食用でも薬用でもよし。それまさにごぼうなり

作者:鬼騎

 さわやかな風が吹く中、とある町では畑一面に青々とした葉がゆらめいていた。
 馴染みがないとパッと見てなんの植物かわからない人も多いが、一面に広がるのはごぼう畑だ。ごぼうは食用だけでなく、薬用としても使われることもある優秀な野菜のひとつだ。
 そのごぼう畑の中、ひとつの葉が揺れたと思ったら、急に葉の背掛けが伸び、植物が巨大化していく。3メートルほどの大きさになると、それはごぼうの葉と根で構成された攻性植物であることがわかった。
 攻性植物はひとつ身震いをした後、ごぼうの根でできた腕を振るいあげ周りのごぼうをなぎ倒し始めたのだった。

「集まってくれてありがとー。今日は攻性植物のお話よ!」
 ヘリオライダーの旗本杏鶴は集まったケルベロス達へ説明を始める。
「秋、といえば実りの秋だよね。多くの野菜や果実が収穫を迎える時期なんだけど、それを狙ったように攻性植物が現れ始めたの!」
 詳しくは収穫期の作物のひとつが攻性植物に変化し、周囲の作物を荒らしまわるという。このままではせっかく育った作物が収穫を前にすべて台無しにされてしまうだろう。
「このままでは日本の市場は大打撃。農家さん達も大損害! 絶対にとめなきゃだよ」
 出現場所はごぼう畑。攻性植物の攻撃はふといごぼうの腕をふり、範囲を巻き込む攻撃や、根の先端を固くし貫いてくる攻撃。それに回復を行うという。
「やっかいなのは最初は1体しかいない攻性植物なんだけど、この最初の1体。時間が経つと周囲のおなじ作物まで攻性植物と変化させる力があるみたいなの」
 2体目の出現の目処はだいたい7分ほど。それ以降1分ごとにねずみ算式に作物が攻性植物へと変化していってしまうので、最初の1体を撃破しない限り、集まったケルベロスだけでは手に負えない状態になるだろう。
「周囲への被害だけど、畑自体はヒールで修復可能だけど、実った作物までは治すことができないよ。だからできるだけ作物に被害が出ないように戦ってもらえると嬉しいな!」
 ちなみに事前に連絡を受けた畑の農家は遠くから戦闘の行方を見守っているという。もし比較的無事に畑を守ることができたらその分、美味しいごぼうをふるまってくれるかもしれないと杏鶴は最後に付け足し、説明を終えた。


参加者
七海・渚(真夜中・e00252)
天音・藍(白夜の炎虎・e00461)
萃・楼芳(枯れ井戸・e01298)
メイセン・ホークフェザー(いかれるウィッチ・e21367)
灰縞・沙慈(小さな光・e24024)
霧島・迅龍(機龍の凱歌・e28704)
三上・詩音(オラトリオの鹵獲術士・e29740)
ルシフェラーゼ・スカベンジャー(平々凡々な掃除屋・e30950)

■リプレイ

●一面ごぼう畑
「ごぼうをなぎ倒すなんてとんでもないわね、美味しいごぼうを守るためがんばるわよー」
 天音・藍(白夜の炎虎・e00461)はごぼう畑を前に気合いを入れ直す。今回のケルベロスチームはサーヴァント使いが多く、8名と6体。計14名という団体で、敵が出現するというごぼう畑に来ていた。
「へぇー……ゴボウってこんな植わり方してたんだな」
 一面のごぼう畑を始めて見たルシフェラーゼ・スカベンジャー(平々凡々な掃除屋・e30950)はごぼうの成り方を始めて知り、関心の声をあげた。つい木の根のように見えてしまい、今までちゃんと食べた事がなかったごぼう。この機会に戦闘が終わった後は農家の人に美味しい食べ方などを聞こうと決めた。
 かたや萃・楼芳(枯れ井戸・e01298)は畑を見て他の被害場所への思いをはせる。
「我々はこの場所での事件解決に来ているが、他の場所でも攻性植物による畑への被害が発生しているというな」
 一連の騒動が計画的なものだとしたら、被害はこれだけでは済まないかもしれない。
 その言葉に答えたのは三上・詩音(オラトリオの鹵獲術士・e29740)だ。
「きっと野菜もデウスエクスにする黒幕も居るのでしょうね……というよりも、植物の事件には大抵黒幕居るのではないかしら」
 しかし彼女自身はごぼうの被害よりも自分の服が汚れるのは嫌だわ、などと考えている。この依頼に来たのはウイングキャットのコロが行きたがったからだ。
 敵が出現するあたりの畑まで歩く道すがらも服がなるべく汚れないルートを辿る。
「でもまずは目の前のごぼう畑を守らないと。せっかく収穫間際なのに台無しにされちゃったらたまんないもんね」
 七海・渚(真夜中・e00252)は美味しいごぼうの食べ方を考える。鍋に入れてもいいし、オーソドックスにきんぴらも良い。ここでごぼう畑をめちゃくちゃにされては値段の高騰などによりごぼうにありつけないかもしれないのだ。失敗するわけにはいかない。
「農家の人が一生懸命に作ってくれてるんだよね。……ちょっとだけ苦手、だけど。頑張ってごぼうさん、守る、ね!」
 灰縞・沙慈(小さな光・e24024)は途中申し訳なさそうに小声になりながらも、必ず被害を最小限にとどめようと心に誓う。畑の土は公園の砂とは違うんだな、などと思いながらも、ごぼうを踏まない場所を見極め、畑の中へと進む。
「バードックルートは薬効が色々あってとても良いもの。それを台無しにするなんて生かしておけませんしね」
 メイセン・ホークフェザー(いかれるウィッチ・e21367)は丁寧な言い回しをしているのだが内容はかなりぶっそうだ。ごぼうと言わずバードックルートと言うのは彼女としてはお茶としてのほうに馴染みがあるからだ。実は彼女もごぼうを食した事がないという。
「おっと、おしゃべりはここまでだね。敵のお出ましだ」
 霧島・迅龍(機龍の凱歌・e28704)が差す方を向くと、今まさにごぼうがみるみる巨大化し、攻性植物へと変わる所だった。それぞれ足元を気にしながら戦う場所へと陣取り、武器を構える。
 これよりまわりへの被害を最小限にとどめ、最短で敵を倒す短期決戦へと挑むのだ。

