エクスガンナー・シータ~冷たき瞳の狙撃者

作者:伊吹武流

●エクスガンナー計画、再起動の為に
 ゴウン、ゴウン、ゴウン……。
 とある自動車部品工場。その構内は日中にも関わらず、何故か人の気配は全く無く、機械の稼働音ばかりが、半ば不気味な程に響き渡っている。
 すると、そんな工場の入口より、幾人もの武装した黒服姿の男達が構内へと無言で雪崩れ込んで来た。
 男達……否、ダモクレス達は、構内には既に誰もいない事を確かめると、おもむろに手にした機関銃を掲げて、何者かへと合図を送る。
 そして、すぐさま工場内に保管されている数々の機械部品へと向かい、それらを回収し始めた。
 そんな中、彼等の合図に応えるの様にして、一人の小柄な少女が入口に姿を現すと、そのまま長い金の髪を揺らしながら、至極落ち着いた足取りで工場へと踏み入ってくる。
 彼女、エクスガンナー・シータは、その周囲をぐるりと一望する様にしながら構内中央で歩いてくると、そこで足を止めた。
「……工場内の制圧、および該当部品の回収完了を確認。全員……集まって」
 そして、構内で進行する機械部品の回収作業をひと通り確認し終えたシータは、機械部品を梱包していたガンドロイド達へと声を掛ける。
 その言葉と共に、12体もの黒服姿のダモクレス……ガンドロイド達が彼女の下へと駈け寄り、その前で整然と立ち並んだ。
「これより物資の運搬を開始……だけど、全員は駄目」
 その言葉を聞くや、6体のガンドロイドは、即座にその場を離れ、略奪した機械部品の運搬作業を開始する。
 そして、残された6体のガンドロイド達は、と言えば。
「あなた達は、シータと一緒に周囲を警戒して」
 そう言いながら踵を返したシータを追い抜く様にして、彼等は機関銃を腰だめに構えながら工場の入口へと駆けていく。
 そんなガンドロイド達の背中へと、シータの更なる指示が飛んでくる。
「運搬が完了するまでは、どんな奴も排除して。特に阿修羅クワガタさんには……」
 だが、そこまで口にしたシータは、不意に言葉を途切らせると、ほんの微かに苦い表情を浮かべてから。
「……それと、ケルベロスだけは、絶対に注意して」
 と、再び口を開くと、携えた対ドラゴン用狙撃銃『バルムンク』と自身の視覚とを同調させながら、セーフティを解除した。

●魔弾の狙撃手、再び
「ケルベロスのみなさん、お疲れ様っす」
 黒瀬・ダンテ(オラトリオのヘリオライダー・en0004)は、ケルベロス達に何時もと変わらぬ口調で……だが、少しだけ硬い表情を浮かべながら話し始める。
「ダモクレスの移動拠点グランネロスの撃破後から、ずっと行方が分からなくなっていたダモクレス、エクスガンナー達が再び活動を始めたらしいっす。どうやら彼らは……グランネロスが撃破された事で中断していた、エクスガンナー計画を再始動するため、それに必要な機械部品を略奪しようとしているみたいっす」
 そう語るダンテの情報によれば、ダモクレス達は工場を襲撃した後、配下の半数を機械部品の運搬に当て、残りの配下とエクスガンナー本人が周辺の警戒に当たっているらしい。
「…そこで、皆さんには今回、そのエクスガンナーの撃破をお願いしたいっす」
 確かにエクスガンナーさえ撃破する事が出来さえすれば、敵の計画を潰す事など、より容易いものとなるに違いない。
 とは言え、配下のダモクレスが多い間は、エクスガンナーを撃破する事は難しいだろう。
 ならば、エクスガンナーの撃破のみに拘らず、まずは配下のダモクレスの数を減らす事を優先するのも、作戦としては有効かも知れないだろう。
 そんな事を、その場にいたケルベロス達が次々と口々に出すのを見たダンテは。
「だから、襲撃を受ける工場からは、一般人は避難は済んでいるので、工場の襲撃後、半数の量産型ダモクレスが機械部品を運び出し始めたぐらいのタイミングで、攻撃を仕掛けるようにして欲しいっす……その状況で戦闘を仕掛ければ、敵戦力の半分を今回の戦闘から除外する事が出来ると思うっすよ」
 と、作戦開始の時期について語ると。
「どうやら、エクスガンナーと残りのダモクレス達は、略奪した機械部品を運搬するダモクレス達が無事に撤退する為の時間を稼ごうとするので、たぶん10分程度の間戦闘を続けて、その後に撤退しようとするっぽいっすから、そこは押さえておくといいっすよ」
 と、補足してから、今回の作戦における更なる詳細な情報を話し始めた。

