
銃器とゴーグルで武装した男たちが、木々の合間を縫って進む。
大木に背を預け、リーダーの男性は後続に止まるようハンドサインを送った。皆が指示に従うのを確認し、静かに大木の向こうを覗き見る。
その足元で、何かが動いた。
トラップを踏んだかと男は思ったかもしれない。だがそうではなかった。次の瞬間、男性はブーツに絡みついた木の根によって、宙に高々と持ち上げられている。
男性の絶叫が森に響き渡る。だがそれもすぐ彼の全身ごと、先ほどまで背を預けていた大木に呑み込まれた。
●
「皆さんはサバゲーってご存知っすか?」
黒瀬・ダンテ(オラトリオのヘリオライダー・en0004)は両手で何かを持つジェスチャーをした。エアガンを構えているつもりらしい。
「サバイバルゲーム、つまりは敵味方に分かれてエアガンで撃ち合う競技なんすけど、そのフィールド内の森に攻性植物が発生したんすよ!」
なんらかの胞子を受け入れて攻性植物と化した大木は、男性プレイヤー一人を呑み込み、宿主としてしまった。
急ぎ現場に向かい、攻性植物を倒してほしい。
「他の人はみんな逃げることができたんで、フィールドは完全に無人っす。攻性植物も、明らかに巨大になってうごめいてるんで、森の中でも簡単に見分けがつくはずっす……ただ一つ問題があって」
それは攻性植物の倒し方だ。
普通に倒してしまうと、中の宿主もともに死んでしまう。
「でも敵にヒールをかけながら攻撃して、回復不能ダメージを積み重ねて倒せたら、取り込まれた人を救える可能性があるっす!」
敵に回復を施しながら戦う。それは長期戦を余儀なくされる茨の道だ。
回復してもらっているからといって攻性植物が手加減してくれるわけでもない。戦況によっては辛い決断にも迫られるだろう。
ダンテは深く頭を下げた。
「BB弾で遊ぶ戦場に、危険な敵がいちゃいけないんすよ。そいつを倒せるのは、ケルベロスの皆さんだけっす」
参加者 | |
---|---|
![]() 絶花・頼犬(心殺し・e00301) |
![]() 鵺咬・シズク(黒鵺・e00464) |
![]() リスティ・アクアボトル(ファニーロジャー・e00938) |
![]() オーネスト・ドゥドゥ(アーリーグレイブ・e02377) |
![]() ヨルヘン・シューゲイズ(ぐしゃぐしゃ・e20542) |
![]() リュリュ・リュリュ(リタリ・e24445) |
![]() 黄瀬・星太(火風・e28582) |
![]() ペル・ディティオ(破滅へ歩む・e29224) |
●
森は静まり返っていた。
午後の陽を通さぬ緑の天蓋の下、八人のケルベロスの足音と、どこかからの葉擦れがやけに大きく聞こえる。
「ここがサバゲー・フィールドか……良いね」
木々と湿った土の香りに、リュリュ・リュリュ(リタリ・e24445)は羨望に青瞳を瞬かせた。
「良い演習場になりそうだ」
「おいおい。言っとくが、サバゲーはべつに実戦訓練とかじゃねぇからな?」
「……え、違うのかい?」
「そりゃ違うだろ」
オーネスト・ドゥドゥ(アーリーグレイブ・e02377)の軽い指摘に目を丸くするリュリュの傍ら、ぶっきらぼうに首肯したのはヨルヘン・シューゲイズ(ぐしゃぐしゃ・e20542)だ。視線は木立ちに向けたまま、発言を付け加える。
「俺はサバゲーした事ないけど、要はあれだろ。ハイドアンドシーク。その延長」
「けど、たしかに訓練場所に思えるくらい、ここはすごいね」
周囲に興味深げに目を馳せ、絶花・頼犬(心殺し・e00301)は朗らかに感嘆した。
「聞いたことはあったけど、さばげーって、実際にこんな森でやるんだねぇ。まるで本物の戦場みたいだ」
「クク……本当に戦場になっているではないか」
含み笑ったのは小柄な少女だ。すっぽり被ったフードの奥でペル・ディティオ(破滅へ歩む・e29224)の口元が弦月に歪む。
「こういう、戦略を出せそうな雰囲気は我には好ましい……もっとも、力の無い一般人には、よりスリルを味わえる以外のメリットがまるで無いが」
