巡り巡ってみくじ祭

作者:荒雲ニンザ

 小さな山の中腹にある神社に向かい、点々と木に吊る下げられた提灯。
 くねくねと続く山道に屋台がずらりと並んでいる。
 今日は土地祭りである『巡りみくじ祭』。
 楽しそうに行き交う人とすれ違うと、子供を数人つれた先生らしき人物が、祭りの由来を説明しながら歩いている声が聞こえてきた。
「だからね、おみくじの内容は、きちんと考えて書かないとだめなのですよ。それは巡り巡って、大好きな人の所や、自分の所に来ますからね」
「はーい!」
 だが次の瞬間、子供の素直な声は恐怖の悲鳴へと変わった。
 鳥居の上に、マグロを被って浴衣を着たシャイターン娘が現れたのだ!
「はい、はい、はい、どいてどいて~、この祭りは私が占拠~ってか!」
 マグロ娘は鳥居から飛び降りる勢いと共に暴れ始め、周囲は大混乱に陥ったのである。

 祭マークのうちわを忙しなく仰ぎながら言之葉・万寿(高齢ヘリオライダー・en0207)が入室してきた。
「ややや、大変ですぞ、またエインヘリアルに従う妖精8種族の一つ、シャイターンが行動を開始したようでございます!」
 動き出したのは、マグロの被り物をしたシャイターンの部隊で、日本各地の祭り会場を襲撃し、一般人を殺害してグラビティ・チェインを得ようとしているらしい。
 祭り会場を狙っている理由は不明だが、お祭りという場を利用して、効率よくグラビティ・チェインを収奪する作戦である可能性が高い。
「シャイターン……その外見から、仮に『マグロガール』と致しましょう。現場となる祭会場に先回りし、事件を未然に防いでほしいのです」

 敵のマグロガールは1体のみで、配下などは存在しない。
 使用する武器はゾディアックソードで、グラビティは炎や幻覚を得意としているようだ。
「ここで困難なことがございます」
 祭り会場の人を避難させてしまうと、マグロガールが別の場所を襲ってしまうため、事前の避難は行えないという。
 しかし、マグロガールはケルベロスが現れれば、先に邪魔者を排除しようとする。挑発をしつつ、人の少ない場所に移動するなどして戦闘すれば、周囲の被害は抑えられるだろう。
「ありがたいことに山の中に祭り会場の神社がございます。すぐ横にそれれば周囲一面森の中でございますから、さほど難しいことではないかと」
 それと、と続ける。
「マグロガールは、楽しんだ後に破壊行動をとっているようなのですが、一応は祭りを満喫しようとしているようでございます。それを利用して誘き寄せれば、簡単にくいついてくるのではないかと」
 お祭りの情報も調べておこう!
「このお祭りはおみくじがひけますぞ! ちょっと変わったおみくじなので、きっちり倒した後に、楽しんでくるとよいですぞ!」
 お祭りが大好きらしい万寿おじいちゃんがそう言うので、ぜひ楽しんで帰ろう。


参加者
鉋原・ヒノト(駆炎陣・e00023)
秋芳・結乃(栗色ハナミズキ・e01357)
蒐堂・拾(壺中に曇天・e02452)
涼風・輝(クラウディハート・e02904)
逢坂・香音(ローズペシェ・e04996)
明空・護朗(二匹狼・e11656)
篁・鷹兵(大空羽ばたく紅の翼・e22045)
篠村・鈴音(助く者の焔剣・e28705)

