北の地で吠えし狐

作者:なちゅい

●傀儡と成り果てた獣人
 北海道、釧路湿原。
 その奥地に、狼を思わせるフードを被り、同様のマントを羽織った人影が立っていた。
 フードから出る長い白髪。アイヌ風の衣装を纏ったその女性は、怪魚型の死神を従えている。
 彼女の名は、テイネコロカムイ。「湿地の魔神」と呼ばれることがある。
「そろそろ頃合ね、あなたに働いてもらうわ。市街地に向かい、暴れてきなさい」
 そして、テイネコロカムイは大きな人影へと声をかける。2本足で歩いてはいるが、頭にはとがった耳、そして、太く長い尻尾を後方からは垂らしている。それは、狐の獣人……ウェアライダーに違いない。
 綺麗な金色の毛に包まれた獣人。だが、変異強化された影響か、おそらくは整えられていたはずの毛並みはひどく乱れ、瘴気を失っていて焦点がおぼつかない。
「オオオォォゥゥゥゥ」
 そのウェアライダーは、空を見据えて高らかに吠えていた。
 ――その数刻後。
 ウェアライダーは怪魚型の死神と共に、南にある釧路の街目指して疾走していく。
「怪魚、死神だ……!」
「ウェアライダーもいるぞ、逃げろ!!」
 釧路の人々はその接近に恐怖し、逃げ惑い始める。
 しかし、ウェアライダーは人々を逃がすことなく回りこむ。そして、その太い尻尾を人々へと叩きつけて次々に地面へと沈めていく。
「オオオォォゥゥゥゥ……」
 死体の山が積みあがる上へ駆け上がった獣人は、またも空へといなないたのだった。
 
 とあるビルの屋上。
 そこでは、神妙な表情をしたリーゼリット・クローナ(ほんわかヘリオライダー・en0039)の姿があった。
「釧路湿原近くで起こっている死神による事件、皆は知っているかな?」
 集まるケルベロスは、知っている者もいれば、知らぬ者もいる。リーゼリットはそれならと、事情説明を始めた。
「死神にサルベージされたデウスエクス、ウェアライダーが事件を起こすようだよ」
 その死神は、第二次侵略期以前に死亡したデウスエクスをサルベージするという。今回はとある狐のウェアライダーが狙われたようだ。
 元は毛並みが綺麗な獣人だったのだろう。だが、変異強化されたその獣人は死神の意のままになってしまっている。
「サルベージされたデウスエクスは、釧路湿原で死亡したものでは無いようだね。何らかの意図によって、釧路湿原に運ばれたのかもしれないよ」
 そうして、この地へと連れられてきたウェアライダーは、怪魚型の死神3体と共に湿原を南下しているという。
「敵の狙いは市街地の襲撃。……となれば、狙うのは釧路の街、だね」
 敵は北から攻めてくる。釧路の街の北、東西へと走っている釧路外環状道路で待ち構えると良いだろう。
 周囲に車や一般人が通りがかることはほぼない為、戦闘に集中することができる。
 ただ、広すぎるがゆえに、敵を早期発見は急務だろう。できるだけ広い範囲に展開しつつ索敵したい。見通しはいい為、警戒さえ怠らなければ発見できるはずだ。
「現れるのは、狐のウェアライダーと怪魚型死神3体だね。残念ながら、ウェアライダーをサルベージした死神の姿はないようだよ」
 この場は、釧路の街の防衛に全力で当たるべきだろう。
 ウェアライダーは咆哮によって敵の足をすくませ、近場の相手数人へと太い尻尾を叩きつけ、または身体を丸めてローリングアタックを繰り出してくる。
「このウェアライダーは意識が希薄なのか、言葉を交わすことはほぼできないようだね……」
 相手は全力で襲ってくる。こちらも全力で応戦せねば、あっさりと倒されてしまいかねない。
「あと、怪魚型死神3体も戦いに介入してするよ」
 ディフェンダーとして位置取り、噛み付いてくる。さほど強い相手ではないが、こちらはこちらで厄介な相手なので、手早く始末してしまいたい。
 説明を終えたリーゼリットは、最後にこう語る。
「釧路の住人を護ってほしいのはもちろんだけれど……、強引に復活させられたウェアライダーが不憫でならないよ」
 元は、地球人に敵対した勢力であったかもしれないが、今となってはウェアライダーも仲間に変わりない。親近感を持つ相手だからこそ、その姿がひどく痛ましく見えてしまうのだ。
 哀れなる獣人を再び眠りに就かせて欲しい、リーゼリットはそうケルベロス達へと願うのだった。


