黙示録騎蝗~血廻り連鎖

作者:朱乃天

 深く生い茂った森の奥地にて。土を固めて作った原始的な住居が並ぶ集落がある。
 建物の中で隠れて息を潜めるように暮らすローカスト達。日々怯えながらそれでも生きている彼等の日常が、この日を境に奪われてしまう。
 特殊諜報部族『ストリックラー・キラー』が集落に突如押し入り、住居に籠るローカスト達に暴行を加え出したのだ。
「ぐわああァァッ! な、何をする!?」
 ローカスト達はストリックラー・キラーの手にかかって倒れ伏し、地面に叩き付けられ這いつくばっていた。
「妾の糸からは決して逃れられん。無駄な足掻きは止めて、諦めよ」
 傍らでは蜘蛛のローカストが愉悦に浸って、倒れたローカスト達の無様な姿を嘲笑う。
 それでも必死に起き上がろうとするローカストもいるが、抗えば自らの意思に反して手が勝手に動き、自分の首を締め付ける。
「お主等のグラビティ・チェインは、次の作戦への糧となろう。黙示録騎蝗の為、その身を捧げて贄となるが良い」
 蜘蛛のローカストが冷たく言い放ち、集落中のローカストを服従させて連れ去っていく。
 こうして囚われたローカスト達は、とある施設に集められ――日夜おぞましい悲鳴を上げ続け、グラビティ・チェインを搾取されていた。

 ノーザンライト・ゴーストセイン(のら魔女・e05320)の調査によって、ローカスト達の次なる動きを察知した。
 ヘリポートにケルベロスを招集した玖堂・シュリ(紅鉄のヘリオライダー・en0079)が、新たな事件の概要を語り始める。
「ローカストは広島市にある下水道から侵入し、市街地を制圧する作戦を企てているらしいんだ。そしてこの作戦の首謀者が、ストリックラー・キラーの指揮官みたいだね」
 以前にグラビティ・チェインを枯渇させたローカストを使って事件を起こした特殊部隊。個別の襲撃ではケルベロスに阻止されることを学習したのだろう。今回の作戦は、指揮官のイェフーダーも含めて、ストリックラー・キラーの総力を結集したようだ。
 ストリックラー・キラーのローカストは多数のコギトエルゴスムを所持しているらしく、枯渇状態のローカストと共に作戦を遂行し、人間の虐殺を行なっていく。
 そうして奪ったグラビティ・チェインを利用して、コギトエルゴスムを新たな枯渇状態のローカストに変えながら、戦力を雪だるま式に増やして大量虐殺へと繋げる算段だ。
「もしこの作戦が実行されれば……24時間以内には都市を制圧されてしまうだろうね」
 しかし今回は事前に事件を察知できた為、下水道内で敵を迎え撃つことができそうだ。
 敵は市内全域を同時に襲撃しようと分散して行動するので、各チームは『ストリックラー・キラー』のローカストと、枯渇状態のローカストの計2体と戦うことになる。
 ストリックラー・キラーのローカストは相応の覚悟で作戦に挑んでいる為、ケルベロスと遭遇しても逃げようとせず、自らの命を省みず最後まで戦おうとする。
 この戦闘では、2体のローカストを同時に相手にしなければならないが、市民の命を守る為にも敗北することは許されない。ケルベロス達にも、彼等に立ち向かうだけの強い決意が必要だ。
「それと、2体とも早く倒せた場合、可能ならイェフーダーの元に向かってほしいんだ」
 指揮官であるイェフーダーは下水道の中心点で作戦の成り行きを伺っている。そこを狙って多方向から包囲するように攻め寄れば、退路を断って撃破まで持ち込めるかもしれない。
 ここでイェフーダーを撃破すれば手駒がいなくなる為、ローカストの動きを制限することにもなるだろう。
 シュリは期待を込めた口調で言葉を紡ぎ、更に続けて今回戦う敵と現場の説明をする。
「まずストリックラー・キラーの方だけど、女性体の蜘蛛型ローカストだよ。普段は矢面に立つようなことはしないみたいだね」
 どちらかといえば後方支援が得意らしい。背中に生えた脚で突き刺したり薙ぎ払ったり、糸を絡めて対象を操ろうとしてくるようだ。
「枯渇状態のローカストは百足型で、こっちは思考能力が落ちている分、火力が高いんだ」
 極度の飢餓感で理性が失われ、欲望のままに力を振るう、殺戮の化身に成り果てた存在。こちらも一筋縄ではいかない相手だ。
 また、戦場に関してはケルベロス側で待ち構えることができるので、少し広めの空間を選んで戦えば問題ない。
「ローカスト達も必死だろうけど、ボク達もこの戦いは絶対に負けられないからね。何よりも、多くの市民の命がかかっているから」
 失敗すれば一つの都市を巻き込んで、数十万人もの犠牲者を出してしまうことになる。
 悲劇を生み出す災厄の芽を、略奪を強制させる負の連鎖を断つことが、彼等に架せられた宿命だ。
 戦地に飛び立つヘリオンの中で、シュリはケルベロス達の武運を静かに祈った――。


