黙示録騎蝗~暴虐の果て

作者:秋月諒

●ストリックラー・キラーの暴虐
 深い森の奥、土を固めて作ったような場所があった。それは原始的な住居でありーー足音ひとつ、殺すように息を潜め暮らすローカストたちの集落であった。静かに、ただただ生き、住まうだけの彼らの元に『それ』はやってきた。
「俺に二度も言わせるな」
 蝶の羽が散る。
 腕を引き、通りへと投げ捨てられた蝶のローカストがひくひくと震えーーやがて気絶する。それに、は、と息を吐いた者こそが来訪者ーー『ストリックラー・キラー』のローカストであった。鋼のような色彩の身に、鋭いカマキリの鎌を持ったローカストは何故を紡ぐ集落のローカストたちを殴り伏せると崩れ落ちたその腕を踏みつけながら言った。
「いいか。俺に二度も言わせるなと言っただろう? お前達のグラビティ・チェインは、次の作戦のために必要になる」
 その意味くらい、お前達の愚かな身でも分かるだろう。
「俺からいうことはひとつだ。役に立て弱者。黙示録騎蝗のために、その身を捧げろ」
「ーー!」
 それはひどく簡潔に集落へ死を告げていた。
 崩れ落ちた者が腕をひかれる。足を引きずられる。欠け落ちた羽が、燐光がずるり、と少しばかり線をひきーー消えた。

 終焉の悲鳴が響く。
「グァアアアアア……ッァ、ア」
 連れてこられたローカスト達を集めた施設では、グラビティ・チェインを搾り取られる激痛に耐える悲鳴が、上がり続けていた。

●暴虐の果て
「皆様、お集まりいただきありがとうございます」
 レイリ・フォルティカロ(天藍のヘリオライダー・en0114)はヘリポートに集まったケルベロスをまっすぐに見てそう言った。
「特殊部隊『ストリックラー・キラー』の次の動きが判明いたしました」
 ノーザンライト・ゴーストセイン(のら魔女・e05320)の調査により、ローカスト達が、下水道から侵入して広島市を制圧する大作戦を行おうとしている事が判明したのだ。
「作戦を行うのは、グラビティ・チェインを枯渇させたローカストを使って事件を起こした、特殊部隊『ストリックラー・キラー』」
 既に先の作戦で起きた事件で、戦ったことがある方もいるかもしれません。
 レイリはそう言って、手元の端末から顔を上げる。
「個別の襲撃ではケルベロスに阻止される事を学習した、ということでしょう。今回の作戦では、指揮官であるイェフーダーも含めて、ストリックラー・キラーの総力を結集しているようです」
 ストリックラー・キラーのローカストは、多数のコギトエルゴスムを所持しているようだ。
 枯渇状態のローカストと共に下水道から市街地に侵入し、人間を虐殺してグラビティ・チェインを奪取、そのグラビティ・チェインを利用していく算段だ。
「コギトエルゴスムを新たな枯渇状態のローカストに変えて、戦力を雪だるま式に増やしつつ、広島市全域を制圧、数十万人の虐殺を行おうとしているようです」
 そこまで言うと、レイリはひとつ息を吸う。
「この作戦が実行されれば、都市制圧までに掛る時間は24時間以内と想定されています」
 ですが、とレイリはケルベロス達を見た。
「今回は事前に、情報をつかむことができました。彼らの動き、利用させていただきます」
 相手を、下水道内で迎え撃つのだ。

