深い森の奥に、人目を避けひっそりと暮らすローカスト達の住処があった。苦しくはあれど、それなりに平穏であった彼らの生活はこの時、黙示録騎蝗に臨む者の手で壊される事となる。
同族なれど突然の闖入者を迎える事となり驚くローカスト達を問答無用とばかりに叩きのめして行くのは『ストリックラー・キラー』隊員の一体。隠れ住んでいたローカスト達の悲鳴も懇願も全て無視して彼は、弱らせた彼らを強制的に連れて行く。
「喜べ、お前達は黙示録騎蝗の為の礎となる」
降りかかる災難を嘆く彼らに隊員は静かに告げた。弱きローカスト達を待つのは、身に宿るグラビティ・チェインを奪われる苦痛だけと、この場で彼だけが知っていた。
イェフーダーが率いるローカストの特殊部隊『ストリックラー・キラー』が、下水道を侵入口とし広島市を制圧しようと目論んでいるようだ。篠前・仁那(オラトリオのヘリオライダー・en0053)はノーザンライト・ゴーストセイン(のら魔女・e05320)の調査の成果を伝える。個別の襲撃ではケルベロス達に阻まれると学習しての大規模作戦であると考えられた。
「今回は指揮官のイェフーダーも現場へ出てくるみたい。彼らの作戦を上手く阻止出来れば、『ストリックラー・キラー』を壊滅状態に追い込めるのではないかしら」
隊員達は以前の作戦で用いたような飢餓状態のローカストを従え下水道を進軍して来るのだという。彼らは地上へ出次第、連れているローカストを使い市民を虐殺し、奪ったグラビティ・チェインにより、隊員が携える多数のコギトエルゴスムを復活させ更に市街へ解き放ち──と計画しているようだ。少々荒いこの策からは、ローカスト陣営が余程追い詰められているか、でなければ発案者の思慮不足が窺えた。
「これが実行されれば、二十四時間以内に市街は制圧されると考えられているわ。……でも、あなた達ならばそれを阻める」
ゆえ、下水道内で敵の一隊を待ち伏せて迎撃して欲しい、と彼女は言った。
「あなた達に頼みたいのは『ストリックラー・キラー』の一体と、彼と一緒に行動するグラビティ・チェイン不足のローカスト一体の、合計二体。どちらも、速さはそれほどでも無いけれど、頑丈で力強い個体のようよ。集中攻撃を受けるような事があると、危険かもしれない」
この『ストリックラー・キラー』隊員は本来、奇襲からの短期決戦を得手とするようだ。ケルベロス達の待ち伏せに事前に気付いた場合、何らかの手を打ってくる可能性があると考えられる為、注意が必要だろう。
「『ストリックラー・キラー』の方は、何としても作戦を遂行しないと、と考えているようだし、飢えている方は理性とか思考力とかをなくしている状態みたいなので……倒してしまわなくては、彼らは止まらないと思う」
敵軍は同様の二体を一組として下水道中に散らばっている為、交戦時は他のチームと干渉してしまう事は無いだろう、と仁那は大体の地理と、戦うには困らない迎撃推奨地点をケルベロス達へ伝えた。
「あとは……、イェフーダーは下水道の、真ん中辺りに居るみたい。複数のチームで多方面から包囲出来れば、逃がさず倒せると考えられているわ。なので、二体を倒した後、余力と時間があれば、彼の襲撃に向かって貰えると助かる」
無論こちらも、辿り着く前に察知されるような事があれば彼らに打撃を与え難くなるが、イェフーダーに猶予を与えぬよう動いたり、他チームとの連携が可能な状況になった場合を想定した策を練っておいて貰えれば、事を運び易くなるだろう。
「彼らを全滅させられれば、アポロンを更に追い詰められる。敵を二体まとめて、という事だけでも、あなた達には負担を掛けてしまうけれど……それでも、あなた達ならば出来ると、わたしは思う」
信じさせて、と彼女は乞うて、ケルベロス達の無事を願った。
参加者 | |
