鎖の音の響く喫茶店、Mの魂はSを救えるか?

作者:ほむらもやし

●始まりの終わり
 灰色のサマースーツの男は店の外に出ると、深々と頭を下げてから扉を閉めた。
 薄暗い屋内には、黒い革の衣装を身につけた婦人が、男を見送ることもなく、テーブルに両手を着いたままうな垂れたままでいる。
「信用金庫にまで見放されたらおしまいだわ」
 明治のレンガ造りの納屋をリフォームして作られた店内は近世ヨーロッパの拷問部屋のような雰囲気だ。
 アンティークな風合いの各種器具や遊具、枷や荒縄などがそこら中に置かれている。さらに壁や天井に目を移せば、黒みを帯びた鉄の鎖が下がっていて、しかも巻き上げ式の滑車に繋がっている。被虐願望を持つ者なら毎日通いたくなる喫茶店だった。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『後悔』を奪わせてもらいましょう」
「あんた不法侵入よ? 分かったような口を利くんじゃないわよ!」
 婦人がテーブルを叩いて立ち上がり、声の主――――第十の魔女・ゲリュオンに向かって鞭を振り上げるのと前後して、魔女の突き出した鍵が婦人の平坦な胸を貫く。
 次の瞬間、婦人は倒れ伏して、動かなくなり、その脇に、蠱惑的な革の衣装を身につけたナイスバディのドリームイーターが出現した。
 
●依頼
 自分で店を立ち上げるのは浪漫だ、夢だと、言われる。
 自由に全て取り仕切れるのは正に快感。そして利益も損失もあらゆる結果が自身の行動の結果。夢の実現は同時に、存続と発展を賭けた試練の始まりである。

「せっかく夢を叶えたのに、その店を潰してしまうのは、とても悲しいことだよね。そんな後悔に暮れる人がドリームイーターに襲われ『後悔』を奪われる事件が起こっている。急ぎの対応をお願いできるかな?」
 ケンジ・サルヴァトーレ(シャドウエルフのヘリオライダー・en0076)は、話を聞いてくれそうなケルベロスたちに駆け寄ると丁寧に頭を下げて、ひとりひとりの顔をジーッと見つめてから話を続ける。
「第十の魔女・ゲリュオン――『後悔』を奪ったドリームイーターは、既に姿を消していて接触は出来ない。だけど、奪われた『後悔』を元に生み出されたドリームイーターを撃滅して欲しい」
 生み出されたドリームイーターは1体。戦場となるのはお店の中。
 訪ねて来た者を店の中に引き入れて、それまでに無かった危険なサービスの提供により殺すような事件を起こそうとしている。
「お店は近世の拷問部屋を意識したデザインの内装だよ。誤解が無いように擁護すれば、Mな人が期待するような、サービスは提供されていなかったよ。オーナーのコンセプトは、見るだけで怖くなるような器具に戦慄したり、フェイクの拘束具をちょっと身につけてみたりして非日常的なドキドキ感を感じつつ、普通に喫茶や軽食を楽しんでもらうことだったみたい」
 但し、気合いの入ったMの人には物足りなく、普通人には近寄りがたい雰囲気であったのが災いしたのか、誰ひとりお客が来ない日も少なく無かった。
「実はお客としてサービスを心の底から楽しんであげると、それに満足するのかドリームイーターの戦闘力が減少する。そしてドリームイーター撃破に成功した場合、意識を取り戻す被害者にもよい影響がある」
 ドリームイーターが企てるサービスの詳細は不明だが、きつい姿勢で縛られたり言葉で責められたりする感じと推測されるので、Mの趣味の無い人には痛くて辛いだけで、楽しむことは難しい。そっちの趣味が無いのに、サービスを受けようとする場合は、望まぬひどい目に遭っても大らかな心で受け止める覚悟が必要だ。
「当然店に乗り込んですぐに戦いを仕掛けることも可能だよ。ドリームイータの攻撃手段は巨大な鍵を繰り出して心を抉る。様々な形状に変化するモザイクを飛ばす。言葉で罵ったり踏みつけたりする。だよ。サービスを楽しんであげなかった場合は、万全の戦闘力を保持したドリームイーターとの対決となるから、充分に気をつけてね」
『後悔』を奪われ、被害者となったご婦人は奥の厨房で、意識を失った状態で倒れ伏している。
「ドリームイーターが倒されて、ご婦人が目を醒ました時に、お店に何が欠けているかに気づき、新たな一歩を踏み出せればハッピーだよね」
 攻めるだけが人生では無い。痛みを知り痛みの先にやってくるものを知ることにも意味はあるかもしれない。そう締めくくると、最後まで話を聞いてくれたケルベロスたちの顔を再度見つめ直して、ケンジは丁寧に頭を下げた。


