●彼女は私たちの母になってくれたかもしれない女性なのだから
街の外れ、小さなビルの地下で営まれている、小さな小さなライブ会場。
まだまだ元気な夏の太陽が届かぬ場所に集ったのは三十名、三十代前後と思しき男性を主とする集団。
彼らが少年のようにキラキラとした瞳を見せる先、一人の少女が元気な笑顔を浮かべていた。
「みんな! よく来てくれたわね! 今日も元気にやっちゃうわよ!」
はいっ、と、元気の良い返事をしていく男たち。
真っ直ぐに見つめ、マイクを握っていく少女。
名を、神山たま。私に任せて、私に頼ってを合言葉にいつでも元気な笑顔を浮かべ、時にSNSなどでファンたちの相談に親身になって乗ってくれたり、元気づけてくれることから、ママになって欲しいアイドルとしてひっそりと支持されている地下アイドルだ。
彼女がコールを求めるたび、ファンは優しくコールを返す。
時には穏やかな歌声を、穏やかな笑顔で清聴していた。
様々な演目を超えた後、いよいよたまの持ち歌の出番が来る。
盛り上がりもまた最高潮に――!
「待たれい!」
――いたろうとした時、入り口から大きな声が聞こえてきた。
音楽が止まる、ファンたちが振り向く。
たまの視線の先、十体のオークを引き連れたギルビエフ・ジューシィがつかつかと歩み寄ってきた。
壇上に挙がったギルビエフ・ジューシィは、たまに名刺を差し出していく。
「えっ……」
「あなたのバブみは、わが主のドラゴンハーレムに相応しい。是非、ハーレムで繁殖に励んでいただきたい! ……もちろん、ギャラも拒否権もありませんがね!」
呼応し、後方で待機していたオークたちが動き出す。
即座にファンたちが道を塞いだ。
「ここを通すわけにはいかない」
「みんなのママを守るんだ!」
「みんな……でも……」
ファンたちの行動に、たまはマイクを握りしめる。
逃げて……といいたいはずなのに、逃げるべきなのに、喉も体も動かない。
やがてファンたちは蹴散らされ、オークたちがたまににじり寄る。
粘液を滴らせ続けている触手が、たまに伸び始めていく……。
●オーク討伐作戦
ケルベロスたちを挨拶を交わした黒瀬・ダンテ(オラトリオのヘリオライダー・en0004)。メンバーが揃ったことを確認し、説明を始めていく。
「ギルビエフ・ジューシィというオークが、各地の地下アイドルを無理矢理スカウトして、ハーレムに連れ帰るという事件が起こっているみたいっす」
ギルビエフ・ジューシィは地下アイドルのライブ会場に十体のオークと共に突如現れ、ステージ上のアイドルを襲う。抵抗しなければアイドルを攫うだけで去っていくが、抵抗した者は殺されてしまうらしい。
ライブを中止したりした場合は別のライブ会場を襲撃してしまい、阻止が難しくなる。そのため、オークたちが現れてから先頭に持ち込む必要があるだろう。
「オークたちがアイドルを攻撃することはないっす。でも、会場にいる他の人は……ファンは躊躇なく殺すっす」
ファンたちは、例えその場にケルベロスたちがいようとも、命がけでアイドルを守ろうとするだろう。彼らを避難させるには、同じアイドル愛を持つ仲間だと思ってもらう。その幻想を打ち砕く。むしろ自分のファンにしてしまう……といった、ちょっと特殊な説得が必要となる。
説得に成功すれば、集団行動が得意な彼らは迅速に避難するだろう。
「説得の方法などはお任せするっす。続いて、周辺状況や戦闘能力について説明するっすね」
ライブ会場は、街の外れにある建物の地下。最大で五十人ほどの客を迎え入れることができる場所で、当日はアイドルの他に三十名のファンが集っている。
当のアイドルの名は神山たま。背の低い少女で、元気な笑顔が特徴的。一方でとても世話好きであり、SNSなどでファンの相談に乗ったりしている。それが長じてか彼女に母性を見出し、母と崇める者たちが現れ……それが、今回集まったファンたちである。