---|---|
フラッタリー・フラッタラー(絶対平常フラフラさん・e00172) |
アンノ・クラウンフェイス(ちっぽけな謎・e00468) |
空波羅・満願(優雄たる満月は幸いへの導・e01769) |
二藤・樹(不動の仕事人・e03613) |
アイビー・サオトメ(ラブミードゥ・e03636) |
百丸・千助(刃己合研・e05330) |
リュコス・リルネフ(銀牙迸り駆ける・e11009) |
ヒメ・シェナンドアー(稜姫刀閃・e12330) |
●光爆ぜて
各々黒い色を纏った。地下の暗がりの中、ケルベロス達は闇そのものとなるが如く身をひそめ、倒すべき敵の訪れを待ち受ける。
待つこと暫し。淡い緊張の中、まず彼らの耳に届いた足音は一つ。だが、気配は──
(「──ひとつ?」)
気付いた者が不審を抱く。ごく薄くなれど肌に触れていた二つ目が不意に消えた。近付く音と共に、ゴーグル越しに彼らが目にしたのは、闇に浮かぶ明色を有すと思しき天道虫型の飢餓個体。訝りと動揺、それを抑える理性がせめぎ、されど、と殆ど反射のようにまず動いたのはフラッタリー・フラッタラー(絶対平常フラフラさん・e00172)とアンノ・クラウンフェイス(ちっぽけな謎・e00468)。リスクは承知でそれでも、敵に此処を突破させぬ為。
続く形で皆が戦場へと出る。無論警戒は怠らず、各々が気を配り。
「ドウゾオ相手願イマス」
足元に溜まる水が跳ねる。闇を裂いたのは点灯した照明の色と、ゴーグルを外したフラッタリーの、晒した額に帯びた獄熱。光を弾いた金眼が、鮮血色をした敵の姿を捉えて笑う。
光は天道の虚を突いて、その間にケルベロス達は陣を整えるべく動く。一歩先を往く黒い背を追い抜こうとしたヒメ・シェナンドアー(稜姫刀閃・e12330)はしかしその時、咄嗟に振り返り刀を抜いた。
ぎゃり、と擦れる嫌な音。鋭く変形した敵の大顎が左右から迫るのを彼女の二刀が受け流し、されど衝撃に圧される華奢な体を傍の二藤・樹(不動の仕事人・e03613)が咄嗟に支えた。
「大丈夫?」
「ええ、ありがとうね」
隠密用にと顔を覆っていたタオルを外しながら目を向けて来る彼に彼女は笑みを乗せた応えだけを残し、敵──髪切虫型の『ストリックラー・キラー』隊員へ対応すべく走る。
視覚、ゆえでは無いのだろう。気配、息遣い、あるいは気流の微かな乱れ。敵が見たもの、聞いたもの、ゆえの飢餓個体を先行させた意味を刹那思考するも、今はそれより、と少女は真っ向から斬り結ぶで無く相手を翻弄する如く背後を狙い、敵との間合いを探る射手達と示し合わせて包囲を図る。
その傍ら、飢餓個体を牽制する者達は手分けして護りを固める。アンノと空波羅・満願(優雄たる満月は幸いへの導・e01769)が金の守護光を放ち、支援を担う癒し手へ揺るがぬ平静をと樹が周囲の気を御した。
薄闇を駆け抜けたフラッタリーが大剣を振りかぶる。熱を灯し煉獄に灼けた。呼応する如く天道の羽が広がり赤熱し、燃える大気が前へ出たケルベロス達の身を焦がす。飢える天道の目には餌と映るであろう彼らを、排すべき障害と見た隊員は、髪切の長い触覚を揺らしつつ周囲を見渡した。
距離を詰めては来ぬ彼は、援護を主とする気なのだろう、読んで百丸・千助(刃己合研・e05330)は天道へ蹴り込んだ。敵の態勢を崩した所へガジガジが放つ刀が追撃を為す。先に飢餓個体を攻め崩すべく追撃が集中するが、かの敵の目に映るのは間近で共に過熱するフラッタリー。ゆえに髪切はまず彼女を屠るべく触覚で風刃を生んだ。しかしそれが彼女へ届く前に割り込んだのはヒメ、攻撃を受け止め少女は、鋭く裂くで無く叩き潰すが如き痛みの重さに眉をひそめ、その精度を見て取り仲間達へ注意を促す。並行して少女の白い手はドローンを操り護りを強めた。
