食欲の秋~スイーツパーティ

作者:鬼騎

「皆様、いかがお過ごしでしょうか。まだまだ残暑の厳しい中ですが、虫の声やときおり吹く涼しい風により、秋の到来を感じることも多くなりました」
 ヴォルフ・ローゼンハイム(オラトリオのウィッチドクター・en0099)はゆったりと皆に語りかける。
「実は私、家庭菜園を趣味としているのですが、フルーツや野菜がちょうど収穫を迎えたのです。そして……この年で自分で言うのも恥ずかしいですが、私の誕生部が近いのです。そのため、いつも一緒に頑張ってる皆様をお呼びし、ホームパーティをしたいと思っております」
 15日にて41歳となるドイツ生まれのヴォルフ。休日の楽しみは家庭菜園。日本に渡来した理由は美味しい食べ物に惚れこんだから。ということで、もろもろを一つに集約し、ホームパーティを開こうということらしい。
「簡単な料理は私が提供いたしますが、今回のパーティではスイーツをメインにしたいと思っております」
 パーティの参加者ケーキやクッキーなど、スイーツを作るところから楽しんでもらいたいとのこと。家庭菜園で育ったベリー系や人参、カボチャなどがあるし、他に必要な材料はすべてヴォルフが準備するという。
「皆で楽しく、お菓子作りと参りましょう。もちろん、食べる専門でのご参加でもかまいませんし、失敗を恐れず色々なレシピにチャレンジをしましょう。皆様のご参加、お待ちしております」
 そういうとヴォルフは丁寧にお辞儀をし、顔を上げて微笑んだ。
「皆様がご参加してくださったら、きっと楽しいパーティになること間違いなしですね」


■リプレイ

●準備の時間
 秋晴れの爽やかな日。その日のローゼンハイム邸はとても賑わっていた。エントランスには深海・小熊(旅館の看板娘・e24239)と片霧・真白(地球人のブレイズキャリバー・e26905)が買ってきてくれた花が飾られ、空間を華やかに演出していた。
 家の奥からはすでに美味しそうな匂いが漂ってきている。
 玄関のチャイムが鳴る。今しがた到着したのは二羽・葵(地球人もどきの降魔拳士・e00282)と流星・清和(汎用箱型決戦兵器・e00984)だ。
 清和はパーティということで普段着て過ごしているアーマーを脱ぎ、私服姿(生身ともいう)で訪れているのだが、その姿にまだ慣れない葵は時々戸惑い、首をかしげたりしている。当の清和は、パーティの参加のお礼にと菓子折りを持参していたため、それを家主に渡した。
「本日はどうぞよろしく」
 その様子を見て葵はあ、という顔をした後、清和にくっつき、2人分で……といった様子で笑ってごまかした。2人が奥へと案内されるとそこで最初に目に入るのは唄う大窯の面々だ。今回は5人グループということもあり、テーブルを囲み賑やかに菓子作りを行っていた。
「美味しいものを、美味しく調理して、美味しく食べる! 食欲の秋最高!」
 七星・さくら(桜花の理・e04235)がエプロンをつけ、やる気を満たしている。さくらが作るお菓子は宝石箱のようなベリータルトを予定している。
 プリンにするかパイにするか悩みながらも南瓜を処理していたクローネ・ラヴクラフト(月風の魔法使い・e26671)がその様子を見て一言。
「漂うお母さんオーラ?」
「確かに。とっても似合ってますよね」
 クローネの言葉に同感したのはレイラ・クリスティ(氷結の魔導士・e21318)だ。彼女自身はモンブランを作ろうと現在栗の裏ごし中だ。
「ほんとにエプロンがお似合い。あったかくて甘えちゃいそうな雰囲気なの」
 シル・ウィンディア(蒼風の精霊術士・e00695)も談笑に混ざりながらクッキーの生地を作っている。今回はベリー入りだ。いつも1人で作ったらプリンが勝手に動くような代物を作る彼女でも、今回は今の所無事に作れているようだ。
「皆さんすごいもの作られてます。私いつもは食べる専門なので簡単なものだけしかできませんが、頑張ります」
 リゼル・ヒサギ(ウェアライダーの降魔拳士・e27857)は難しくないものをということでフルーツポンチを作るため果物を切り分けていく。リゼル的にはフルーツ以外は白玉を入れれば終わりなのだが、今回は皆で食べるということもあり寒天も用意しようかなと考慮中だ。
