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闇夜に褪せた蜂蜜色の髪が、草木のざわめきに合わせて揺れる。
シエラ・シルヴェッティ(春潤す雨・e01924)は透き通った翡翠の双眸をゆっくりと左右に動かした後、その半分にも満たない速度で、そろりと足を踏み出した。
そこは月喰島の海岸に設営してあったキャンプから、徒歩で30分ほどに位置する森。
木陰の合間に潜みながらシエラが目指しているのは、灯台があったと思わしき場所だ。
(「……何もいない、よね」)
両足を操りそうな好奇心を自制して、シエラは再び辺りを見回す。
救援に来てくれるであろうケルベロスたちに少しでも有益な情報を渡したいが、同行する仲間たちとも別れてしまった今、敵に見つかることだけは避けなければならない。
もっと良い隠れ場……何か有った時には簡単に逃げ込めて、敵からは見つけにくく、けれども此方からは周囲を警戒出来るような、そんな場所はないだろうか。
シエラは恐る恐る木陰から這い出て、前進を再開する。
……そこで咄嗟に身を捻る事が出来たのは、ケルベロスとしての経験からか。
或いは、彼女自身の直感力か。
いずれにしろ、何もない所で倒れ込んだシエラの頬を冷たいものが撫でて、後からじんわりとした熱さと、一筋の赤色が滲み出てくる。
(「――敵!? こんな森にも、敵がいるの!」)
声を上げずに立ち上がり、その姿を探すシエラの瞳に映ったのは、遥か遠く森の入口で光る幾つもの赤い目と、それを引き連れているような人影。
(「っ! ……とにかく、逃げないと――!」)
駆け出すシエラ。
だが、その足を更に強い衝撃と熱が襲う。
木枝と枯葉の中へ無様に倒れこんだ後、見やった片足には貫通した傷と流れる血。
引きつった顔を向ければ、赤い光が揺らめきながら徐々に近付いてくる。
あの目は恐らく、仲間たちと島を探索した際に集落で襲いかかってきた、謎の敵たちだ。
では、その向こうの――銃か何かを構える、青い霊魂を纏ったような人影は……?
未だ湧き出る好奇の思考は、草木を踏みしめる敵の足音で恐怖に上塗りされた。
もし、あれに追いつかれてしまったら。
もし、あれに呑み込まれてしまったら。
その先に待つのは……。
「……ぁ……や……いや……」
美しい歌を奏でるはずの喉から、か細く怯えた声が漏れ出る。
木々のざわめきが、囃し立てるように強さを増した。
迫り来る死の影に頭を振ったシエラは、必死の形相で森の奥深くへと逃げる。
嘲笑うかのように足音を立て、謎の敵は彼女を追っていく……。
●
日本本土と竜十字島の中間地点。
ドラゴンの襲来によって消滅したと言われる、月喰島。
その調査に向かったケルベロス達からの連絡が途絶えたとの報せが意味する所を、大方のケルベロスであれば直ぐさま察する事が出来ただろう。
「……どうやら、ドラゴン配下の敵が島内に潜んでいたようね」
語るミィル・ケントニス(ウェアライダーのヘリオライダー・en0134)の表情は厳しい。
ケルベロス達が分散して島内に潜伏しようとしている事は予知で判明したが、詳しい状況が分からない。
「けれど、手をこまねいている訳にもいかないでしょう。そこで皆に、調査班の救援へ向かってほしいの」
ヘリオンであれば、月喰島までは一時間ほどで到着する。
「現地の状況が分からないから、島への侵入は上空からの降下作戦になるわ。皆に救出してもらいたい調査班の一人、シエラ・シルヴェッティさんは、月喰島の海岸に設営してあったキャンプから、徒歩で30分ほどの森の奥に潜んでいるはずよ」
敵の戦闘力や島の状況については、予知で情報が得られなかった以上、シエラと合流して確認、調査するしかない。
「降下が完了したら、申し訳ないけれど私は一度帰還させてもらうわ。ヘリオンが落とされでもしたら、ミイラ取りがミイラになってしまうもの」
……万が一の時には、私も覚悟を決めるけれど。
そう呟いた後、改めてケルベロスたちに目を向けるミィル。
「現地の天候は曇り。島内の電波状況は悪く、他班との連携は難しいでしょう。自分たちのみで作戦を完遂するつもりでなければ、皆もミイラになってしまうかもしれないわよ」
あくまで厳しい語り口。
そこでミィルは、少しだけ口元を緩めた。
