黙示録騎蝗~非道なるモノ

作者:陸野蛍

●平穏を望む者達
 秋風が吹く山深くに、その新しい集落はあった。
 身を潜めて暮らすのは、レギオンレイドに帰る事が出来なくなってしまった、ローカスト達。
 レギオンレイドに帰れなくなった以上、自分達に死が迫っているのは分かっていた。
 それでも……彼等はもう武器を取る気にはなれなかった。
 残された時間、細々とでも仲間達と静かに生き、死と言う瞬間が来るのを待とう。
 この集落に集った、ローカスト達の総意だった。
 だが、そうは問屋……いや、彼等の神がおろさなかった。
「お前等、こんな所に隠れ住んでやがったのか。全ローカストの命はアポロン様の為にある。神を守らず生きていけると思ってんのか?」
 集落に突如現れたのは、コオロギを直立させたようなローカスト。
「あんたは……ストリックラー・キラーの……」
 ローカストの一人が、脅えた様子で震えながら口にする。
「ふん、墜ちてもレギオンレイドの兵士。俺の名前くらいは、知ってるか……。ならば話は早い。お前等のグラビティ・チェイン、アポロン様に捧げてもらうぜ。次の作戦の為に、黙示録騎蝗の為に……その身を捧げやがれ!」
 そう言うと、その『ストリックラー・キラー』の一員『クライケット』は、震えあがるローカスト達を、恐怖と言う鎖で縛り、集落での暮らしの終焉を迎えさせた。
 数刻後、集落に居たローカスト達は全て、とある施設に閉じ込められた。
 そしてその施設から聞こえるのは、ローカースト達が激痛にあえぐ絶叫のみ。
 一人の絶叫が止めば、また他のローカストの叫びがあがる。
 彼等のグラビティ・チェインが尽き果てるまで、この絶叫が止むことは無い……。

