夕暮れに少女は來る

作者:犬塚ひなこ

●黒の魂
 釧路湿原の奥地にて、其れは甦る。
 長い黒髪を揺らした少女――否、アンドロイド型ダモクレスは目の間に立つテイネコロカムイを虚ろな瞳に映していた。その少女型機械に名はない。既に稼働限界を迎えて大破した彼女は云わば死者。
 今は死神であるテイネコロカムイによってサルベージされ、手駒にされた存在だ。
「そろそろ頃合ね、あなたに働いてもらうわ。市街地に向かい暴れてきなさい」
 主が命じると、少女は恭しく礼をした。
 無感情な表情の奥にはひと欠片の感情も見えなかったが、機械的な忠誠は感じられる。
「承知いたしました、テイネコロカムイ様」
 そして、死神の徒と化したダモクレスは歩き出す。
 彼女の周囲には深海魚型の死神が妖しく揺らめきながら宙を泳いでいる。その狙いはもちろん――近くの都市で人を殺め、グラビティ・チェインを奪うことだ。
 
●少女と怪魚
 第二次侵略期以前に死亡したデウスエクスが暴れ出す。
 釧路湿原の近くで死神にサルベージされたらしき敵が動き出す未来が視えたと語り、雨森・リルリカ(花雫のヘリオライダー・en0030)はケルベロス達を見つめた。
「サルベージされたデウスエクスは、釧路湿原で死亡したものではないみたいなのです。きっと、なんらかの意図でそこに運ばれたのかもしれないですね」
 黒髪の少女の姿をしたダモクレスは死神の力によって変異強化されており、周囲に数体の深海魚型の死神を引き連れている。
 その目的は市街地の襲撃。
「予知で現れる場所や経路はわかっています。皆様は湿原の近くで敵の襲来を待ち伏せてくださいませ」
 湿原付近に一般人の姿はなく、入り口あたりで迎撃することが可能だ。そのために人払いや探索は不要。時刻も夕方の明るい時間なので視界の心配もない。
「敵はダモクレスが一体と深海魚型死神が三体です」
 リルリカは敵の情報を語り、どのようにして撃破していくかの作戦が大切だと告げた。ダモクレス達は一度戦闘になれば逃げ出すことはないが、それはケルベロス達を捩り伏せる力を有しているからでもある。
「怪魚型死神はそれほど強くはありません。ですが、ダモクレスを護ったり連携攻撃を仕掛けて来るようでございます。少女の方もかなり強い力を持っているので、回復が間に合わないと皆様が危ないかもしれませんです」
 敵が一体のみではないことから、此方も連携や構成を考えて戦う必要がある。特にダモクレスは痺れや服破りに追撃と厄介な力ばかり持っているので注意が必要だ。
「デウスエクスだったとしても彼女はもう死んだ者なのです。それを蘇らせて手駒にするなんて……死神はやっぱり許せませんです」
 悲しげな色を映した瞳を僅かに伏せ、リルリカは思いを言葉にする。そして、顔をあげた少女は仲間達に信頼の眼差しを向けた。


参加者
コーデリア・オルブライト(地球人の鹵獲術士・e00627)
翡翠寺・ロビン(駒鳥・e00814)
ロベリア・エカルラート(花言葉は悪意・e01329)
鎧塚・纏(センチメンタルスクラップ・e03001)
斎・時尾(レプリカマリオネット・e03931)
角行・刹助(モータル・e04304)
カッツェ・スフィル(黒猫忍者いもうとー屍竜ー・e19121)
キリル・ノーヴァ(無彩の陽・e32260)

