漁港の祭りでマグロが踊る

作者:青葉桂都

●惨劇の祭り
 暦も秋に変わったある日、太平洋に面した北国のとある町の港で祭りが行われていた。
 航海の安全と、豊漁を祈願して毎年行われているものだ。
 いつもは漁師や釣り客くらいしか見かけない港だが、この日ばかりは若者や家族連れなど、様々な人が訪れる。
 海風の吹く港には出店が並んでいるが、その中にも海産物を扱う店が多く見られる。
 仮設されたステージにて漁師やその家族、地元の学生といった有志による踊りなどのパフォーマンスが行われる他、目玉はその日捕れたばかりの魚が景品となるくじ引き大会。
 夜には小規模ながら花火なども上がるようだ。
 けれど、その年の祭りには、招かれざる客が訪れていた。
 日が傾き始めたが、空が赤く染まるにはまだ早い時間のことだ。
 見た目こそ浴衣の少女の姿をしていたけれども、頭にはマグロの被り物をしているのが明らかに不審であった。
 手にしている大きな鮭は、先ほど行われたくじ引き大会で当たったものだろう。
 彼女はそれを乱暴に振り回す。
「なんでマグロじゃないの! こんなのいらないわよ! 別にマグロもいらないけど!」
 叫んで、彼女は浴衣から取り出したナイフで鮭を一刀両断する。
「おいおい、姉ちゃん……」
 いさめようとした漁師の首を、一閃したナイフが掻き切る。
「そもそも、魚なんていらないのよ! アタシが欲しいのはアンタたちのグラビティ・チェインなんだから!」
 理不尽な憤りとともに、少女は惨殺ナイフを振り回す。
 一振りごとに悲鳴が上がり、祭りの会場に血飛沫がまき散らされていた。

●お祭りに行こう
「妖精8種族の1つ、シャイターンが行動を開始したようです」
 集まったケルベロスたちへ簡単に挨拶をしてから、石田・芹架(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0117)は語り始めた。
 動き出したのはマグロの被り物をつけた女性の姿をしたシャイターンだという。
「彼女たちは日本各地の祭りを襲撃し、一般人を殺害することでグラビティ・チェインを得ようとしているようです」
 狙う場所が祭り会場である理由は今のところ不明だ。
「ただ、人が集まるお祭りという場を利用して効率よくチェインを集める作戦である可能性が高いのではないかと推測されます」
 なんにせよ、人々が虐殺されるのを放置するわけにはいかない。
 仮に『マグロガール』と名付けられたシャイターンが現れる会場に先回りして、事件を未然に防いでほしいとヘリオライダーは告げた。
 祭り会場でのマグロガールの詳しい行動はわかっていないが、少なくとも祭りで行われるくじ引きイベントに姿を表すことはわかっている。
「イベントに参加して見張っていれば、遭遇できるものと考えられます」
 もちろん周囲にはたくさん人がいるので、避難させたり敵を人のいない場所に誘導するといった工夫が必要になるだろう。
「事前に人を避難させちゃダメなんだよね?」
 説明を聞いていたケルベロスの1人、有賀・真理音(レプリカントの巫術士・en0225)が問いかける。
「そうですね。おそらくくじ引きの会場が一番人が集まっているために狙われるものと思われます。避難させてしまえば、敵がどう動くかわからなくなります」
 目立つ格好なので探せば見つかるだろうが、遭遇までの時間が余計にかかってしまうことになるだろう。
 同じ理由で、祭りそのものを中止させるわけにもいかない。
「じゃあ、見つけてから人を避難させなきゃだね。ボクはみんなより弱いけど、それなら役に立てるかな」
 真理音が言った。
「それに、敵は邪魔者の排除を優先するようなので、人のいない場所が周りにあれば挑発して誘導するのも有効でしょう」
 芹架はそれからマグロガールの戦闘能力について説明を始めた。
 戦闘能力はデウスエクスとしてはそれほど高くないらしい。とはいえ、この場にいるケルベロス全員と戦える程度の能力はある。
 まずはツナヘッドバスター。空中を泳ぐように跳躍し、遠距離まで届く頭突きを放ってくる。これにはホーミング性能まである。
 他に惨殺ナイフを片手に装備しており、そのグラビティをいくつか使ってくるようだ。
「無事に片付いたら、お祭りは続けられるよね。中止になったらみんな悲しい顔になっちゃうから、頑張らないと」
 説明が終わったと見て、真理音が言った。
 もし望むなら、ケルベロスたちも祭りに参加することもできるだろう。
「漁港の食べ物って、やっぱり美味しいのかな?」
「そうかもしれませんね。皆さんが楽しむためにも、頑張ってきてください」
 あくまで冷静に言い、芹架は頭を下げた。