●狙われた広島市
「アポロンが続けている『黙示録騎蝗』に新たな動きがあった。すぐに説明を始めるぞ」
 資料を片手にヘリポートに現れると、大淀・雄大(太陽の花のヘリオライダー・en0056)は、そう言って話し始めた。
「ノーザンライト・ゴーストセイン(のら魔女・e05320)の調査によって、ローカスト達が、下水道から侵入して広島市を制圧する大作戦を行おうとしている事が判明した。この作戦は、グラビティ・チェインを枯渇させたローカストを使って事件を起こした、アポロンの懐刀『イェフーダー』が率いる、特殊部隊『ストリックラー・キラー』が行うみたいだ」
 日本各地に現れた、コギトエルコズムから復活した飢えたローカスト達。
 グラビティ・チェインを僅かしか与えられず、グラビティ・チェインだけを求め続けたローカスト達。
 それを影で利用していたのが『ストリックラー・キラー』だ。
「前回の作戦をケルベロスが完全に阻止した事により、個別の襲撃では阻止される事を学習したんだろうな。今回の作戦では、指揮官であるイェフーダーも含めて、ストリックラー・キラーの総力を結集して作戦を決行に移すみたいだ」
 コギトエルコズムから復活したローカスト達は皆、強敵揃いだったが、ケルベロスの迅速な対応が功を奏し、大きな被害が出ることは無かった。
 だからこその、ストリックラー・キラー総出の作戦となったのだろう。
「ストリックラー・キラーのローカストは、多数のコギトエルゴスムを所持しているみたいで、枯渇状態のローカストと共に下水道から市街地に侵入し、人間を虐殺してグラビティ・チェインを奪取、そのグラビティ・チェインを利用して、コギトエルゴスムを新たな枯渇状態のローカストに変えて、戦力をどんどん増やしながら、広島市全域を制圧、数十万人の虐殺を行おうとしている。簡単に言うと、ストリックラー・キラーを止めない限り、ローカストの戦力は増え続け、それに比例して人々の被害も増えていく。……最悪なシナリオだな」
 苦い表情で雄大が言う。
「作戦がこのまま実行されれば、都市制圧までに掛かる時間はおおよそ24時間以内と想定される。今回は、事前に奴らの動きを察知する事ができたから、下水道内で敵を迎え撃つ事が可能だ。ストリックラー・キラーは、市内全域を同時に襲撃する為に分散して行動する為、各チームは、それぞれ『ストリックラー・キラー』のローカストと、枯渇状態のローカストの2体と戦う事になる」
 グラビティ・チェイン効率は悪いが、強力な『枯渇ローカスト』、そして、どんな汚れ仕事も厭わないと言う『ストリックラー・キラー』の一人と同時の戦い、簡単な任務とは言い難い。
「『ストリックラー・キラー』のローカストは、これ以上の失敗は許されないと、相当の覚悟を持って作戦に臨んでるみたいだ。ケルベロスが待ち構えていたとしても、撤退は考えず、ケルベロスを撃破して作戦を意地でも成功させようと挑んで来ると、俺達は見てる」
 アポロンの忠臣だからこそ、作戦の完遂が使命だと思っているのかもしれない。
「強力な敵2体との同時戦闘になるけど、もしみんなが負ければ、多くの広島市民が犠牲になる事になる。心してかかってくれ」
 ローカスト側としても、大掛かりな作戦を取って来ている、こちらもそれ相応の覚悟が無ければ、全てを守ることは出来ないだろう。
「……それとだ、今回、指揮官である『イェフーダー』本人も、この作戦に加わっているみたいなんだ。2体のローカストを速やかに撃破する事が出来たチームは、可能なら、指揮官であるイェフーダーの元に向かって欲しい。イェフーダーは下水道の中心地点で、作戦の成り行きを伺っている。多方向から包囲する様に攻め寄せれば、退路を断って撃破する事が出来ると思う。みんなに無理をして欲しい訳じゃないけど、イェフーダーを撃破できれば、今回の様な作戦を行う手駒がアポロンにはもう居ない筈だから、ローカストの動きをかなり制限する事が出来る。包囲するチームが多いに越したことは無い。可能な範囲で、考えてみて欲しい」
 アポロンが手段を選ばないと言っても、それを実行出来る者が居なければ……イェフーダーを撃破出来れば、アポロンの作戦の幅を大きく狭める事が出来るだろう。
「みんなに撃破を依頼するローカストの説明に移るな。まず、『ストリックラー・キラー』の一員である、コオロギタイプのローカスト、個体名称『クライケット』イェフーダーに忠誠を誓っているけど、性格は残忍で野蛮って感じだな。3種類の音波攻撃を使って、遠くから敵を苦しめて、悦に入るって言う、最低な奴だな」
 敵に近づく事無く、安全圏で敵を苦しめる戦闘スタイル……性格から身に付いたのだとしたら、良い趣味とは思えない。
「もう1体の枯渇ローカストは、蜂タイプのローカストで個体名称『ホービート』飢餓状態にある為、グラビティ・チェインのことしか頭に無く、会話等は無理だと思っていい。だけど、グラビティ・チェイン効率度外視の改造が施されていて、その攻撃力は、ずば抜けている。ランス状の武器での突き攻撃。研ぎ澄まされた刃の様な翅での斬撃。翅を射出カッターとする攻撃。知能が無い訳じゃないけど、欲を満たすことが全てな状態だから、獰猛な獣とでも思った方がいいかもな」
 戦闘域は、2体が通る下水道を予知出来た為、地上に出る前の下水が交差する、広いエリアで待ち構える事が可能とのことだ。
「説明は、以上だ。多くの広島市民の命がかかってる。プレッシャーをかけたい訳じゃないけど、失敗は許されないと思って欲しい。そして、可能なら『イェフーダー』の所まで辿り着いて欲しい。頼むぜ、みんな!」
 雄大は、喝を入れる様にケルベロス達に言った後、手を顎に当てて複雑な顔をする。
「……あのな、ちょっと気になる事があるんだけどさ。今回、コギトエルコズムを復活させる為に使ったグラビティ・チェインって、何処から手に入れたんだろう?」
 雄大が更に言葉を続ける。
「アポロンの計画は今の所、悉く失敗している。グラビティ・チェインの補充が出来てるとは思えないんだ。それどころか枯渇し始めてる筈なんだよ。ほら、この前、阿修羅クワガタさんがダモクレスの拠点『グランネロス』を襲ってグラビティ・タンクを奪っただろう? 彼等もグラビティ・チェインが枯渇し始めたってことだ。そしておそらく、アポロンと阿修羅クワガタさんに、今、繋がりは無いから、彼等からの補給も無いと推測出来る。だとしたら……何か裏がある筈なんだ。その事に関して、『ストリックラー・キラー』が情報を持っているとは限らないけど、調べられたら調べて来て欲しい。……なんだか……」
 予知の出来る少年は、最後に『……嫌な予感がするんだ』と口にした。


