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ひらりと翅を開く蝶々は赤い花弁へと肢を下す。
死人花の名に相応しく、鬱蒼とした雰囲気の中でその花は咲いていた。その場所へと青年が訪れたのはちょっとした興味だったのだろう。
「曼珠沙華には毒がある――でも、天上の花は白いっていうんだよな」
さくり、さくりと土を踏みしめた青年は誰に言うでもなく言葉を滑らせる。
曼珠沙華、死人花、その花は彼岸花と呼ばれる。赤い花弁は美しいが不吉を感じさせる奇妙な佇まいで。森の奥深くに立ち並んだ花は図鑑や写真の通りの朱を咲かせていた。
「……赤い彼岸花の中に、白が咲く――か」
白くうつくしい天上の花。それが咲いていると噂されるこの森の深く。
青年は噂を頼りに興味本位のまま調査に赴いたのだ。肝試しだと友人たちが囃し立てたのだろう、手にしたスマートフォンは録画のマークが点灯している。
「ほら、見てろ。彼岸花畑ってやつだ! あっちに―――」
カメラを立ち並ぶ彼岸花に向けようとした刹那、青年の体がぐらりと傾いた。
振り仰ぐ彼の前にあるのは白い花ではない、白い手。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『興味』にとても興味があります」
死人花が立ち並ぶ奥深く、倒れこむ青年の背を見つめて笑ったのはパッチワークの魔女だった。
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知的好奇心は誰しも所有するものだ。噂や伝承に興味を持つ人は幾人もいるが、行動に起こす人間は一握りだけなのだろう。
偶然、噂をもとに行動に移した青年がドリームイーターに襲われ『興味』を奪われてしまったのだとヘリオライダーから資料を渡されたローデッド・クレメインス(灰は灰に・e27083)は気怠げな視線を落としながら言葉にした。
「……ってなワケだ。『興味』を奪ったヤツは姿を消したが――奪われた『興味』はドリームイーターになってやがる」
吐き捨てるローデッドは胡乱気に片目でケルベロスを見回す。傍らのヘリオライダーが頷き先を促しているようだ。
「バケモノになっちまったヤツを見過ごすのも後味が悪ィ。
興味を奪われたやつも気を失ってんだ。バケモノを倒せば目ェ醒ますんだろうが……」
「倒しましょう!」
ふんす、と気合十分の笹島・ねむ(ウェアライダーのヘリオライダー・en0003)にローデッドは小さく息を吐いた。
『彼岸花畑に一輪だけ咲いた白い彼岸花』――天上の花とも呼ばれるそれをローデッドは確かに噂に聞いたのだという。
その噂と、彼の興味の通り、赤い彼岸花に白い一輪の花を混ぜ、真白の手を生やしたホラー染みた外見となっているのだろう。
「彼岸花オバケはですね、『死人花の色は何色?』って聞いてきますよ!」
「勿論、アカだろ」
正解とねむは頷く。冗句交じりに何か別の色を答えたり、何も返答をしなければ苛立って殺戮に赴く可能性があるのだという。
「バケモノは噂とか信仰に誘われるそうだ。俺やあんたが噂すれば、引き寄せられる可能性は十分あるんだよな? なァ?」
「そうです。噂とか信じてるとか、そーいう興味に誘われますよ!」
天上の花、死人花。相対するその花は、朱に咲き誇るのだという。
ただ、花を見たかった――信じているその無垢な思いを散らし、剰え食い物にしようというならば。
「気に食わねェな」
喉の奥、絡みつく焔を吐き出すようにローデッドは小さく、小さく呟いた。
参加者 | |
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ネロ・ダハーカ(マグメルの柩・e00662) |
メイザース・リドルテイカー(夢紡ぎの騙り部・e01026) |