参加者
源・那岐(疾風の舞剣士・e01215)
ソネット・マディエンティ(蒼き霹靂・e01532)
茶斑・三毛乃(化猫任侠・e04258)
源・瑠璃(月光の貴公子・e05524)
彼方・悠乃(永遠のひとかけら・e07456)
上里・もも(ケルベロスよ大志を抱け・e08616)
箱島・キサラ(チェイサー・e15354)
川北・ハリ(風穿葛・e31689)

■リプレイ

●網にかかったマグロ
 北海道のとある市の漁港では、今日は祭りが開かれている。 
 しかし、その喧騒から外れた場所で活動する者たちもいた。
 彼方・悠乃(永遠のひとかけら・e07456)は白の翼を羽ばたかせて、眼下に広がる空間を眺めていた。
「広くていいかと思いましたけれど……ここはダメですね」
 花火の打ち上げ準備がされているのを見て、悠乃は呟く。
 作業中の人々は彼女を気に留める様子もない。
 特殊な気流をまとった彼女の姿は、他者から視認されにくくなっていた。
 さすがになにもない空では確実に見つからないとは言えないが、ふと空を見上げた程度ならごまかせるはずだ。
「戦場にできそう?」
 携帯電話から上里・もも(ケルベロスよ大志を抱け・e08616)の声が聞こえてきた。
「いえ、残念ながら無理そうです。もう何ヶ所か候補があるのでそちらを見てきます」
 ももに答えて、悠乃は翼を大きく羽ばたかせた。
 戦場の候補を探す間に、何人かのケルベロスはシャイターンが現れるはずのくじ引き会場を訪れていた。
「いましたわね」
 軍帽をかぶった箱島・キサラ(チェイサー・e15354)は、口の中のたこ焼きを飲み下した。
 空になった箱を手近にあったゴミ箱に放る。
 シャイターンはくじ引きに並ぶ人々をじっと見ていた。
 茶斑・三毛乃(化猫任侠・e04258)は、近くで目を閉じたままでいるソネット・マディエンティ(蒼き霹靂・e01532)に片目だけの視線を送る。
 アイズフォンで連絡を終えたのを確かめて、大股で敵の前に立ちはだかる。
「マグロ? こいつもくじの景品か? にしちゃ随分と色艶が悪い。頼まれたって引き取りやせんぜ」
 身につけたコートを見れば、素性は誰の目にも明らかだ。
 下手に一般人だと思われる方が困る。
「ケルベロスっ!」
 一歩飛び退いて、シャイターンが身構えた。
「へい、つまらなさそうにしてるわね? なんなら、ここらでひとつ余興でもいかがかしら。内容は…そうねぇ、マグロの解体ショーなんてのはどう?」
 ソネットも三毛乃とは反対側からからかい声をかける。
 周囲の人々がざわめき始める。ケルベロスだ、という声が波のように広がっていく。
「……いんや、解体するんならこんな貧相なのよりももっと新鮮な奴の方がいいかしら」
 表情は変えぬままだが、ソネットの言葉には侮蔑が含まれていた。
 もものオルトロス、スサノオも威嚇している。
「滑稽ですわね、まさか本当にマグロの被り物をしているなんて」
 キサラの言葉にシャイターンがとうとう刃を抜く。
 だが、ここで戦うわけにはいかない。悠乃が見つけてくれた戦場まで誘導しなければならないのだ。
「航海安全に大漁祈願、これらはまさに『三毛猫』に捧げられたこともある信仰でさァ。まあ『雄の』三毛猫の話になりやすが」