とはいえ、より一撃が重いのは飢餓個体の方。温存されていた原因である燃費の悪さも伊達では無いのだろう。ゆえ、彼を自由にさせてはならぬとケルベロス達は攻撃を集め続けた。敵が抗うその力ごと抑え込むよう、アイビー・サオトメ(ラブミードゥ・e03636)が放つ炎は周囲の熱気を巻き込み過熱し、天道の外殻の下に冷め得ぬ火傷を刻むべく盛る。その後方で再度手を伸べ金光を生み前衛達を支えるアンノは、己がそうするように戦況に目を配る様子の隊員に気付き、空いた手に書を開いた。敵がこちらを侮っていないのであれば、と彼の思考を辿る。
やがて隊員の手が翻る。放たれた気は治癒の力で以て飢餓個体を包んだ。あは、とアンノが笑み交じりの息を零し、書の頁を繰る。フラッタリーが敵に刻んだ傷は赤い外殻の修復を遅れさせ、対して彼女は溢れる血が減ずると共に加速する。お願いね、と少年は笑い、灼キ斬リマセu、と娘が嗤う。
「嗚呼──aAhァ……!」
熱風を起こす機構と化した天道の身が旋回し、加護を吹き消す嵐が生ず。幾人かは身を護り被害を減じたが、間近で肌を破られたフラッタリーは血煙の中で声をあげる。
「──存分ニ殺シ屠リマセウ」
愛おしむよう柔らかに。羅刹めいて恍惚と。逃れ得ず寄り添い得ず交われど一つは此処で潰える道にして因果を謳う彼女は、失血に白む顔にそれでも笑みと、瞳により強い意思をぎらつかせた。
飢餓個体が怯まず退かぬゆえもあり。止めようも無く最前を彼女が駆けるなら、と盾役達は隊員の動きに目を光らせる。此方の勢いを殺させぬよう髪切の刃を牽制しつつ、仲間達が動き易いよう援護する。
その一方で、床の水を染める血の色に気付いた樹は危惧を抱く。天道の赤を見据えた彼の手が爆発を生じさせる。敵の主たる攻撃手段である羽を傷付け、すぐには修復しきれぬ自陣の護りの代わりと被害を抑えに掛かった。
「そっち、頼んだ」
「うん、……っ!?」
満願の声を受け、髪切の虚を突く形でリュコス・リルネフ(銀牙迸り駆ける・e11009)が飢餓個体へ手をかざす。その赤を引き寄せ穿つ為の電磁の檻はされど、天道の身が放った熱に灼かれ半ばで熔け落ちる。相性が悪い事は見えていたがこれほどとは──牙を手折られ銀が呻く。ならばと白が駆けた。敵はこれもと、圧を散らす熱を練るけれど。
「速さなら、ボクが負ける道理は無いわ」
防御より速くに斬り崩す。速さで競えば彼女達は敵を軽々超え得るゆえに。ヒメの声が凛と風を制した。飢餓個体の足が鈍るを好機と、ケルベロス達は勢いを緩める事無く攻め続ける。
●炎熱さめて
飢餓個体を保たせる事を主眼に動く隊員は、ケルベロス側の支えを担う癒し手へ狙いを定めたらしい。場の緊張と薄闇色の余白を縫うよう宙を薙ぐ風刃に合わせ跳んだリュコスがアンノを護り、その間に敵の思惑を察した彼は仲間へ対処を依頼する。鼓舞の爆風が空気を震わせ攻め手達が加速して、アイビーが操る黒流体が毒刃で以て天道の腹を穿つ。主の命を受けたミミックが幻惑の金銀を撒くのに合わせ千助の刀は空を断ち飢餓個体の身を重ね刻む。満願の拳に黒く獄炎が揺らめき牙剥く獣と化すのに合わせリュコスの気は魔を降す力を伴い間を置かず標的を打ち据える。こちらの被害が抑えきれなくなる前に飢餓個体の無力化を、とケルベロス達は駆けた。
そうするうち、髪切の黒い目が色を変えた。転じた目は単独で遊撃を務める樹を捉える。一足飛びに踏み込んだ敵の顎が彼の胴を求めた直後、咄嗟に身を盾と成したガジガジがその姿を保てなくなる。
「ありがとね」
「ああ」
「そっちお願いー」
「はい……!」
