黙示録騎蝗~小を捨て大を取る

作者:長野聖夜


 昼にも関わらず、気を抜けば吸い込まれてしまいそうなほどに暗い闇を思わせる森の中。
 かまくらを思わせる土を固めて作られた住居の中で、息を潜める様に過ごすローカスト達。
 比較的平穏に暮らしていた彼等の基に、突如として数匹の攻撃態勢を取ったローカスト達が押し入って来る。
「な……なんじゃ、アンタらは……?!」
「我らが、大義黙示録騎蝗の為、貴様達には贄になって貰う!」
 指揮官と思しきローカストが部下と共にローカストを包囲し、力無きローカスト達に暴行を加え、鎖で一括りにして連行していく。
 連行された、その先で……。
「ぎ……ギャァァァァァ!」
「グ、グギャァァァァァ!」
「い、いやだ、いやだ、やめて、やめ……!」
 自らのグラビティ・チェインを搾り取られる激痛と悲鳴が木霊していた。 


「皆さん、この度はお集まり頂きありがとうございました」
 緊張した面持ちのセリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が現れたケルベロス達の前で一礼する。
 セリカの緊張した面持ちに、何か大きなことが起きようとしていることを直観的に感じ取るケルベロス達。
「ローカスト達が、下水道から侵入して広島市を制圧する大作戦を御呼応としていることが判明いたしました」
 これは、ノーザンライト・ゴーストセイン(のら魔女・e05320)さんの調査による功績です、とセリカが続ける。
「最も、皆さんとの戦いにより、此処に動けば各個撃破されてしまうことをローカスト達も学んだようです。今回の作戦は、グラビティ・チェインを枯渇させたローカストを使って事件を起こした特殊部隊、ストリックラー・キラーの総力を結集して行われるようです。その為……ストリックラー・キラーの指揮官も今回の作戦に参加しています」
 大まかな作戦の流れは、要約するとこうだ。
 多数のコギトエルゴズムを所持したストリックラー・キラーのローカストが枯渇状態のローカストと共に下水道から市街地に侵入。
 その後、人間を虐殺してグラビティ・チェインを奪取、そのグラビティ・チェインを利用して、コギトエルゴスムを新たな枯渇状態のローカストに変えて、戦力を雪だるま式に増やしつつ、広島市全域を制圧、数十万人の虐殺を行う。
「この作戦が実行された場合、都市制圧までに掛かる時間は24時間以内と想定されています。最も、今回は、事前に事件を察知する事ができた為、下水道内で敵を迎え撃てるのです」
 総力を挙げてと言いつつ実際には市内全域を同時に襲撃するために分散して行動するため、各班が実際に相手にすることになるのは、『ストリックラー・キラー』のローカスト1体と、グラビティ・チェインの枯渇したローカストの2体。
「尚、このチームで皆さんに相手をして頂く『ストリックラー・キラー』のローカストはミロスと言うそうです。また、ミロス達は決死の覚悟で作戦に挑んでいる様ですので、例え皆さんが待ち伏せていたとしても、逃げる事無く、皆さんを倒すべく最後まで戦うことになります。2体のローカストを相手取るのは厳しいとは思いますが、皆さんが敗北すれば広島市民に多大な犠牲が出てしまいますので、最善を尽くして欲しいのです」
 セリカの説明に、ケルベロス達が一通り理解を示した様子を確認したうえで、彼女は1つ息をつく。
「尚、2体のローカストを速やかに撃破する事ができたチームは、可能でしたら指揮官であるイェフーダーの元に向かって下さい。イェフーダーは下水道の中心点で、作戦の成り行きを伺っているようですので、多方向から包囲するように攻め寄せれば、退路を断って撃破出来るでしょう。そしてそれが出来れば、アポロンに、このような作戦を行う手駒がいなくなる為、ローカストの動きを制限する事になりますから」
 セリカの言葉に、ケルベロス達は其々の表情で返事を返した。

「今回は、皆さんが敵を待ち構えることが出来ます。ですので、地の利は皆さんにあります。戦う時の制約はありません」
 戦場について淡々と説明するセリカ。
「ですがミロスは、特殊部隊所属のローカスト。自らの体を毒を帯びた暗器として攻撃してきます。油断すれば、一瞬で身動きを取れなくされたり、幻惑を起こさせる毒による同士討ちを誘って来るでしょう。一方で枯渇状態のローカストの方は、巨大な羽根を拡げたカブト虫を思わせる外見で、角による一撃は全てを吹き飛ばす程ですが、グラビティ・チェインの枯渇により、まともな思考も出来ずにただ暴れ回るだけの様です」
 セリカの説明に、ケルベロス達が其々の表情で頷きを返した。
「今回の作戦に必要なグラビティ・チェインをアポロンが何処で手に入れたのかは不明ですが、この戦い、もし敗北すれば、多くの広島市民が犠牲になりますので敗北は許されません。……皆さん、どうかよろしくお願い致します」
 セリカの言葉に、ケルベロス達は其々の表情を浮かべて返事を返した。


