黙示録騎蝗~踏みにじられた命

作者:そうすけ


「喜べ、クズども! お前たちのようなものでも太陽神アポロンさまのお役に立てるのだ」
 空と地の境目に広がる暗く深い森で、暴君の先兵たちによる強制連行が行われていた。
 苦痛と恐怖と、そして憎しみにうねる叫び声が、濃霧のごとく森を飲み込んでいく。
「お前達のグラビティ・チェインは、次の作戦のために必要になる。大義のために、命を賭して殉じよ!」
 土を固めて作った原始的な住居で、息を潜めるようにひっそりと暮らしていた同胞を、特殊部隊『ストリックラー・キラー』たちは容赦なく殴り、蹴りしながら、無理やり家から引きずり出した。
 戦闘力の低いローカストからグラビティ・チェインを搾り取り、そのグラビティ・チェインを利用するためにだ。

 強制連行の先に待つのは拷問死である。
 

 ゼノ・モルス(サキュバスのヘリオライダー・en0206)は頬を滑り落ちる涙を手の甲でぬぐった。
「……ノーザンライト・ゴーストセイン(のら魔女・e05320)さんの調査で、特殊部隊『ストリックラー・キラー』たちが、下水道から侵入して広島市を制圧する大作戦を行おうとしている事が判ったよ」
 非道にも特殊部隊『ストリックラー・キラー』たちは、戦闘力に乏しい同胞たちを殺してグラビティ・チェインを搾取し、コギトエルゴスム化している戦闘力の高い個体を復活させるのに使っているという。
「それも完全復活させず、飢えた状態にしてね。ストリックラー・キラーのローカストは、多数のコギトエルゴスムを持って、復活させた枯渇状態のローカストと共に下水道から市街地に侵入、人間を虐殺してグラビティ・チェインを奪取するつもりなんだ」
 そうやって奪ったグラビティ・チェインをまた利用して、コギトエルゴスムを新たな枯渇状態のローカストに変え、戦力を雪だるま式に増やしながら広島市全域を制圧。最終的に、数十万人規模の虐殺を行おうとしているらしい。
「広島制圧までに掛かる想定時間は24時間以内。でも、今回は、事前に事件を察知する事ができたから、地上に出る前に下水道内で敵を迎え撃つ事ができる……。敵の勢力を分断して個別撃破が狙えるんだ」
 ゼノはまなじりを上げると、いつになく強い声を発した。
「撃破対象となるローカストは2体。まずは『ストリックラー・キラー』のローカストと枯渇状態のローカストを速やかに打ち破ってほしい。そして――」
 眼前に並ぶケルベロスの一人ひとりと、順に目を合わせていく。
「そして、ローカストを速やかに撃破したあとは、指揮官であるイェフーダーの元に向かってほしい。イェフーダーがいなくなれば、もうアポロンに今回のような作戦を行う手駒がいなくなる。あの狂った偽神を追いつめてやろう!」
 ただ、『ストリックラー・キラー』のローカストは、相当の覚悟をもって作戦に挑んでいる。枯渇ローカストにしても、グラビティ・チェイン欲しさにそれこそ死に物狂いで向ってくるだろう。
「もし、みんなが最初の2体の撃破に失敗すれば、広島市民に多大な犠牲が出てしまうよ。だから、最善を尽くしてほしい」
 続いてゼノはチームが担当する2体のローカストについて説明を始めた。
「『ストリックラー・キラー』のローカストはイェフーダーと同じ、カマキリ型で素早いよ。『アルミ注入 』と『アルミニウムシックル』、『アルミニウム鎧化』、それに『破壊音波 』を使ってくる。
 枯渇状態のローカストの見た目はフンコロガシ。力は強いけど、小回りが利かないみたいだよ。なにより、グラビティ・チェインが不足しててまともに考えられないみたい」
 こちらは『ローカストキック』と『ローカストファング』の2種類しか攻撃方法がないが、一撃ごとの破壊力が高いようだ。
「下水道での戦いになるから、明かりを用意して。少し広くなった場所でローカストたちを待ち伏せすることができるから、しっかりと作戦を立てれば、こちらが先制を取って攻撃できるはずだ」
 ヘリオンがブレードを回し始めた。巻き起こった風がケルベロスたちに吹きつける。
「さあ、太陽神アポロンの野望を打ち砕きに行こう!」


