黙示録騎蝗~瑠璃星の煌めき

作者:刑部

 深い森の中、土を盛っただけの簡素な巣らしきものが幾つか点在している。
「ギギッ……」
 小さな鳴声。……そこは息を潜めて暮らすローカストの集落。
 ローカスト・ウォーにより地球に攻め寄せたローカストの中でも、戦闘力に劣る者達が、帰還の望みも無く細々と暮らしていた。
 そんな巣の中の一つ。
 ドガッ! 激しい音と共に朽木で作られたドアが蹴破られ、鮮やかな水色に黒い斑点模様の、ルリボシカミキリのローカストが入ってきた。
「ナンダ一体、ナニをするんだ」
 その部屋に住まうローカストの長らしき、コオロギ型のローカストが上げる抗議の声を無視し、ルリボシカミキリのローカストは、巣の中のローカスト達を一瞥すると、思いっきりコオロギ型のローカストの頬を殴り付け、その体を吹っ飛ばした。
「次の作戦に貴様らのグラビティ・チェインが必要だ。大人しく来てもらおうか……」
 顎を打ち鳴らすカミキリ型ローカスト……特殊部隊『ストリックラー・キラー』の一員『ルリバラス』の言には有無を言わせぬものがあり、巣に居たローカスト達は、運命を呪い己の互いに身を寄せ震えていた。

「ノーザンライトさんの調査で、ローカストらが下水道から侵入して広島市を制圧する作戦を行おうとしとる事が判明したで」
 杠・千尋(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0044)が、今回の作戦について、ノーザンライト・ゴーストセイン(のら魔女・e05320)の調査の成果である事を説明する。
「この作戦は、グラビティ・チェインを枯渇させたローカストを使って事件を起こした、特殊部隊『ストリックラー・キラー』が行うみたいや。
 個別の襲撃やとケルベロスに阻止される事を学習したんか、今回の作戦は指揮官のイェフーダーも含めて『ストリックラー・キラー』の総力を結集して行うみたいやで」
 千尋の説明に神妙に頷くケルベロス達。
「ストリックラー・キラーのローカストは、多数のコギトエルゴスムを持っとるみたいで、グラビティ・チェインが枯渇状態のローカストと共に下水道を経由して市街地に侵入、手近な人間を虐殺してグラビティ・チェインを奪ういよる。
 ほんで、そのグラビティ・チェインを使こうて、コギトエルゴスムを新たな枯渇状態のローカストに変えて、っちゅーのを繰り返して戦力を雪だるま式に増やして広島市全域を制圧。つまり数十万人規模のの虐殺を行おうとしとるみたいや」
 続く千尋の言葉に、ケルベロス達の間にざわめきが広がる。
「都市制圧までに掛かる時間は、24時間以内と想定されとる。
 今回は、事前に敵さんの行動を察知する事が出来たさかい、下水道内で敵を迎え撃つ事ができるで。
 敵は市内全域を同時に襲撃する為に分散行動しとるさかい、各チームは、『ストリックラー・キラー』のローカストと、枯渇状態のローカストの2体と戦う事になると思うわ。
 『ストリックラー・キラー』のローカストは、相当の覚悟で作戦に挑んどるみたいで、ケルベロスが待ち構えとっても、逃走を選ぶ事無く障害を排除し、作戦を遂行する為に最後まで戦い続ける気概を持っとる様や。
 2体のローカストと同時に戦う事になるけど、敗北したら広島市民に多大な犠牲が出る事となるんで、是非とも最善を尽くして阻止したって欲しいんや」
 敵の作戦の概要を説明し続ける千尋。
「2体のローカストを速やかに撃破して余裕があったら、指揮官であるイェフーダーを撃破する為に、奴っこさんの元に向かって欲しいんや。
 イェフーダーは、下水道の中心点で、作戦の成り行きを伺っている様やから、多方向から包囲するように攻め寄せれば、退路を断って撃破する事が出来ると思うんや。
 イェフーダーを撃破したら、今回みたいな作戦を行う手駒が居らん様になるから、ローカストの動きに大きな制限を加える事が出来る筈や」
 千尋の言葉に頷くケルベロス達。