参加者
暁星・輝凛(輝きの若獅子・e00443)
エルボレアス・ベアルカーティス(メディカリスト・e01268)
深山・遼(烏豹・e05007)
スズナ・スエヒロ(ぎんいろきつねみこ・e09079)
リルカ・リルカ(ストレイドッグ・e14497)
スノー・ヴァーミリオン(深窓の令嬢・e24305)
ラズェ・ストラング(青の迫撃・e25336)
櫻木・乙女(翔べないテンシ・e27488)

■リプレイ

●侵攻を止める為に
 北海道道東、釧路の街に、ケルベロスのチームの姿があった。
「外環道路を挟んでの防衛戦か。まさしく戦争だな」
 高い建物の上に立つラズェ・ストラング(青の迫撃・e25336)。釧路の街を俯瞰しながら煙草を吸う。
「狐のウェアライダー……。死して尚、良いように捨て駒にされるか……吐き気がするわね」
「死神関連の仕事はいつもながら、やるせない気持ちになるな」
 スノー・ヴァーミリオン(深窓の令嬢・e24305)は表情を歪める。深山・遼(烏豹・e05007)もやや物憂げに呟くものの、淡々とした態度で立っていた。
「カムイ、ねえ」
 リルカ・リルカ(ストレイドッグ・e14497)は湿原を見て何気なく思う。
 現れた死神が本当にカムイだとしたなら悪趣味極まりないが、その辺りの話はまた今度にするとして。
「ともあれ、被害に遭ったウェアライダーには、楽になってもらわないとね」
 そりゃもう色々な意味で、だけど。リルカは淡白な調子でそう告げた。

