人類アンドロイド化計画

作者:りん


 ざわざわ……。
「はーい、静かに! 皆きちんと整列してー」
 1年生から6年生までが揃った体育館でクラスを受け持つ担任が自身のクラスをまとめるため各々に声をかける。
 その様子を眺めながら、教頭はぽそりと呟いた。
「……やはり児童が少なくなりましたなぁ」
「そうですねぇ……」
 それに答えたのは養護教諭。
 昔は各学年4クラス以上が普通であったのに、今は各学年1クラス十数人。
 廃校も囁かれている小学校だが、ここが廃校になると児童たちが登下校に車を使わなければならなくなるという理由から廃校には至っていない。
 ふぅと息を吐き、教頭は静まりつつある体育館を見渡す。
「しかし、校長は何の話があるんでしょう?」
「さぁ……私も何も聞かされておらんのです」
 今年度に入ってこの小学校に赴任してきた校長とはまだ付き合いも浅い上、普段は校長室に引きこもっているため人となりもよくわからない。
 全校集会が行われそうな理由を考えてはみるものの運動会は先日終わり、学芸会はもう少し先の話だ。
「生徒だけではなく教職員全員が呼び出されるなんて、よっぽどのことなんでしょうね」
 言われてみれば。
 通常は保健室待機のはずの養護教諭まで呼び出すのは中々ないことだ。
 静まった体育館のステージに校長が立ち、あまり使われないマイクに声を通す。
「えー、皆さんおはようございます」
 児童たちからおはようございますという声が返り、校長は満足げに頷き、
「皆さんに大事なお知らせがあります」
 廃校、という単語が脳裏に過ったのもつかの間。
 校長の体が壇上で変形したかと思うと、体育館の出入口と窓が鉄格子でふさがれる。
「皆さんにはこれから、私と同じアンドロイドになっていただきます」
 山間の体育館に絶叫が響いた。


「人間社会に入り込んでいたダモクレスの尖兵が正体を現しました」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)の言葉にケルベロスたちは彼女の話に耳を傾ける。
「場所は山梨県の郊外にある小学校です」
 その小学校の体育館がダモクレスによって占拠され、その学校に通っている児童と教職員全員が閉じ込められているのだという。
 ダモクレスの目的は閉じ込めた人間を改造し、アンドロイドとすること。
「現場に急行し、ダモクレスの撃破と捕まっている人たちの解放をお願いします」
 ケルベロスたちが頷いたのを確認し、セリカは詳細を語っていく。
「ダモクレスはアンドロイドで、武器はガトリングガンです」
 戦闘になると首から下が変形し、胸の部分に組み込んであるガトリングガンで攻撃をしてくるのだと言う。
 そして体育館に捕らえられている人々はと言うと……
「改造手術の準備のために様々なことをされているようです」
 具体的には手術台のようなものにしばりつけられ色々な角度からレーザーのようなものを浴びせられているのだとか。
「ダモクレスは改造中の人々を攻撃することはありませんが、闘いが長引くと彼らの中から新たなダモクレスが生まれる可能性があります」
 とすると、捕らえられている人々がダモクレスとなる前に素早く倒すか、ダモクレスと戦いながら人々を解放をする必要があるだろう。
 人々の保護は戦闘開始後、建物の外までは警察や救急隊員が応援に来てくれるので、開放して建物の外に運ぶことさえできれば心配はない。
「捕らえられているのは小学1年生から6年生の児童66人、教職員15人の計81人です」
 ダモクレスの戦力拡充を阻止するためにもこの戦いは負けられないし、それよりも幼い子供たちの未来を奪うことなど許されない。
「どうか、捕らえられている人々を救ってください」
 そう言ってセリカはケルベロスたちに頭を下げた。


参加者
シヴィル・カジャス(太陽の騎士・e00374)
真靱・サキ(レプリカントの鎧装騎兵・e00395)
マイ・カスタム(無改造・e00399)
ルーナ・バウムフラウセン(レプリカントの鎧装騎兵・e00623)
アルトゥーロ・リゲルトーラス(エスコルピオン・e00937)
ソルシエ・マオ(夢渡りの妖精・e01336)
アルタ・リバース(穏心の放浪者・e05478)
ナカ・ミミ(ナルシストの立ち飲み屋店主・e10203)