肝を冷やしたとばかり樹と千助の視線が交わる。だがそれも束の間、敵の狙いは包囲を切り崩す事に変わったのだと解り、彼らもまた対応に動く。隊員は最早、深手を負った飢餓個体に見切りをつけたのだろう。千助が一度刀を鞘に納める僅かな間に、突破を試みる敵の身そのものを迎撃する形になったものの、アイビーは怯む事無く踏み留まり術を紡ぐ。護るべき人々の為を思えば、真っ向から叩き付けられる害意への嫌悪とて御して見せた。
「あなたの事だって、止めてみせます……!」
細い手から炎が放たれる。敵の視界を幻竜で覆い、仲間の追撃に繋げる。市街へ至る道を数名がかりで塞ぐその向こう、前衛達に抑えられていた飢餓個体は、負った傷ゆえ既に鮮やかな色も光を弾く艶も失いつつあった。フラッタリーの大剣が潰すに似て敵の体勢を打ち崩し、対し飢餓個体は唯一輝きを保つその目で以て彼女を睨め付け痛覚を狂わせる。ハ、と吐息が熱を揺らし、頽れたのは彼女の方──負担の軽減と分散を為してもなお、弛まず攻めに注力し続けた彼女の肉体は血を流し過ぎていた。
「フラッタリーの姉ちゃん、退がれ!」
「──飢え、とは」
腕を引かれて護られる。少年の体温を知覚して彼女の瞼が緩やかに下りた。傷の痛みにそれでも笑んで、ふと彼女の唇が紡ぐ。
「与え合えぬがゆえに鬼を苛む、などという話もございますわねぇー」
思考を保ち得ぬ飢餓個体には届かない。だがそうでない髪切の触覚がぴくりと揺れた。
使い捨てられる為に目覚めさせられた天道が飢えているのは足りぬがゆえ。足りぬ命をそれでも動かした源は。今回の件の情報を得た際にケルベロス達は訝ったが、敵の戦績を思えば推測だけならすぐに叶った──作戦に要らぬ雑兵あるいは戦い得ぬ弱者達が奪われたのだと。更に、彼らがこの時まで生きながらえていた意味、そのゆえを思えば。戦に臨む強者達の傲慢に、思う所のある者達はこの場にも居るのだ。
(「誰の『意思』に土足で……」)
怒り、と呼ぶほど激しい感情では無くとも、樹の胸にはっきりと灯るのは不服。戦う事、戦わない事、殉ずる事、抗う事──ローカスト達の『戦争』は、数多の意思を、誇りを、踏み躙り続けていて、ゆえに彼はそれを看過出来ないでいた。敵方の事情とはいえ尊ぶべきもの達を護る機会を得られなかった代わり、これ以上穢されぬように──奪われる苦痛の果てに仮初めなれど死を迎えたかもしれない誰かの為に、己の意思を表す事も許されないまま真なる死に瀕する眼前の天道の為に。彼は今一度、己に出来る最大威力の爆破を仕込み、速やかに作動させた。
●揺らぎとけて
「こんなの無茶だって解ってるよねー?」
アンノの声は、侮蔑とも同情ともつかぬ熱持たぬ響きを有した。
「キミ達の大将は余程腕に自信があったのかな?」
続いた言葉。それとも、と純粋な疑問の色を呈す物言いに、隊員は己の力不足を揶揄されたと感じたようで、黙れ、と低く唸った。
飢餓個体が斃れた為もあり包囲をすり抜けるのは不可能と悟ったのだろう、隊員は正面からケルベロス達を破るべく動きを変えた。狙いは傷の深い盾役達──疲労に息吐くリュコスが足を緩めたその刹那、風が重く飛来する。
「リュコス!」
手を伸べた満願が彼女を抱き寄せるようにして庇った。衝撃を受け止めた彼の背が黒衣の下で鈍く音を立てる。
「糞虫風情が人様の可愛い妹に手ぇ出してんじゃねぇぞオラァ!」
義妹自身が望んだ務めゆえとはいえ、己の傷よりずっと度し難い事が彼にはあって。怒鳴った彼はその傍らで、此度は護れた事に安堵する。彼女も限界が近い身だ。
彼女のみならず彼ら全員、無視し得ぬ負傷や疲労を抱えていたものの、敵が減った事で今は随分攻め易くなっていた。仲間を支える加護は十全に効果を顕し、先よりもずっと早く敵を追い詰めつつあった。
そしてそれゆえに不利な戦況を、敵自身も解っているのだろう。機をはかる目は冷静に、ケルベロス達の脆い所を突くべく攻めそのものは狙い澄まして正確に。
「お兄ちゃん!」
