黙示録騎蝗~背水の陣

作者:ハル


 木々が生い茂る深い森の中には、肩を寄せ、息を潜めるようにしてローカスト達が暮らしていた。
 そこは、ローカスト達の集落の一つ。また、戦闘能力が低いゆえに、前線で活躍できない者達の集まりでもある。だが、胸に抱く武人としての誇りは、他のローカスト達に劣るものではない。
 しかし――――。
 集落の土で作ったような原始的な彼らの住居を破壊しつつ、そこへ押し入ってくる者らがいた。敵襲かとローカストは身構えるが、目の前にいたのは彼らと同種のローカストであった。
「喜べ! 無能の貴様等にも、ようやく役割が与えられた!」
 ニヤリと口端を歪めて言うのは、『ストリックラー・キラー』のローカスト。
「貴様等のグラビティ・チェインは、次の作戦の礎となる! 無論、それは黙示録騎蝗のため! 今こそ泣いて喜び、その身を捧げよ、無能共よ!」
 そして、告げられるのは、一方的で無慈悲な宣告。
「ギャアアアアッッ!」
「グヒイイィィッッ!」
 力の劣る集落に住むローカストには、抵抗も逃走も許されない。
 無残な、ただ一方的な暴虐がローカスト達を襲った。

 さらに、
「ギ、ギギギギッッ! イ゛イ゛イイイイイッッ!」
 無力なローカスト達が、同胞のはずの『ストリックラー・キラー』のローカストへと連れてこられた施設では……。
 ただでさえ傷だらけの身体に、グラビティ・チェインを搾り取る苦痛でさらなる鞭を打たれ、いつまでも、いつまでも激痛に耐える悲鳴が轟いているのだった……。

「ノーザンライト・ゴーストセイン(のら魔女・e05320)さんの調査により、ローカスト達が、下水道から侵入して広島市を制圧する大作戦を行おうとしている事が判明しました……」
 そう告げるセリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)の声は、どこか緊張を感じさせるものだった。
「この作戦を起こそうとしているのは、以前にも皆さんと剣を交えた、特殊部隊『ストリックラー・キラー』のようです」
 個々での襲撃に限界を感じたのか、今回は指揮官イェフーダーも含めて、総力を結集している。
「『ストリックラー・キラー』のローカストは、多数のコギトエルゴスムを所持しているようで、枯渇状態のローカストと共に下水道から市街地に侵入し、人間を虐殺してグラビティ・チェインを奪取、そのグラビティ・チェインを利用して、コギトエルゴスムを新たな枯渇状態のローカストに変えて、戦力を雪だるま式に増やしつつ、広島市全域を制圧、数十万人の虐殺を行うのが、今回の計画のおおまかな流れのようです」
 作戦が実行された場合の都市制圧までに掛かる時間は、おおよそ24時間程度。
「今回は事前の察知によって、敵を下水道内で迎え撃つことができるのが、唯一の救いですね」
 だが、油断は禁物。なぜならば、ケルベロス各チームは、『ストリックラー・キラー』のローカストと、枯渇状態のローカストの2体を相手取ることになる。
「『ストリックラー・キラー』のローカストは、相当な覚悟を背負って今作戦に望んでいるようで、皆さんと相対しても逃走する事なく、何が何でも作戦を完遂しようとするでしょう。説明した通り、2体同時に相手をすることになります。敗北すれば、広島市民に多大な犠牲が出ることは必至です。最善を尽くしてください!」
 また、
「2体のローカストを速やかに撃破し、かつ被害も少ない状況であれば、可能なら指揮官であるイェフーダーの元へと向かって欲しいのです」
 イェフーダーは下水道の中心点で、作戦の成り行きを伺っている。多方向から包囲するように攻め寄せれば、退路を断って撃破する事ができるだろう。
「イェフーダーを撃破できれば、今回のような作戦を行う指揮官が不在となるため、今後のローカスト達の動きに制限を加えることができます!」
 そこまで言って、セリカは資料を配った。
「『ストリックラー・キラー』のローカストは蜘蛛の姿をしています。刀のように鋭い八本の脚による攻撃、敵の動きを拘束するといった戦法に長けています。対照的に、筋肉の鎧を纏ったようなバッタ型である枯渇状態のローカストは、噛みつきに鋭い蹴りと、力一辺倒といった感じですね。力は強力ですが、グラビティ・チェインの枯渇によって、まともに思考ができない事もそれに拍車をかけているのでしょう」
 戦闘場所ついては、問題なくケルベロス達が待つ構える事ができる程度には、少し広くなった場所となっている。
 場所柄、何らかの視界を保つための手段を所持しておくのも、いいかもしれない。
「敗北は、許されません。そうなれば、広島市民に多大な犠牲が……」
 だが、
「もしイェフーダーを倒すことさえできれば、大きな進展が期待できます! だから、皆さん! どうかよろしくお願いします!」