参加者
エリース・シナピロス(少女の嚆矢は尽きること無く・e02649)
レイナ・デモダイシン(シェカーテ・e14316)
銀山・大輔(昼行燈の青牛おじさん・e14342)
天司・桜子(桜花絢爛・e20368)
セデル・ヴァルフリート(秩序の護り手・e24407)
折平・茜(エスケープゴート・e25654)
木乃枝・久遠(弁証論治のアンチノミー・e30308)
西城・静馬(極微界の統率者・e31364)

■リプレイ

●狂宴の贄
「……つまんないの」
「もう飽きちゃったの? もうちょっと抗ってくれないとやり甲斐がないわね」
 ふと漏らされた呟きに、黒い革の衣装を身につけたドリームイーターの婦人は拘束された、エリース・シナピロス(少女の嚆矢は尽きること無く・e02649)の姿を、残念そうに見つめる。
「……だって、こんなの、痛いだけ、……よ」
「そう、痛いのは感じているのね」
 言いながら婦人はちょうどエリースの身体が何とか収まりそうな大きさの鉄棺の蓋を開けた。
 蓋にはバイスのようなハンドルが付いていて、回転させれば箱の内部が押しつぶれる構造になっていることが分かる。中世においては処刑器具としても使用されたことを知ってか知らずか、エリースは身を固くする。
「ご明察さま。ケルベロスなんだから、これくらいどうってことないわよね」
「……興味ない、わよ。……遠慮するわ」
 しかし希望は無視されて、エリースは鉄棺の中に押し込められる。そして蓋が閉められた。
 内部からくぐもったような声が響くなかドリームイーターは嬉々として少しずつハンドルを回転させる。

「……あ、ヤバ、ちょっとゾクってきちゃったぁ……♪」
 絶頂にも似た感覚を経て、木乃枝・久遠(弁証論治のアンチノミー・e30308)の身体は弛緩する。
「あなたもこういうこと初めて? でもお楽しみは始まったばかりよ」
 耳元に顔を近づけて告げ、久遠の後ろ手から伸びる縄尻を勢いよく引いた。足首や腰に繋がった縄が引き絞られて、海老のように身体が反らされる。次の瞬間、無理に伸ばされた身体に縄が食い込んで行く感覚に久遠の意識は澄み渡る。
「んっんー、初めてだったかなぁ違ったかなぁ? ボクどっちかってーとイジめられるよりイジめたい方だからぁ」
 軽口で返して見せるが、はだけた衣類の隙間から下着や肌が覗き、縄の食い込んだ肌には充血している。普通の人間ならば失神し病院送りになりそうな過激な緊縛だ。
 しかし婦人は気にも留めることなく、天井から下がるフックに鎖を掛け、二点吊りの要領で、久遠を拘束する縄の間に通す。
「あ、そういえば初心者だったわね。辛すぎたら言いなさい。止めてあげるから」
 邪悪な笑みを浮かべて婦人がリモコンを操作するとモータ音と共にワイヤーの掛かったフックが上昇し、久遠は無理な海老反りの姿勢でつま先立ちとされる。
「……っん、いっ、んぁはぁっ!」
 骨が軋む激痛とデリケートゾーンに縄の結び目が食い込むゾクゾクとした感覚が同時にやって来て、格好の悪い声が出る。それは思わず耳を塞ぎたくなるような嬌声であった。次の瞬間、乱暴に猿轡を噛まされる。
「騒々しいわね。黙っててくれるかしら?」
 そんな二人のやり取りに、椅子に拘束された、銀山・大輔(昼行燈の青牛おじさん・e14342)は、恍惚とした眼差しを向けていた。ハーネスの革のベルトが肌に食い込む程に締められていてはいたが、この状態はまだ序の口、当初のエリースと同様、単に自由を奪われるという苦痛を受けているに過ぎない。
「しかし、こういうのを好む人もいるんだぁねぇ……」
「くすくす。まるで他人ごとみたいに言うのね」
「いやあ、これだけ本格的な体験ができれば大満足だぁよ」
 興味はあったが、嫌な予感が脳裏を過ぎったため、当たり障りの無い言葉で濁す。
「満足いただけで光栄ですわ。せっかくですから、新しいお人形をごらんになりませんか?」
 婦人の手招きに呼び寄せられた、セデル・ヴァルフリート(秩序の護り手・e24407)の姿に大輔の表情が驚きの色に染まってゆく。
「私の身体をご覧下さい、どうでしょうか? 虐めたくなってくるでしょう」
 確かに始めは作戦の為と割り切っていた。しかし苦痛と共に押し寄せる高揚感が理性のタガを外させ、溢れ出た得体の知れない感覚はセデルを夢中にさせることもあった。
「お人形さんが、勝手に喋ってはいけませんわねえ」
「あ、いえ! 決して変なことを考えていたのでは!」
「ほらまた! お仕置きされたがりの変態さんなのねえ……」
 間もなく悲鳴が店内に響き渡る。