■リプレイ


「廃校寸前の学校を丸ごと乗っ取りとは、手の込んだ真似を……」
 ぽそりとそう呟いたのはマイ・カスタム(無改造・e00399)だ。
「ダモクレスさんも手段を選びませんネ~」
 困ったような口調で言うソルシエ・マオ(夢渡りの妖精・e01336)だったが体育館を確認するきゅっと唇の端を釣り上げた。
「しかしボクたちに見つかったからには予定通りにはいきませんヨ?」
 息を整えながらざっと体育館を見回したシヴィル・カジャス(太陽の騎士・e00374)は少しだけ眉を顰める。
 体育館の広さは大体どこの小学校でも同じようなもので、ここも似たような形であった。
 ステージ側と思われる方には出入口はないが、それ以外の三辺には2か所大きな扉がついている。 
「なかの様子がわからないというのは厄介だな」
 ぽそりと呟かれた言葉に、ルーナ・バウムフラウセン(レプリカントの鎧装騎兵・e00623)は頷き今回の事件の感想を漏らした。
「潜入工作っていうのは本当に厄介ね」
 何とか対策が取れればとも思うが長期に渡って潜入しているとなると見破るのも難しい。
「とりあえず、今は目の前の状況を何とかするのが先ね」
 ルーナの声にケルベロスたちは頷き、体育館の扉を開けた。

 開け放たれた扉の向こうにある鉄格子をグラビティで壊し、ケルベロスたちは一気に体育館の中へと雪崩れ込む。
 まず目についたのはステージの上に立っているダモクレス。
 そしてステージの前には手術台に張り付けられた職員たちの姿があり、子どもたちは恐怖におびえ泣いている児童も見受けられた。
「そっちは任せる」
「戦闘開始……、戦闘モード起動……」
 そう言って真っ先にステージへと走るのはアルトゥーロ・リゲルトーラス(エスコルピオン・e00937)と真靱・サキ(レプリカントの鎧装騎兵・e00395)。
 彼らの役目はダモクレスの足止めだ。
 同じく足止めをするアルタ・リバース(穏心の放浪者・e05478)は走りながら壇上のダモクレスを複雑な思いで見つめる。
(「ダモクレス……私達が心を失った、あるいは元の姿」)
 心を持っているかどうか。
 違いはそれだけ。
 だが。
(「もはや別の存在のようなものですね……」)
 壇上のダモクレスは同僚として過ごしてきた教職員たちを改造することに何のためらいもない。
「敵は抑えます。どうか、捕われた方を宜しくお願いします」
 救出班にそう告げてアルタもステージの上へと駆けのぼり、その後にソルシエも続く。
「はーい、そこまでデスっ。ボクたちが来たからには好き勝手させませんヨ~」
 一般人を解放するまでは自分たちが囮とならなければ。
 足止め班の4人はそれぞれに覚悟を固め、ダモクレスと対峙した。


 ダモクレスの前に到着したアルトゥーロは小さく舌打ちをした。
(「できるだけ人質から引き離したかったんだがな……」)
 だが現在の配置がそれを許さない。
 体育館での配置はステージの上にダモクレス。
 そのステージの前に教職員を縛り付けている手術台。そしてその後ろには全校児童。
 空いているスペースは体育館の後ろの方となるが、そこまで誘導するとなると手術台と児童の隣を通っていくこととなる。
 避難誘導をしている横を戦闘をしながら通り抜けるのは得策ではないだろう。
 兎にも角にもダモクレスの注意はこちらに引き付けておくべきだろうと考え、アルトゥーロは挑発の言葉を口にした。
「さあ、こっちへ来いよ、人形野郎! 大事な素体を傷つけてもいいのか?」
「一手、御指南お願いします」
 アルトゥーロのリボルバー銃から弾丸がばら撒かれ、振動を帯びたアルタの拳がダモクレスの顔にのめり込む。
「邪魔させていただきますネっ、お仕事なんかよりボクと遊びまショウ♪」
 アルタとは逆側の頬へ向けソルシエの拳が伸びるがそれは見切られ、躱される。
 そこへ飛んでいくのはサキの放った巨大な矢。
 漆黒の巨大矢はしかしダモクレスの身体に刺さることなく、ステージ袖へとすり抜けた。
 彼らの攻撃が一通り済むとダモクレスはふぅと息をつき、
「おやおや、お招きはしていないんですが……仕方ないですね」
 ダモクレスの胸元のガトリングガンから無数の弾が放たれた。