「そうだね……攻性植物に捕まったのは不運というか……」
「植生に気を配れないようじゃまだまだ……って言いたいけどまぁ、デウスエクス相手じゃ酷ってもんか」
海賊衣装の女性が嘆かわしげに首を振った。歴戦の猛者であるリスティ・アクアボトル(ファニーロジャー・e00938)からすればプレイヤーの手際の悪さも目に付いてしまうが、彼女の眼鏡にかなう行動力を一般人が発揮するなど、どだい無理な話だ。赤いツインテールをひとつ揺らして気持ちを切り替える。
「ま、見殺しにすんのも寝覚めが悪いしね。助けてやろうじゃないか」
「その方が社会的面倒も少ないしな」
「はい、必ず助け出しましょう」
ヨルヘンに続いて、穏やかな物腰の少年が淡々と返した。黄瀬・星太(火風・e28582)の澄んだ水面のような双眸には、しかし強い意志の光が灯っている。
「デウスエクスに不幸にされる人を出すわけにはいきません」
「そうだな」
同意したのは先頭に立つ、金髪をポニーテールに結った女剣士だ。葉擦れがだんだん大きく聞こえてくる方角へ、鵺咬・シズク(黒鵺・e00464)は木々の合間を臆せず進んでいく。
「サバイバルゲームというからには生存が第一だろう? じゃあ何が何でも生きたまま連れて帰らないとな……そら、着いたぜ」
シズクが見据える先、暗い木立ちの奥で蠢いているのは、見るからに醜悪な巨木だった。
周囲とは一線を画す太い幹は鮮翠色で瑞々しい。それだけなら健康的とも言えたかもしれないが、いずれの枝も先端が裂けて、鋭い牙がびっしりと整列しているとあっては怪樹と呼ばざるをえない。
「被害者はあの中だね……やたらと大きいけど、倒して、救出しよう」
「おう」
すうっと息を吸ったリュリュに応えるように、オーネストが両拳のガントレットを打ち鳴らす。
「先制攻撃だ。おっ始めるぜ!」
直後、寂寞の調べが響き渡った。
哀悼の歌が森に広がっていく。そのリュリュの歌声に押されるように、攻撃手たちは怪樹に向かい地を蹴っていた。木々の隙間を疾走する彼らの足元に浮かび上がった光は、頼犬が描いた守護星の陣だ。
「見辛い」
不機嫌そうに眼鏡をくいと上げたヨルヘンの姿が消失――次の瞬間、超加速した彼は攻性植物に肉薄していた。すれ違いざまに幹を抉り斬り、ついでとばかりに敵の周囲に立ち並ぶ邪魔な木々をも容赦なく斬り飛ばす。
切断された樹木が倒壊し、跳躍していたオーネストがその幹を足場にさらに高く舞った。
その戦籠手を獄炎が覆う。
「喰らいな」
鋭いスナップで投じられた火炎は怪樹の正面に着弾し、外皮を激しく破裂させた。空中で爆炎と轟音を浴びながら接敵するオーネストが長い脚を旋回させ、蹴撃が怪樹の皮を貫通。そのまま斬り下げる要領で縦に傷を刻みつけながら降下する。
破壊の中、硬いものが擦り合う音が戦士たちの耳を突いた。捕食形態の枝が牙を鳴らしたのだ。まるで触手のように柔軟に伸びるや、着地したオーネストに殺到する。
「やはり戦場はこうに限る……」
その捕食の枝を、横合いから迸った光線が呑み込んだ。
石と化したそれらを顧みることはせず、ペルは次の詠唱を終えている。
「どれ、銃は無いが魔法はあるのでな、石にしてやろう。ゲームでは味わえない命賭けの遊び、愉しもうか……」
再度、石化光線が枝々を薙いだ。捕食の牙が急速に硬化して砕け散る様に、ペルの低い笑声が重なる。
「お、サンキュな!……うおっと!?」
火炎を灯した拳を振りかぶるオーネストに、新たに真上から触手が降りかかった。裏拳で数本弾くが、対処しきれなかった蔓触手が手足に巻きつき、彼を持ち上げる。
「じっとしてなよ!」
リスティの声は斬撃を伴っていた。寸断された蔓触手からオーネストが解放されたとき、樹液を返り血のように頬に浴びたリスティは、凄絶な笑みを残りの触手に向けている。
「そらそら、根比べといこうか!」
踏み込むリスティの大鎌が弧を描き、蔓をまとめて斬って捨てた。巻き起こる斬風に気圧されたようにいくつかの触手が彼女から離れていくが、新たな斬風がそれらを斬り飛ばす。
「まずは弱らせるのが先決だな」