 そんなグループを横目で見ているのはプラリネ・チョコ(ドワーフの少女・e30553)。終末菜園の面々と参加しているのだが、向こうにも知り合いがおり、その知り合いが作る菓子に不安と興味を抱いているのだが、今は自分たちの作る菓子に集中をする。
「わたしはチョコクリーム包めば出来るというチョコ大福なるのをつくってみたいな」
「では俺の求肥で作ってみません? 数がありますので」
 そう声をかけたのは筐・恭志郎(白鞘・e19690)だ。白玉粉に長芋を加えたモチモチ度アップの特性レシピの求肥だ。いい南瓜があるのを確認し、それで餡を作り大福にするつもりなのだ。
「求肥に長芋使うんだね、意外—。ちょこっともらって味見して良い?」
「恭志郎くんは南瓜餡かい?どら一口」
「あ、トロノイさんつまみ食いはダメだよ」
 ホリィ・カトレー(シャドウロック・e21409)が八島・トロノイ(あなたの街のお医者さん・e16946)のつまみ食いを嗜めるが、味見とは別の浪漫がという反論をする。
 そんな2人だがホリィは人参とアーモンドプードルを混ぜて焼くケーキ。トロノイは南瓜をもらい、プリンを作る予定だ。
 「私のは芋餡ですが……ベルさんも味見どうぞ」
 林・瑞蘭(彩虹の戰巫女・e15365)は故郷のお菓子である芋餡を入れた団子を作り途中だったが、大人しくも、物欲しそうにしていたトロノイのサーヴァントのベルナドットに一口分けてあげる。嬉しそうに尻尾を振るベルナドットを見てほがらかな笑い声が上がった。
 嬉しそうにしているのは何もオルトロスだけではない。レクト・ジゼル(色糸結び・e21023)とラグナシセロ・リズ(レストインピース・e28503)も友人と一緒に参加ということで楽しい時間を過ごしている。
「日頃の感謝を込めてクッキーを。頑張ります!」
 そういうラグナシセロだが料理全般得意ではなく、クッキーの生地を作るその手つきはかなり危ういが、一生懸命さはとても伝わって来る。レクトはそんなラグナシセロの手つきに心配を感じつつ、これから食べる甘い食べ物に思いをはせていた。
「俺、すごい甘党なのでこういったパーティーは嬉しいです」
 レクトはトリュフを作っているが、こちらは慣れた手つきで作業をこなしていった。
 菓子作りに慣れているというとカグヤ・グランツィーノ(この後メチャクチャ脱兎した・e02638)と月永・蒼一郎(雪紡・e23952)もなかなかのものだった。
「こんなもんかなっと」
「いいですね。こちらもこのぐらいでしょうか」
 カグヤはブルーベリーパイのためのパイ生地つくりをしており、かたや蒼一郎はチーズタルトのためのタルト生地を作り中だ。そして更に彼は種類を作っており、葡萄の赤ワインコンポートに抹茶のティラミスも用意していた。蒼一郎は友人とこうして出かけるのが初めてで少しわくわくしているらしく、それが菓子作りにも影響して気合いが入っているのかもしれない。
 気合いが入っているのはこちらも同じ。白波・実麻(もふもふ好きアイドル・e28770)とエリスフィア・ローレイン(空色の鈴蘭姫・e28793)も気合いたっぷりにカボチャのパイ作りに挑戦していた。
「強力粉と薄力粉は振るったから、次はバターを入れてザクザク切り混ぜるっと」
 実麻は調べてきたレシピをエリスフィアに伝え、エリスフィアが材料を混ぜていく。
「お料理はするのですがお菓子作りはあまりしないので普段と違って楽しいです」
 次に必要な物などを実麻が用意しながら丁寧に作っていく。レシピ通りにやれば味は問題ないだろうが、特別美味しいと思ってもらうためには心を込めて丁寧に作ることが大事なのだ。2人ともレシピ通りしっかりとパイ生地を作り上げていった。
 丁寧な作業とは打って変わり、戯・久遠(紫唐揚羽師団のヤブ医者・e02253)とパトリシア・シランス(紅恋地獄・e10443)の2人はお菓子作りに集中しきれずにいる模様。
「気になるのは分かるが、露骨に動くとバレるぜパトリシア姐さん」
 特に集中できずにいるパトリシアへ久遠がこっそりと注意を呼びかける。
「わかってるわよ。あの子たちの初デートの邪魔をするわけにもいかないじゃない」