シュリア・ハルツェンブッシュ(灰と骨・e01293) |
永代・久遠(小さな先生・e04240) |
リリー・ヴェル(君追ミュゲット・e15729) |
ザンニ・ライオネス(白夜幻燈・e18810) |
灰縞・沙慈(小さな光・e24024) |
ローデッド・クレメインス(灰は灰に・e27083) |
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夏の名残は木々を揺らし、去ってゆく。その頃になれば、季節は瞬きをする刹那に変わってしまうほどだ。
悪戯な風にウェーブかかったミルキークオーツの髪を煽られるリリー・ヴェル(君追ミュゲット・e15729)は翳を落とす長い睫を震わせる。妖精のように軽やかに下した爪先が柔らかな土へと僅かに沈み込む。
ヘリオライダーによって誘われたその土地は鬱蒼と繁る木々も相俟って生と死の境を思わせる。暗がりを照らし出す朱の色が、現の界とは掛け離れたものだとその瞼に焼き付けるからであろうか。野苣の花を咲かしたメイザース・リドルテイカー(夢紡ぎの騙り部・e01026)は「彼岸花――か」と物思いに呟く。
「個人的に縁深い植物だからね、妙な噂になるのもましてや利用されるのも遠慮願いたいのだけど」
メイザースの眼窩に広がるのは幻想的な花の集だった。リリーが思わず瞬く程の、溺れるような朱。
その花を彼岸花と呼ぶのは『死』を連想させるからであろうか。夜色のヴェールを揺らすネロ・ダハーカ(マグメルの柩・e00662)は退廃の気配濃い森を静けさを伴い乍ら進む。俄かに覗く黎明の色の翼は彼女の仕草に合わせてゆるく揺れた。
「死人花と呼ばれる所以は在れど、花が死を招く訳ではあるまい」
「その……お家に持って帰ったら火事になるって教えてもらったから悪いイメージが強かったけれど、そうじゃないんだよね」
寧ろ、死という絶望さえも明るい未来へと変える意味を持つのかもしれないと灰縞・沙慈(小さな光・e24024)はトパーズの頭を撫でる。彼女の握り締めた折り鶴を詳らくかの様に愛猫が爪先でそっと触って見せた。
「どんなものでも……意味がある、みたいな。彼岸花にだって、ちゃんと『素敵』な意味があるんだね」
新緑の色を柔らかに瞬かせる沙慈は心の中で僅かに燻った『痛み』との決別を促すような花(いみ)をい織り込むように鶴を作り上げてゆく。少女の発した『意味』を噛みしめるように永代・久遠(小さな先生・e04240)は黒革のホルスターへと触れる。幼さを感じさせるかんばせは知的な気配を乗せ、快活な笑みを滲ませている。
「彼岸花の花言葉は、情熱、独立、あきらめ、そして悲しい思い出……。それだけではないでしょうが、暗い側面だって意味には込められる……」
教師という立場が、医術という救いが、無力さが久遠の影の様に付き纏う。揺れる花々に潜む毒のように己の心に巣食うのは大義名分を掲げた人殺しだ。凛々しい教師としての側面に影が差しこんだのは、こうして揺れる彼岸の色があまりにも眩しいからだろうか。
「誰かを傷つける事しかできない銃で誰かを守れると信じて引き金を引いて、誰かを癒すために誰かに死を振りまく――そして、私は……」
髪を飾った純潔(はな)が不相当な気がして久遠の指先はゆっくりと己の髪先へと振れた。対照的なほどに毒を喰らわば皿までと、『毒』であることを受け入れ、典型的である程に楽天家たるシュリア・ハルツェンブッシュ(灰と骨・e01293)はからりと笑って見せる。煙管から登る白煙に、毒素に満たされた己の体が歓喜を上げる。
「汚れてるくらいがちょうどいいよ、あたしはね――毒があるって騒がれることもねぇんだから」
「えぇぇ、毒はちょっと怖いっすよ?」
