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釧路湿原の奥地に死神『テイネコロカムイ』が佇んでいる。その足元には虫人間のローカストがひざまずいていた。
「機は熟したわ。そろそろあなたにも動いてもらおうかしら。今すぐ市街地に向かって、できるだけ多くの人を殺して来なさい」
死神はそう命じる。
ローカストはすでにサルベージされており、死神の意のままに動く人形と化していた。
ローカストはうなずくと、立ち上がって釧路湿原をあとにした。深海魚型の死神が四体、そのあとに続いて宙を泳いでいく。
ローカストが向かう先には人々が暮らす市街地が広がっていた。
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「第二次侵略期以前に死亡したローカストが死神にサルベージされ、釧路湿原付近で暴れ始める事件が起きるようです!」
ヘリポートに集まったケルベロスたちの前で笹島・ねむ(ウェアライダーのヘリオライダー・en0003)が説明を始めた。
「どうやらローカストは釧路湿原で死亡したのではないようなので、死亡後になんらかの理由で釧路湿原まで運ばれたのかもしれません。ローカストは死神によって強化を施されていて、周囲に数体の深海魚型の死神を引き連れています」
彼らの目的は市街地の襲撃。ただ幸いなことにねむの予知によって侵略経路は判明しているため、湿原の入り口付近で迎撃することが可能だ。周辺に一般人がいない状況で戦えるので、戦闘にのみ集中することができるだろう。
「ローカストは『アームドフォート』のグラビティに準拠した技を使用します。自我が希薄なため説得による交渉は不可能です。また深海魚型の死神たちはドレインの効果を持つ攻撃を仕掛けてきます」
接触地点となる湿原の入り口付近は人がいない状況なので、周囲に気を遣わず存分に戦うことができるだろう。
「ローカストが市街地に踏み込む前に接触して倒してください。それでは、よろしくお願いします」
参加者 | |
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アシェリー・サジタリウス(射手座の騎士・e00051) |
天谷・砂太郎(ぽんこつブレイズキャリバー・e00661) |
ヴァジュラ・ヴリトラハン(戦獄龍・e01638) |
望月・護国(龍帝ードラゴン岬ー・e13182) |
メリッサ・ルゥ(メルティウィッチ・e16691) |
ルーディス・オルガニア(禁書に蝕まれた道化・e19893) |
クルル・セルクル(兎のお医者さん・e20351) |
神藤・聖奈(彷徨う術士・e27704) |
「死んだ魂すらも使い捨ての道具か……相変わらず死神の手口には感心できんな」
釧路湿原へと向かう道すがら天谷・砂太郎(ぽんこつブレイズキャリバー・e00661)は怒りをあらわにする。いかにも死神らしい非道なやり口に砂太郎は腹立ちを抑えきれない。
「従うべき相手もわからないなんて、憐れなものね」
アシェリー・サジタリウス(射手座の騎士・e00051)が呟く。死んだ後も都合のいいように操られるとは、ローカストも気の毒なものだ。
「かの戦争の生き残り……というわけでもないようですね」
ルーディス・オルガニア(禁書に蝕まれた道化・e19893)は神妙な面持ちで続ける。
「よりによって、魂を弄ばれることとなりましたか。侵略という形ではありましたが、己の星を守るために必死に戦った彼らの思い、少しは理解できているつもりです。彼らの亡骸を冒涜することは、許しません」
こうなってしまった以上、ローカストを撃破するのがせめてもの手向けだろう。
「人であれデウスエクスであれ、永久の眠りを妨げられ弄ばれるのを見るのはいい気が致しませんわ………いずれにせよ、再び眠りに就いてもらわなければ」
そう話すのはクルル・セルクル(兎のお医者さん・e20351)である。当然ながら4体の死神も含め、敵を全て逃さず撃破するつもりだった。
数分ほど歩くと目的地である釧路湿原の入り口に到着した。敵が現れるまでしばらくここで待機することになる。
青空の下にはみずみずしい緑をたたえた湿原が広がっている。
「ローカストたちを通せば市街地の人にたくさん被害が出ちゃうんですよね……なら、ここでなんとしても食い止めないとです! えいえいおー!」
メリッサ・ルゥ(メルティウィッチ・e16691)は緊張を紛らわすかのように元気な声を上げる。その声は湿原に響き、青空に溶けていった。