 同じ頃。お店の外では4人のケルベロスが突入の合図を待っていた。
「セデルさん、銀山さん、木乃枝さん、同行できず、すいません……せめて、わたしも行けたら良かったんですが……楽しむなんてできそうにないです……」
 ひとり少ないことを忘れるほどに、頑丈なドア越しに微かに聞こえてくる、悲鳴と嬌声は凄まじいもので、大いにから想像を膨らませた、折平・茜(エスケープゴート・e25654)は思わず両手で耳を塞いだ。
「Mって何で自分が虐められて喜ぶんだろう?」
 首を傾げるのは、天司・桜子(桜花絢爛・e20368)だった。そこに、西城・静馬(極微界の統率者・e31364)が、ひとつの解釈を示す。
「まったく理解は出来ません。ですが、Mのお客さまの願望を叶えて楽しんで頂きつつ、安全にも配慮したサービスを提供するのが本職のSと言われますよね」
「それって言い方を変えれば、Mの人はSにやってもらいたいことをさせているわけですね」
 虐められているわけでは無い。限度を超えない範囲で虐めさせているのだと解釈すると、合点が行く気がした。
「いずれにしてもニッチ市場には違いないわね。こんな自然豊かな田舎で開店しても、うまくゆくはずないわよ」
「確かに拷問部屋でお茶したい気分にはならないかなぁ」
 採算を考えない趣味なら兎も角、ビジネスとしては無茶だと分析する、レイナ・デモダイシン(シェカーテ・e14316)の言葉に、桜子も頷く。
「しかし、ずいぶん経ちますけれど、このままでいいのでしょうか?」
 茜が心配そうな顔をする。先行した仲間の誰かが、見学の可否、あるいは中の様子などの情報を伝える手はずであったが、店に入ったきり何の音沙汰も無い。

 店内では狂宴が繰り広げられていた。婦人のドリームイーターの行為は緊縛や言葉責めを超えて語り尽くせないほど。攻撃開始の合図は婦人の満足を見てからと思ってはいたが、もはやこれまでとセデルは判断し、出入り口にイヤーサイレント――ビハインドを差し向けた。

