辻斬りの悪夢

作者:一条もえる

「はぁはぁはぁ……!」
 少年は薄暗い路地を懸命に走る。通り慣れた通学路は、こんなに暗かっただろうか?
 なにか、に少年は追われていた。だから必死に逃げている。
 曲がり角を曲がった、そこに。誰かが立っていた。
「あ!」
 悲鳴を上げそうになったが、そこにいたのはアレンジされた袴姿の美少女。ちょうど、少年がはまっているアクションゲームのキャラクターのような。
 ニッコリと浮かべた微笑みは、まるで大輪の花。少年は安堵し、駆け寄っていったが。
 笑顔が、酷虐なそれへと変わる。
「ハハハハハハハハハ!」
 美しくはあるが、狂気を孕んだ表情。怨霊を思わせる哄笑に、少年は驚いて立ちすくむ。
 その間に女は腰に差した大刀を抜き放ち、大上段に構えた。
 振り下ろされた刃が、逃げることもできない少年を頭骨から真っ二つに切り裂いた!
「うわぁ! ……って、あれ、夢?」
 目覚めたのは、いつもと変わりない自分の部屋。戸棚には件のゲームなど、フィギュアがずらり。
 しかし、いつもと違ったのは。
 そこにいた獣の耳をした女が、少年の心臓を、手にした鍵で刺し貫いた。
「あなたの『驚き』、とても新鮮で楽しかったわ。……私のモザイクは晴れないけれど」
 少年は崩れ落ち、再びベッドに倒れ込む。
 その傍らには、新たに出現したドリームイーターが立っていた。

「あなたとも、もうお別れね……」
 物憂げな表情で、崎須賀・凛(ハラヘリオライダー・en0205)はため息をついた。
 しかし気を取り直して顔を上げ、にっこりと微笑む。
「でも、これは永遠の別れじゃないの。また会うときまで元気でいようね。
 サヨナラ、冷麺!」
 そう言いつつ、ズルズルズルッと勢いよくすすっていく。
「いや、そういうのはいい。はやく事情を説明してくれ」
 鼻孔をくすぐるレモンの香りは香しくはあるが、池・千里子(総州十角流・e08609)は先を促した。
「もぐもぐ……。
 子供の頃って、突拍子もない夢って、見たりするわよね?
 空を飛んでたら急に墜落しちゃって、でも地面が一面のプリンだったり。家の玄関を開けたら、中に食べ放題の焼き肉屋があったり」
「そこまで食い意地の張った夢には、覚えがないが。まぁ、言いたいことはわかった」
 と、千里子が頷く。
 夢を見て『驚いた』子供を襲う、ドリームイーターが現れたのだ。
 凛は、ケルベロスたちにもハム、キュウリ、卵がトッピングされた器を勧めつつ、食べ続ける。
「もぐもぐ……。
 『驚き』を奪ったドリームイーターは、もう姿を消しちゃったんだけどね。
 それを元にしたドリームイーターが新たに生まれたの。
 あぁ、確かにその、なんとかいうゲームに出てくる美少女剣士に似てるかなぁ」
 被害者の少年は自宅で昏睡状態にある。なにも知らなかったら、ただ眠っているだけのように見えるが。
 しかし、
「敵を倒さない限り、目を覚ますことはない、か」
「そういうこと」
 千里子の呟きに、凛は頷く。
「敵はその1体だけで、増援はなし。男の子の家がある住宅街に潜伏して、深夜に姿を現すわ。場所は……このへん」
 凛が指し示したのは、マンションが建ち並ぶ地域だ。
「もぐもぐ……。
 相手は『辻斬り』だからね。相手を驚かせたくて驚かせたくてしょうがないみたいだから、そのあたりを探し回ってたらきっと、向こうから姿を見せてくると思うわ。
 敵は、自分の驚きが通じなかった相手を狙ってくるみたい。そいつが事件を起こす前に、やっつけちゃって」
 と、胡麻ダレのかかった器を空にしつつ、凛は、微笑んだ。