参加者
二羽・葵(地球人もどきの降魔拳士・e00282)
ファルケ・ファイアストン(黒妖犬・e02079)
四之宮・徹(凡人な炎剣の贋作者・e02660)
嘩桜・炎酒(星屑天象儀・e07249)
東雲・時雨(宵闇の三日月・e11288)
翡翠・風音(森と水を謳う者・e15525)
ゼラニウム・シュミット(決意の華・e24975)
フィアルリィン・ウィーデーウダート(死盟の戦闘医術士・e25594)

■リプレイ

●奇襲戦~始
 薄暗い下水道を進む二体のローカスト。都市の盲点を突いて地下から侵入し、人々の虐殺を目論んでいたが――その計画は脆くも崩れてしまう。
「こっから先は通行止めや。進みたいなら通行料を払ってもらうかね」
 闇の中を一筋の煌めきが流星の如く舞い、加速を増して百足型ローカストに降りかかる。それは嘩桜・炎酒(星屑天象儀・e07249)が放った飛び蹴りだった。
 よもやこの地下にまでケルベロスが現れることはなかろうと、警戒が緩んだ隙を突かれての襲撃に、ローカスト達は対応できず直撃を受けてしまう。
 炎酒の一撃を皮切りに、照明が一斉に点灯し始める。ケルベロス達は隠密気流を纏って物陰に身を潜め、明かりを消して念入りに待ち伏せていた。そのことが功を奏して奇襲に成功し、地獄の番犬達が積極攻勢に出る。
「いっけぇぇーっ!」
 二羽・葵(地球人もどきの降魔拳士・e00282)が斧剣を脇に構えて跳び込むように突進し、半月状の刃を百足ローカストに捻じ込んだ。
「隣で仲間が餓えているのに……貴女達はそれすらも利用するのですか?」
 怒りに震える声でゼラニウム・シュミット(決意の華・e24975)が蜘蛛のローカスト――アラネアスに問いかけながら。青い瞳は飢えた百足を見据え、時空を凍てつかせる重力の弾を撃ち込んだ。
「早くこんな場所から出たいしな。悪いがとっとと倒させてもらう」
 四之宮・徹(凡人な炎剣の贋作者・e02660)が手にした刀の峰が、照明の光で白銀に輝いて。下水道での戦闘に時間はかけたくないと、黒き刃を疾らせ百足の腹部を斬り裂いた。
「枯渇した仲間を利用するようなやり方は……これ以上の非道な犠牲は許せません」
 自らを犠牲にした不退転部隊とは対照的な手段は許容できる筈もない。翡翠・風音(森と水を謳う者・e15525)の凛とした口調は怒りの表れか。しかし頭は冷静に、敵の反撃に備えて紙兵を前衛陣の護衛に当たらせる。
「不退転部隊の時は犠牲が出てしまったけど、今度は絶対に守り抜こう」
 態度や仕草は飄々とした雰囲気を漂わせるファルケ・ファイアストン(黒妖犬・e02079)ではあるが、心の中は熱く燃えている。ファルケは剣を振るって星座を描き、仲間に守護の力を付与させる。
「悲劇なんか起こさせない……俺達がお前等を倒して、絶対に止めてみせる!」
 東雲・時雨(宵闇の三日月・e11288)の強い言葉に決意が宿る。アラネアスへの牽制に投じた漆黒の短刀が命中し、仕込んだ毒が敵の細胞を蝕んでいく。
「こんな場所にまでケルベロスじゃと!? ええい、邪魔をするなら排除するまでじゃ!」
 行く手を阻まれ先手を奪われたローカスト達が反撃に出る。アラネアスの指から糸が射出され、後衛陣に絡ませて操ろうとするが。
「こちらも守るのに必死ですから。この先は絶対に通しません」
 フィアルリィン・ウィーデーウダート(死盟の戦闘医術士・e25594)が即座に雷の障壁を張り巡らせて、傀儡の糸を遮断する。
「ガアアァァッ!」
 今度は理性を失くした百足ローカストが牙を剥き、フィアルリィンに喰らいかかった。
「ツァイス! 頼んだで!」
 しかしそこへ炎酒のミミックが間に割り込み、身を挺してフィアルリィンを庇う。
 奇襲攻撃で百足ローカストを集中的に狙い、敵の攻撃への対応策も施して。万全の態勢で臨んだケルベロス達が、戦いを優位に進めていった。だが後がないローカスト達は、死に物狂いで抵抗を見せる。
 ケルベロス側は短期決戦を図るべく、守り手を二体のサーヴァントのみとする火力重視の布陣を敷いていた。その分防御が手薄なところを攻め込まれ、ツァイスとボクスドラゴンのシャティレが守るも力及ばず倒されてしまう。
 それでも番犬達は攻撃の手を緩めることなく、怒涛の勢いで敵の反撃を押し退ける。