そうして此度は、リュコスが満願の体を突き飛ばした。護りたいのだと叫ぶ無垢な瞳は直後衝撃ゆえに瞠られ、歪に鋭い敵の顎が少女の体をへし折る如く動き、深々傷をつける。
「てめぇ……!」
少女が限界を迎え倒れ伏す。少年の瞳に激情が揺らぎ、拳がきつく握られる。
「──大丈夫、次なんてもう無いよー」
空気がひどく張り詰める。敵の状況を窺い攻勢に転じるアンノの唇が笑みを刻んだまま、終わりを予告した。
「そうね、時間も惜しいわ」
ヒメの瞳がひたと敵を見据える。怒りを顕すでなく、義を振りかざすでなく──乱れる事を許さぬ凪いだ瞳は冷静に、攻める隙を見出して。疾駆する白は敵を縫い止めて、続いた爆破の連鎖が敵の脚に束の間役目を忘れさせた。
「終わらせましょう……!」
少女の傷と少年の怒りを他人事では無いと案じ、胸を痛め眉を寄せたアイビーが、その手に濃密な気を凝固させる。濃く深く赤に沈む槍は質量を持つ力となり敵を穿ち、かの身の平衡を奪い。
「──『青流』!」
敵の逃げ場を塞ぐようその頭上へ跳んだ千助が、鞘に納めた二刀を抜く風音と共に霊力を解き放つ。刀刃は疾り、溢れる力は光と白み、見る者の目を灼いた。
そして響いたのは水の音。担い手を受け止める音に重なる、敵の身がただの骸と化した報せだった。
●ひかりを
「大丈夫ですか……!?」
そうしてまず傷ついた者へのヒールが為される。倒れた者の傍に膝をついたアイビーは、ひどく心配そうに皆を気遣っていた。
被害そのものは各人、暫く休めば落ち着く程度。とはいえそれは後回しと、通信機を持つ者達が忙しく状況確認を行う。
「イェフーダーの方は大丈夫そうだってー」
「この近くの方々はー、無事勝利を収められたそうですわぁー」
「オレが聞いた方も大丈夫そうだ。街の方も特に騒ぎは起きて無いみたいだな」
前線の様子を聞きつつのアンノは通信に意識を集中したまま。壁際に腰を下ろすフラッタリーは肩で息しつつ、千助はそれを心配しつつ、それぞれ皆に状況を伝える。
「そう、良かったわ」
「なら後は下水道の修復と……、あれば救護の手伝いくらい?」
そちらは動ける者だけで行けば良いだろう、と樹は前衛を務めた者達を気遣う。
「あ、じゃあ……」
「……そうね、放置しておくのもなんだし」
友人と義兄の手を借り身を起こしたリュコスが隊員の遺体に目を遣る。頷いたヒメが骸の傍へ屈んだ。たとえ『ストリックラー・キラー』が壊滅したとしても、隊員達が持っているというコギトエルゴスムを捨て置く事は不安に繋がる──敵方にそれだけの知恵と余力が残っていればの話ではあるが。
少しの時間を要し宝石達を回収し終えた後、傷の浅い者達は後方支援に回れればと移動する事となった。
万一に備え、休息が必要な者達の護衛を兼ねて残った満願は、周辺の修復の最中、義妹が沈んだ様子である事に気付いた。声を掛け、傍に膝をついた彼を見上げた少女はしかしすぐ、彼の肩に顔を埋める。
「アポロンを倒せば、こんな事……終わらせられるよね?」
預かった宝石達を胸に抱く彼女はそこに眠る命と、自分達の知らぬ所で犠牲となったであろう命を思い、声を震わせた。伏せる狼耳と同じよう、力無く垂れる彼女の尾が目に入って彼は、痛ましげに眉を寄せる。
少なくとも、イェフーダーへ当たる者達が戦果をあげてくれれば、それは大きな前進となる筈だ。今はただ皆を信じ少年は、義妹の頭を優しく撫でた。
作者:ヒサ |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2016年9月27日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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