■リプレイ

●夕暮れと共に
 薄紅色の空には雲が流れていた。
 斜陽が湿原を照らす様は不思議と穏やかに見える。このままの静かな様相のまま宵が訪れればどれだけ良かっただろう。これから巡る戦いを思いながら、鎧塚・纏(センチメンタルスクラップ・e03001)は近付く影に微笑みを向けた。
「いい夕暮れ時ね、お嬢さん」
 声をかけた先で立ち止まったのは、深海魚めいた死神を連れた黒髪の少女。否、少女の姿をした殺戮機械――ダモクレスだ。
「こんにちは、死せしひと。あなたも災難ね……こんなことに、巻き込まれて」
 翡翠寺・ロビン(駒鳥・e00814)は死神に操られるだけの存在に成り果てた機械少女を見つめ、静かな言葉を紡ぐ。纏やロビンをはじめとして、相手が此処を通ることを知っていたケルベロス達は既に身構えていた。
「君が、死神に命じられたことを止めさせて貰うよ」
 キリル・ノーヴァ(無彩の陽・e32260)もボクスドラゴンのナージャと共に敵を捉え、いつでも動ける準備を整えている。
 対するダモクレスも構え返し、周囲を泳ぐ怪魚達も威嚇めいた動きを取った。
「多大なグラビティ・チェインを確認。抹殺します」
 少女が無感情で虚ろな声で呟き、戦闘態勢に入る。そこから幾重ものミサイルが発射された瞬間、地面を蹴りあげたカッツェ・スフィル(黒猫忍者いもうとー屍竜ー・e19121)が仲間達の前に立ち塞がった。
「さてと、さっそく戦闘開始だね。死神の本来の仕事をしようかな」
 デウスエクスに対する死神として在りたいと考えるカッツェは、飛んできた攻撃を受け止める為に鎌を振りあげた。刹那、番犬と黒猫と呼ばれる刃がミサイルを弾き返し、更に分身の術が発動される。
 だが、追撃として怪魚達がケルベロスを襲った。
 魚達の噛みつき攻撃に対して反応したナージャが身を挺してロビンを庇う。同時に斎・時尾(レプリカマリオネット・e03931)の傍に居たビハインド、一刀が深海魚型死神の動きを察知して動いた。
 その際に時尾は敵のダモクレスに向けてアイズフォンをかけようとする。しかし相手は応じようとしなかった。
(「以前にも似たようなのに会ったけれど……憐れね……」)
 ダモクレスの矜持などというものすら存在しないのかもしれない。時尾は思いを声には出さず、次なる攻撃に向けて一刀と共に身構えた。
 纏は赤い林檎の形をした起爆スイッチを取り出し、口付けを落とす。
「急ごうと、遅れようと、振り向けば死が見えるでしょう」
 刹那、色とりどりの爆風が戦場を彩った。
 始まった戦いは一瞬たりとも気が抜けないものになりつつある。そのとき、コーデリア・オルブライト(地球人の鹵獲術士・e00627)のミミックが隙を突いて駆け出した。相棒が怪魚に目掛けて一撃を放つ最中、コーデリア自身も攻撃に移る。
「貴方も被害者なのでしょうけど、放っておくわけのはいかないのよ」
 達人めいた一閃を放ちながら、コーデリアは虚ろな少女に語り掛けた。されど反応はなく、ロベリア・エカルラート(花言葉は悪意・e01329)は肩を竦める。
「死神か……早い所大元を叩きたいね」
 少女を操っているという死神を思い、ロベリアはビハインドのイリスに皆を守るように願った。赤頭巾のケープを揺らし、ロベリアの前に移動したイリスは敵の動きを注視する。
 そして、角行・刹助(モータル・e04304)も一撃を放つべく動いた。
 触媒とマテリアルを合成した化学反応はグラビティと混ざりあい、刃の鞭となってゆく。それによって宙を泳ぐ魚達が凍り付いていく最中、刹助は首を振る。
「殺し合いは何の役にも立たない…そもそもアレは、手加減が必要な相手じゃないな」
 死んでいた方が幸せだったなんてきっとただの決め付けだ。感傷は刃を鈍らせるのだと己を律し、刹助は敵を見据えた。
 キリルも戦いへの思いを強め、精神の指輪から光の戦輪を生み出す。
「僕は持てる限りの力を尽くすのみ。いざ、参ります!」
 決意の籠った言葉と同時に放たれた一瞬にして空泳ぐ魚を貫いた。その光の軌跡は夕闇に混じり、空気を鋭く切り裂いてゆく。
 そして――戦いは更に激しく、苛烈なるものへと変わっていった。