「太陽の騎士シヴィル・カジャス、ここに見参!」
 足止め班がダモクレスへ向かったのを確認すると、シヴィル、マイ、ルーナの3人は手術台へと走る。
 そこから少し距離を置きながら入ってくるのはナカ・ミミ(ナルシストの立ち飲み屋店主・e10203)だ。
 彼女は螺旋隠れを使おうとするが体育館全体がすでに戦場と化している。意味がないと思い直し素直に体育館へと足を踏み入れた。
 手術台に縛り付けられている大人たちがまだアンドロイドとなっていないのを確認したシヴィルはばさりと羽を広げ、近くの壁へ聖なる光を放つ。
 壁に大きな、しかし体育館が崩れない程度の穴を空けて一気にここから逃がす予定だ。
 その間にルーナとマイ、そしてマイの連れているテレビウムは手近な手術台へと向かっていた。
「レーザーの破壊はやめておいたほうが良さそうだな」
 中の言葉にレーザーの位置を確認すれば手術台とレーザーは一体型になっており、レーザーだけを壊すとなると教員たちに怪我をさせる危険がありそうだ。
 不幸中の幸いか、彼らの身体は両手両足をベルトで固定されているだけのようで助け出すのは容易にできるだろう。
「安心してください。もう大丈夫ですよ」
 ルーナはステージに一番近い手術台の教員にそう告げながら、落ち着いてベルトを外していく。
 その間にマイもテレビウムのてぃー坊に指示を出し、手分けして教員たちを解放していた。
「早く、安全なところへ!」
「あとは私たちに任せてくれ」
 安心させるようにそれぞれが教員に声をかけつつ怯えてしまっている児童の先導を頼めば、彼らは力強く頷く。
 一人一人と見知った大人が解放されるのを確認したからか、児童たちの恐怖も幾分か和らいだようだ。
「……少し、時間がかかりそうだな……」
 次の手術台へと向かいながらマイはぽそりと呟く。
 手分けして彼らを逃がしているとは言え、手術台にしばりつけられている教職員はあと11人。
 混乱している彼らが全員避難するまでには少し時間がかかるだろう。
「……貴様には、この人々の声が聞こえているか……?」
 ナカはぐっと拳を握り、ステージ上のダモクレスを見つめた。
 説得を試みたいとは思うものの、今は避難誘導が第一優先。
 せっかくあちらで注意を引いてくれているというのに、わざわざこちらに注目させれば逃げ出そうとする人々がどうなるかわからない。
 アルタが膝を折る姿を確認したルーナは、ベルトを外す手を止めて彼に緊急手術を行っていく。
「すみません、もう少し耐えてください……!」
 慌てて捕らえられている人の解放を再開したものの、手術台からの解放を終えたのはダモクレスがアルタへ向かい3度目の攻撃を行った直後であった。
 マイがテレビウムをステージの上へ向かわせるが避難は完了しておらず、彼らの安全を考えるとまだこの場を離れるわけにはいかない。
 全員が避難するまであと少し。
 じりじりと焦る心を抑えつつ、ルーナは足止め班の無事を祈った。