「貴様が何処に居ようと……俺が斬り捨てるッ!」
 時雨が研ぎ澄まされた抜刀術で刃を振り抜くと、音速の斬撃が空気を裂いて百足ローカストの腕を断つ。
「こいつでケリを付けさせてもらう。燃え尽きろ」
 幾度の後悔を乗り越えて、戦い続けるのは大切な者の為。徹の背中から噴出した炎が翼となって羽ばたいて、全身の気を練り上げ精製した炎によって、幻想空間を創り出す。
 徹が掌を突きつけると、無数の剣の幻影が驟雨の如く降り注ぎ、百足ローカストの全身を貫き紅蓮の炎で包み込む。
 業火に灼かれる百足の戦士は、苦しみ悶えながら消し炭となって散っていく。
「おのれケルベロス……妾はまだ、こんな所でくたばるわけにはいかぬのじゃ!」
 残されたアラネアスが捨て身の攻撃に出る。背中に生えた脚が槍と化して徹を襲い、徹は咄嗟に回避を試みるも間に合わず、蜘蛛脚の槍が肉体を抉って深々と突き刺さる。
 徹の腕が力なく下がり、手から刀が離れて落ちていく。アラネアスは流れ滴る血を啜って満足そうに愉悦した。
「!? 徹さん……っ!!」
 風音の悲痛な叫びも、彼の耳にはもう届かない。シャティレに続いて仲間が討たれ、彼女の中で憤怒の心が渦巻いた。昂る気持ちを魔力に変えて風音が念じると、召喚された木の葉の群れが乱れ舞う。
「思い知りなさい……生命の怒りを!」
 木の葉の舞は刃の嵐となって、踊るように華麗にアラネアスを斬り刻む。
「残るは貴女……蜘蛛対蜘蛛といきましょうか?」
 そう語りかけながら微笑むゼラニウムだが、瞳は黒い殺意に満ちていた。
「忌み嫌われし呪いの術にて私は望む……生への渇望を否定し、『核』より蝕む『瘴気』と成れ!」
 蜘蛛の容を成した塊が、虚空に描くは六方陣。その中央に敵の姿を映し出し、生を拒絶させる呪力を注ぎ込む。ゼラニウムが紡ぐ詞はアラネアスの魂を侵食し、肉体が崩壊を始めて――決して逃れられない死に至る。
「く、口惜しや……イェフーダー、様……」
 無念の声も掻き消えて、アラネアスの命が尽きて消滅すると、彼女の体から多数のコギトエルゴスムが散らばった。
「……先を、急ぎましょう。私達の手で、イェフーダーを討つ為に」
 今優先するべきはイェフーダーを追撃することだ。葵は天牛の意匠が彫り込まれた斧剣を握り締め、立ち止まることなく通路の奥へと進むのだった。