「敵は市内全域を同時に襲撃するために分散して行動することが分かっています。こちらは各チームは、『ストリックラー・キラー』のローカストと、枯渇状態のローカストの2体と戦う事になります」
 『ストリックラー・キラー』のローカストは、相当の覚悟をもって作戦に挑んでいるようだ。ケルベロスが待ち構えていたとしても、逃げる事無く、ケルベロスを撃退して作戦を遂行する為に最後まで戦い続けるでしょう、とレイリは言った。
「枯渇状態のローカストは、グラビティ・チェインの枯渇によりまともな思考もできない状態となっています」
 こちらもまず逃げ出すようなことは無いだろう。
 求めるのはグラビティ・チェイン。
「ーー2体のローカストと同時に戦うことになります。厳しい戦いとなるかと思いますが、敗北すれば広島市民に多大な犠牲が出る事となります」
 だから、とレイリは顔をあげて言った。
「どうか、最善を」
 叶うならばーー勝利を。
「……それと、2体のローカストを速やかに撃破する事ができたチームには、可能ならば、指揮官であるイェフーダーの元に向かって頂きたいと思います」
 イェフーダーは下水道の中心点で、作戦の成り行きを伺っているようなので、多方向から包囲するように攻め寄せれば、退路を断って撃破する事ができるだろう。
「イェフーダーを撃破できれば、今回のような作戦を行う手駒がいなくなります。ローカストの動きを制限する事になるかと」
 だが、まずは目の前の相手ーー2体をローカストを倒すことだ。

「皆様が戦っていただく敵についての情報です。相手はストリックラー・キラーのローカスト一体と、枯渇状態の蝶のローカスト一体」
 ストリックラー・キラーのローカストは、鋼のような色彩の動きの素早いカマキリのローカストだ。その攻撃にはパラライズが付き纏う。
「鋭い刃を有し、時に真空の刃さえ放ちます」
 枯渇状態のローカストは、ルビーのような赤い羽を持った蝶のローカストだ。派手な外見で下水道で見れば目立つだろう。
「炎の鱗粉の他、近距離では鋭い爪で相手を切り裂く攻撃を持ちます」
 強力だが、燃費が悪い個体だ。
 グラビティ・チェインの枯渇により、まともな思考もできない状態となっています。
「戦場についてですが、下水道の中となります。水は足首ほど。少し広くなった場所で、相手を迎え撃つこととなります」
 下水道は真っ直ぐに、長い。
 真正面から敵を迎え撃つこととなるだろう。

「随分と、長くなってしまいました。皆様、最後までお聴きいただきありがとうございました」
 レイリは真っ直ぐにケルベロス達を見た。
「太陽神アポロンのこの作戦、成功させるわけにはいきません」
 作戦に必要なグラビティ・チェインをどうやって手に入れたのかも分かっていないのだ。
「それでも、まずはーー迎え撃ちましょう。彼らの思う通りにさせないために」
 厳しい戦いになることは分かっている。けれど、とレイリは顔をあげた。
「皆様を信じています。勝利を。それでいてちゃーんと帰ってきてください」
 無茶は承知でそう言って、では、とレイリは息を吸う。
「行きましょう。皆様、幸運を」


参加者
八蘇上・瀬理(家族の為に猛る虎・e00484)
モモ・ライジング(鎧竜騎兵・e01721)
アベル・ウォークライ(ブラックドラゴン・e04735)
カルナ・ロッシュ(彷徨える霧雨・e05112)
エアーデ・サザンクロス(自然と南十字の加護を受けし者・e06724)
薬師・怜奈(薬と魔法と呪符が融合・e23154)
朝霞・結(紡ぎ結び続く縁・e25547)

