月喰島奇譚~昏冥の市街地

作者:犬塚ひなこ

●夜に紛れる
 ――月喰島内、市街地にて。
 寺本・蓮(眼鏡が本体疑惑・e00154)は仲間と離れ、単独で崩れかけたビルの影に潜んでいた。この場所は最初に敵と遭遇し、撤退することになった市街地のさなかだ。
「成程。俺達が撤退した後、市街地の敵はもとの場所に戻ったようだね」
 蓮は指先で眼鏡のブリッジを押し上げながら街の様子を窺う。
 敵が確実に存在するであろう場所に戻って潜伏するというのは一見はおかしいかもしれない。だが、蓮がこの市街地に戻って来たのは計算があってのこと。未知の敵よりも既知の敵の方が与し易いと考えたからだ。
「危険はどこでも同じ。それに敵の情報を少しでも仕入れておくのは重要だからね」
 そうだよね、と蓮は隣のフェアリンに話しかける。こくこくと頷く仕草を見せたボクスドラゴンは主人を護るように傍についていた。
 そうして蓮達は市街地の外延部を慎重に進み、一体だけで寝転んでいる敵を発見した。向こうはまだこちらには気付いておらず、確実に先手が取れると判断した彼は戦闘態勢を取る。
「先手必勝だね。――来い、壱式!」
 マスケット銃を召喚した蓮は弾にグラビティを込めて装填し、ひといきに敵に放った。怒りを呼び起こす銃弾が敵の身を貫けば、流石に相手も蓮に気付く。
 反撃を放とうとして襲い来る敵は蓮に飛び掛かった。だが、即座に駆けたフェアリンがその攻撃を庇いながら体当たりを放つ。
 よくやったと相棒に視線を送った蓮が身を翻すと眼鏡のレンズが薄く光った。一瞬後、練り上げられた気咬の弾が敵を真正面から穿つ。
 鼻を衝くような異臭を漂わせた敵は倒れ込み、動かなくなった。
 流石に一撃で撃破とはならなかったが、敵は普通のデウスエクスに比べれば簡単に排除できるようだ。
「やっぱりオークでも竜牙兵でもドラグナーでもないね。戦闘力は低いけど、数が多いのが厄介ってところかな。……いや、でも昼間に見た駐在のような奴は知性もあったようだし戦闘力も高いかもしれない」
 敵を分析した蓮は油断は禁物だと気を引き締める。
 そのとき、周囲から何かが近付いてくる音が聞こえた。おそらく先程倒した敵と同じような者達だろう。
「物音を聞きつけて何体か集まってきたかな? でも指示を出している駐在型警官さえ倒せば烏合の衆になるかもね。救援が来るまで普通の敵の二、三体くらいは倒しておこうか。行くよ、フェアリン」
 蓮はこの周辺の状況を整理して頷く。無茶はしないが自分に出来ることだけは行っておこうという彼の慎重かつ律儀な面が垣間見える。
 そして――彼は迫り来る敵に備えて武器を構えた。
 
●いざ救援へ
「たいへんです、たいへんなのです皆さま!」
 雨森・リルリカ(花雫のヘリオライダー・en0030)はケルベロス達に緊急事態を伝え、現状の説明をはじめた。
 問題が起こったのは、本土とドラゴンの拠点の中間地点にあるといわれる月喰島。
 そこへ調査に向かったケルベロス達からの連絡が途絶えた。
 ドラゴンの襲来により消滅したといわれる月喰島を発見したという連絡があった後、彼等から定時連絡が無くなった。どうやらドラゴン配下の敵が島内に潜んでいたらしく、何らかの危機が彼等を襲ったのだろうと予想される。
「詳しい状況は不明ですが、リカの予知で調査に向かったケルベロス様達が分散して島内に潜伏している光景が視えましたです。メンバーの内のひとり、寺本・蓮さまは市街地区域にいらっしゃるようでございます」
 そして、リルリカは語る。
 ヘリオンであれば月喰島まで一時間ほどで救援に向かうことができる。市街地上空まではステルス機能を使って敵を刺激しないよう飛んでいけるので、降下して蓮の救援に向かって欲しいとリルリカは願った。
「皆様はヘリオンから降下した後、蓮さまを探して合流を目指してくださいです。敵の情報についてですが、リカには視えていないので蓮さまから直接聞いてくださいませ」
 降下作戦後、皆の安全のためヘリオンは一時帰還する。月喰島の安全が確保されてから必ずケルベロスを回収に向かうと約束し、リルリカは仲間達を真っ直ぐに見つめた。
 それから、少女は現時点で判明している情報と成すべき目的を話してゆく。
 まず、島内の電波状況が悪いこと。
 携帯電話やアイズフォン等は勿論、無線での連絡も難しいので他のチームとの連携に頼らず、出来ることは自分達の手で行うという心構えが大切だ。
 目的は蓮との合流と市街地の探索。
 ヘリオンでの回収も、ケルベロス達が降下した周辺の敵を掃討するか、それに匹敵する何らかの成果を上げなければ行えないので注意が必要になる。
「月喰島で何が起こっているのでしょうか……むむむ。とっても心配ですが、全員が揃って無事に帰ってこれるようお祈りしています!」
 リルリカは説明は以上だと告げ、現場に向かう仲間達に応援の眼差しを送った。
 未知の場所ではあるが、勇猛果敢に進めばきっと未来は拓ける。そう信じた少女は皆を誘い、現地に向かうヘリオンへと案内した。