からからと豪気に笑ったシュリアの傍らで、雰囲気に臆するように仲間たちより一歩遅れて進むザンニ・ライオネス(白夜幻燈・e18810)は気圧された様に肩を竦める。鬱蒼と繁る森はホラー映画のテイストを感じさせてザンニの心を酷く騒めかせた事だろう。
(「赤い彼岸花畑に一輪だけの白い花……紅一点ならぬ白一点は確かに幻想的っすけど……」)
――ドリームイーターに『利用』されてしまってはその感動も半減する。楽観的に考えれば秘境の花園へと到達できたという事なのだろうが、悲しいかなザンニの尻尾は委縮したように何時もより垂れ下がっている。
彼の視界にチラついたのが花だけであれば、これ程に恐怖心を表すこともなかったのだろう。赤い彼岸花がむくりと起き上がり人の容を模れば僅かにネロが表情を顰めさせる。その体に揺れた白花一輪にリリーは「まあ」と感嘆の声を漏らした事だろう。
「死人花の色は何色?」
「色――だァ? お綺麗に咲いてるだけなら、毒花だろうが何色だろうが関係ねェが人に仇なすとなれば、摘み取らせて貰うしかねェな」
見目も名前も曰くつき。メイザースの所縁ある花はローデッド・クレメインス(灰は灰に・e27083)の聞いた噂に違わぬ姿で摩訶不思議に咲き誇る。青年は勇者の名を関する鈍器を握りしめ茂みの中を靭やかに走り抜けた。
●
それは宛ら悪夢の様な存在だと形容されることだろう。『興味』を奪う魔女の生み出した夢喰いはその身を模る花を散らして繰り返し乍ら問いかける。
暗がりに映えるあかいいろ。リリーを彩る色とは対照的なその色は尚も鮮やかに彼女を照らす。走り抜け、噂話に耳を傾けた彼女は長い髪を揺らして首を傾ぐ。
「――花の色はあか、よ」
鮮やかな色。ヒガンへと誘う案内役の蝶々のごとく軽やかに少女は跳ねる。するりと走り抜け、からから鳴らした亡骸を携え乍らローデッドは地面を蹴り飛ばす。
その頭部を飾った耳が僅かに揺れ、獣のごとく青年は喉を震わせる――渇いた喉は焔を滾らせ、灰霞の髪先へと喉元深く滾る衝動を届かせる。
「花を摘むなんてガラじゃねーけどなァ」
冗句めかす青年の薄氷の瞳が僅かに歪む。背を曲げ、背後に『人』が立つことを意識した青年は掌をひらりと揺らした。
倒れこむ青年の姿へ視線を溢し、長い煙色の髪を揺らすシュリアは煙管をくるりと指先で弄りナイフを握りしめる。自慢の八重歯を覗かせて『にやり』と口許を歪めた彼女は青年を背後の叢へと横たえてその心を歓喜に震わせた。
「さぁ……骨の髄まで楽しもうぜ?」
戦闘は、ショータイムだ。舞台に上がれば降りるまでは魅せなければならないのだから。
シュリアは心を震わせ、花を散らすがごとく、宙を切り裂く。花弁は雨となり、焔の気配に灰と化す、無に還るが如き鮮やかさ。
「花の色は赤だ。血の通わない人間は白っぽくなるって知ってるか?
……つまり、お前は死人花に擬態している別物なんじゃないか」
「ッ――それって、ホラー映画っていうか、オバケというか!?」
シュリアの言葉にザンニが小さく息を飲む。近づかなければ怖くない、前線で守るための布陣を敷いた仲間たちが居るならば自分は『オバケ』に近づかなくて済むのだ。
赤銅色の髪先を擽る風が僅かに生温いことに怯えを孕みザンニはふるりと首を振る。こんな時に、ドットーレがいればどれ程までに安堵したことだろうか――苦労人は、主君のために挑戦を惜しまずに戦わねばならないのだ。
「森の奥深く、彼岸花っていう位っすから、不思議な世界にでもつながってるんすかねぇ……」
「死後の世界、っていうのかな?」
首を傾ぐ沙慈にザンニが首をふるりと振る。目の前のドリームイーターだけならばショッキングな見た目も相俟って死後の世界という言葉も似あうが、この場所は幻想的な雰囲気だ。思わずはしゃぐトパーズに沙慈もそれは薄々思う。
(「市井の噂を集めるっても――ケルベロスは辛いものっすねぇ……」)