参加者
シィ・ブラントネール(そして笑ってもう一度・e03575)
ブリキ・ゴゥ(いじめカッコ悪い・e03862)
ルチル・ガーフィールド(シャドウエルフの弓使い・e09177)
高辻・玲(狂咲・e13363)
マーシャ・メルクロフ(月落ち烏啼いて霜天に満つ・e26659)
キーア・フラム(黒炎竜・e27514)
プラン・クラリス(愛玩の紫水晶・e28432)

■リプレイ


 薄暗い下水道内を、蜘蛛の鋭い八脚と、強靱なバッタの足腰が跋扈する。
 その蜘蛛――刀蜘蛛のストゥーナの赤目に宿るのは、自負と覚悟。
 対照的に、その隣を進撃するバッタ型ローカストは、知性と理性のない瞳をどこまでも濁らせ、口端からダラダラと涎を垂らしていた。
 その時――!
 風を切るナニかがストゥーナへと迫る。薄暗い視界に気を取られ、一瞬そのナニかに対するストゥーナの反応が遅れた。
 気付いた時には、無音のままに息を潜めて接近したブリキ・ゴゥ(いじめカッコ悪い・e03862)の電光石火の蹴りが、ストゥーナの腹部を打ち抜いていた。
「グゥ!」
 ストゥーナは、苦悶の声を上げて身を折り曲げる。
「道なくば道を知り、欲すれば我が歩を道とする」
 ちょうどいい位置にやってきた頭部に向かって、マーシャ・メルクロフ(月落ち烏啼いて霜天に満つ・e26659)は、戦場に道を作る進撃の一太刀をまずは一手ストゥーナに浴びせる。
「来たれ雷公」
 また、その隣ではローカストを相手に高辻・玲(狂咲・e13363)が牽制とばかりに護符を一片翳し、紫電一閃! 迅雷の一撃を繰り出していた。
「何ヤツ!?」
 さすがというべきか、ストゥーナは傷を負いつつも、いち早く体勢を整えている。
「灯りを!」
 奇襲もここまでと判断した玲が、背後に声をかけた。
 同時に、薄暗かった下水道内に光が灯る。光源は、ルチル・ガーフィールド(シャドウエルフの弓使い・e09177)とプラン・クラリス(愛玩の紫水晶・e28432)が持参したランタン。
 アリア・ウルストンクラフト(酔刃・e05672)とマーシャ・メルクロフ(月落ち烏啼いて霜天に満つ・e26659)も用意してあった。
 ルチルは手にしてあるランタンを地面に置くと、両手を広げ、目を瞑って念を送り始める。
「ふふふ・・・…♪ こういうフィールドでの この子たちのサポートは、最高値ですよぉ~♪」
 ルチルの身体は、地より湧き出た焔によって照らし出された。
「……ケルベロス!!」
 忌々しげに、様々な心情を込め、ストゥーナはその名を呟いた。
「さぁ、行くわよ……キキョウ、オーガ! アイツを叩き潰すわ……!」
 キーア・フラム(黒炎竜・e27514)の瞳は怒りで燃えている。同胞にすらその刃を向ける非道さは、決して許せるものではない。
 キーアは稲妻を帯びたゲシュタルトグレイブをストゥーナへと高速で繰り出す。その突きは見事にストゥーナの脇腹を帯電させながら抉り取るが、同時にキーアにはローカストの必殺の蹴りが迫っていた。
「任せて!」
 その蹴りをプランが両腕を盾にして抑え込む。
「そこか! ケルベロス!」
「プランの前に、ボクの屍を越えて行け、ってね」
 キーアを庇うプランに、間髪入れずストゥーナの刀身のような脚が襲う。だが、そうはさせまいと、アリアの稲妻を帯びたゲシュタルトグレイブがそれを迎撃した。
「贈り物よ、受け取ってくれるかしら?」
 組み合い、鍔迫り合いながら火花を散らすストゥーナとアリア。そんなストゥーナの側面から、シィ・ブラントネール(そして笑ってもう一度・e03575)の空間連結による遠隔攻撃術が炸裂する。
「(奇襲は成功……ね)」
 だが、ローカストの蹴りを防いだプランの両腕には、まだ微量の痺れ。やはり、攻撃力は並大抵ではない。
「(だけど、まずは……)」
 プランはローカストではなく、ストゥーナに視線を固定すると――。
 裂帛の叫びを共に、気合いを入れ直すのだった。
 