参加者
寺本・蓮(眼鏡が本体疑惑・e00154)
玖々乱・儚(参罪封じ・e00265)
フェクト・シュローダー(レッツゴッド・e00357)
エピ・バラード(安全第一・e01793)
セレナ・アデュラリア(白銀の戦乙女・e01887)
リディ・ミスト(幸せ求める笑顔の少女・e03612)
フローネ・グラネット(紫水晶の盾・e09983)
カティア・エイルノート(ヴァルキュリアのミュージックファイター・e25831)

■リプレイ

●合流を目指して
 深い宵が巡り、辺りは昏い夜の色で満たされていた。
 月喰島の市街地は一見すれば静かだが、その中には闇の存在が紛れている。ステルス機能を最大限に発動させたヘリオンから街を見下ろし、エピ・バラード(安全第一・e01793)は仲間達に呼び掛けた。
「皆様、行きましょう。敵地に突入です!」
 エピの声にテレビウムのチャンネルが腕を振りあげて応え、仲間も降下準備を整える。
 参ります、と騎士然とした言葉を紡いだセレナ・アデュラリア(白銀の戦乙女・e01887)が先陣を切り、床を蹴った。彼女に続いて皆も降下していき、市街地を目指す。
 今回の救援対象である寺本・蓮(眼鏡が本体疑惑・e00154)はおそらく、今この瞬間も一人と一匹で戦っている。いくら鍛錬を積んだケルベロスとはいえ単独で戦い続けるのにも限界があるだろう。
「一刻も早く合流して、この島の秘密を解き明かす。それが私達の役目です」
 セレナが口にした決意の言葉に頷き、玖々乱・儚(参罪封じ・e00265)は着地した地面を踏み締めた。テレビウムのてれも同じく、周囲を警戒する。
 幸いにも付近には敵の気配は感じられない。この辺りは安全だと確信した仲間達は目配せを交わしあった。
「地図も古く、通信もし難い場所での捜索任務、気を引き締めていくよ」
「じゃあ、二手に分かれて探索。ボクたちはこっち」
 儚が仲間達を見渡すと、ウイングキャットのホワイトハートを連れたカティア・エイルノート(ヴァルキュリアのミュージックファイター・e25831)が右方向を指差す。するとカティア側にエピ達とフェクト・シュローダー(レッツゴッド・e00357)がついた。
「それじゃあ信号弾を発射するよ!」
 蓮に自分達の到着を報せる合図となる信号弾を構えたフェクトは空を仰いだ。次の瞬間、上空で音が弾けて煙が散る。
 リディ・ミスト(幸せ求める笑顔の少女・e03612)はそれを見上げ、これで蓮も此方に気付いてくれるだろうと感じた。
「寺本さんの無事が最優先っ、ついでにドラゴン勢力が何を企んでたら叩き潰すっ!」
 リディがぐっと掌を握った様子を頼もしく感じ、フローネ・グラネット(紫水晶の盾・e09983)はカティアとは反対側にあたる左方向を示す。
「では、私達は此方から探します。皆さん、道中お気を付けて」
 フローネが一歩を踏み出すと、その後にリディと儚、セレナが続く。
「よーし、私達はこの杖が倒れた方に行ってみよう!」
 隠密気流を纏ったフェクトも行く先を決め、エピとカティアと共に駆け出した。
 こうして蓮の捜索が開始される。
 ――その頃。
「救援が来たようだね。なかなか派手に知らせてくれたな」
 市街地の一角にて、蓮は見上げていた空から視線を落とす。周囲には今しがた倒したばかりの異形の敵が転がっている。
 そして、既に彼は仲間達がヘリオンから降下する姿と信号弾を確認していた。
 ハーレムの次はボッチで潜伏という状況はホラーゲームに勝るとも劣らない。これで段ボールがあれば完璧だとゲーマーらしい思考を巡らせながら、蓮もボクスドラゴンのフェアリンと共に走り出す。
 身の安全の為に合流を急がねばならないが、気掛かりな件があった。
 現在、蓮の周囲には幾つもの敵の気配がある。それらが救援に来た仲間達の動きや信号弾の気配によって更に活発に動き始めていることだった。
「まずいな、このままだと囲まれるか……?」
 蓮は嫌な予感を感じ、傍らのフェアリンに気を付けろと視線を送った。