そんな中に突入してくるオークの数は十体。
内六体は防衛を担う。操る技は、欲望に満ちた雄叫びで力を高める、粘液滴る触手で相手を絡めとる、溶解液を放ち敵を溶かす。
残る四体は攻撃を担う。操る技は溶解液の他、粘液滴る触手で何度も敵を叩く、先端を尖らせた触手で敵を貫く……といったもの。
「それからギルビエフ・ジューシィっすけど、叩かになるといつの間にか姿を消してしまうようで、撃破は難しいっす」
以上で説明は終了と、ダンテは締めくくる。
「オークたちの略奪、絶対に許すわけにはいかないっす。どうか、よろしくお願いするっす」
アイドルを、ファンたちを守るためにも……。
参加者 | |
---|---|
ウォーグ・レイヘリオス(山吹の竜騎を継ぐもの・e01045) |
獺川・祭(ヘタレックスチュアン・e03826) |
日生・遥彼(日より生まれ出で遥か彼方まで・e03843) |
柊真・ヨリハ(ぐるぐるにーと・e13699) |
フィニス・トリスティティア(悲しみの終わり・e26374) |
青木・杏奈(やかましかしましお喋り大好き・e30474) |
ユーシス・ボールドウィン(ウェアライダーの鹵獲術士・e32288) |
心意・括(孤児達の母親代わり・e32452) |
●パパはママを子どもを守るもの
花は優しく愛でるもの。真っすぐ伸びやか健やかに、成長していくことを願うもの。
街の片隅、地下ライブ会場で歌うアイドル・神山たま。元気いっぱいな歌声を響かせながら紡がれる、躍動感あるダンスの数々。
ファンたちが投げかけるコールは優しく穏やかで……その有様は、さながら小学生の劇を観に来た保護者のようでもあった。
次々と捲られて行く曲の数々、合間合間に挟まれていく元気なトーク。雰囲気こそ静かながらも、心の奥底では高められていくテンション。それが最高潮に達した時、プログラム最後の曲。たまのためだけに作られた歌の時間がやって来た。
直後、ファンに混ざりライブを楽しんでいたケルベロスたちは会場入口方向に不穏な気配を感じた。
確認するまでもない。それは、ライブを穢しに来たオークたちの一群だ。
ケルベロスたちは各々の役目を果たすため、ファンたちの合間を縫って動き出す。
さなかには、一群の先頭に立つスーツ姿のオーク、ギルビエフ・ジューシィが声を上げた。
「待たれい!」
「っ!?」
流れかけたポップなメロディが、会場が騒然とすると共に止まっていく。
すかさず獺川・祭(ヘタレックスチュアン・e03826)が声を上げた。
「たまちゃんも自分達が死んだら悲しむっス! ケルベロスも来たからもう大丈夫、親の心を子は知らずなんて親不孝をする前に避難するっスよ」
「私たちはケルベロス、彼らはオーク。私たちが彼らを何とかするから、皆さんは逃げてほしいのですよぅ」
柊真・ヨリハ(ぐるぐるにーと・e13699)もまた声を上げながら、ファンとオークたちの間に立ち塞がるように陣取った。
ファンが、たまが混乱した様子でケルベロスたちとオークを見比べて、ギルビエフ・ジューシィがいぶかしげに眉をひそめる中、心意・括(孤児達の母親代わり・e32452)はたまの側へと到達した。
「そう、私たちはたまちゃんの護衛を任されたケルベロス。だからもう大丈夫よー。守る対象が増えると大変だからファンの皆はすぐに避難してねー」
ふんわり優しく微笑みながら、括はたまを軽く抱きしめる。
「お母さんを守る邪魔をする悪い子はいないわよねー? 正義感は素敵だけど、それで怪我をしちゃったらたまちゃんが悲しむわよー」
たまを、ファンたちを守るため、心からの笑顔で言い聞かせた。
騒然としていたファンたちが、鎮まっていく。
互いに顔を見合わせた後、振り向きたまへと視線を向けた。
戸惑った様子ながらも、たまはケルベロスたちを見回していく。
ぽつんと取り残される事になったギルビエフ・ジューシィは、盛大なため息を吐き出して……。