■リプレイ

●祠の光
 夜のみくじ祭り。
 屋台で賑わう中心を抜け、少し森の中に入った辺りでケルベロスご一行が何やら罠を仕掛けている様子。
 手頃な大きさのテントを張り終えると、両手を絵の具で真っ赤に染めた逢坂・香音(ローズペシェ・e04996)が、ぺたぺた血糊をつけてゆく……。
 点々と置いてある少ないランプの灯りが場を演出し、近寄りがたい一角を作り上げた。
「折り紙でわっかは楽しくなっちゃうのでダメですよ」
 この声は篠村・鈴音(助く者の焔剣・e28705)だろう、中から香音の嘆きが聞こえる。
 明空・護朗(二匹狼・e11656)と会話している篁・鷹兵(大空羽ばたく紅の翼・e22045)もいるようだ。
「マグロ妖精……ふうむ。急に磯臭い響きになった」
「マグロのお姉ちゃん……おいしそう…」
 香音の物騒な発言だが、降魔拳士的な意味合いだろう。ただ、場が場だけにじゅるりとヨダレをすする音が怖い。
 その周辺を、涼風・輝(クラウディハート・e02904)と、サポートにかけつけてくれたダリル・チェスロック(傍観者・e28788)が、キープアウトテープで囲みながら歩いている。
 完全に封鎖できる箇所を吟味し、誘い込む入り口を決めてから、輝は一般人の中に紛れ込んだ。
 森から神社の境内に戻ると、周囲がパッと明るくなる。
 行き交う人の波で、1人を見つけるのは難しいかと思われたが、そうでもなかった。
 相手はマグロを被って浴衣を着たシャイターン娘だ、一般人はそりゃ遠巻きになるだろう。
 ありがたいことに、このマグロガールは、お祭りの屋台を楽しんだ後でイチャモンをつけるタイプの厄介者であった。
 敵がまだ暴れていないせいもあり、祭りの余興? コスプレ? 趣味の悪いふざけ方をしてるだけの市民に見えているらしく、騒ぎにはなっていない。
 ご丁寧に神社で賽銭を入れ、おみくじを書いて引いている。
 それをみつけた秋芳・結乃(栗色ハナミズキ・e01357)と蒐堂・拾(壺中に曇天・e02452)が、わざとらしく会話を聞かせた。
「今年のお祭りの目玉、聞いたっ? 森の中にむっちゃ怖いお化け屋敷があるらしいよ!」
「ああ、あれか。ここのお化け屋敷には、本物もでるという噂だ……」
 と、拾がお化けのポーズでひゅーどろろと通り過ぎて行くと、それを目で追うマグロガールが。
 そして鉋原・ヒノト(駆炎陣・e00023)が敵の近くに行き、一般人に聞かれないようそっと声をかけた。
「随分と楽しんでるみたいだなー。例のお化け屋敷にはもう行ったか? あっちにあるんだけどさ、命の危機を感じるほど怖いって評判だぜ! 知る人ぞ知る場所なんだ」
「はい、はい、はい、本当の恐怖を知らないボクちゃんを相手にしてる程、私もヒマじゃないんだ~ってか」
 そこで輝が敵を挑発する。
「この出し物を見ないで祭り楽しんだとか、笑わせるなあ」
「なにおう!? じゃあ案内しなさいよ!」
 まんまとヒノトの後に続いて森に入り込んできたので、輝は敵が視界外にいったのを見計らってキープアウトテープでその一角を封鎖した。
 その後、月井・未明(彼誰時・e30287)が割り込みヴォイスで戦闘範囲から市民の退避を促し、木下・昇(永遠のサポート役・e09527)が市民の誘導を補佐、一般人の安全を確認してから、彼らの後を追い掛けた。

●秋のホラーショウ
 祭りの屋台から離れれば、森の中はすぐに色をなくしていく。
 点々と置いてあるランプの光を目印に進むと、目の前に小ぶりのテントが見えた。
「プッ! こんな小さなおばけ屋敷で死ぬほど怖い目?」
 履き捨てたマグロガールがテントの入り口に顔を入れた瞬間、中から顔面目がけて重いパンチを入れられ、思い切り背後に吹き飛んだ。
 テントの中に隠れていた一同が飛び出し、鈴音と鷹兵が声を張り上げる。
「引っかかりましたね! ここに居るのは全員ケルベロスです!」
「祭を乱すマグロ妖精! 我々が相手をするぞ!」
 ここで輝が苦笑い。
「女の子を騙して暗がり連れ込んで取り囲むって、何だかとってもイケナイコトをしている気分だねい。だまして悪いが仕事なんでな。悪役だこれ!」
「ざ、ざけんな! ってかブッコロス!」
 いつもは護朗の隣や後ろにそっと寄り添い、大人しく控えめで人見知りするタマが護朗を背に庇う。
 ヒノトのポケットから飛び出してきたのは、ファミリアロッドのネズミのアカだ。彼の手の中に入る頃には魔法杖に変化し、攻撃に備えている。
「ケルベロス流のお祭りを、めいっぱい堪能させてあげる!」
 結乃の瞳孔径が超集中で極端に小さくなり、six sense snipeが敵のマグロを打ち抜いた。
 鷹兵がガントレットをドリルのように回転させながらスパイラルクラッシャー射出。
「貫けッ! スパイラルッ! クラッシャァァアァァァッ!!」
 続いて鈴音も容赦なく灼刃で叩き斬る。
「祭りの為、おみくじの為……焼き魚になっていただきます!」
 ももはジャマーでボクスブレスを吐き、てんこもりにバッドステータスを重ね、見計らった頃に香音の笑い顔がボクスタックルを指示する。
 ガンガン攻め込む仲間達、サポートの補助も滞りなく、余裕綽々の輝がのんびり煙草に火をつけた程だ。
「うおーーー!! ナメくさりやがってーーー!! シネってかーーー!!」
 散々一方的にやられまくりのマグロガールが癇癪をおこし、前にいる拾にゲヘナフレイムを放ってよこした。
 その間合いに滑り込んだのはヒノトだ。
 ダメージを全身で受け止めると、喉に詰まるような呻きを一度漏らし、炎を振り払う。
「……ヒノト!」
 慌てた拾を制止し、ニッと微笑む。
「言っただろ? 力になる、って。さあ! 反撃といこうぜ!」
 支えたいし支えられたい、頼りたいし頼られたいと思っている相手がいる。一方、何かと無茶する友を心配し、その助けとなろうとする者もいる。
 拾は顔色を悟られぬよう、フードの先をくいっと引っ張るいつもの癖で誤魔化し、再び縛霊手を構えた。
 護朗を中心とした回復、昇の宝石の魔弾・起と、ほかのメンバーからの補佐もあわせ、傷ついたヒノトを癒すのにも余裕が見える。
 最後は鷹兵の指天殺。
「貴様もまた辛苦の時代を齎す者……消え去れ!」
 マグロガールの喉に指一本を突き立て、気脈を断って全ての活動を終わらせた。