「で、担当してもらうんは、ここからこっちに向って来る『ストリックラー・キラー』ルリボシカミキリ虫型のローカストと、そいつが連れとるクワガタ型の枯渇状態のローカストや。
 カミキリ虫型の方は長い触角を使った絡め取りと強靭な顎の一撃、クワガタ虫型の方は、その角……クワガタっちゅーんかな? それを使った挟み込みとパワーが身上やけど、グラビティ・チェインが枯渇し過ぎて、まともな思考もでけへん状態みたいや。
 ポイントとしてはここが比較的広いみたいで、迂回路も無いみたいやからここで待ち受けるんがえぇと思う。まぁ、身を隠すとことかは無いから奇襲は無理やろうけどな」
 広島市の下水図の描かれた地図のポイント指し、説明を続ける千尋。
「グラビティ・チェインはもう無い筈やけどなぁ、どっから調達しよったんやろう? まぁ、イェフーダーを撃破出来たら、太陽神アポロンも流石に打つ手が無くなるやろうから、頼んだで」
 千尋はそう言って八重歯を見せて笑い、説明を締め括ったのだった。


参加者
シャス・ナジェーナ(紡ぐ翼・e00291)
橘・芍薬(アイアンメイデン・e01125)
七星・さくら(桜花の理・e04235)
山田・ビート(コスプレ刀剣士・e05625)
深緋・ルティエ(紅月を継ぎし銀狼・e10812)
マティアス・エルンスト(レプリフォース第二代団長・e18301)
アデレード・ヴェルンシュタイン(愛と正義の告死天使・e24828)
浜咲・アルメリア(シュクレプワゾン・e27886)

■リプレイ

●下水道
「!? なんだ?」
 水音を響かせ角を曲がったルリボシカミキリ型のローカスト『ルリバラス』は、灯に浮かび上がる人影を見つけ目を凝らす。
「随分派手にやってくれるわね、もうなりふり構ってられないのかしら? 広島市の人には指一本ふれさせないわよ!」
「ああ、ったく悪足掻きしやがって……テメェ等の思い通りになんざさせてたまるか! 地獄の番犬を舐めんじゃねえぞ!」
 スーパーGPSも活用し皆を先導した橘・芍薬(アイアンメイデン・e01125)が、足元に置いた鎚頭を蹴ってハンマーを肩に担ぐと、その隣でばんばんと手の甲で魔導書の表紙を叩いたシャス・ナジェーナ(紡ぐ翼・e00291)も、不機嫌さを隠そうともせず言い放つ。
「ケルベロスどもか! 何故作戦が……」
 シャスの言葉に相対する者の正体を悟ったルリバラスに、芍薬のテレビウム『九十九』がメイド服の裾をつまんでお辞儀すると、
「ギギ……カワク……ヨコセ……」
 ルリバラスの傍らに控えたガルチュイアが、クワガタ状の大顎がガチガチと鳴らす。
「愛と正義と広島の守護天使にして悪に引導を渡す告死天使のアデレード様、参上じゃ! 主らの邪悪な企みなぞお天道様がとうにお見通しじゃ! おとなしく諦めて覚悟せい!」
「そう、お前の進む道はここで行き止まり、お前らがここを抜けることは無い。ここに住む人々に危害を加えようとするお前らに、居場所も未来も無い……あるのは死に場所だけだ」
 くるっと一回転し、光の翼を広げたアデレード・ヴェルンシュタイン(愛と正義の告死天使・e24828)が啖呵を切ると、ボクスドラゴンの『紅蓮』と共に一歩前に出た深緋・ルティエ(紅月を継ぎし銀狼・e10812)も、侮蔑を湛えた藍色の瞳を向け、2本の短刀を逆手に構えて腰を落とす。
「彼等が『定命化完了』の道を選んでくれれば最良だが……」
「些か難しそうな話ですよね」
 黒鉄式追加撮影用デバイスを起動したマティアス・エルンスト(レプリフォース第二代団長・e18301)が、微かな希望を口にするが、首を竦めた山田・ビート(コスプレ刀剣士・e05625)が、嘆息と共に童子切安綱の鯉口を切りそう返す。
「ヨコセ……ヨコセヨコセヨコセ!」
「ま、待てっ! チッ……屍を晒してくれるぞ、ケルベロス供ッ!」
 己の飢餓状態に痺れを切らしたガルチュイアが、ルリバラスの制止を振り切って突っ込み、そうなった以上、このまま押すのが上策と判断したのか、ルリバラスもその咆哮でケルベロス達を威嚇する。
「ずっと一直線に向かって来てくれるなら、こんな楽な事はないんですけどね」
「まったく、無駄に熱いわね。ま、そう言うのも嫌いじゃないけどね。じゃあ『すあま』頼んだわね」
 そう言って七星・さくら(桜花の理・e04235)がLa vierge printaniereを嵌めた手で握る杖頭を向けると、迅雷が迸ってガルチュイアを撃ち、浜咲・アルメリア(シュクレプワゾン・e27886)が放出したオウガ粒子を彼女のウイングキャット『すあま』が羽ばたく清浄の風に乗せ、ルリバラスが咆哮の影響を受けた前衛陣に届け、仲間達は2体のローカストを迎え撃つべく地面を蹴り、その残響が大きな下水管に木霊する。