●勝利への道筋
 まず初めに動いたのは楼芳だ。
「最初から全力だ」
 ドラゴニックハンマーを振るい、超重の一撃、アイスエイジインパクトを敵に叩き込んだ。ボクスドラゴンのウルも続き、彼が攻撃した場所へとタックルをかました。しかし幾重にも絡んだ攻性植物のごぼうの腕はしなり、手応えがいまいちつかめない。
 楼芳、ウルに続き動いたのは渚だ。
「前を見て、敵を睨め付け、討ち滅ぼすべき悪を視て。目を逸らさず立ち向かい、ただひたすらに蹂躙せよ」
 彼女がそう詠唱すると魔法陣から光が立ち上り、味方前衛の感覚を研ぎ澄ます。味方の集中力をあげ命中率を補助する事。それが彼女の勝利への定石だ。
 同じく味方を補助するための行動をとったのは沙慈だ。
「少しだけ皆さんのお手伝い、させてくださいね」
 そういうと魔力がこもった鶴の折紙を飛ばし、味方に破剣の効果をもたらす。
 この攻性植物との戦闘は周りへの被害を防ぐだけではなく、時間経過により増殖するとの予知があるため最短撃破が求められているのだ。最短撃破するためには少しでも敵に有利になる状態を許すわけにはいかない。
 沙慈に続いたのはウイングキャットのトパーズだ。尻尾の輪を飛ばし攻撃を仕掛けた。
 「ふむ。じゃあ僕達は攻撃だね、かーくん」
 当初狙アップの効果があるグラビティを使おうかと思っていた迅龍だが、すでに他の味方により手が打たれているのを見て攻撃すべくバスターライフルを構えた。凍結光線を放つと、ウイングキャットのカプリチオはその攻撃に続き攻性植物の懐へと駆け込み、鋭い爪でごぼうの腕を引き裂いた。
 だが攻性植物も黙って攻撃を受けているだけではない。近場にいるケルベロス達めがけ、周囲を巻き込みながら腕を叩きつけてきた。
 その攻撃に機敏に反応したのはミミックのダストンだ。ルシフェラーゼの前へと飛び出て敵の攻撃から彼を守った。
「こちらの攻撃はまだまだあるぞ」
 腕を大きく振るったため攻性植物は大きな隙ができる。ルシフェラーゼはルーンアックスを振るい、叩きつけた。最初は今後の事を考え破剣を自身に付与しようかと考えていたのだが、こちらもその手間が省けたため攻撃に転じたのだ。
「ちょっと、ごぼうがダメになっちゃうじゃない。ひどいことするわね」
 藍は敵の攻撃でなぎ倒されたごぼうの葉を見てむっとしながら、攻性植物に獣撃拳を叩き込む。もともと荒らし回るつもりだった攻性植物は周囲の被害など気にせず攻撃をしかけてくる。今回の前衛の数が多いため、おそらく今後の行動としても腕をふるい範囲攻撃を仕掛けてくるだろう。
「マルゾ、徹底的に叩きますよ。我らウィッチの力、存分に発揮しましょう」
 のんびりなどしていられない。メイセンはブラックスライムを捕食モードへと変形させ、攻性植物に攻撃を仕掛ける。瞬間的にだが動きを封じたタイミングでビハインドのマルゾが金縛りを仕掛けた。
「あら、もうわたし達の仕事? まぁ別にいいけれどね」
 詩音はその場から動かず一番ダメージの大きいダストンへ気力溜めを施し、コロは清浄の翼で前衛の回復に努めた。
 戦闘開始から1分ほど経過したが現状まだまだ攻性植物は健常な状態だ。とはいえケルベロス達の準備期間はここまで。ここから先はただただ攻撃あるのみ。ケルベロス達の猛攻が続く。