●敵との遭遇
 一方、二手に分かれた救援側。
 警戒を緩めぬまま市街地の影から影に駆け、息を潜めた儚は小さな溜息を吐く。
「隠密行動に調査活動、なかなかいつもと勝手が違うね……」
「確かにそうだね。でも、みんなでがんばろっ♪」
 明るく笑ったリディは暗視スコープを使って周囲を眺めていたが、徐々に夜の闇にも目が慣れて来ていた。
 そして、暫し捜索は続く。
 そろそろこれも不要だと感じたリディがスコープを仕舞おうとした、そのときだった。
「リディさん、それに皆さん! 向こうで蓮さんと敵が交戦しています!」
 フローネが十数メートル先の気配を察知して指をさす。
 遠目からでも蓮が五体ほどの敵に囲まれているのが分かり、セレナは逸早く駆け出していった。そして、数秒で距離を詰めたセレナは剣を大きく掲げる。
「我が名はセレナ・アデュラリア! 騎士の名に掛けて、貴殿を倒します!」
 紫電一閃。まさにその言葉通り、セレナの一撃は蓮に殴りかかろうとしていた異形の敵を斬り伏せた。流石に敵は一撃では倒れなかったが、怯ませることは出来たようだ。リディはセレナの勇ましさにちいさな憧れを抱きながら、蓮に向け手を振った。
 蓮は仲間が到着したことに気付き、敵陣の合い間を縫って儚達の傍に駆ける。
「救援に感謝! まずはこいつらを倒そう!」
「了解。まったく、やな匂いのする敵だね」
 頷いた儚は異形の敵を見据え、鼻を衝くような匂いに眉を顰めた。刹那、儚は急速に成長する茨の種を撒いた。
 ――怒り狂う茨よ、敵の縛り、苦しめよ。深く深く傷を刻め。
 対象を締め付ける茨が一体目の敵を屠り、続いたリディとフローネが二体目に狙いを定める。しかし、その間に新手の異形達がビルの影から現れた。
 元居た敵に加え、更に三体。それ以外にもまだ周囲に何体か潜んでいる気配がする。
「一体ずつ対処するしかないようですね」
「負けないよ! ここを乗り越えられなきゃ調査なんて出来ないからねっ」
 フローネが菫色のオーラを漲らせると、リディはハピネスの名を冠するオウガメタルを纏った。敵は多いが勝てないわけではない。
「――伍式! フェアリン、バックアップ!」
 蓮は銃とナイフを一体化させたガンナイフを召喚し、相棒竜に呼び掛けた。それにきっと、もう片方のチームが自分達の危機を察して駆け付けてくれるはず。
「何があろうと、私は騎士としてこの身を盾とするだけです」
 セレナは凛とした眼差しを敵に向け、更なる一閃を見舞うべく地を蹴った。

