黙示録騎蝗~不撓にして不屈

作者:黒塚婁

●供物
 土を盛り固めた穴蔵の奥で、それらは用心深く息を殺してきた。
 それが破られる日がいずれ来るにせよ、このような形、相手であると――森深くに隠れ住むローカスト達は思いも寄らなかったであろう。
 鉛色に輝く一閃が、容赦なく入り口を破壊する。どうと崩れる土塊の向こうに、同胞であるはずのローカスト。
 驚きの視線を注がれながら、踏み込んだ彼は、無造作に脚を振り上げる。
 軽い動作であったが、それはローカストの腹を強か蹴り上げる。身体を折って吐瀉するその背を、更なる踵落としが襲う。突然の凶行を止めるべくすがりついた別のローカストも、鋭い蹴りによって顎を破壊される。
 いとも容易く。或いは、そう見えるほどに苛烈に同胞を一蹴したのは、特殊部隊『ストリックラー・キラー』のローカストであった。
 抵抗する力を失い、ぐったりとした相手の首を無造作に掴むと、それは囁く。
「喜べ。汝らのグラビティ・チェインは次の作戦に捧げられる。黙示録騎蝗の槍となれるのだ――大いに誇るがよい」
 そして、暴風が如き蹂躙の後、ローカストの小さな集落は無惨に破壊されたまま――誰も戻る事は無かった。

 施設を殷々と振るわせるは悲鳴。
 集められたローカスト達は施設の中でただただ命を搾り取られる。
 そこに誇りも喜びもあるはずもなく――彼らに許されるのは堪え切れぬ激痛に、ただ絶叫することのみ。
 
●地下決戦
「ローカスト達が下水道より侵入し、広島市を制圧するという策を立てていることが判明した」
 雁金・辰砂(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0077)は金の目を細めてケルベロス達を一瞥するなり、そう告げた。
 ノーザンライト・ゴーストセイン(のら魔女・e05320)の調査により明らかとなったこの作戦は、グラビティ・チェインを枯渇させたローカストを使って事件を起こした特殊部隊『ストリックラー・キラー』によるものだ。
 個別の襲撃ではケルベロスに阻止される事を学習したのだろう――今回の作戦では、指揮官であるイェフーダーも含めて、ストリックラー・キラーの総力を結集して臨むらしい。
 ストリックラー・キラーは多数のコギトエルゴスムを所持しているようで、枯渇状態のローカストと共に下水道から市街地に侵入、人間を虐殺してグラビティ・チェインを奪取、そのグラビティ・チェインを利用し、コギトエルゴスムを新たな枯渇状態のローカストに変えることで戦力を雪だるま式に増やしつつ、広島市全域を制圧、数十万人の虐殺を行おうとしているらしい。
 この作戦が実行されれば、都市制圧までに掛かる時間は二十四時間以内と想定されている。
「幸い、とすべきであろうな。今回は事前に事件を察知する事ができたゆえ、貴様らは下水道内で敵を迎え撃つ事が可能というわけだ」
 眉間に皺をよせ、辰砂はかく告げる。
 敵は市内全域を同時に襲撃するために分散して行動するため、各チームで『ストリックラー・キラー』のローカストと、枯渇状態のローカストの二体と戦う事になる。
 殊に『ストリックラー・キラー』のローカストは、相当の覚悟をもって作戦に挑んでいるらしく――ケルベロスが待ち構えていたとしても、逃げる事無く、ケルベロスを撃退して作戦を遂行する為に最後まで戦い続けるようだ。
 ――もし、ケルベロスがそれらに敗北すれば、広島市民に多大な犠牲が出るだろう。
 重く告げた辰砂は、一度口を閉ざし――強い視線をケルベロス達へと向けた。
「あるいは二体のローカストを速やかなる撃破に成功した場合だが――そのまま指揮官であるイェフーダーの元に向かってもらいたい」
 イェフーダーは下水道の中心点で、作戦の成り行きを伺っているようだ。これを多方向から包囲するように攻め寄せれば、退路を断って撃破する事が可能だ。
 イェフーダーを撃破できれば、今回のような作戦を行う手駒がいなくなる為、ローカストの動きを制限できるであろう。
 さて、問題のローカストであるが――。
 脚を強化したイナゴのようなローカストが一体。これが『ストリックラー・キラー』に所属するものだ。
 やや小柄であるが、優れた跳躍力を起点とした機動力が高く、なかなか捉えがたい。そして、刃のようになった両足から繰り出される蹴撃は、かなりの威力を誇る。
 付き従う枯渇状態のローカストは、ゾウムシのような姿をしている巨大な一体で、強化された装甲はあらゆる攻撃を遮断し、その身体そのものが武器となる。されど、その代償とも言おうか、グラビティ・チェインが枯渇しているためにまともな思考もできない状態である。
 戦闘地点は下水道の中でも開けた足場のよい場所だ。しかしケルベロス達にとって戦いやすいということは相手にとっても同じ事だとも言える。
 努々忘れぬよう、辰砂は告げる。
「死なば諸共、というのは傍迷惑な話だ――これ以上の犠牲を増やさぬよう、手を尽くせ」
 ――しかし、これほどの大規模な作戦を起こすためのグラビティ・チェインを奴らはどこから仕入れたのか。
 ぽつり、怪訝そうに辰砂はひとりごちた。