 ケルベロス達は街へと降り立ち、北へ向かう。
 先ほど遠くに見えた道路付近までやってきた後で一行は2班に分かれ、街に近づくはずの死神とそれにサルベージされたウェアライダーの索敵を始める。
 こちらは、B班。遼、リルカ、ラズェ、櫻木・乙女(翔べないテンシ・e27488)の4人にライドキャリバー、夜影が同行する。
 遼は夜影に跨り、時折双眼鏡で遠方を確認する。後に同乗していたラズェも地上を見回し、偵察を行っていた。
 街に住む人々の危険回避を最優先と考える遼。戦力が分散することで、片方が突破されるリスクもあるが、いち早く発見し、合流することができれば、それもカバーができるはずと彼女は判断していた。
 敵の捜索を行うリルカ。せめて一度敵と戦うことができていれば、手配書を作って捜すもできたのだろうが。まだ、自身の目で確認できていない状況ではそれも叶わないのが残念だ。
 オラトリオの乙女は翼を広げて飛び上がり、上空からの探索を行う。双眼鏡などは使っていないが、彼女は自認する視力の良さと視野の広さでカバーして敵の捜索を行っていたようだ。
 こちらはA班。暁星・輝凛(輝きの若獅子・e00443)、エルボレアス・ベアルカーティス(メディカリスト・e01268)、スズナ・スエヒロ(ぎんいろきつねみこ・e09079)、スノー。それに、ミミックのサイが同行する。
 A班メンバーもB班と同様に敵の索敵に当たる。ライドキャリバーこそないが、飛行できるメンバーを2人にし、比較的同等の索敵能力があるような配置としていた。
 輝凛も片手サイズの小型望遠鏡を手に、仲間と手分けして周囲の索敵を行う。
 ヴァルキュリアのスノー、ドラゴニアンのエルボレアスは翼で空を飛ぶ。スノーは遠方を重点的に確認する。エルボレアスも早急に敵を探そうと視線をあちらこちらへと走らせていたようだ。
 スズナもサイと一緒に行動し、双眼鏡で遠くを見やる。すると……。
「きました、あちらから……」
 スズナが指し示したのは、北西部から南に向けて駆けてくる一隊の姿。死神と獣人に違いない。
 街とはやや距離があるものの、時間を稼ぐに越したことはない。このまま交戦を希望する仲間もいたようだ。
「スノーさん、信号弾を!」
 輝凛の呼びかけもあったが、他班に知らせる役目を負っていたスノーが真上へと信号弾を上げ、敵の発見を知らせる。早くこちらにやってきてくれるといいが……。
 どうやら、合流するよりも敵と接触するほうが早そうだ。メンバー達は交戦準備の為、構えを取る。徐々に大きくなってくる敵影。死神3体と並ぶように、狐の獣人が迫ってきていた。
「あのキタキツネは、絶対生前モフモフで気持ちよかったはずのに……。本当勿体ない……モフモフ」
 仲間達からは「そっち?」といった視線を集めるが、地上に降り立つスノーはその毛並みを本当にモフモフしたがっていたようである。
「死人は治療できないからな……特にどうとも。いつもと変わらん」
 敵の接近を見て、エルボレアスは近づいてくる獣人の姿を見る。
「オオオォォゥゥゥゥ」
 すでに理性はなく、うつろな目で襲い来るただの操り人形。さすがに自分もああなるのは勘弁と独り言を告げながら、ライトニングロッドを振りかざし、上空に雲を呼び出す。
「一度眠りについた命を無理矢理起こして……、その存在も歪めるなんて……酷い」
 輝凛はそのウェアライダーの姿に憐憫を、それを目覚めさせた死神には強い憤りを感じる。
「戦わなくちゃ……止めなくちゃ!」
 輝凛の意気込みに応じ、メンバー達は釧路の街を背にして交戦を開始したのだった。

●許されざるその行為
 前に立つ怪魚がかぶりついてくる中、狐のウェアライダーは身体を回転させながら襲い掛かってくる。
 その打撃の威力はかなりのもの。盾役不在の中、A班メンバーはなんとか持たせようと立ち回る。
 スノーは前衛メンバーの前に紙兵を撒いて守りを固めさせ、その上で仲間と敵を逃がさぬよう囲い、B班メンバーの合流を待つ。
「攻撃しなきゃ、でも、無理はしないように……!」
 4人で戦うには、このウェアライダーの相手は厳しい。死神のサルベージによって変異強化されたそいつは、狂ったように攻撃を仕掛けてくる。
「夜明けを呼ぶ剣、この手に!」
 輝凛は身に宿す英霊の力にデウスエクスの魂の力を上乗せしていく。手にするゾディアックソードは全てを裂く光剣となる。
 その剣を握る輝凛。ただ、彼は相手がウェアライダーであることを改めて確認してしまい、刹那躊躇してしまう。
「こんなの……嫌だけどっ、『ウェアライダーが街を襲う』なんて未来は、もっと嫌だ!」
 意を決し、彼は光剣を振り上げ、迷いと共に敵を両断しようとする。
 だが、それを邪魔してくるのは怪魚型の死神だ。そいつらはただ身を張り、ウェアライダーを傷つけさせまいと動く。
「オオオォォゥゥゥゥ……!」
 そして、それに守られる狐の獣人は狂ったように叫び、ケルベロス達の足を竦ませる。その際、ミミックのサイがけなげに仲間を守ろうと前に立っていたようだ。
 狐のウェアライダーは何かを訴えかけているのだろうか。スズナはそれをできるだけ感じ取ろうとしながらも飛び上がり、盾となって傷を負う死神目掛けて流星の蹴りを食らわせる。
「ただのメディカルレインだと思うなよ――」
 傷つく仲間へ、エルボレアスは起こした雲から癒しの雨を降り注がせる。雨の粒はエルボレアスのグラビティによって特殊な薬液が混じり、青く変色していた。仲間に降り注ぐ雨は彼らの皮膚を硬化し、敵の攻撃に耐える為の力を与えていく。
 そこで、聞こえてくるエンジン音。遼とラズェが駆けつけてきたのだ。
「気を付けろ。想像以上に手強そうだぞ……!」
 ラズェは遼にそう促しつつもライドキャリバーから飛び降り、近場の道路の電柱などを駆使して2段ジャンプする。
 そうして敵を翻弄しながらも、ラズェは両手に構えた爆破スイッチを押し、小型の見えない爆弾が敵陣で爆発を巻き起こす。それを浴びた死神達の身体に、炎が引火していく。
 失った体力を補填しようと、大きな口を開けてくる怪魚ども。それらをライドキャリバーの夜影が押さえ、遼もまた別の怪魚の食らいつきを腕で受け止める。
「ここで必ず、終わらせる……」
 敵の姿を見てなお、淡々とその討伐に当たる。
「艶やかな香りで惑わせよう」
 反撃とばかりに、炎を纏って突撃する夜影に合わせ、遼は口寄せを行う。誘われるように現れた青い蝶は柘榴と蜜柑の香に似た呪力を纏い、死神達を翻弄していく。
「こんなのって……!」
 駆けつける乙女。彼女は地上へと降り、痛々しい姿のウェアライダーの姿を目にして顔を顰める。
「まあ、まったくあたしには関係のない話だよ。障害ならば取り除くだけ」
 悪いのは死神、可哀想なのは被害者。しかしながら、リルカは事も無げに告げ、戦場の中で有利になりそうな場所へと移動し、位置取りを行う。
 ただ、乙女にはそう割り切ることはできず、怒りを露わにして呼び出した御業で死神の身体を握って捕縛する。
「死神……貴方たちの目的が何なのかは知りませんが、どんな理由であろうと、このような行いを許すわけにはいきません……!」
 乙女は鷲掴みにする御業の力を強めるのである。