 アルトゥーロのリボルバー銃がダモクレスの頭を的確に捉えるが倒れる様子は見られず。
 この小学校に一人で潜入したということからかなりの強さなのだろう。
 彼の隣ではその攻撃を一身に引き受けているアルタが鋭い声を放つと共に自身の体力を回復していた。
「生憎と……この程度で倒れる訳にはいきません」
 彼の身体はガトリングガンの弾が掠め突き抜け、かなりの出血が見て取れる。
 ふらりと揺れるアルタにソルシエは明るく声をかけ、彼に分身を纏わせた。
「おっと、大丈夫ですカ? 回復しますので頑張ってクダサイっ!」
「ありがとうございます」
 戦闘の合間を縫ってちらりと横目で解放班を盗み見れば、丁度最後の一人が体育館の外へと出た所で。
 これでこの厳しい状況は脱せるだろう。
 だがその前に少しでもダモクレスの体力を減らそうとサキは機械の継ぎ目となっている場所へ強烈な一撃を叩き込んだ。
 がきり、とガトリングガンとの継ぎ目が音を立てるがダモクレスは何事もなかったかのように再びアルタへとその銃口を向ける。
 ガトリングガンが火を噴きアルタが痛みに身構えた瞬間、目の前に美しい翼が広がった。
「すまない、待たせた……!」
 弾丸をその身で受け止めつつシヴィルが笑えば、アルタも微笑みを返し、
「よし、帰る迄が遠足です。後一頑張り、と行きましょう」
 彼女の参戦に解放が無事に終わったことを悟った足止め班の面々は、一気にたたみ掛けるべくそれぞれの武器を握り直した。
 アルトゥーロが放った弾丸はしかしダモクレスに見切られるが、その弾丸を避けたところへアルタが走り込む。
「殴り合いは得手なもので……!」
「侵略者め。地球が貴様らの牧場ではないということを教えてやろう!」
 アルタの拳がダモクレスの頬に肉薄すれば、シヴィルの掌から放たれたドラゴンの幻影はその体に炎を纏わせる。
 ぐらりとよろけるそこへサキの妖精弓から1本の矢が放たれた。
 心を貫くその矢は人間で言う心臓の辺りを貫きダメージを与えれば、螺旋を籠めた掌をソルシエはダモクレスの右手にそっと這わせる。
「さぁさぁ、そろそろ幕引きですヨ?」
 ふわりと触れたその内側から螺旋は一気に渦を巻き千切れるようにダモクレスの右手が取れた。
 逃走経路を封じるように陣取ったマイはダモクレスの足目がけ氷結の螺旋を打ち放ち、テレビウムはバールのようなものを振り回す。
「これでどうだ!」
 テレビウムの攻撃を何とか逃れたダモクレスだが、マイの攻撃までは避けきれず。
 マイの狙い通りその場所へと縛り付けられたダモクレスは顔に少しの不快感を滲ませた。
 シヴィルとアルタの怪我の具合を確認したルーナは回復ではなく攻撃を選択する。
「容赦はしないわ。心無いダモクレスにそんなものは無用でしょ?」
 言葉と共に彼女発射口から放たれたエネルギー光線がダモクレスの腹部を的確に打ち抜けば、ナカの慈悲に満ちた拳がその頬を叩く。
「心を持ち得ぬ貴様に勝ち目はない……」
 ダモクレスとレプリカントの違いとなるそれは一石二鳥で得られるようなものでもなくて。
「……地球に住んでみないか? 共に」
「必要を感じませんね。何の利点があるんです?」
 目の前のダモクレスにナカの言葉は響くことはなく。
 身体の痛みを感じているのかいないのか、ダモクレスはマルチプルミサイルを前衛の3人とテレビウムに向かい発射した。
 ミサイルの雨が止んだ頃、アルトゥーロはその体に血を滲ませながらもにっと笑う。
「威力、落ちてきたんじゃねーの? そろそろガラクタに還してやるよ」
 シリンダーが音を立てて毒を纏った弾丸が放たれると同時に、シヴィルも『物質の時間を凍結する弾丸』を発射させる。
 2つの弾丸はそれぞれ右肩と左肩に命中し、突き抜けることなく体内に留まりダモクレスの身体を蝕んでいく。
 動きの鈍っているダモクレスにアルタは拳を繰り出すが、先ほどと同じ攻撃は読まれていたのだろう、身を捩って躱される。
 攻撃を躱してバランスを崩した瞬間をサキは見逃さなかった。
 サキの放った矢は左腕の付け根に突き刺さったかと思うと、機械の腕はポロリと取れて床へと落ちる。
「そろそろ飽きてきたので終わりにしませんカ?」
「コアブラスター!」
 ソルシエの流星の如き蹴りにのけ反るダモクレスをマイの放ったエネルギー光線が突き抜ければその体は宙に浮き、力なく床へと崩れ落ちたのだった。

「……心、か」
 二度と動かないダモクレスを見つめ、ナカはぽつりと呟く。
 ダモクレスは何を考え、何を望んだのか。
 短い邂逅では何もわからなかった。
「みんな動けるみたいね。さ、帰りましょう」
 サキの声に促され、彼らは小学校を後にする。
 秋の風が山の木々を揺らし、数枚の葉っぱを落とした。

作者:りん 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2015年10月5日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 0
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