秋祭りとマグロ娘

作者:神無月シュン

 とある田舎町。そこにある神社では秋祭りが開催されていた。決して有名でも、派手でもない祭りだが、地域の人たちは毎年、このお祭りを楽しみにしていた。
 神社の境内には出店が列をなしている。わたあめ、タコ焼き、ベビーカステラ、焼きトウモロコシ、リンゴ飴に焼きそば。定番の食べ物屋台から、金魚すくい、射的、くじ引き、お面屋、ヨーヨー釣りに輪投げ。娯楽系の屋台まで様々だ。
 祭りが始まりしばらくして、境内には浴衣を着た人達が増えてきていた。
 浴衣姿の少女が一人、神社の屋根の上からお祭り会場を眺めていた。少女はマグロの被り物を被り、背中にはタールの翼。
「んーそろそろかなー」
 そう言って、懐から取り出したのは2本のナイフ。それを両手に構えると、タールの翼を広げ上空へと飛び上がる。
「一緒におどろーよ!」
 人混みの中に降り立った少女は、舞うような動作で次々と人を切り刻んでいく。辺りには血しぶきと悲鳴が広がった。

「エインヘリアルに従う妖精8種族の一つ、シャイターンが行動を開始したようです」
 集まったケルベロス達に、セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が告げる。
「動き出したのは、マグロの被り物をしたシャイターンの部隊で、日本各地の祭り会場を襲撃し、一般人を殺害してグラビティ・チェインを得ようとしているようです」
 祭り会場を狙っている理由は不明だが、お祭りという場を利用して、効率よくグラビティ・チェインを収奪する作戦である可能性が高い。
「外見からこのシャイターンを『マグロガール』と呼ぶことにしました。そのマグロガールが現れる祭り会場に先回りして、事件を未然に防いでほしいのです」
 セリカは資料に目を通し、説明を続ける。
「攻撃方法は、両手に持ったナイフによる攻撃と、ヘッドバット、それに火を放つようです」
 マグロガールは1体のみで、配下などは確認されていない。
「それと、祭り会場の人を避難させてしまうと、マグロガールが別の場所を襲ってしまうため、事前の避難は行えません」
 マグロガールはケルベロスが現れれば、先に邪魔者を排除しようとするので、挑発しつつ、人の少ない場所に移動するなどして戦闘すれば、周囲の被害は抑えられるとのこと。
「余裕をもって到着できますので、戦闘場所の確保やその場所への移動ルート、近くにいる一般人の避難方法等、確認しておくと良いかもしれません」
「マグロガールを撃破した後は、お祭りを楽しむのも良いかと思いますよ」
 そう言って、セリカは微笑んだ。


参加者
神薙・焔(ガトリングガンブラスター・e00663)
椏古鵺・笙月(黄昏ト蒼ノ銀晶麗龍・e00768)
ロイ・リーィング(勁草之節・e00970)
紫・恋苗(紫世を継ぐ者・e01389)
瀬戸口・灰(忘れじの・e04992)
彼方・悠乃(永遠のひとかけら・e07456)
バジル・サラザール(猛毒系女士・e24095)
フレック・ヴィクター(武器を鳴らす者・e24378)

■リプレイ

●戦いの準備は万全に
 日が落ちて間もない頃、秋祭りの参加者がちらほらと姿を見せ始める。参加者の大半は色鮮やかな浴衣を着こみ、会場は花が咲いたかのような華やかさをみせる。
 フレック・ヴィクター(武器を鳴らす者・e24378)は一人、祭り会場の見取り図を見ながら、会場を歩いていた。フレックの着ている和ゴシック調のケルベロスコート『玻璃牡丹』が浴衣姿の参加者達と違和感なく溶け込んでいる。
 お祭り会場を一通り見終わり、携帯電話を取り出すと、グループ通話モードで連絡を取る。
「こっちはやはり人が多いわ。そっちの方はどう?」
「こちらは静かだね」
 神社の裏手を調べていた、ロイ・リーィング(勁草之節・e00970)が答える。
 立ち入り禁止になっているからか、それともまだ早い時間だからか、辺りに人は見当たらない。もっとも祭りも終わりに近づいて来れば、いい雰囲気になったカップルがこっそりと忍び込むような事もあるかもしれない。
(「どうして祭りを狙うのかな……お祭り好きなだけとか……?」)
 マグロガールが祭りを狙う理由を考えつつも、周囲の確認を進めていく。
「敵を誘導することを考えると、近場で人がいない場所がいいと思うんだけど……」
 人の多い通路を通ろうとすれば、移動中に巻き込まれる可能性が出てきてしまう。それに、パニックになるのも出来るだけ避けたい。
「私も一般人が居ない通りを移動できた方がいいと思うざんしね」
 ロイの意見を聞いていた、椏古鵺・笙月(黄昏ト蒼ノ銀晶麗龍・e00768)が同意を示す。隠密気流で目立たない様に飛行し、戦闘場所に使えそうな場所を撮影してはデータを転送していく。
 彼方・悠乃(永遠のひとかけら・e07456)が『ネット対応ナビゲーション用携帯コンピューター』を使い、送られてきた情報を整理していく。
 ほとんどの候補が祭り会場や、周辺の道路を通らなければならない。その場合どうしても一般人の避難を同時に行わなければいけなくなる。ならば……。
「ロイさん、そのまま神社裏にキープアウトテープをお願いします」
 悠乃は神社裏を戦闘場所として最適と判断し、人払いの指示を出す。
 指示を受け、ロイが神社裏の開けた場所に、キープアウトテープを貼り始める。
「フレックさんと笙月さんは途中で人が来ない様にロイさんのフォローをお願いします」
 了解。と2人は神社裏へと向かった。

