福招きの金月お宮

作者:東間

●マグロガール、降臨
 シルエットの描かれた提灯が温かな色を灯し、祭り囃子と人々の声が風に乗る。
 そう長くはない参道の両脇を彩るのは、焼きそば鯛焼きお好み焼きに綿飴チョコバナナ――と食で攻める屋台と、金魚すくい射的お面よくわからないグッズ――と遊戯系で攻める屋台達。
 お面を買ってもらった少年が『次はあっち! その後はあれ!』と親を困らせ、それを酒で真っ赤になった老人達が、サビ柄の猫に唐揚げを盗まれた事にも気付かず笑顔で見守っている。
 彼女の前でかっこいい所をと意気込んだ少年は、金魚すくいで見事撃沈するも彼女の笑顔を手に入れ、一緒になってビニールプールを覗いていた三毛猫が欠伸をした。
 とても和やかな空気で満ちた、小さな神社の秋祭り。その空気を良しとしないのは、鳥居にシュタッと着地したシャイターンの少女だった。
「何かショボくなーい? お祭ってもっとパァーっとさー。何ここ、ちょい期待外れなんですけどー」
 マグロの被り物をした浴衣姿の少女は、ちぇっと舌打ちするも『まぁいっか』と表情をころりと変える。
「ここにいる全員殺せば、それなりのグラビティ・チェインお持ち帰りが可能ってやつだしねー。へへっ」
 飛び降り、着地するや否やゾディアックソードを思い切り振った。
 魚座のオーラが放たれた瞬間、異常事態を察知した野良猫達が方々に逃げ出し、一瞬遅れて生じた人々の悲鳴が祭り囃子をかき消していく――。
 
●福招きの金月お宮
 マグロの被り物をしたシャイターン部隊、仮称『マグロガール』が日本各地の祭会場を襲撃し、一般人を殺害してグラビティ・チェインを得ようとする。
 そんな事件がまた起きると報せたラシード・ファルカ(赫月のヘリオライダー・en0118)は、ふむ、と呟き顎を撫でた。
「祭り会場を狙うなんてね。効率よくグラビティ・チェインを収奪するのが目的だとしたら……」
 理解は出来ないけど、納得は出来る。
 むす、とした顔でラシードは呟き、詳細は未だ不明だが、楽しいひとときが殺戮の場にされるなど言語道断だと続けた。
「君達にはマグロガールが現れる祭り会場に先回りして、事件を防いで欲しいんだ」
 現れるマグロガールは1体。攻撃手段は、ゾディアックソードを使った斬撃と魚座のオーラを使った範囲攻撃、そして灼熱の炎による単体攻撃の3つ。
 マグロガールは、鳥居から飛び降りてすぐ事を起こそうとする。戦闘力はそう高くないらしいのだが、事件を未然に防げなければ祭り会場は血塗れの惨状となってしまう為、確実に撃破しなくてはならない。
「ただし、事前に一般人を避難させたら敵の標的が別の祭り会場に変わるから、今回そういった事は出来ない。その代わり、近くに丁度いい空き地があってね」
 マグロガールは現れた邪魔者――ケルベロスを先に排除しようとする。向こうを挑発して気を引き、そこまで誘導すれば周囲への被害は抑えられるだろう。
「無事に撃破出来たら、祭りを楽しんできたらどうだい? 祭り会場でもある神社には『福招きの金月』っていう猫が祀られているそうだし、いい事があるんじゃないかな」
 にこりと笑った男曰く、月色の目を持つ猫の導きによって福を得たという逸話が多く残っているらしい。
 病弱だった少女が金月の導きで発見した湧き水を飲んだ所、体が丈夫になった――金月に撫でる事を強要されて足止めされていた侍が、道に迷った娘と出逢い結婚――落とした財布を金月が枕にして寝ており、回収した後、商売繁盛――等々。
「そういう逸話があるからかな。その神社には沢山の猫がいるから、猫達と戯れるのもいいかもしれないね」
 その為にも、まずは祭りを台無しにするマグロガールを討つべし――である。