参加者
藤守・景臣(ウィスタリア・e00069)
ジョルディ・クレイグ(黒影の重騎士・e00466)
呉羽・律(凱歌継承者・e00780)
ムギ・マキシマム(赤鬼・e01182)
ライゼル・ノアール(仮面ライダーチェイン・e04196)
螺堂・セイヤ(螺旋竜・e05343)
ハンナ・カレン(トランスポーター・e16754)
富士野・白亜(白猫遊戯・e18883)

■リプレイ

●義憤
 薄暗い下水道に、高らかな足音が響く。あちらが積極的に攻めてくるならば、その気配を消す必要は無い。
 全力で駆ける彼らの足取りに迷いは無かった――資料で大まかな位置は把握しているのだ。
 それでも、いよいよ敵と衝突することになるだろうとされたポイントに近づくと、ケルベロス達の歩調は僅かに緩く、慎重なものになった。
 やや開けた戦いやすそうな地点で、彼らは一度脚を止める。
 ふう、と僅かな吐息と共に紫煙が昇る。
「やれやれ、この空気じゃ煙草も不味くなる」
 普段のスーツ姿ではなく作業着のような格好をしたハンナ・カレン(トランスポーター・e16754)は軽く肩を竦めた。
 例え開けた場所であっても、地上とは違い空気は澱み、閉塞感もある。
 周囲を警戒しつつ、彼らは暫し息を整える。
「ふむ……随分とえげつない手を使ってきましたね」
 ふと彼方へ送る菫青石の瞳を僅かに細め、藤守・景臣(ウィスタリア・e00069)が呟く。とはいえ、そこに感情的なものはなく、何となく感想を零した、といった雰囲気であった。
「仲間の酷い使い方は知ってたけど、ここまで行くともう何も感じないな」
 無表情に富士野・白亜(白猫遊戯・e18883)は告げる。無表情ではあるが――ぴんと立った白い耳は、怒りを示しているようでもあった。
「愚策……極まれり……」
 ジョルディ・クレイグ(黒影の重騎士・e00466)が吐き捨てる。言葉こそ短いが、そこに籠められた感情は明らかであった。
 うむ、と僅かに唸るような声が、応える。
「一発殴り飛ばしてやらねば気が済まん……!」
 怒りの感情を隠さず、螺堂・セイヤ(螺旋竜・e05343)は己の掌に拳を撃つと、前へと鋭い視線を投げた。
 腕を組んだまま堂と立つムギ・マキシマム(赤鬼・e01182)は、そんな友の様子に僅か頷く。
 余計な事を考える暇は無い――。
「俺はやるべき事をやるだけだ」
 仲間を、皆を信じて、この場を守ること。
 皆の意志が同じ所にあるような感覚に、戦意が高まりつつあったその時、
「あれは――」
 ライゼル・ノアール(仮面ライダーチェイン・e04196)が顔を上げる。傍にあるクサリサは、その声音に何かを察し、先に身構えた。
 凄まじい速度で近づいてくる、人よりもやや大きな影と、人と比べてもやや小柄な影――それはケルベロスが何かするより先、視認できる距離で脚を止めるなり、
「やはり、ケルベロスが立ち塞がるか」
 イナゴ型のローカストが知っていたと言わんばかりに言い放つ。その両足は薄い刃を幾重にも重ねたような、独自の形をしており、それでいて太さはかなりのものだった。
 片や、それのやや手前でぼんやりと立っているのは黒い装甲で全身を包んだような、ゾウムシ型のローカスト。腕や足を動かすための関節部分さえ、非常に頑丈そうなそれにとっては、枯渇状態で思考能力が鈍っていることも、欠点にはならないのやもしれぬ。
 それらを一瞥したハンナは、最後の一息を惜しむように細く吐くと、
「おっと、コイツは男前だ。下水が良く似合ってるぜ」
 吸っていた煙草をぴんと指で弾き、そちらへと飛ばし、シニカルな笑みを浮かべる。
 対するローカストも、低く笑った。
「随分な挨拶だ……だが、構わぬ。我らは貴様らという障害を乗り越え、先へ行かねばならぬ!」
 吼えた相手へ、それはこちらの台詞だと静かに返し、ライゼルは構える。
「悪いけどここで手間取ってる場合じゃぁないんだ。変身!」
 言葉と共に、ライゼファクターにチェーンキーを差し込み、姿を変じた。鎖を巻き付けた腕の炎が更に強く揺らめき燃える。
 舞台は整った――呉羽・律(凱歌継承者・e00780)は微笑を湛え、高らかに、凛と謳う。
「さぁ、戦劇を始めようか!」