「でも、大丈夫よね。皆はケルベロスだもの。……さぁ、ヘリオンに乗ってちょうだい。そして次に皆を乗せる時はシエラさんも一緒だって、私は信じてるからね」
参加者 | |
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トゥーリ・アルシエル(蒼范のアリア・e00215) |
佐々川・美幸(忍べてない・e00495) |
シエラ・シルヴェッティ(春潤す雨・e01924) |
カリーナ・ブラック(黒豚カリー・e07985) |
早乙女・スピカ(星屑協奏曲・e12638) |
イリス・ローゼンベルグ(白薔薇の黒い棘・e15555) |
伽羅楽・信倖(巌鷲の蒼鬼・e19015) |
豊田・姶玖亜(ヴァルキュリアのガンスリンガー・e29077) |
●
前方から異形が現れたのを見て、シエラ・シルヴェッティ(春潤す雨・e01924)は咄嗟に進路を変えた。
しかし傷ついた足が踏ん張りきれず、細身の身体すら支えられない。
シエラは肩口から地に叩きつけられ、顔の半分までも強打する。
逃げ惑う間に月喰島と交わした一欠片の愛情もない頬ずりは、これで何度目か。
そんな事を思い返す暇もない。
あらゆる痛みをぐっと堪えて立ち上がったシエラは、幾らか萎んでくすんだように見える金の髪を振り乱して枝葉を払い、再び走り出す。
その姿は悲惨なもの。上から下まであちこち土に塗れ、足の傷からは緩やかに血が滴り、衣服の端々が千切れて垣間見える柔肌は、擦り傷や切り傷で真っ赤に占領されている。
だが、歩みを止めることは出来ない。
振り返れば、此方を追う異形たちの姿は変わらず見えるのだから。
(「――このままじゃ……」)
天真爛漫なシエラと言えども、心には暗雲が垂れ込める。
それを払うには、篝火に焚べるべき燃料が足りなすぎていた。
(「……とにかく」)
灯台を目指しつつ、何とか敵を撒こう。
意を決して獣道を外れたシエラは、草木に紛れ、気配を消す気流を纏い直し、深い森の中を駆けていく。
暗く代わり映えのしない景色を延々とやり過ごして……どれほど進んだ頃だろうか。
迫る足音は聞こえなくなり、行く手を遮る枝葉が少しずつ減り始めた。
どうやら追手を振り切り、また道と呼べるような所に辿り着いたらしい。
シエラは速度を緩めて、慎重に警戒しながら――。
かさり。
不意にした木の葉の擦れる音に足を止め、振り向く。
そこにあったのは、生気を感じ取ることの出来ない2つの目。
「――っ……!」
悲鳴を上げる間すらなかった。
飛びかかってきた異形との短い取っ組み合いを何とか制して、全力で足を動かす。
火急の事態に痛覚も働くことを止めたのだろう。
目だけは忙しなく四方を見渡すようにして、とにかく足は前へ。
先に敵の姿は見えない。なら後ろは……?
振り返った先の異形は、2人に増えていた。
どうすれば。考える間もなくシエラは目の前の茂みに突っ込み、そのままふわりと浮く。
「っ――」
気付いた時には、もう遅い。
すとんと切り取ったように地面が途切れ、身体が重力に従って落下する。
それは瞬きするくらいの時間だったが、ただ転ぶのとは訳が違う。
全身を打ち付けたシエラは肺の中の空気を全て吐き出して、その場に蹲った。
逃げなければ。逃げなければ。思えど身体は動かない。
代わりに必死で頭を働かせて、シエラは一つの手段に思い至った。
視界の大半を埋め尽くす枝葉の中にすっぽりと身体を埋め、気流をしっかり纏う。
そのままじっと息を潜めて間もなく、ぱきりと、枝を踏む音が頭上から響いた。
敵だ。
シエラは胸の鼓動さえもっと静まるようにと願いながら、時と化物が過ぎるのを待った。
足音は左右に分かれて下がり……そのまま、少しずつ彼方へ遠ざかっていく。
「――はっ、あ、はぁ……」
顔を上げ、この短時間で呼吸の仕方を忘れてしまったような不規則さで、身体に酸素を送り込むシエラ。
何とか、やり過ごすことが出来た。
しかしこのままでは、またすぐに見つかってしまい、追い回されるだろう。
早く息を整えて、森を抜けるなり隠れ場を探すなりしなければ。
気丈にも立ち上がったシエラに一筋の光明が差し込んだのは、その時だった。
木々の隙間から伺える曇天の中に、此方へ向かって進んでくるものが見える。
あれは――。
「……ヘリ、オン……?」
耳を澄ませば、機械音のようなものも聞こえる。
間違いない……救援だ!