●決戦
「何をしてんのよ!」
 扉の開放に気づいた婦人の怒号と共に放たれたモザイクが猫鞭状に変化してビハインドに襲いかかる。
「開きました……?!」
 茜が店内に踏み込もうとすると同時に、猫鞭の強烈な一撃を、まともに背中に受けた、ビハインドが倒れ伏して動かなくなる。
「なんですかこれは? ここまでさせてしまったことに『後悔』しかありません……」
 あられもないポーズで拘束された仲間、繰り返し繰り返し責められたであろう痕跡、現在進行中の悪夢の如き光景を終わらせるべく、振り抜いたElemental Dance――くろがね色の鉄製竹刀の生み出す超重の一撃が婦人のドリームイーターを打ち据えて、赤色のモザイク片を散らせる。
 ドリームイーターは天を仰ぐ。
 思うがままに振る舞ってみたい。叶った希望を打ち壊されたような、悲鳴にも似た咆哮が聞こえたような気がした。
 当然それはドリームイーターのものでは無い。ドリームイーターを生み出した者から奪われた後悔の念に由来するものだろう。
「ドリルの腕よ、敵の防具を切り刻め!」
 桜子が突き出した腕が回転による穿孔力と共にドリームイーターに突き刺さる。容赦無い回転が身体を抉りノイズのようなモザイクを散らす。
 ドリームイーターへの攻撃と並行して仲間の解放も進められる。
「楽しかったですか?」
「ちょっとどきどきもしたけど……。おいらはだいじょぶだぁよ」
 手早く拘束を破壊するレイナに大輔は応じつつも、気遣いから鉄棺の中にエリースが閉じ込められていることを告げる。
「了解。あまり愉快な事態でも無いようですし、早く片づけましょう」
「頼んだよ」
 ドリームイーターが、鉄棺のハンドルに手を掛けるレイナに視線を向けるのとほぼ同時に、前に躍り出た静馬は舞うような動きから、二筋の細く鋭い斬撃を振るう。
「紛い物は――去れ」
 呟きと共に両手を強く握り締め、弾け飛んだ袖から露わになったのは白亜の如き機械腕。
 冷静に敵を観察する目線には、多数派になり得ない少なく弱い者たちの想いを弄ばせはしないと、決意と憤りを孕んでいた。
 確実性と大ダメージ――それだけに意識を集中して、大輔は神速の刃を閃かせる。
 奪われた『後悔』から生み出されたドリームイーターが目を見張ったようにも見える鮮やかな突きの一閃が、ズブリと豊満な婦人型の身体を貫き、肉を締め付けていた黒革を弾け飛ばす。
 透き通るような白肌がぷるんと露わになりと噴き出るブロック状のノイズがそれを隠すように散る。そこに鉄棺から解放されたばかりのエリースが後方からクロスボウを構える。
「……さっきの痛かったの、お返し。容赦……しないから」
 引き金を引くと、軽い音と同時に板ばねの力が解き放たれる。射出された影は剥き出しになった白肌に突き刺さって黒い影の如き染みを広げ、ミミックのミミちゃんが解き放ったエクトプラズムから生み出された細身の刃が真横から双丘を貫く。直後、反対側から突き出た切っ先を伝うように赤いモザイクが噴出してその惨状を覆い隠した。
 次の瞬間、高速演算で見切った急所を狙っての、研ぎ澄まされた一撃がドリームイーターを打ち据えた。
「秩序を乱すあなたに、制裁を!」
 強烈な衝撃の余韻に身体を前後させる動きに追従するようにドリームイーターの黒髪がふわりと広がって、肉薄したセデルの頬を掠る。
「お人形さんだと思っていたのに、ずいぶん勇ましいことね」
 身体のそこかしこからからモザイクを散らすドリームイーターと真っ直ぐに目線が重なって、戦闘では優位に立っている筈なのに、なぜか目を逸らしてしまう。
「うふふ、やっぱりかわいいわぁ」
 だからあなたを夢中にさせてあげるわ――ドリームイーターが眼前に翳した両手の間に巨大な鍵が出現する。漆黒の鍵の表面に渦の如き光の筋が浮かぶ。同時に突き出された鍵がセデルの胸を直撃する。瞬間、歪んだ胸から異形の黒炎が噴き出て、燃え立つ女を生み出す、それは心の中に隠れていたもうひとりの彼女のようにも見える。けれどそれは一瞬だった。軽く振り払う腕の動きで炎の女は霧散する。
「ははっ、見かけ倒しだねえ、お人形はキミのほうだね」
 壮絶な威力を想像していた久遠は呆れたように言い放った。セデルがどんな幻に囚われているかは見えなかったが、多少のことは大丈夫だろうと信じることにして、ドリームイーターの方に意識を集中する。
「お医者さんを怒らせたら怖いって……教えてア・ゲ・ル♪」
 密かに仕込んでいた鍼に気を通し、無造作な腕の一振りでばら撒く。次の瞬間、撒かれた無数の鍼は精密な軌跡を描いてドリームイーターの急所に突き刺さる。
 久遠の言が象徴するように、ドリームイーターは大事なところをモザイクに固められた人形そのものだった。思い通りに振る舞えない女王様が杖のように黒く大きな鍵を床に突き立てる姿は、泥濘の中に倒れる一兵士如くにもの悲しく、対峙する一部の者たちの心に焼き付く。
「凍てつき……苦しみなさい」
 無慈悲な言葉と共にレイナの撃ち放った矢がドリームイーターに突き刺さる。
 続いてビハインドのヒノトがポルターガイストを発動する。室内の物品が飛び回る異様な光景の中、冷気に由来する白煙と噴き出る大量のモザイクが入り交じって、ドリームイーターは身体は崩壊し始める。
「これで終わりですか」
「そう……、みたいですね」
 平坦に見える胸の前で拳を握り、静馬の声に応えるのは茜であった。
 間もなくモザイクと白煙は空気に溶けるようにして消えて、ドリームイーターは完全に消滅する。