「……で、皆さんが戦うエクスガンナーの事、なんっすけど」
 そこでダンテは、また少し表情を硬くさせ……そして、ゆっくりと敵の名を告げた。
「皆さんが戦う相手は……『エクスガンナー・シータ』っす」
 エクスガンナー・シータ。
 数あるエクスガンナーの中でも、「対ドラゴン」という明確な目的を持って生まれた、異端の少女型ダモクレス。
 彼女の装備する対竜スナイパーライフル「バルムンク」は、彼女自身の射撃性能とも相まって、驚異的な威力を持つともいう。
「……ぶっちゃけ、エクスガンナー・シータは、文句無しに強い奴っす。特に一撃必殺の「ドラゴンバスター」の脅威は、先の戦いでケルベロスの皆さんを壊滅寸前にまで追い込んだそうっすから、対策などを含めて、すっげー注意して欲しいっす」。
 そんな説明を続けるダンテの表情は、何時も以上に真剣なものが伺える。
「そして配下の『ガンドロイド』も、精鋭のケルベロスの皆さん1人以上の戦闘力を持っているっすから、絶対に油断は禁物っすよ」
 その場のケルベロス達に、ダンテはそう注意をしてから、再び攻撃のタイミングについての説明を始める。。
「攻撃のタイミングを早くした場合は、略奪した物資の運搬が始まっていないっすから、敵の全戦力が迎撃に回ってくるので、敵の戦闘力がメチャクチャ増えてしまうっす。逆に、わざと襲撃のタイミングを遅くした場合は、敵は皆さんの足止めを行う時間が少なくて済むので、敵の撤退までの時間が10分よりも少なくなる事になるっす」
 つまり、どのタイミングで攻撃を仕掛けるのかが重要だ、とダンテは説明してから。
「それとっすけど……もしも皆さんが運搬するダモクレスを攻撃した場合は、物資の運搬を阻止する事は出来るっすけど、敵全員と戦う事になるっすよ」
 と、補足してから、改めてケルベロス達へと向き直り、姿勢を正してから。 
「前の戦いでは撃破する事が叶わなかったエクスガンナーと再戦するチャンスではあるっすけど……それ以上に、エクスガンナー計画を再始動しようとする試みだけは、何度だって阻止しないといけないっすから……どうかよろしくお願いするっす!」
 そう言い終えたダンテは一旦言葉を切ると、何時にも増して真剣な表情を見せながら。
「激しい戦いになると思うっすけど……皆さんのご武運を、心から祈ってるっすよ!」、
 そう言って、戦いへと赴くケルベロス達の気を引き締め直すのであった。


参加者
相馬・泰地(マッスル拳士・e00550)
シアライラ・ミゼリコルディア(天翔けるフィリアレーギス・e00736)
逢魔・琢磨(魔弾の射手・e03944)
紅狼・蓮牙(紅茶の人・e04431)
塔間・隼人(白衣の天災小学生・e05248)
原・ハウスィ(インサイダー・e11724)
一之瀬・瑛華(ガンスリンガーレディ・e12053)
スライ・カナタ(彷徨う魔眼・e25682)