 戦闘開始から、数分。互いに傷は負っているものの、致命打までは至っていない。
 だが、そんな状況においても、
「クハハハっ! 所詮はその程度か、ケルベロス!」
 ストゥーナは勝ち誇るように哄笑していた。
 その理由は明白。
「……手強い」
「あの太刀、かなりの業物にござる……。打ち合いになればこちらが不利。ここは1度撤退を……」
 玲とマーシャが悔しそうに呟く。
「……こんな相手に本当に勝てるの?」
 プランは服を破かれ、晒された肌を隠すように押さえながら、涙目でストゥーナを見上げている。
「クックククッ!」
 そのケルベロスの反応に、ストゥーナは改めて堪えきれぬと笑みを深め、後ずさるキーアへと近づく。
「そろそろ死ぬがいい。無能共よ!」
 喜色一面で、ストゥーナはキーアの急所を狙って脚を振り下ろした。いたぶってやろうという思惑が透けて見えている。
 そんな油断の対価は、この場においてたった一つ。
「今よ!」
「ぬぅ!?」
 突然の変化に、ストゥーナが目を見開くのも束の間。
 キーアの合図と同時、ストゥーナの脚を玲が刀で受け止める。そして、弱気を強気に反転させたキーアがその腹部を「鋼の鬼」と化したオーガで打ち抜いた。
「ガハァ!?」
 血反吐を撒き散らしながら、ストゥーナの身体が浮き上がる。
 そこへ、シィの流星の煌めきの如き蹴りが炸裂し、ストゥーナは下水道の壁面へと叩き付けられた。
「あとはお願いします、マーシャさん!」
「これはルチル殿! 応とも、任せるでござる!」
 ルチルによって、マーシャには魔法の木の葉が纏わせてある。それにより、八人の中で最も攻撃力の秀でるマーシャに、万全で挑ませようという意図。
 対するストゥーナも、弧を描く斬撃で応戦しようとするが、マーシャはそのすべてを捌ききり、
「覚悟!」
 空の霊力を帯びた斬霊刀で、ストゥーナの傷だらけの肉体を的確に斬り広げ、息の根を止める。
 その時!
 最も消耗していたブランに、ローカストの牙が襲いかかる。
「う゛っ……あ゛!」
 首筋を抉られながら、ブランは壁際に追い込まれた。
「プラン嬢! く、させるかっ!!」
 涼しい顔に怒りを混じらせ、玲の雷の霊力を帯びた神速の突きがローカストを穿つ。
 ローカストもまた、理性のない瞳で再び攻撃に転じようとするが……何か様子がおかしい。身体を硬直させていた。
 その理由を度々ローカストに牽制を繰り返していた玲が気付く。
「畳みかけるんだ!」
 玲の声。ローカストは攻撃力を犠牲にして、耐久性が低い。
 ならば、ここで!
 ブランがファミリアロッドを白い蝙蝠の姿に戻し、魔力を込めて射出する。
 白い蝙蝠の直撃を受け、よろめくローカスト。そこへ、アリアの捕食モードに変形させたブラックスライムが大口を開けて襲いかかる。
「まず感じたのは『空腹』――求めしものは未知の味覚 ああなぜ全てが食材に見えるのだ。強敵よ 汝のフルコースで胃袋を満たさん」
 連撃を受け、苦痛に悶えるローカストに、ブリキは馬乗りの体勢をとる。食道楽の原罪により、今ブリキには眼前のバッタがご馳走に見えているのだ。ブリキはジュルリと唾液を啜ると、
「オレサマ、オマエ、マルカジリ」
 そう告げながら、ローカストに喰らいついた。
 そうしてバッタ型ローカストは、肉片一つ残さずに、ブリキの腹の中に収まるのであった。