主人に解雇されていないか心配だが、主人が『市井の情報を』と望むならこれも彼の仕事のうちだろうか。死後の世界を見てきたといえば給与もアップというものだ。最も、その言葉を発した沙慈は『ヒガンバナ』の攻撃を受け止めて眉根を寄せて「いたい」と小さく呟いているのだが。
「死んでも痛いのかな?」
「さあ、死は感じる事が出来ないものだからな。夜(し)を体感するのは満更ではないが――痛みは生きている証ともいう」
饒舌に、沙慈の眼前へと躍り出たネロはヴェールを揺らし、ステップを踏む。柩の魔女は踊り狂うように両の腕を撓らせる。喰らった魔を編んで纏う玄き『暴君』は唸りを上げる。
「――聴こえるか。ネロが呼ばうぞ、鎌首擡げろ」
夜の娘が鮮やかな花へと埋もれ、踊るように後退すればメイザースは夢喰いよりも尚赤い、夢に魘される紅蓮の花をくねらせた。義憤の女神は魔力を携え花へと絡む。
「天上の花というけれどね、君のそれはあまりに俗世に染まりすぎてやいないかい?」
祝福も、呪詛も『言葉』が表した。口から飛び出すそれは敵対の意味を孕む。祝いと呪い、ならばこれは呪いであろう。
メイザースが前線へと飛び込んだ。花の赤より尚、朱に染まった己の血潮が鼻先を擽った。
「彼岸花の赤は血の色、ならば白はさしずめ骨の色かな。
どちらにせよ。『彼岸』からは逃れられないわけだ、君もね」
而して、夢喰いに待ち受けるは地獄の業火(ケルベロス)なのだから。
●
夢喰いの姿に嫌悪したようにローデッドが舌を打つ。同じ言葉を繰り返すのは生み出された夢喰いには人間の様な知性の欠片が感ぜられないからだろうか。
つまりは『殺戮人形』の様なものなのだ。ヒュゥと喉が風を切る、掠れた声は焔の音を掻き鳴らすだけ――苛立ったように悪夢(おもいで)を掻き消した。
「あァ、テメェらを見てると憎々しいヤツを思い出す――燃え尽きろ」
己の聲のように、己の夢のように、花が散りゆく。
彼岸花の花言葉『また逢う日を楽しみに』だなんて、枯れて咲いたその場所で再会できればどれ程に嬉しいか。
ローデッドの足先に力が籠められ、シンプルな跳躍を見せた。兎のバネはその身体を宙へと預ける。ちらり、ちらりと揺れる焔を厭い閉じた瞳は伏せたまま、夢喰いの体は鈍い音立て地へと伏せる。
仕返しと言わんばかりに放たれた毒の香に鼻先を揺らした沙慈が僅かに表情を歪めれば毛を逆立てたトパーズが牙を剥く。
魔力の籠められた鶴がふわりと漂う中で守護のために戦う少女は表情を僅かに歪めた。
「攻撃はね。お兄ちゃんに教えてもらったけど本当は好きじゃないんだ」
それでも、誰かが傷つくならば自分がと、幼い彼女は盾となる。相棒が痛いと鳴けば「お願いね」と励ます様にただ、ただ、小さな掌がオーラを纏う。
空中で爆破した瓶の破片がきらりと雨のように落ちてゆく。散布する癒しの気配に久遠は気を配り、彼岸花へと向き直る。傷つけるだけではないと医療バックに詰め込んだ薬剤を確かめ乍ら、気丈に土を踏みしめた。
「――そこですっ!」
死神のように、影から忍び寄り命を刈り取る己の所業を久遠は幾度も口にする。それでも、共に戦う仲間たちを傷つけないために、学び舎で待つ愛しい生徒のために彼女は前線を支援し続ける。
非力な掌が握りこんだ自動拳銃がいとも容易く弾丸を弾き出す。細腕が反動に僅かに揺れて顰めた眉根に力が籠る。
降る硝子に怯えることなく、踊り出しリリーは「きれい、ね」と笑みを溢す。
「あかいろも、しろいいろも、似合うお花なの、ね。
ジョウネツ的な攻撃に、ジョウネツ的な花言葉。ジュンスイな想いのお花で、ステキね」
花に溺れることなく重い一撃を繰り出して、少女はぺこりと頭を下げる。
「――――」
唇から滑り出した言葉は、あまりに滑稽だっただろうかと『興味』を胸に少女は瞬いた。