「そんな奴ごときに、私が驚くものか。返り討ちにしてやろう」
 千里子はわずかに口の端を釣り上げて、不敵に笑った。


参加者
潤野・ウラク(樟わかば・e00716)
美城・冥(約束・e01216)
ヴィ・セルリアンブルー(青嵐の鎧装騎兵・e02187)
三刀谷・千尋(トリニティブレイド・e04259)
シメオン・ムーシェ(レガシーカウボーイ・e05329)
九条・櫻子(地球人の刀剣士・e05690)
池・千里子(総州十角流・e08609)
レスター・ヴェルナッザ(凪の狂閃・e11206)

■リプレイ

●夜の闇に紛れて
 深夜、事件現場となったマンション。
 カツ、カツ、カツ……。人気のない廊下では、足音もやけに大きく響く。
「ここが、少年の」
 美城・冥(約束・e01216)はひとつのドアの前に立ち止まり、眉を寄せた。
 少年はもちろん、家族も起きている気配はない。周りの住民も、寝静まっているのか物音ひとつ聞こえなかった。廊下には切れかかった電灯がひとつあり、ちらちらと瞬いているのがいっそう、静けさを意識させた。
 バサリ、と翼が風を切る音がした。
「レスターさん」
「……」
 無言で翼をたたみ、レスター・ヴェルナッザ(凪の狂閃・e11206)が冥の傍らに着地した。
 空から様子を伺っていたらしいが、吹き抜けから器用に降りたったのだ。
「住民も避難させられればよかったが」
 何しろ深夜だ。皆をたたき起こして事情を知らせ、驚く彼らを誘導していくのは骨が折れる。かえって混乱を招きかねない。
「周辺を歩く人間だけに重点を置けば、よしとするか」
 と、レスター。冥も納得して頷いた、そのときだ。
 カツ、カツ、カツ……。
 かすかに廊下を踵が叩く音がする。何階だろう、はるか階下だろうか? ふたりは顔を見合わせて耳を澄ませる。こんな深夜に、誰かが帰宅したのだろうか?
「行くか」
「えぇ」
 ふたりは足音を忍ばせつつ、階段を下りていった。
「『驚き』ねぇ。何かに驚かされた記憶なんざ、ここ数年は記憶にないですねぇ」
 是非に驚きたいもんだ、と潤野・ウラク(樟わかば・e00716)は、ニコニコと笑っていた。
「できるもんならやってみろ、って感じだね」
 三刀谷・千尋(トリニティブレイド・e04259)が肩をすくめて、マンションの方を見上げた。
 この二人がいるのは、A棟の近く。公園から少しずつ離れ、駐輪場のあるスペースにやってきた。今のところ敵の影はなし。
「了解。気をつけて捜索を続けて」
 千尋とアイズフォンで連絡を取り合ったのは、ヴィ・セルリアンブルー(青嵐の鎧装騎兵・e02187)。
「ジリジリと相手の出方をうかがう時間があるのは、もどかしいね。
 怖い夢は、夢のうちにさっさと終わらせちゃいたいよな!」
「同感です。
 辻斬りとは穏やかではありませんわ」
 九条・櫻子(地球人の刀剣士・e05690)が刀の柄に手を押きながら、頷いた。
 彼らはA棟のわきにある小さな公園で、敵を待ちかまえている。
「ここで逃がさず、倒すとしよう。まぁ、よろしく頼む」
 シメオン・ムーシェ(レガシーカウボーイ・e05329)はあちこちを見渡し、潜むに適した植え込みを見つけるとそこまで歩を進め、気配を殺した。
 池・千里子(総州十角流・e08609)は会話には加わらず、
「あそこにいるのが、ウラクだな」
 と、周辺の様子に注意を向けていた。かろうじて、仲間たちの姿もここから伺える。
 そのウラクと千尋だが、少しずつ移動して今度はエントランスの方へと向かっていった。公園からは見えなくなる。 
「ま、辻斬りには辻斬りでお返ししとくさ。お代はアンタの驚きで結構です、ってなもんよ」
「うふふふふ、そうですねー。驚かせてくれるかしら」
 恐るべき敵を追い求めているとは思えない口ぶりで、ふたりは言葉を交わしている。
 ふと感じた違和感……なにか、妙な。
 そう。煌々と明かりが灯っているはずのエントランスが、真っ暗なのだ! マンションの中から現れ、街灯に照らされてうっすらと浮かび上がるのは、袴姿の少女。
 おいでなすったぞ、と千尋が身構える。
 少女はゆっくりとこちらを振り向き、ニッコリと微笑んだかと思うと……。
「ハハハハハハハハハ!」
 突如として、口を裂けんばかりに大きく開き、刀を抜いて飛びかかってきた。
 ウラクがとっさにマインドリングを構え、その剣を受け止める。
「この速さはすごいですけど……別にびっくり驚いたりはしませんねぇ。タネはそんなものですか?」
 と、せせら笑った。
「キィィッ!」
 ドリームイーターは驚きもしないケルベロスたちに容易く逆上し、なおも切りつけてくる。
 先ほど以上の恐るべき速さ、恐るべき太刀筋だ。こちらを刺し貫かんと襲い来るのは、大刀に模した『心を抉る鍵』。まともに貫かれればただでは済まない。
「そんなので驚くと思うのが大間違いなんだよ!」
 千尋は「お出ましだよ!」と電話越しのヴィに怒鳴りながら敵と対峙し、斬霊刀を両手に構える。
「悔しかったら、追いかけておいで!」
 敵はその挑発に乗り、切りつけてくる。避けた、と思ったのもつかの間、刃の先から放たれたモザイクは衝撃波のごとく襲いかかり、知識を奪われた千尋は体をこわばらせてしまう。
 まずい。
 敵はなおも大刀を振りかぶって襲いかかってきた。しかし、そのとき。
 ドリームイーターの頭部が炸裂し、血しぶきが飛び散った。

