オーク野郎の強制スカウト

作者:なちゅい

●地下アイドルに伸びる豚の触手
 そこは、名古屋市内にある小さなライブハウス。
「皆、ありがとぉ!」
 その会場内の壇上で少女が手を振る。彼女、榎森・かいは地下アイドルなのだ。
「かいかいー!」
「かわいいよ、こっち向いて、かいかいー!」
 集まる観客はカメラを手にした男性達。その多くはアイドルオタクで、狭い会場を埋め尽くさんと集まっている。その数は2~30人といったところか。
 そんな男性達を魅了するアイドル、榎森・かい、通称かいかい。やや露出高めのひらひらしたピンクの衣装を纏った彼女は、舞台の上を飛び跳ねる。
 そのチラリズムに惹かれる男性も多いが、それ以上に、アイドルに一生懸命な彼女に魅力を感じている男性ファンも少なくない。
 かいが飛び跳ね、歌い、掛け声を上げるごとに、客席はオタ芸で盛り上がり、会場は熱気に包まれる。
「いっくよー、これがラスト!」
 かいは爽やかな汗を飛び散らせ、最後の曲を歌おうとしたところで、そいつらは現れる。
 ただでさえ狭い会場だが、そこにオーク達がうじゃうじゃと現れた。それらを率いていたのは、白いスーツに帽子を被ったオークだ。そいつは壇上へ上がり、「ギルビエフ・ジューシィ」と書かれた名刺を差し出す。
「貴方のチラリズムを伴うパフォーマンスと、人を魅了するカリスマ性。わが主の『ドラゴンハーレム』に相応しい」
 そして、ギルビエフが手で合図すると、客席のオーク達も壇上へと上がらせる。
「是非、ハーレムで繁殖に励んでいただきたい! ……もちろん、ギャラも拒否権もありませんがね!」
 汚らしい笑みを浮かべるギルビエフに、かいは怯えて壁際へと後ずさりした。
 そんな彼女を護るように、男性ファン達がオークの邪魔をする。
「皆、かいかいを護るべく立ち上がれ!」
「うおおおおお!」
「オークの触手に、拙者は負けない!」
 口々に頼もしい言葉を発して壁となるファン達だが。いとも簡単に蹴散らされてしまう。
「い、いやっ……」
 怯えるかいに、オークどもの触手が伸びていく。ギルビエフはその様子を満足そうに眺めていたのだった。
 
 とあるビルにやってきたケルベロス達。その日は地下の一室……小さなライブハウスといった印象の場所に集まっていた。
「皆、ようこそ」
 壇上に現れる、リーゼリット・クローナ(ほんわかヘリオライダー・en0039)。アイドル姿かと思いきや、残念ながら普段着である。
「さすがに、恥ずかしくてね……」
 それはそれとして、彼女は事件の説明を始める。
「ギルビエフ・ジューシィというオークが、各地の地下アイドルを無理矢理スカウトして、ハーレムに連れ帰るという事件が起こっているようだね」
 ライブを中止などすれば、敵は別のライブ会場を襲撃してしまう。敵の活動を阻止できなくなる為、オーク達が現れてから戦闘に持ち込む必要があるだろう。
「地下アイドルのライブ会場にギルビエフ・ジューシィは10体のオークと共に突如現れ、ステージ上のアイドルを襲うようだよ」
 抵抗しなければ、彼はアイドルだけを攫って去っていくが、抵抗する者は躊躇なく殺害していくらしい。
 配下のオークに関してはアイドルを攻撃することはないが、会場にいる他の人間……男性ファン達は問答無用で手にかけていくようだ。
 だが、ファンは基本的にアイドルを庇おうと動く。
「ファンの男性達は、ケルベロスがいても、命がけでアイドルを護ろうとするようだね」
 彼らを避難させる為には、「同じアイドル愛を持つ仲間だと思って貰う」、「その幻想を打ち砕く」、「むしろ自分のファンにしてしまう」……といった、ちょっと特殊な説得が必要となるだろう。説得さえ成功すれば、集団行動が得意な彼らは迅速に避難してくれるのだが……。
「次に、オーク達の戦闘能力だね」
 オークとの交戦となった場合、敵は背中から生やす触手で襲ってくる。
 触手攻撃は3パターンあり、先端からの溶解液、触手自体での縛りつけ、そして、先端を鋭くした突き出しと、いずれもいやらしい攻撃だ。
「オークを率いるギルビエフ・ジューシィは、戦闘が始まると、いつのまにか姿を消してしまうようだね……」
 残念だが、こいつの対処は後回しにすべきだろう。この場はアイドルが攫われないようにすること、そして、男性ファン達を殺させないことが先決だ。
「ライブ会場は、立ち見で最大でも50人くらいが入れる場所かな」
 丁度今、説明をしているこの部屋の大きさくらいらしい。話を聞くメンバー達が集まるだけでも、かなり空間の狭さを実感する。
 人が少なければダンスを踊れる程度の広さだが、突入直後は男性ファンとオークでごった返す状況だ。手早く男性ファンの対処をして、戦況を改善させたいところだ。
 説明を終えたリーゼリットは、最後にこうケルベロス達へと告げる。
「オークに攫われると考えると……やっぱり、ね……」
 自身がこういう状況でオークに捕まってしまうことを考えると、さすがに身震いせざるをえない。
「この地下アイドルの少女も同じ気持ちになっているはずだよ。どうか助けてあげて欲しい」
 よろしく頼んだよと、彼女は改めてケルベロス達に願うのだった。


