戦鎚の響き

作者:刑部

 北海道は釧路湿原の奥地。
「んーん、そういや此方の方には送ってなかったね。ちゃんと平等にいかないと。という訳で、あなたも暴れてきなさい」
 死神テイネコロカムイの言葉に反応し、怪魚型の死神が踊る様に宙を舞うと、
「……承知」
 虚ろな顔のまま短くそう返したエインヘリアルが、傍らに突き立てた戦鎚を引き抜き歩きはじめる。
 湿原の水を含んだ柔らかい土が、その体重に沈む中、足跡を刻みながら進むエインヘリアルの後に、怪魚型の死神が追い縋ってゆく。
 3体の怪魚型の死神を引き連れ、ゆっくりと歩を進めるその後ろ姿を、口角を上げたテイネコロカムイが見送る。
 夜の闇に浮かぶ街の灯り目指して進む襲撃者達。
 このまま放置すれば、街は住人達の血で彩られる事は明白であった。

「釧路湿原の近くで、第二次侵略期以前に死亡したデウスエクスが市街地を襲う事案が連続して起こりよる。死神にサルベージされた奴やの仕業や」
 ケルベロス達を前に、杠・千尋(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0044)がそう切り出す。
「サルベージされたデウスエクス……今回はエインヘリアルやけど、どうも釧路湿原で死んだ訳や無いみたいで、なんか意図があって釧路湿原に運ばれたもんかもしれへん。このエインヘリアルは、サルベージした死神に変異強化されとって、3体の深海魚型の死神を引き連れとる。
 予知で侵攻経路は解っとるさかい、湿原の入口……ここらへんの人の居れへん辺りで迎撃できるやろから、いらん事に手を裂かずに戦闘に集中できると思うわ」
 地図上を指でなぞり、敵の動きを示しながら千尋が説明を続ける。

「この辺りやと多少の大きい岩があるけど、それ以外はほとんど遮蔽物の無い平原や」
 千尋が湿原の入り口付近、先程滑らせた指先でトントンと地図を叩く。
「3体の深海魚型の死神は大した事あれへんと思うけど、エインヘリアルの方は3mを誇る体躯に星霊甲冑を着込み、でっかいハンマー……戦鎚って言うんやったか、それを持っとる。
 その体格からも、この武器が恐ろしい破壊力を持っとるんは想像できると思うけど、更に死神に強化されとる訳やから、まったくもって油断はでけへんで。まぁ、その強化の影響で交渉とかするんは無理っぽいけどな」
 そう話す千尋の顔から笑みが消える。

「湿原の奥でなんか企んどる奴も引っ張り出したいけどな。……それには先ずこのエインヘリアルを撃破せなあかん。……襲われる街の人らを助けなあかんからな。ほなヘリオンかっ飛ばすから、みんな頼んだで!」
 千尋がそう言うと、速度を増したヘリオンは一路北海道目指して飛ぶのだった。


参加者
橘・芍薬(アイアンメイデン・e01125)
夜乃崎・也太(ガンズアンドフェイク・e01418)
ラピス・ウィンディア(偽善の箱庭・e02447)
伊上・流(虚構・e03819)
高原・結慰(四劫の翼・e04062)
秋空・彼方(英勇戦記ブレイブスター・e16735)
ハンス・ガーディナー(禁猟区・e19979)
ハートレス・ゼロ(復讐の炎・e29646)

