黙示録騎蝗~闇から来たるモノを迎撃せよ

作者:香住あおい

 緑深い森の中。土を固めて作られた住居で息を潜めて暮らすローカスト達。
 ひっそりと暮らしていた彼らを突如襲撃するのは特殊部隊『ストリックラー・キラー』のローカスト。
「貴殿らのグラビティ・チェインは次の作戦のために必要となります。黙示録騎蝗のため、その身を捧げなさい!」
 押し入ってきたストリックラー・キラーのローカストは集落のローカストに暴行を加えたうえに、有無を言わさずに連れていく。
 連れ帰られたローカストは施設に集められ、そこからはグラビティ・チェインを搾り取られる激痛に耐える悲鳴が絶えず上がり続けることとなる。

 ヘリオライダーの御村・やなぎは深々と頭を下げる。
「それでは手短に現状を説明させていただきます」
 ノーザンライト・ゴーストセイン(のら魔女・e05320)の調査により、下水道から侵入したローカスト達が広島市を制圧しようとしている事が判明した。
 これは特殊部隊『ストリックラー・キラー』が行うようだと。
 今回は個別の襲撃でケルベロスに阻止されることを学習したようで、指揮官であるイェフーダーも含めて総力を結集しているらしい。
 ストリックラー・キラーのローカストは多数のコギトエルゴスムを所持しているようで、枯渇状態のローカストと共に下水道から市街地に侵入する。
 そして人間を虐殺してグラビティ・チェインを奪取し、それを利用してコギトエルゴスムを新たな枯渇状態のローカストに変え、広島市全域を制圧、虐殺を行うつもりのようである。
「これが実行された場合、制圧までにかかる時間は24時間以内。ですが、今回は事前に察知することができましたので下水道内で迎撃することができます。
 敵は市内全域を同時に襲撃するため、分散して行動いたします。そのため各チームは『ストリックラー・キラー』のローカストと、枯渇状態のローカストの2体と戦う事となります。同時に相手をしなければなりませんが、もし敗北すれば広島市民の皆様に多大な犠牲が出ることとなります」
 『ストリックラー・キラー』のローカストは相当の覚悟をもって作戦に挑んでいるらしく、ケルベロスが待ち構えていても逃げることはない。作戦を遂行すべく、最後まで戦い続けるようだ。
「それから、2体のローカストを速やかに撃破できたら指揮官イェフーダーの元に向かっていただきたいのです。可能で余裕がございましたら、ですけれども」
 イェフーダーを撃破することができれば、今回のような作戦を行う手駒がいなくなる為、ローカストの動きを制限する事になりそうである。
 イェフーダーは下水道の中心点で作戦の成り行きをうかがっている。多方向から包囲するように攻めれば退路を断って撃破することができるだろう。
「ローカストはどちらも前衛。攻撃特化のようですね。どちらも回復グラビティは使用せず、単体攻撃のみ。遠距離攻撃はなさそうです。
 枯渇状態のローカストはグラビティ・チェインの枯渇によりまともな思考もできない状態となっておりまして、燃費はあまり良くありませんが攻撃事態は強力です。
 ストリックラー・キラーは、特殊部隊のローカストのような能力で、こちらも強力かと思われますので油断はなさりませぬよう」
 戦闘場所は下水道の広くなった箇所。待ち構えることができるため、戦いやすい場所を選ぶことができる。
「広島の皆様を救うことができるのはケルベロスの皆様だけでございます。どうぞよろしくお願いいたします。そして、どうかお気を付けて」
 やなぎは深々と頭を下げた。


参加者
福富・ユタカ(殉花・e00109)
平・和(平和を愛する脳筋哲学徒・e00547)
イグナス・エクエス(怒れる獄炎・e01025)
鏑木・蒼一郎(ドラゴニアンの執事・e05085)
柳橋・史仁(黒夜の仄光・e05969)
ヴァルリシア・ゲルズ(シャドウエルフのウィッチドクター・e11864)
天照・葵依(蒼天の剣・e15383)
レスター・ストレイン(デッドエンドスナイパー・e28723)