参加者
サイガ・クロガネ(唯我裁断・e04394)
ライル・ユーストマ(紫閃の斬撃・e04584)
サイファ・クロード(零・e06460)
水無月・一華(華冽・e11665)
リミカ・ブラックサムラ(アンブレイカブルハート・e16628)
犬嶋・理狐(狐火・e22839)
海花櫻・美音(一空・e29511)

■リプレイ

●鮪釣り
 秋祭りの賑わいに包まれた神社の鳥居。その上に降り立ったシャイターンの少女・マグロガールが、眼下を行き交う人々を見ながら露骨に嫌そうな顔をする。
「何かショボくなーい? お祭ってもっとパァーっとさー」
 マグロガールが期待外れ、と続けたその瞬間。
「なんだか、マグロの食べられない所みたいな生臭いにおいがするロボ!」
「んなっ!? しっつれーなコト言ったのどいつ!?」
 声の主を探し、バチリと目が合ったのは1人の少女。リミカ・ブラックサムラ(アンブレイカブルハート・e16628)にマグロガールが反論しかけた時、その頬を何かが掠めた。
「期待はずれなのはこっちよ」
「つか、折角退治に来てやったつうのにマグロ1匹ぃ? ショっボいわー帰ろかな」
 顔の側面を狐のお面で彩った犬嶋・理狐(狐火・e22839)に続き、サイガ・クロガネ(唯我裁断・e04394)が、あーー、と気怠げな声を漏らす。
「今日は魚よか鳥の気分」
「はぁッ!?」
「お祭り会場を襲うデウスエクスがいると聞いて来てみれば……そのふざけた格好は何かしら」
「ふ、ふざけ!? あんたより超パーフェクトな格好ですけど自分! てか何なのあんたら!!」
 マグロガールが理狐のお面を指差しキーキー騒ぎ始めた。ちなみに先程のスナイプに利用されたのは、理狐が美味しく頂いた綿飴の串である。
「俺達はケルベロスだが」
「!?」
 ライル・ユーストマ(紫閃の斬撃・e04584)の名乗りにマグロガールが目の色を変える。その意識がより自分達に向く様に――。
「俺はお前の被り物の方がショボイと思うけど?」
 よりによってマグロとか。ラウル・フェルディナンド(缺星・e01243)の挑発で、マグロガールが鳥居の上で『きー!』とじたばたし始めた。
「この『しょぼい』祭りを狙うとは期待外れの小物。『しょぼい』祭りに群がる輩に手を挙げるのは、所詮小物のする事」
 向こうでは今から盛大な祭りが始まるというのに。しょぼい、を強調した海花櫻・美音(一空・e29511)は、そこへ向かわないマグロガールも所詮は、と匂わせている。
「祭りが気になるのは分かるけど、シャイターンはお呼びじゃないんだ、悪いな」
 続いたサイファ・クロード(零・e06460)が、あ、と手を叩いた。
「『定命化するから祭りに参加させて!』ってなら歓迎だけど。さくっと地球愛しちゃおうぜー」
「愛するとかペッペッ。定命化なんかしなくても祭りに行けるしー!?」
 現に、今こうしてここにいると鳥居の上で高笑いするその姿を、ライルはじっと見つめ――。
「……」
 ぷい。
「目ぇそらすんじゃねーよ!」
 マグロガールが星辰の剣を手に飛び降りてきた。水無月・一華(華冽・e11665)は、わあ、と声を上げ離れていく人々を視界に入れながら、仲間達と共に駆け出す。
(「この地域に長く根付く温かいお祭りを、ぽっと出の鮪に邪魔されたのでは、堪ったものではありません」)
 顔を真っ赤にして追ってくる悪い鮪は、締めて捌いてしまおう、そうしよう。

