エクスガンナー・ベータ~ベータ襲撃戦

作者:のずみりん

 京浜工業地帯は片隅、港湾の金属工場を占領したエクスガンナー・ベータは、部下の報告へ満足げに頷いた。
「大変結構。やはり経験は最良のデータです」
 鮮やかな強襲と占拠。罪なき従業員らは敷地から駆逐されていた。エクスガンナーとガンドロイド部隊の性能を考慮しても恐るべき速さだ。
 部隊の展開、人心を先読みする効率的な脅迫と殲滅は、現地指揮官として製造されたベータの本領と言えた。
「ですが……まだ一息つくには早いですよ。指令、ゼロ・ナイン・スリー、ゼロ・ナイン・フォー、発令」
 指揮要請用のドローンがガンドロイド部隊に新たな命令を伝える。工場が製造していた機械、ついで製造機械……次々と機械部品が、黒服の機械人形の手で運び出されていく。
 作業の傍には銃火器で武装した黒服がひかえ、油断なく周囲をうかがう。
「敵の動きは迅速です。速やかに備えなさい」
 ベータは学習していた。
 ローカストの奇襲、ケルベロスたちの襲撃によって拠点グランネロスを失い、彼の部隊もガンドロイド三体を喪失した。
 残る彼の手駒は十二体。
 グランネロス、ドクターエータの最終指令……エクスガンナー計画の再始動のため、これ以上の消耗はさけたいところだ。
 
 ダモクレスの移動拠点『グランネロス』の撃破後、行方をくらましていたエクスガンナー・ベータの所在が明らかになった。
「グランネロス陥落の際、撤退したエクスガンナーたちは計画の再始動を指令されていたようだな」
 各地の機械部品略奪の情報と共に、リリエ・グレッツェンド(シャドウエルフのヘリオライダー・en0127)はケルベロスたちへと報告する。
「皆に頼みたいのは京浜工業地帯に出現したベータという個体だ。撃破できれば彼の計画は阻止できるだろうが……今回は少々厳しいかもしれない」
 ベータは現在、十二体のガンドロイド部隊を配下として連れており、工場襲撃後に半数を部品運搬、残りを護衛にと当てている。
「まずはガンドロイド部隊を減らす事からの方がいいかもしれないな。今回、襲撃予定の工場から一般人は避難済だ」
 リリエが言うには、運搬部隊が機械部品を運び出し始めた後を狙えば戦うのはベータと護衛のガンドロイド部隊……約半分の数で済む。
 ベータと護衛は運搬部隊が逃げ切るまでの十分ほどで撤収するが、撤退のタイミングを考えやすいと思えばそれも利点になるだろう。
「襲撃を早くしたり、運搬部隊を攻撃すればもっと長く戦うこともできるだろうが……その場合、エクスガンナーとガンドロイド全員を相手にすることになる」
 今の戦力比でそれは得策ではないだろう、とリリエは一言付け加える。
 
「敵の戦力だが……白スーツの男がエクスガンナー・ベータ、付き従う黒服メカがガンドロイドだな。武装や能力はグランネロス攻略戦の時から変化はないようだ」
 ベータの能力はライフルによる制圧射撃と配下のガンドロイドを援護する二種のドローン……一般的なヒールドローンと、部下を指揮・管制することで射撃を強化するドミナンスドローンが確認されている。
 ガンドロイド部隊はマシンピストルと呼ばれる連射型の大型拳銃を装備し、威力に優れるピンポイント射撃、命中重視のフルオート射撃を使い分けてくるようだ。
「今回は現地指揮官型のベータとしては本領ともいえる状況だろう。敵もこちらを学習している……油断なく、慎重に対応していってくれ」
 リリエは言う。エクスガンナー計画の再始動は阻止なければいけないが、そのためには確実な対処が必要になる相手だと。
「頼むぞ、ケルベロス」