●みくじ祭り
 修復を済ませ、テントを撤収した後、帰宅チームと分かれたメンバー達はみくじ祭りに足を運ぶ。
 香音がももを抱きながら屋台をウロついている。
「万寿おじいちゃんにお土産買いたいな! ……薄荷パイプ、とか?」
 すると白い固まりが声をかけてきた。
「ムスメちゃん、お子様一人で夜中のお祭りは危険でござる」
 振り返ると、大量の筆を入れた箱を持つ日之出・吟醸(レプリカントの螺旋忍者・en0221)と、七道・壮輔(陰陽師・e05797)が立っていた。
 それをみつけたダリルと未明が、任務の終わった護朗を連れて声をかける。
「何をしている、二人とも」
「いやあ~、吟ちゃんバイトでお祭りのお手伝いしてたでござるよ。壮輔くんも遊びに来てたみたいで、今会っちゃった」
「祭りのバイト?」
「ここのお祭り、おみくじがちょっと変わってるので有名でね。お賽銭入れて、この紙に自分でおみくじを書いて、奉納した後に、その中のどれかを引くでござるよ」
 壮輔が微笑む。
「楽しそうなお祭りだな。なるほど、大好きな人や自分のところに来るのなら、いや、そうじゃなくてもだけど、きちんと書かないとな。誰に渡るか気になるところだ」
 近くで見ていた結乃も手を上げた。
「わたしもお神籤、引いてみたいと思いますっ」
「じゃあ、これに、『運勢』と『ありがたいお言葉』を書いてチョ」
 吟醸から一式を受け取ると、その場にいた各々が考え始める。
「自分で書いたおみくじをひいちゃう事もあるでござるからね。みくじ様は平等に何でも叶えちゃうって言い伝えだから、おかしなの書いたら怖いことになるでござるよ!」
 吟醸は冗談でそう笑ったが、みくじ様は本当にランダムに与えるらしいので、何を引いても恨みっこ無しだ。
 それを聞いた拾がしばらく考え込む。
「(願いを口に出すこと、文字に記すことは、成就への第一歩。巡りみくじの言い伝えにはそういった教訓が籠められているのだろうか。前向きなのは性に合わないが、ここは明るい内容のくじを書いてみよう。……なるたけ)」
 そして書き終わった者から奉納し、ものすごい束の中から1枚を引いた。
「どんなのがでるかなー?」
「誰が書いたか言っちゃダメでござるよ」
 ドキドキしている結乃から開けてみる。
「小吉。過去の恥ずかしい出来事の夢を見て寝覚めは悪いですが、小さな幸運が舞い降りてすぐ忘れられるでしょう」
 続いてタマを横に従えている護朗。
「中吉。まだ伸びしろアリ、自分を信じてがんばろう?」
「中吉でもいい目ですが、上には大吉があり、まだその気があるなら上を目指せるということだと思いますよ」
 壮輔の言葉になるほど、と頷き、香音とももが次を開く。
「むつかしくて、よめないぃ……」
「どれどれ。あ、和歌神籤というやつでござるね。『一途な思いを大切に、大好きな人を想い続けるのが大吉』って言ってるようでござるぞ」
 ビールを飲みながら輝も開封。
「『だいきち がんばったらがんばっただけ、これからたのしいこといっぱい!』……って、こりゃまた誰が書いたかすぐバレちゃう1枚だねい」
「えっと……香音、漢字書けないの」
「誰が書いたか言っちゃダメでござるよ!」
 もじもじしている香音は見てみなかったフリをし、続きましてダリル。
「中吉。頑張った分、きっと今日はいい事ある」
 未明も開く。
「大吉。眼鏡を掛け、聖地鯖江に祈れば待ち人来る」
 未明のみくじにニヤリとした鈴音が続く。
「中吉:ポジティブ思考が幸運の鍵!」
 ヒノトも開いてみせる。
「吉。成すべきを成して流れに身を委ねよ」
 そのヒノトの横で拾が吹き出した。
「凶……魚難の相が出ていますが、狐耳を触れば大吉!」
「あっ! 凶だ!」