「グラビ……ヨゴゼェ!」
「ま、気の毒といや気の毒ではあるけどよ。襲われてハイそうですか、と全てくれてやる程お目出度かねえよ」
 下水を跳ね上げて迫るガルチュイアを琥珀色の瞳で見据えたシャスが掌を向けると、彼女を庇う様に前に立つ芍薬の足元から、つむじ風に舞う木の葉が現れ彼女を包む。
「攻撃を受けても勢いを止めないのは流石だけど……」
「動きが単調ならばどうという事はない」
 さくらの放った雷撃をものともせず、そのまま突っ込んで来るガルチュイア。
 その吶喊を轟竜砲を放った芍薬がハンマーの柄で受け止め、マティアスがPhotonenstrahl Generatorから現した光剣に地獄の炎を纏わせ叩き付け勢いを殺す。
 それでも止まらぬ勢いに踏ん張る芍薬の踵が水飛沫を上げて押されるが、九十九が横合いから十徳ナイフ状の凶器を叩き付け、半歩遅れてルティエが狼爪を叩き込む。
「欲しいならケルベロス供を殺して奪え。貴様の力はそんなものか!」
「ガアアァァァ!」
 その後ろ、ビートの攻撃を捌きながらルリバラスが上げた叱咤と威嚇の咆哮。
 それに呼応する様に咆哮し、大顎を振るうガルチュイア。重なる咆哮が耳朶を打ち、ルリバラスの咆哮は不可思議の力をもって前衛陣の動きを縛る。
「咆えるだけの能無しが、何度咆えようが俺が支えて見せるぜ!」
 最後尾に位置するシャスが、直ぐに癒しの雨を降らせ麻痺の効果を打ち消しに掛るが、
「う、わっと! やるねぇ、けど負けないよっ」
 それより早く麻痺の影響もあり、ガルチュイアの大顎を跳ね上げる動きで吹っ飛ばされた芍薬だったが、空中でシャスの雨を受けて回復するとそのまま側壁を蹴ってガルチュイアに斬り掛る。
「俺の背後には誰も行かせはしないんだ。必ず守って見せる。修復支援プログラム、構成……完了。支援領域、展開」
 ガルチュイアの前にアルメリアと共に立ちはだかるマティアスは、不退転の決意をもって前衛に支援領域を展開した。

「ちょこまかと……」
 飛び蹴りを放ち、振るった触角がから逃れる様に跳び退くビートを、忌々しげに睨むルリバラス。その視界の傍には考え無しに突っ込み、ケルベロス達の攻撃を受けるガルチュイアの姿が映り、援護する様に動こうとするが、小指に痛みが走り絡み付く紅い糸がその動きを阻害する。
「……どこにもいっちゃ、だめよ。ずーっと、そこにいて? ね?」
 髪に咲く桜花を揺らし、さくらが蠱惑的に微笑む。
「さっきから鬱陶しい!」
 ガチガチと顎を鳴らしたルリバラスが、苛立ちを込めた咆哮を後衛陣にぶつけるが、咆哮ばかりしている為に命中率が落ちているのか、紅蓮がカバーに入った事もあり、シャスとさくらには影響が及ばず、すあまとビートだけが麻痺を受ける。
「これぐらい大丈夫。なんとかなるさ!」
 動き辛い指を無理やり動かしたビートは、歯を見せて笑いそう言うと、ダークブルースライムを捕食形態に変え、アデレードに大顎を振るうガルチュイアを側面から襲わせる。
「え? 今のが全力? ストリックラー・キラーはローカストの精鋭と聞いてたけど、たいしたことないわね」
「小娘っ……!」
 ぷらぷらと小馬鹿にした様に手を振ったさくらの挑発に、いきり立つルリバラス。
「まーまー落ち着いて。頭に血が上ってると足元を掬われますよ、この様に……」
 その足元に一気に踏み込んだビートが、脛を狙って蹴りを叩き込み、靴下ネコのブローチを躍らせ跳び退さる。
 2人のスナイパーによる連携のとれた攻撃は、的確にルリバラスを足止めしていた。