シエラは取り出した懐中電灯の光量を最大にして天に向け、何度も明滅させた。
●
「居た!」
見下ろす森に閃く光を見つけて、佐々川・美幸(忍べてない・e00495)が声を上げる。
今一度、作戦や役割の分担を確認していた豊田・姶玖亜(ヴァルキュリアのガンスリンガー・e29077)も、それをボクスドラゴンの殿下を抱きしめながら少々不安げに聞いていたトゥーリ・アルシエル(蒼范のアリア・e00215)も、同乗する7人のケルベロスたちは皆、飛び跳ねるように反応して美幸と共に眼下を見やった。
数回瞬いた光はすぐに消え、それ以上の反応を示さない。
しかし、あれがシエラでなければ何だと言うのか。
「シエラさんの事は任せておいてね!」
ぐっと親指を立てながらヘリオンの中に言い放って、トゥーリたちはすぐさま夜の空に躍り出た。
7人全員で手を繋ぎ、殿下と、カリーナ・ブラック(黒豚カリー・e07985)が連れているウイングキャットのかまぼこは、それぞれ主の背中にしがみつかせる。
降下はドラゴニアンのトゥーリと伽羅楽・信倖(巌鷲の蒼鬼・e19015)、オラトリオの早乙女・スピカ(星屑協奏曲・e12638)の3人――通常の翼飛行が出来る者たちが、可能な限り制御した。
(「ここで攻撃されたら厄介だな」)
一団となって何もない空から降りてくるケルベロスたちは、いい的だろう。
信倖や暗視スコープを付けたスピカが森をくまなく見回すが、その心配は杞憂に終わってくれた。
しかし降下した場所は、発光地点から幾分離れたところ。
「急ぐわよ」
イリス・ローゼンベルグ(白薔薇の黒い棘・e15555)が先頭に立って、そのまま草木の間へと突っ込んでいく。
すると枝葉が独りでに曲がり始め、森の中に存在しないはずの道を作り出してくれた。
先導するイリスと並ぶような形で殿下がひた走り、後ろにはまずトゥーリが。
左右を螺旋状の気流を纏った美幸と、此方も特殊な気流を漂わせるスピカが固め、姶玖亜とカリーナが続く。
最後尾には信倖、そしてかまぼこが、後方を警戒しながら間延びしないようにピタリとついた。
(「……なんだかとっても、気持ちわるいの」)
カリーナは背筋を撫でられるような感覚を覚えて、しきりに辺りを見回す。
夜の森は、懸命に走るケルベロスたちを嘲笑っているようだ。
思わず振り返ると、そこには……追随するかまぼこの姿があった。
(「……カリーナには、かまぼこもみんなもいるけど、シエラちゃんは一人ぼっちなの」)
怯えてなどいられない。早く助けてあげなければ。
光の見えた方へ、ひたすら森を駆け抜けていくケルベロスたちは――しかし、求めていたものと違うものに出会う。
暗視スコープ越しに見るイリスの視界に、ハッキリと映った人影。
それは少女のものでない。
幾つもの異形。その中に一つだけ違う……青く漂うものを纏い、布を被った……あれは、迷彩服だろうか?
