●誰も知らない惨劇
深い森の中で、彼らは息をひそめて暮らしていた。
土を固めて作った、住居とも呼べぬような住居に隠れ住んでいるのは、地球人ではなく昆虫人間ローカストたち。
デウスエクスとしては戦闘能力が低い者たちが戦いを避けて暮らしているのだった。
皮肉にも、彼らの平穏を破ったのはケルベロスではなく同じローカストだった。
天井の土がパラパラと落ちてきたのに気づいて、住人の1人が顔を上げる――その顔を踏みつけるように、細長い脚が降下してきた。
「ここにいたな、敗北主義者どもめ。うまく隠れていたつもりかもしれんが、隠れることに関してこのファスマデルガに敵う者などいないのだ」
冷たい声で告げるのは、手も、足も、胴体もすべて奇妙なほど細長い体を持つローカストだった。
「光栄に思うがいい。これよりお前たちが持つグラビティ・チェインは太陽神アポロンのために使われる。喜んでその身を捧げるのだ」
言葉とともに、容赦のない攻撃がまず踏みつけられていたローカストに加えられる。
震え上がるローカストたちに対し、襲撃者は1人ずつ順に暴行を加えていく。
全員の戦意が完全に失われたところで、隠れ潜んでいたローカストたちは1人残らずどこかへと連行されていった。
痛みにあえぐ者たちは、連れていかれた先でさらなる苦痛が待っていることを、まだ知るよしもなかった。
集められた施設で、彼らは文字通りグラビティ・チェインを搾り取られ、絶え間ない悲鳴を上げ続けることになるのだった。
●広島潜入作戦
集まったケルベロスたちにドラゴニアンのヘリオライダーが説明し始めたのは、ローカストの新たな作戦だった。
「ノーザンライト・ゴーストセイン(のら魔女・e05320)さんの調査から、彼らが下水道を通じて広島市に侵入し、制圧する作戦を行うことがわかりました」
実行するのは特殊部隊『ストリックラー・キラー』のようだと石田・芹架(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0117)は告げた。
ケルベロスたちの中には、それが先日までグラビティ・チェインに餓えた状態で復活させたローカストを各地に放っていた部隊だと覚えている者がいたかもしれない。
「個別に動いてもケルベロスの皆さんが阻止することに気付いたのでしょう。今回は総力を結集して広島を狙いに来たようです」
指揮官であるイェフーダー自身も広島におもむき、指揮をとっているようだ。
「作戦は過去に行ったものと同じく、コギトエルゴズムに最低限のグラビティ・チェインを注いで枯渇状態で復活させたローカストを暴れさせるというもののようです」
ストリックラー・キラーのローカストたちは飢えたローカストを1体ともなっている他、コギトエルゴズムを多数所持している。
市内に侵入して一般人を虐殺させ、奪取したグラビティ・チェインでさらにコギトエルゴズムから飢餓状態で復活させて戦力を増やしていくのが目論見らしい。
「作戦通りに戦力が増えていけば、おそらく24時間以内に広島市は制圧されます」
下水道内で敵を迎え撃ち、侵入を阻止しなければならない。
敵は市街全域を同時に襲撃するため、分散して行動している。
ケルベロスたちのチームは、それぞれ特殊部隊の隊員と、飢餓状態で連れられているローカストの2体と遭遇することになる。
「枯渇状態のローカストはもちろん、特殊部隊のほうも相当の覚悟で臨んでいるようなので撤退することはないでしょう。片方だけでも侵入すれば大きな被害が出ます」
2体の強敵が相手だが、最善を尽くして欲しいと芹架は言った。
「もしも速やかに撃破できた場合は、可能なら指揮官であるイェフーダーのところに向かってください」
下水道の中心点で作戦の成り行きを確認しているため、多方向から包囲することができれば退路を断って撃破することができるはずだ。
イェフーダーを撃破すれば、ローカストの動きを制限することができる。
それから、芹架はこのチームが交戦する2体について説明を始めた。
「特殊部隊のローカストはナナフシが擬人化した姿をしています」
風景に溶け込むように擬態することができ、態勢を立て直して攻撃の被害を減らすことができる。死角から攻撃して傷を広げてくることもあるようだ。