「ほんと固いわね。いい加減倒れなさいよ」
 蹴った足が思ったより痛かったアルメリアは、すあまの回復を受けながら体に纏うオウガメタルを鋼の鬼に変え、その拳を叩き付けつつガルチュイアに向け愚痴を吐く。
「ギギッ……グラビ……ヨコセ……」
 炎に身を焦がし動きを縛られたガルチュイアは、それでも飢餓状態がそれを忘れさせるのか、唸りながら突っ込みアルメリアを睨み返して大顎を振るうが、
「これだけ喰らってまだそれだけ動くその根性だけは認めてやるのじゃ」
 その横合いから今しがたアルメリアの拳が穿たれたところに、アデレードが地獄の炎を纏ったエクスカリバールを叩き込む。
 マティアスと芍薬もそれに続くと、ガルチュイアを包む炎が更に勢いを増し、下水道内に嫌な匂いを広げる。更に畳み掛ける様に地獄の炎を纏った短い双刃がガルチュイアを裂く。
「紅蓮!」
 斬り抜けた先でその双刃を構え直し、右耳のピアスを揺らしたルティエの声に、彼女のボクスドラゴンの紅蓮が、名の通り紅蓮の炎を吐いてガルチュイアを灼く火勢を強めた。
「ギギギギギギッ……」
 口からも煙を吐き苦しそうに唸ったガルチュイアだったが、不意に身を捩るとアルメイアに向かって吶喊した。
「えっ、あたし? って……」
 完全に不意を突かれたアルメイアはそれでもTrzewiki i Nagolennikiで地面を蹴って跳び退こうとし、紅蓮も守ろうと割って入るが、2人纏めて吹っ飛ばされ、すあまが慌ててアルメリアを追う。
「なかなかの奇策だが、代償は大きいぞ」
 ルティエの声と共に死角から一閃された刃にガルチュイアの体勢を崩す。
 ガルチュイアは倒れそうになるのを片膝をついて堪えたが、ケルベロス達はその隙を逃さず四方から攻撃が集中し、
「主らにも主らの正義があるのじゃろうが、一般人の虐殺なぞ邪悪の極み! 主にくれてやるグラビティ・チェインは一欠けらもないのじゃ。諦めてあの世に行くがよい」
「グ……ギ……ガ……」
 最後は光の粒子となったアデレードに突っ込まれ、ガルチュイアはその体に幾つもの風穴穿たれ崩れ落ちた。