参加者
シィカ・セィカ(デッドオアライブ・e00612)
クローチェ・テンナンバー(キープアライブ・e00890)
村本・寛子(可憐なる桜の舞姫・e01068)
六条・深々見(喪失アポトーシス・e02781)
紺野・狐拍(もふもふ忍狐・e03872)
若生・めぐみ(将来は女神・e04506)
アト・タウィル(静寂に響く音色・e12058)
参式・忍(謎武術開祖のニンジャ・e18102)

■リプレイ

●盛り上がるライブハウス
 愛知県名古屋市。
 現場となるライブハウスへと向かうケルベロス達。事件について耳にし、参戦を決めたメンバー達の思いは様々だ。
 ハーモニカで静かな音を紡ぐアト。普段はそうして曲を奏でることが多い彼女だが、自分の曲の幅を広げられるかもしれないと考え、この依頼に参加している。
「この戦いが終わったらサイン貰うんデス。チケットばっちり取って来たのデスヨ!」
 クローチェ・テンナンバー(キープアライブ・e00890)はハイテンションに、用意してきた鉢巻を巻いて、法被を羽織り、うちわにサイリウムを手にする。それらは全て、今回、被害者となる地下アイドル、榎森・かい……通称かいかいのグッズだ。
 その上で、クローチェは事前にできる限りライブDVDを目にし、オタ芸も覚えてきていた。
「アイドル活動がデウスエクスに邪魔されるのは、許せないの!」
 こちらは、かいと同じアイドルの目線で語る、村本・寛子(可憐なる桜の舞姫・e01068)。彼女は今まで、デウスエクスに襲撃された業界人を見てきている。中には、それが元でアイドルを引退した者も……。
「……同じ悲劇は繰り返させない。……それが寛子達の誓いなの!」
 ケルベロスとして覚醒した寛子は、皆を護りたいと拳を握り締めて闘志を燃やすのである。

 会場ではライブが始まり、ステージ上に榎森・かいが現れる。
「皆、かいの為に来てくれてありがとぉ!」
「「「おおおぉぉ!!」」」
 ファンに紛れ、クローチェ、寛子、アト・タウィル(静寂に響く音色・e12058)が彼女の曲に合わせて盛り上がる。
 クローチェは観客と一緒になって、一緒にオタ芸で場を盛り上げていた。
「合同ライブでやるあれがいいんデス!」
 元々持ち合わせたコミュニケーション力で、ファンと友情を深めるクローチェ。SNSのアドレスを交換した上で、彼は熱くかいの魅力についてファンと語り合う。
 寛子もまた、隣人力を使ってファンと交流を図る。
「アイドルに順位はあっても貴賤なし。皆頑張って輝いてるの!」
 露出度高めで攻めているかい。そんな彼女の頑張りを認める寛子はラジカセを担ぎ、かいのデビュー曲『恋していいかい?』をユーロビートリミックスして流し、ファンアピールする。
 また、会場には、他のメンバーも紛れている。
 参式・忍(謎武術開祖のニンジャ・e18102)は隠密気流を使用して舞台セットと同化していたし、紺野・狐拍(もふもふ忍狐・e03872)も螺旋隠れを使って潜伏し、様子を窺う。
「一生懸命アイドルをしている者を狙うとは……許せん。ファンとの絆も必ず守ってみせる……」
「この関係を崩したくはありませんね」
 アイドルとして精一杯頑張るかいと彼女を応援するファンを見て、狐拍は彼らを護りたいと願う。アトもまた盛り上がる両者を目の当たりにして、気持ちを固めていた。
「ほんとに命懸けで行動できるっていうのは、素直にすごいよね……」
 六条・深々見(喪失アポトーシス・e02781)も会場を眺めて考える。犠牲が出なければ美談で済んだのにと。
「……しかたないなー、ちょっとだけあたしもがんばろっか」
 深々見が重い腰を上げると、そいつらは入り口からぞろぞろと現れた。