美しい花は確かに心を騒がせた。それでも、その存在が嫌悪の対象であることには変わらない。ザンニは触れぬように近寄らぬようにと心がけて攻撃を弾き出す。
赤と白、正反対な寄り添う色。天上に咲く花の色は十人十色、それぞれ『見え方が違う』のだと彼は思考する。
「花の色? 自分はまだ天上の花を見たことないっすよ。
答えられないし、ココロに咲く花のイロはどんな応えがあってもいいんではないかと」
くるり、と体を捻り後退する彼は散りゆく花に掠めるモザイクが痛々しいと息をつく。散れば散るほどに露出する夢喰いのモザイクが『本当の色』を識らないままなのだろうかと、僅かに胸が痛んだ。
「ああ、でもね、死人花と忌まれるものではあるが、ネロは嫌いではないよ。まるで彼岸と此岸のあわいの様で――」
美しいと夜の娘は楽し気に踊りゆく。前線に飛び込む彼女を追いかけた彼岸は血色に花弁を飾りあげ、鮮やかに花開く。
ネロの踊りに合わせて揺れた彼岸の花にメイザースが「どちらが綺麗だろうね」と夢喰いへと冗句を齎せば、追撃を仕掛けるようにローデッドの一撃が飛び込んでゆく。
「さっさと散れよ?」
夢は夢だからこそ美しい。彼岸と此岸のあわいの花は白を散らして呻くように毒を撒く。
その身に感じる倦怠感を振り払い久遠の銃弾が宙を裂く。僅かな亀裂を追いかけて、その身を滑り込ませたリリーは鈴を転がす様にからりと笑った。
「ね? キレイなお花なの、よ」
はらりと散ってゆく死の気配に毒は寄り濃い気配を齎す事だろう。散り際の花の美しさを愛しむ様にリリーの指先はゆっくりとその輪郭へと触れなぞる。
「綺麗なままではいられないね。骨もいつかは灰になるのだから。
ああ、それでも、ネロは嫌いではないよ。だからこそ――美しい」
夢喰いの花は、ゆっくりと、ゆっくりとケルベロスたちの力の限りでその花を散らしてゆく。『興味』を失われた哀れな花はただ、散るのみなのだと知っているかのように。
「死人花の色は、何色?」
壊れたレコードのように繰り返すそれに耳を傾けて、シュリアはからからと笑って見せた。
「何色? 言ってんだろ――『赤色』だよ」
意志を持ち、主人を追い求めた焔色。彼女の瞳のごとく灼々と色めくそれは夢喰いを包み、そして静かな灰と化した。
●
「大丈夫……でしたか?」
鬱蒼とした茂みの中でも彼女の笑みは、太陽のように綻んでいる。久遠は医師として青年の容態の確認とヒールを施す。
「っ……あれ? 白い彼岸花は」
「噂話だけでここまで来るなんてやんちゃは程々にしとけ。
こんなところで倒れられたんじゃ、それこそホラーになっちまうぜ」
目立った外傷もなく元気そのもの少年は、血相を変えた様に起き上がり周囲を見回す。赤が並んだその辺りには白い花は見当たらない。腑抜けた様に座り込む彼へと呆れを孕んだ瞳で見下ろすローデッドは髪を掻き上げ息を吐いた。
「……そんな」
「でも、綺麗だから……これを見れただけでもうれしくない、かな」
綺麗な彼岸花。『誰か』への手向けになればと沙慈がゆっくりと歩を進める背を見つめた青年は困ったように小さく頷く。
風の騒々しさは木々を揺らし、花々を掻き鳴らす。鼓膜に響く花の聲にリリーは瞬き、口にした『興味』を思い返した。
綺麗な花には棘がある。美しさに潜む毒がどうしてか心を騒めかせて仕方がない。凪ぐ風に揺れた髪を抑えることなく少女は森を見渡した。
(「リリもつれていってほしい、なんて」)
――アカは、かすむことなく美しい色をしているから。
作者:菖蒲 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2016年9月22日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 4
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