秋の奥山探索行

作者:baron

「山村には似たような伝承が散在する。忽然となのか、前置きがあるなどの差はあれ……神隠しにあうと言う事だ」
 男がある種の推測を述べながら、山間の道を進んで居た。
 あまり良くない身のこなしに比して目つきは鋭く、メモと地図を持ち、小説家とも学者ともとれる。
「異人……マレビト、滅多に来ない客人が連れて行ったという説もあるが……こ、ここなら何か、見つか……」
 男は林が入り組んだ場所に、古い時代に加工された小川と、草で覆てしまった道を見付けだした。
 単に棲む者の居なくなった家でもあるのかもしれないが、嬉しそうな顔で獣道じみた場所を、息を切らせて登って行く。
 地図を参照しても、特に村など無いはずだが……。
「隠畑の跡……いや、隠し里。そうだ、妖怪・妖精の隠し里があったって良いは……。誰か居るのか!? ヲーイ、をー……」
 男は道なき道を越えたあたりで、明らかに熊では無い、人の様な姿を見つけた。
 追いすがって女だと判った時、その女は手にした鍵を男の胸に突き刺したのである。
『私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『興味』にとても興味があります』
 女がそう呟くと、倒れて行く男の傍らに、毛むくじゃらで羽の生えた赤ら顔のナニカが経っていた。
 ウェアライダーでもオラトリオでもない……奇妙な姿であった。


「山村に伝わる神隠しの伝承を調べていた男性が、ドリームイーターに襲われ、その『興味』を奪われてしまう事件が起こってしまったようです」
 ユエ・シャンティエが地方の寒村の地図を手に説明を始めた。
 メモには付随して、狒々・天神・白羽の矢あるいは赤い靴などの伝承が描かれている。
「感情を奪ったドリームイーターは既に姿を消しているようですが、奪われた『興味』を元にして現実化した怪物型のドリームイーターにより、事件を起こそうとしているようです」
 怪物型のドリームイーターによる被害が出る前に、このドリームイーターを撃破して下さい。
 ユエは倒せば感情を奪われた人も目を覚ますはずだと言いながら、別のメモ帳に簡単な絵を描き始めた。
「敵は一体のみで配下無し。毛むくじゃらで羽の生えた奇妙な姿をしています。赤ら顔で鼻も背も高い方ですが、基本的には人間大です」
 なんというか、こんなシチュエーションで出て来る、天狗だとかタヌキの妖怪を足した感じである。
 おそらくは、倒れた男性の持つ漠然としたイメージが元になったせいだろう。西洋の妖精風でないのは、男が年配のせいかもしれない。
「人間を見つけると、自分が何者かを問う事が在りますが、正しく答えれば見逃す可能性が在り、間違った答えで有れば襲う可能性が高まる様です。どの道見過ごすわけにはいきませんが、場合によっては利用できるかもしれませんね」
 そう言って、ユエは簡単に能力の説明を始める。
「基本的にはドリームイーターの能力の中で、良く見られる能力であるようです。トラウマを抉り、反抗する意思を失わせて気ますが、大きな差は在りません」
 一時的に目をくらませて、対象となった相手に幻覚を見せるのだと言う。トラウマなどは人に寄るので喰らった人間にしか判らないなどの差は在るが、武器を封じたりなども幻覚を飛ばすだけで差はないとか。
「ようするに、神隠しを行いそうな対象だと答えれば後回しにされ、囮になりたい場合は何でもいいから答えろと?」
「そう言う事ですね。そうするのか、何方がといった組み合わせはお任せします。いずれにせよ人々の感情を奪って人を襲わせるような事は放置できません。よろしくお願いしますね」
 リノン・パナケイア(狂気と後悔に苛まれ・e25486)の言葉にユエは頷くと、地図やメモ帳を渡して出発の準備を整えていった。


参加者
付喪神・愛畄(白を洗う熊・e00370)
天司・雲雀(箱の鳥は蒼に恋する・e00981)
燦射院・亞狼(日輪の魔壊機士・e02184)
メリノ・シープ(スキタイの羊・e02836)
舞原・沙葉(生きることは戦うこと・e04841)
櫟・千梨(踊る狛鼠・e23597)
カリュクス・アレース(過去に囚われし戦士・e27718)