 同時刻、少し離れた家屋付近。
「皆様、アレを見てくださいっ! たくさんの敵がどこかに向かっています!」
 異変を察したエピが指差した方向には言葉通り、異形の敵達の集団があった。それらは此方には気付いてないようだが、皆一様に一方向を目指している。
 カティアはこくんと頷き、それらが蓮または仲間を襲いに向かっているのだと察した。
「早く行こう」
「うんっ! むしろ一気に倒しちゃおうか。行くよ、祝福の一撃っ!」
 短く告げたカティアの言葉にフェクトが応え、異形の背後へと駆ける。次の瞬間、魔力と強い想いを乗せた一撃が神々しいほどの光を纏って敵の背に炸裂した。
 向かう先からも交戦する音が聞こえる。ならば増援などさせないと決め、カティアはホワイトハートと共に異形の敵に攻撃を仕掛けた。
 それによって標的が倒れ、エピも次の敵に向けてミサイルを放つ。
「ひゃー!! 生きてるみたいですが、うぉーきんぐなでっどー!?」
 敵の姿は見ていて気持ち良いものではなかった。思わず叫んだエピを守るようにしてチャンネルが凶器を振るい、異形を殴り倒す。
 目の前の建物の向こう側、すぐ近くでも蓮達が戦っているはずだ。フェクトは敵がそれほど強くないことに安堵を覚えつつ、仲間の攻撃によって倒れていく敵の数をかぞえる。
「一、二、三……あと少し!」
 この敵さえ倒せば合流は間もなくだと感じ、フェクトは杖を強く握り締めた。

●調査開始
 激しい攻防が繰り広げられ、儚は残り一体となった敵を見つめる。
 戦いは順調だったが気になることがあった。当初は更なる増援が来ると踏んでいたのにいつまで経っても来ないのだ。
 しかし、それは好都合。フローネは腕に展開しているアメジスト・ビームシールドをラム状に前面へ集中させ、相手へと一気に突撃した。それによって最後の敵が倒れる。
「……どうか、安らかに眠ってください」
 フローネが倒れた敵を見下ろし、リディも戦闘が終わった事にほっとした。そして、セレナと蓮は本当にもう敵は来ないのかと周囲を警戒する。
 そのとき、建物の影からひょこりと金色のツインテールが覗いた。
「お待たせ! 向こうの敵は全部やっつけてきたよ!」
 振り返ったフローネ達が見たのは満面の笑顔を浮かべたフェクトの姿。その後ろにはエピやカティアも無傷で立っている。
「すごく頑張ったからお腹がすきました。おやつ、食べて良いですか?」
「倒すの、簡単だったね。そっちは大丈夫?」
 さっそく荷物からビスケットを取り出しているエピの傍ら、カティアはボクたちは平気だと示して問いかけた。少女達のマイペースさが何だかおかしくなり、蓮はふっと笑う。
「問題ないよ。はは、頼もしい子達が救援者で良かった」
「ひとまず、これで全員が揃ったね」
 蓮が本当の安堵を抱き、儚も双眸を緩く細めた。
 そして、改めて礼を告げた蓮は自分が単独で調べ、判明した情報を皆に話してゆく。
 市街地の敵は百体以下だと思われる。
 異形の敵は通常時、単独或いは数体単位で、廃屋や瓦礫となった市街地の一部にたむろっているらしい。件の駐在所周辺には指揮官らしき駐在の命令なのか、周囲を警戒するように歩き回っている配下異形の姿がある。
 配下達の知能は低いようだが、同じ場所にいる異形同士は何らかのコミュニケーションが取れているようにも見えた。
 その情報を聞いた儚は断末魔の瞳を使って更なる調査を行おうとする。だが――。
「……だめだ。きっと死んだのが昔過ぎるんだね」
 儚は倒れた異形からは何も読み取れなかったことを告げ、首を横に振った。
 されど、それで調査方法が断たれたわけではない。
「さあ、これからが本番だよっ♪」
「現状の地図作りに周辺調査に、やることはたくさんあります」
 リディは皆を励ます明るい笑みを浮かべ、フローネも穏やかに微笑んだ。
 亡くなった人達に対する祈り。そして、ドラゴンに対する義憤。静かながらも熱い思いを秘め、仲間達は暗い市街地に踏み出した。