「ふむ。しかし毎度思うが、死神の蘇生より地獄化しての蘇りの方が上等だな。そもそも何故死なせる神が生き返らせているのやら。……まあ、戦えるのならば文句は無いが」
ヴァジュラ・ヴリトラハン(戦獄龍・e01638)は戦いを前にして若干気分が高揚している様子だった。戦いとは、考えようによっては敵が強ければ強いほど楽しくなるものだ。
「さ、糖分補給して暴れる準備を整えるであるよー」
敵がまだ来ないようなので、望月・護国(龍帝ードラゴン岬ー・e13182)は手作りのクッキーを仲間たちに手早く配り始めた。
彼らはココアクッキーをかじりながら敵が来るのを待った。
クッキーを食べ終えてからしばらく経った頃、異様な気配と共にローカストが姿を現した。その頭上では4体の白い深海魚型の死神がゆらゆらと宙を泳いでいる。昆虫人間が無言で死神を引き連れて歩いてくるその光景はなかなか不気味だった。
「周辺被害を気にする必要がない、というのはやりやすくて結構なことです。ここで終わらせましょう」
神藤・聖奈(彷徨う術士・e27704)は敵の姿を眺めながら落ち着いた口調で呟く。とにかく今は目先の敵を確実に片付けるのが先決だ。
ローカストは死神を連れて悠然と歩いてくる。敵をここで食い止めるため、ケルベロスは武器を手にゆっくりと歩き出した。
敵は1体のローカストと4体の深海魚型の死神。どちらを先に叩くかは悩ましいところだが、ケルベロスはひとまず標的をそれぞれ分担して各個撃破することにした。
砂太郎は死神を無視してローカストに駆け寄るとデストロイブレイドを放つ。武骨な刀を振りかぶり、ローカストの頭めがけて力いっぱい打ちおろした。自我が希薄だということは分かっているのでもちろん容赦はしない。
ローカストの視線が砂太郎のほうへと向けられる。
「まずは一撃、開戦の狼煙よ」
仲間がローカストの意識を引き付けているうちにアシェリーがナパームミサイルを放った。大量の焼夷弾をばら撒いて敵群を炎で飲み込んでいく。死神はローカストをかばうような動きは特に見せなかった。
敵が反撃に転じる前にケルベロスはエフェクトの付与を行った。まずクルルがルナティックヒールを発動してメリッサにエンチャントを付与。そしてヴァジュラがメタリックバーストで前衛の集中力を高めていく。
やがて炎の中から敵群が飛び出してきた。ローカストは麻痺の力を帯びた光線を手の平から発射する。すると4体の死神も同時に突っ込んできた。
ヴァジュラは味方の前に立ちはだかって全ての攻撃を受け止めた。その体に光線が叩き込まれ、死神たちが足や腕に噛みついていく。
「ずいぶんと攻撃的だな……かばう様子もないし死神のポジションはクラッシャーか!?」
ヴァジュラはシャウトで自身にヒールを施しながら叫んだ。気合を入れ直して死神を振り払う。
一方、護国はローカストに狙いを定めて猟犬縛鎖を放った。精神操作で鎖を飛ばして敵の体を絡め取っていく。
ローカストは体を鎖で縛られながらも何とか手を掲げてエネルギー光線を打ち出してきた。護国は跳んでかわすと一旦味方の後ろに引いていった。
その後を追うように4体の死神が宙を泳いで迫ってくるが、メリッサが前に立ちふさがる。
「ここは通しません。私たちが相手です!」
そう言いながらメリッサはスターゲイザーを放つ。片足に流星のような輝きを宿して飛び蹴りを打ち込み、死神を1体弾き飛ばして撃破した。
「其は形無き顎。穿ち、貫く、蜃気楼。地を焼き捨てる幻よ、来たれ――!」
ルーディスはドラゴニックミラージュを放つ。竜の幻影のような光が手の平から飛び出し、1体の死神を飲み込んで消し飛ばした。
しかし攻撃をかいくぐってきた2体の死神がメリッサとルーディスに噛みつく。それに続いてさらにローカストが両手を掲げて無数のレーザー光線を照射してきた。幾本ものレーザーが地面を焼き切り、一気に爆炎が広がっていく。
それを見たクルルはすぐさまライトニングウォールを発動した。前線に雷の障壁を構築して前衛の傷を癒すと同時に異常耐性を高めていく。
「失われた存在は、失われたままに。他を害することがないように」
仲間たちを癒しながら、クルルはそんな祈りを小さく呟くのだった。全ての命によりよい生を。終わるときには安らかな眠りを――それが彼女の信条である。
そしてフードを深くかぶった聖奈が死神に駆け寄ってルーンディバイドを放つ。ルーンが浮かび上がった斧に呪力を込め、両手で思い切り振り下ろす。呪いの斬撃を浴びた死神は真っ二つに切り裂かれて消滅していった。
その後もケルベロスは果敢に攻撃を仕掛けていった。
現在、残る敵はローカストと死神1体。死神は思いのほか動きがすばしっこい上、噛みついてこちらの体力を吸収してくるのでなかなか厄介だ。早めに数を減らしておいて正解だったかもしれない。