■リプレイ


「そ、それにしても随分と静かですね。小さな村だから当たり前なのでしょうけど」
 メリノ・シープ(スキタイの羊・e02836)はおっかなビックリ。
 深々と静まった森は、恐ろしいではなく、畏ろしい。
 周囲にはケルベロスと転がった被害者以外に、誰も居ない。
「こわいこわいかみかくし、幼子なら泣いてしまっていたかもしれませんね。もう誰も居ないのか、来ないようしているだけかは別にして」
 その隣でカリュクス・アレース(過去に囚われし戦士・e27718)がぼんやりと、恐怖と救いを同時に持つ推測を口にした。
 畏怖すべき美に対して、虚飾無く、思ったことを直栽に喋っただけだ。
 だからこそ、ソレは恐ろしい予想と、救いのある予想の両方を映し出す天然の鏡。
 ゴクリと鳴る喉には気がつかないのか、つかつかと歩いて行く。

 そうこうする内、一同はホンの僅かに踏み込んだ感覚が違う場所に出た。
「おや、ここだけ植生が違いますね……。樹による門と小路でしょうか」
 僅か一筋、紅み始める森に、天司・雲雀(箱の鳥は蒼に恋する・e00981)は気が付いた。
 踏みしめる葉の音、日が差し込んで透ける葉の影。
 被害者の倒れていた川縁から、奥へ向けて射しこんで居たのだ。
「山は神域。道を外れ僅かに気配を変えるだけで、本当に何かに出逢ってしまいそうな雰囲気です。そういえば、神隠しは天狗隠しや天狗攫いとも言うんでしたっけ」
 雲雀は日が差し込む小路を歩きながら、ふと、視界の外を眺めた。
 日差しが陰を通ることで、線として見えるだけでなく、温度差までもが目に見えるという不可思議な光景。
 歩き易い小路であるが、一歩離れれば、確かに天狗でもいそうな山の奥地であった。
「ここだけは踏み締めて歩き易いし見付け易い……木コリの通り道やつかな? しかしまあ、やれ、神隠しとは……」
 アンゼリカ・アーベントロート(黄金騎使・e09974)は金の髪で陽光を跳ね返しながら、やれやれと肩をすくめた。
「誘われたからって行く気持ちが判らないな。……愛する人の魅力的な誘いなら吝かではないが、全く正反対だろう」
 前向きなアンゼリカの性格は、ソレ自体が心の闇や歪さを寄せ付けない。
「今回の方の様に、禁断の花園に誘われたというよりは……、どういうのでしょうね。かつて浚われた方々は……逆かと存じます」
 雲雀は断言できる彼女の性格をこそ、眩しそうに見つめながら、言い淀んだ。

 神隠しの伝承は……とある忌み事の言い訳要素でもある。
「誰かを失った辛さを、神隠しだから仕方無い。と……カミサマやらに託せるならそれも良いかもな、とは思う」
 被害者を脇に避けておいて来た櫟・千梨(踊る狛鼠・e23597)は、言葉の上では突き放しながらも、忌み事をオブラートに包んだ。
 飢饉の折りに、貧民は口減らしとして子供を売りに出し、それさえも無理なら処分する。
 その事実は触れず……ただ失ったとだけ。
「まあ正体がデウスエクスじゃ、拝む訳にもいかないか。封鎖次第、周囲を捜索しよう」
「おっけ。正体はなんであれ、速やかに片付けないとね。いかに山が魔所といったところで、神話の迷宮や中国の梁山泊でもあるまいし、直ぐに見つかるさ」
 千梨が間違っても一般人を撒き込まない様にしときたいと語ると、アンゼリカは心得て、我が胸を叩いた。