■リプレイ


 工場を取り巻く一帯に、これから始まる戦いを待ち侘びるかの様に、生暖かい風が吹く。
 そんな中、8名のケルベロス達は、物陰より工場の入口で搬出作業に従事するダモクレス達の様子を伺っていた。
「先の戦いで大きな被害を出した相手……息の根を止めなければと思いますが、まだ早計でしょうか」
 工場内を動く幾つもの影へ視線を向けながら、シアライラ・ミゼリコルディア(天翔けるフィリアレーギス・e00736)はぽつりとつぶやく。
 その言葉を耳にした一之瀬・瑛華(ガンスリンガーレディ・e12053)が自分の胸の内をそっと語る。
「わたしと同じ狙撃手ですか。どこか近しいものを感じますね……とはいえ、倒すべき相手には違いありませんが」
 そんな中、今回の作戦へ並々ならぬ意気込みを語る者もいた。
「今回は敵ガンドロイドの数を減らすのが目的だ。気合を入れていくぜ!」
 半裸で裸足の格闘技スタイルの相馬・泰地(マッスル拳士・e00550)が拳を構えて気合を入れれば、過日エクスガンナー・シータと戦った逢魔・琢磨(魔弾の射手・e03944)が、その時のエクスガンナー・シータのドラゴンバスターの威力を思い出す様に、言葉を発した。
「洒落にならない威力だ……だからこそ、それが人々に向けられる前に倒さなくては! 俺達が守るべき人々にいずれ向けられるのなら……俺はお前を必ず倒すッ!」
 それぞれが、思い思いの決意を胸に秘め、工場の入口を見続ける。
「さて、今回はなかなか地味な役目となりましょうが、次への布石といたしましょう」
 そう紅狼・蓮牙(紅茶の人・e04431)が呟いただった時。
 工場の入口から、6名の配下を従えながら、小柄な金髪の少女……エクスガンナー・シータの姿を現した。
 その瞬間、ケルベロス達は予定通り、ダモクレス達へと躍りかかった。

「ケルベロス……やっぱり来た」
 半ば奇襲とばかりにダモクレス達の前に現れたケルベロス達ではあったが、流石にダモクレス達も予測していたのであろう。
 彼らは素早く反応し、ケルベロス達へと銃口を向ける
 そしてシータも、ケルベロス達の布陣を確認すると、構えた対ドラゴン用狙撃銃『バルムンク』の銃口をシアライラのボクスドラゴン、シグナスへと向ける。
 そして、そこから放たれた光弾は、正確無比な軌道を描いてシグナスの身体へと突き刺さる。
「!! シグナスっ!?」
 だが、その一撃をかろうじて耐えたシグナスを見てシアライラは安堵するも、通常射撃でも侮れぬ威力を秘めている事を見せ付けられた彼女の背には冷たいものが走る。
 シータの攻撃に合わせるかの様に、ガンドロイド達も一糸乱れぬ流れる様な動きで、秦地達中衛へ嵐の様に打ち出した弾をばら撒いていく。
 6体が一斉に撃ち込む弾を受け秦地と琢磨が顔をしかめるも、その攻撃の手を緩めない。
 秦地が掌から巨大光弾を敵ジャマーへと発すると、琢磨は前衛へドローンの群れを向かわせる。
「集中した弾幕の恐ろしさと嫌らしさ、篤と味わうがいい!!」
 と、シータの放った光弾へのお返しとばかりに、原・ハウスィ(インサイダー・e11724)が自身が持つあらゆる銃火器を用いて全力で牽制射撃を行い、エクスガンナー・シータの注意を自身へと引き付ける。
 その隙に、スライ・カナタ(彷徨う魔眼・e25682)の施した「破壊のルーン」を得た瑛華は、手にしたハンマーを狙撃銃の様な砲撃形態へと変じさせると、眼前の狙撃手へと竜の力を帯びた砲弾を撃ち込む。
「みなさん、大丈夫ですか!」
 そこへシアライラが放出したオウガ粒子が秦地と琢磨に降り注ぎ、二人の超感覚を呼び覚ます。
「おやおや、足元がお留守ですよ」
 そして、冷静に戦況を見ていた蓮牙が、ガンドロイドへと弾丸をばら撒きながら、敵の足を止める中。
「俺とシアねーちゃんが支えるから、みんなはガンガン攻めてくれ!」
 その言葉と共に、塔間・隼人(白衣の天災小学生・e05248)が雷の壁を構築し、前衛達の護りを固めていく。
 ……果たして勝ち残るのは、どちらであろうか。