参加者
生明・穣(サキュバスの自宅警備員・e00256)
望月・巌(フォルモーント・e00281)
緋川・涼子(地球人の刀剣士・e03434)
嘉神・陽治(武闘派ドクター・e06574)
火倶利・ひなみく(フルストレートフルハート・e10573)
軋峰・双吉(悪人面の黒天使・e21069)
マーク・ナイン(取り残された戦闘マシン・e21176)
祝部・桜(残花一輪・e26894)

■リプレイ

●再戦、エクスガンナー
 駆け付けたケルベロスたちを、ベータは驚くことなく迎え撃った。
「手際は悪くなかった。だが番犬に見つかったら最後だ。俺もそれでやられた。アンタもそうなる」
「たしかに、なかなかの展開速度だ。予想通り……ふむ」
 戦闘モードへと移行するや否やの斬撃。マーク・ナイン(取り残された戦闘マシン・e21176)の振るう『LCS-8000』レーザーソーから身を引くベータ。サングラスの奥に紅い光が輝けば、すかさずガンドロイド部隊が飛び出した。
「後はこのタイミングがギリギリか、行動を待ち構えてかというところですが」
「安心しな、考える必要はねぇ。ここで憂いは断たせてもらう」
 思索を断ち切るように、積まれたコンテナから飛び越した望月・巌(フォルモーント・e00281)の刀がガンドロイドを強襲する。ガンドロイドの弾幕が掠めるが、躊躇いなき突進に間合いは外れ、被害は思いのほか少ない。
「仕事を終える前に手早く撃破させてもらうぜ……!」
「エクスガンナー計画な……どういう計画か知らんがきっとロクなモンではないだろうよ……と、くるぞ!」
 嘉神・陽治(武闘派ドクター・e06574)の声に、巌は突き立てた切っ先を咄嗟に弾いた。衝撃の反作用が彼を突き戻した瞬間、眉間のあった場所を弾丸が掠めていく。
 聞いた以上の連携だ。親しい仲間に囲まれて前後に不安は全くないが、相手もまた相応以上。
「やれやれ。話に訊いた以上だぜ、これは」
「抜け目のない頭脳タイプって厄介なのよね……これだから」
 陽治と緋川・涼子(地球人の刀剣士・e03434)のぼやきにベータが薄く笑う。貴重な経験のおかげですよ、とでも皮肉るような酷薄な顔。
「戦艦竜を思い出すよ……この強さ」
 質は違えど、一線で勝負を決めきれぬ強敵。相互支援で涼子たちの激しい打ち込みをけん制するガンドロイド部隊と指揮官に火倶利・ひなみく(フルストレートフルハート・e10573)は、昨冬を襲った脅威を思い出していた。
 戦艦竜のような一撃必殺の火力ではない。だが確実に当てられ、ベータの操るドローンたちが致命傷を的確に阻んでくる。
 なにより不気味なのは、こうして話が通じるのにエクスガンナー計画がどんなものか判らないということだ。
「あの竜だって倒せたんだ、今回だっていけるはずだよ!」
「ほう、竜ね」
 並び称されたベータの心中はどんなものだろうか? 思いとベータの顔を遮るように、ひなみくの仕掛けたブレイブマインは決意を乗せてさく裂した。