●夕闇を泳ぐ
 誰にだって産まれてきた意味や生きていく為の理由は必要だ。
 おそらく、目の前にいる存在は――ケルベロス達と相対しているダモクレスにとっての理由は殺戮のみ。刹助は一瞬だけ目を伏せ、掲げた雷杖から癒しの雷光を放つ。
「アレにとっての生きる意味は、殺すこと。殺し尽くす事がそうなんだろうな」
 其処に善悪は関係ない。
 ましてや死神の使徒となっているならば余計にそうだと刹助は肩を竦めた。
 怪魚達はダモクレスの少女を守る形で立ち回っている。その為、最優先で撃破すべきは彼らだ。一刀が念力で敵を薙ぐ様に合わせ、時尾が大量のミサイルを敵に浴びせかける。
 まるで少女に対抗する形で放たれた銃弾は宙を踊った。
 ロビンはその隙を感じ取り、怪魚達の死角に回り込む。それらが居る所為で戦いは必ず長引くと分かっていた。
「長期戦も、覚悟のうえ。……じりじり耐えるのは、苦手だけど……ええと、がんばるわ」
 こくん、と頷きをみせたロビンは魔女の大鎌レギナガルナを振るう。
 無垢ながらも冷酷なる一閃は一体の魚を地に落とし、体力を大幅に奪い取った。その様子を確認したカッツェは一匹目を屠る為に刃を振り下ろす。
「やっぱり魚ときたら猫だよね! 不味そうだけど……黒猫の餌に魂貰うね」
 一閃が最初の敵を屠り、カッツェ達は次なる標的に視線を移した。
 纏は再び林檎型の起爆スイッチに触れ、仲間達に加護を授けてゆく。決して押されはしないという決意を込め、纏は仲間達を示した。
「ほら、わたしたち、四方八方から貴女を噛み殺すわ」
 纏の言葉通り、仲間達は怪魚に向けて更なる攻撃を放っていく。コーデリアが竜の幻影焔を放てば、ミミックが玩具のコインをばら撒いて敵を惑わす。
 キリルも竜の尻尾を振るって怪魚達を貫いた。そのとき、キリルは怪魚が二体ともロベリアを狙っていることに気が付く。
「ナージャ、頼んだ!」
 その声を聞いた匣竜はキリルの頭を飛び越え、ロベリアに向けられた怨霊弾を受け止めた。痛みは相当な衝撃だっただろうが、キリルはナージャに耐えて欲しいと願う。
 ロベリアは庇ってくれた匣竜に礼を告げ、少女を守る怪魚を瞳に捉えた。
「この雑魚を倒さない事には始まらないわね。足元を救われないように気を付けなきゃ」
 自分は攻撃手としてひたすら攻撃するのみ。ロベリアが竜槌を掲げて駆けると、イリスも続いた。重い一撃と金縛りの衝撃が連続で打ち込まれ、二体目の深海魚が揺らぐ。
 次が好機だと察したロベリアは時尾達に目線で合図を送った。
 だが、その間に割り込むようにし駆けたダモクレスが一撃を振るいに来る。
「抹殺します」
 短い一言が落とされた次の瞬間、時尾の身代わりとなった一刀が大きな衝撃を受けた。だが、それも時尾達の戦略だ。
 時尾はまるで一刀の指示に従うように槍を振るい、稲妻の痺れを敵に齎す。
 刹助は癒しが必要だと即座に察し、サーヴァント達に向けて紅瞳覚醒を奏でた。癒しの力が巡っていく中、刹助は強く言い放つ。
「ケルベロスとして、そして一人の戦士として。誰も倒されさせない」
 そして、此処から先へも行かせない。
 コーデリアも仲間の言葉に頷き、ミミックを先行させて攻撃に向かわせた。剣をもった黒猫のぬいぐるみを具現化させたミミック。その一撃が放たれると同時に、コーデリアが鋼の鬼を解放していった。
「弱気でいたら勝てるものも勝てないわ」
 少女の現状を悲しく感じているコーデリアだが、攻撃に迷いはない。思いを馳せるのは後でいいと自分に言い聞かせ、彼女は強気な姿勢を崩さぬよう努めた。
 そして、二体目の怪魚が地に伏す。
「これであと一体だね。でも、君も折角寝てたのに起こされて可哀そうに。折角なら再び寝るまでの短い時間だけど楽しもうね」
 カッツェは降魔の拳を振るい、機械少女に語り掛けた。
「…………」
 されど相手は無表情なままで反応しない。それも哀れだと感じた纏は緩く首を振った。そうして、仲間達への加護を全て終わらせた纏は攻勢に入る。
「さあ、雁字搦めにしちゃいましょ」
 翼から聖なる光を放った纏はこれまでに仲間達が与えた炎や痺れを増やそうと狙った。其処へキリルが続き、地面を蹴って跳躍する。
 キリルに電光石火の一撃が最後の怪魚を穿ち、力を奪い取っていく。其処に好機を見出したロビンは今こそダモクレスを守る壁を打ち砕く時だと確信した。
「――突破口を開くのは、わたしの役目」
 凛とした声が戦場に響いた刹那、死を宿した鎌が狙い澄ました一閃を紡いだ。暴れる怪魚は泳ぎ回って抵抗しようとしたが時既に遅し。
 振り下ろされた刃は無慈悲に、深海魚死神の動きを止めた。