●戦い終わって
 奥で倒れていた本物の店主の婦人はすぐに発見された。
「内装……は、そうでもなかったけど、サービスは……最悪」
 レイナと語り合っていたエリースに気づいて、息を吹き返した婦人が近づいてくる。
「あの鉄棺を体験されたのなら、無理もありませんわね」
 使うはずの無い器具を使うなんてすごいと、他人ごとのように感心する婦人にレイナもエリースも、理解の範疇を超えていると、呆れるばかりだった。
「SMクラブにするか、洋風のオシャレなレストランにするか……どっちつかずは良くないだ。でもおいらはこういうお店の雰囲気は好きだぁよ」
「ありがとうございます。でも、自己資金も尽きましたし、融資も断られてしまったわ」
 大輔の言葉に婦人もそこが失敗の原因だったと素直に認める。
 借金が無いのが――というか、誰も融資してくれなかったのが、唯一の幸いだが、再開は当面出来そうも無い。
「この拷問部屋みたいな内装はどうにかならないかなぁ……?」
 食事を取るにしても、お茶するにしても、鋭い棘の付いた金属の環や生爪を剥がす拷問器具を間近に置かれてリラックスできる筈が無い。桜子の語る言葉に、婦人は本格的過ぎるのも良くなかったのねと、素直に頷きを返す。田舎において喫茶店の役割は営業職の一休みの場であり、また地元の人のコミュニケーションの場であった。
「コンセプトは悪くないです。きっと逆境は乗り越えられると思います」
 成功している事例も多いと、掌の上に映像を表示しながら語る、静馬の励ましに穏やかに頷きながら、婦人は、でも……と首を横に振る。
「でも、それ、都会での話でしょう?」
 人口150万を擁する都市と精々3~4万の人口の町で同じことをしても同様の成功が得られるだろうか?
「ニッチな層を狙うのでしたら、遠方からでも訪れたくなる仕掛けも――」
 故の過激なコスチュームであり、本格的な器具であったのかと気づいて、口を噤む。
「もし、また頑張られるなら、いっそのことスリルや好奇心を求めてくる人だけにターゲットを絞ってはいかがでしょう」
「興味の無い方には怖いだけ、のようでしたし、その方が理に叶っていますわ」
 クラブにするにしても喫茶にするにしても、再開させるからには絶対に成功させようと、婦人は茜の顔に目線を向けて、意気込みを見せる。
「これで私たちは帰りますが、どうか頑張って下さい!」
 出来ることはやり切った。元気を見せた婦人の様子にセデルは目を細めると、凜とした声で別れを告げる。
 時間は正に夕暮れ時だった。
 夕焼け空の朱色が、穂を垂れる水田の緑を幻想的な色味を与えている。動くものと言えば、水田地帯を貫く道路を、走り去って行く車のライトぐらいであった。
 それは、都会には都会の、田舎には田舎の、ルールで時間が流れていることを予感させる不思議な光景であった。

作者:ほむらもやし 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年9月25日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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