迂回という選択肢も一瞬浮かんだが、それは議題に取り上げる前に、敵の1体が此方へ赤い目を向けた事で潰れる。
気付かれた。しかし、まだ敵の態勢は整っていない。
意図せずとも急襲することになった此方が、先手を取れる。
「邪魔な奴らだけ蹴散らして、突破するわよ!」
「やれやれ。どうやら、家でテレビでも見てた方が良かったようだよ」
イリスの言葉にボヤき返して、姶玖亜が戦いの始まりをリボルバー銃で告げた。
装填済みの弾を全て、敵の動きを阻害するように吐き出す。
「このまま一気に行きましょう!」
スピカが言って奏で始めた『紅瞳覚醒』に、トゥーリが『幻影のリコレクション』を静かに織り交ぜた。
森に響く2人の歌はケルベロスたちに力を与え、敵の戦意を揺るがせる。
異形の後ろから迷彩服が小銃による掃射を仕掛けてきたが、後方に居た信倖がスピカに促されるまま一気に最前線へと躍り出て、その全てを受け止めながら吠えた。
「此処で体を張ってでも力にならねば、男が廃るものよ!」
翼のみならず竜の尾や角も露わにして猛る信倖は、地獄化した左腕から青い炎を槍の先にまで迸らせ、異形目掛けて豪快に突き出す。
肉を貫いたにしては些か柔らかすぎる感触が手に返り、穂先から燃え移った炎に包まれる敵は、くぐもった声を上げながらその場に倒れ込んだ。
しかし異形は茂みの中から次々と湧き出て、指揮官らしき迷彩服が腕を振るたびに突撃を仕掛けてくる。
ケルベロスたちの進撃は、敵の物量に押されて少しずつ緩んでしまった。
それでも歯を剥き出しに迫る1体を、まずは美幸が指で一突きすると、続けて走り込んできた殿下が体当たりで突き飛ばす。
信倖に癒やしの風を送るよう、かまぼこへの指示を出したカリーナは弓に矢をつがえて放ち、鏃に深々と胸を抉られた異形をイリスがエクスカリバールで叩き伏せてから言い放つ。
「あなた、ドラグナーね? 住人達に何をしたの?」
竜の配下であるならと種族を断じて問いかけた相手――迷彩服は、言葉の代わりに鉛玉を返してくる。
問答をするつもりはないらしい。ならば、構っていても仕方ない。
後ずさりながら淡々と応射する迷彩服はさておき、ケルベロスたちはある程度統率されながらも単純な突撃を仕掛けてくる異形を退ける事に、意識を集中させた。
「こんなに歓迎されるなんて、ボクたちのなかにアイドルかお姫様でも居るのかな?」
群がる敵に軽口を叩き、姶玖亜は牽制攻撃の手段を銃からドラゴンの幻影に変える。
うねるようにして木々を掻い潜った炎の竜に煽られ、よろけた異形を信倖が力の限りに放つ稲妻の如き槍撃で捉えた。
(「……個々の戦闘能力は、それほど高くないようだが」)
穂先を引き抜いて敵を蹴飛ばし、信倖は出来る限り敵の情報を集めようと視界を巡らす。
異形たちは武器という武器を手にしていない。攻撃、防御、機動力、どれもこれまで戦ってきたデウスエクスなどよりは劣っていて、ケルベロスたちが複数で当たれば苦もなく倒せるだろう。
だが、如何せん数が多い。退けても退けても――。
「――ぐっ……」
不意に飛び出してきた異形を避けられず、信倖の肩に粗い鋸のような歯が食らいつく。
引き剥がそうと悶えていると、迷彩服が一点に集中した射撃を放ってきた。
間一髪、辛うじて射線に入った殿下が庇い受け、その間に美幸が電光石火の蹴りで異形を引き剥がす。
最後はイリスが投じたエクスカリバールが頭をもぐように吹き飛ばしてやったが、信倖の肩には纏わりつく汚臭と、じくじくとした痛みが残った。
だがそれも、スピカが纏うオーラを掌に集めてかざし、トゥーリが新たな生命を授けるように歌声を染み込ませていくことで、すぐに薄れる。
信倖は再び槍を振りかざし、カリーナが新たな矢を放つのに合わせて突撃をかけた。
……しかし、矛先を向ける相手は突如として引いていく。
迷彩服がしきりに手を動かして、異形に撤退指示を出しているように見えた。
このまま追撃すべきか。
迷いが無かったわけではないが、散り散りに森の中に溶け込んでいく敵を追うよりも、今はシエラとの合流を急ぐべきだろう。
ケルベロスたちは応戦できる状態を維持しつつも、開けた道を一気に突き進む。
ずたぼろの少女と出会えたのは、それから間もなくのことだった。
●