■リプレイ


「まったく。死神もまた随分辺鄙なところで事件起こしてくれたわね。昼間に来れれば眺めも良かったんだろうけど……夜じゃね」
 橘・芍薬(アイアンメイデン・e01125)はそう言ってテレビウムの『九十九』と顔を見合わせ目を凝らすが、それぞれの持つ灯りと自身が撒いたケミカルライトに、周囲が虚ろ気に照らされているだけで、湿原の方には闇が広がっているだけであった。
「辺鄙なところ……この場所に何かがあるのでしょうか?」
 ライドキャリバー『ヤタガラス』のシートに片手をついた秋空・彼方(英勇戦記ブレイブスター・e16735)が振り返ると、
「何かあるかどうかはわからないけど、ほんと、死神の動きはいつも不穏で困るわ。1つ1つ潰していくしかないのかねえ?」
「確かに質が悪いですね。かつての敵とは言え、死者を利用する死神という種族は許せそうにありません。ね、フリージア」
 夜乃崎・也太(ガンズアンドフェイク・e01418)が肩をすくめ、憤ってみせたハンス・ガーディナー(禁猟区・e19979)が、ウイングキャット『フリージア』の顎を撫でると、湿原の方から重い物が大地を微かに振るわせる様な音が近づいて来た。
(「死神か……私達が倒してきたデウスエクスが全て蘇えったりしたら……」)
 ラピス・ウィンディア(偽善の箱庭・e02447)が、想像した宜しくない未来の幻影を振り払う様に首を左右に振ると、ツインテールに纏めた青い髪が踊る。
 そしてケルベロスの持つ灯りに照らされ、戦鎚を持つエインヘリアルと3体の怪魚型死神が姿を現す。
(「死神とエインヘリアルねぇ……」)
 その組み合わせに高原・結慰(四劫の翼・e04062)がちらりと隣に視線を向けると、
(「違う違う……大丈夫だ。是はアイツ等が起こした事件ではない……」)
 伊上・流(虚構・e03819)が口を真一文字に結び、キュっと拳が握られる。だが、その変化は結慰以外には解らない微かなものだった。
「……む」
 灯の中浮かび上がる人影にエインヘリアル……グルムナルが足を止め、得物を構えるケルベロス達を見て敵と判断したのだろう。
「グオオオォオォオオオ!」
 頭上で戦鎚を振り回し雄叫びを上げて一直線に一気に迫り、3体の死神が宙を泳ぎ怨恨弾を吐きながら追従する。その側面、LEDライトが灯されライドキャリバー『サイレントイレブン』が駆動音を響かせると、一気に加速した。
「死人は地獄から逃げられん。さあ疾くと燃え落ちろ。オレの地獄で焼き尽くしてやる」
 その機上、ハートレス・ゼロ(復讐の炎・e29646)の放ったコアブラスターが、追従した死神の一体に爆ぜ、サイレントイレブンはそのまま炎を纏って突っ込んだ。
「さぁ敵の連携が乱れましたよ。確実に当てていきましょう」
 片方の口髭を上げたハンスが陣を展開し、ケルベロス達は死神を置いて突っ込む形になったグルムナルを迎え撃つ。


「飛んで火に入るなんとやらっ、ってね♪ いくよっ九十九」
 笑った芍薬が、メイド服の裾を翻して鎖を飛ばし、身を屈めその鎖の下をくぐる様に距離を詰めた九十九が十徳ナイフに似た凶器を振るう。
「後で相手してやるから、それまで大人しく待ってろよ」
 その九十九と逆側、也太がすれ違い様にホルダーから抜いた二丁の銃を構え、グルムナルの肩口を撃つと、グルムナルはバランスを崩し戦鎚の回転が止まる。
「さぁ、踊りましょう」
 続けて詩と共にラピスの髪が巻き上がると、空気を圧縮した様なそれが現れ、グルムナルに火炎弾を放つ、爆ぜた火炎弾に照らされた彼方やハンスら他の仲間達も、グルムナルに一撃を見舞いつつ、ハートレスによって攪乱された死神の方に攻撃を集中してゆく。
「アンタが最初の得物だな。後がつっかえてるんで、手短に行かせてもらうぜ」
 炎に包まれた死神の吐く怨恨弾をギリギリのところでかわした也太が、牙を剥くその個体に魂を喰らう一撃を見舞う。その一撃に体液を撒き散らし上に逃れる死神。也太は追撃しようとするが、その後ろで死角になっていた別の死神が放った怨恨弾が、也太の左脇腹を貫く。
「っと、やってくれるぜ」
 脇を抑える也太に九十九が応援動画を流す中、上に逃れた死神に対し地面に刃を突き立てたラピス。
「死神が天に向かってどうするの? 死神は地の底を這いずり回るものよね?」
 小首を傾げたラピスが喚ぶ何かに鷲掴みにされた死神は、引き摺り下ろされて流と結慰の連携のとれた攻撃を見舞われ、
「借りは直ぐ返す主義なんだ。いつも身軽に借金0ってね」
 也太の鋭い蹴りにその身を裂かれて息絶える。
「ハンスひとりではキツそうね……」
 サークリットチェインを展開した芍薬は、動かくなった死神から、ほぼ一人でグルムナルを抑える形になったハンスとフリージアにその細めた橙色の瞳を向ける。