●タイムリミット
 戦闘開始から6分が経過した。回復も最低限に、ケルベロス達は極力攻撃を選択し攻性植物を追い込んでいた。が、未だに攻性植物も抵抗し、戦闘が続く。タイムリミットの7分まであと1分しかない。
 ケルベロス側にも焦りと疲労が見てとれる。
「回復はこっちに任せて皆は攻撃に集中して!」
 渚は前衛へと天啓を使いヒールを行う。度重なる範囲攻撃により攻性植物の周りのごぼうの葉は壊滅。前衛の味方も全体的にダメージが残る状態となっている。
「貴方は回復をするのね。ならわたしは攻撃をするわ」
 詩音はコロが回復に動いたのを確認し、自身は攻撃をする選択を選び、ペトリフィケイションを放った。
 コロの回復に続きカプリチオとトパーズも清浄の翼で回復を行う。本来ならば一撃でも多く攻撃に転じたい所ではあるのだが、サーヴァント使いが多い分、一人一人の体力があまり高くなく、体力的に無茶ができない状態なのだ。
 無茶ができない代わりといってはなんだが、手数では負けない。回復により持ち直したルシフェラーゼとダストンが動く。
「いくぞ!」
 ルシフェラーゼは高々と飛び上がり攻性植物の脳天めがけルーンアックスを振り下ろした。その攻撃を防ごうと腕を上げた所、ダストンが胴にかぶりつき、敵の意識を撹乱させた。
「こっちからもです」
 先の攻撃でちょうど死角となった角度から今度はメイセンが攻撃を仕掛けた。The Soot lizard of Sweeperを振るい、マジックミサイルを放つ。またその攻撃に合わせ違う角度からもマルゾがポルターガイストを繰り出し攻撃をたたみかけた。
 立て続けに受けたダメージにより攻性植物が膝をつく。また反撃を繰り出そうとうごくも重ねて付与されていたパラライズにより体の自由を奪われた。
「今なら!」
 この隙をケルベロス達が見逃すはずもなく、沙慈は破鎧衝を急所めがけ繰り出し、迅龍はスターゲイザーを叩き込んだ。
「もうそろそろかしら!?」
 藍がレゾナンスグリードを放つと攻性植物の体がぐらりと揺らぐ。
「ウル、トドメだ行くぞ」
 楼芳の掛け声にウルはタックルを繰り出し、敵を仰け反らせる。それに連携し楼芳は竜爪撃を繰り出し、攻性植物の体に風穴をあけた。
 攻性植物は体にあいた穴から崩れ落ち、消滅していった。
 7分ジャスト。ギリギリながらもケルベロス達はこの戦いに勝利した。

●ごぼう尽くし
「こんなに振る舞ってもらえるなんて、本当にありがとうございます」
 渚は机に並んだいろんなごぼう料理を見ながら、農家の方にお礼を述べる。
 戦闘が終わった後、周辺のヒールを行ったものの被害を受けたごぼうがかなりの数が出てしまった。が、それらは出荷する事ができないものの味が劣るわけではないとの事で、こうやってケルベロス達に収穫したばかりのごぼうを使った料理が振舞われているのだ。
「ごぼうって根菜だっだもんな。しかしきんぴらごぼうぐらいしか分からなかったけどこんなに食べ方の種類があったとは驚きだ」
 迅龍はそういいながらごぼう茶を啜る。驚くのも無理はないのかもしれない。鍋やきんぴらといった定番から、天ぷら、かき揚げ、煮物にサラダ、炊き込み御飯にお菓子のようになったごぼうスティック。さらにはごぼうのポタージュなどまで並んでいるのだ。こんなに様々な食べ方をする家庭はなかなかないだろう。
 他の面々もごぼう料理を味わったりレシピを聞いたり、さらにはまだ余っている出荷できないごぼうをおすそ分けしてもらったりしている。
「ごぼうさん、こんなに美味しかったんだね」
 ごぼうが少し苦手だったはずの沙慈もいつの間にかいろいろなごぼう料理を美味しく堪能していた。
 大事に育てたごぼう畑を守ってもらった農家の人たちの笑顔がケルベロス達への何よりの報酬となった。

作者:鬼騎 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年9月30日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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