 他班との連絡を終え、最低限の態勢を整えながら、玲、マーシャ、キーア先導の元、ケルベロス達は、ついに下水道の中心点に到達する。
「……見つけたよ!」
 普段は口数の少ないプランの口から放たれる、鋭い声。
 現場には、イェフーダーの他に、三体のストリックラー・キラーとディクトデアの姿があった。 
「仲間が?! それも、四体もですか!?」
 ブリキは思わず歯嚙みした。だが、ここは敵の拠点。最も防備が堅い場所なのだ。
 そして――。
「あれが先程連絡してくれた白神・楓(魔術狩猟者・e01132)さんの部隊ですね!」
 ルチルの視線の先。そこには、ストリックラー・キラーとディクトデア相手に奮闘する先行部隊の姿。その旗色は、遠目に見ても悪い。
 だが、同時にイェフーダーも孤立していた。
 思考は一瞬。
「行くわよ!」
 キーアの迷いのない声が響き、ケルベロス達はイェフーダーの右手側から飛び出す。同時に、左手側から飛び出す他班がチラリと見えた。
 確認するまでもなく、互いの意図は同じ! イェフーダーの撃破!
「気を付けて! イェフーダーが何かの準備をしてたみたいなの!」
 イェフーダーの元へ突撃する増援を察し、傷だらけになりながら先行部隊が後退しつつ、うさぎ耳の幼い少女が最後の力を振り絞って声を上げる。
 ケルベロス達は振り返らない。ただ、これまで耐えてくれた事に心からの尊敬を。
「ようやく会えたわね、イェフーダー!」
 先陣を切ったのはシィ。ワープの如く、何かの作戦の準備をしているイェフーダーの無防備な背中に接近すると、軽々と超重量のEvolution Grandを操って叩き込む!
「さぁ、今度はお前らが虐げられる番だ! 今更何をした所で無駄だよ!」
 次いで、アリアの稲妻を帯びた超高速の突きが繰り出された。
 と――。
「追い詰められた悪党の悪あがきが、実を結んだ試しなし! 覚悟!」
「イェフーダー! 今更アポロンに従ってももう詰んでいることぐらい分かっているでしょうに、何があなたをそこまでつき動かすのです!」
 ふいに、対面から届く声。そして、冷気の波動と半透明の「御業」。舞い上がるは、金髪と艶めいた桃髪。
 その声に力を分けて貰い、またこちらも負けていられないと意気込みも新たに、キーアの稲妻を帯びた突きに、ルチルの妖精の加護を宿した矢が雲心月性から放たれ、イェフーダーを穿つ。
「ググゥッア!」
 まるで嵐の如く。
 イェフーダーの呻きも意に介さず、呻きすら止めてやると、玲の奔る刃は迅雷の如くイェフーダーの背中に深々と戒めを残し、マーシャの【銀】棋聖活刃流奥――義絶巧斬り――が新たな道を切り開かんと閃く。
 ブリキは、反撃すらままならないイェフーダーに含み笑った。一方的な攻撃だからと、手加減する必要などない!
 ブリキの構造的弱点への痛烈な一撃が、イェフーダーの背中を抉る。そして、プランが「ドラゴンの幻影」を放ち、数多の傷口諸共焼き尽くし、炭化させた。
 飛び散った汚水が蒸発し、視界が悪い。
 そのため、一旦イェフーダーから距離をとった。
「やった……でござるか?」
 半ば祈るような、マーシャの小さな呟き。
 だが――。
「雑魚どもめっ! 邪魔をするな」
 晴れた視界の先、捕食態勢をとりながら、怒りで爛々と目を輝かせたイェフーダーの姿があった。
「戻れ!」
 イェフーダーの檄が飛ぶ。それに応じて、ストリックラー・キラーとディクトデアが駆けつけた。
 ディクトデアは、憤怒するイェフーダーの前に出ると、告げる。
「イェフーダー、邪魔者ハ俺達ニ任せロ。お前は、自分がなすべきことをするのダ」
 そして、次の瞬間!
 左手側の部隊にディクトデアとストリックラー・キラーが。ケルベロス達の元には、二体のストリックラー・キラーが、両部隊を分断すべく襲いかかるのだった。