参加者
北靈院・雪儺(赫の月雪の華闇の詩・e00292)
リーフ・グランバニア(サザンクロスドラグーン・e00610)
雛祭・やゆよ(ピンキッシュブレイブハート・e03379)
八代・たま(やれば出来るがやらない子・e09176)
長船・影光(英雄惨禍・e14306)
マルコ・ネイス(赤猫・e23667)
漣・颯(義姉を慕うヴァルキュリア・e24596)
黒岩・白(ドワーフの犬のお巡りさん・e28474)

■リプレイ


(「……文字通り、蟲毒が如き様相を呈するようになってきたな」)
 長船・影光(英雄惨禍・e14306)はヘリオライダーから聞かされたことを反芻しながら、しっとりと湿った壁に手を這わせ、狭い下水道の側道を黙々と歩く。
(「どこか憐れでは、あるが……種の存続が懸った闘争である以上、こちらが退けるわけもない」)
 顔を上げても見えるのは、この戦争と同じく分厚い闇だ。このままいけば、ローカストたちは間違いなく行き止まりに突き当たるだろう。種を率いるものが愚かだったばかりに。
 どこかで水が滴り落ちた。
 のしかかってくるような重い空気が解かれて流れ、下水道に潜ったときからケルベロスたちにつきまとっていた圧迫感が消えた。気のせいか、臭いもマシな気がする。
 リーフ・グランバニア(サザンクロスドラグーン・e00610)は、ため込んでいた息を長々と吐きだした。
「ようやく広い空間に行き当たったようですね」
「いまスマホを起動させても大丈夫? 現在地の確認とイントロの画像取りたいんだけど?」
 言いながら、八代・たま(やれば出来るがやらない子・e09176)はすでにスマホを取り出していた。
 マルコ・ネイス(赤猫・e23667)が後ろから、「位置確認は分るが、イントロの画像ってのはなんだ?」と思ったことをそのまま口にした。
「私がナレーター兼カメラマン兼ディレクターになって、作戦の全模様を撮影し、動画サイトで実況をする的な?」
「位置確認だけお願いします。それもできるだけ素早く」
 リーフに撮影を暗に却下され、たまは口を尖らせた。
「これはケルベロスの活動を日本中の皆さんに実際に見て貰うことで身近に感じて貰うためであり、またデウスエクスの襲撃に脅える広島の人々に――」
「その広島の人たちはまだ知らねえんだよ。『ストリックラー・キラー』とアポロンの胸糞悪い作戦を未然に阻止するのが俺たちの役目だ」
 それに撮影しているヒマなんてないぜ、と赤猫に諭されて渋々頷く。
「そうそう。それに、あのアホ神は『アホロン』でいいだわさ。『アポロン』なんて男前な名前で呼びたくないだわさ」
 雛祭・やゆよ(ピンキッシュブレイブハート・e03379)は深い闇の中でしょげる仲間の肩を抱いた。耳に口を寄せ、さりげなく売り込みを図る。
「あとでドキュメンタリー風のやつを作ればいいだわさ。戦闘シーンの曲とか、いろいろ提供してもいいだわさよ?」
「ん……考えておく。じゃあ、まず位置確認っと」
 スマホの液晶画面がパッとついて、下水道内を一瞬だけ照らした。