 風を感じて身を翻した流。その流が先程まで居た場所を怨霊弾が通過し地面を抉る。
「遅い。愚鈍なれど日常に害為す異端なる存在は、ひとつ残らず狩り屠る」
 流がそのままの動きで槍を一回転させ、今しがた怨恨弾を放った死神の口に、迅雷の如き突きを叩き込むと、
「もう一つおまけよ」
 その流が突き入れた槍の柄に着地した結慰が、穂先から逃れようとする死神に鋼の鬼と化したオウガメタルの拳を叩き込んだ。黒い鱗を撒き散らして身を捩り、2人から逃れようとする死神に、ハートレスの放った砲撃と共に彼方が重い蹴りの一撃を見舞うが、直後に至近距離のから怨恨弾を受けた彼方が吹っ飛ばさる。
「芍薬さん、回復お願いね。四却が巡り巡る1と0の法則。滅びを告げる【壊却】此処に在り」
 ヤタガラスが庇う彼方を見て芍薬に言葉を残した結慰が、天から降り注ぐ光を纏って放つ一撃。その一撃にボロボロに砕かれた死神は、それでも身を翻して口を開け、怨恨弾を放とうとするが、
「……貴様の概念情報。全て浄め祓い滅する! 浄化の焔よ、此処に顕現せよ」
 今度は結慰を飛び越える形で流。その背に真白き焔の片翼を広げた流の一撃が死神を灼き尽くし、黒いカスがその白翼の起こした風に乗って霧散した。

「痛たた……ありがとう。芍薬さんもありがとう」
 吹っ飛ばされた彼方は、自分の前に庇う様に立つ相棒のヤタガラスを撫でて礼を言うと、後ろから光の盾を飛ばしてくれた芍薬にも礼を言う。
「もっとしっかりしないと……もう、こんな光景を繰り返す訳にはいかないんだ!」
 双眸を閉じた彼方は、瞼の裏に映るシャイターン襲撃時の残像を振り払う様に首を振って目を開け、
「大丈夫の様だな。ハンスに負担が掛り過ぎている。速効で行くぞ」
「はい、ハートレスさん。ハンスさんを援護してあげて」
 彼方は駆け寄ってきたハートレスにそう返し、押され気味のハンスの援護をヤタガラスに任せ再び地面を蹴る。
「オレの地獄に付き合ってもらう」
 その動きにタイミングを合わせ、サイレントイレブンがスピンして足止めする死神に冷凍光線を放つハートレスは、結慰や也太も同じタイミングで死神に仕掛けるのを見て、グルムナルの方へと目を向ける。
「これは、いささか、手厳しい、ですね。しまっ……」
 小枝の様に振り回される戦鎚をぎりぎりのところでかわすハンスだったが、地面を打った鎚頭が飛ばした砂礫が目に入り、一瞬動作が遅れ、そこを狙った戦鎚が風を唸らせて迫り打たれる刹那、割って入ったフリージアをぼろ雑巾の様に弾き飛ばした。
「フリージア!」
 叫んだハンスの視線の先でフリージアの姿が掻き消えた。
 グルムナルの方はヤタガラスが横射を見舞ったところに、ラピスが放った黒影弾に穿たれ、ハンスから視線を逸らしている。
「大丈夫か? 治療する、少し待て」
 銃口を死神に向けたまま寄って来たハートレスが、ハンスに薬液の雨を降らせる。
「えぇ、ありがとうございます。死神は片付いた様ですね……では、フリージアの仇をとらせてもらいましょうか」
 ハートレスに礼を言ったハンスは、ハートレスの肩越しに最後の死神が彼方によって地に落ちたのを見て口髭を動かすと、グルムナルに向かって雷撃を放って反撃に移る。