●追撃戦~継
「地図通りなら、おそらくこの先にイェフーダーがいる筈です」
 事前に下水道の地図データを調べた風音が、スーパーGPSで位置の確認をする。
 急ぎ足で駆けつけて、やがて辿り着いた場所で彼等が見たモノは――。何やら作業をしている様子のイェフーダーと、ディクトデアや蟷螂ローカストと交戦中のケルベロスチームがそこにいた。
「あ、あれは……。一体どちらと戦えば……」
「うーん。まさか、イェフーダー以外にもいたとはねえ……」
 想定外の状況にフィアルリィンとファルケは戸惑いを隠せず呟いた。
 このままイェフーダーを攻撃するか、それともディクトデアとの戦闘で劣勢の仲間達への加勢に入るか。一行が逡巡していると、別方向から新たなチームが合流を果たす。
「こっちは損傷的に余裕がある。本命は任せてくれるかな?」
「り、了解です! ……でも、すぐに駆けつけますから!!」
 白コートの青年の言葉に葵が恐縮気味に敬礼をして。
「そうと決まれば、早く救援に行きましょう」
 時雨の一言に、一同は大きく頷いて。仲間の窮地を救う為、ディクトデアに立ち向かう。
 ゼラニウムの操る『土蜘蛛』が、鋭い鋏角でディクトデアに喰らいつき、振り翳された蟷螂の鎌を抑え込む。
「まだ諦めてはいけません! 私達も一緒に戦います!」
 動きを抑えている今のうちにと、ゼラニウムが戦意を奮い立たせるように呼びかける。
「グッ……! 目障りナ連中メ!」
 すぐに蜘蛛の捕縛を振り払ったディクトデアは、瞬時に間合いを詰めてゼラニウムに襲いかかった。
 隙のない攻撃で、流れるような連撃を繰り出すディクトデア。先の戦闘で消耗著しいゼラニウムに、この猛攻を耐えるだけの体力はもはや無く。最後に撓るような刃に薙ぎ払われて、ゼラニウムの体が宙に浮き、壁に叩きつけられその場に崩れて倒れ込む。
 だがほんの僅かとはいえ、彼女が動きを封じたおかげでディクトデアの注意を引き付けて、仲間は危機を脱することができたのだ。
「脇の蟷螂を潰して。こいつは、私たちが……必ず、殺すわ」
 褐色肌のサキュバスの乙女が、手短に指示を出す。一行はディクトデアの傍らに立つ蟷螂ローカストを一瞥し、武器を構えて臨戦態勢に移行する。
「邪魔な奴等め。貴様達は俺が始末してくれる!」
 執拗に抗う番犬達を捻じ伏せようと、蟷螂ローカストが破壊音波を発生させて、後衛陣を纏めて潰しにかかる。
「そうは、させません!」
 そこへ守り手に回った葵が身を盾にして、風音を破壊音波の脅威から遠ざける。
「俺達は、お前に負けるつもりはない!」
「ええ、まだ負けるわけにはいきませんからね」
 時雨が無数の魔法の矢を射れば、フィアルリィンが竜の幻影から噴出される炎を浴びせ、ケルベロス達も必死に食い下がる。
 その一方でファルケは自分の負傷も省みず、癒しの気を注いで消耗の大きい者達を回復させて、被害を最小限に留めるのだった。
「これ以上、誰も欠いたらいけないからね。……後は、頼んだよ」
 味方の治癒に専念したファルケだったが、自身の体力が限界を超えてしまい、静かに目を閉じながら力尽きてしまう。
 一人、また一人と仲間が倒される姿を目の当たりにしながらも、覚悟を決めた彼等の闘志は少しも失せず。倒れた者達の意思を継ぐように、勇猛果敢に蟷螂ローカストを攻め立てる。
「哀れに苦しむ姿ってのも見てらせんな。そろそろ楽にしてやるさ」
 高く跳躍した炎酒が、前衛陣を飛び越えて蟷螂ローカストの懐に潜り込む。両手で空気を集束し、凝縮させた気の塊が螺旋状にうねりを上げる。
「ひとつデカイのを食らわせたるさ。圧縮ばっちり。さぁて、奥の手でも見て行けや!!」
 炎酒の気合と共に圧縮から解放された空気が衝撃波となって、零距離から放たれた気弾が豪快に爆ぜて――蟷螂ローカストは跡形残らず消し飛んだ。
 蟷螂ローカスト撃破と同時に、ディクトデアの断末魔が響く。これで残す敵は後一体――事件の元凶たる将を討つのみだ。