参加者
シルフィディア・サザンクロス(この生命尽き果てるまで・e01257)
鳥羽・雅貴(ノラ・e01795)
千手・明子(雷の天稟・e02471)
嵐城・タツマ(ヘルヴァフィスト・e03283)
ルーチェ・プロキオン(魔法少女ぷりずむルーチェ・e04143)
ロア・イクリプス(エンディミオンの鷹・e22851)
橘・火花(火の信徒・e26794)
アリア・ホワイトアイス(氷の魔女・e29756)

■リプレイ

●広島市の地下で
『ピチャンピチャン』と水音が滴る音だけが響く、下水道内。
 8人のケルベロス達は、平和そのものの広島市内から地下に降りると、地下空間でライトに光を灯した。
「……情報の妖精さん、教えてくれた……ここが現在地、ここがワタシ達の相手……中央にイェフーダー」
 地図をライトで照らし、アリア・ホワイトアイス(氷の魔女・e29756)がゆっくりと目的の場所を仲間達に示す。
 その地図を、ルーチェ・プロキオン(魔法少女ぷりずむルーチェ・e04143)が受け取ると、地図上に光るマーカーが現れる。
「私が最短ルートを先導しますね。上手く相手より先に接触場所に着ければ、有利に戦える筈です!」
 きつい臭いのする下水道をルーチェを先頭に、移動するケルベロス達。
「コオロギってどんな風に燃えるのかしら?」
 自らの赤髪の地獄の炎をライト代わりに移動していた、橘・火花(火の信徒・e26794)が不意にポツリと呟いた。
「知らねぇよ。何にしても最初の2体は前哨戦だ。イェフーダーとか言う、クソッタレもこの手でぶちのめしてぇからな」
 火花の疑問にぶっきらぼうに答えると、嵐城・タツマ(ヘルヴァフィスト・e03283)は、ストリックラー・キラーを率いる、カマキリのローカストへ敵意を口にする。
 この地下道に、既に潜伏していると言う、イェフーダー。
 討伐チーム数十チームの最終的な撃破目標は、このリーダーを討ち取る事である。
 どのチームでも構わない……それぞれの撃破目標を素早く討伐出来たチームがイェフーダーを目指す。
 ストリックラー・キラーの精鋭と枯渇ローカストと言う強敵を打ち倒した後に余力が残っていればの話だが……。
「カマキリを燃やすのも楽しそうですね」
 タツマの言葉に、火花は何処か違う観点から感想を述べると、ふわりと笑う。
「非道の権化……イェフーダーか……」
 足を止めず、鳥羽・雅貴(ノラ・e01795)がその名を口にする。
(「仲間を捨て駒にし続ける……虫唾が走る。オレの手で切り捨てられるのなら……」)
 雅貴が、心の中で敵への怒りを高めていると、先頭を行くルーチェの足が止まる。
 戦闘ポイントまで辿りついたのだ。
 ほんの少しの明かりで照らしても、まだ敵の影は見えない。
「敵がまだ来ていないのであれば好都合ですわ。明かりを消して、奇襲を狙えるように致しましょう」
 仲間達に言いつつ、千手・明子(雷の天稟・e02471)は、自らも明かりに蓋をする。
 そして、暗視ゴーグルをかけた、ロア・イクリプス(エンディミオンの鷹・e22851)が、物陰に隠れてローカスト達が来るであろう方角を監視する。
(「やれやれ、それにしても大掛かりな作戦なことで。……毎度の事だがやる気あんな、デウスエクスの奴は……多少はサボれよ、ったく」)
 ロアは、思わず内心で愚痴る。
 ローカストが本星に還る事も出来ず、追い詰められているのは理解出来る。
 だが、アポロンの作戦の進め方は、愚直に感じていた。
 客観的に見て、自分達の寿命を縮めているとしか思えないのだ。
(「雄大が言ってたな。これだけ大掛かりな作戦を発動するのに、アポロン達がそれだけのグラビティ・チェインを所有している訳が無いとか、何とか……探りを入れてみるか……!」)
 ロアがそんな事を考えていた時だ。視界に二つの歪な姿をした人影が入ったのだ。
 仲間達に手だけで合図を送る、ロア。
 距離にして20m。誰かの唾を飲む『ゴクリ』と言う音が、やけにハッキリと耳に響いた。

