肥沃な郷に眠る

作者:幾夜緋琉

●肥沃な郷に眠る
 北海道東部、釧路川とその支流に抱かれた、日本最大の湿原帯、釧路湿原。
 そんな湿原の奥地を、歯を見せ、不遜に笑う、狐耳のフードを被った者。
 ……暫し歩き、そして立ち止ると。
「……そろそろ頃合いね。あなたに働いて貰うわよ。市街地に向かい、暴れてくるの」
 と呟くと、次の瞬間……彼女の前に現れるは、狼が人化したような、そんな姿の者。
 ただ、その目は虚ろで、まるで意思を持っていないかの如く、足元もふらり、ふらり……。
 そして……そんな狼の周りには、チョウチンアンコウの様な魚の姿をしたものが、空中に、ふわり。
 ……そして、指示に対し、その狼は。
「仰せの通りに……テイネコロカムイ様……」
 と言うと、そのまま四肢を地につけ、駆け出す。
 その目的地は、手近な村。
 畑を駆け、そしてその先にある、民家への襲撃を、今まさに開始しようとしていた。
 
「ケルベロスの皆さん、集まって貰えた様ッスね! では、早速ッスけど、説明を始めさせて貰うッスよ!」
 と、黒瀬・ダンテが集まったケルベロスに元気よく挨拶すると、早速説明を初めて行く。
「今回、ケルベロスの皆さんには釧路湿原の方に向かって欲しいッス。この辺りで死神にサルベージされた、第二次侵略期以前に死亡したデウスエクスが暴れ出す事件が起きている様なんッスよ」
「このサルベージされたデウスエクスは、釧路湿原で死亡したものでは無い様で、何らかの意図で以て釧路湿原へと運ばれて来たのかもしれないッス」
「ともあれ、このサルベージされたデウスエクス、どうやら狼のウェアライダーの様ッスけど、これが死神により変異強化されていて、周囲にも数体の深海魚型死神を引き連れて動いている様なんッスよ」
「ちなみに彼らの目的は、周りの市街地の襲撃の様ッス。幸い侵攻経路はバッチリ調べておいたッスから、湿原の入口の辺りで迎撃可能ッス。つまり周囲に一般人が居ない状態で戦闘可能ッスから、皆さんは戦闘に集中して頑張って欲しいッスよ!」
 と、そこまで言うと、ダンテは更に。
「このデウスエクスッスけど、湿地帯を半ば獣の如く、四肢を地面に付けて走り回る、素早い相手ッス。回避率が高いッスから、中々攻撃があたらずやきもきするかもしれないッスね」
「で、このデウスエクスは意識はあるものの、殆ど朧気の様な状態ッスから、交渉は恐らく難しいと思うッス。そして四肢についた爪牙を切り裂き、噛みついたりする事で攻撃してくるみたいっすね。特に爪には毒が付与されている様ッスから要注意ッスよ!」
「後、その周りに居る怪魚型の死神達は、これも噛みつくことで皆さんに攻撃してくるッス。こいつらは当然意思も無く、ただただ攻撃するバッカリッスから、倒す他に答えは無いッスよ」
 そして、最後にダンテが。
「こうして死んだデウスエクスを復活刺せて、更なる悪事を働かせる死神。彼らの悪略をこのまま見過ごす訳にはいかないッスよ! という訳で、どうかケルベロスの皆さんの力を貸して欲しいッス。宜しく頼むッスよ!」
 と、拳を振り上げた。


参加者
清水・光(地球人のブレイズキャリバー・e01264)
板餅・えにか(萌え群れの頭目・e07179)
クーゼ・ヴァリアス(竜狩り・e08881)
リーナ・スノーライト(マギアアサシン・e16540)
三上・菖蒲(静かに消ゆる玉響・e17503)
時塚・大和(のらぐらし・e18210)
シャルローネ・オーテンロッゼ(訪れし暖かき季節・e21876)
ライラット・フェオニール(旧破氷竜姫・e26437)