参加者
シィカ・セィカ(デッドオアライブ・e00612)
緋々野・結火(爆炎の復讐鬼・e02755)
幌々町・九助(御襤褸鴉の薬箱・e08515)
ガンバルノ・ソイヤソイヤ(リペイント・e18566)
西院・織櫻(白刃演舞・e18663)
ティリクティア・リーズ(甘味大魔王なエルフ・e23510)
深海・小熊(旅館の看板娘・e24239)
クリームヒルト・フィムブルヴェト(輝盾の空中要塞騎士・e24545)

■リプレイ


「広島の人達を襲うなんて! 大勢の人が犠牲になる前に絶対に止めるわ」 
「はいはい、がんばりましょう」
 ティリクティア・リーズ(甘味大魔王なエルフ・e23510)の気概を聞かされた傍らでそれを和らげようとするかの様に軽く返すのは、ガンバルノ・ソイヤソイヤ(リペイント・e18566)。
 軽口の様にも聞こえるが、実際には神経を張り詰めており、広間市民の命を必ず護り通すという想いがある。
 ……正義の味方面なんて恥ずかしいから、口や表情には決して出さないけれども。
 ガンバルノ達の様子を観察しながら深海・小熊(旅館の看板娘・e24239)が、ぎゅっ、と強くお守りの首飾りを握りしめた。
(「絶対、勝とう……!」)
(「共食いで力を付けた後は市民の虐殺ですか。共食いで互いに果てればいいものを」)
 何時ミロス達が来てもいい様に双刀の濃口を切りながら西院・織櫻(白刃演舞・e18663)が溜息を一つ。
 害虫駆除の為、この刃を振るえる機会を得自体には、ある種の喜びを感じるが、いずれにせよ厄介事が増えたと言う事実は変わらない。
 其々に想いを再確認しているその間に。
 ――ザッ、ザッ、ザッ。
 地下に流れる濁流の音の中に、人のものとは思えぬ、足音が2つ。
「Hit! 皆さん、きましたヨー!」
 緋々野・結火(爆炎の復讐鬼・e02755)が呼び掛け、臨戦態勢を整える仲間達。
「キィィィィィ!」
 けたたましい音と共に、前を歩く甲虫と背後にいる蜂らしき外見を持ったローカストに逃げられぬ様、包囲網を敷いていく。
「逃がさないデ~ス!」
「待ち伏せ、か……」
 シィカ・セィカ(デッドオアライブ・e00612)の呟きに蜂の様なローカスト、ミロスが溜息。
「お前らに、五分の、気高い魂はあるか?」
 幌々町・九助(御襤褸鴉の薬箱・e08515)の問いに、甲虫が嫌らしい羽音を立てる。
 ……それは正しく飢えた獣の唸りの如し。
 ミロスもまた威嚇の様に羽音を立て、九助は彼等に五分の魂など欠片もないことを悟った。
「たらふく食いたいだけの害虫にはお引き取り願うぜ」
「それでは、地下ライブのスタートデスよー! レッツ、ロックンロール!」
 ギュイン、とギターを掻き鳴らすシィカに応じる様に。
「ガァァァァァ!」
 飢えた獣の如き甲虫が、頭頂部の角を突き出し突進した。