「……神域に化け物の正体なァ。倒す相手やただの戦場なんだからどうでもいい気はするけどな。『物』は所詮モノだ」
 そんな中で、燦射院・亞狼(日輪の魔壊機士・e02184)は適当に話を聞き流した。
 途中で正体の推測を考えた者も居たかもしれないが、正解そのものに全く興味が無い。
 その肉体で痛みを受け止め打ち砕くだけだ。
『かーごめ、かこめ……』
「樹が……声もか。いよいよ。おいでなすったな」
 風も無いのに木々が揺れ始める。
 戦場となる森全体を見渡す亞狼の目と耳には、断言こそできないものの、何かが感じ始めていた。
「確かにこの揺れは怪しいな。そろそろ現われるはずだが……敵は幻影を見せてくるという。私たちも見せられる可能性はある、油断は禁物だ」
 舞原・沙葉(生きることは戦うこと・e04841)が周囲に警戒を呼び掛けると、仲間達から了承の声が帰って来る。
「声がした方が判れば、そこからなるべく目を離さないようにそっと離れられたらいいんだけど、無理はしないよ。それに……」
 付喪神・愛畄(白を洗う熊・e00370)は身を小さくして周囲を警戒しつつ、手を引いていたビハインドのつくもの手を離す。
 事前に言い含めて居た通り、つくもは壁役の列に加わりながら、べっと舌を出した。
「それを向けるのは俺じゃないって……。ゴホン、俺が見る幻覚についてはなんとなく察しはつくからね。察しさえつけば覚悟はできるよ」
「あー……。トラウマは本人にしか判らない辛さがあるが、本人にだけは予想がつかないでもないからな」
 自らのビハインドに悲しげな眼を向ける愛畄。
 そんな彼の姿から察しつつも、見ないフリをする気遣いが千梨にはあった。
 諦念が振り払えないでいるからだと、判っては居るのだけれど……。
「私も弾き返せるよう意思を強たねば。……とはいえ傾斜防御の作戦もある、そろそろ黙させてもらおう」
 そんな彼らの葛藤を、少しだけ羨ましそうな顔をしながら沙葉は音を増す、いや既に着物の端が見え始めた敵に向き直った。

 脅かすだけか、それとも陽動か、いずれにせよケルベロスにそんなものは通じない。
「こっちは何時でも、おっぱじめられる」
「お、同じくですっ」
 亞狼の思考は既にセンチメンタルなものを切り離し、身構えて息を吸い込んだ。
 やや遅れて心細げな声が聞こえるが、特には気にすまい。
『いーついつ出逢う? 後ろの正面……だあれ?』
 森影からちょっとずつ着物の端を見せていた敵は、詠うように姿を現した。
 ほどほどに高い体格と、毛むくじゃらの姿に似合わず甲高い声。
 カンに触るソレに対して、ケルベロス達はついに、牙を向いた。
「……え、えっと、その……毛羽毛現……?」
 メリノは連れ去るタイプの妖怪変化に対して、仲間の後ろに隠れながら……逆方向の答えを呟いた。
 故郷に逃れた落ち武者・文官とも言われる毛羽毛現は、同じ毛むくじゃらでも似て非なる存在。
 そしてちょこっとだけ手を出しながら、黄金のリンゴで周囲を照らしだす。
「さあ来いよ。アレだろ? 単にブサイクな女子高生。違うって? んじゃアレか、カプセルに入ったり出たりする使役モンスター。でなきゃ新種のプロレス系ゆるキャラ」
 亞狼は敵の心にのみ、背負った黒い日輪を見せながら、灼熱の熱波と殺意を充満させていく。
 周囲の静けさと合わせれば、きっとソレは現実に感じられたに違いあるまい。


