急なるときも

作者:雨乃香

「ここが絡新婦の伝承が伝わる滝か」
 人里離れた山中の滝壺のそば、男はその美しい景色を楽しみながら手にしたカメラでその風景を写真に収めていく。
「今回こそは本物にお目にかかれるといいんだが」
 期待するように呟きつつ、男は背負っていたリュックを下ろすと中からメモ帳と手斧を取り出す。しきりにメモ帳を確認し彼は手斧を手にすると、滝壺の方へと歩いていく。
 何かを期待するような顔で彼は両手で抱えた斧を滝壺へ落とそうとし、そこでピタリとその動きを止めた。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの興味にとても興味があります」
 自らの世界に没頭していた彼は水面に映ったその人影にも気づくことが出来なかった。
 心臓を穿つ、大きな鍵。
 乾いた音を立て、斧は地に落ち、続き、意識を失った彼の体もその場に崩れ落ちる。
 その体をゆっくりと持ち上げるのは、着物姿の美しい女性。
 彼女は男を抱きかかえると滝壺の奥へとゆっくりと消えていった。

 こじんまりとした部屋の中、真剣な顔で携帯端末を弄っていたニア・シャッテン(サキュバスのヘリオライダー・en0089)はその部屋の扉が開くと同時、顔を上げ端末を置くと、やってきたケルベロス達を出迎える。
 彼らがそれぞれ席に着いたのを確認すると、一つ咳払いをして頭を下げるとニアは口を開いた。
「お集まりいただきありがとうございます。今回は前置きはなしですよ」
 そう言うとニアは早速端末を操作し、とある山中の地図と滝壺の映像を映し出す。
「ツェツィーリア・リングヴィ(アイスメイデン・e23770)さんの調査により、昨日から熱心に絡新婦についての伝承を調べていた男性の消息が不明となっていることがわかりました。なんでも山中への実地調査へ出向いた直後とのことで、この画像の地域、ですね」
 ニアの説明によれば、このあたりは訪れる人こそ少ないものの観光地として整備されており、行方不明になるようなことはまずないのだという。
「十中八九、興味を奪う魔女の仕業と見て間違いないでしょう。絡新婦に対する興味を奪われ、おそらく絡新婦が実体化しているはずです」
 そのままニアは絡新婦に関して集めた情報をケルベロス達に説明していく。
 この地域の伝承では絡新婦は愛用の道具等を滝壺に落とすとそれを拾い上げ、返してくれる。ただし他言してはいけないと、約束させ、それを破ったものを殺してしまう存在として描かれているとのことだ。
「もう少し詳しい事についてはわかり次第報告しますので、情報にはしっかりと目を通しておいたいただけるとありがたいです」
 ニアは申し訳なさそうに頭を下げると、椅子にかけていた上着を手に取り、それを羽織る。
「ともかく現場へと急ぎましょう。今はまだ魔女に襲われたと思しき男性だけが被害者ですが、来訪者が少ないとはいえ、観光地にドリームイーターが現れたとなれば、何がおきるかわかりません。迅速な対応を持って事件を終結させましょう」


参加者
藤咲・うるる(まやかしジェーンドゥ・e00086)
春日・いぶき(遊具箱・e00678)
柊・乙女(黄泉路・e03350)
エイト・エンデ(驪鱗の杪・e10075)
大原・大地(元守兵のチビデブ竜派男子・e12427)
ツェツィーリア・リングヴィ(アイスメイデン・e23770)
涼風・茜姫(虹色散歩道・e30076)