 三毛乃のハスキーボイスが祭りの会場に響く。
「ともあれこの祭りを荒そうってんなら捨て置けねえ。化猫任侠黒斑一家家長、茶斑三毛乃、この喧嘩、預からせて頂きやす」
 敵がナイフをふるう前に、彼女はきびすを返した。
「マグロ・港と来りゃ解体ショウだ。あちらで相手してやりまさァ」
「待ちなさいよ、ケルベロスっ!」
 走る三毛乃の後ろから、シャイターンが追いかけてくる。
「あの変質者はすぐに退場させますわ。どうか安心なさって」
 キサラやソネットも、挑発的な言葉をかけながら敵を誘導していく。
 戦場は、漁港の外れにある一角だった。
 祭りの喧騒もここでは小さく聞こえるばかり。
 源・那岐(疾風の舞剣士・e01215)は義弟の源・瑠璃(月光の貴公子・e05524)と共に戦場の周囲へ立ち入り禁止テープをはっていた。
「……とりあえずはこんなところかな。後は頼むね、那岐姉さん」
 瑠璃がまずおおまかに戦場の周囲にテープをはった。
 とはいえ、物理的に壁などで区切られているならともかく、限界まで使っても10人前後の敵味方が入り乱れて動き回る戦場を十分な広さで囲むのは難しいが、できるだけのことをするしかない。
「ええ、任せてください。無事に片づけて、一緒にお祭りを楽しみたいですね」
「そうだね。それじゃ、ここに敵を引っ張ってくるよ」
 完全にカバーするのは難しいといっても、少なくともはっておけ戦場に一般人が近づきにくくなることは間違いない。
 義弟が走っていくのを見送る間もなく、那岐はふさぎ切れていない場所にできうる限り立ち入り禁止のテープをはっていく。
 後は、挑発組がうまくやってくれることを期待するよりない。
 三毛乃たちが、シャイターンを那岐のいる戦場へ誘導していく。
 シャイターンも誘導されていることはさすがに気づいているだろうが、邪魔者を先に排除するつもりのようだ。
 川北・ハリ(風穿葛・e31689)は移動経路上で一般人を避難させていた。
「デウスエクスとケルベロスがここを通ります。急いで移動してください」
 慌てさせぬよう、落ち着いた声で人々に呼びかける。
「こっちだよー、急いでね」
 有賀・真理音(レプリカントの巫術士・en0225)もハリと同じく声をかけている。
 また、木下・昇(永遠のサポート役・e09527)は逃げる人々を守れるように、シャイターンたちが来るはずの方向に気を向けながら避難させているようだった。
 人々が無事なら、祭りは予定通り続くはずだ。
 同い年のあの少女や先輩たちとは、仲良くなれるだろうか。ハリは一瞬だけ真理音を見やった。
 人のいなくなった道を、三毛乃たちとシャイターンが通り抜けていく。
「マグロは止まると死ぬんでしょ? 活きが良いってんなら喰らい付いてみせなさい」
 ソネットの声が耳に届き、そして遠のいていく。
「……気を引き締めてかかろう」
 昇が言った。
 ハリはうなづいて、巫術による改良を施したリボルバーを抜く。
 黒い肌の少女が敵と味方を追って駆け出したのにならって、真理音たちも走り出す。
(「冷静に確実に、敵を仕留めましょう」)
 瑠璃も途中から誘導に加わって、デウスエクスはケルベロスが用意した戦場へとたどりついた。