「僕らの現在地を六時として、一時の方角にひとつ、十一時の方角にももう一つ、分岐口を見つけたっスよ。ここの高さは三メートル、Y字型の水路になっているっス」
 夜目であることが役立ったのか、警察官という職業柄なのか。黒岩・白(ドワーフの犬のお巡りさん・e28474)は、鋭い観察と的確なたとえでこの場を表現した。
「ほかに隠れられそうな場所は見当たらなかったっスね……個人的に下水に潜るのは勘弁願いたいっス」
 影光がひっそりと、声だけを闇に響かせる。
「それは俺もご免こうむりたい。それで……ここで待ち伏せするとして、一時と十一時、どちらかから『ストリックラー・キラー』たちがやってくるだろうか?」
「GPSによると一時の方向に市役所が、十一時の方向に行くと川に突き当たるわ。私たちは駅の近くから下水道に降りてここまで歩いてきたから……」
 リーフがなおも撮影に未練を残すたまの後を引き継いだ。
「十一時の方向からローカストたちがやってくる確率が高いと思います。川の近くから下水道に進入して繁華街を目指す、つまり、少しでも多くのグラビティ・チェインを奪うために、私たちが来た駅か、街の中心地に向かうのでは?」
「なかなか良い見立てだ」
 闇から声をかけてきたのは北靈院・雪儺(赫の月雪の華闇の詩・e00292)だ。湿った厚い空気の層のなかに、限りなく暗く響く声は地獄で作られたものだ。
「虫どもを素早く撃破し、イェフーダーへ肉薄する。すべての方向に人手を割り当てて敵を待つのは愚策。六時側に半分が残り、一時側の分岐路口に半分が隠れよう」
「いいですね」
 軽やかに。漣・颯(義姉を慕うヴァルキュリア・e24596)が雪儺の案に賛成票を投じる。
「では、六時側に残る方が正面から光の不意打ちをかけ、一時側に隠れていた者たちがすかさず背後を取るというのはどうでしょう?」
「その不意打ち役、僕に任せて欲しいっス。夜目のおかげでみんなよりも敵が来るのがよう見えるっスし」
「じゃあ、俺は待ち伏せして後ろからカマキリの野郎をぶっ飛ばすかな。あ、一応、バランスよく分けた方がいいか。俺の独断で割り振るけど、異議があったら言ってくれ」
 マルコはてきぱきと班分けした。
 回復担当のやゆよと颯を組ませて六時側に割り振る。不意打ちの投光役は当然こちら。攻撃手として影光も六時側に割り振った。
 とくに異議がでなかったので、マルコの案はそのまま採用され、残り四人は一時側で隠れて待つことになった。
「でそれでは、今、私にできることをやっていきましょうか……!」
 颯は「寂寞の調べ」を口ずさみ、闇の中を壁伝いに歩き出した仲間たちにエールを送った。
「少し早いですけど、敵に聞かれて警戒されるよりは、と思います」
 すこしだけやゆよのそばから離れると、今度は六時側に残った仲間に向けて歌う。
「しっ! 来たっスよ」
 白は鑑識官が現場で使うよう大きなストロボがついた一眼カメラ――コンバットファインダーをケルベロスコートの内から取り出すと、生臭い風を吹かせる暗渠の口へ向けた。
 