合図を送った後、シエラは降下地点の方を目指して移動していたらしい。
微かに聞こえる戦闘音と、それに交じる歌声を辿り、時折走り去っていく異形をやり過ごして慎重に進んでいたところで、救援隊と遭遇したのだ。
「もう大丈夫よ」
「皆で、シエラさんを助けに来たよ」
イリスとトゥーリが、崩れ落ちそうになったシエラを両隣から支えて言う。
「ひどい格好なの……」
ぽつりと零してカリーナが見やった顔には、しかし恐怖の色でなく柔らかい微笑みが浮かんでいた。
「シエラちゃん、怖くなかったの?」
「……何となくね、みんなが助けに来てくれるはず、って確信があったの。だから……怖くなんてなかったよ」
努めて気丈に振る舞うシエラ。
その姿に、魔法陣から舞い上がる花で傷を癒してあげていたスピカの、心を縛る緊張の糸が何本か切れた。
「よかった……本当に……」
そっと目元を拭って、改めて救出対象の姿を見やる。
多少の傷は癒やすことが出来たが、シエラの疲労は色濃い。
カリーナに巣を作ってもらい、この場で休息を取るのも一つの手だが……。
「駄目だ、見失ってしまったよ」
姶玖亜が首を振った。
撤退寸前に用意した迷彩服の手配書が、制限時間を超えて消失してしまったのだ。
もう敵の行方は分からない。巣作りでも、留まるのは危険だ。
「あの迷彩服……軍人というか、自衛官のようだったな」
信倖が呟く。
装備していた小銃といい、異形を指揮する際のハンドサインといい、そういった方面のプロらしき雰囲気があった。
自衛官だとするなら、シエラが受けた狙撃の精度も、それなりに納得できる。
「……もう大丈夫。このまま、灯台に行こうよ」
「灯台?」
応急処置を受け終えたシエラの提案に、美幸が首を傾げた。
ヘリオンから見回した島に、そんなものなどあっただろうか。
「調査で見つけた地図に書いてあったの。誰もいなければ避難できると思うし、敵が居たなら……それも調べなきゃ」
「分かった。シエラさんがそう言うなら行ってみようよ。でも敵に気付かれないよう、迂回しながらね」
再び隊列を組み直したケルベロスは、美幸の言葉に従って回り込むように灯台へ向かう。
「……どおりで、ヘリオンから見えないはずだよ」
合点のいった美幸が、大きく一度頷いた。
シエラが目指していたという灯台。
それは……恐らくドラゴンのものであろう強烈な一撃によって、瓦礫と化していた。
「灯台守の日誌でもあれば、島に何が起きたか調べられると思ったけど……」
呆然と呟く姶玖亜。この惨状では、どうしようもない。
ケルベロスたちは灯台跡地に最小限のヒールをかけて、休息出来る程度の拠点を作ると、一息つくことにした。
「はい、シエラちゃん」
カリーナから温かいお茶を受け取って一口。
身体の中を伝っていく感覚に、シエラは深く長い溜め息をつく。
「――缶切りがない? 仕方ありません。このゾディアックソードで……」
「それじゃ大きすぎる。ボクがこの、リボルバー銃で撃ち抜いてあげるよ」
「中身まで吹き飛んでしまうだろう。どれ、私が得意の槍術で」
「バイオレンスギターでは――」
「プルタブがついてるの」
何やら不安になりそうな言葉を口々に発していたスピカと姶玖亜、それに信倖とトゥーリの前から缶詰を拾って裏返し、カリーナが淡々と開封する。
そうした光景ですら、今は癒やしのもと。
「本当に、ありがとう」
誰に向けるでもなく言って、シエラは微笑んだ。
……しかし。
「――あれは……っ」
跡地の僅かに外で、暗視スコープ越しに辺りを警戒していたイリス。
彼女は目にした光景に慄きながら、仲間たちの元へ駆け戻った。
ケルベロスたちはまだ、深森に蔓延る狩人から逃れられてはいない。
作者:天枷由良 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2016年9月23日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 4/感動した 1/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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