●秋祭りに現れたマグロ娘
「理由は分からないけど、お祭りを狙って襲うなんて許せないわね」
 バジル・サラザール(猛毒系女士・e24095)は、一般人に紛れて祭りを楽しむふりをして、周囲や神社の屋根を警戒していた。
 紫・恋苗(紫世を継ぐ者・e01389)、瀬戸口・灰(忘れじの・e04992)の2人もまた、お祭り会場で周囲を警戒する。
 しばらくして、神社の屋根に人影が降り立つ。浴衣姿にマグロの被り物、そして形の定まらないタールの翼――マグロガールだ。
「神社の屋根の上、マグロガール発見」
 隠密気流により目立たない様に隠れていた、神薙・焔(ガトリングガンブラスター・e00663)が屋根の上のマグロガールを発見し、他のケルベロス達へ知らせる。
「どうする……もう仕掛ければいいかしら?」
 焔がいつでも撃てるようにガトリングガンを構えた。
「キープアウトテープの展開がまだ終わってません。もう少し待ってください」
 悠乃が戦場確保の状況を確認しながら答える。
 マグロガールがどのタイミングで、行動を開始するかわからない状況で、戦場確保の完了の知らせを待つ。
 お祭り会場に居たバジル、恋苗、灰の3人が万が一マグロガールが行動を開始した時、即座に動けるように神社の屋根側まで移動し、警戒を強める。
「んーそろそろかなー」
 マグロガールが懐から2本のナイフを取り出す。それを両手に構え、タールの翼を広げた。
 今まさに飛び立つその瞬間、戦場確保完了の連絡を受ける。
「その被り物祭りの雰囲気に合ってないんだけど、外したら?」
 屋根の下へと飛び出しながら、マグロガールに向かい声をかけるバジル。
「あら、こんな所に品のない……珍妙な被り物をしている人がいるじゃない」
 それに恋苗が続く。
「なんだとー!」
 飛び立つのをやめ、声のした方へと顔を向けるマグロガール。その表情は被り物を馬鹿にされ、怒りが見て取れる。
「……悔しかったら、こちらにいらっしゃい」
 恋苗はそう言うと、神社裏の方へと走り出す。それに続き神社の周囲で待機していたケルベロス達も続いた。
「逃げるなー! 待てー!」
 マグロガールは屋根から飛び降りると、ケルベロス達を追いかけた。
 走った先、最初に出迎えたのは『幽焔蘭華』『天光のランプ』、2つのランプの明かりだ。キープアウトテープで囲われた一角を、ぼんやりと照らしている。明かりが足りないと感じた悠乃と恋苗が『ライティングボール』『闇夜を照らすランプ』をそれぞれ置いた。
「やっと追いついたぞ」
 マグロガールの誘導は上手くいったようで、遠くから喧噪が聞こえる。祭りは中断されることなく続いている。
「変な頭ね、お魚は食べると頭が良くなるらしいケド、被ると悪くなるのかしら?」
 焔は敵意をこちら側に向けるために、さらに挑発をする。
 食欲旺盛な灰のウイングキャット、夜朱が被り物のマグロをじっと見つめる。
「あれは本物じゃないから食べても不味いぞ」
 灰の言葉に夜朱は残念そうに顔を下げた。
「どいつも、こいつも、被り物を馬鹿にしてっ! こうなったらお前たちから血祭りにあげてやるっ!」
 マグロガールがナイフを構えると、それに応じるようにケルベロス達も武器を構えた。