また、長い手足をさらに伸ばして攻撃することもできる。食らうとプレッシャーを受けて攻撃を鈍らされてしまう。
「連れているのは、茶色い異様な模様の羽を持つ蛾のローカストです」
鱗粉を撒き散らして遠距離まで届く毒の攻撃を行う。また、羽の模様を用いてトラウマを呼び起こすこともできるようだ。いずれも範囲攻撃になる。
アルミニウム生命体で作った長い口吻を突き刺して体力を奪い取攻撃もある。
「枯渇状態のローカストは会話もほとんど成立せず、ただグラビティ・チェインを求めて暴れるだけの存在ですが、特殊部隊の方は知性があります」
つまり、もう1体を利用してケルベロスと戦おうとするということだ。具体的な役割分担は不明だが、前衛には出てこないだろう。
なお、待ち伏せなので下水道内の戦場はケルベロスが選ぶことができる。少し広めの戦いやすい場所に陣取るのがいいだろう。
「これまでの作戦で浪費したはずなのに総力戦ができるだけのグラビティ・チェインがまだ残っていたことは少々意外ですね。なにか裏があるかもしれません」
芹架は最後に付け足すように言った。
「ですが、まずはなにより広島を守ることが第一です。よろしくお願いします」
参加者 | |
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フラジール・ハウライト(仮面屋・e00139) |
巫・縁(魂の亡失者・e01047) |
内牧・ルチル(浅儀・e03643) |
ノーザンライト・ゴーストセイン(のら魔女・e05320) |
ジュリアス・カールスバーグ(山葵の心の牧羊剣士・e15205) |
夜尺・テレジア(偽りの聖女・e21642) |
ザフィリア・ランヴォイア(慄然たる蒼玉・e24400) |
フィーユ・アルプトラオム(悪夢の少女・e27101) |
●暗い下水道にて
広島の地下を走る下水道の中を、ケルベロスたちは移動していた。
十分な明かりのない地下空間を走るのは、ザフィリア・ランヴォイア(慄然たる蒼玉・e24400)の体に固定してある懐中電灯の光だ。
「酷い匂いです事……何とかなりませんの」
フィーユ・アルプトラオム(悪夢の少女・e27101)は不愉快そうな顔をして、ハンカチで鼻を押さえていた。
「なんとかしてやりたいが、どうしようもないな。芳香剤とか持ってきたってどうにもならないだろうし」
巫・縁(魂の亡失者・e01047)が仮面の下から周囲の様子をうかがいながらフィーユに告げる。
動きやすそうな、少し広い空間にたどり着いたところで縁は立ち止まった。
「……分かれ道にもなっていないし、この辺りが待ち伏せるにはよさそうだな」
「そうですね。できれば下水道台帳の写しをもらって、それで戦場を選びたかったところですが」
犬頭の青年、ジュリアス・カールスバーグ(山葵の心の牧羊剣士・e15205)が呟く。
別に提供を断られたわけではない。単に、図面を届けてもらって見て検討するほどの準備時間はなかったというだけの話だ。
「仕方ありませんよ。それより、今はできることをやりましょう。目の前から確実に、ですっ」
内牧・ルチル(浅儀・e03643)が言った。
同じくイヌ科のウェアライダーであるルチルは、表情こそ冷静だったが尻尾はやる気を示すかのように持ち上がっている。
「そうね、確実に……逃がさないし何処にも行かせない。たかが蟲など、どれだけ来ようが殲滅する」
フラジール・ハウライト(仮面屋・e00139)は独り言のようにつぶやく。
ただ、人見知りな彼女のこと、本当はルチルの台詞に相槌を打とうとして失敗したのかもしれない。
「殲滅……しなくてはならないのですね」
哀しげな声を出したのは、夜尺・テレジア(偽りの聖女・e21642)だった。
シスターの黒衣に身を包んだ彼女は、祈りを捧げるときと同じく手を組んでいた。
「虐殺だなんて…一度はローカストとも分かり合えると希望を見出したものですが、もう、ダメなのでしょうか」
敵が姿を見せるはずの方向を、じっと見つめている。
「少なくとも……今から来る連中は無理……。あれはアポロンに対する、狂信者……」