「来るぞ! シータの次の攻撃は……ドラゴンバスターだ!」
「しかたないねぇ……だったら、このハウスィさんがカッコよく受け止めてあげよう。さあ、来い!」
 敵の次なる行動を察し、警告の声を上げた琢磨に応じるかの様にして、ハウスィが無表情のまま軽いノリで言葉を返す。
「そんな挑発には……乗らない」
 そんな会話が聞こえたのか、シータは一瞬、ハウスィへと向けようとした銃口を何とか制し、一撃必殺のエネルギー弾をシグナスへと発射する。
 その一撃は、ハウスィがカバーに入るよりも僅かに速く、シグナスを撃ち貫いた。。
 そして、先程のダメージが癒えぬまま、その余りにも強烈な攻撃を受けたシグナスは、声を上げる間も無くその場へ倒れ込み、ゆっくりと姿が薄れていく。
 シグナスを倒した一撃を目の当たりにしたケルベロス達は、思わず息を飲む……が、それでも怯むものは誰一人としていない。
 今回の目的はエクスガンナー・シータを倒す事よりも、配下のガンドロイドの数を減らす事。
 次へ繋げる為にも、今は自分の出来る事をするだけ。
 誰ともなく、そう自分に言い聞かせるのであった。
 とはいえ、敵はエクスガンナー・シータだけではない。
 彼女を守る様に展開したガンドロイド達が攻撃を繰り出す。
 当初の指示通りに中衛を執拗に爆炎の魔力を込めた大量の弾丸を撃ち込んでいく。
 そんな攻撃を振り払うかの様に、秦地が雄叫びを上げる。
「ぬおおおおおおおおおお!!!!」
 相手を圧倒する波動を体全体から放ち、敵ガンドロイドに恐怖の念を植え付ける。
 その攻撃を受け、ガンドロイド達の動きが、やや鈍くなった様に見えた。
 そこへ、琢磨を庇ったスライがさらに攻撃を加えんと、電光石火の蹴りで敵の急所を貫く。
 さらに攻撃を畳み掛ける様に、蓮牙もガンドロイドへ電光石火の蹴りをお見舞いすると、その一撃を受けたガンドロイドの体がぐらりと傾く。が、そのまま倒れ込まず何とかその場に踏み止まる。
 成程、敵もさるもの。互いに庇い合う事でダメージを分散させている。その為、敵の手数がなかなか減らない。それでもダメージは確実に与えている。攻撃の手を緩めることはなく、ケルベロス達はダモクレス達に立ち向かってく。
「秦地にーちゃん、大丈夫!?」
「この程度なら余裕だぜ!」
 受けたダメージを気遣う隼人へと、秦地は大丈夫と言わんばかりに笑ってみせる。
 そんな笑顔に励まされながら、隼人は電気ショックで秦地の戦闘能力を向上させ、シアライラも光のカーテンで前衛達を包み込み、その傷を癒していく。
「……これは思ったより、大変かも知れませんね」
 そんな中、この先の激戦を悟った瑛華が小さく呟きを漏らす。
 その言葉通り、戦いは徐々に過酷な状況へと移っていった。


 徐々に激しさを増す戦場。
 麗らかな陽の光を浴びながら、厳しい戦いは続いていた。
「へっ、先日ぶりだな! お前のドラゴンバスターを味わいに、また帰って来たぜ!
 挑発の言葉と共に、琢磨は目にも止まらぬ速さでリボルバー銃を引き抜くと、弾丸をシータへとを放つ。
「あの地球人は……シータの帰還を妨害した一人。だったら……もう容赦はしない」
 琢磨の言葉を聞いたシータは、怒りの元凶たるハウスィへと光弾を撃ち込んながらも、その挑発に苛立ちを感じたのだろうか。
「……全員、敵中衛を集中攻撃して」
 次の瞬間、彼女の非情なる命令を受けたガンドロイド達の銃口が一斉に琢磨へと向くと、小気味良い連射音と共におびただしい数の銃弾が、琢磨へと襲い掛かる。
 そして、カバーを得られない状態で、続け様に3体からの集中攻撃を受け、琢磨の体力は限界を迎える。
 だが、それでも彼は気合のみで立ち留まると、シータへと鋭い視線を向けると、にやりと笑ってみせる。
「……何度倒されたって、俺達は必ず立ち上がり、お前を追い詰め……その喉笛を嚙み砕いて……やる、さ」
 そう言った瞬間、残る2体からの銃撃を受けた琢磨の身体は、ゆっくりと崩れ落ちていく。
 ――いつか、必ず。
 そう言い掛けた彼の意識は……そこで不意に途切れた。