「まだまだっ、支え切ってみせるよっ!」
「小賢しい……」
 芍薬の手の動きに合わせて鎖が踊り、新たな魔法円を描いで仲間達を守護する中、包囲する様に仕寄るケルベロス達に対し、体を回転させながら戦鎚を振り回して押し返すグルムナル。
 その戦鎚を見舞われたヤタガラスが黒い煙を上げ、九十九がメイド服の集団がチアリーディングしている応援動画を流す中、
「ビクターキャノン展開……グラビティ集中、バースト。バック固定、ターゲットインサイト。砲身加圧……」
 ラピスの髪飾りが解放され、その両肩で砲身へと変化してゆく。
「ああ、ヤタガラス! むー、ブレイブスター! アクションモジュールシックス! コードナルカミ! 迸れ!」
 煙を上げるヤタガラスからグルムナルに視線を戻した彼方が、天に掲げた左手に一筋の閃光が落ち。その左手をグルムナルに向かって突き出した。そこから迸る4本の稲妻。その光に照らされた地面を駆けるは虎ならぬ也太。
「デカい奴は足元がお留守ってね!」
 彼方の放った稲妻が撃つのと同時。ブレイクダンスかカポエラの様にグルムナルの脛を鋭い蹴りで削る。
「何事も諦めない事が肝心ではありますが、一度身罷られた貴方は、そろそろ諦めて頂きたく思います。ここは生者が一生懸命生きる地ですからな」
 続いてハンスのガトリングガンが火を噴き、跳び退こうとしたグルムナルだったが、その足が痺れて動きが止まり、思わず顔を覆う様に腕を上げた所に次々と着弾した弾が爆ぜる。
 その爆発に視界が眩む中、サイレントイレブンを足場に跳躍したのはハートレス。
「デウスエクスは殺し尽くす。この心が燃え尽きるまで、オレの腕が届く限り……」
 その肘から先をドリル状にした腕を振るい、グルムナルの胸の前を通過して着地する。
 間髪入れず跳び退いたところに、壊れた星霊甲冑が音を立てて落ちてきた。
「鎧が……」
 信じられないという風に目を見開くグルムナル。その視界が闇に包まれる。
「暗くて怖いよなぁ。光が欲しいだろ? くれてやるよ、お前の命の灯を消す一筋の燈をなぁ!」
 その闇を起こした也太の声と共に、二条の弾道がグルムナルを撃ち抜き、
「……チャージ完了……終わりにしましょう!」
 続くラピスの声と共に、石柱を叩き付けられた様な衝撃がグルムナルを襲った。 
「グ……お……」
 蹈鞴を踏みながらも堪えるグルムナルに、
「ここは押し時。エネルギー充填率……100%! 冥土の土産よ、元来た地獄にお帰り下さい、ご・主・人・様。インシネレイト!」
 追い打ちを掛けた芍薬の掌底から流れ込んだ熱エネルギーが、グルムナルの体内を暴れ駆ける。
「ガ……ガガ……」
 ガクガクと震えるグルムナルの右の耳朶を、
「アクセス・終焔―終りを齎す白き浄化の焔よ、此処に顕現せよ」
 と言の葉が打ち、左の耳朶を、
「アナタが紡いだ歴史と世界は此処でお終い。壊劫は等しく滅びを齎す。例え世界でも関係無く絶対に、ね。……四劫が巡り巡る1と0の法則。滅びを告げる【壊劫】此処に在り」
 と言の葉が打つ。
 男の声と女の声……流と結慰の詠唱が輪唱の如く響き、白き焔と降り注ぐ光が皆の視界を奪う。
 光が収束した後には、再び骸と化したグルムナルと、彼の巨大な戦鎚が転がっているだけであった。

「イケメンの俺が輝く筈が、美味しいとこもってかれちまったな」
 也太がくるくると回した銃をホルダーに納めて肩を竦めると、皆は大きく息を吐き、自然と笑い声が起こった。
 こうしてケルベロス達は釧路湿原から現れた死神と、蘇りしエインヘリアルを屠りこの地を平和を守り通したのだった。

作者:刑部 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年9月30日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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