■リプレイ

●湿原の外
 北海道東部にある、釧路川と支流に抱かれた日本最大の湿地帯、釧路湿原。
 そんな釧路湿原の奥地に歩くは、死神……テイネコロカムイと呼ばれし死神。
 死神により指示された死神らが、民家襲撃は間もなくと言う状況に置かれている。
「死神の企み……? 別のデウスエクスを使ってる事がままあるけど、単純に戦力増強してるんか。なんぞと考えがあるのかはようわからへんなぁ」
 と清水・光(地球人のブレイズキャリバー・e01264)が肩を竦めると、それに時塚・大和(のらぐらし・e18210)、クーゼ・ヴァリアス(竜狩り・e08881)、シャルローネ・オーテンロッゼ(訪れし暖かき季節・e21876)、ライラット・フェオニール(旧破氷竜姫・e26437)と板餅・えにか(萌え群れの頭目・e07179)らも。
「うーん、テイネコロカムイって、名前からして凄く北海道っぽい死神だよねー。戦力をこっちに集めてるのもそれが原因なのかな?」
「どうだろうな? まぁどうにせよ、死者の魂を弄ぶって行為は理解しがたいのだがな」
「そうですね。それに今回の死神さんはウェアライダーさんの様です。ウェアライダーさんも元はデウスエクスだったと習った事はありますが……」
「ああ。狼のデウスエクスね……もともとそこにいなかったんだろう? なら、誰か黒幕がいるってことだろ」
「そうだね! 狼のウェアライダー!! 絶対負けないようにしないと!」
 拳を握りしめるえにか……それにシャルローネが心配そうな視線を浮かべる。
 ……そして。
「死んだウェアライダーさんを利用するだなんて、なんてむごい事を……いえ、躊躇っている場合ではありませんね。死神さん達の企みは何としても阻止しませんと!」
 とシャルローネが気合いを入れると、大和、えにかが。
「うん。死者が生者に手を出すなんて、そんなことはさせないよ! 生死の境界は、そんなに簡単に越えて良いものじゃないし!」
「そうだね。敵さんは何を狙っていらっしゃるんでしょうね? 三下のあんちゃんたちじゃ何も知らなさそうですがねぇ? まぁ、何にしても、絶対に負けないよ!」
 えにかが拳を振り上げ、狼尻尾をふるふると振るわせて気合いを入れる。
 そしてリーナ・スノーライト(マギアアサシン・e16540)、三上・菖蒲(静かに消ゆる玉響・e17503)の二人が。
「……まあ……何にしても……死神を……このまま……放置しておく訳には……いかない、ね……?」
「そうですね……ボク達が負ければ、周りの一般人達が被害に逢ってしまう訳ですし……確りと此処で止めるとしましょう」
 と頷き合い、そして光が。
「そやな、このままはあかん。この道を修羅道と知り推して参る」
 と拳を突き合わせて、そして湿地帯の外れへと急ぐのであった。