「小娘っ……なにっ!」
「……させない」
 さくらに向かって振るった触角が、割って入ったアルメリアが無表情のままオウガメタルを器用に使って逸らしたのを見て、ルリバラスはガルチュイアの方を振り返る。
 ルリバラスは、地に横たわり煙を上げる黒焦げの物体と、自分に向かって来るケルベロス達の姿を確認し。
「チッ、所詮雑魚は雑魚か、一人も道連れに出来んとは……」
 ガルチュイアの不甲斐なさに舌打ちした。
「仲間に飯も食わせずこき使っておいて結構な物言いじゃのう。心配せんでも直ぐに後を追わせてやるのじゃ」
「危ない!」
 腰に手を当て胸を張り、上から目線で宣言したアデレード。その足元にするすると伸びる触角を見咎めたマティアスがアデレードを突き飛ばすが、入れ代る形で足を絡め取られ、空中に体振り上げられるマティアス。
「くっ……」
 首元で踊るドッグタグが頬に当たるのを無視し、指輪から出した光剣で触角を切断しようとするマティアス。他の仲間も触角を切断しようとするのだが、マティアス自身が振り回されているので、迂闊に手が出せない。
「引き寄せられる時を狙えばいい、触角が1本塞がっているのはむしろ好機」
 発想の転換。それを口にしマティアスの下をくぐる形……正に狼の如き勢いで、ルリバラス本体に襲い掛かるルティエ。
「そうそう。大丈夫! そうなった時にちゃんとすればいいだけで、なんとかなるさ!」
 頷いたビートも強化安全靴で地面を蹴ってルティエに続き、ルティエを先頭に群狼の如く迫るケルベロス達に、
「チッ……烏合の衆が……調子に乗るな!」
 もう一度舌打ちしたルリバラスは、マティアスを解くと威嚇の咆哮を放って跳び退さる。
「さぁ、やられっぱなしって訳にはいかねぇよな? ……開け。お前の眼で捉えろ」
 体を一回転させて着地したマティアスに、シャスが観視の翼を付与し、九十九も応援動画を流す中、
「冥土の土産よ、いけ、さくら。地獄の果てまでぶっ飛べ!」
「邪な企みごと押し潰されてくれてもいいわよ」
 芍薬が放った竜砲弾が、さくらの持つドラゴニックハンマーの槌頭の後ろに当たると同時、そのハンマーがドラゴニック・パワーを噴出しさくらの体が凄まじい勢いでスピンすると、遠心力も加えた強烈な一撃がルリバラスに叩き付けられ、
「グオッ……しまっ……」
 その衝撃に呻くルリバラスは、下げた袋の紐が解け中のコギトエルゴスムが飛び散るのを見て思わず手を伸ばす。
「隙みーっけ。ダメですよ、敵から目を逸らしちゃ。凍える風を刃に纏え! 霊力解放!」
 ビートの一閃がルリバラスが伸ばした手を斬り落とし、
「さっきのお返しだ。つりは要らないぞ」
 思わずその右手を左手で押えた為に空いた左脇腹に、マティアスが強烈な一撃を叩き込む。
「正義の敵、つまり悪とは得てして別の正義じゃ。そんなことはわかっておるが、ここは妾の正義を貫き通させてもらうぞ!」
「ちょっと待って……目が……」
 更にアデレードとさくらが続くが、さくらは先程のスピンで目を回したのか、足取りが覚束ず、
「休んでて……」
 と、さくらの肩に手を置いたアルメリアが、すあまの起こす清浄の風にと共に宙を舞い、アデレードと共に一撃を見舞う。
「くっ……こんな……寄るな、寄るなっ!」
 脇腹を押え、闇雲に触角を振いながら顔を上げたルリバラスの視界が炎に包まれた。
 その紅蓮の吐くブレスと共に左右から芍薬とルティエが迫るが、無軌道に動く触角にルティエが裂かれる。
「あと一息だ。押しきれ!」
 だが直ぐにシャスが禁断の断章を詠唱してその傷を癒して破壊の力を与えると、
「いい加減、大人しくして! よね♪」
 芍薬の重い蹴りがルリバラスの首を曲げ、
「……サヨウナラ」
 ルティエの紫月【黒椿】による刃の一閃が、ルリバラスの腹を大きく裂き、どす黒い内臓が溢れ出る。
「ここまで……か、もう我らの打つ手は……すまぬ……イェフーダー様……」
 ルリバラスは黒こげになったガルチュイアを見て小さく呟き、天……と言っても下水管の天井ではあるが……を見上げてイェフーダーの名を叫んで力尽きたのだった。

「放っておくと下水が大変な事になるかもしれないしね」
 さくらが周囲を警戒しつつ破損個所にヒールを施す中、
「待って、今 他の班に連絡してる」
「……敵を逃した部隊は無い様だな」
 芍薬とマティアスがアイズフォンを用い、同じ様に下水道内で戦う他班のケルベロス達や、ヘリオンで情報収集にあたっているヘリオライダー達と連絡をとり、今のところ討ち漏らしたローカストが居ない事が分かった。
「もう一つあった」
「全部でいくつ持ってたのかな? なるべく回収したいわ」
 汚水の中から拾い上げたコギトエルゴスムを、ルティエから受け取ったアルメイアは、そう言って足元に目を凝らす。
「市民が無事ならイェフーダーを狙うのじゃ」
「そうですね。遅れても他の班の支援ぐらいできるはずです」
 下水を天光のランプで照らしていたアデレードが、コギトエルゴスムはあらかた回収できたと判断し声を上げると、ビートがそれに賛同する。
 ヒールとコギトエルゴスムの回収で時間をとってしまったが、ビートの言う通り他の仲間を支援する為、移動を開始する。
「早くぶっとばして外の空気が吸いたいもんだ……」
 鮮やかな薔薇色の髪を躍らせて最後尾に続くシャスは、僅かに顔を向けいつも傍らに居るアフリカオオコノハズクの姿がない事に、もう一度溜息をつき仲間の後を追うのだった。

作者:刑部 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年9月27日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。