●闘志、探り合い
「心得ましたわ、お姉さま……!」
 爆炎を裂いて竜が躍る。祝部・桜(残花一輪・e26894)の放った幻影のドラゴンは、ひなみくの鼓舞に呼応するように火焔で敵陣を両断した。
「左、よろしく」
「頼まれましたよ、と」
 分れる陽治に短く答えながら生明・穣(サキュバスの自宅警備員・e00256)が包囲を広げる。運搬部隊と護衛のダモクレス達をまとめて飲み込むような配置でケルベロスたちは仕掛けた。
「本音としては司令塔を一つ減らしておきたいところですけど……」
「どうぞ。できるものなら」
 張り付いてくるドミナンスドローンを睨み、マインドリングの戦輪を放つ。爆炎を切り裂く軌道は笑うベータをかすめ、被弾したガンドロイドの脚を裂く。
 ベータが弾幕で牽制してくるが、その勢いはウイングキャット『藍華』の羽ばたいた風が逸らしてくれた。
「(可能な限り、手数は減らさせてもらいますよ)」
 まずは情報を集め、手足を叩く。どこで本丸に手を付けるにしても、それは有用となるはずだ。
 目を細めた穣にあわせ、膝をついたガンドロイドへと軋峰・双吉(悪人面の黒天使・e21069)の大鎌が食らいつく。
「いただきさんだぜ」
 動きを止まる瞬間を機銃の弾幕が打ち据えるが、鎌から流れ込む生命の力が彼にはある。力強く、命を簒奪にかかる、が。
「まず手足をもぐ……というつもりですかね」
「そっちがその気なら、いつでも黒く染めてやるぜ? その真白いスーツをよお?」
 顔に走る傷が鋭い目線を殊更に演出する。ガンのつけあいは一瞬、ベータの掃射を双吉は得物を旋回させて迎え撃った。
「ち……!」
 守りを固めた彼に致命的な威力ではないが、ブレイブマインの力が拡散されていく。有限の時間で攻めるケルベロスたちにとっては傷以上に手痛い損失だ。
「こりゃまずいな……マーク!」
「ROGER」
 それでも彼は役割を果たした。被害を免れた攻め手、巌がリボルバーの弾丸を壁へと叩き込む。入り組んだ敷地を跳ねる弾丸の弾幕を盾に、走行ユニットを駆動させたマークが突入した。
「DMR-164C STAND BY」
 飛び退くガンドロイドの上半身へ、バスターライフルから伸びた杭が上回る速度で食らいつく。
「ON FIRE」
 発砲。もがくダモクレスを接射されたビームが飲み込んだ。

●刻限、迫る
 工場の敷地から次々と資材が運び出されていく。
 遠くなる敵影に穣の眉間に皺が寄った。事前に確認した作戦時間はもう半分を過ぎている。
「逃がしは……!」
「させられないのですよ、こちらとしても」
 敵の逃走を阻もうと遮二無二つっこむ桜だが、その身をベータのライフルが直撃する。魔術コートの術式と兄への思いが貫通こそ防いだが、衝撃は少女を吹き飛ばすに十分。
「桜ちゃんは任せて! タカラバコちゃん!」
「頼まぁ! くそ、情けねぇ……!」
 ひなみくの声にミミック『タカラバコ』からバラまかれたエクトプラズムの武器が桜への追撃を阻む。魔人の力を降臨させた双吉は声を荒げなら涼子たちの側へと飛んだ。
「今度は逃さない!」
「良い威勢ですが、本音ですかね? 搬出率、67%」
 ベータが薄く笑う。涼子の放ったサイコフォースは離陸前のドローンを吹き飛ばしたが、本体へのダメージは浅い。
 これ見よがしな呟きといい、ケルベロスたちの目論見を見計らいつつあるのか。
「だとしたら、どうする? お前さんを陥れる罠かもしれねぇぜ……ッ」
「どうもしません。現状は我々が優位ということですから」
 達人の剣技でガンドロイドを切り裂いた巌に、戦いに犠牲はつきものですとベータは言う。だが言いながらもひっきりなしに治療用ドローンを飛ばし、傷ついた部下をこまめに入れ替える姿、双吉は妙な想いを抱いた。
「(盗みは褒められねぇ『不徳』だが……その部下を支える姿、上司としての『徳』を感じるぜ)」
 それは『徳』を求める彼の心が見せただけなのかもしれないが……乗り越えねばならない強大な敵であるのは事実。
「こうも的確に癒されると……参るね。その白服、白衣だったか?」
「御冗談を。生肉を癒す趣味はありませんゆえ」
 ガンドロイド撃破を優先するにしろ、抑えを設けなかったのは失敗だったか? 陽治がドラゴニックハンマーで投げ込んだウイルスカプセルに、ヒールドローンが激突する。
 残り三分。ベータの笑いは勝利の笑みだ。それが桜の神経をささくれ立たせる。
「逃がしません……絶対に……!」
 その笑みを消してやる。銃弾の雨中を突き進む少女から無数の怨霊が手が伸ばす。
『ゆめ忘るるな、八百万の憾みぞある』
 身を挺したタカラバコが吹っ飛んだ。身を裂かれ、血肉を散らし、練り上げられた巨大な怨霊の腕がガンドロイドを締め上げる。
「む……この力」
「邪魔はさせませんよ、この勝機」
 倒れる桜、救出に動かんとするベータに先んじて穣が飛んだ。交叉したマインドリングの輝きがサキュバスの偉丈夫を光の巨人へと変え、怨霊の手を包む。力強く握りしめれば、バキリと黒服が二つに裂けた。
「……藍華、彼女を」
 力尽きた戦友をウイングキャットにひきずらせ、態勢を立て直す。これで数としては7対4。
「WARNING……WARNING……ENEMY MOVE AWAY……」
 マークのセンサーが離脱する輸送部隊に反応する。あと何体、仕留められるだろうか?