「皆様は、ボクが護るであります!」
 織櫻に突撃する甲虫に縛霊手ごと腕を貫かれ、その腕から滴る血に顔を顰めながら、城塞の如く踏み止まったのは、クリームヒルト・フィムブルヴェト(輝盾の空中要塞騎士・e24545)。
 縛霊手を甲竜タングステンに修復されながら、縛霊手の祭壇に祀られた紙兵を周囲に散布。
「さて、どこまで斬れますかね」
 ミロスの撃ち出した毒針が紙兵を易々と突き抜けて、織櫻の肩を貫きつつも、気にする様子も見せずに暗殺組織時代からの愛刀、櫻鬼に紫電を帯びさせ鋭い突きを甲虫に放つ。
「燃えろ」
 その刺傷を見逃さず結火がバスターライフルから凍結光線を発射。
 狙い過たず織櫻に貫かれた傷口を射抜き、内側からその身を凍らせる。
 火墨がポルターガイスト現象を引き起こし、下水を流れる木々を叩きつけて牽制攻撃。
「ファイヤ~デ~ス!」
 シィカが甲虫に接近して摩擦による炎を帯びたハイキック。
 叩きつけられた一撃がその角を蹴り飛ばし炎傷を負う甲虫。
「私達が失敗すると大変なことになってしまいますから……あなたがたには死んでもらいます」
 緊張から手に汗をかいているのを自覚しながら、ガンバルノがガトリングガンの照準を甲虫に定めて爆炎の魔力を籠めた大量の弾丸を掃射する。
 背後からの射撃に背を焼かれ、甲虫が寄生をあげた。
「キュァァァァァァ!」
「そこだよ!」
 痛みに喘ぐ甲虫をティリクティアが半透明の手の形をした御業で鷲掴み。
「鉄くん!」
 鉄くんが接近、鉄パイプで甲虫をタコ殴りにする間に小熊は自己暗示をかけていた。
「明日やる……明後日やる……今年中にはやろう!」
 大体3ヶ月とちょっと分位の気合いを籠めた大きさの火の玉を生み出し発射。
 大砲の弾位の大きさの火の玉が、甲虫にぶつかると同時に炸裂し、僅かに踏鞴を踏む甲虫。
「来世じゃもうちょい品良く生きな」
 黒翼を広げ、ライトニングロッドで左に傾きかけるバランスを上手に調整しながら、緩慢とした動きで上げた右の掌から光を放つ九助。
 呼応する様に、甲虫の足元に透き通った浄玻璃の灯が灯り、業炎と共に甲虫の身と飢餓に苦しむ魂を焼く。
 のたうつ甲虫の隙をつき、八重子が周囲に走る光の中で、ぼんやりと人魂を浮かび上がらせ、おぞましい声を周囲へと響かせた。
「その程度で、そいつを殺せると思うな」
 ミロスが怪しげな羽音を立てながら宙を舞う。
 下水道全体の空気が振動させる音が、ミロスが複数いるかの様な錯覚を与えかけるが。
「見るなであります!」
 織櫻の前に立ちはだかり、彼の身を守るクリームヒルト。
「鉄くん! お願い!」
 小熊の叫びに応じた鉄くんがシィナの前に立ちはだかり、更に八重子の前に甲竜タングステンが飛び出し、ミロスの動きを見せぬ様にする。
 庇ってその場に立ちつくす鉄くんの影からシィナが飛び出し、甲虫へと流星の如き勢いで踵落としを叩きつけた。
 その一撃が甲虫の足の一本を折る。
「キュァァ!」
 暴走する甲虫の寄生が衝撃波となり、シィナたちを襲う。
「嫌な音デース!」
「斬る分には支障はありませんがね」
 八重子の身を挺した庇いを受けた織櫻が、その影から飛び出し瑠璃丸で斬り上げる。
『空』の力を帯びた刃が氷を拡大。
「翼よ、治癒の光を纏うのです」
 連続した衝撃波にふらつきながらも、クリームヒルトが光の翼を広げ、シィナ達前衛の傷を癒す。
 我に返った鉄くんが再び鉄パイプで殴り掛かり、それを囮に、小熊が熟達した達人の一撃で甲虫の体を更に凍てつかせ、ガンバルノがゲシュタルトグレイブに雷を纏わせた突きを放ち、その身を貫いた。
「もう私の目の前で大勢の人達の命を失わせたりなんてしない!」
 かつて、目の前で大勢の仲間の命を奪われたと言う『罪』を肯定し、前へと進むと決めたメッセージを籠めたティリクティアの歌が八重子達の傷を癒し、活気を取り戻させる。
 ポルターガイスト現象を起こして甲虫を傷つけた八重子に合わせ、九助が時空凍結弾。甲虫の一部の時間を止め、その身を凍てつかせたところに、結火が地獄をバスターライフルから放たれる光条に纏わせその身を焼き尽くさんと射貫くと同時に、火墨が金縛り。
「ゴ~、ゴ~、デース!」
 甲竜タングステンからの属性インストールによる回復を受け入れたシィカがグラインドファイア。
 今度は炎を纏った回し蹴りを甲虫の脇腹へと叩き込んだ。
「キュァァァァァ!」
 緑色の体液を撒き散らし、炎傷と凍傷に苦しみながらも、甲虫は我武者羅に暴れ回る。
 これはまだ、倒すのにもう少し時間が掛かる、とケルベロス達は思わず舌打ちした。