●マグロガールを撃破せよ
 戦いの始まりは、猛進するマグロの被り物が告げた。
 跳躍したマグロガールはこれまでさんざん挑発した三毛乃へと飛ぶ。
 地獄化した右目を開いて避けようとした彼女を、物理法則を無視した動きでマグロガールが追いかけていく。
 色物そのものの姿をした敵の一撃は、三毛乃の体を派手に吹き飛ばす。
「三毛乃さん! 大丈夫?」
 ももは両手に構えた武器を敵に向けたままで呼びかける。
「心配痛み入りやす、上里嬢。なかなかきつい攻撃ですなあ。けど、あっしも一撃で倒れるわけにゃあ参りやせん」
 腹部を軽く押さえながらも三毛乃は立ち上がる。
 那岐が雷をまとわせた刀で攻撃する間に、瑠璃が彼女へとオーラを飛ばして回復する。
 グラビティ・チェインを瞳に集中させ、もももマグロガールへと攻撃する。
「マグロガール! おまえを倒して私は魚を食べるんだ!」
 しっかりと狙いをつけて生み出した白い炎は、逃れる隙を与えずにシャイターンの眼前で爆発して、炎上する。
 火のついた浴衣をひるがえして走る敵へと、仲間たちも攻撃を加えていった。
「有賀さんは、回復できる傷を負っている人がいたら回復してあげてください。回復が必要なさそうならドローンで支援をお願いします」
 手にした攻性植物をながめていた真理音に悠乃は声をかける。
「えーと……うん、わかった。……使い慣れてない武器だからうまくできるかわからないけど、頑張ってみるね」
 悠乃に顔を向けて笑顔を作ると、真理音は三毛乃へと走っていく。
 事前に聞いていた通り、マグロガールの戦闘能力は、デウスエクスとしてはさほど高いものではない。
 三毛乃やソネット、それにもものオルトロスであるスサノオは守りを固めて攻撃をうまくしのいでいるようだ。
 ソネットは鉄塊剣を力任せにたたきつけて注意を引き、三毛乃やスサノオはそんな彼女をかばって攻撃が集中しないようにしている。
 瑠璃は主に攻撃を受けている2人への援護に専念していた。
 三毛乃自身も回復しているが、前衛に立ちながらの回復では十分とは言えない。
 それに、ずっと義姉の那岐の右腕として鍛錬をしていた彼は、攻撃よりも援護にたける。
 キサラがマインドリングから生み出した光の剣による攻撃に気圧されたのか、マグロガールが那岐に向けたナイフが空を切る。
「動きが鈍ってきましたわね。ですが、容赦はしませんよ!」
 一族に伝わるという義姉の愛用の刀が、しなやかに踊った。空の霊力を帯びた刀身は、光の剣による傷を正確に切り開く。
「やっぱりすごいな、那岐姉さんは。僕も頑張らなきゃ」
 先端が輪になった鎖が瑠璃の手から走り、前衛たちを守護する陣を描き出した。
 真理音や昇も、瑠璃とともに前衛たちを回復してくれている。
「私の癒しをあなたに宿します」
 悠乃がオーロラの光を生み出した。その力が収束して向かう先はマグロガールだ。
 過剰に集中した癒しの力が逆に肉体を損なう。同時に、付与した癒しの力は彼女の攻撃の威力も減じることになる。
 攻撃が弱まれば回復役の瑠璃たちも攻撃に加わる余裕ができ、傾いたバランスを建て直す術もなくシャイターンは追い詰められていく。
 マグロガールが威力の減じたナイフで、ソネットの体をえぐった。
 ソネットは付与された守護の陣が刃を弱めた隙に、体をよじって突き刺さる刃の角度を変えて、傷を浅くとどめる。
 吹き出した血を浴びることで、ケルベロスたちに削られた体力をわずかなりと回復しているようだ……が、最早限界に近い敵の悪あがきに過ぎない。
「生きが悪くなってきたみたいね。もうおしまい?」
 無表情に、淡々と告げる。
 誘導しているときと同様に、最後まで気を引き続けるのがソネットの役目だ。
 悠乃が敵をジグザグに切り刻む。
 那岐が影の弾丸で痛烈な一撃を与える背後で、瑠璃が巨大な剣を生み出した。
「うん、ちょっと重いけど、行くよ!!」
 扱いにくそうなその剣をマグロガールは必死に避けるが、直撃していないのに小柄な体が吹き飛ぶ。
 ソネットもまた、拳に宿した降魔の力で奪われた体力を奪い返した。
 よろめいた敵をももが炎上させ、三毛乃もハンマーから放つエネルギーを叩き込む。
「撃たれたいなら、仕方ありませんね」
 淡い緑色の弾丸がハリの愛用のリボルバーから放たれた。
 貫通した弾丸が、とうにボロボロになっているマグロガールの浴衣をさらに引き裂く。
 キサラは後方から一気にマグロガールの懐へ飛び込む。
 もはや息も絶えだえで、やっと立っているだけの敵。
「容赦しませんわ」
 マインドリングから生み出した剣を、キサラはその胸元に突きつける。
 引き裂かれてはだけた浴衣から覗く肌に剣が食い込んでいく。
 かわすことも防ぐことももう出来ないシャイターンの体を、光の剣が切り刻んでいく。
「まるでマグロのたたきですわね、これは食べられませんけれど」
 垂れ下がった手からナイフが落ちて、それからマグロガール自身もコンクリートの地面に倒れ込んだ。

