勿論、『何か』の影すらなく校内は静かなものだ。
「ガラクタばかり、ですね」
エルスが求めるのは文字の記録、或いは戦闘の跡。レオナルドは生徒会室、雨祈は職員室を重点的に調べてみたが……彼らが異形と化し、人らしい営みが失せて半世紀。錆付いた蛇口から水が出る気配もなく、あらゆるものを風化させてしまう歳月を、否応もなく実感する。
「ドラゴン様、でしたっけ……」
「人外と化した彼らは敵でしたが、彼らを襲った敵も又、私達の敵。何があったのか……彼らの仇、取ってあげたいですね」
ドラゴンに襲われたという月喰島。この高校は、恐らくオークの大群に蹂躙されたのだろう。だが、全滅後、彼らが異形化した経緯は知れない。元凶を、せめて手がかりを見付けたいアイリスと友だが……或いは、火の番の日記が残っていた事自体、奇跡だったのかもしれない。
「絶対に許さない、わ……!」
学校を巡って知れたのは、デウスエクスの非道と非情なる時の流れ。フィオネアは、怒りも新たに拳を握り締めた。
●月喰島奇譚――始末
東の空より、徐々に曙光が射す。
(「長い夜が、明けました」)
藍の瞳を細めて、空を仰ぐアイリス。振り返った高校の校舎に、半世紀に渡り息を顰めて蠢いてきた異形は、もういない。
「学校を守る、役目は終わり。貴方達の戦いは、決して忘れない、わ」
「貴方達の恐怖も勇気も俺達が受け継ぎます。どうか安らかに眠って下さい」
正門に立ち、フィオネアとレオナルドは改めて犠牲者の冥福を祈る。
「……あ、お迎えが来たみたいです」
連絡しようとも相変わらずの電波障害。通信機を手に四苦八苦のエルスだが、ローター音と共に近付いてくるヘリオンを認め、思わず表情を緩めた。
「皆さん、お疲れ様でした」
操縦席から顔を覗かせたドラゴニアンのヘリオライダーは、救援チームを送り出した時と変わらぬ沈着の面持ち。だが、確かに愁眉は晴れて、ケルベロス達を迎え入れる。
機内の席に着いた雨祈が懐から取り出したのは、スキットル。
「せめてもの手向けに、な」
「彼らは未成年、よ?」
「ま、死んでた間も換算すれば大丈夫だろ」
寄り添うオルトロスを撫でながらのキアリの突っ込みに笑って返し、一転、神妙な面持ちで雨祈は手向けの酒を口にする。
その間に、浮上するヘリオン。ほぼ同時、島のあちこちからヘリオンが飛び立ってくるのが見えた。
夜明けの蒼穹を翔けるヘリオンは、数えて8機――友が家族とも想う緑風館の仲間も含めて、調査チームも救援チームも全員無事だ。
「終わりました、ね」
「ひとまずは……まだ、判らない事も多いけど」
輪夏の言う通り、事件の全貌は判然としないけれど。半世紀もの頚木から、月喰島の人々を解放出来た――胸に湧く達成感に、ケルベロス達の笑みが零れる。
――そう、このまま、大団円を迎える。誰もが、そう信じていたのに。
「何か変な気がします。気持ち悪い……」
安堵の空気も束の間――何を感じたか、不安げに眉を顰めるエルス。
窓から外を眺めていたフィオネアが、怪訝そうに小首を傾げる。
「ねぇ、月喰島……動いているように、見えない?」
「そんな馬鹿な」
苦笑しながら、同様に月喰島を見下ろした雨祈も又、思わず身を乗り出す。
「島の周り、海が波立ってないか……?」
尋常でない状況を察知し、ヘリオンの窓際に寄るケルベロス達。
「聞こえませんか? まるで怒りに満ちた……まさか、島の断末魔の叫び?」
――――!!
異変は、友の呟きとほぼ同時。よもや月喰島が、中央部分から崩壊しようとは。
「っ!!」
一拍遅れて、崩壊の衝撃が伝播し、ヘリオンまでもが大きく揺れる。バランスを崩し掛けたキアリを、アロンが支える。
「黒い……ドラゴン?」
いつもは隠している翼と尻尾が忙しなく動く。アイリスが息を呑んだのは、かつてない崩壊の光景の所為ばかりでない。崩落した島の中央より、姿を現したのは――巨大なる漆黒のドラゴン。
――――!!
怒れる咆哮が、大気を、海を揺るがし轟く。
――なんという事をしてくれたのだ。
あと少しで、神造デウスエクス……屍隷兵が完成したものを。
「レブナント? まさか、あいつが……月喰島の人達を、あんな姿にした元凶!」
「恐らく、ドラゴン自身は月喰島の封印で、定命化を免れていたのでしょう。神造デウスエクス、そんなものの為に……!」
思わず拳を握り締める輪夏。レオナルドの身震いは、恐怖か或いは。
――決して、許されるものでは無いぞ!
ドラゴンの激怒の攻撃が、再びヘリオンを大きく揺るがす。
「このままでは、ヘリオン撃墜の恐れがあります。急速離脱を図りますので、しっかりと捕まっていて下さい」
冷静沈着に物騒を報告して沈黙するヘリオライダーに代わり、ローターが唸りを上げる。
ケルベロス達を乗せたヘリオンは、月喰島上空を急旋回した――。
作者:柊透胡 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2016年10月7日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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