■リプレイ

●下水道にて
「ダモクレスの次はまたローカストか……忙しないものだな」
 あらかじめ用意していた下水道の地図を見ながら天照・葵依(蒼天の剣・e15383)は言った。ボクスドラゴンの月詠はそんな彼女を見て白い頭を傾げた。
 広島市の地下に張り巡らされた下水道。ケルベロス達は2体のローカストを撃破すべく待ち構えている。
 平・和(平和を愛する脳筋哲学徒・e00547)は地図を見ながらスーパーGPSを使用して現在地を把握している。その腰にはランタン型懐中電灯。
 敵の襲撃を阻止するのは当然として、その研究者気質からコギトエルゴスムを回収して研究に回したいと密かに考えていたりもする。
 殺界形成を使用して万が一のために一般人を遠ざけるヴァルリシア・ゲルズ(シャドウエルフのウィッチドクター・e11864)。他のチームとやり取りできるよう、下水道で使用できる通信機器を持ち込んでいる。
「広島の人達は25年ぶりのお祝いに沸いている所。水を差すような真似はさせません」
「市民を虐殺させるわけにはいかないんだぜ! 折角野球で優勝セールやってるのにさ」
 ヴァルリシアに同調するようにイグナス・エクエス(怒れる獄炎・e01025)が言う。彼もまた、必要な情報を伝達すべくアイズフォンを用意していた。また、R.F.NVゴーグルで暗所にも対応できるよう準備している。
 いつも隠しているシリトンの瞳を、いつでもグラビティが使えるようにとゴーグルを外して福富・ユタカ(殉花・e00109)は歩く。ライトを用意し、下水道の地図で経路を把握する。その表情にいつものゆるふわ感はなく、市民の命がかかっていることもあり、真剣そのもの。
 それは鏑木・蒼一郎(ドラゴニアンの執事・e05085)も同じだった。それに加えて、彼らのやり方を見るにここを防げば大打撃を与えられると踏む。そして完膚なきまでに叩き潰してやろうと決意している。
 レスター・ストレイン(デッドエンドスナイパー・e28723)もまた市民の虐殺の阻止を誓う。それは彼の贖罪。かつての自分が行ってきたことの償いのため、彼は行き場を失くしたローカスト達を倒そうとしている。
「次はこっち。この先は足元が少し悪くなっている」
 皆の先を行く柳橋・史仁(黒夜の仄光・e05969)。夜目が利くこともあって先導している。地図をもとに、戦場となりそうな場所のあたりをつけて待ち伏せをする。
 今回はあちら側も待ち伏せられているとわかっていても逃げることはない。ケルベロス達は身を隠すことなく、ローカスト達を待ち構える。
 そして、それはやってきた。

●迎撃
「待ち伏せですか。面白い」
 ストリックラー・キラーはケルベロス達を見渡しながら言った。余裕がありそうな堂々とした立ち振る舞いは虚勢にも見える。
 その傍らには枯渇状態のローカスト。ストリックラー・キラーと比べると明らかに顔色が悪いが、凶暴性は増しているような外観。
「我々は引くわけには行きません。さあ、いざ尋常に勝負です!」
 そう言うなりストリックラー・キラーは高々と跳躍して史仁へ蹴りを放った。
 枯渇状態のローカストも合わせるように牙を伸ばしてイグナスへ狙いを定め、2本の牙が彼を襲う。
 2人ともディフェンダーであるために受けるダメージは通常より少なくなっているとはいえ、放置できるほどのものでもない。
 葵依と月詠はそれぞれ史仁とイグナスの治癒に即座にかかる。
「天かける龍よ、猛る獣よ! 今こそ来たりて、我が敵を討払い給え!――遠慮は無用だ! 受け取れ!」
 蒼一郎が真・雷帝を放った。全身に帯電させ、それを額の角に集中させてから撃ち出す。それはローカストに着弾し、一瞬だけぼわっと燃え上がった。
 炎が消えればイグナスが大量のミサイルをローカストへと放つ。前列を巻き込むそれはローカストだけでなくストリックラー・キラーへもダメージを与えた。
 続けてユタカは惨殺ナイフの絶てば芍薬を煌めかせたかと思えば、卓越した技量から繰り出される達人の一撃。
「ざんねーん! お前達の作戦もここでお終いだー!」
 ユタカが切り裂いたローカストを捕食モードへ姿を変えたブラックスライムで捉える和。
 咀嚼を終えたかのように吐き出されるローカストへとレスターが両手に持ったバスターライフルから光線を放った。殲滅するかの如く、ストリックラー・キラーも巻き込む。
 その間に史仁は戦言葉で自身を癒すとともに、力ある言葉によって自己暗示を掛けて己の肉体を硬化させる。
 レスターの放った光線が止めば飛び上がったヴァルリシアがローカストを蹴り付けた。
 蹴飛ばされたローカストは転がってストリックラー・キラーの足元へ。ローカストを引っ張り上げるとストリックラー・キラーは腕からカマキリの刃のような鎌を展開させると和めがけて突撃してくる。しかしそれをイグナスがかばいに入る。
 次いで形成を立て直したローカストもイグナスを狙って腕から展開させた鎌で斬り付けた。
 ローカストが飛び退けばすぐさま葵依が白いマインドリングを掲げてマインドシールドを出現させ、イグナスを防護させると同時に鎌によって与えられた傷を癒す。
 光の盾が展開する側をすり抜けて蒼一郎はローカストへ指天殺を繰り出す。
「お前の気脈を封じる!」
 指一本で気脈を断たれたローカストは一瞬、動きを止める。
 その隙を逃すことなく、ユタカは鋼の鬼と化したオウガメタルでローカストを殴り付けた。
「トップギアで行かせてもらうぜ! これが俺のアクセラレーションファントムッ!」
 イグナスの加速幻影(アクセラレーションファントム)は炉心のエネルギー出力を高める事で全身の反応速度を一時的に跳ね上げ、尚且つ地獄の炎を推進力とし、その際一種の陽炎現象を引き起こす為分身の様な多数の幻影も生み出し相手の虚を突く妙技となる。これによって傷を回復させるとともに集中力を研ぎ澄まして命中力を向上させた。
 ローカストへと古代語の詠唱を向ける史仁。魔法の光線はローカストを穿つ。
 光線に撃たれたローカストを和は稲妻突きで突く。超高速で繰り出される突きはローカストの神経回路を麻痺させ、動きを止めることに成功した。
 地獄の炎をライフルに宿してレスターは焼き尽くすように引き金を引いた。
 炎が消えればヴァルリシアが縛霊手で殴り付け、網状の霊力を放射してローカストを緊縛する。
 麻痺に加えて緊縛されたローカストは動くことができない。
 だが、動作に支障のないストリックラー・キラーはイグナスを狙う。
 必殺のキック攻撃を受けたイグナスに対して葵依はマインドシールドを、月詠は自身の属性を注入させて受けた傷を治す。
 身動きが取れないローカストへとケルベロス達の集中攻撃が行われる。
 無論、ストリックラー・キラーだけでなく枯渇状態のローカストも攻撃できる状況にあればケルベロス達への攻撃の手は休めない。
 しかし手を休めることなく治癒をする葵依と月詠、そしてレスター、イグナス、史仁が代わる代わる攻撃をかばいに入ってダメージの軽減と分散化をしたおかげもあり、徐々にケルベロス達が優位な展開へともつれ込む。