■リプレイ


 人里からやや離れた場所にある絡新婦の伝承が伝わる、とある観光地。
 もとよりそれ程人気のある場所ではないが木々の生い茂る道には人の話し声もなく、近くの滝壺から聞こえる水音と、鳥のさえずりだけが響いていた。
「――ですからこの辺りは危険です。早急に離れることをお勧めしますよ。それとも、エスコートが必要ですか?」
 そんなのどかな場所で、観光客と思しき若い女性の手をとり、春日・いぶき(遊具箱・e00678)は笑みを浮かべつつ、言葉とは裏腹に、女性をその場へと釘付けにしていた。
 彼女の頬が心なし赤いのは、彼の容姿がそうさせるのか、あるいは別の要因か。
「いぶき」
 見詰め合う二人の下にどこからともなく声が飛び、ハッとしたように女性頭を下げて、山を降りる道を小走りで駆けていく。
 その背中からいぶきすぐに目を離し、満足気に笑みを浮かべ声の主のほうへと振り返る。
「どうしましたエイトさん」
「山中の人の避難と封鎖が終わったから知らせにきた」
 エイト・エンデ(驪鱗の杪・e10075)は先ほどの光景を特に気にした様子もなくいぶきのもとへと歩み寄る。
 現在この山中ではドリームイーターの出現が予測されており、ケルベロス達の手によって避難と封鎖が行われていた。
「ご苦労様、ですが端末での連絡でもよかったのでは?」
「合流場所に向かう途中でたまたま見かけたんだ」
 いぶきが一瞥を送ってもエイトはどこ吹く風で既に歩き始めている。
 それ以上はいぶきも何も言わず、その後を追って合流場所へと向かう。


 二人が合流地点に辿り着く頃には既に他の六人のケルベロス達は集合を終えており、今回の標的、絡新婦の伝承への興味から生まれたドリームイーターについて話し合っている所だった。
 二人の姿に最初に気づいた涼風・茜姫(虹色散歩道・e30076)が軽く手招きすると、他のケルベロス達も噂話を一度中断し、顔を上げて二人の方へと視線をやる。
「お疲れ様です、もう登ってくる人もいない感じでしょうか?」
 大原・大地(元守兵のチビデブ竜派男子・e12427)の確認にいぶきは使い切ったテープの芯を見せ、頷いて返す。
「なら、ぼちぼちいこうか」
 火を点けることなく咥えていた煙草をしまい、柊・乙女(黄泉路・e03350)が促すとケルベロス達は伝承の残る滝壺へと向かい歩き始める。
「絡新婦の伝承か、なんだか昔話の教訓に近いものを感じるわ」
「斧を水底へと落とせし所は同じなれど、正直者を助け、不正直者には罰を下せし教訓を授けるはイソップが金の斧の寓話。しかし教訓としては鶴の恩返しに近しいもの、とかく半端な印象を抱きますね」
 道中、藤咲・うるる(まやかしジェーンドゥ・e00086)が耳にした話を思い出しつつ呟くと、ツェツィーリア・リングヴィ(アイスメイデン・e23770)はそれに対し自らの思う所を語る。
「世界の各地にそういった類似点が見られる話は多いわね。その姿が美しい女性であるというのも、ある種の定番かしら?」
 検索に用いていた携帯端末から顔をあげ補足するようにアウレリア・ドレヴァンツ(白夜・e26848)は言いながら軽く辺りを見回す。やや手狭だった道幅は徐々に広がり、先には開けた川原が滝壺が遠く見え始めていた。
「人の気を引くためなのかな? 絡新婦ちゃんもどのお話でも恋心だったり愛用の品物で人の心をひきつけようとしてる。心や魂に力があると強く信じられていた名残、なのかな?」
「狐もその類だな、あちらは最初から悪意が見える分、いくらかましに思えるが」
 茜姫の言葉に、乙女はちらと最近あったばかりの出来事を思い返しながら呟き足を止め、目の前に広がる光景を見つめる。
 高い滝口から注ぐ流れは深い滝壺には絶え落ち、大きな音と飛沫を絶え間なく上げ続ける。
「思ったよりこの滝壺深いのね。……ここに投げ込めば良いの?」
 うるるが身を乗り出すと、
「気をつけて」
 と声をかけつつ、アウレリアも屈みこんでその水底を覗き見る。
 飛沫と波紋に隠されたその奥底は暗く、どれ程の深さがあるのか皆目検討もつかない。
 ケルベロス達は愛用品を手に、それぞれが別々の表情をみせる。
 ループタイを手にするツェツィーリアはどこか楽しげに、大地は愛おしそうにガントレットを胸に抱き、乙女は一時腕にはめた時計を見つめ、軽い溜息と共にそれを外す。
「この日傘、大切なものだからちゃんと返してね?」
 誰にともなくそう言いながら、うるるがまず手にしたそれをゆっくりと沈めると、他の三人も次々にそれらを沈めていく。
 数秒が過ぎ、一分経ち、二分が経ち、何の音沙汰もないまま時が過ぎていくのを不安に感じつつ、それでもケルベロス達が待っていると、それは何の前触れもなく水底から突如水面へと現れた。