シズクの両手の斬霊刀が静かに持ち上がった。直後、振り下ろしは衝撃波を生み、怪樹の外皮を弾けさせている。
「敵の回復は任せたぜ!」
「了解です」
一切の感情も見せず星太が頷いた。彼のウィッチオペレーションが怪樹の外皮や枝に発現し、ダメージを修復していく。
「キミにあげる命は一つとして無いよ」
その絶望を砕く――敵にヒールを施すのは、宿主にされた男性を救い出すためだ。
「聞こえますか! 僕たちはケルベロスです。必ず助けますから、気をしっかり持ってください!」
しかしそれは、脅威が続くことを意味する。
怪樹の内側に星太が呼びかける中、不気味に軋みながら、再生した捕食の枝が牙を剥いた
●
それは機関銃の掃射に似ていた。
「おおっと!」
掻い潜る隙もない。手近な木の裏に飛び込んで、頼犬は牙の猛攻を逃れた。身代わりに被弾する木の寿命が尽きる前に、素早く別の木へ移る。
「ふぅ、実際のさばげーも、こんなふうにヒヤヒヤするのかな……」
慎重に木陰から顔を出す。捕食の牙の対象は前衛に移っていた。
焦ってはいけないと理解しているが、それでも焦燥がちりちりと心を焼く。今も攻性植物の中では命が搾り取られ、消えつつあるのだ。
(「必ず生かさなきゃ……絶対」)
頼犬の目が戦場の地面に留まったのはそのときだった。
一部の土がボゴッと音を立ててへこむ――。
「危ない! みんな離れて!」
頼犬の警告と、異変が極大化するのはほぼ同時だった。陥没した地面に大量の土砂と倒木がなだれ込み、前衛のケルベロスたちを呑み込む。
「……ふむ」
なんとか埋没を免れたペルが、リスティを見た。その目は普段と違い、明らかに暗く淀んでいる。そしてそれはナイフを振りかぶったリスティも同様だ。
仲間同士のグラビティが衝突した。
「何やってるんだ二人とも、しっかりするんだ!」
一喝したのは割り込んだリュリュだ。ゾディアックソードでナイフを受け止め、オウガメタルでペルの蹴りを防いでいる。
「いや、催眠くらったもんでね。是非もないだろ?」
「クク、まったくだ……疾く治してもらえるとありがたい」
「回復は任せて!」
木陰から頼犬の声が飛び、星の陣が前衛たちを包んだ。ペルとリスティの瞳が正常な色を取り戻すのを見てとったリュリュが剣を下ろし――三人がその場から飛び退いた。直後、さっきまでいたその地点を捕食の枝が喰らいつく。
「もうエンチャントは充分だね……」
飛び退いた勢いのまま、リュリュは脚を速めた。仲間たちを補助するオウガ粒子の煌めきを確認しつつ、陥没でできた斜面を駆け上がる。
「ここが訓練場じゃないとしても、日々研鑽を積む人の邪魔はさせない!」
リュリュの靴先が閃いた。怪樹の幹が深々と抉れ、暗い緑色の樹液が噴出する。
だが液の流出はしだいに緩まっていく。星太の治療魔術だ。さらにシズクが敵に分身の幻影を纏わせることで傷口を塞ぐ。
見た目は無傷。とはいえ、その内部には癒せない負傷が蓄積しているはずだ。
ともすれば押し寄せる徒労感を斬り払うように、リュリュは剣を振るった。
●
「まだか!?」
砲弾がごとく次々と飛び込んでくる蔓触手から、ヨルヘンは加速機動で逃れた。先に彼が言っていた通りハイドアンドシーク――木立ちに紛れて射線から外れる。一方で触手は射線上の木々を破砕しながら追尾してきていた。それをチートとなじる余裕はあまりない。
「まだあいつ倒れないのか!?」
「まだだ」
短く答えたペルの外套はところどころ喰いちぎられている。
「ああ、まだ削る必要がある。多少ならでかいのぶつけていいぜ」
「言われるまでもない」
返答を継いだシズクにそう返すと、ヨルヘンはすぐそばの木を蹴って、垂直に跳び上がった。枝を足場に天蓋の頂上付近まで至り、破損が目立ち始めている眼下の怪樹を睥睨する。
「どっちが先に力尽きるか――根競べだ」
急降下するヨルヘンの右手が鮮烈に燃えあがった。
発露した地獄はあらゆるものを嫌悪する鉤爪となって、怪樹の枝葉を、幹を、惨く裂いている。
「かたい、くっそ、焼き尽くしてえ――ん?」