●お願いだから避難を……!
 ライブハウスに入ってきたのは、汚らしい笑みを浮かべるオーク達。そいつらはライブの最中にも関わらず、ステージへと上がっていく。
「是非、ハーレムで繁殖に励んでいただきたい!」
 白いスーツのギルビエフ・ジューシィがかいへ名刺を差し出したタイミングで、会場に潜んでいた若生・めぐみ(将来は女神・e04506)が声を上げる。
「そこまでです。無粋な豚さんはご退場願いますか」
 アトはオークとファンの間へと入り、双方を制止する。
「私たちはケルベロスです。かいさんを連れ去るのを止めさせてもらいます」
「通りすがりのケルベロス・アイドル、若生めぐみです」
 ケルベロスとして名乗るめぐみ。しかしながら、ファン達はケルベロスの制止を聞かず、かいを護れと吠えてオークに攻め入ろうとする。
「一旦ストップ! まずはこっちの話を聞ーいーてー!!」
 割り込みヴォイスを使い、深々見はファンを守るように立ち塞がった。
「大丈夫、ケルベロスで、しかも、かいのファンであるあたし達がいるから!」
 誰も傷つかないよう頑張るからと、深々見は主張する。
「みなさん、聞いて下さい」
 めぐみも凛とした風を使い、いきり立つファンを落ち着かせる。
「かいさんを救いたい、その気持ちは非常によくわかります。……ですが、あなた方ではオークに殺されてしまうでしょう」
 寝癖のように跳ねたくせっ毛を跳ねさせながら、アトは厳しい現実をファン達へと突きつける。
 そこで、シィカ・セィカ(デッドオアライブ・e00612)が愛用のギターをかき鳴らす。
「ファンのボクたちに何かあった時に、一番悲しいのは誰だか考えるデース!」
 ロックなミュージシャンになりたいシィカは、『恋していいかい?』を演奏しながらもばーんと叫ぶ。
 ややうろたえるファン達へ、めぐみとアトが続ける。
「あなた方が死ぬのを見てしまうかいさんはどうです? 自分のせいで、あなた方が死んでしまうのですよ? そんな気持ちを味あわせるつもりですか?」
「皆さんの気持ちはわかりますけど、皆さんが傷ついたり、ましてや死んじゃったりしたら、かいちゃんはもう笑えなくなっちゃいますよ」
 すでに腰が引けて座り込み、震えているかい。これ以上、彼女を悲しませたくないのがファンの本心のはずだ。
「ここはめぐみ達ケルベロスを信じて、外で待っててくれませんか? めぐみのお願い聞いてほしいな~」
 ハートマークを作り、めぐみは可愛らしく頼む。
 徐々にクールダウンしかけているファン達だが、それでも、立ち塞がる豚の姿に憤りが再燃しかける。
「気持ちは分かるけど今は抑えて! 誰も傷付かないようにがんばるから!!」
 その度に、深々見は適時割り込みヴォイスを使いながら、ファンに呼びかけて自制を促す。
 その間、ケルベロス達はオークへの牽制も忘れない。ここでかいが攫われては元も子もないのだ。
「アイドルにとって、ファンは命であり原動力なの! 寛子もアイドルだからわかるの」
 寛子も主張する。貴方達に何かあると、かいは立ち上がれなくなってしまう。……だから。
「ここは私達に、彼女を守る役目を任せてくれないだろうか?」
 一生懸命身を張ってまでも応援したくなる気持ちは分かると、狐拍も続ける。ただ、目の前でそんなファンに犠牲が出るのを見てしまったかいは、これからも笑顔で頑張ることができるのだろうか。
「オークから彼女を絶対に守って見せる……。だから、どうかここは大人しく避難して欲しい」
 惨殺ナイフをオークに煌かせながら、狐拍はなおもファン達を諭す。
「お主たちが無理して殺されでもしたら、かいかい殿の心に深い傷を残すことになるでござる。それこそ、ファン失格でござるよ!」
 ファンだからこそ、ここは引いてほしい。忍はそう言い放つ。
「逃げてください! かいかいだって、助かってもファンの皆さんに何かあったら悲しみマスヨ!」
「だから、安全な所に逃げて! 生きてかいかいちゃんを応援し続けてなの!」
 かいかいにはワタクシが指一本触れさせないから安心してほしいと、クローチェは胸を張る。寛子もまた、絶対に守ると観客達に約束していたようだ。
「あなた方は、生き延びてください。ファンのあなた方がいなければ、かいさんもアイドルでいられませんからね」
 アトもまた、告げる。次々に賭けられた言葉が、徐々に熱心なファン達にも通っていって。
「かいかいの為にできること、それは、今は逃げることデス!」
「ボクたちに後は任せて、一旦会場外に避難してほしいのデス!」
 とりわけ、熱意の強いクローチェの言葉は効果が大きい。シィカが続いて声をかければ、客はかいをケルベロスに託すと口々に語り、ライブハウスを後にしていく。
「此処はワタクシに任せて逃げるんデス! 田中氏は避難誘導を!」
 いつの間にかファンの名前すら覚えていたクローチェが指示を飛ばせば、そのファンが応じ、ファン仲間を引き連れて店の入り口から外へと出て行く。
 最悪、ラブフェロモンでの実力行使も考えていためぐみは、その様子にほっとしていたようだ。
 それを見届けることもなく、ケルベロス達は次に触手を蠢かせて、汚らしい笑いを浮かべたオークの対処へと移る。いつの間にか、白いスーツのオークは姿を消してしまっていた。
「お主達オークに、かいかい殿は不釣り合いでござるよ」
 仲間に合わせ、忍が敵へと飛び込む。
「オーク殺すべし、慈悲は無い」
 彼はそう言い放ち、内臓のブースターを噴射させたのだった。