■リプレイ

●暴虐の果て
 足首までの水が、静かに下水道の中を流れていた。巨大、とまではいか無いが、天井も高く、幅もある。
(「こないだ地元球団が久しぶりに優勝したんやろ? そんな幸せムードぶち壊すような真似させるかいな。絶対阻止すんで!」)
 顔をあげたのは八蘇上・瀬理(家族の為に猛る虎・e00484)であった。薄暗い下水道の中も、持ち込んだ照明のお陰で明るい。周りにランタンを複数転がしたところで、薬師・怜奈(薬と魔法と呪符が融合・e23154)は顔をあげる。
 音が、聞こえたのだ。
「……来ますわ」
 下水道に入る折に、最後に蓋は怜奈が閉めた。一般人が入ってくることは無いこの状況——やってくるのは敵のみ。
「……ほう?」
 しゃがれた声がケルベロス達の耳に届く。
「これは驚いたな。俺の邪魔をする奴がいるとは」
 薄闇の中から、その身を晒すように「それ」は現れた。鋼のような色彩を身に纏うカマキリのストリックラー・キラーのローカストだ。
「ケルベロス」
 ストリックラー・キラーの後ろ、うめき声を零しながら赤い羽を持つ個体が姿を見せる。
「下水道から侵入とは……まさに虫そのものね?いえ、虫と言うより害虫そのものかしら?」
 エアーデ・サザンクロス(自然と南十字の加護を受けし者・e06724)の言葉に、ストリックラー・キラーは、は、と笑った。
「その害に、これから喰らい荒らされるのが貴様らよ。ケルベロス」
 その言葉に、空気が変わる。向けられた瞳が金色に変わるのをアベル・ウォークライ(ブラックドラゴン・e04735)は見る。
(「格上の相手の連戦ですか……。厳しい戦いですが頑張りましょう」)
 静かに、怜奈が息を吸う。
 枯渇状態のローカストのうめき声が耳に届く。仲間を枯渇させて使役するその姿に、朝霞・結(紡ぎ結び続く縁・e25547)はきゅ、と唇を結んだ。
「ホント、嫌な戦い方……っていうか、戦わせ方。ローカスト流なのかイェフーダー流なのか判らないけど」
 終わらせるよ。
 結の言葉に、ボクスドラゴンのハコも青い瞳をまっすぐに敵へと向ける。
「自分に出来ることを、やれるだけやる。ベストを尽くしましょう」
 腰の刃に手を添え、ローザマリア・クライツァール(双裁劒姫・e02948)がそう言えば、は、と嗄れた声が戦場に響いた。
「つまり、お前達は俺を倒す気か。は、面白い」
 真っ直ぐにストリックラー・キラーのローカストはこちらを見る。
「今すぐ退け。俺の邪魔をするな」
 その言葉を合図とするように、向けられる殺意が、敵意が膨れ上がる。
「疾く、散り果てろ」
 瞬間、身を低めたストリックラー・キラーが下水道の床を蹴った。