 しかも自分で書いたおみくじが当たってしまい、ある意味大凶、ある意味大吉の拾。
 嘘だ、ドッキリだろう、と動揺した後、フ、まあ、こんなものだろう、と自嘲の笑み。
「本当に、みくじ様はランダムでござるよ。引きが強いでござるな……!」
 笑った鈴音が手を叩く。
「大吉ですね! 是非眼鏡を掛けましょう!」
 気を取り直して壮輔。
「大吉。次の仕事に良縁有り! 良き行いをすれば、きっと人に恵まれるでしょう」
「最後に、吟ちゃんの引いたおみくじでござる」
『吉凶末分末大吉。喜びも憂いも気の持ちよう、いずれ実る』
「わあ、何じゃこりゃ」
 爆笑していると、神社の仕事をしている人に吟醸が怒られた。
「あっ、遊びすぎたでござる! 吟ちゃんもおバイトに戻るので、みんな最後までお祭りを楽しんでいってね~!」
 神社の中に消えていく吟醸を見送った後、バラバラと解散する。
 ヒノトは拾と屋台巡りへ。
「水笛だ。昔、父さんと母さんに買ってもらったなあ。懐かしい」
 思いだしたのだろう、少し寂しそうにしているヒノトを察し、拾が水笛を渡して屋台のオヤジに料金を支払った。
「これ、一つくれ」
「いいのか? 拾。へへっ、ありがと。……そうだ!」
 と、ヒノトがもう一つ手に取る。
「おじさん、水笛ひとつ」
 拾の片手を取り、買ったばかりのそれを手中へ握らせる。
「今日の思い出に、ひとつずつ持って行こうぜ」
 早速水笛を鳴らすと、自然と笑みがこぼれる。
 拾はそれを大事に懐へ。やや照れくさく、彼のように素直にはしゃげないが、あとでこっそり吹いてみよう、と密かに誓った。
「おっ。あの屋台も面白そうだ。行ってみようぜ!」
 駆け出すヒノトを人混みで見失わぬよう、拾は引かれるように後に続いた。
 こちらは護朗だ。一緒にダリルと未明を連れて遊んでいる。
 わくわくしながら周囲の屋台を吟味していると、ダリルが聞いてきた。
「気になる屋台はあるかい?」
「お小遣いはおれも持ってきた。でも奢ってくれるなら遠慮はしない」
 そう言い放った未明であったが、ダリル自身が成すがままの財布状態、とにかくこの二人に甘いらしい。
「お好み焼きもたこ焼きもおいしそうだし、リンゴを飴にしてるのも気になる。流石に食べきれないし、みんなで分けない?」
「お祭りと言えば粉ものは外せない。大人数の利点は色々摘まめるところだ。たこ焼き焼きそばお好み焼き。甘い物もすきだよ。林檎飴はお土産にも買っていこう」
 護朗と未明が算段しているのを、甘い男が大人しく聞いている。
「実はきちんと祭りに参加するの初めてなんだ。だから色々気になる」
 護朗の目がおもちゃの屋台に向いた。
「1人で留守番してる寂しいひとがいるからな……。仕方ないのでお土産買っておくか。この絶妙に可愛くないウサギのダッコちゃんにしよう」
 牛乳瓶の厚底眼鏡の妙なオヤジに料金を手渡し、それを腕にくっつける。
 そういえば、マグロガールもおみくじを引いていたのだが、あれはどうなったのだろう。
 掃除をしている最中、落ちていた1枚を見つけた吟醸が開いてみた所、こう書いてあった。
『大凶。他人の不幸が面白い。強い奴らに歯が立たないまま、悔しがってる間に、やっつけられて、おしまいっ、てか』
 あくまでも、お祭りの由来となった言い伝えのお話ですが、皆様も、言霊には、くれぐれもご注意下さい。

作者:荒雲ニンザ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年9月18日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 3
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。