 この2人は初デートとしてパーティに訪れているカップルのスニークをするために参加しに来たのだ。とはいえ一つ屋根の下。どう頑張ってもばれるような気がしなくもない。お菓子作りとしては簡単にできるクッキーを作っているのだが、パトリシアは集中できないからか、あるいはもともと大雑把な性格なのか、作り方も大雑把になりがちだ。都度久遠が軌道修正しなんとか生地を完成させていった。
 こそこそだが仲良くしている彼らとは真逆に、どことなく距離感のある小熊と真白の2人もテーブルに向かい合い、それぞれお菓子を作っている。2人とももっと仲良くなれるようにという事でこのパーティに参加しにきたのだ。
「完成したら味見とかしてくれる?」
「もちろん! わたしのもお願いしていい?」
「うん!」
 そんな約束をしながら小熊はブルーベリーをトッピングに使ったチーズケーキを。真白は南瓜を使ったパンプキンクッキーを作っている。
 それぞれが作りたいものを作り、家の中には美味しい匂いと、皆の談笑が満たされる。全員のものが完成した時、テーブルの上には所狭しとお菓子が並ぶ。
 パーティはこれから始まるのだ。

●パーティの時間
 目の前に並べたお菓子を前に、ラグナシセロは不安そうな顔をしていた。
「一度失敗してしまいました……。レクト様のお口に合えば良いのですが」
 彼はチョコクッキーを作ったのだが、最初に焼いたものは焦がしてしまったのだ。とはいえ二度目に焼いたものは無事綺麗に仕上がっている。
「ちゃんと美味しくできてますよ」
 レクトはチョコクッキーの味を見たあと、自分が作ったトリュフをつまみ、ラグナシセロの口元へと運ぶ。
「俺のために頑張ってくれただけで嬉しいですし、ラグナさんは笑っていたほうがいいですよ」
 少し気恥ずかしそうにしながらラグナシセロはそのトリュフを口に含み微笑んだ。
 蒼一郎とカグヤはヴォルフへと誕生の祝いと個人用に作った巨峰の大福を渡し、席についた。
「遅れちまったけど、蒼一郎も誕生日おめでとさんな」
 蒼一郎は少し驚いた後、笑顔になり、カグヤにお礼の言葉を述べる。
「ありがとうございます。こうしてお祝いをするのは嬉しいことなんですね……」
 今まで1人でいることが多かったため、新鮮な気持ちになる。
「喜んでもらえたなら俺も嬉しいわ。また誘ってくれ♪」
 じゃー分けるか。と手前にある菓子からとりわけ、2人はスイーツを堪能し始めた。
「みんなスイーツ作りすごかったね。」
 清和は甘さが控えめだと言われたスイーツを取りながら葵に話しかける。
「葵ちゃんと遊びに来たかったのメインだからケーキ作りとか詳しくなくてな……って葵ちゃんはスイーツ大丈夫だった?」
 今になり、スイーツが好きだったかどうかを葵に確認する清和。最初はきっと誘う事で頭がいっぱいいっぱいだったのだろう。
「や、や、そんなそんな、私結構甘いもの好きですよ。普通に楽しいです。誘ってくれてありがとうございますー」
 最初はアーマーを脱いだ姿だった清和に戸惑っていた葵だが、この頃にはその姿にも慣れていた。2人の間では美味しいスイーツを食べながら、菓子作りとはどういう仕組みなのかなどという話が弾んでいた。
「誕生日おめでとー!」
 終末菜園でもお祝いの言葉が上がる。こちらでは言葉だけでなくチョコが用意したクラッカーが手渡され、参加者全員を巻き込んで盛り上がった。
「お祝いした後は食べるっきゃないもんね♪」
 チョコはもちろん自分が作ったチョコ大福含め、チョコ系のスイーツを片っ端から堪能しはじめた。
 その横に居るトロノイはスイーツはこれからというのに、すでに満足感のある顔をしていた。あれから色々と味見しまくったようだ。
「飲み物は俺にまかせてくれ。とはいえ、チョコさんが居る事だしホットチョコレートで決まりだな」
「恭志郎さん。よければ今日作っていた求肥のレシピ、教えてもらえますか?」
 瑞蘭は改めて恭志郎が作った大福を食べながら求肥の美味しさに舌鼓を打つ。このレシピがわかれば更に美味しいものが作れるだろう。
「もちろんです。そういう瑞蘭さんの芋餡もすごいなめらかで美味しいです。今度真似させてもらいますね」