●勝利の為の奇襲
「さっさと歩け! てめぇだって、グラビティ・チェインが欲しいんだろ? 俺達にこれ以上の失敗は許されねえんだ!」
 直立したコオロギの様なローカスト、クライケットが飢餓で苦しみながらも野獣めいた『グルルルルルル』と言う声だけをあげるローカスト、ホービートに苛立った声をぶつける。
 その時、前を歩くホービートの身体が突然揺らいだ。
「!? どうした!?」
 ホービートは何者かに胸を刃の様な鋭さの蹴りを入れられたのだ。
「あなた達、いい加減この世から出ていってくれません……? 目障りなんですよ……!」
 クライケットが目を凝らすと、暗闇の中にフルフェイスのマスクを被り、フィルムスーツを着た人影、シルフィディア・サザンクロス(この生命尽き果てるまで・e01257)が立っていた。
「もう火を灯していいかな? コオロギが燃える姿、どんなかな? 踊る様に燃えるのかしら?」
 暗闇に支配されていた下水道が、猛る様に燃える炎の力で一気に明るくなる。
 そして、クライケットの体内が突然燃える様に熱くなる。
「グワアア! 何だこれは!? 火が吹き上がりやがる!?」
「やっぱり、虫が燃えるの綺麗ね」
 火花がうっとりした様な、それでいて何も感じていない様な表情でクライケットを見ながら呟く。
「て、てめえら! ケルベロスか! なんで……」
「無駄話をしている暇はねーんだよ。さっさと朽ち果ててもらうぜ。――――オヤスミ」
 声こそ聞こえるが、刃が見えない。
 クライケットの首へ、背中へ、足元へ、あらゆる死角に雅貴の刃が奔る。
「魔法少女、ぷりずむルーチェ! いっきまーす!」
 羽織ったケルベロスコートを脱ぎ捨てると、オレンジを基調とした魔法少女の衣装のルーチェが、しなやかな手の平にオーラを溜めて、クライケットに撃ち出す。
「本当は面倒なんだぜ? それでもな、お前等を放っておく方が後々めんどくさそうだからな」
 流れる様な動きでロアは、クライケットに硬い装甲すらも打ち破る掌底を放つ。
「何もかも食い荒らすその暴食、その所業、地獄で後悔するのね……!!」
 跳び上がると、明子は落下の瞬間にクライケットの胸を、手にした刀で袈裟切りにする。
(「胸騒ぎがする……これ以上、好き勝手させる訳にはいかないわ」)
 胸騒ぎ……明子が感じているものに根拠など無かった。だが、飢餓の苦しみを味わいながらもクライケットに従っている、ホービートを見ていると心がざわつくのだ。
「てめぇらを相手にしてる時間も惜しいんだよ。さっさと終わらせてもらうぜ」
 達人の如き速さで、タツマはクライケットに打撃を与える。
「……うまく不意、付けるたみたい。なら……氷の精霊、私の武器を、導いて」
 アリアが呼びかけた氷の星霊は、アリアの願いを聞くと、様々な氷の武器を、クライケットに降り注ぐ。
「くそが! ケルベロス! てめぇらのグラビティチェインから、奪ってやるよ! あいつらみてぇにな! 喰らい尽くせ、ホービート!」
 クライケットの言葉で、鎖が解けた様にホービートは手にした、ランスをシルフィデイアに向けて、突き刺す。
 その一撃は、シルフィディアのフィルムスーツをかすめただけだったが、何よりも……。
 クライケットが発した言葉。
『あいつらみてぇに』
 その言葉が、ケルベロス達の胸にざわつきを起こした。