●獣人は何を思う……?
 ケルベロスはメンバーが揃ったこともあり、死神を窮地に追い込んでいた。
 仲間が合流したことで、冷気を帯びた手刀を放つスノー。グラビティ活性に問題があったのか、光る猫の群れのエネルギー体を呼びもしていた。
 スノーはここぞと死神を見つめると、そいつは妙にかしこまったように地面近くまで高度を下げた。
「妾の一撃受けてみなさい。気持ち良いわよ」
 彼女はバトルオーラを纏った拳でそいつを殴りつけると、地面へ落ちた怪魚が蒸発するように消え去っていく。
「お前らっ……絶対、許さない!」
 怒りを燃え上らせていた輝凛は再び光の剣を振り上げる。今度は死神を狙っての一撃。そいつは防御する間もなく真っ二つになり、蝦夷の地へと果てていく。
 敵の攻撃を受け止めてくれるミミックのサイ。エクトプラズムで作り出した武器で殴りかかった直後、マインドリングから光の剣を具現化したスズナが怪魚の身体を斬り裂く。嗚咽を吐いてそいつは空中で霧散していった。
 死神は全て倒れたが、ウェアライダーは猛攻を続ける。毛並みの乱れた太い尻尾だが、グラビティを乗せて振り回せば強い衝撃をケルベロス達へと与えて。
 遼はじっと耐え、自らや前に立つに分身の幻影を纏わせて少しでも被害を軽減させようと立ち回る。
 もちろん、主として仲間の回復に当たるエルボレアスも仲間を癒し続ける。彼は癒しの雨を降らせる他にも、ライトニングロッドから直接電撃を発生させ、それを身体へと纏わせた仲間達の生命力を高め、さらに攻撃の為の力をも与えていく。
 いくら敵が手強い敵とはいえ、相手は1体。ケルベロス達は狐のウェアライダーへと攻撃を集中させていく。
「逃げられると思うなっ!」、
 敵の周囲へと大量に弾丸をばら撒いたリルカ。それらを跳弾させることで、ウェアライダー目掛けて集束させる。
 集中していたリルカはやや疲労感を覚えてよろけていたが、その甲斐もあって獣人へとほとんどの弾丸が命中していた。
「オオオォォゥゥゥゥ……!」
 血を流す狐の獣人は、声高らかに吠える。そのハウリングはケルベロス達の身体を竦ませてしまう。
 スズナもまたその1人。それでも彼女はオウガメタルを纏わせた拳で殴りかかっていく。
 できるなら、獣人の声を聞き取ろうとする彼女。残念ながら、言葉にならぬ声を聞き取ることもできない。それに、スズナは表情を沈ませてしまう。
「おねがい、がんばってっ!」
 足が竦む仲間の為にと、スズナはただまっすぐに心を込めて仲間を激励する。
 その祈りを受け、輝凛はいつもの足裁きで立ち回る。ジグザグに振るっていた惨殺ナイフから、またもゾディアックソードへと持ち替えていた。
「もう一度眠れ! 獅子座の光の下に!」
 振り下ろす光の刃。それが獣人の皮膚を裂く。ただ、敵はすんでのところで致命傷を裂けていた。
 そこに、ラズェがアームドフォートの砲口を突きつけた。彼は焼夷弾を発射することで、敵を炎に包み込もうとする。
「やったか!? 消し炭も残るまい!」
 勝利を確信したラズェは、ドヤ顔で微笑むのだが。炎の中から飛びかかってきた獣人は回転しながら、彼へと襲い掛かってくる。
 中衛に布陣するラズェとスノーは、それをミミックのサイとライドキャリバーの夜影によって護られていた。
 獣人が着地した瞬間を狙い、グラビティチェインで作り出した超巨大なハンマーを振り上げてきたのは乙女だ。
「光になぁぁぁぁれぇぇぇぇぇぇ!!!」
 その槌に叩き潰されたウェアライダー。周囲一帯を白い閃光が包み込み、浄化された魂の欠片が光の粒となって空へと昇っていく。
「もう、ゆっくりお休みなさい」
 乙女はそれを見上げて呟く。
(「弔うとか悼むとか、そういうのはあたしのやるべきことじゃない」)
 仲間達もまた、昇天する魂を見上げていたのだが、リルカだけは目を背けていたのだった。