 それは美しい女性の姿をしていた。
 黒く長い髪、同じ色の着物は金の刺繍で彩られ、女性の控えめな美貌を引き立てる。
 不思議なことに彼女の体はどこも濡れておらず、同様に彼女が手にするケルベロス達が投げ入れた愛用の品々も投げ入れる前の綺麗な状態を保っている。
「確かに綺麗な姿だなあ。でも好きな対象が同姓である自分にとっては、それ以上の感情は無いなあ……」
 大地のそんな呟きを絡新婦は聞いているのかいないのか、彼女は両の手に抱えた品々を一つ一つケルベロス達の下へと返すとゆっくりと口を開く。
「随分と大所帯なようですが……ここで見たことはどうか他言なされぬよう」
 静かにそういって踵を返す女性の背に、ツェツィーリアが言葉を投げかける。
「両の手に似つかわしくない品々を抱えやってきたその滑稽な姿、吹聴したくなるのが人の常というもの」
 釘を刺された傍からそういって挑発する彼女の言に、女性は水面を歩くその足を止めるものの振り返ることはなく言葉だけを返す。
「忠告は致しました、その上で貴方がどうされるか、それは自由でございます」
 そうして再び歩みだすその背を今度は大地が呼び止める。
「好きだった人の形見なので、返していただきありがとうございます!」
 彼の言葉に興味を惹かれたのか、振り返った彼女は柔らかな笑みを形作る。
「お役に立てたようで何よりです。もう無くすことのないようお気をつけたください」
 女性に対しもう一度頭を下げた大地は、ふと思い出したかのよう言葉を漏らす。
「好きな人の話で思い出したのですが……長年貴方を探し求めていた方が最近この辺りを訪ねてきませんでしたか? 昨日この山に入ったと聞いたのですが」
「いえ、存じ上げません。わざわざ滝壺まで寄ってこられる方は珍しいので、そのような男性がいれば覚えております」
 淡々と喋る彼女に対しそれまで成り行きを眺めていたいぶきがどこか楽しげに口を挟む。
「性別の話は誰もしていなかったと思いますが」
 相手が倒すべきデウスエクスである以上その言及や証拠を押さえることに意味はない。いぶきがその点を指摘したのはきっと、単に面白そうだからとか、そんな些細な理由にすぎないだろう。
「あまり深入りなされると、帰れなくなりますよ」
 だがその一言は、どうやら女性の琴線に触れてしまったらしい。
 ギチギチと音が鳴る。
 女性が着物の胸元をはだけさせ、背を出すように帯を緩くする。
 黒と黄色の斑模様を描く気味の悪い蜘蛛の脚が、はだけたその女性の背から四対生え出した。
「演じ通すことも出来ず力にモノを言わせようとは、程度が知れますね」
 ツェツィーリアの冷たい物言いに、絡新婦のドリームイーターが怪訝な顔をする。
「そちらがその気ならこちらも遠慮はいらないな」
 絡新婦がその本当の姿を現したのと同じ様に、エイトもまた、ドラゴニアンとして姿を現し、戦闘態勢へと移る。同様に、他のケルベロス達も武器を取り、滝壺を囲むように布陣する。
「大人しく帰るなら見逃してあげたのに……あの人は渡さない」
 蜘蛛の脚が音を立てて大きく広がり、周囲に煌く糸を振りまいた。