●作戦終了
 ドミナンスドローンに導かれ、ガンドロイドがケルベロスたちを掃射する。
「搬出は終了しました。我々の勝ちだ」
 輸送部隊に追いすがる術はもはやない。それでもまだ双吉は一歩を踏み出した。
「守り手が一人生き残る、なんてのは……『不徳』だぜ……ッ」
「勝ち負けの押し付けなんて御免だよ!」
 ひなみくの闘志に鋼の共生者が応える。オウガ粒子の輝きが神経を研ぎ澄まし、傷を癒す。守り切るには足りないが、元よりこれは攻めの癒し。
「その勝利、止めてやるわ」
「ッ、後退しなさい!」
 倒れる双吉を飛び越え、涼子の氷の螺旋が走る。咄嗟に戻されたドローンを貫き、ガンドロイドの胸を穿つ。
「ENEMY IS ALIVE ……」
 だが、まだ動く。弾幕を張りながらマークが止めと突っ込む。もはやノーガードの殴り合いだ。
「今は数が貴重なのですよ!」
「……!」
 エクスガンナー・ベータがここまで声を荒げたのは初めてかもしれない。
「私の勝ちだ」
 パイルバンカーの切っ先が貫いたのはガンドロイドではない。ベータだ。
 直撃の瞬間、差し込まれたライフルが僅かに軌道を逸らし、その向きを彼のダモクレスへと変えていた。
「指揮官殿が自己犠牲とは……マーク君!」
 交差したライフルの引鉄が同時に引かれ、穣の声が被る。レプリカントとダモクレス、対照的な機械の肉体が吹っ飛んでいく。
「ガンドロイドッ!」
「藍華!」
 激突する弾幕と羽ばたき。拮抗を数が押し込み、撃ちすえられたウイングキャットがよろめき倒れる。
 ダモクレス達が飛び退いていく。
「追いつけないか!? ……この!」
 陽治の轟竜砲が弾幕に対抗する。何発かが着弾、爆発したが倒しきれただろうか?
 爆風の嵐が晴れた時、敵影は既に残っていなかった。

「四……いや、三体か」
 数えながら、残された残骸を巌は拾い上げる。四体目も九割は仕留めていた、だが倒しきれてはいない……経験と直感が告げている。
「偶然……いや、彼の執念勝ちですかね。巌君も、どうぞ」
「穣……もらおうか」
 差し出された相棒の手を、言葉少なに巌は握る。配ってくれたラムネをほおばれば、口内を涼味がじんわり癒していく。
「数は減らせど、圧力は増すばかりね」
「でもまだ、負けじゃないよ」
 桜やサーヴァントたちを助け起こし、ひなみくは涼子を励ますように言う。少なくとも三体は削った、敵の知性が研ぎ澄まされていこうとも、それは一つの前進のはずだ。
「少なくとも手は届かせたしな」
 テーピングする陽治の声に、涼子はうなずいて立ち上がった。

作者:のずみりん 重傷:軋峰・双吉(黒液双翼・e21069) マーク・ナイン(取り残された戦闘マシン・e21176) 祝部・桜(玉依姫・e26894) 
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年9月20日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 5
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