●鮪捌き
 背後からマグロガールの怒声が飛んでくる。
 待て、こら、止まれ、ボケ、殺す。
 物騒な内容になっていくそれを聞くのがケルベロス達だけなのは、事前に『人の少ない、空き地までの道』を調べていたからだろう。空き地までの短い道中は、挑発も含めたケルベロス達の行動が成したものだった。
 しかし鮪の被り物をした少女が追ってくるという、ある意味シュールな構図は空き地へ辿り着いた瞬間終わりを告げる。
 勢い良く止まったサイガの足が地面をザリッと削り、その手から展開した立入禁止テープが空き地をぐるりと囲めば、それが『誘い』から『攻撃』へと明確に転じた瞬間。
「さあ、盛大な花火を打ち上げようか」
 美音の手から放たれた硝子瓶が、きらりと光を反射する。当たって弾ければ、中を満たしていた紅色の毒が咲いた。
「マグロ花火、か」
 翼猫・ルネッタが羽ばたいた直後、常と違う鋭さ纏ったラウルが一瞬の間に強烈な一打を叩き込む。マグロガールが呻いた刹那、逆側から繰り出されたのはリミカの蹴りだった。
「海に変わっておしおきだロボ!」
 楽しい祭りを荒らすなど許せない。力尽くで引き取り願うという意志は、刃の如き鋭さとなってマグロガールを蹴り飛ばす。
「マグロなら海に行くべきだロボ!」
「い、ったァ!? うっざいのよ! これでも喰らいな!」
 吼えたマグロガールが星辰の剣を振るい、放たれた星座の輝きがごう、と音を立て襲い掛かってくる。その一撃から仲間を守ったサイガは、頬に走った赤を乱暴に拭った。
「ハッ、鮪が魚座を使ってくるとはな」
「無粋な鮪だこと」
 同じく仲間を守った一華が、柔らかな光放つ盾でリミカを照らす。しかし、浮かべているのは温もりの無い微笑だ。
 ぐぎぎと歯を食いしばったマグロガールだが、頭上からの襲撃に表情が一変する。襲撃の主、流星の煌めきと重力の圧伴う蹴りを見舞ったサイファは、着地と同時に敵の頭を見た。
「なんでマグロで被り物? シャイターンってそーゆー系の種族なの?」
「私も知りたいロボ。どうしてマグロの被り物してるロボ?」
「ぶっ殺されるあんたらには関係無いでしょ!」
 まさかマグロと戦う日が来るとは。それ故の質問にリミカも純粋な疑問を重ねるが、マグロガールの返事は星辰の剣を構え直しての威嚇。しかしサイファは更に続けた。
「キミみたいな面白……お茶目な子は、地球の空気は肌に合うと思うけど」
 浮かぶのは、自分達の側についてくれたザイフリート王子やヴァルキュリア達。可能性にかけた言葉だったが、マグロガールはフンッと鼻で笑い飛ばしてきた。
「グラビティ・チェイン持った何億って数の生き物がいるのは、褒めたげてもイイけどね」
 言葉は聞こえていても、届かない。
 短く息を吐いたライルが無言のまま繰り出した流星蹴りに、更に星の輝きが重なった。
「本当、ふざけてるわね」
 今は亡い実家を、故郷を思い出した理狐が見舞ったのは、深く抉る様な一撃。祭りは実家でもやっていた。思い出すだけで懐かしさが湧く。故に、楽しいひとときを邪魔する者は許せない。例えそれがマグロでも。
(「……マグロ、なぜマグロなのかしら」)
 さっぱり解らないが、確かなのは、このシャイターンを必ず倒さなくてはいけないという事。
 地を一蹴り。ひゅ、と風に似た音を立てて距離を詰めたサイガの全身を銀の輝きが覆っていく。
「フルコースで出直してこい」
 鋼の鬼と化したサイガの一撃が、ぎち、とマグロガールのみぞおちにめり込んだ。そこに複雑な思考は無い。あるのはただ『殴る』という、ここ最近の戦いが起因の無意識から成る意志だけ。
「ッ、は……!」
 骨も砕く様な攻撃がマグロガールの声を奪う。
 傷みに顔を歪めたマグロガールだが、腹を押さえながら星辰の剣を振るい上げてきた。
 星の揺らぎを宿した斬撃がラウルを襲ったその直後、ふわりと癒しの力が舞う。だがその贈り先は黒油の翼持つ妖精ではなく、地球を守る牙。羽衣の様に柔らかな一華の剣舞にラウルは一瞬だけ笑み、直後、それを刃の様なそれに変えた。
「福招きの神社に、お前は要らねぇよな」
「――!!」
 よく喋るが手練れというには色々と足りない。そんなマグロガールは、誰のグラビティ・チェインを奪う事も出来ぬまま、ケルベロス達に討たれて果てる。