……にやりと口の端を持ち上げた。
「そう、我々はそちらの神山たまをスカウトしに来ました。我が主のドラゴンハーレムに相応しいバブみがあると」
嫌らしく、触手を蠢かせ始めるオークたち。
再びオークたちの方へ向こうとしたファンたちの視線を、ウォーグ・レイヘリオス(山吹の竜騎を継ぐもの・e01045)が言葉で止めていく。
「――鎮まりなさい! あなた達が母だと慕うその子は、自分の為に誰かが傷つくのをよしとする子なのですか!?」
彼らでは、オークたちには敵わない。どれだけ思いがあったとしても、力がなければ届かない。
拳を握りながら、壇上へと視線を戻していくファンたち。
暖かな眼差しで見回した後、ウォーグはお姫様へと変身しながらたまを励ました。
「大丈夫です、落ち着いてください。あなたのことは我々ケルベロスが護ります。だからあなたの力を貸してください――あなたを慕うファン達を、護る為に」
「いつも頑張って、皆に頼られるたまちゃん。だからこそ……たまには誰かを頼ってもいいのよ? 微笑みを向けて、安心させて……それから……」
日生・遥彼(日より生まれ出で遥か彼方まで・e03843)もまた、優しい声音で震えるたまの背中を押した。
たまはマイクを握りしめたまま、腕を震わせたまま、それでも力強く頷いていく。
呼応したかのように、会場が音楽に満ちていく。
本来紡がれるはずだった、ポップテンポなたまの歌だ。
「……みんな、逃げて! 私は、大丈夫だから……ケルベロスさんたちが、いるから!」
「あなたもよ、たまさん」
遥彼が軽く背中を押した。
戸惑いに似た空気を背中に感じながら、オークたちを牽制していた狐の獣神、ユーシス・ボールドウィン(ウェアライダーの鹵獲術士・e32288)はファンたちに向かって言い放つ。
「ママは子ども達が傷つくのが一番悲しいわ! だから、無茶せずに避難して!」
「あの子がママならあなたたちは子供。それなら今だけあたしがママも子供も守るパパになってあげようじゃない!」
フィニス・トリスティティア(悲しみの終わり・e26374)もまた自らの姿を変え、仲間たちの背中にカラフルな……ヒーローの明かしたる爆煙を爆ぜさせた!
「さあ、パパが全部なんとかしておくから、ママを連れてお逃げなさいな!」
ファンたちは頷いた。
最も体格の良い男が壇上へと上り、戸惑うたまを抱き上げた。
折よく避難準備が整ったのだろう。楽屋へとつながっているだろう扉が開かれ、スタッフがそちらへ向かうよう指示を出し始める。
ファンが周囲を固める形で、たまは抱き上げられたまま楽屋扉の奥へと消えていく。
オークたちが近づくことはない、できない。
ケルベロスたちが進路を阻んでいるから。
「……随分と逃げ足が速いこと」
改めてオークたちに視線を戻したフィニスは、ギルビエフ・ジューシィの姿がないことに対して悪態をつく。
オークたちの中に紛れていくのは見えたけど……と呟きながら、括は前衛陣を守るように雷の壁を展開し始めた。
「あの子たちには指一本ふれさせないわよー」
ふんわりとした笑みを浮かべながら先頭に位置するオークを指し示し、ウイングキャットのソウを向かわせた。
オークたちとの本格的な戦いへ移っていく中、青木・杏奈(やかましかしましお喋り大好き・e30474)は心の中で少しだけ寂しげなため息を吐いていく。
いざという時はサキュバスの力を活かして誘導するつもりだったけれど、どうやら必要なかった様子。
それでも、元気いっぱいに歌っていたたまを、たまにバブみを感じているとしても心から想っていたであろうファンたちを守ることができるなら……と、ヨリハに雷の加護を施しながらテレビウムのレビくんを差し向けた。
「レビくん、的にバンバントラウマ植え付けちゃいましょう! ……え?」
色々な理由でバンバンはうてない、別の理由で組み合わせも限られる……などと漫才を行いながらも、オークたちの攻撃だけは的確に行い続けていく……。