●激突
 真っ先に飛び出したのは、セイヤだった。
 短い発声と共に、降魔刀「叢雲」が緩く孤を描く。ゾウムシのローカストは腰を低く落とし、両腕を交差させるようにして身構えた。
 説明されるまでも無い相手の姿勢に、彼も握りを強くする。
「受け止めてみろ……!」
 一喝するや、斜め下より節と節の間を狙い、鋭く斬り上げる。
 それの動きを彼が留めている間に、背後で影が動いた。
 一瞬で地を蹴り、天井を跳ね、真上より錐揉み仕掛けてきたイナゴを迎え撃つは、ドラゴニックハンマーを砲撃形態に変形させたハンナ。
 竜砲弾が空を裂き、下から迎撃する――ローカストの鋭い蹴りはそれさえも容易く斬り裂き、傷も無く着地した。
「暫くあたしらに付き合って貰うぜ」
 シニカルな笑みを口元に湛えたハンナの背後から、白亜がエクスカリバールを振り上げ、迫る。
 振り下ろされた強打は、軽やかな跳躍で繰り出された蹴撃で相殺され、そのままローカストは数メートル背後まで跳んだ。
「馬鹿は死なないと治らないんだろ? だから殴って治してやる。私と私の仲間の力でな――弱くても自分の役割でできることがあることをよく学んでから消えるといい」
 ぶん、と軽く薙いでエクスカリバールの先をそちらへ向け、白亜は告げる。
「我が嘴を以て貴様等を破断する! 征くぞ相棒!」
 咆えるように一声、ジョルディが駆け出す。
 瞑目して頷いた律は優しい声音で、日頃は腕輪として纏うオウガメタルを呼び起こす。
「ノク、力を貸してくれ」
 眩いオウガ粒子が周囲に広がり、仲間を包む。受け取ったジョルディの振り上げた巨大な刃を持つ漆黒の戦斧が、ルーンの力で更に強く輝き出す。
 それを気合いと共に、ゾウムシへと思い切り叩きつける。
 両者の周囲の足場を削っていくほどの強烈な一撃――更には相棒からのサポートを以て、狙いは確か。手応えもあった。
 しかし彼は人知れず渋面を作る――確りと守りを固めたローカストの装甲は未だ健在。目立った疵もないとなれば、これはなかなかに厄介なようだ。
 解っていた事であるゆえ、ケルベロスに改めて動揺が走ることもなかったが。
「お任せ下さい。1人たりとも倒れぬ様、皆さんが存分に戦える様、僕も最善を尽しましょう」
 景臣は仲間に、己に告げるように囁く。そして徐に眼鏡を外すと、ケルベロスチェインを地に広げ、魔法陣を描く。
「仲間はやらせない、その為に俺がいる」
 強く相槌ち、ムギがメタリックバーストを重ねる。
 仲間を包む銀色の光の向こう、
「鎖よ。ボクらに勝利を」
 左腕に巻き付けた鎖へ、ライゼルは勝利を願う祈りを捧げ――その力を解き放つ。
「守護の鎖よ。ここに!」
 集いて来たれよ偽腕の壁鎖――地獄化した腕から、数多の鎖が放たれ彼自身を包んでいく。合わせ、クサリサがジョルディと入れ替わるようにそれの背後に出現し、縛り付ける。
 一で強力な存在も、皆で力を合わせ、打ち破ってみせる。
 仲間とはそういうものだと証明してみせると、白亜は感情の伴わぬ赤い瞳でローカストを射貫くのだった。