●哀悼の意を表して……
 攻め来る敵を撃破したケルベロス達。
 戦場となった場所へとエルボレアスは癒しの雨を降らせ、穴の開いた地面を幻想で埋めていく。
 同じく紙兵を撒いて修復へと当たっていたスノーは、見つけたウェアライダーの亡骸を土の中へと埋める。その上で、『もふもふここに眠る』という墓標を立てていた。
「来世もまた、モフモフで生まれてこられますように」
 彼女は何やら、モフモフモフモフと小声で祈っていた。
「同じウェアライダーとして。ぜったい、かたきはとります。……できればいっしょに、戦いたかったです……」
 狐のウェアライダーの先輩として。スズナはその冥福を祈り、安らかに眠って欲しいと墓前に告げた。
 倒したはずの敵が死神によって生き返り、再び対峙するといった経験が遼にはある。
 魂は天に肉体は地へ返し、死神に再度蘇らせたくない。そんな気持ちを抱く遼はその亡骸を持ち帰り、荼毘に付したいとも考えた。
「同胞よ。もう二度と利用されるな……」
 とはいえ、仲間が埋葬した後で掘り返すのも野暮な話だ。彼女は已む無く、そのまま冥福を祈ることとする。
 乙女は修復作業などを一段落させると、疲れ果てて大の字になって倒れこみ、北海道の空を見上げる。
「結局、奴等の目的は分からないままでしたね……」
「……カムイ、ね」
 リルカは改めて、その名を呟く。
 ただ害するだけの存在を認めるわけにはいけないと、彼女は考える。
 カムイを蔑ろにする者へと罰を与える者もいるが、自主的に害してくるならば、それはまがい者でしかないのだろう。
「まあ死神だから、そういうものなのかもだけど、ね」
 この場に現れぬカムイを睨むように。リルカは虚空を見据えたのだった。

作者:なちゅい 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年9月20日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。