ノーザンライト・ゴーストセイン(のら魔女・e05320)の言葉に、彼女は目を伏せる。
テレジアのように表情豊かではない魔女は、いつものようになにを考えているかわからないぼんやりとした表情のままだ。
ただ、そんな魔女にもわかることがある。
こんな作戦を行う彼らはもはや、ローカストという種の保存すら望んでいない。
「とにかく、絶対に止めるしか無いのです」
力を込めて言うテレジアに、ノーザンライトも小さくうなづいた。
さほどの時間もたたないうちに、前方から2つの足音が聞こえてきた。
ザフィリアの懐中電灯に照らされる2体のローカスト。
「餌場だと思いましたか? 残念。ここは底なし穴。地獄の門番がお相手しましょう」
ジュリアスの声が下水道に反響して響く。
「生憎ですが、お見通しですよ。特殊部隊が露見したらおしまいです」
グレイブの切っ先を、ザフィリアは敵に向ける。
「……見破られていたか。ならば、貴様らも太陽神アポロンに捧げてやろう!」
後方にいる1体が驚いた声を出す。
もう1体は動きを止めることなくケルベロスたちに突っ込んできた。
「やれやれ、大手を振って隠密作戦、矛盾してると思うんですがねえ?」
あきれ声を出しながら、ジュリアスは敵の進路をふさぐべく立ちはだかった。
2体のローカストと8人のケルベロスが激突した。
●特殊部隊を討て
後方から伸びてきたナナフシの腕から、縁はフラジールをかばった。
「く……」
侮れない攻撃力に、仮面の青年は声を漏らす。
更に蛾のローカストが縁を含めた前衛全員に毒を撒き散らす。ジュリアスをオルトロスのアマツがかばったが、他の者たちは皆それを浴びていた。
「コマちゃん、あなたもみんなを守ってあげてくださいね」
テレジアに声をかけられたボクスドラゴンのコマは、自らの主を一度見上げると仕方なさげに動き出す。
「どちらも防衛役の動きではないな」
後方から敵を観察していたザフィリアが、仲間たちへ声をかけた。
「そうですね。話がシンプルになって助かります」
ルチルは答えながら、身に着けた攻性植物に黄金の果実を宿らせる。
「テレジアさん、私は皆さんをまとめて回復します」
「はい、私は後衛に支援をいたしますわ」
頷いたテレジアが、妖精弓をザフィリアに向けた。
ルチルが手にしていた果実が輝きを放ち、前衛の仲間たちに加護を与える。
仲間たちも既に攻撃を開始していた。
「ナナフシの防御を破りたかったが……蛾が邪魔で近づけんな」
「では、私に任せてただきましょう」
縁に代わって、ジュリアスが簒奪者の鎌を放つ。
装甲を鎌が切り裂いたところに、半透明の『御業』が腕を伸ばした。
ノーザンライトの『御業』に鷲掴みにされた敵へ向け、縁もロッドをファミリアに戻して射出する。
さらに遅れて2体の氷河期の精霊が別々に襲いかかった。
先にフラジールの放った精霊をぎりぎりのところでかわしたナナフシだったが、次いで飛んできたザフィリアの精霊は回避できなかった。
「これで、ダメージを与えやすくかな」
フラジールのつぶやきの通り、ナナフシの細長い体にはすでに氷が覆っていた。
仲間たちがナナフシに集中する間に、フィーユは蛾に石化の魔術を仕掛けている。
ケルベロスたちの猛攻の隙をついてローカストたちがさらなる攻撃をくわえてくる。
ナナフシが縁の傷口を切り広げ、蛾は今度はノーザンライトとフィーユに奇妙な羽の紋様を見せつけた。
ルチルは再び黄金の果実を実らせる。
「のーちゃん、気をつけてね。フィーユさんも」
「大丈夫……まだまだ平気。それよりフィーが……」
いかなるトラウマを見せられているかはわからないが、少なくともルチルの親友はいつも通りの様子で返事をした。むしろフィーユを気にしているようだ
「く……よくもノーンを傷つけてくれましたわね」
ルチルとは違う旅団でノーザンライトの仲間だというフィーユも、自分が攻撃を受けたことよりも彼女が攻撃されたことに怒っているようだった。
黄金の果実が輝きを放ち、ノーザンライトとフィーユをむしばもうとするトラウマを消し去った。
ケルベロスたちはまずナナフシを狙う作戦だった。
フィーユは初撃を蛾に与えた後は、仲間と同じくナナフシへと目標を移している。