●突破
 ローカストは、セイヤのスターゲイザーを両腕で受け流す。直後、細かい蜘蛛の巣状のヒビから、アルミニウム生命体が滲み出て、黒い装甲を包んでいく――間に、景臣が静かに距離を詰めていた。接近するまで気配を報せぬは、彼の技倆ゆえか。
 至近距離からの一太刀は身に纏った直後の銀色の装甲を剥がし取る。だが、未だ相手が倒れるほど追い込めてはいない。冷静に見極め、後ろに退こうとした瞬間。
「避けなっ!」
 ハンナの短い注意で、咄嗟に横へと飛び退いた。
 イナゴの刃のような足が、景臣の首があった位置で空を薙ぐ。空を裂いた一撃は、そのまま首元の薄皮を裂いたが、深追いを許さぬはハンナの後ろ回し蹴り。
「ちょいと揺れるぜ」
 更に、ぐるりと反対側からもう一撃、鮮やかに彼女の足技がローカストの頭部を捉え、背後へと吹き飛ばす。
「あたしも脚力には自信があるんでね」
 高く振り上げた姿勢のまま、金の髪が揺れる奥、赤い瞳を細める。
「助かりました」
 攻撃の勢いのまま下がった景臣は嘆息しつつ、首筋に流れる血を無造作に拭った。
 案ずるようなムギの視線を、手に隠していた暗器をちらりと覗かせながら、片手で制す。深手では無い、と。
 さて、戦況であるが――。
 開戦してから三、四分経ったか。ゾウムシ型の黒い装甲にはなかなか攻撃が通らなかった。ハンナと白亜で牽制しているとはいえ、イナゴ型の動きを完全に止められるわけではなく、幾度か回復に手を取られた事もある。
 それでも、集中的に攻撃を続けた結果、いよいよというところまで追い込んだ。
 全身に細かな疵が走るほどに追い込まれていようと、苦痛の声一つあげず、最初に向き合った時から変わらず、ただただそれは耐える。時にイナゴ型は攻撃の射線をそれに誘導するように動いても、その姿勢は変わらぬ。
 それはまさしく盾としての役割を全うしていた。枯渇状態にあるゆえ、不平不満など思う余裕もないだけやもしれぬが。
 ここまでやって、ローカストが辿り着く果てとは――。
「死に向かう行軍、としか思えないが……」
「ならば、速やかに終わらせてやるのがせめてもの情というもの」
 ぽつりと律が零すと、隣に立っていたジョルディが低く呟き、視線を送る。その意図を、相棒であらば、律は言葉にされずとも察した。
「行くよ、クサリサ!」
 鎖に彩られた白と蒼のライフル銃を構え、ライゼルがクサリサへ指示を出す――戦闘によってあちこちに散らばった瓦礫へ念を籠め、ローカストへ向けてクサリサが放つ。
 その瓦礫に身を潜めながら、数歩だけ彼は位置を変え、バスタービームを解放する。
 魔法光線はゾウムシが交差し構える腕を、真っ直ぐ貫く――銀色の光が僅かに耐えるように輝いたが、割れるような甲高い音の後、それの両腕は、肘から下を粉々に砕いた。
 好機、そんな一喝と共に重い地響きが、後方より轟く。
「HADES機関オーバードライブ! 最終形態『インフェルノ・フォーム!』オオオ! 滾る心が魂燃やし! 地獄の炎が悪を討つ! 受けよ超必殺!」
 叫び、コア機関を解放し――一時的に全身を地獄化させたジョルディが、一気に駆け抜ける。
 膨れあがった熱量を推進力に、弾丸のように彼はローカストの眼前へと踏み込み、速度、威力、全てを乗せた鉄塊の如き斧を下から上へと振り上げる。
「響け! 我等の攻凶曲!」
「第二楽章”煉獄”!」
 咆哮するジョルディに、集中を高めていた律の凛とした声が続く。
 地獄の炎を注がれた傷へ、解放された律の力が爆ぜる。元より身体の半分を縦に裂かれていたローカストは、内側からも粉砕され――残骸も残さず、焼失したのだった。