『メ、めめ、メエエ!』
「あぁなんだアレか、デウスエクスの芸人で新ネタってトコか……ん、こりゃだいぶ近いな。でもよ羊は去年の干支じゃねえか」
 亞狼は奇声をあげて襲い来る敵を冷静に迎え討った。
 大きな口が噛みつくことで牙が肩に突き刺さるが、平然とこじ開けて頭を外に出す。
「おぅヤローども、殺っちまえ。いいかおめえ。感情は戦闘の前と後にだけありゃいんだ、今は欠片もいらねぇ」
 亞狼は失われた記憶なぞに欠片も興味はなく、今の自分を作り上げる過去すらも置き去りにする。
 ただ今があればいいと豪語し、手を休めずに、重力の鎖を巻きつけようと身構えた。
「相手は強敵一撃が大きい。さらに動きもそれなりだ。なるべくまともには喰らわないように、そして……口惜しいが暫く幾つかはお預けだ」
「了解です。使うとしても、動きを留めてからと言う事ですね」
 沙葉とカリュクスは顔を見合わせると、用意した技・術式の一部を脳裏から消した。
 彼女たち独自の技であり、誇りとも言えるが戦術的に運用が難しいのならば、こだわらない選択もっできる。
 その分の魔力を武装に込め、低い姿勢で、あるいは空を舞うように襲いかかった。
「先に行く」
 沙葉は身を低くして走り込むと、逆袈裟に刀を跳ねあげる。
 そして手から力を抜いて腰を回転させる強引にその場を離れつつ、次なる攻撃に合わせて刃で弧を描き始める。
「では、こちらは逆サイドより参ります」
 逆にカリュクスは、円運動から直線的な動きで迫ることにした。
 木々を蹴って高い軌道で放つ回し蹴りは、飛竜の如く。
 着地した瞬間に、仲間達の攻撃をかいくぐって鉄拳を食らわせに掛った。
「強敵なのは当たり前って言うが、さくっとなんとかしてくれないか?」
「任せされた!」
 千梨は傷ついた仲間の治療をもう一人に任せると、アンゼリカの体を木の葉で覆い隠した。
 それは重力と共に光を編向し、森の中に彼女を隠す。
 先ほど仲間達は避けられる可能性を考慮したようだが、外れるのであれば当たり易くすればよいのである。
「隠れ身のマントとか、十絶陣の気分だな。よし、いくぞ!」
 アンゼリカは勢い良くダッシュすると、敵の死角から迫り、飛び蹴りを掛けて体勢を崩す事に成功した。
「なんとか……なってるみたいだね。よし、この間に……カラス?」
「なるほど。天狗浚いを元にした故にあのようなお姿、そして、痛みを抜き出せば使い神はそうなるのでしょうか……」
 二度・三度と続く攻撃に、愛畄が傷を化生として抽出すると、烏天狗というか、デフォルメされた烏が出て来る。
 雲雀はその様子に納得しつつ、星の加護を仲間達に祈った。
 天狗とは、天翔ける箒星の事だと言うが、ならば星の輝きを持って守るは当然の帰結ともいえよう。


「このまま行けば……あ、あぶないですっ」
 カバーが、間にあってしまった……。
 一向に苦しまぬ仲間に業を煮やしたのか、敵は対象を変更。
 援護を中心にしていたメリノは、つい、攻撃役の仲間を庇う。
『メ、め。メメント、メ、モリ?』
 後悔など無い仲間には不確かな言葉が、詳細に聞こえてしまった。

 死を思え。
 死を悼め。
 かつて失われた誰かを思って、喜ぶがいい。決して愉しむ事はできなくとも。
「おっ……さん。な、んで……? もう……」
 過去のメリノと大事そうに見守る誰か。
 病気になった自分を必死で看病する誰か。
 何か覚えるたびに、嬉しそうに笑ってくれた誰か。
 ああ、覚えているとも。あのとき、自分は太陽を見るような暖かさで見つめていたのだ。
「なんで私を……にしたの?」
 ああ、覚えているとも。
 嬉しそうな誰かの笑いが、まるで市場に売られていく羊を見るような目だったのを思い出した。
 それはそうだ、せっかくの収穫が台無しになるのであれば、必死で看病もしよう、賢くなれば喜ぼう。
「手を留めて、傷が、血が出てるじゃないか。女の子なんだから、顔を大事にしないと!」
「駄目だ、何を言っても通ない。強引に治療しよう。……たとえ辛くても、進めないよりはいいさ」
 愛畄と千梨の声は遠く、近くでガリガリと音がする。
 胸を掴んだ手は内出血を起こし、もう片方の手は顔を引っ掻いている。
 でもね、剥げたカサブタは心の方が痛い。
「まったく下種だな。人の心を……」
『鏡よ、鏡。許せない者はだあれ?』
 おのれ。
 おのれ。それは己。
 消えゆく敵に対して、侮蔑の言葉を吐こうとした沙葉は、己の姿をそこに見た。
 順逆自在、何もかもが逆転するブーメラン。
『邪魔者には……退いてもらう!』
 戦うばかりで無力な自分、ソレが許せないと、当たるように成って来たばかりの力を抜き討った。
 動き出す力を、奪うがために。
 邪魔なのは誰だ? ……それは己と自分で言った。