 ――4分。
「“Blazing Divide X ” Ignition. ――灰と散れ」
 火墨の金縛りによりその動きを止めた甲虫の頭上……天井すれすれの高高度まで跳躍し、地獄の炎で分身を生み出し、回転を加えながら、分身と同時にドロップキックを叩きつける、結火。
 地獄の炎そのものである結火の分身と、結火本人の炎に焼き尽くされ、甲虫が炭化して力尽きる。
「……次は貴様だ」
「甲虫を潰した程度で、調子に乗るな、小娘」
 憎悪を帯びた眼差しでミロスを睨む結火を睨め付けながら、ミロスが一瞬でその姿を掻き消す。
 次の瞬間には、左前脚から何処か硬質な針を撃ち出し、ガンバルノを貫こうとしていた。
「!」
 半ば不意打ちのそれにガンバルノが迎撃を、とガトリングガンを構えたその時、目の前に『任せて』と言いたげな微笑みを口許に浮かべた八重子が躍り出た。
 石化針に貫かれて腕を石化させながら、ポルターガイスト現象で反撃する八重子。
「ありがとうございます、八重子さん」
 少しだけ嬉しそうな声音で礼を述べながら改めて爆発の魔力を籠めた弾丸を乱射するガンバルノ。
 八重子の影から飛び出して撃ち出されたその攻撃に、ミロスがその羽根を焼け焦げさせるその隙を縫って、九助が浄玻璃の灯を地面に展開。
「あんたみたいに汚い奴は、とっとと浄化されちまいな」
 吐き捨てる様に呟きパチン、と指を鳴らして罪、嘘、悪意を暴きミロスの身を焦がす。
「続きます」
 織櫻が瑠璃丸を下段から跳ね上げた。
 ミロスが咄嗟に後ろに飛ぶが、フェイントで空いた空間に織櫻が踏み込み櫻鬼に雷を纏わせその身を貫く。
 思わぬ奇襲に毒針を乱れ撃ちして攻撃を妨害しようとするミロスだったが、その毒針の群れを右に左に掻い潜り、シィカが星の力を帯びた飛び膝蹴りを腹部に決めた。
「ゲハァッ!」
 口から液体を吐き出すミロスを、小熊が惨殺ナイフに相手のトラウマを移し出して追撃し、鉄くんがかっ、とフラッシュを放ち、ミロスの視力を一時的に奪う。
「今よ!」
「了解であります!」
 ティリクティアが御業でミロスを鷲掴みにする間に、クリームヒルトが気力溜めで八重子を回復。
 甲竜タングステンもまた、属性インストールで先程から仲間を庇い、甲虫が倒れる前に放った一撃で負傷を重ねていたシィカの傷を癒している。
「おのれ……!」
 再び羽を振動させながら、周囲を飛び回るミロス。
 下水道の周囲の壁によって反射され、残響するその羽音が、まるでミロスが幾重にも分身しているかのような錯覚を与え、結火達の同士討ちを誘う様に幻惑してくる。
「凍れ」
 結火がバスターライフルから冷凍光線を撃ち出すが、その攻撃は……。
「惑わされるな、であります!」
 結火の光線から織櫻を庇ったクリームヒルトの叫び。
「!」
「この程度、何ともないであります!」
 息を呑む結火を一喝し、彼女の傷と催眠状態を癒すクリームヒルト。
「催眠は本当に厄介ね! でも、絶対に諦めないんだから!」
 クリームヒルトの凍てついた肩を気力溜めで溶かしながら、ティリクティアが息巻く。
 火墨が、結火を惑わされたことに怒りを覚えたか、ポルターガイスト現象でミロスを串刺しにし、織櫻が肉薄、上段から『空』の力を帯びた瑠璃丸で袈裟懸けに斬り裂く。
 よろめくミロスの羽音による被害を少しでも抑えるべく、羽を狙って九助が時空凍結弾。
 その羽を凍てつかせたミロスの身を八重子が心霊現象で締め上げる。
「そこデスねー!」
 幻惑の羽音を一時的に断ち切られ動きを鈍らせたミロスに、シィカが炎を纏った後ろ回し蹴り。
 ブゥン、と鈍い音と共に空を切った蹴打がミロスを炎で焼く。
「そこだね!」
 小熊が風のような速さでジグザグに走り回って攪乱し、惨殺ナイフで炎傷を広げる。
「ぐ……ぐぅ……!」
 やや苦し気なミロスに慈悲の一欠片もくれてやることなく鉄くんがボコスカと鉄パイプで殴りつけ、甲竜タングステンが封印箱に入り体当たりを繰り出す。
 体当たりによる一撃にミロスの体が傾ぐが、倒れることなく踏み止まった。
「ストリックラー・キラーの名に懸けて、この程度で倒れるものか……!」
 叫びと共にミロスが二刀による一撃を放とうとしていた織櫻に向けて、その体に隠していた石化針を撃ち出す。
 撃ち出されたそれを躱し切れず右足を射抜かれ石化させられながらも、右足を軸に左足で膝蹴りを叩き込むと同時に大上段に振り上げた双刀を振り下ろす織櫻。
 両翼を斬り裂かれ、負傷を重ねるミロスに、ガンバルノが稲妻突きでその身を麻痺させる。
「お返しだ。“Blazing Divide X ”Ignition」
 ミロスの更に高みに飛び上り、地獄を使用し分身を生み出した結火が回転を加えながらドロップキック。
 連携して火墨がミロスを金縛りに合わせシィカが惨殺ナイフにトラウマを生み出しミロスのトラウマを強く刺激する。
「痛いんだろ。苦しいんだろ。かっこつけんな」
 苦しげだが、立ち向かう姿勢を捨てないミロスに九助が言い捨ててジグザグスラッシュ。
 その氷と炎の傷を確実に広げた。
 八重子が周囲の瓦礫を叩きつけてその動きを阻害した所に、小熊が惨劇の鏡像でそのトラウマを抉り、鉄くんがピカッ、とフラッシュを放ち、更に負傷を積み重ねる。
「誰も倒れさせないであります!」
 クリームヒルトが決意を籠めて呟き、織櫻の傷を癒すべく気力溜めを使用し、立て続けにティリクティアの贖罪の祈りの籠められた歌がシィカ達前衛を癒した。
 甲竜タングステンがブレスを吐き出し、ミロスを焼いている。
「まだ……まだ……!」
 積み上げられたバッドステータスと負傷。
 それでも尚、ミロスは立っていた。