●漁港のお祭り
 戦場の後始末や手当を終えると、昇を除くケルベロスたちは祭りの会場へと戻った。
 最初に見た時に比べるといくらか人は減っていたものの、それでも活気のある声がそこら中で響いている。
「漁港のお祭り、お刺身とかも食べられるんでしょうか」
「お刺身かあ。きっと、新鮮な魚とは全然違うんだろうなあ」
 ハリの呟きを聞き、真理音が周囲を物色し始める。
 ただ、いかに北海道とはいえ残念ながら生ものは出店になさそうだ。
「残念ですね……」
「きっと近くにお店があるんじゃないかな。お祭りが終わってから行ってみようよ」
「はい。夜は、海鮮丼を食べてみたいって思ってたんです。お刺身もありますよね」
 言葉を交わすハリと真理音に、くじ引き大会から戻ってきたキサラが微笑みかける。
「海鮮丼ですか。素敵ですわね」
 大人の女性である彼女の手にあるのは生ビールの缶。
「ふぅ……仕事の後の一杯、この為に生きてるんですのよ!」
 くいと飲み干した彼女を2人が見上げた。
「まだ夜まで時間がありますから、わたくしはステージを楽しませていただきますわ」
「ボクも後で行こうかな……あっ、海鮮串焼きだって。おいしそう!」
 真理音が見つけた店の隣にある店を、ももが指差した。
「あ、私ハマグリ食べたい、焼いたやつ!」
 他にも海鮮焼きそばにホタテ焼き、鮭と野菜の鉄板焼きなどが並ぶ。
 三毛乃とソネットに手を振ると、ももはハリにも手を差し出した。
「ハリさんも、一緒に行かない?」
「あ……はい」
 頷いて、ハリも一緒に屋台へ駆けていく。
「上里嬢は元気でやすなあ。転ばないように気をつけなせえよ!」
 三毛乃が人波をかき分ける少女の背に声をかける。
「おっちゃーん、これまけてくれ! めっちゃいっぱい宣伝しまくるから!」
 だが、危なげなくももは店先にたどり着き、店主を相手にはしゃぎ声を上げていた。
「ソネット嬢も行ってきていいんですぜ?」
「そうね、腹ごしらえもしたいけど……実は土産頼まれてるんだけど、なんか丁度いいもん無い?」
「土産もんですかい? なにがいいでやしょうねえ。屋台の食いもんってわけにはいきやせんし」
 首をひねりながら、ソネットと三毛乃も歩き出した。
「ねえ、那岐姉さんは、なにか欲しいものはある?」
「どうしましょう。これだけお店があると、目移りしてしまいますね」
 那岐と瑠璃の姉弟も、心なしか声を弾ませている。
「じゃあ、いろいろ見て回れるゆうに、歩きながら食べられるものを買ってくるよ」
「ええ、お願いします、瑠璃」
 瑠璃が買ってきた串焼きを片手に、2人はゆっくり歩き出す。
 時間は瞬く間に過ぎて行った。
 日がかたむき、夜が近づいてくる。
「真理音さん、楽しんでいらして? そろそろ花火が始まるみたいですわ」
 ステージを見終えたキサラは、射的の店の前にたたずむ真理音に話しかける。
「うん! 花火かあ……綺麗なんだろうね」
「ええ。綺麗な花火を見ながら飲むビールもまた格別ですわ……真理音さんにはまだ早いですけれど」
「そうだねー。早く大きくなりたいな」
 空を見上げて、少女は暗い空を見上げる。
 その空に大きな花が咲いた。
 悠乃もまた、わた菓子を手にその花火を静かに見上げていた。
(「お祭りは楽しい。お魚はおいしい。その喜びを人々と共にしたい、そう思います」)
 それに、今後島での戦いがあるときに、輸送などの面で力を借りたいと思うことがあるかもしれない。
 その時のために、彼らと絆を結んでおきたい。
「積み重ねた親しみが、いつか共に未来を守る絆になると私は思うから」
 重なりあう炎の花を見上げ、悠乃はつぶやいた。

作者:青葉桂都 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年9月23日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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