●殲滅戦~終
「いくら癒し手がいるって言っても、毎回こんなことしてたらすぐに潰れちまうッス! 傷だって完全に治るわけじゃないのに……!」
 帽子を被った少年が、険しい表情を浮かべて嘆く。
 ストリックラー・キラー指揮官の実力は伊達ではない。手負いとはいえ八人のケルベロスを軽くあしらい力の差を見せつける。だが絶体絶命の危機にある仲間を救おうと、ディクトデアを倒し終えた戦士達が息つく間もなく救援に駆けつけた。
「お待たせしました。これよりイェフーダーの殲滅に移ります」
 風音が鎖で描いた魔法陣から光が溢れて、ケルベロス達の傷を癒して守護の力を齎す。
「連戦どころか三連戦やね。けどまあ……次はお前の番やで、イェフーダー」
 ライフル銃のグリップに刻まれた『九拾九』の文字。炎酒がそのトリガーを引き、凍気を帯びた光線を撃ち込み宣戦布告する。
 更にミズーリ、デジル、リモーネの三人も一緒に加わって、合計十六人もの地獄の番犬達がイェフーダーを取り囲んだ。
「まさか……ディクトデアまでやられたというのか!?」
 配下が全滅させられたことを悟ったか、イェフーダーが激しく狼狽え焦りを見せる。
「貴方達の企みもここまでのようですね。大人しく観念しなさい」 
 フィアルリィンが光の翼を翻し、上体を捻りながら回転を加えて大鎌を投げ飛ばす。荒々しく旋回する刃は、血肉を貪るようにイェフーダーを斬り刻む。
「クロ、頼んだ! これでも喰らえッ!」
 時雨が杖を掲げると小さな黒い猟犬の姿に転じて飛びかかり、獰猛な牙でイェフーダーの肩を喰い千切る。
「この好機……逃しません!」
 入れ替わるようにリモーネが銀髪を靡かせながら疾走し、空の霊力纏いし刃を閃かせ、傷を重ね広げて血飛沫が舞い上がる。
「回復はあたしに任せときな!」
 勝気なオラトリオの少女、ミズーリの力強い歌声が、共に戦う仲間達に勇気を与えて闘気を滾らせる。鬼気迫るケルベロス達の波状攻撃に、さしものイェフーダーも気圧され次第に追い詰められていく。
「馬鹿な! 私が番犬如きに負けるなど……断じてあり得ぬ!」
 深手を負った蟷螂の将だが、未だ倒れるまでには至っていない。決死の覚悟なのは彼等も同じこと。死力を振り絞るように両腕の鎌を持ち上げて、玉砕覚悟で勝負に出る。
「私が、相手をします!」
 迫り来るイェフーダーの前に立ちはだかったのは、葵だ。緑の双眸で討つべき敵を確り捉え、握る斧剣に力を込めて迎え撃つ。
 数多の命を奪った処刑の凶刃が、葵の防御を物ともせずに、彼女の体を容赦なく斬りつける。じわりと滲んだ鮮血が刃を染めて、赤い雫が零れて落ちる。
 意識を失いそうになる程の激痛も、葵はしかし強固な意志で堪えて踏み止まった。彼女の瞳の中に映るのは、斧に彫られた紅天牛。
 ――そう。あの日誓ったのだ。『彼』の無念を、誇りを、イェフーダーにぶつける、と。
「さあ、一気に畳み掛けましょう!」
 手繰り寄せた勝利を掴み取るべく、一斉攻撃を仕掛けるケルベロス達。全てに決着を付ける為、デジル、葵、ビスマスの三人が最後の戦いを挑む。
「逃がさない♪ 降魔拳が秘技、鬼気一髪!」
 艷やかに笑むデジルの銀色に煌く長髪が、蛇が蠢くように波打ちながら獲物を狙う。鬼気を帯びた髪の先端が鋭く伸びて槍と化し、イェフーダーの胴体を一直線に穿ち貫いた。
「ロギホーンさんの無念……今こそ、晴らします!」
 葵が口にした名前は、かつて戦った飢餓ローカストのモノ。彼を弔うその一心で、思いの全てを篭めた渾身の一振りを、誇りある戦士の名を冠した斧をイェフーダーに叩き込む。
「ガッ……!?」
 更に刃で断ち斬る追撃の一撃。彼女の揺るがぬ信念が、蟷螂の外殻を打ち砕く。
「命を消耗品のように扱う貴方を、許すわけにはいきません……」
 ビスマスの怒りに呼応して、蒼き装甲が紫色へと変化する。攻性植物と融合した神秘的な鎧を身に纏い、両脚に力を込めて躍動する。
「なめろうっ! エッグプラント……ダァァァァイブッ!」
 自らの肉体を砲弾とした超重力の蹴撃が炸裂すると、巨大な水柱が跳ね上がり、ローカストの指揮官は静かに倒れ落ちていく。
 イェフーダーに起き上がるだけの力は残っておらず、命が潰えて消え逝く体は砂のように朽ち果てる。
 命を搾取する為に同胞を飢餓させるという矛盾。常軌を逸した非人道的な作戦は、ケルベロス達の活躍によって完全に阻止された。

 ――因果は廻り、報復の連鎖を招き、大罰と為らん。
 自ら招いた所業は己に還る。皮肉な運命と共に、イェフーダーの生はその幕を閉じた。

作者:朱乃天 重傷:ファルケ・ファイアストン(黒妖犬・e02079) 四之宮・徹(凡人な炎剣の贋作者・e02660) ゼラニウム・シュミット(決意の華・e24975) 
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年9月27日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 3/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 5
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