●ストリックラー・キラー
 黒鉄のカマキリの刃を表に、ストリックラー・キラーは一気にケルベロス達の間合いへと踏み込んで来る。
「——っと」
 ザン、と振り上げるローカストの刃がカルナ・ロッシュ(彷徨える霧雨・e05112)の腕を割いた。斬撃と同時に、熱と痛みが全身に伝わる。同時に、感じた痺れはパラライズだろう。舞うように、前衛陣を切り裂いて行けば、ストリックラー・キラーの後方、枯渇状態のローカストがその羽を広げた。
「鱗粉ですわ」
 声をあげた怜奈の前、炎は一気に前衛陣に広がった。上がる炎の中、そのまま一気に距離を詰めるように枯渇状態のローカストが足を前に向ける。そこに、割って入るように踏み込んだのはアベルだ。
 痛みは、ある。熱も、痺れもあるが今すぐに膝を折るような痛みではない。
「貴様の刃とは鍛え方が違う!」
 踏み込みと同時に、回転させる大鎌を向けた先はーーストリックラー・キラーだ。
「——ック、ハハ」
 斬撃に、僅かに身を揺らしながら、ストリックラー・キラーは吠えた。その声を耳に、瀬理は黄金の果実をその掌にのせる。
「さぁ、害虫駆除の時間や」
 淡く溢れる光が齎すは耐性。その力を受け取り、カルナは古代語の詠唱と共に、魔法の光を放つ。——だが、力は、飛ぶように地を蹴るストリックラー・キラーに交わされる。
「さすがに早い、と見るべきでしょうか」
 命中率はそう低くない攻撃だ。は、と落ちる敵の笑みが聞こえる。——だが、一撃、交わした相手の視線がこちらに向いているのであればーー次の一撃、気がつくまで間がある。
「そこね」
「——!」
 告げる声と、着弾は同時であった。ローザマリアの放った時空を凍結する一撃がストリックラー・キラーの胴を撃ったのだ。
「守ることは奪うこととコインの裏表。だから、アタシはあんた達の命を奪う。此処に住む人々を守る為に」
 一撃に、僅かにローカストは距離を取り直す。た、と軽く後ろに飛べば、庇うように前に出て見せたのは枯渇状態のローカストだ。
「せ、寄こせ……」
 ゆら、と身を揺らしーーそのまま踏み込もうとする相手に、怜奈が一撃を放つ。未だ相手のポジションは掴みきれてはいないが、現状の皆の優先する攻撃対象はストリックラー・キラーだ。ならば、自分達が相手をするのはこの枯渇状態のローカスト。静かに頷いたモモ・ライジング(鎧竜騎兵・e01721)が前衛へとヒールドローンを展開し、怜奈の前に立つ。
「効率良く参りましょうか」
 告げる、声を耳にエアーデはその手からドラゴンの幻影を放った。炎が戦場に届く。舌を打ったストリックラー・キラーを視界に結はく、と顔をあげた。
「ハコ、ディフェンダーをお願い」
 白い体躯を空に滑らせ、ハコは青の瞳は真っ直ぐに敵を見据えることで結に応えた。吐き出されるは、竜の炎。熱が、ストリックラー・キラーを焼くその中で結は自らのグラビティを翡翠色の風に変える。
「穢れ祓う翅、風となって、そこに」
 紡ぐ声と共に、届くは癒しの風。頬を撫で、髪を揺らして行けば纏う炎も痺れも全て払いーー行く。
「ッチ、邪魔をするなと言っただろう」
 ストリックラー・キラーの視線が、こちらを向く。睨めつけるそれに、けれど結は顔をあげ、言った。
「悪いけど、意地があるの。私にも、皆にも……」
 この地に来た。こうして戦場に立った時から譲れないものがある。
「だから、倒れる訳にはいかないし、誰一人、倒れさせたりしない」
 見据え、少女は告げる。
 力強いその声に、応えるようにケルベロス達は地を蹴った。上がる水飛沫さえ己が武器とするように。