 その瞬間、視界がまばゆい閃光に包まれた。闇の領域が、さく裂する様々な色の光に浸食されて狭まっていく。ほどなく、肌に触れる空気が徐々に熱を帯びていった。
 影光は視力を失ったまま闇雲に突っ込んできたフンコロガシ型のローカストを、手で横に払い流した。光で焼かれた目を第二の腕で庇いながら、罵詈雑言を喚き散らす『ストリックラー・キラー』のカマキリにアームドフォートの主砲を向ける。
「黙れ、クズが」
 オレンジに輝くグラビティ光線が螺旋回転しながら進み、カマキリの脇腹を抉った。
「邪でしかない企み、ここで駆逐させて戴く!!」
 体を折ったカマキリの頭上から、大きく翼を広げたリーフが吠える。手にするは南十字の聖なる騎士槍。
『星を貪る天魔共! グランバニアの勇者を恐れよ! 聖なる南十字を畏れよ!!』
 断罪宣言とともに破滅を司る流星群が降りそそぎ、咎人に十字の御しるしを刻んだ。
 続けて二発。手痛い打撃を喰らったところで、ようやくカマキリは視力を取り戻した。高みより急降下してきた白き竜騎士のケリをかろうじてかわす。
 いや、かわしたと思った、カマキリは左の鎌に激痛が走るのを感じた。
 リーフの飛び足刀が切り落としたのだ。
「散々踏みつけたのだ、逆の立場でも文句はあるまい!?」
「よくも……き、貴様ら! 待ち伏せ不意打ちとは卑怯だぞ!」
 『ストリックラー・キラー』は身を起こすと、激しく羽をこすり合わせて怪音の弾幕を放った。
「卑怯者! 卑怯者! 卑怯者!」
「は~、自分のことを棚にあげてよくいうわね。寝言は寝ていえって言葉、知ってる?」
 たまはスマホを副将軍の印籠宜しくカマキリに向けると、眠気を誘う洗脳電波を放出した。
 ついでにこっそりビデオモードにして、一時的に眠気に負けてアホ面をさらす『ストリックラー・キラー』の絵を取った。あとで編集して動画を作るのだ。
 憤怒の形相をしたマルコの背後に、地獄の炎で生みだした巨大な炎の猫『ビリー』が現れる。
『ニャアアア!!』
 不穏な猫の鳴き声を聞いて、カマキリが背後を振り返る。
『焼きつくせ! ビリー!!!』
 炎の大猫が口をぱっくりと開く。燃えさかる溶岩のごとき火が勢いよく吐き出され、カマキリを焼いた。
「てめえに慈悲はねえ! 死んどけ!!」
 カマキリは慌ててアルミニウム鎧化を試みたが間に合わなかったようだ。焼けただれた体を庇いながらケルベロスたちの追撃をかわし、フンコロガシの元へ向かう。
「く、くそ! おい、いつまで寝ている、この役立たずが! さっさと立て!」
 フンコロガシはのろのろと起き上がった。
 カマキリは必死になってフンコロガシの背後に回り込むと、またボロボロになった羽を震わせた。
 やゆよがバイオレンスギターをかき鳴らして対抗する。
「音勝負なら負けないだわさ!」
 ――が、グラビティを実際に発動させたのは、ピック代りのライトニングロッドの方だった。電気回路による音の変形が甘い痺れを生み出し、三半規管を通じてケルベロスたちの脳を刺激する。
 再生と破壊。生と死。不協和音の重なりが、下水道空間を押し広げ、世界の外側にこぼれ落ちる。
 競り勝ったのは、やゆよだ。怪音で傷ついた仲間たちの体が癒えていく。
 グラビティ・チェインで満たされていくケルベロスたちの体を目の前にして、飢餓ローカストが暴走した。
「グ……グラビ……よこ、せ、グ……グォオオッ!」
 頭を低くして六時方向にある入口へ突っ込んでいく。
「……いま少し。いま少しだけお待ちくださいね。すぐにその苦しみから解放して差し上げますから」
 颯が仲間の前に立ち、フンコロガシの攻撃を阻む。体にぶつかってきた力に逆らわず、体をわずかに捻った。
 勢いを削がれたフンコロガシは下水道の壁に頭をぶつけると、派手に水しぶきを上げて流れの中に体ごと突っ伏した。
「こ、この役立たずが! 盾にもならんとは!」
「お黙りなさい! 私はあなたのように他人を蔑み、命を軽んじる者が許せません」
 颯は選ばれし者の槍を右手一本で構えると、左手に握った斬霊刀を頭上に掲げた。
『我流一刀一槍奥義……くらいなさい! 雪月花!!』
 雪待ちの心で佇む中から一転、月光のごとく輝く翼を広げて突撃する。 咲き乱れる花を唄いながら槍と剣を舞躍らせれば、血が花びらのごとく飛んだ。
「へえ……ちゃんと体に血が流れていたっすね。意外っす」
 おどけた口調ながら、白の視線は冷たかった。カマキリが流す血さえも、罪で穢れきっているような気がする。
「とにかく、お前にかける手間も時間も惜しいっスよ。ここらでさっさとご退場願いたいっスね」
 グラビティ・チェインの鎖を伸ばし、カマキリを口がきけなくなるほどきつく締め上げる。
「雪儺さん、トドメお願いするっス!」
 うむ、とうなずいて、雪儺が頭の上で銀の錫杖――ファミリアロッドをひと回しする。杖に飾られた輪が揺れてぶつかり合い、軽やかな音を立てた。
「一片の血肉も残さぬ。この地球から消えてもらおう!」
 カマキリに向けた杖の先端からまばゆく輝く降魔の矢が無数に放たれる。
「虐殺作戦か……同胞をも犠牲にする形振り構わぬ輩に与える慈悲はない」
 『ストリックラー・キラー』に突き刺さった無数の矢の一つ一つが爆発し、広がって、白熱する巨大な玉となった。中で黒い影がくねりながら砕けていく。
 あとには文字道理、何も残されていなかった。
 