右手を押さえながら毒づくヨルヘンの目が、幹の裂け目に現れた何かを捉えた。溢れる樹液の中、触手が幾重にも纏わりついた人型は――。
「宿主の男性!」
「今なら助けられ――!?」
救出に向かおうとした星太と頼犬を阻むように大地が鳴動した。
「くっ、またかよ!」
沈む足場に歯噛みしながらも、オーネストが接敵すべく斜面を登る。
その腕に捕食の枝が喰らいついた。
「ぐっ!……おい、あんた聞こえるか?」
振りほどこうにも、さも美味そうに自分の肉を咀嚼する牙はなかなか離れてくれない。激痛をこらえながら、オーネストは宿主の男性に呼びかけた。
「あんた、サバゲーが好きなんだろ? あんたがここで死んじまったら、あんたの仲間も他の連中もまともにサバゲーできなくなっちまうんだぜ? それでもいいのかよ!」
さらに飛来した枝をオーネストはいくつか斬り落とすが、仕留め損ねた牙が脚に噛みつく。
「よくねぇよな……だから耐えろよ。好きなもんと仲間のために、気合い入れて耐えろよ!」
――崩折れかけていたオーネストの膝が、しゃんと伸びた。幻影を纏ったことで、頼犬の回復を受けたのだと悟ったときには、オーネストに喰らいついていた捕食の枝はリュリュとリスティによって切り裂かれている。
「アンタも、気合い入れて耐えるんだよ」
「はっ、たりめーだ」
リスティの軽口に応じつつ、オーネストが地を蹴った。両拳に炎を宿して突撃する。
「俺の心は折れちゃいねーからな!」
零距離で炸裂したフレイムグリードは幹の正面から側面、さらに後方までを焼き抉った。敵を滅ぼしうる巨大な傷に星太が治療魔術を差し向け、ペルも祝福の矢を飛ばす。
しかし魔法の手術も妖精の祝福も、ほとんど損傷部位を塞がない。
「いい感じだ、もうそろそろゲームセットにしようか」
笑うペルにかかる影が濃くなった。怪樹は、倒れる向きをケルベロスの集まる方へ定めたのだろう。おそらくは最後の力をもって、大質量攻撃に打って出る。
そこに金色の影が横切った。
「――心配無用、峰打ちだ」
二振りの斬霊刀が光を散らしたときには、とどめの破砕を受けた怪樹は緩やかに消滅の一途をたどっている。
倒れながら消えてゆく攻性植物を後目に、シズクは刀を鞘に収めた。
「ところで、任務完了のハンドサインはどうやるんだ?」
●
男性を覆っていた触手も、攻性植物の撃破とともに消失していた。
「おい、生きてるか?」
「クク……良い具合に雑な起こし方だな」
「起きればなんでもいいだろ」
薄く笑うペルにヨルヘンが面倒くさげに返す中、シズクがもう一度「生きてるか?」と男性の頬を叩いた。男性が装着していたはずのゴーグルはどこかに失われていたが、どうせ外していたからどうでもいい。
「お、起きたな」
「良かった……助けられて何よりだよ」
リスティが薄く目を開けた男性に気づき、頼犬がホッと胸を撫で下ろす。
ヒールグラビティをかけ続けていた星太が男性に安堵の笑みを向けた。
「歩けそうですか? 無理はしないでくださいね」
「辛いんなら言ってくれ。手ぇ貸すからよ」
「その声は……」
リュリュに背中を支えられた男性が、星太とオーネストの顔を何度も見直した。
「化け物に捕まって、私はもう死んだと思ったんだ……だけど、必ず助けると、耐えろと聞こえた気がして、私は……」
後半は涙で言葉にならなかった。咽び泣く男性の背に、星太がそっと手を置く。
「元気を出してくださいね。僕たちが必ず、安心して暮らせる世界にしますから」
「ありがとう……ありがとう……」
ありがとう――修復を終えた森の静寂に感謝の言葉が吸い込まれる。
天蓋の外では、夕陽が沈みつつあった。
作者:吉北遥人 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
![]() 公開:2016年9月23日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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