●暗殺と正道
 戦場は加速する。駆け抜ける刃と嘲笑に、己が一撃を届け此の地を守り抜く為に。
「共食いをも辞さないとは、流石にちょっと引きます。散り際を弁えるのも必要だと思いますよ」
 次の瞬間、カルナの刻み込んだ痛烈な一撃がストリックラー・キラーの腕を切り裂いた。
「——ッハ」
 ぐら、と一瞬身を揺らし、ぶん、と暴れるように振り上げられた刃をカルナは舞うように避ける。足を引き、軽く反らせばその先で見えるのは枯渇だ。戦場に零すは炎の鱗粉。行き先はーーストリックラー・キラー。回復だ。
「は、いいぜ」
 ぐん、と顔をあげたストリックラー・キラーが刃を手に地を蹴る。変わらぬ、速さの中、だが氷結した体はそのままだ。そこから導き出されるものは一つ。
「メディックではない。その上で、あの動きは……」
 エアーデの一撃に対し、枯渇が庇いに動く。ギン、と一撃を防ぎ切れば答えは、出た。
「決まりね」
 ローザマリアが手にドラゴンの幻影を召喚しながら告げる。えぇ、と怜奈は頷いた。
「キラーはジャマー。枯渇はディフェンダーですわ」
 その事実が判明した今自分達が牽制する相手も決まりだ。ぐん、と跳ねるように頭をあげた枯渇が、ストリックラー・キラーの後ろへ戻ろうとしたそこに、アベルが割り込む。一瞬、足が止まったそこに怜奈とモモが動けば、牽制の図は出来上がる。
「合流させない気か。面白い」
 それで試してみるがいい。
「俺を、殺せるか」
 ストリックラー・キラーの言葉に、アベルは踏み込みで応える。真正面から、見せるは竜の爪。
「貴様らのやり方を認めるわけにはいかない!」
 両手の爪を駆使し、十時に引き裂くようにその腕を振るった。薙ぎ払う腕に、鈍色の欠片が付く。水の中、落ちれば衝撃に蹈鞴を踏んだローカストが、息を吐く。
「散れ、ケルベロス……!」
 跳ねる水と、火花が地下の戦場にはあった。照らされた薄闇にも目が慣れれば、水滴さえ避けて飛び、ケルベロス達はその間合いを詰めて行く。ストリックラー・キラーの動きは、相変わらず素早い。——だが。
「こんなもんでうちが倒せる思うなぁっっ!」
 瀬理が吠える。振り下ろす鎌に、深く胴を切り裂かれながらも、ぐん、と顔をあげる。
(「見切るんや……!敵の動き、脚捌き、狙う場所、何一つ見逃すな……!」)
 此処に、此の戦場に来たのは勝つ為だ。勝ってこの町を守り抜く為。傷も、痛みも承知の上で此処に来た。あとはただ、一撃——確かに、届かせる為に。
「回復するよ……!」
 結の声が響く。ぴん、と顔をあげた枯渇がその瞳で結を捕らえる。
「あぁ。散らせ」
 応えるようにストリックラー・キラーが告げる。ぶだり、と枯渇はその羽を広げーーだが、炎の鱗粉が舞うよりも早くその羽を雷光が撃ち抜いた。
「アナタの相手は私達ですわ。彼方には行かせませんわ」
 怜奈だ。
「グ、ァア……ッ!」
 ぐん、と顔をあげたそこに、モモがアームドフォートの主砲を叩きこむ。命中力も、黄金の弾丸によって威力も既に上がった一撃だ。渦巻き状に、ローカストの胴に傷跡が残れば、ストリックラー・キラーが舌を打つ。
「ッチ、役立たずが。だったら……!」
「邪魔をするって話?」
 た、と地を蹴ったストリックラー・キラーの声を拾い上げたのはエアーデだった。放つ、一撃は敵を喰らうオーラの弾丸。
「とにかく、こんなところでお前達と遊んでる暇はないの。先に行かせてもらうわ!」
 一撃が、ローカストの腕を裂いた。鋼色の破片がこぼれ落ち、舌を打つ敵を正面に、結は届く力を完成させる。
「回復するよ……!」
 練り上げた気力を瀬理に届ける。後衛への回復をローザマリアが告げる。広がる癒しの中、熱を帯びる戦場を結は見た。傷が多いのは事実だ。制約は、重ねた耐性と癒しで払った。相手の動きは素早いがーーだがその分、一回一回の攻撃で重ねた氷と炎があの鈍色の体を焼いている。
(「それに……あの動きに、ついていけてる」)
 最初こそ、振り回され躱されることもあったがーー今はついていけているのだ。傷は受けるが、それは相手とて同じ。刻み込み、叩き込み、時に鍔迫り合いになりながらも、相手の庇う刃を払うようにしてケルベロス達は一撃を叩き込み続けた。
「ハ、散り果てろ。ケルベロス……!」
 その咆哮と共にストリックラー・キラーは地を蹴るーー筈だった。
「な……! 足、が」
 ぐらり、とローカストは耐性を崩す。石化した足が、その素早い踏み込みを崩したのだ。
「もう終わりにしましょう。沈みなさい、永遠に」
 告げるカルナの手から竜の幻影が飛び立つ。放つは炎。炎熱の中、ローザマリアは腰の刀に手を添える。
 次の瞬間、斬撃が生まれた。それは神速にも達する劒閃。生じた真空波は、たとえ間合いの外にあるものさえもーー斬り刻む。
「が……ッァ、何処か、ら」
 衝撃に、ローカストがその身を大きく揺らす。両手の斬霊刀を鞘に収め、構えを解きながらローザマリアは言った。
「特殊部隊ってのはね、秘密裏に動いてこそ、その真価を発揮するものよ。事が露見した特殊部隊は、倒されるしかないってこと。訓練が足りなかったみたいね」
 ひゅ、と息を飲んだストリックラー・キラーの頭上に影が落ちる。は、と顔をあげたローカストにアベルは告げた。
「遅いな」
 頭上で大鎌を振り回し、紡ぐは来訪の言の葉。
「英霊よ、二つの魂に真の裁きを!」
 解放されしは大鎌に宿る思念。解き放たれた霊たちが一斉にストリックラー・キラーへと襲い掛かった。
「ぁ、違う……俺、は。此のような場所、で、し……」
 腕が、胴が石化し刃を握る腕がゴウン、と地に落ちる。それを合図とするように、ストリックラー・キラーは下水道に崩れ落ちた。
 残すは、枯渇状態のローカスト一体のみ。牽制で抑え込まれていたローカストにケルベロス達は一斉に攻撃を叩き込んだ。
「うちがついとる!さぁ行くでぇーっ!」
 瀬理の鼓舞が響く中、エアーデは己を守護する南十字の力を、輝く光へと変えーー放つ。
「白銀の十字よ。その聖なる光に基づき、審判を下せ」
「グァ……ッ」
 寄こせ、と吠えるローカストの腕を、モモは避ける。身を逸らし、そのまま勢い良く回し蹴りを叩き込んだ。
「——ガ」
 その蹴りは暴風を生む。伸された爪は届かぬまま、モモは後ろから届く雷を見た。
「終わりですね。次の予約があるので失礼しますわ」
 地下の空気が震える。放たれた一撃は真っ直ぐにローカストを撃ち抜いた。