のらりくらりと攻撃をかわしてしぶとく生き残っていた最後の1体の死神にとどめを刺すべく、メリッサは『幻想蝶の召喚』を発動する。
「お願いしますね……『我が伴、儚の蝶よ。出でよ!』」
光をまとう幻想蝶の姫君がメリッサのかたわらに出現した。姫君はふわりと宙を舞いながらターコイズブルーの翅を揺らして急激に加速し、死神へタックルする。その衝撃で跳ね飛ばされた死神は地面を転がって爆散していった。
これで4体の死神を全て撃破することに成功した。残る敵はローカストだけだ。
護国はレゾナンスグリードを放つ。捕食モードに変形したブラックスライムが至近距離から伸び、敵の体を食い尽くすようにして飲み込んでいった。続いてアシェリーが絶空斬を放ち、ブラックスライムごと敵を叩き切る。
攻撃を終えて一旦距離を取る護国を、アシェリーが蹴り上げた。護国の体がふわりと空中に打ち上げられる。
「ヴァジュラ、護国、合わせて!」
アシェリーの声に応じて、ヴァジュラは宙を舞う護国の足を握った。
「一体何を……のわーー!?」
驚く護国をよそに、ヴァジュラは武器(護国)に地獄の炎をまとわせて大きく振り抜いた。灼熱の打撃がローカストの体に叩き込まれ、その体に炎が延焼する。
体の一部が焼け焦げたローカストは一旦引き下がると、自身の周囲に小さな炎弾を無数に出現させた。やがて炎弾が一斉に放たれる。飛んできた炎段が次々と炸裂し、炎の波が前衛のケルベロスに覆いかぶさっていった。
「誰も触れていませんが護国さんは大丈夫ですの……? い、いえ、いま突っ込んではだめですわ。ひとまず戦いが終わってからですわね」
クルルは気を取り直してライトニングウォールを発動する。稲妻の壁を生成して前列の味方へ一挙にヒールを施しつつ、BS耐性を与えていく。
ヒールを受けた前衛のケルベロスは被弾を恐れることなく敵のほうへ突っ込んでいった。残る相手はローカスト1体のみ。多少無理をしてもメディックの援護を受ければこのまま押し切れるかもしれない。
砂太郎は敵に近づいてフレイムグリードを放った。打ち出された炎弾は確実に敵を捉え、爆炎を広げながら生命力を喰らっていく。
ローカストは身を焼かれながらも手の平からエネルギー光線を射出してきた。まばゆい光線がケルベロスのもとへと飛来する。
ルーディスは紙一重で光線をかわすと『死こそ全ての命の終着の地』を発動した。
『其は絶対たる真理。逃れえぬ条理。収束し、終息せよ。嘆き、畏れ、跪け。古の闇の深遠より、汝に下賜するは永劫の死なり――!』
漆黒の闇のような黒い風が飛び出し、地面の緑を削り取りながら敵へと迫っていく。どす黒い渦が敵の全身をすっぽりと飲み込んで通り過ぎていった。
ローカストは一瞬硬直を見せたものの、またすぐに動き出した。両手を上げると無数のレーザー光線を辺りに射出してきた。光線が地面に着弾するたびに盛大に火柱が上がる。
だが疲労によって腕が若干震えているせいか敵は狙いが定まらないようだ。聖奈はぎりぎりで光線を避けつつ片手を天に掲げて『流星群』を発動する。
『Alea iacta est』
空中に出現した光輝く魔法陣から無数の流星が降り注ぎ、周囲の地面ごと破壊していった。ローカストは光線を射出して聖奈のグラビティを弾こうとしたが、逆に流星群に光線を跳ね返されてしまった。
圧倒的な破壊力にローカストは押し潰され、圧砕されていく。
やがて煙が収まって周囲の視界が晴れていった。近くで見てみるとローカストの体は流星群に潰されてばらばらに砕けている。
敵の撃破を確認したケルベロスはほっと安堵する。背後を振り返ると遠くに市街地が広がっていた。あの街には人々の平穏な暮らしがある。デウスエクスをここで止めることができて本当によかった。
「お疲れさん。ケガはないか?」
ヴァジュラは手負いの仲間にヒールを施し始めた。
「どうか安らかに……」
メリッサは死神にサルベージされていたローカストに対してそう声をかけると、周辺のヒールを開始した。度重なるグラビティの着弾によって手ひどく変形していた地面が修復されていく。
「安らかにお眠りください」
ルーディスが呟く。
一度目は己の意志で、二度目は他者の意志で戦い、死を迎えたローカストに彼はそう声をかけるのだった。
作者:氷室凛 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2016年9月13日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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