妨害を重視して行動する彼女の役目は、敵の動きを止めること。
蛾が先刻ノーザンライトを傷つけたことへの怒りは収まっていないが、まずは感情にかられずナナフシを止めねばならない。
敵の攻撃が少しでも止まれば、仲間たちを守って行動している縁や2体のサーヴァントたちが楽になる。
「同じ傭兵団の仲間ですもの。サポートしてさしあげますわ」
ナナフシが伸ばした腕を縁が体で受け止める。
ノーザンライトが氷の槍騎兵を呪符より生み出す。飛んでいく騎兵の陰でフィーユは紅に透ける大鎌で自らの腕に傷をつけた。
「お行儀の悪い子ですね……私が躾けてあげますわよっ♪」
傷口からほとばしる血が真紅の鎖となって騎兵を追った。槍が貫いたすぐ後に、鎖はナナフシの体に絡みつく。
きつく締めあげる鎖に耐え切れず倒れた細長い体を引き寄せて、フィーユはハイヒールの踵で踏み抜いた。
ケルベロスたちの攻撃はナナフシの細い体を削り取っていく。
死角に回り込もうとしたローカストだが、絡みついた鎖が邪魔になって攻撃の機会を逸する。さらなる攻撃を受けた敵は下水道の闇と同じ色に自分の体を塗り替えた。
自分を縛る鎖や氷から逃れようとしているのだ。
ノーザンライトは敵の意図を察してゾディアックソードを構える。
「欠けては満ちる月の力よ、我等に破魔の力を」
ジュリアスも敵に対応して、ドローンに月の力を乗せた。ウサギやカニ、世界中で月の模様とされる様々な形態をとったドローンが仲間たちへ飛ぶ。
女の顔をしたドローンに薬剤を注入されている縁の横をすり抜けて、ノーザンライトは星座の重力を宿した剣を振り上げる。
闇にまぎれようとする敵の動きを見極めて、振り抜いた剣が敵をとらえる。重たい剣を幾度も叩き付け、擬態を打ち砕くと魔女は息を吐いた。
「……ごめん、無駄になった」
「いえいえ、早く解除できるに越したことはありませんよ」
ジュリアスと言葉を交わす間に、ナナフシはさらに仲間たちの攻撃を受けている。
もはや瀕死と見たノーザンライトは蛾のほうにぼんやりとした顔を向けた。
「奴からグラビティチェインを、奪い返せないの?」
蛾のローカストへと問いかける。もしナナフシからチェインを奪って飢えを満たせるならば、正気を取り戻してくれるかもしれないからだ。
だが、期待は応えられなかった。
「チェイン……? よ……こせぇぇっ!」
正気を失ってもなお同族からは奪おうとしないのだとすれば、『ストリックラー・キラー』よりはマシな相手というべきなのだろう。だが、だからこそ……。
(「もう、倒すしかない。気分悪いな……」)
不快な気持ちでかすかに変わった表情に、同じ旅団の仲間は気づいたかもしれない。
ナナフシはもう瀕死の状態だった。
ザフィリアは背中に光の翼を展開した。
ルチルとテレジアが回復し、フィーユが敵を止めているため消耗は少ない……が、その分戦いには時間がかかってしまっている。
テレジアが身に着けているオウガメタルが光り輝くオウガ粒子を放って、ザフィリアの感覚を覚醒させてくれる。
「光の翼は死を感知するだけではありません。私が使えば直接的に死を齎し能う災厄の腕(かいな)足り得るのです!」
ここでナナフシを倒し切るべく、彼女は翼を巨大な光の手に変えた。
逃れようとする動きを読んで鋭く尖った光の指先がナナフシを引き裂き、汚水の中へと叩きつけた。
●飢えた蛾を止めろ
ナナフシが倒れたことを、蛾は気にも留めなかった。
だが、かえりみられないのは自業自得というべきだろう。仲間の死を気にすることさえできぬ状態で蘇らせたのはナナフシなのだ。
「こちらにはまだおかわりがありますのでね。貴方も退いて貰いましょう」
ジュリアスは簒奪者の鎌を振り上げる。
蛾のローカストはジュリアスの言葉に返答を返さなかった。ただ、意味の分からぬ言葉を口から漏らしただけだ。
投じた鎌が回転しながら蛾に襲いかかる。
全身を切り裂いて戻ってきた鎌をジュリアスは犬の手で器用に受け止めた。
ナナフシと同じように氷の技を受けて蛾が凍っていく。
「疾く行け、オウガの拳よ。眼前の敵を打ち貫け!」
鋼の鬼と変化した縁のオウガメタルが、蛾の装甲を貫いて砕く。
蛾は鱗粉をばらまき、あるいは奇妙な紋様の翼を広げて攻撃してくる。