 ――ストリックラー・キラーとしての矜持を持って。


 ――7分。
 遂に、その時が訪れようとしていた。
「グッ……ググッ……」
 苦しげに呻きながら、最期の一撃とばかりに既に傷だらけの羽を鳴らしながら、幻惑する様に飛び回るミロス。
 だが……。
「そこまでだな」
 主を庇い、光となって消滅していく八重子の向こうから狙いを定めた九助が、時空凍結弾。
 それは羽を射抜き、その幻惑そのものを止めた。
「チャンスであります!」
 回復に徹していたクリームヒルトが稲妻突きでミロスを貫き。
 甲竜タングステンがそれに合わせて封印箱に入って体当たり。
 瀕死のミロスがその体当たりによろけた所を、織櫻が二刀霊衝波で残虐に斬り裂き。
「今ね!」
 ティリクティアが禁縄禁縛呪でその身を締め上げ。
「“Blazing Divide X ”Ignition」
 結火が地獄によって生み出した分身、そして火墨と共に上空からドロップキックで脳天を蹴り潰し。
「これで終わりデスよー!」
 地上に墜落するミロスにシィカが星屑を纏った蹴りで上空へとミロスを跳ね上げて。
「これは避けられません!」
 ガンバルノが大器晩成撃でその身を射抜いた。
 そのまま慣性の法則に従い落下してくるミロスに向けて。
「今なら行ける……! 行くよ鉄くん!」
 小熊が叫びながらジグザグスラッシュでその身を斬り刻むと同時に、鉄くんの鉄パイプがミロスの全身を滅多打ちにした。
「む……無念……」
 最期にそう言い遺し、倒れるミロスと甲虫の死骸からシィカがコギトエルゴスムを回収し、最低限の治療をすませて、周囲を確認。
 特に危険はないと判断し、そのままイェフーダーがいると思しき場所に向かって駆け付けた時、既にイェフーダーは力尽き、倒れていた。
 その様子を見て、ティリクティアが安堵の溜息をつく。
「イェフーダー戦には間に合わなかったけれど。何とか勝てたから良かったね」
 或いはもっと攻撃的な布陣であれば間に合ったのかも知れなかったが。
 ただ、1つだけ確実に言えることがある。
 
 ――ミッション、コンプリート。

作者:長野聖夜 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年9月27日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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