●どうか、安らかに
 残るは少女だけ。しかし、彼女こそが真打ちだ。
 カッツェは相手との距離を詰め、今まで以上に仲間を守る気概を強める。
「残念だけど、どちらかが壊れるまでは付き合って貰うよ。その間に話でもしながら戦おうよ! 壊れる前の記憶はある? 誰に使われてた? 今の気持ちは?」
 明るい笑みを浮かべたカッツェは一撃を放ちながら問う。矢継ぎ早に質問を重ねるカッツェに対し、少女は首を振る。
「しらない」
 答えは素っ気なかったが、カッツェとコーデリアは思わず顔を見合わせた。キリルも意外さを感じて顔をあげる。
 何故なら、遭遇してから初めてまともに少女が此方に反応した言葉だからだ。
 ロベリアも僅かに興味を引かれたが、相手は敵に過ぎない。一秒でも早く敵を倒すことが仲間を守ることに繋がると考えるロベリアは、更なる攻撃に入った。
「地獄に吹くこの嵐、止まない嵐を見せてあげる」
 両腕を構成する地獄の一部を無数の刃に変形させ、ロベリアは剣風を叩き付ける。反撃として敵が光線を放つが、ロベリアは自分の痛みなど構わないと耐えた。
 弱味を他人に見せず、決して仲間の足を引っ張る事はしないのが彼女の心情。
 しかし、刹助がすぐさま癒しにまわった。
 更にナージャが足りぬ分の回復を担い、仲間達を支えていく。それでも放たれ続ける敵の攻撃は激しく、癒せないダメージも増えて来た。
 巡る攻防の最中、一刀はロビンに向けられた一撃を庇う。だが、それによって一刀は戦う力を失って消滅していく。
 時尾は彼がこの戦いでの役目を果たしたのだと悟り、静かに拳を握った。
(「『一刀』……この世界が滅ぶまで、私は貴方と共に存在し続けるのみ……」)
 そのときに出来た隙を狙い、時尾はゲシュタルトグレイブで鋭い突きを放つ。一刀はおらずとも、その動きはまるで彼と共にあるようだった。
 一人が倒れたが、纏は気を強く持って攻撃を続けてゆく。
 ロビンも唇を密かに噛み締め、次なる一手を打ち込んでいった。痛みにはもう慣れた。だから、平気。この道を選んだのは自分だから、と踏み込んだロビンは思いを抱く。
「死者にも守られるべき誇りがある。安らぎがある。……それを犯すものは、きらいよ。だいきらい。だから、わたしはあなたを――二度、殺すわ」
 わたしは必ず帰ると約束したから。それに、もしあのひとがこんなふうに利用されたら、なんて考えるだけで、胸の奥が重くなる。
 ロビンが振るった刃の一閃は、無垢なる冷酷さを宿して痛みを齎した。
 其処へミミックが噛みつきに走り、コーデリアは黒き触手を招来する。生と死の境界線から、命の鼓動を止める一撃が放たれた。
「もうすぐね。今度こそ誰にも邪魔されない眠りをあげるわ」
 コーデリアは少女が弱ってきたことを感じ、戦いの終幕に向けて身構える。キリルも彼女の声を聞き、小さく頷いた。
「貴方に再び安らかな眠りが訪れますように」
 自分達はただ、黄泉へ見送ることしか出ない。されどそれこそがやるべきことだと自分を律し、キリルは鋭い旋刃の蹴りを見舞った。
 キリルに続いたカッツェは笑みを崩さぬまま大鎌を振りあげる。黒猫と番犬、両方の刃は手痛い一撃となって少女を貫く。
「大丈夫。死神カッツェが再び送ってあげる」
 カッツェが与えた衝撃は相当なものだ。纏もゆるりと顔をあげ、それまでにじわじわと浸透させた魔力を解放する。
「終わりにしましょ。この思い、届かせるわ」
 ――わたしは貴方。貴方はわたし。
 纏が同調させた力は四元素の火となり、周囲の空気をも浸透させる勢いで迸った。
 そして、機械少女は膝をつく。
 刹助はこれが最期だと告げ、一個の殺戮兵器でしかない敵を見下ろす。彼女はきっと全力で挑んで来た。だが、それは本来に意志ではなかっただろう。
「死に足りなかったなら、これで終幕にしてやる」
 その為にこの力を使おう。葬送するならば、せめて円舞曲の音色で――。
 そうして、刹助が奏でた曲は戦いの終わりを飾った。