 周囲に幾重にも見えない糸が張り巡らされ、巨大な蜘蛛の巣を形作る。
 まるで空中を歩くかのごとく絡新婦は素早く移動しつつ、彼女の移動した後から無数の蜘蛛が出で、巣を伝いケルベロス達へと襲い掛かる。
 咄嗟に大地が展開した紙兵達がアウレリア達を守るように子蜘蛛達の前に立ちはだかるものの、複数の子蜘蛛に集られた紙兵達はその体を炎に包まれ次々と地に落ちていく。
 それでも時間を稼ぐには十分、茜姫と崑崙、それに大地の相棒たる、ジンが後衛の守りに入り、子蜘蛛を振り払い、弾き飛ばす。
 しかしその数は一向に減る様子がない。
「流石にこの数は気味が悪いわね」
 見かねたうるるの展開した守護の陣が力の弱い子蜘蛛たちの侵攻を阻む壁のように地面から立ち上がり、その攻勢を一時食い止める。
 それを巣から眺めていた絡新婦は物量によってケルベロス達を押し切ろうと、さらに子蜘蛛を生み出そうとする。
 だが、ケルベロスの側も防戦一方ではない。
 地を蹴り翼を羽ばたかせたエイトは子蜘蛛の群れを軽々と越え、絡新婦へと蹴りを放つ。
 咄嗟に絡新婦は背中の脚をつかいその一撃を受け止め、エイトの体を弾き返す。宙に浮くエイトに対し巣に脚をつける絡新婦の方が早さも力もどうしても上になる。
「お返しいたしますわ」
 絡新婦の反撃の一撃はその脚による、強烈な突きの一撃。
「金やら銀やらはおまけしてくれないか」
 目前に迫る一撃に怯む様子もなくエイトはそんな軽口を叩く。仲間が防いでくれる攻撃を恐れる理由などもなく、
「これで守る!」
 大地の構えた大盾が絡新婦の一撃をあっさりと防ぐ。
 ならばもう一撃と、別の角度から狙いを定める絡新婦が巣の不自然な揺れに気づいた時には、既に耳にその声が届く。
「天より来たりて雲/蜘蛛を切り裂くは一縷の星芒、天座より失墜せし夜天の煌き」
 蜘蛛の張り巡らせた見えない糸を足場に、宙に舞うツェツィーリアの体。
 風を孕んだ衣服の裾がが音をたてぶわりと広がり、彼女の振りぬいた足を追いかけるように、回る。
 不意をついたその一撃に絡新婦の防御は間に合わず、その体は強かに地へと叩きつけられた。
 