「休むのは終わってからにしな。ほら、頑張れ」
 アリアが味方を鼓舞しながら、電気ショックを飛ばす。
 スナイパーにポジションを移したプランは、捕食態勢を警戒し、味方に「破壊のルーン」を宿した。
「死角をなくすんだ! それと、敵は脚の運びが鈍い!」
「……承知でござるっ!!」
 玲とマーシャ、それぞれの空の霊力を帯びた刃が、ストリックラー・キラーの鎌と交差し、火花を散らす。
 また、玲の言葉通り、先行部隊の活躍もあってか、二体のストリックラー・キラーは軽傷を負っている。軽傷なれど、今の疲労感溢れる現状では、足がかりとなりえるはずだ!
 シィが、Evolution Grandをストリックラー・キラーに叩き付ける。すると、その肉体は生命を喰い尽くす勢いで凍結していく。
「破壊音波、来ます!」
 敵の様子をつぶさに観察していたブリキが叫ぶ。ブリキは、攻撃させまいと、電光石火の蹴りを放った。蹴りは凍り付いた鎌を粉々に砕くが、
「きゃあ!」
「くっ……うう!」
 僅か間に合わず、破壊音波は後衛のシィとルチルを打ちのめす。
「キキョウ!」
 キーアの声に応じ、腕に巻き付くキキョウが、すかさず後衛を聖なる光で覆う。
 ルチルは身を覆う光に表情を緩めると、キーアに笑顔を返しながら、紙兵を大量散布した。
 その時! イェフーダーの元へと駆けるさらなる増援が、ケルベロス達の目に留まる。
「し、しまった!」
 それを見て、ストリックラー・キラーの一体が、慌ててイェフーダーの元へ戻ろうとするが――。
「こっちもイェフーダーと斬り合いたいのを君達で我慢しているんだ。これ以上僕達をガッカリさせないでくれないかい?」
 離脱しようとするストリックラー・キラーの前に回り込み、冷然と玲が告げた。ストリックラー・キラーは状況に歯嚙みしながらも、先に目の前の敵を倒した方が早いと判断したのか、焦りを浮かべて鎌を振り上げた。

 とうに限界など超えていた。
 それでも彼らが屈さないのは、矜持のため。己が倒れれば、その変わりに大勢の力なき者が犠牲になると、知っているため。
「また会いましょうって約束したから あなたの無事を祈るね」
 プランの『約束』が傷を負った仲間を癒やす。そのプランの目は、背負っているものが違うのだと、何よりも雄弁に語っている。
「……暗技、地ヨリ舞昇リシ……焔……」
 静かに紡がれるは、ルチルの念。再び現れた人魂が、前衛の助けとなって動き出す。その意図は明白。ここで決めるという強い意志。
「ばくぅ! と喰ちゃるぜ!」
 狂気を宿したブリキが、片腕を失ったストリックラー・キラーの、もう一方の腕を噛み砕き嚥下する。
「この地も命も渡しはしない――覚悟」 
 譲れないものを守るため、玲の雷を帯びた刃が敵の中心部に深々と突き刺さり、雷鳴と共に絶命に至らしめた!
 残るは一体。だが、負けじと前衛に音波の波が襲いかかる。
「もうひと踏ん張り!」
 苦しい。だが、それを表に出さず、笑みを浮かべたアリアが薬液の雨を降らせる。
 シィの流星の如く蹴りが瞬くと、ストリックラー・キラーの羽が粉々に砕けていく。
「ば、馬鹿な!」
 驚愕するストリックラー・キラー。だが、驚くことではない。これが、『人』の力!
 薄暗い地下に煌めく二対の刀。マーシャは、迫る鎌を紙一重で見切りながら、衝撃波を放った。
 宙を、鎌が舞う。
「外道に掛ける情けは無いわ……黒炎で塵も残さず燃え尽きなさいっ!!」
 キーアの両掌には、漆黒の炎。黒炎は、ストリックラー・キラーに直撃すると、絡むように、纏わり付くように燃やし尽くしていく。
 ……後には、何も残りはしなかった。
「まだ、なの……よ」
 朦朧とする意識の中、それでもシィは言った。
 そう。まだイェフーダーが残っている。
 だが、その時……。
「「「ウオオオオオオオッッ!」」」
 大地を揺るがす歓声が上がった。
 それを聞き、思わずケルベロス達は膝をつく。
 地面に、誰かが零した一筋の雫。
 それは確かに、勝利の、歓喜の涙だった。 

作者:ハル 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年9月27日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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