●アイドルライブにオークはいらない
オークたちの個体数、総勢十体。
うち六体が最前線にたち続け、ケルベロスたちの攻撃を受ける壁となるよう触手を一杯に広げている。
残る四体はその隙間から、触手や溶解液を飛ばしてきた。
それでも、大きな視点で見てみればオークたちが同じ位置に立っていることに違いはない。
祭は飾る、戦場を。
自分たちを応援しているかのように流れ続けているメロディをより輝かせる星々で。
傍らではミミック、十九箱・七四三号が輝きだけは偽りではない財宝で世界を抱き、星座のオーラとともにオークたちを包み込む。
アイドルが避難しても煌めきを失わぬライブ会場で、遥彼はケルベロスチェインを全方位に向けて射出した。
「適材適所、デウスエクスにはケルベロスを、ってね」
凍てついた体を貫き、蝕んでいく鎖。
更に多く滴り始めた異臭を放つ体液を、ユーシスがハンマーの一振りで凍りつかせていく。
「ふふっ、さすがの子豚ちゃんたちでも、こういうニッチな需要は希少かしら?」
ふわふわな毛並みを軽くなでた後、頬に手を当て微笑んだ。
「まあ、おばちゃんも、子豚ちゃん達に好かれても困るからノーサンキューよ?
ぴしり、と、凍てついていた触手の何本かが砕け散る。
無事な姿を保っている数本の触手は、前衛陣めがけて溶解液を吐き出してきた。
リボルバーの弾丸を浴びせかけて溶解液を散らしたヨリハは、だぼだぼの袖越しに握りしめたスマートフォンをかざして画面の中のボタンを押していく。
「みょんみょ~ん」
音としては聞こえぬ電波が広がっていく。
オークたちを包み込み、本能に塗りつぶされているだろう心を揺さぶっていく。
さなかには、尖った触手をボクスドラゴンのメルゥガが翼で受け止めていた。
弾き距離を離していくさまを横目に、ウォーグは高く飛び上がる。
「確実に……一体ずつ……!」
体を反らし、頂点に達すると共にバネを活かして振り下ろす。
落下の勢いが乗った思い斬撃は、先頭に位置していたオークを両断した!
直後、床から斧を抜こうと力を込めたウォーグに触手が迫る。
強引に間に割り込んだウイングキャットのトゥードゥルスが肩を貫かれた直後、薬液の雨が戦場全体に降り注いだ。
「危なかったわね。でも安心して、私も援護して洗い流すわ。ケガも、汚れも何もかも!」
「そして、沢山の反撃はさせないっス」
落ち着いた調子で、祭は流れるメロディに乗せる穏やかなバックコーラスを。
暖かな空気でライブ会場を満たすため。オークたちの動きを少しでも鈍らせることができるように。
十九箱・七四三号もまた、根を合わせる。
生成した楽器を用いて、オークたちを押さえ込む。
それでもなお伸ばされた触手の勢いは、鈍い。
黒い液体を用いて叩き落としたヨリハはだぼだぼの袖の中でスマートフォンを握りしめ、呪縛から抜け出そうと震えていた右側オークへと歩み寄った。
反応する暇も与えずに、後頭部を角でぶん殴る。
空気を吐くとともに動かなくなっていくオークを横目に、ユーシスは魔導書をめくり幾つもの水晶剣を召喚した。
「さ、この調子で片付けてしまいましょう」
尻尾を小さく逆立たせながら解き放ち、身動き取れぬオークたちを貫いていく。
くぐもった悲鳴を上げながらも戦う意志は失っていないオークたちを見据えながら、次のページをめくっていく……。
治療を欠かさず被害を抑え、戦い続けてきたケルベロスたち。
更に二体の屍を築いた時、括は遥彼に緊急手術を施していく。
「この調子で、最後まで駆け抜けちゃいましょうー」
「はい、ありがとうございます」
にっこり笑顔で礼を告げた後、表情を切り替えオークたちへと向き直る。
笑顔なのは変わらない。
もっとも、宿る光は狂気に似ていた。
溶解液にはスライムを、刺し貫く触手には鎖を。
きっと、私達はよく似ていると遥彼は語っていた。
「滴り落ちる血を、弾ける肉塊を、脈動する魂を、その全てを飲み干す、それは愛の証明」