●邪魔する豚の駆除を
 群がるオークは触手を伸ばし、ケルベロスへと襲い掛かって来る。
「オーク滅ぶべし……! イヤーッ!」
 真っ先に忍が手前のオーク目掛け、電光石火の蹴りを繰り出す。その際、彼は事後のことも考え、ライブ会場に被害が及ばぬよう配慮も忘れない。
 だが、オークにそんなのはお構いなしだ。汚れた触手から溶解液を飛ばして女性メンバーの服を溶かし、鋭い尖端で服を破ってくる。なんともいやらしい相手だ。
「女の敵め。生きてる価値は無いな……。必ず殺す」
 狐拍は後方にいた為、比較的その難からは逃れていたが、仲間が攻撃を受ける様子には嫌悪感を抱いてしまう。
「喰らえ……」
 だからこそ、かいを捕らえようと動くオークに向け、狐拍は己の内に秘める獣性を全て解放し、まるで黒炎のような姿をとってオークの身体を蹂躙する。その跡には、消し炭にしか残されてはいなかった。
「今の皆さんでいられるよう、私から送る曲です。どうぞ……」
 同じく、後衛のアト。彼女はハーモニカでやや単調な曲を奏でる。それは破棄されてなお動こうとする機械を思わせ、仲間達を苛む触手の攻撃に耐える力を与えていく。
「今の寛子なら皆を守れる……。絶対守るの!」
 仲間の援護を受けながらも、寛子は前に進む者達の曲をギターでかき鳴らし、オークに迷いを生み出してその触手の動きを鈍らせるのである。