●死闘
 大きく戦局が動いたのは、葵依が神器開放:蔦ノ花神(ジンキカイホウツタノハナガミ)を使用した後から始まる。
「蔦を司る申の神よ! 今こそ白雪に咲き添いて、枯れたる苦界を潤わさん! いざや聞こし召せ蔦ノ花神!!」
 癒しの花は蔦を伸ばして離れた場所にいる仲間を癒す。
 動くことのできないローカスト達。うち、枯渇状態のローカストは集中して狙っていたおかげもあって瀕死の状態である。
 体勢を整え直したケルベロス達は一気にたたみかける。
「お前の魂も、食らってやろうか!」
 蒼一郎は降魔真拳でローカストを殴りつける。
 のけぞったローカストをストリックラー・キラーともどもイグナスのマルチプルミサイルが襲い、それをくぐりぬけるようにユタカが駆け抜け、戦術超鋼拳で殴り飛ばした。
「逃さん。その命、どこまで輝くか」
 屑星魔法、砂の隠者(ザ・ハーミット・オブ・サンド)。史仁が作った幾多の星形多面体は空に届かず浮くと軌道を描き、ローカストへ衝突、爆発した。
 それに巻き込まれぬよう、和は熾炎業炎砲で狙い撃つ。半透明の御業が放った炎弾はローカストを焼く。
 レスターもダブルバスタービームで追撃すれば、ローカストに残された体力は残りわずか。
「貴方が犯した罪に相対する時が来ました! 自分の過去に向き合ってください!」
 ヴァルリシアの月天使の鏡(サリエルノカガミ)がローカストへと向けられる。サリエルの名の許に呼び出した鏡によって犯した咎と犠牲になった人達の幻を見せつけられたローカストは言葉にならない呻き声を発するとそのまま動かなくなり、機能を停止してしまった。
 これで、残るはストリックラー・キラーのみ。形勢は明らかに不利だが、彼は諦めることはしない。命を賭してでもケルベロス達を一人でも多く始末すべく戦う。
 腕から刃を展開させてユタカへ斬り付けようとするが、そこへイグナスが素早くかばいに入った。それも葵依の手によって瞬く間に回復していく。
 蒼一郎は真・雷帝を放った。額の角に集中させた雷を放てば燃え上がるストリックラー・キラー。
 燃え上がるそれをイグナスがドラゴニックハンマーを振り回してアイスエイジインパクトを放つ。すぐさま炎ごと凍結させられたストリックラー・キラーとユタカが目を合わせれば、散り故く橙によって鋭く斬り裂かれた。
 その箇所をなぞるようスターゲイザーに史仁の稲妻突きが繰り出される。それは神経回路を麻痺させるもの。
「知恵を崇めよ。知識を崇めよ。知恵なきは敗れ、知識なきは排される。知を鍛えよ。知に勝るものなど何もない。我が知の全てをここに示す」
 和が朗々と詠唱し、ストリックラー・キラーの頭上に練成するのは一冊の本。己が全知識が詰まった重量感あふれるそれは、質量でもって痛恨の一撃を加える。無論、落ちるのは角で。これぞ彼の放つ全知の一撃(ディクショナリー・クラッシュ)。
「痛いところ悪いけどまだまだいくよ。ここがデッドエンドだ!」
 顔の右半分に紋章の刺青が浮かび上がったレスターは終止路の死十字(デッドエンド・スナイプ)を放つ。特殊な呪文が刻まれた魔弾を撃ち、射程圏内に結界を張る。結界の中では自由自在に魔弾を操り、追撃する事が可能であり。ストリックラー・キラーは無数の魔弾に撃ち抜かれる。
 結界から解放されればすぐさまヴァルリシアが飛び蹴りを炸裂させた。
 蹴られて立ちあがる事ができないストリックラー・キラーへの追撃の手は緩まない。
 葵依はブレイブマインを使用して前列の士気を高めて攻撃力を上昇させる。
 それを受けて蒼一郎は指天殺で、イグナスはフレイムグリードで攻撃を仕掛ける。
 燃え上がる炎を広げるのはユタカ。史仁も砂の隠者による火力でダメージを与える。
 さらに和が熾炎業炎砲で炎を付与し、ストリックラー・キラーは火だるま状態。
 レスターのバスターライフルから放たれる巨大な魔力の奔流にも包まれたストリックラー・キラーをヴァルリシアはシャドウリッパーで密やかに掻き斬る。
 虫の息であるにも関わらずストリックラー・キラーは攻撃を仕掛ける。
 高々と跳躍したキック攻撃は史仁が受け、その傷も葵依がすぐさま癒す。
 蒼一郎の真・雷帝に撃ち抜かれてイグナスのアイスエイジインパクトで超重の一撃を喰らったストリックラー・キラーの目前にはユタカ。
「逃がさねぇよ」
 瞳が輝き、鋭い眼光で相手を切り裂く散り故く橙。発光する瞳の色は、鮮血すら橙に染まってみえる。
 自らの返り血で染まったストリックラー・キラー。
 力なく倒れ込み、二度と起き上がる事はなかった。