●グラビティ・チェインの出所
「くっそ! てめぇら! この音ならどうだ!」
 クライケットの翅音は、前を固めるケルベロス達の再生の力を阻害しようと、聴覚から侵食して来る。
 既に戦闘開始から、4分が経過していた。
 ケルベロス達の優先撃破対象は、クライケットだったが、グラビティ・チェインに飢えたホービートの攻撃も十分な脅威で、未だクライケットを落とせずに居た。
 だがそれでも、ケルベロス達の奇襲が上手くいったことから、クライケットは焦りを感じており、冷静な判断力を失っていた。
 その結果、攻撃は精鋭と言う名に相応しく無い雑なものになっている。
「大丈夫ですか、今、治しますから!」
 ルーチェがその腕を広げれば、仲間を癒し盾となるドローンが空を舞う。
「連携する余裕も無いみてぇだな。何度仕掛けてこようが、テメーらにゃ引導以外何一つ渡さねーよ」
 空をも断ずる、刃を瀕死のホービートに浴びせ、雅貴が言う。
「お前はもうすぐ死ぬ訳だが、さっきの言葉の意味を教えてもらおうか?」
 素早くクライケットに一撃を加え、背後に回ったロアがクライケットに疑問を投げかける。
「なぁ、こんな作戦を行うグラビティ・チェインを何処で手に入れたんだ?」
「……そんなことか? 雑魚の力を奪っただけだよ!」
 クライケットのその言葉に、ロアの瞳が鋭さを増す。
「……まさか、同族殺しとかしてねえよな?」
「同族殺し? そんなんじゃねえよ! アポロン様に命を捧げてもらっただけだよ!」
 それがさも当然のことの様に、クライケットが言い捨てる。
「なんてひどい……なおさらここを通すわけにはいかなくなりました!」
 可愛らしいルーチェの表情にも明らかな怒りと嫌悪の感情が窺える。
「お前気に入ったぜ。……不退転の奴らより殴りがいがあるッて意味でなァ!」
 銀の生命体を拳に宿し、タツマがクライケットを打ちすえれば、クライケットはもう反撃するグラビティ・チェインすら残っていないのか膝を付くが、顔にはいやらしい笑みを湛えている。
「下郎が! グラビティ・チェインを……仲間のグラビティチェインを奪ったと言うの?」
「仲間なら、利用するのが当然だろうが……しかも、あいつらは雑魚だ。仲間でもねえよ!」
 明子の憤りの言葉にもクライケットは、悪意の言葉を返すだけ……。
「むごい真似を……恥を知りなさい!! いえ、あなたは、この手で……死すら生ぬるいですが……墜ちなさい!」
 明子の振り下ろした刀は、竜の幻影を纏い、真っ直ぐにクライケットを切り裂く。
 完全に崩れ落ちたクライケットの、胸ぐらを締め上げるロア。
「仲間を何だと思ってる……言え、他にもまだ、そんな扱いをされそうな奴は居るのか、居るなら何処に居るんだ。話せ!」
「誰が言うかよ……バァーーカ。あいつらに利用価値があるなら、使い続ける……俺の知った事じゃねぇよ……」
 その言葉を最後に、クライケットはもの言わぬ躯になる。
「まだ、蜂さんが居るよ。これも燃やし尽くしちゃわないとね。蜂さんはどんな風に燃えるの?」
 火花が物知らぬ少女の様に首を傾げながら問えば、荒れ狂うホービートの身体が燃え上がる。
「すべては、こいつを消した後です……地獄の苦しみを、死ぬまで味わえ……!」
 両腕の地獄の炎を鋭利な刃に変えて、シルフィディアがホービートを切り裂き、身体の内部に地獄を侵食させる。
 この荒れ狂う猛獣の様なローカストにも死を与えなければ……利用され苦しみ続けるよりも……せめて楽に。
 ケルベロス達は武器を握る手に力を込めた。