●神社裏の戦い
「とりゃー!」
 マグロガールのナイフから舞うような動作で斬撃が放たれる。無数の斬撃が灰を襲う。
 悠乃がスターゲイザーを放つ。飛び蹴りがマグロガールへと炸裂し、機動力を奪う。続くようにバジルも飛び蹴りを放ち、マグロガールへと命中する。
「あんたは他の祭りに現れた奴と似てるわね。性格は違いそうだけど……」
 一般人になりすます為、隠していた光の翼を展開したフレックが、武器へと雷の霊力を帯させて神速の突きを繰り出す。さらにロイが破鎧衝を放つ。2人の攻撃が命中し、マグロガールの守りを崩していく。
「はぁあああっ!!」
 気合いと共に放たれた、笙月の稲妻を帯びた超高速の突きがマグロガールを貫き、体を痺れさせた。
 恋苗はナイフを構え、マグロガールをジグザグに切り裂く。灰が電光石火の蹴りを放ち、焔がデストロイブレイドを放った。次々と攻撃を受けマグロガールは吹き飛んだ。
 急に周囲が明るくなる。体勢を立て直したマグロガールの掌に、灼熱の炎塊が浮かんでいた。
「燃えちゃえー!」
 放たれたゲヘナフレイムが笙月を襲う。そこに焔が割り込み炎に包まれた。
「私の癒しをあなたに宿します」
 悠乃が癒しの束縛を活性化させる。過剰な回復がマグロガールの体組織を破壊していく。
 フレックは光の翼を暴走させ、全身を光の粒子に変え、ヴァルキュリアブラストを放った。
 ロイがジグザグスラッシュ、恋苗が攻性捕食、灰の降魔真拳。次々放たれる攻撃にマグロガールの体力は削られていく。
 笙月とバジルはオウガメタルを鋼の鬼と化し、マグロガールへと拳を放つ。
 焔はガトリングガンを構え、爆炎の魔力を込めた大量の弾丸を浴びせた。
 マグロガールは焔の攻撃に怒り、焔目掛けてヘッドバットを繰り出した。ゴツンと物凄い音と衝撃に頭を押さえてうずくまる。
「ちょっと染みるけれど……これ、よーく効くわよ?」
 恋苗が紫祖の霊薬を使い、焔を回復していく。
 悠乃がジグザグスラッシュでマグロガールを斬り刻む。
「さぁ、シメオン。毒の味を教えておいで?」
 ロイの武器から狼の形をした霊力が飛び出すと、マグロガールへと噛みつき毒を注入していく。
「冥き砂塵、螺旋と巡りて、流転せよ、再構築!! 全てを滅せよ!! 斬撃刀……滅羽!!!」
 笙月が詠唱を終えると、無数の黒水晶の羽がマグロガールへと降り注ぐ。
「欠片も残さず、砕けちまいな」
 灰の連撃が体勢を立て直すことを許さない。
「甘露転じて毒となる、用法容量を守って正しく使ってね」
 その隙にバジルは注射器を取り出し、マグロガールに突き刺して過剰量の薬品を無理やり投与する。
 焔が八九式重擲弾筒を活性化し、しゃがんだ姿勢から魔力を込めた擲弾を膝に置いて直射する。放たれた擲弾がマグロガールの足へと命中し、動きを止める。
「ソラナキ……唯一あたしを認め、あたしが認めた魔剣よ……今こそ、その力を解放し……我が敵に示せ……時さえ刻むその刃を……!」
 フレックは魔剣「空亡」を構え、時刻みを放つ。放たれた斬撃がマグロガールを深々と切り裂く。
「ぎゃあああ!」
 そのままマグロガールは地面へと倒れ、光となって消滅した。

●守られた祭り
 戦いが終わり、お祭り会場へ戻ってくると、お祭りの参加者が溢れかえっていた。ケルベロス達の適切な対応により、お祭りは中断されることなく賑わっている。
 ケルベロス達もお祭りを楽しむため、各々好きな場所へと向かった。
「浴衣とか着てみたかったわね」
 そう言いながら、射的を楽しむバジル。本物の銃とは勝手が違うからか、撃った弾は景品の横を通り過ぎる。
「もう一回、ね!」
 再び銃にコルクの弾を詰めると、景品に向かい銃を構えるのだった。
 悠乃はのんびりと屋台を見て回り、興味の惹かれるものを見つけては足を止める。
「こういう祭典はあたしは嫌いじゃない」
 フレックも端から色々な屋台を見ていく。
「お好み焼きのトッピングは全部乗せ一択よね」
 色気より食い気、両手には抱えきれないほどの食べ物を持って、焔はご満悦だ。
「美味しそうな物がたくさんあるわね……だけれど、食べ過ぎはよくないわね。お腹とよーく相談しなくっちゃ」
 恋苗はどれくらい食べようか考えながら、食べ物の屋台を見て回る。
 ロイもタコ焼きにリンゴ飴、たくさんの食べ物を買って回る。
 一通り見て回り、一度集まったケルベロス達。そこでふと、一つの屋台に気がつく。
「マグロの串焼き……?」
 灰が看板を読みあげる。
「これって、マグロガールの肉ざんしかねぇ?」
 笙月はそう言い、微笑を浮かべる。
 まさかー。とケルベロス達は顔を見合わせて笑った。
「折角だし食べてみる?」
 恋苗は屋台の方に駆け出した。
 そうするか。と他のケルベロス達も屋台に並ぶ。
 喧噪に包まれ、お祭りを楽しむケルベロス達だった。

作者:神無月シュン 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年9月28日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 2
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