熱っぽく瞳を振るませながら、吐息を熱く湿らせながら、じゃらり、じゃらりと鎖を鳴らす。
「――醜い貴方を愛してあげる」
言葉の裏に真意を隠し、次の刹那には左側に位置していたオークを物言わぬ躯へと変えた。
帯びた様子で、別のオークが尖った触手を伸ばしてきた。
左肩で受けながらも、遥彼の表情は崩れない。
「ふふ、ふふふふ……痛いわ。痛いわ痛いわ? この痛みが愛なのね? それなら……どうか、私の愛を受け取って?」
鎖を鳴らし、次のための力をためていく。
一助となるよう、何よりも傷口を塞ぐため、杏奈はオウガ粒子を放出した。
「痕が残らないよう、しっかりと治すのですよっ!」
願いは、メルゥガの翼すらも修復した。
横目に、ウォーグはハンマーを振り上げる。
「総てよ――凍てつけ!ガルド流裂破竜闘術、凍覇竜哮撃!」
最前線に立っていた最後のオークに叩き込み……一瞬のうちに氷の中へと閉じ込めた。
程なくして、その氷は中のオークごと砕け散る。
攻撃役を担っていた……守りの薄いオークたちへの進路が開かれた。
ヨリハはだぼだぼの袖を掲げていく。
「魔法は袖から出る!」
テンションの高い言葉とともに紡がれた竜巻はオークたちを弄び、一体の命を刈り取った。
別の個体が植え付けられたトラウマによって物言わぬ躯とかしていく中、レビくんの凶器が一体の頭蓋骨を粉砕する!
「後一体、最後の援護ですっ!」
素早く杏奈は視線を走らせ、いち早く攻撃できるだろうフィニスに雷の加護を施した。
受け取りながら、フィニスは手刀に冷気を纏わせる。
「人々の大事な憩いの場、心の洗濯を行う場所を汚したこと、あの世で後悔することね!」
次の刹那には凍てつく軌跡を書き記し、オークの首を両断した。
ライブ会場に静寂は訪れない。
楽しげなメロディは流れ続けているのだから。
ケルベロスたちは静かな息を吐きながら、各々の治療などと言った事後処理へと移行する……。
●優しいライブを改めて
死力を尽くして事後処理を行い、元の姿を取り戻したライブ会場。
ケルベロスたちは一旦外へと脱出し、近くの空き地に避難していたたまやファン、スタッフたちを発見した。
胸をなでおろしていく彼らに対し、ユーシスは穏やかな調子で提案していく。
「荒事が済んだし、施設も治ったし……ライブの続き、やれないかしら? 折角、子ども達も集まってるんだしね?」
「え……」
驚いたように、たまは目を見開いた。
無理強いはできない……とファンたちが視線を落とす中、女性スタッフが……マネージャーと思しき人物がライブ会場のオーナーと思しき男性に視線を送っていく。
オーナーは笑顔でサムズアップ。
頭を下げ、マネージャーはたまの肩を優しく叩いた。
たまの希望もあり、再開された地下ライブ。
たまの気持ちを高めるため……と、予定になかった曲目を挟む形で改めて組み立てられたプログラム。
ファンたちのコールは変わらない。ただ、より力強く、たまを励ますように優しく、その声援は響いていた。
勇気をもらったのか、たまのダンスも歌もより洗練されていた。
混ざり、穏やかな表情で祭は楽しんでいる。
円な瞳を細めたまま、少しずつ静かなものへと変わっていく音楽に耳を傾けている。
最後の一曲、たまのために作られた歌に移った時、杏奈は静かに頬を緩めた。
何を感じたのかはわからない。ただ、娘の成長を見守る父親のような……あるいは、母親に抱かれた子どものような……そんな、不思議な空気に身を委ねて……。
作者:飛翔優 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2016年9月20日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 2
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