●暗夜の果てに
 荒い息が下水道に落ちた。さすがに疲労は大きい。何とか予定通りの体力は維持できてはいるがーー厳しかったのは事実だ。
「お疲れ様でした、だよ」
 言いながら、結は回復の準備を始める。幸い、戦闘不能者は出ていない。
「これは……コギトエルゴスム?」
 そんな中でカルナが見つけたのは、敵が作戦用に持ち歩いていたコギトエルゴスムのようだった。数は一。だが袋の雰囲気を見る限り一つではないようだ。他にあるならば、探すべきだろう。少なくとも放置はできない。3つ目が見つかった時点でそう決めたケルベロス達は下水道とストリックラー・キラーの周辺の捜索を始めていた。
 そうして、集まった数はーー10。
 10個のコギトエルゴスムがケルベロス達の前にあった。
「結構な数ですね」
 カルナは呟く。ローカスト達がやろうとしている作戦を思えば不思議は無いがーー多い。回収できたのは幸いだろう。
「あちらの手に渡ることは、これで無いな」
 アベルはそう言って下水道の奥を見た。その先に、イフェーダはいるかもしれない。だが。
「今からの参戦は難しいだろうな」
 アベルは静かにそう言った。回収したコギトエルゴスムのこともある。
「えぇ。上に、地上にでるべきね」
 被害が出た時の誘導や避難指示をする者も必要だ。
 モモの言葉に、頷いてケルベロス達は地上を目指した。駆け抜けて行けば、涼しい風が一行を出迎える。
「被害も……特に目立ったものは無いかしら?」
 モモは周囲を見渡す。現状、被害が無いということは他のチームも無事にストリックラー・キラーに勝利した、ということだろう。念のため地上と空に別れ、動き出したケルベロス達の耳に短い通知音が届く。
「——! 連絡が」
 来たと、カルナが声をあげた。その内容は決戦に向かったケルベロス達からの勝利の連絡。イェフーダー撃破の声だった。
「勝ったな」
 誰ともなくそんな声が落ちる。
 返す言葉と頷きの中、ケルベロス達は町を見た。守りきった平穏が、確かにそこにあった。

作者:秋月諒 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年9月27日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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