●福招きのひととき
 マグロガールは灰となって消え、若干荒れた所はラウルやリミカ、一華によるヒールグラビティで癒された。点々と等間隔に灯った光はまるで――。
(「猫が通った後みてぇだったな」)
 サイガは神社の隅に腰掛け、祭り囃子をBGMにしながら目の前の光景をぼんやり眺めていた。
 銀色に煌めくオウガメタルが魅力的に見えるのか、1匹の三毛猫がそっと手を伸ばしてはちょん、ちょんちょん、と触れている。オウガメタルは触れられた瞬間ぷるっと動くものの、されるがままだ。
 目に付いた屋台で買っておいた焼き鳥串を食べ始めれば、匂いにつられたらしい。三毛猫はちょっかいを出すのを止めており――焼き鳥串を、じぃ。
「……しょうがねぇな。ほらよ」
 串から抜いて放り投げる。三毛猫の心がすっかり焼き鳥に向かってる間、オウガメタルはぷるりと動きもせず、そこにいた。
「おまえはさ、それでよかったか?」
 山中で助けた異星生まれの命から、返事は無い。それらしい動きも無い。けれどオウガメタルはどこにもいかず、そこにいた。

 多くの屋台が並んでいるからだろう。参道は客呼びの声や人々のお喋りが加わって賑やかだ。
 うるさいと感じる事が無く。どこか温かで。そして不思議とゆったりした部分がある。
 そんな祭り独特の雰囲気は美音にとって好ましく、その表情は静かに和らいでいた。
(「幼少の頃を思い出すな」)
 育った村での祭りに屋台の類はほとんど無く、質素な祭りだった。だが、それでも楽しかったのだ。今こうして楽しんでいる様に。
 見る専でも退屈にならないのは、食べて、遊んでいる人々の姿もまた、祭りを彩る灯りだからかもしれない。
 美音は祭りの灯りを愛でながら、ただただ静かに、祭りのひとときを過ごしていた。

「……あ。あった」
 マグロガールに投げつけた綿飴の串を拾い上げた理狐の手には、出来たてほかほかの唐揚げ入りカップ。出来たての誘惑が抗い難し、なのは猫も同じらしい。串をぽい、と捨てる前から、1匹の猫にすりすりとおねだりされている。
「欲しい?」
 返事は可愛らしい『にぁー』。
「はい」
 尻尾をピン、からの立ち上がり。なかなか愛らしい様ではあるが。
「やっぱあげない」
 ひょいっと高い所に上げてから、ぱくり。
 先程は可愛らしかったが、抗議の声は『んごぁー』と逞しい。くすりと笑った理狐は、設置されていたゴミ箱へカップを放った。
「唐揚げは健康に悪いわよ、サビちゃん」

「ほらほら、これで遊んでみるー? って、いたた、何だよもう可愛いな」
 普段出さない尻尾を出して。それにじゃれつかれても、でれでれの笑顔で。
 そんなサイファからは猫好きの空気がバンバン出ていた。
 中でも1番尻尾への食い付きが良かった猫を抱き上げ、祭りで賑わう神社をゆく。茶虎柄の猫は、人慣れしているのか大人しく、時折顔を右へ左へと向けるだけだ。
「はは、羨ましいだろ。一番可愛い子と祭りデートだぞー」
 露店の店員に話し掛ける様子は、正に得意げ。すると。
「うちにだって別嬪はいるんですよ」
 店員が狸の様にもふもふとした猫を抱き上げ、ドヤ顔を返してきた。
 ちょっとした対抗戦が始まったかどうかは、猫のみぞ知る。