●残されたモノ
 多少時間はかかったものの、ケルベロス達は無事に2体のローカストを撃破することができた。
「ローカストの残党はまだ残っている……気を抜くことは出来ないな」
 葵依は仲間が戦闘中に受けた傷を完全に治癒させ、そう呟く。
 コギトエルゴスムを捜索、回収する仲間達を見ながらヴァルリシアはこれだけのグラビティの出所を考える。
「まさか戦えない味方のグラビティを使った……流石に敵とはいえ此れはないですよね」
 思うところがあるのはイグナスも同じようで。
「枯渇してた奴らは助けを求めてる様にも見えなくもなかったな? コギトエルゴスムを回収しておくが、……まさかな」
 イグナスは戦うことのできなくなった仲間を犠牲にしたのかと疑念を抱く。
「コギトエルゴスム、ゲットー!」
 舐めるように探し回っていた和は探し求めていたものを見つけて高々と掲げた。
「生き残った彼等にも新たな人生を歩んでほしいのだが……」
 コギトエルゴスムを眺めながら、そして自身の境遇を思いながら史仁がどこか寂しそうに呟いた。
 同じく思うところがあるレスターも複雑な視線でコギトエルゴスムを見る。
 そんな折、イグナスのアイズフォンに連絡が入った。それはイェフーダー撃破の報告。
 少し遅れてヴァルリシアの通信機器にも連絡が入る。
「どうやら終わったようでござるな」
 コギトエルゴスムを回収していたユタカは報告を聞くなり安堵したように言うと前髪で特徴的な瞳を隠す。
 蒼一郎も一息ついて胸ポケットに入れた懐中時計を見やる。
 こうして、ケルベロス達は無事にストリックラー・キラーと枯渇状態のローカスト、及びイェフーダーの撃破に成功したのだった。

作者:香住あおい 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年9月27日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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