 巣から叩き落とされ頭を振りつつ立ち上がった絡新婦を容赦なく乙女の繰り出した蹴りが襲う。
 頭部を狙った叩きつけるような蹴りの一撃を寸でのところで脚で受け、一歩退き、体勢を立て直そうとした絡新婦の体を、アウレリアの操る黒い鎖が、絡めとり、締め上げる。
「ドリームイーターの見る悪夢とはいったい、どういったものなんでしょう?」
 声の主であるいぶきの姿は、絡新婦からは見ることが出来ない。
 動きを止められた彼女の視界は、いぶきの打ち出した真っ黒な魔力の球体に完全に塞がれていたからだ。
 絡新婦の口から悲鳴が漏れ、その体が崩れ落ち膝をつく。
 髪と衣服が酷く乱れて尚失われぬその色香。一連のケルベロス達の連携にボロボロになりながらも彼女の瞳に宿る光は全く衰えを見せていない。
「この顔が崩れてしまったら、どうしてくれるのかしら」
 手で顔を撫でるように触りつつ、どこか安堵したような表情を浮かべる絡新婦に対し、うるるは上空から一気に降下、全体重をかけた一撃を見舞う。
 それを蜘蛛の脚で咄嗟に受け止めた絡新婦の体が震え、膝が再び折れそうになる。堪えるように唇を噛んだ彼女は他の蜘蛛の脚を地に突き立て、しっかりとうるるの体を受け止める。
「背中から蜘蛛の足なんて生えてたら、せっかくの美人も台無しよ!」
「そうね、でも」
 いきも触れ合うような至近距離、押し合う二人の視線が交差する。
「だからこそ長い時を越え、こんな異形を捜し求めてくれた人を私は離したくないの」
 言葉と共に、空いている手でうるるの襟元を掴んだ絡新婦は腕を引きつつ、狙いを定め、互いの額をぶつけ合う。一瞬の目くらまし程度の威力しか持たないそれ、しかしこの至近での一瞬は十分な意味をもつ。
「これはきっと蜘蛛としての性ね」
 うるるの体を蜘蛛の脚が貫き、その体を遠くへと投げ飛ばす。咄嗟にその体を茜姫は受け止め、いぶきと共にすぐさま治療にあたる。
 その間、崩れたケルベロス達の陣形の隙をついて、絡新婦は手痛い一撃を見舞ってくれたツェツィーリアへと肉薄する。
 代わる代わると繰り出される蜘蛛の脚による連撃をツェツィーリアは武器でいなし、足捌きで交わし、攻撃を凌ぐ。だが、あまりにも敵の手数が多すぎる。
 すぐに攻撃はその頬を体を掠め、幾つもの血の筋を浮かばせる。
「血を啜りて奪われしならば、其を奪還せしめるがだけ」
 小さく呟き、足を止めた彼女の体を、脚が貫く。同時に動きを止めたその脚が、ツェツィーリアの手により切り落とされる。
「時を刻むは赤き血の力。なれば、それを奪われし者は如何様に? さぁ、赤を奪いましょう。赤を奪われ色を失いし者に刻み行く時は無く」
 蜘蛛の脚を切り飛ばした剣先が閃き、刃が踊る。
 絡新婦が負けじと繰り出す攻撃がツェツィーリアを傷つけ、ツェツィーリアの振るう刃が絡新婦の体に赤い花を咲かせる。血飛沫舞う舞踏は、そう長くは続かない。
 揺らぐ二人の体。
 響く二つの声。
「――沈め」
 短く重なったそれは、水の音にかき消されそうな小さな呟き。
 僅かに露出した乙女の肌に浮かぶ百足のような痣。
 それと姿を同じくする呪詛が、絡新婦の影からその両足へと這い上がり、力強くその体を引き込もうとする。彼女は残った数少ない蜘蛛の脚で地を穿ち逃れようとするものの、形を持たないそれを物理的に引き剥がすことなどできはしない。
 その最後の抵抗すらも、打ち払うかの如く。アウレリアの振るう刃が残った脚を切り飛ばす。赤の散る光景の中、飛来する白き鳥の翼が絡新婦の体を撫で、切り裂き、赤く染まる。
 白く翻る刃と翼が、敵の体を微塵に切り裂いた。


 エイトが見つけたとき、被害者の男性は既に目を覚ましていた。
 命に別状はなく、体にもこれといった問題は見られなかった。
 どころか、大地がその場にいた皆に配った緑茶を口に含みつつ、事の顛末を聞いて絡新婦に出会えなかったことを心底残念がる程だった。
 ケルベロス達の手によって既に修復されたあたりにはその残滓もなく、男はいつの間にやら荷物に戻っていた手斧をただ繁々と眺めていた。
「なにか、思い入れでも?」
 男は軽く首を振る。
「ただねなんとなく、どんなお話でも悪とされる彼女に少しだけ、同情しているのかもしれません」
 蜘蛛に魅入られた男はそう言って笑って見せると、立ち上がる。
「ささ、皆さん入って、せっかくですから写真撮りましょう」
 茜姫に促されるままにケルベロス達と男は、滝壺の前、ずらりと横一列に並ぶ。
 ちょっとした観光地を背景に取られたその写真の端に映り込んだ小さな蜘蛛の巣には得物はかかれど、その主の姿はなかった。

作者:雨乃香 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年9月18日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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