●決着の広島市
「……凍らせるのは、大得意」
 氷結の騎士を呼び出し、そのランスでホービートを貫かせ、アリアが呟く。
 それでも、グラビティ・チェインを求めて止まないホービートは、その鋭い翅でタツマを傷つけるが、すぐにルーチェが癒しの魔法の詠唱を始める。
「光よ! 傷つきし我が友を包み、邪悪の牙より護りたまえ! ……ティンクルスフィアー!」
 ルーチェが呼び出した、シャボン玉の様な球体は、タツマを包むと傷を癒し悪しき力からその身を守る力をも与える。
「ンなにグラビティ・チェインが食らいたきゃ存分に食らえ。刀で、叩き込んでやる」
 雷を纏った雅貴の日本刀は、ホービートの脇腹を貫き、串刺しにする。
「地獄に堕ちろ……!」
 流星の軌跡を描きながら、踵落としをホービートの脳天に決めるシルフィディア。
「さっき、燃やしたのに、アリアさんが凍らせちゃった。なら、砕いちゃえばいいよね……氷」
 チェーンソー剣『竜牙動力剣』を派手に鳴らし、火花がホービートを切り刻んで行く。
「『赤日』竜の力を開放しなさい!」
 明子が手にしたハンマーに呼びかけると、呼応する様に『赤日』はドラゴンの力を開放して、ホービートを叩き潰す。
「こいつらは、救えねえ。俺の力も貸してやる。終わりにしてやってくれ」
 そう言って、ロアはタツマに触れると、ヒールグラビティを一気に流し込む。
 タツマは、ロアに一度視線を送ると頷き、自身のグラビティチェインを最大限まで高め一気にホービートとの距離を詰めると拳を振る。
「釣りはいらねぇ、遠慮せずくたばれ!」
 ホービートの鳩尾に入ったタツマの拳は、ホービートの魂まで強引に握り込み、圧縮すると、身体の一か所にグラビティの爆弾を作りだす。
 そして、タツマが拳を引き抜くと、一気にその爆弾は爆発すると、ホービートの身体を四散させた。
 グラビティ・チェインを求め続け、その末にホービートはグラビティ・チェインと共に果てたのだった……。

「こいつら、共食いばっかだな。阿修羅クワガタさんとは大違いだな」
 クライケットの身体を調べながら、雅貴が呟く。
「仲間と思ってないんだろ……何なんだよこいつらは……。これか」
 雅貴の言葉に答えながら、ロアは目的の物をクライケットが腰に付けた特殊な袋から見つける。
 宝石の様な輝きを放ちながらも禍々しいオーラを放つ石『コギトエルコズム』……この中には、広島市に放たれる筈だった、飢えたローカスト達が眠っている筈だ。
 その十数個の石を、地に転がすと、ケルベロス達はそれぞれに武器を構える。
「眠ったまま死なせてあげます……恨むなら、わたくしを恨みなさい」
 明子はそう言うと、一つのコギトエルコズムを刀の切っ先で撃ち砕いた。
 強固なコギトエルコズムも、ケルベロスの力をもってすれば破壊できる。……彼等が決めた、これ以上の悲しみを生まない為の選択。
「もう、イェフーダーとの戦闘は開始されているみたいです。今から行っても間に合いません。私達は、地上に出ましょう」
 ルーチェのアイズフォンに入った通信では、既に数チームがイェフーダーの元で交戦しているとのことで、今からでは何らかの形で決着がついてしまっているだろう。
 交戦をしているチームは、ローカストを倒した後、ローカストの亡骸を無視し、すぐにイェフーダーの元に向かったとのことで、交戦時間以外にもそれらの意味でも出遅れてしまった様だ。
 だが、コギトエルコズムの破壊は、危険なローカストを減らすと言う意味では、最善と言えるだろう。
 武器から手を離したローカストばかりでは、無いのだから。
 彼等はその後、広島市の地上に向かった。
 ……万が一の事を考えてだ。
 だが……。
「火の粉が上がっている所は無いね」
 火花がそう呟く。
「他のチームも全て勝利したみたいですね」
「俺達が、戦ってたってことも知らねえで、地上の奴らは平和な日常ってことか」
 シルフィディアの言葉にタツマが、地面に腰を降ろしながら答える。
「……疲れた。早く帰って、お風呂入りたい」
 アリアもぺたんと座りこむ。
 数分後、彼等の元にイェフーダー撃破の連絡が届いた……。
 ケルベロス達は守り抜いたのだ……この広島の街を、一人の犠牲も出さずに……。
 だが、まだ……黙示録騎蝗は、終わらない……。

作者:陸野蛍 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年9月27日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。