攻撃に集中した敵だけあって範囲攻撃でも侮れない威力だが、縁やアマツ、コマがうまくダメージを分散してしのいでいる。
そして、ケルベロスたちの攻撃はローカストを確実に弱らせていた。
もっとも氷漬けにしたり装甲を砕いて底上げしていても、戦闘は長引いている。
「こっちも余りもたもたしてられないのですがね……」
呟きながら、ジュリアスがファミリアを飛ばす。
テレジアは追い詰められていることすら認識できない蛾に向けて手を組んだ。
雷鳴をまとったザフィリアのグレイブがローカストを貫いている。
よろめく敵のためにテレジアは祈った。
「私は、貴方を救いたいのです……お話を聞いてくださいませんか?」
テレジアの言葉に蛾の動きが鈍る。心なき相手にさえ心を通じさせるという祈りは、餓えた虫にさえ攻撃をためらわせる。
だが通じたように思えたのは一瞬のこと。
ローカストはケルベロスたちに向かって突撃してきた。
縁は狙われたフィーユに代わって、蛾の細長い口吻を体で受け止める。
突き刺さったストローで、血液が吸い出されていく不快な感覚が体を走る。
ルチルが満月に似たエネルギー球を飛ばして、失われた体力をいくらか癒してくれる。
「ありがと、縁……。フィーの血は、わたしだけのものなんだから……」
「喜んでもらえてなによりだ」
フィーユに寄り添うように立つノーザンライトが、片手をあげて『御業』を操る。
鷲掴みにされた蛾を、さらにもう1つの『御業』の手もつかむ。フィーユがノーザンライトに合わせて操ったものだ。
「巫っ! 任せましたわ!」
「縁……抑えているから、きついのお願い」
呼びかけられた縁は剣なき鞘を振り上げる。
「任せろ、今こそ敵を止めてみせる! 一は花弁、百は華、散り逝く前に我が嵐で咲き乱れよ。百華――龍嵐!」
心の中に凶暴な思いが宿っているのは、ルチルのエネルギー球のせいか。
凶気を抑えず鞘でもって蛾を下水道の床に叩きつける。破片とともに血が花のように飛び散り、浮き上がった敵の体をさらに打ち上げて天井にも叩きつけた。
よろめきながらもまだローカストは立ち上がる。
「チェイン……グラビティ……チェインを……」
フラジールはレイピアの切っ先をローカストに向けた。
「そんな姿でもまだ求めるか。だが、貴様が味わうのは、断末魔の苦しみだけだ!」
竜が巻き付いたかのような造形の剣を手に、古代語の呪文を詠唱する。
「冥府の魔狼よ、深淵の眼力で真理に目覚め、鋭き鉤爪で仲間と共に栄光をもぎ取れ!」
自分自身の生命活動を低下させ、絶対零度の氷の剣を具現化する。
貫いた傷口から凍結の呪いが広がり、氷漬けの姿でローカストは息絶えた。
●向かうべき場所
戦力はまだ残っていたが、戦闘にはだいぶ時間がかかってしまっていた。
「くっ……これではイェフーダーの追跡は難しそうですわね」
フィーユが悔しげに言った。
それでもルチルはノーザンライトから順にまず仲間を回復する。
「この間といい、イェフーダーはゲスすぎる。炭にしてやりたかったけど……」
平坦なノーザンライトの声にも、フィーユやルチルは怒りを感じ取ったかもしれない。
「まずはコギトエルゴズムを回収しておきましょう。誰かが悪用してはたまりませんからねえ。鼠やゴキブリからグラビティ得るかもしれませんし」
「そうですね。放置してもいいことはないですから」
倒れたナナフシから、ジュリアスとルチルがコギトエルゴズムを回収する。
「負けたチームがいるかどうかはわかりませんが、救護に回ったほうがいいかもしれませんね」
ザフィリアが言った。
イェフーダーのやり口には誰もが多かれ少なかれ怒りを感じている。
広島に向かう敵は阻むことができたが、すでに始まっているだろう戦いに加われないのは残念だった。
作者:青葉桂都 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2016年9月27日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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