●夕暮れの終わり
 夕空の茜色は既に薄れ、夜が訪れはじめていた。
 暗くなっていく天の色を振り仰いだコーデリアは戦いは終わったのだと双眸を細める。するとミミックがぴょこんと跳ね、勝ち誇ったようなポーズを取った。
「皆で勝ち取った勝利ね」
 やがて辺りには再び穏やかな空気が満ちていく。
 時尾は復活した一刀が湿原の奥を見つめている動きに合わせ、自らも遠い先を見据えた。其処には景色以外は何も見えなかったが、何か良くないものが蠢いている気配が感じられた気がする。
 そして、刹助は消えていったダモクレスがいた場所を見下ろして徐に呟いた。
「怨むなよ。もう甦っても来るな。お前を此処で倒す。それが俺の役割だったからな」
 思いは戦いの中で告げている。操り人形めいた機械に怨むという感情が有るのかすら分からないが、刹助は自分の役目は全うしたと独り言ちた。
 カッツェも仲間に倣い、機械少女がいた空間に笑みを向ける。
「お話、楽しかったよ。そっちは楽しかった?」
 答えが返ってくることはないと知ってたが、カッツェはそれでも構わなかった。
 ロベリアとイリスはそんな仲間達を見つめ、静かに瞳を閉じる。キリルもナージャをそっと撫で、戦いの疲れを労った。

「どうか――」
 キリルの願いはただひとつ、少女の最期の前に伝えたあの言葉がすべて。
 そうして、纏も暮れなずむ宵の色を瞳に映しながら願う。彼女の思いに気が付いたロビンも傍に寄り添い、二人はそれぞれの思いを言の葉に変えた。
「……さようなら、善き睡りを」
「お別れね、会うはずのなかったひと。――おやすみなさい」
 今宵、夕暮れの終わりと夜の始まりにひとつの企みが潰え、命が散った。たとえそれが心なき存在の虚ろな魂だとしても、ただ祈ろう。
 悲しき存在でしかなかった少女がもう二度と、目覚めることのないように。

作者:犬塚ひなこ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年9月25日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 2
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