●行き着く果て
 縦に、横に、斜めに――ケルベロスに動きを読まれまいと、イナゴ型のローカストは跳躍する。
 その跳躍力が活かされるのは、直線を駆ける時も然り。目の前で軽く地を蹴ったそれが、ふっと消えたように加速し、気付けばその凶悪な脚が眼前に迫っている――瞬間、ムギは判断を下す。
 高く振り上げられた刃のような脚を、一息吐きつつ、胸で受け止める。脚が、心臓を貫くように。
 流石のローカストも、その対応には虚を突かれた――思わず零れた吐血が口の端を汚すも、ムギは笑った。
「悪いな、あいにく俺の心臓は地獄化してるんだ」
 そのままぐっと全身に力を籠めて、自慢の筋肉を引き絞り、脚を捕らえることで瞬間的に相手をそこへ縛り付ける。
「今だ! 仕掛けろ!」
 言われるまでもない、既にケルベロス達は取り囲むように展開していた。
「吹っ飛ばされないよう、堪えてな!」
 ハンマーを砲撃形態へ変じながら、ハンナが警告する。轟竜砲が空気を裂いて唸りながら、それへと迫る。
 衝撃の瞬間、上から黒い鉄塊が降ってくる――力任せに拘束を振り払うも、そのまま光に飲まれ、更にはジョルディのスカルブレイカーを躱せず受け止めることになる。
 肩に深い傷を負いながらも、無理矢理跳ね上がったそこへ、流星の輝きを纏う蹴撃が顎を捉えた。
「もうひとつ!」
 ライゼルの一撃で蹌踉めいたそれを、待ち構えていたのは白亜のハウリングフィスト。
 体勢を崩して地面を滑っていったローカストは、反動をつけて素早く身を起こす。だが今ので大分弱ったのか、大きく胸を上下させ、荒い息を吐いている。
 ムギもまた無傷とはいかず――心臓は問題無くとも、胸を穿たれた傷は残るのだから、当然だ――膝をついていた。
「まったく、無茶をなさるものです」
 呆れたような、愉快そうな、景臣の声音。
「無茶にも限度があるだろう」
 呆れているのは白亜。ふ、と笑むような気配がして振り返ると、
「剛勇に、幸あらんことを!」
 演技掛かった言葉で讃え、律が歌い出す。
「恵み豊かな陽の賛歌よ……我等を癒し給え!」
 テノーレの声色で豊かに紡がれる第二の凱歌は、陽のあたらぬ下水道においても、優しい陽光を心に宿す。
 歌の最中においても、みるみると癒やされていく傷を見――もう大丈夫だろうと、景臣はくるりと身を翻す。
 脅威的な瞬発力で急激に背後に迫っていたローカスト。それが、急に小さな鈍い痛みが走り、がくりと脚が止まってしまう。
「ご安心を――ただの『毒』ですよ。」
 それが攻撃に入るよりも一足先に、横をすり抜け背後に回り込んでいた景臣が、既に仕込んでいたのは暗器の一撃――ただ、デウスエクスさえも蝕む毒を仕込んだ、一撃。
 星葬によって、一時的に動きが鈍ったそれを追撃するは――。
「合わせろセイヤ、一気に決めるぞ!」
「ああ! 行くぞ!」
 回復したムギの声に、セイヤは応えながら、思い切り地を蹴り上げる。
「この一撃に迷いなし、筋肉は爆発だ!!!」
「打ち貫け!! 魔龍の双牙ッッ!!」
 全身を真っ赤に染め、心臓から地獄の炎が燃え上がらせたムギが、正拳を繰り出す。
 ただ鍛え抜かれた肉体を信じた、渾身の一撃。
 片や、漆黒のオーラを全身にみなぎらせたセイヤ――右腕のオーラは黒龍を象り、強打を叩きつけると同時、龍はローカストを喰らう。
 赤と黒の両者の拳が、それの胸を穿ち、巨大な穴を開けた。
「仲間に詫びて地獄へ落ちろ……!」
 身体を退き踵を返したセイヤの言葉に、にや、とイナゴは笑みを浮かべて、膝をつく。
「おお、これで……我が黙示録騎蝗は終わる……イェフーダー様、ご武運を……」
 倒れ込む鈍い音が響くと、二度とそれが動くことも無かった。

 死したローカストの剥がれた装甲の隙間から、いくつかの小さな宝石が見つかった。
 ――コギトエルゴスム。
 集めたそれら白亜がアイテムポケットに収納すれば、ここですべきことは終わりだ。
 その様子を見守りながら、ジョルディがぽつり零す。
「この者達と対話のできれば良いのだが……」
 答えは、出ようはずも無い――この戦争の果てが如何なる結末を向かえるのか。
 知らぬ儘、今はただ仲間を助けるべく、行くべき場所へと駆け出すのだった。

作者:黒塚婁 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年9月27日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。