●予感と危機
 それから暫く、ケルベロス達は調査に専念した。
 フローネは歩いた場所を確かめながら地図として記し、カティアは気になった場所を撮影していく。蓮は周囲警戒を務め、セレナも敵の気配を探った。
「しかし、利用されているとして何故この島が選ばれたのでしょうね」
 ふと疑問を口にしたセレナは、ドラゴン勢力の本拠地との中間地点だからだろうかと考えてみる。考え込む仲間の横顔に気付き、リディは拳を握り締めた。
「調べていけばきっと分かるよ。絶対にね!」
 夜の街並みは少し不気味だったが、異形の化け物達と戦ったことを思えば暗い街の景色などまだ序の口だ。
 それから、探索を続けたケルベロス達は何組かの敵と戦った。
 遭遇したのは大人の男女と子供らしき三人組。顔立ちがよく似た青年と少年。仲睦まじくも感じられた壮年の男女二人組。
 どれもが弱く速攻で倒せた相手だが、エピの胸の奥で何かが引っかかっていた。
「あの、もしかしてなのですがあの人たちって……!」
 エピが思いを口にしようとすると、同じ事を考えていたらしき蓮が言葉を次ぐ。
「家族みたいな雰囲気だったな」
「うん、私も家族だと思ってた!」
 フェクトもエピ達に同意し、そうにしか見えないと語る。
 これまで交戦してきたそれらは親子であり、兄弟であり、夫婦だったのかもしれない。儚は神妙な表情を浮かべ、予感を確信に変えた。
「少しでも情報は多く拾いたいもの……いやなものを見て、殺めることになっても」
 決意めいた思いを零した儚は仲間達を誘い、次は建物の内部を見て行こうと指差す。エピも気を取り直して歩き始め、何か気になるものはないかと探していく。
 フェアリンとてれ、チャンネルやホワイトハートも一緒になって屋内に放置されている家財道具や本などを主人達に示していった。
 よしよし、と本を持って来たフェアリンを撫でた蓮はそれがごく普通の市販の小説だと判断して軽く肩を落とす。
「消えた当時の記録とかがあればいいんだけどな。完全占領下であるなら情報の隠蔽は少ないか? いや、でも……」
 此処の住民がどうなったかは想像に難くない。そして、グラビティをどう確保しているのか分かればいいと蓮は思ったが、考えているだけでは何も進まなかった。
 だが、案ずるばかりではない。
「ここは異常なし、っと。何もないことだって調査の大事な結果です!」
「そうそう、突き詰めていけば何かがある所に辿り着くからね!」
 メモを取って行くエピは明るく振る舞い、フェクトも何度か頷いた。自称・神様として悪いことをしている相手を見過ごせない。もしあの異形の敵がこの島に住んでいた『家族』だったとしたら、と考えるとやるせない憤りが浮かんだ。
 そんなとき、フローネが部屋の隅でごそごそ動く何かを発見する。
「見てください、あの子……」
「ドブネズミだね。おいで、虐めたりしないから」
 フローネの示す先に手を伸ばし、カティアは動物の友の力を発動させた。キッと鳴いたネズミは呼ばれるがままに近付いてくる。いいこだね、と双眸を細めたカティアは荷物から取り出した菓子を放り投げてやった。
 心なしか嬉しそうに鳴いたネズミは菓子に齧りついた。
「よく見てみるとドブネズミも可愛いねっ」
「こんな場所でも懸命に生きているんですね」
 リディとセレナはカティアと戯れる小動物に微笑ましさを感じる。直接の手掛かりにはならないだろうが動物を味方につけるのも悪くない手のはずだ。
 気を張り続けていた蓮と儚も不思議な和やかさを覚えていた。休憩にしようと彼等が提案すると、フローネやエピも賛成する。
「見ていたらまたお腹がすきました。チャンネル、おやつのプリンを食べましょう!」
「プリンなんて持ってきてたの? 私も食べたーい!」
 エピが鞄からプリンとスプーンを取り出すと、瞳を輝かせたフェクトが手をあげた。
 比較的、敵の目から逃れやすい屋内にて束の間の休憩を取ったケルベロス達は少しのやる気と気力を充填する。
 そうして、ネズミを連れた一行はマッピングの続きと新たな場所の探索に戻った。
 それから暫くの時が経った時、事は動き出す。
 皆である建物の合間を抜けようとした瞬間、突如としてネズミがキーキーと激しく鳴きながらカティアを見上げた。
「どうしたの?」
 問いかけると同時にネズミは一目散に何処かへ逃げ出していく。動物の本能で感じ取った危険を報せたのかもしれないと気付いたカティアは蓮に視線を送った。
「ああ、まさかだけど……」
 蓮だけではなく、この場にいる誰もが嫌な予感を感じている。重い空気と共に緊張が走り、仲間達は去り際にネズミが気にしていた方向に振り返った。
 すると、其処には――。

作者:犬塚ひなこ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年9月23日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 5
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