「さて」
 影光は下水にぼんやりつかるフンコロガシへ目を向けた。
「……どの道進むも地獄ならば、もう、休め」
 司令者を失ったいま、飢えで思考能力を失っているローカストはさほど脅威ではないが、放置するわけにはいかなかった。
 激しい蹴りで摩擦をおこし、フンコロガシに向けて炎の塊を飛ばした。
 つづけてリーフが砲撃する。
「弱っている者を叩くのは騎士道に反する行為だが……許せ」
 しかし、カマキリが盾にしようとしていただけあってフンコロガシはなかなか丈夫なようだ。全身を覆う外骨格に目立った傷はついていなかった。
 たまが全身を覆うオウガメタルを右腕に集め、全身全霊を込めた拳の一撃で敵の外骨格を砕く。
「すまねえな……」
 マルコはむき出しになった体にブラックスライムの槍を突き刺した。
 やゆよは対デウスエクス用のウイルスカプセルを投射した。
 回復を阻害する目的ではなく、毒の回りを速め、少しでも苦しむ時間を短くしてやりたいとの一心からだ。
「あんたはそこで死んだカマキリよりもずっと強いだわさ。だから、最後に……本当の自分を取り戻して逝ってほしいだわさ」
「そうっスね。僕も自分と仲間たちがアホロンに何をされたかわからず、ただ利用されたまま死んで欲しくないっス」
 だから……。
『リエラ、力を貸してほしいっス!』
 白はコウテイペンギン・リエラの魂を縛霊手に合体させた。左手のグローブに作り出した氷の弓を持ち、グラビティ・チェインでできたリエラアローをつがえる。
「僕らの願い、届けっス!」
 放たれた矢は毒に苦しむフンコロガシの心臓に突き刺さった。瞬時に血液を凍らせて、毒の効きを一時的に止める。
「グガァァあ?」
「目覚めたか」
 雪儺はファミリアロッドで冷たいコンクリの床を強く突いた。シャクシャク、と飾りが音を鳴らしてフンコロガシの気を引いた。
「貴様は餓えた状態で無理やり起こされたのだ。ただ、グラビティ・チェイン駆り集めるための道具として」
「俺は使い捨てにされたのか?」
 雪儺は黙ってうなずいた。
 フンコロガシが立ち上がる。
「俺は……使い捨ての駒などではない!!」
 雪儺はフンコロガシ渾身のケリをあえて左腕で受けた。苦痛に顔を歪めつつ、地獄の炎を纏わせた杖を繰り出して腹を突く。
「貴様も不運かもしれんが……今は相容れぬ、今はな」
「ぐ……」
 腹を抑えて後ずさったところへ颯が斬霊刀を振り下ろし、トドメを刺した。
「あなたの無念、必ず私たちケルベロスが晴らすと約束いたします」
 

 たまがスマホを起動し、他チームの状況を調べた。
「もう何チームかは『ストリックラー・キラー』たちを倒しちゃったみたい。見て」
 スマホの画面を見ると、広島市の地図の上で光の点がいくつも光っていた。そのうちのいくつかが、ある一点を目指して高速で移動している。
「私たちも急ぐだわさ。でも、その前に……」
 やゆよは仲間たちの傷を癒す。
「飛べる人は飛んでいきましょう! たまさんは動物変化で小さくなって、私が抱きかかえていきます」
 飛べないものはエアシューズで機動性を確保し、狭い下水道を高速で駆けた。
「いまどのへんだ!」
 マルコが地獄の炎を左目で揺らしながら、先頭を行くものに問いかける。
「あとどのぐらいで――」
 暗い闇を穿つ光の点から歓喜の声が聞こえてきた。と、同時に、イフェーダ撃破の報が通信手段を持つすべてのケルベロスに配信された。
「いま一歩、遅かったようだな……」
 影光がつぶやく。
「ええ。そのようですね」
 不思議と悔しさはなかった。なぜなら他のチームからも続々と勝利報告が入ってきたからだ。
 ケルベロスの完全勝利だった。

作者:そうすけ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年9月27日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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