 恭志郎はメモする紙をもらい、サラサラとレシピを記入していく。そのレシピはとても細かく丁寧に書かれているため、これなら誰でもすぐ作る事ができるだろう。
「皆さん何食べる? よかったら僕がとり分けるよー」
 ホリィは自分用のものを取り分けた後、更に皆の分も取り皿に分けていく。もちろん、美味しそうに作られているものだけを。
「うーん。わたしの誰も手にとらないね」
 そういうシルの前にはくろーく焦げたクッキーと、同じ皿に拳サイズぐらいの何かの塊が乗った皿があった。さすがに誰もその皿には手をつけていないのだ。周りの皆はシルにフォローの言葉をかけた。
「ぼくのは美味しく出来たかな」
 その横では満足そうにしているクローネが。彼女は結局南瓜プリンを作った。見た目はとても綺麗に出来上がっているが、さくらがリゼルに味見を進めた。
「リゼルくん、味見は任せた」
「あ、はいはい。味見係のリゼルですよ」
 任されリゼルは南瓜プリンを一口。その途端複雑そうな顔をする。
「お、お茶と一緒にか……冬の登山には、良さそう……?」
「どういう味なんです? 私にもちょっとくださいな?」
 リゼルの反応が微妙なため、レイラも南瓜プリンを食すが、その途端悶絶し、用意してあった紅茶を口に運ぶ。
 そう。その南瓜プリンは超絶甘いのだ。
「やっぱりすごい甘いのね」
 さくらはクローネが大量に砂糖を入れているのを見ていたのだ。
「え? 甘すぎる? これくらいが普通だよ」
 当の本人は超甘党なためか、他の人たちの反応を他所に、自分が作ったプリンを平気で食していた。
「味、どうかな?」
 実麻は少し不安そうにエリスフィアが食べる様子を見守っている。2人で一緒に作ったパンプキンパイだが、まず先にエリスフィアが味見をしているのだ。
「実麻さん。とても美味しいです。特に生クリームが入っているからか、カボチャのクリームがとてもなめらかで」
 実麻の希望でパンプキンパイのカボチャクリームには生クリームが足されているのだが、それがとてもなめらかな食感になり、パイのサクッとした食感とベストマッチしているのだ。
「良かったー。エリスフィアが一緒に頑張ってくれたおかげだよ♪」
 2人は美味しくできたパイに満足し、パーティを楽しんだ。
「小熊ちゃん、はい、あーん」
 少し意地悪っぽい顔をして真白は自分が作ったクッキーを小熊の口元に運ぶ。
「あーん」
 その小熊は素直にパクリとクッキーを口で受け取り食べる。嬉しそうにしながら今度は自分の作ったチーズケーキをフォークにとり、真白の口元へと運んだ。
「こっちのもどうぞ♪」
 その行為に真白は少し恥ずかしそうにしながらもチーズケーキを一口もらった。
 もちろん各自手元にはそれぞれ用意されている状態。そんな状態でこんな事をしている自分たちに笑いあう。そのうち自分たちが作ったものではなく食べたいものをとりわけ、これもどうぞ、これもどうぞと食べあいっこが始まるのだった。
「なんとか作り終わったな。パトリシア姐さんはコーヒーと紅茶どっちだ?」
 久遠は無事作り終わったクッキーをつまみながら飲み物を用意する。
「あ、わたしコーヒーがいいわ。それにしてもいい感じね」
 尋ねられたパトリシアは相変わらず気になる2人の様子を見ながら久遠に返事をする。様子を見ながらも無事に作れたクッキーをパクパクと口に運んでいた。
「欲を言えば、もうちょっとこっちを見て欲しいんだがな」
「え? クオン、何か言った?」
 なにも。そう答えながら用意したコーヒーをパトリシアへ手渡す。久遠は陰ながら軽く溜息をつくのだった。
 その日は1日談笑にあふれ、賑やかで美味しいパーティになった。束の間の休日にケルベロス達は心身ともに癒され、それぞれ帰路へとついた。

作者:鬼騎 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年9月23日
難度:易しい
参加:22人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 3
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