 琢磨が倒れた事で、7人となりながらも、ケルベロス達は攻撃の手が緩む事は無い。
 そんな彼らの闘志に報いるかの様に、幾人かからの攻撃を受けたガンドロイドの1体が、大きく体勢を崩す。
「……捉えました」
 瑛華の小さな呟きと共に、片手で構えたリボルバー銃のトリガーを引く。
 そして、拳銃ではあり得ない距離から放たれた、その精密な射撃を受け、遂に1体のガンドロイドが、どさりとその場に倒れ込む。
「……まずは1体。此処からが勝負です」
 そう口にした瑛華の言葉通り、まだまだ戦いは始まったばかりだ。
 それを思い出させるかの様にして、眼前のシータが冷たき光を放つその瞳と、非情なる銃口とををケルベロス達へ向けた。
「おっと、またドラゴンバスターなのかい? 懲りないねぇ」
 そんな半ば挑発めいた言葉を発しながら、ハウスィは敵の射線へと割り込む為、低く身構える。
 そして。
 その言葉通り、シータは一撃必殺のエネルギー弾をハウスィへと打ち込む。
「ぐはっ!」
 その一撃を受け、ハウシィは思わずその場で膝をつく……が、それでも彼は倒れ伏す事はなかった。。
 ゆっくりと立ち上がると、硬い表情のままシータの方を見る。
「残念でした……これで、一撃必殺なんて大げさな名は返上しないとねぇ」
「コイツ……凄く、不愉快」
 そして、その攻撃を耐えきった事を見せ付けるかの様にして、彼は竜の力を噴射させながら高速の拳をシータへと叩き込む。
 その攻撃をすんでの所で配下に庇われたシータは……ハウスィへと刺し貫く様な視線を向けながら、口元を歪ませた。
 どうやらケルベロス達の思惑通り、怒りを付与されたシータは、その攻撃の矛先をハウシィへと向けているらしい。
 しかしながら、やはり敵から受けたダメージは確かに大きく、すぐさまシアライラと隼人が、配下達のばら撒く弾丸の嵐を搔い潜りながら、ハウスィが受けた傷の回復に当たる。
 シアライラの喚び出した御業が、鎧の姿となってハウスィを守護すれば、その背後から隼人が生命を賦活する電気ショックを与える。
 二人のグラビティを受け、全快には程遠くはあるも深手から回復したハウスィを眼にした仲間達は、攻撃をデウスエクスへと向け続ける。
「わたしも、狙撃手なので……この距離では、外せないんです」
 瑛華が再び砲撃形態と化した得物より放たれた砲撃を受けたシータへは、ほんの一瞬だけ苦痛の表情を浮かべるも、次の瞬間には再びバルムンクの銃口をハウシィに向け、彼にとどめを刺さんとグラビティを中和する弱体化エネルギー弾を撃ち放つ。
 しかし、その攻撃はハウスィの前へと飛び込んだスライへと命中し、ハウシィへには届かない。
「……不愉快」
 その攻撃を受けたシータの視線が、苛立ちの表情を隠さぬまま、瑛華へと向いたその隙を突く様に、秦地が中衛より前衛へと上がる。
 だが、敵もそう易々と事を運ばせてくれない。
 秦地へ次々と撃ち込まれる爆炎の弾丸と撃ち込まれていく。
 その勢いをカバーに入ったスライ一人の力で受け止めるのは、到底無理な事だ。
「ちぇっ……俺とした事が、こんな所でダウンかよ……」
 咄嗟に対応するシアライラと隼人の回復も間に合わず、秦地はどうっとその場に倒れ伏す。
「くそっ!」
 倒れていく秦地を一瞬見やると、すぐさま気持ちを切り替えたスライは、自身の重い痛みを耐えながら、ガンドロイドを睨み付ける。
「……見えた、そこがお前の死だな」
 そして、その瞳に浮かんだ黒い点へ向けて、貫きの一撃を繰り出す。
 その攻撃を受けたガンドロイドは、自らの身に空いた穴を驚く様に見つめてから倒れ込み、そのままピクリとも動かなくなった。