 オークはしつこく触手を伸ばし、ケルベロスの身体へと絡めつけてくる。
 全力で演奏することで、仲間に触手に対抗する力を与えていたシィカ。ケルベロスの数が上回る状況となれば、後方のアトに回復を任せて攻撃に打って出る。
「ヘリオライトが僕を照らすように、君の未来へ届くように……」
 2本のギターを変形合体させたシィカは希望の歌をつま弾き、オーク達の思考を惑わせる。1体はその力に耐え切れず、卒倒していたようだ。
 ケルベロスの攻勢によって、オークは1体、また1体と倒れてゆく。
 それを加速させるべく、クローチェが敵陣へとミサイルの雨を降り注がせ、オークの身体に痺れを与えていた。
 絶望しない魂を歌うことでオークの注意を引き付けていためぐみ。最も攻撃を受けていた彼女だが、時にナノナノのらぶりんに、そしてシィカに庇ってもらうことで触手に耐えていた。
「彼の地の友に願う、我に助力を」
 その上で、めぐみは異世界から呼び出した投網を投げつける。菌糸で編まれたその網は執拗にオークの動きを阻害する。もがいていた1体がその中で果ててしまった。
「このまま全部、なくなればいいのに」
 引き篭もり系女子の深々見。普段抱く憂鬱を右手へと込めた彼女は、それをオークの身体へと流し込んでいく。その細胞が生を拒絶して本体もろとも崩壊し、オークは汚らしい肉塊へと成り果てた。
 気づけば、オークは残り1体。主もすでにおらず、危機を感じたそいつは逃げ出そうとするが、内臓ブースターを噴射させた忍がその前へと立ちはだかる。
「七孔噴血……撒き死ねッ!!」
 両腕を揃えた彼は、オークの太った身体、その胸を打つ。それは、謎武術である機甲式螺旋八極拳の絶技。オークは一溜まりもなく、内部から破裂してしまう。
 10体いたオークは皆、ライブハウスの床に転がる。それを確認したケルベロス達は一息つき、武器を収めたのだった。

●ライブ再開!
 傷つきながらも、オークを駆除したケルベロス達。
 寛子は紅瞳覚醒を歌ってライブ会場の下地を作り上げ、狐拍が満月に似たエネルギー光球で補修を行い、めぐみも桃色の霧を展開して会場の床に開いた穴を塞ぐ。ファンタジー要素が増えているのはお約束である。
 こうして、他人向けのヒールグラビティを活性化させるメンバーがメインとなり、ライブ会場の修復に当たる。アトもまたハーモニカを吹くことで、会場を整えていた。
 一方、ステージでは、憔悴したようにかいがへたり込んでいた。
「ファンデス! 握手してくダサイ!」
 クローチェが手を差し伸べると、彼女は手を伸ばして応じる。
「かいかい殿の一生懸命さの伝わるステージは見ていると、勇気が湧いてくるでござる」
 このまま活動を続けて欲しいと、忍はかいへと熱望する。
「もし、またオークが現れた時は拙者達ケルベロスが必ず蹴散らす故、心配無用でござるよ」
 そのそばで、寛子こくこく頷く。戻ってきたファン達も同意し、かいを元気付ける。
「「「かいかい! かいかい! かいかい!」」」
「皆、かいかいの事が大好きなのデス!」
 めげずに頑張って欲しい。そんな応援のメッセージがクローチェを始め、ファン達からもかけられる。
「そうだね……皆、ありがとぉ!」
 ファンの言葉に力をもらったかいは、元気に立ち上がる。
 まず、彼女は寛子へと手を差し伸べ、同じアイドルとして舞台に誘う。寛子もそれに応じるが、かいの面子に配慮しつつ、サイドで寛子は歌う。
「……あなたに、恋していいかい? 本気で、恋していいかい?」
 かいが歌うは、デビュー曲『恋していいかい?』。めぐみがその場の楽器で伴奏を始め、シィカもギターを構える。
「ロックな演奏なら任せるデース!」
 再開するライブ。やや騒がしいのが苦手な深々見だけは外でその様子をボーっと眺めていたが、会場のボルテージはどんどん高まっていく。
 客席のファンと一緒に、クローチェ、狐拍が客席一体となって応援を行う。かいに手を引かれて舞台に上がった狐拍は、妙に照れてしまっていたようだ。
「かいかい殿カワイイヤッター!」
 忍は幾人かのファンとサイリウムを振り回してオタ芸をし、ライブを盛り上げる。
「本当に、本当にありがとぉ!!」
 そんなファン達に支えられ、かいの目からは涙すら零れていたのだった。

作者:なちゅい 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年9月14日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 5
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