●湿地より生まれ
 そして、ケルベロス達は湿地帯と、町の境目へと到着。
 足元は少し泥濘んでいて、ちょっとだけ動き辛い。
「んー……地面が柔らかいってのは難儀だねぇ。技も幾つか使えないし」
「そやな。それに戦い終わったら泥だらけやろうけどな」
 とクーゼ、光が言う通り、そんな泥濘む地面に脚を取られながらも、更に歩く。
 そして、後ろからは、人里から零れる灯。
 その灯を背負いながら、湿地の方に構えながら、リーナが隠密気流を展開し、息を潜めて待ち構える。
 ……数分の後、湿地帯から駆けてくる、ウェアライダーの狼と、怪魚。
 そんな怪魚と狼が来ると共に、対峙したクーゼとえにかが。
「お魚ごときにやられるほど、ヤワな鍛え方はしてないよ!」
「ちょいとにいさん! 地球で商売するならうちらケルベロスに話通してもらわにゃー!!」
 と声を上げると共に、シャルローネが。
「オウガメタルさん、皆さんに力を!」
 とメタリックバーストを展開するシャルローネ、そしてリーナが雷刃突で先制攻撃を叩きつける。
 その一撃を食らった敵ウェアライダーは、グゥォ、と唸り声を上げるが……すぐに体制を立て直し、数歩の距離を取る。
 周りに浮かぶ怪魚型死神とタイミングを合わせて、反撃。
 素早く動く敵ウェアライダーが、湿地帯の足場をものともせずに動き回り、対し怪魚型死神が前に居る相手を噛みつき、毒攻撃を仕掛けてくる。
 それらの攻撃を、えにかとクーゼ、そしてボクスドラゴンのシュバルツが連携し、カバーリング。
 そして受けたダメージを、大和がすぐにオラトリオヴェールで回復を行いつつ、更に続けて。
「私がウェアライダーを引き受けている間に、他の方は死神の撃破に集中してくださいませ」
 と言いつつ、敵ウェアライダーへの距離を詰めて。
「フーッ!!」
 と、尻尾の毛を逆立て、威嚇ポーズを取りつつ、クイックドロウの一撃を叩き込む。
 そしてクーゼとシュバルツは。
「巡り巡りて、此処にて果てよ。終の型、終焉座標」
 と終の型 -終焉座標ーを放つ一方、シュバルツもボクスブレスの一撃。
 そして、クラッシャーの光、菖蒲、ライラットの三人が。
「ほな、戦いましょか」
「そうですね……容赦はしません。先ずは、私達は怪魚型死神を仕留める事にしましょう」
「ああ、分った!」
 と相互に声を掛け合い、取りあえず周囲の怪魚型死神をメインターゲットに据える。
 ただ、怪魚型死神は、敵ウェアライダーとは連動すること無く、独自に行動していく。
 それほどに、敵ウェアライダーは敵ウェアライダーで、実力を持っている……その分、敵ウェアライダーに対峙するえにかの負担が、かなり重くなる訳で。
 ……そんなえにかに、しっかりとついて大和がヒーリングを飛ばし続け、体力をどうにか維持し続ける。
 そして次のターン、更にシャルローネが。
「えにかさん!」
 マインドシールドを使い、盾アップを付与。
 防御アップを受けたえにかに、更に接近、轟雷砲の一撃を叩き込み、体力を少しずつではあるが、削る。
 その一方、クーゼ、シュバルツは。
「連携するよ! シュバルツ! さぁて、気張って行こうかッ!」
 と、絶空斬とボクスタックルで体当たり攻撃を叩き込むと、リーナの絶空斬。
 光が。
「動き回るのに併せる事もできるんよ」
 と接近してアイスエイジインパクトを叩き込むと、菖蒲が居合いの極【剣舞・月華氷刃】、ライラットも竜爪撃。
 幸い、怪魚型死神は、動きが鈍い為、まだまだ命中し易くて、時が進むと共に、少しずつ、少しずつ体力を削らせていく。
 そして……3ターン目、4ターン目と、時は経過。
 一体目の怪魚型死神を倒し、次のターゲットにシフト。
 更に一体、また一体と怪魚型死神を倒していき……十数分の後、やっと怪魚型死神を全て倒す。
 ……全て倒した後、残るは敵ウェアライダー、一体。
 最後の一体を、動き回れないように包囲網を作り上げていく。
 素早い動きの前に、中々思った通りに取り囲む事は出来ないが……時間を掛けて、少しずつ、少しずつ。
「……くっそっ、全然当んねえっ! ならっ!!」
 とライラットは叫びながら敵ウェアライダーに接近。
 相手に組み付き、腕を握り、引き寄せて。
「こうすれば当るだろっ!」
 と、渾身のドラゴニックミラージュの至近距離攻撃。
 そして菖蒲が月光斬で動きを封じつつ、光も。
「ここでとまっときや」
 とアイスエイジインパクト。
 三人が次々と攻撃し、バッドステータスを積み重ねていく……そしてシャルローネやリーナも。
「動物は鼻に触られるのを嫌います……が、あなたはどうでしょうか!」
「集え力…。わたしの全てを以て討ち滅ぼす…!討ち滅ぼせ…黒滅の刃!!」
 と、戦術超鋼拳と、ラスト・エクリプス。
 ……そして。
「死に損ないがッ! やるじゃあないか! だがこれが俺からあなたに贈る、別れの一撃だ!」
 とクーゼが雷刃突を叩きつけて、えにかも轟雷砲で攻撃。
 大量のバッドステータスが更に、更に積み重なっていき……動きが鈍り行く。
 そして……戦闘開始から、約半刻。
 敵ウェアライダーが、片足から崩れ墜ちる……その瞬間を狙い澄まし、畳みかけるように。
「生き返ったばっかりやけど、これでさよならや!」
 と光が緋色芙蓉を叩き込む。
 その一撃が、敵を更に地面へと叩きつけると共に。
「哀れな人形は、眠らせてやらないとね」
 と、クーゼが絶空斬を叩き込むと、大和も。
「慈愛無き虚無よ――『降れ』」
 と魂神纏「黒喰の咢」を穿ち、確実に命中させて、ダメージを積み重ねる。
 そして……。
『グウ……!!』
 と、低い唸り声を上げた敵ウェアライダーへ、えにかが。
「これで最後だー!」
 と腕をぐるんぐるんと振り回しながら、殴り掛かる稲妻突きの一閃。
 その一閃は、敵ウェアライダーの体躯を撃ち貫き……そして、敵ウェアライダーは、声にならない悲鳴と共に、崩れ墜ちるのであった。

●湿地に没す
 そして……どうにか死神達を倒したケルベロス達。
 死して、既に影も無くなったウェアライダーの亡き跡に、クーゼは跪き。
「ゆっくり眠ってくれ。出来れば死ぬ前のあんたに逢ってみたかったけどな」
 と。
 その横で、シャルローネ、リーナも跪き、彼が安らかに眠れるよう、心底からの祈りを捧げて行く。
 眼を閉じ、祈り……そして、立ち上がると、シャルローネは。
「彼らが何を思って戦っていたのか、知る由もありませんが……でも、これが死神のやり方、なんですね……」
 苦々しい気持ちを、ぽつりと口にすると、リーナもこくり、と頷く。
「……テイネコロカムイ……何を……企んでいるのかな……もしかしたら……手がかり……あるかもしれない……」
 と言うと共に、リーナは周囲の調査を始める。
 他の仲間達も、アラした湿地の修復にヒールグラビティを駆けて周る。
 ……そして、あらかた終わる頃には、もうすっかり体中泥だらけで。
「湿地走り回って、泥だらけですよね。帰ったらお洗濯とお風呂ですね。近くに温泉とかないかしら?」
 とえにかが狼尻尾をパタパタ振りながら言うと、ライラットが。
「確か、駅の方に行けばあった気がするねぇ。行ってみるかい?」
「うん!」
 ライラットの言葉に、満面の笑みで頷くえにか。
 そしてケルベロス達は、泥だらけの身体を洗い流すために、湿原を後にするのであった。

作者:幾夜緋琉 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年9月27日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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