 リミカの手に燦然と輝く艶々の赤。甘くて大きい林檎飴は、美味しいだけでなく猫ホイホイでもあったらしい。
 猫達に囲まれたリミカは、かぷりと一口囓ってはひらり、囓ってはひらり、と、猫達を弄んでいた――のだが。
「ふははは、これが欲しいなら力尽くで――あっ」
 つるっ。
「ニャーン!」
「なぉーん」
「ぴゃー」
「ちょ、ちょっと待つロボ!?」
 足を滑らせてしまったのは偶然か、不運か、それとも福招きの金月が猫達に味方したのか。それは判らない。判らないが。
「あーれーローボー……」
 サムズアップしながら猫の海に沈んでいくリミカの姿を、焼きそばを頬張っていた近所の子供が見たという――。

 猫が歩き、走り、踊りもする提灯と楽しげな人々。ライルはその流れに乗りながら参道の奥へと進んでいく。
 祭りの日だからこそなのか、金月を祀る拝殿には、食べて遊んでというだけではなさそうな参拝客の姿も見受けられた。そんな人々の邪魔にならぬ様にと、そっと隅に行って始めたのは。
「ミャッ、ミャアッ」
「……食べながら喋るのか」
「ミャオミャオミャオミャオ」
「お前は喋り過ぎじゃないか……?」
 持参した猫用おやつを振る舞う会。
 手袋で機械種の特徴を隠した手にごつん、と何かが当たる。見れば、頭頂部だけが黒い白猫がぐりぐりと頭を押し付けていた。そっと手を動かせば満足げなゴロゴロ音。
(「……ん?」)
 一瞬――ほんの一瞬。おやつを堪能する猫の中に、月色の目を見た気がした。

 一華は金月のいる拝殿へお参りをした後、参道をゆったりと歩いていた。灰の瞳は楽しげな様子で参道彩る店を物色し、時折尻尾が右へ左へと可愛らしく揺れる。
「どれが合うかしら……」
 愛しい人に良く似合うだろう猫シルエット踊る提灯の下、一華は露店を覗いては次の露店へ、そしてまた次の露店へと廻っていた。その足が、ふいに止まる。
「あっこれ……」
 青と桃の色彩。後ろ脚で立って戯れる猫の姿。その愛らしさに一華は笑顔を綻ばせた。
「すみません、これをいただけますか?」
 笑顔につられてか、頷いた露店の主人も嬉しげだ。
 指差された物――お守りを取り出す手つきもまた、飛びきり丁寧で優しいものだった。

 神社の猫達に遊んで貰う、その前に。
(「月色の瞳の猫かぁ。きっと美猫さんだね! 俺も会ってみたかったな~」)
 ラウルはイメージした月の色とその姿に心ときめかせた後、いざ、と神社の猫達へご挨拶。目線より低い位置から手を伸ばす。
 撫でて――もふり。
 抱いて――もふり。
 ゆっくりとした礼儀正しい触れ合いに猫達は満足げだ。目を細め、撫でるが良い触るが良い、と地面に転がっている。
「どうしよう。お持ち帰りしたくなる愛らしさ……!」
 中にはチラチラと此方を伺う猫までいるものだから、ラウルの頬は緩んだままだ。
 鮎の塩焼き(塩抜き)や持参した煮干しを差し出せば、どーんと腹を見せたままのキジ虎が『ちょうだい』と鮎持つ手を突き、茶白の猫は煮干しをくわえてラウルの方を見向きもしない。
 それぞれの個性がたまらなく可愛らしい。ときめきと感動で打ち震えたラウルは、帰り際、はぐはぐと煮干しを囓る子猫達の頭をそうっと撫でた。
「友人を連れてまた会いに来るよ」

 ひとつの災いを滅して、ひとつの祭りを守り抜いた。
 そこから生まれた福はきっと――たくさん。

作者:東間 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年9月22日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 6
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