 戦いが始まってどのくらい経ったのか。
 互いにグラビティを敵へと叩き込む中、時間の感覚すら朧気になる。
 そんな中、瞳の中に怒りを微かに宿したシータが……再びバルムンクの銃口をハウスィへと向けた。
「ドラゴンバスター……来ます!」
 蓮牙の鋭い声と共に、強烈な光弾がハウスィの身体を貫いた。
「これまでか……残念だねぇ」
 それでも、此処までシータの攻撃を受け切った事で、己に課した使命は成し遂げたのであろう。
 ハウスィは、満足そうな微笑を浮かべながら、その場へと倒れ込み、即座に意識を失った。
「ハウスィさん……」
「よくも、ハウスィにーちゃんを!」
 自分たちの回復が間に合わない事に、悔しさを募らせるシアライラと隼人。
 しかし、彼らは唇を噛み締めながらも、癒しの力を仲間達へ送る事を止めはしない。
「次の標的は、私だろうな……ならば!」
「……今は一体でも多くのガンドロイドを倒すのみです!」
 そう覚悟を決めたスライが渾身の力を込めて振り下ろした光り輝く戦斧と、蓮牙の放った電光石火の蹴りとが同時にガンドロイドの身体へと吸い込まれると、その身を両断された敵はその機能を停止させる。
 残るはエクスガンナー・シータとガンドロイド3体。
 このまま押し切るか、それとも……。
 残されたケルベロス達は気を引き締め直すと、再び武器を握る手に力を込めた。

 瑛華がシータを牽制し、隼人とシアライラが仲間を支え、スライと蓮牙がガンドロイドを攻め立てる。
 そしてまた、1体のガンドロイドが倒された時。
 その様子を見ていたシータは、己の感覚を凄まじい速度まで増幅し、周囲の状況を知覚すると。
「そろそろ時間切れ……次の攻撃後に、撤退する」
 そうシータの言葉を聞いた、残るガンドロイド達は己を捨てて彼女を庇う態勢に入る。
 その隙を突かんと、ケルベロス達は一丸となって攻撃を仕掛けるも、その多くはガンドロイド達によって遮られる。
 それでも更に一体のガンドロイドを撃破したケルベロス達へと、シータがバルムンクを構える。
「やはり、私を狙うか……」
 その標的が自分である事を確信したスライは、覚悟を決めた笑顔を見せる。
 次の瞬間、施された護りと共にその身を貫かれたスライの膝ががくりと落ち、そのままゆっくりと地面へと倒れ込んでいく。
「この身は鉄風雷火にして、死をもたらすものである……」
 スライが倒れた瞬間、蓮牙がガンドロイドに躍りかかり、銃撃と蹴技のコンビネーションによる連撃を叩き込む。
 もう既にその機能をほとんど失いかけていたガンドロイドは、ガシャンと金属音を立ててその場に崩れ落ちた。
「この屈辱は……絶対、忘れない」
 それを見たシータは小さく呟くと、残された配下を殿に残したまま、後ろを振り向きもせず去っていく。
 そして、残る一体となったガンドロイドが倒れた時。
 ……戦場には、静かな風のみが残った。

作者:伊吹武流 重傷:逢魔・琢磨(タクマドゥ・e03944) 原・ハウスィ(バーニングハウスィ・e11724) 
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年9月20日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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