「このままでは危険ですね。一度呪縛しましょう」
「……よぅこっちも付き合えよ。感情は戦闘の前と後にだけありゃいんだ、今は欠片もいらねぇ」
 雲雀が重力で網を広げると、亞狼も再び重力の鎖を操り、敵を引きはがしに掛る
 だが亞狼は別に助けるつもりはない、だいたいからして、一人残れば俺らの勝利じゃねえか。
 ただ、わざわざ挑発したってのに、その手間だけ惜しいと思うだけ。
「まやかしに屈するな。小細工などで私達の意志の光は消えない――そうだろうッ!」
 彼とは対照的に、アンゼリカは仲間に声をかけつつ冷凍光線を何度も放った。
「まったく夢喰いの攻撃は、不愉快なのが多い――この一撃を返礼としようかッ」
 そして凍気に変えて、光を己の内から解き放つ。
 心で血を流す仲間の為に。
「……そろそろ終わらせようか。でないと、色々と、まあ、面倒だからな。幻なんかに怒って啼いて、必死になると疲れるだろう? 今は適当でいいじゃないか」
 千梨は無表情ながら、100万ボルトの胃痛を味わった。
 とりあえず少女達の呟きは聴かなかった事にして、トラウマやら何やらを、自分になぞらえて詠いあげて迂回させることする。
「もしかしたら、わたくしが担当すべきだったのかもしれませんね……『崇高なる青き薔薇よ!』痛みを乗り越え、明日の為に終わる今日を、いまここに」
 少女達の青ざめた顔に、カリュクスは決意を秘めて一つの契約を結んだ。
 それは一日が終わることで、明日が来ると言う契約。即ち、次こそはもっと他の選択肢を取り、悲劇を納めようと言う決意の表れ。
 悲しみを終わらせる銀の茨を明日へと繋ぎ、鋭き蔦を持つ気高い青薔薇を咲かせていった。
「夜は明け、花は散り、夢は覚めるものです。さぁ、そろそろ目を覚ますお時間です」
 雲雀は蒼き薔薇が彩られたのを見て、その周囲に無数の花びらを浮かべた。
 風花を為し甘い香りで敵を、心迷った仲間の痛みを魅了していく。
「散り行く花と共に悪い夢は終わらせてしまいましょう。そして次は素敵な夢が見れますように」
 全ては無かったこと。
 雲雀は全てを夢の中にて酩酊させ、敵の存在をかき消し、心の痛みを眠らせた。

「ちょっと面倒だけど……」
「んじゃ後は任せたぜ」
 千梨が止める暇も有らばこそ、亞狼はささと帰途に就く。
 戦い終われば特に思う事も無い。
「大丈夫? 修復とかはやっとくし、俺らで良かったら……」
「ごめんなさい、もう帰ります、ね」
 かけられた愛畄の言葉に頷いて、メリノはファミリアだけを家族として抱きしめながら帰途についた。
 心の痛みは病にも似ている。
「大丈夫……、俺たちは覚悟はできているよ」
 強きケルベロスに痛みを与える者は、己自身にあるまいと思う。だが、忘れては自分が成り立たない。
 そんな事を思いながら、愛畄は自分に負けはしないと、つくもの手を握り返した。
「信じて居ればいつか届くさ」
「そう、ありたいものだ。さて……」
 アンゼリカがそう呟くと、沙葉は頷きながら元来た道に居る被害者を思い出した。
「治療の合間にお話を聞くのも良いかもしれませんね」
「山は危険だと言う事も言い含めねばなりませんしね」
 カリュクスや雲雀も帰途につき、山は元の深淵を取り戻して行った。

作者:baron 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年9月18日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 6
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