●おもちゃの人形のように
 敵に銃口を向けていたのは、茂みから身を起こしたシメオンだ。
 彼の『妹』、ビハインド『ディナ』も、敵を金縛りにして兄を助ける。
「お前の驚きは、月並みで平凡で……一言で言えば面白味がない。もう少しまともな感性を養えばどうだ?」
 その挑発を、敵はどう受け止めたのか。
 相手が答える前に、ケルベロスたちは襲いかかる。
「お前の行いは、理不尽な暴力だ。それほど許せないものはない。法で裁けぬデウスエクスならば、我々の力でもって阻止しよう」
 千里子は淡々とした口上を述べつつ飛び込んだ。敵は大刀を振り下ろしてくるが、千里子はそれをかいくぐってさらに間合いを詰める。
 懐に入れば、大刀など恐れるに足りない。
「この半径1メートルが、私の戦場だ」
 『双掌裂界撃』。両の拳から同時に放たれた打撃に内蔵を破壊され、ドリームイーターは血反吐を吐き、崩れ落ちる。
「ならば私は同じ太刀使いとして、お相手して差し上げますわ!」
 抜刀した櫻子はそれを上段に構え、
「桜龍の怒り、その身で味わうといいわ!」
 目に捉えられぬほどの速さで振り下ろした。
 『桜龍殲滅斬』。桜吹雪が舞い、袈裟懸けにされた敵はおびただしい血を流しながらよろめく。
「辻斬り……辻斬りかぁ。時代劇みたいだな。
 俺、時代劇好きなんだよなー。捕物帖とかさぁ」
 ヴィは鉄塊剣を両手に構えて前に出て、ドリームイーターの前に立ちはだかる。
「おっと、そんなのんきなこと言ってる場合じゃないか!」
 巨大な剣を軽々と振り上げ、相手の脳天を目がけて渾身の力で叩きつけた!
「ぐぉああああああッ!」
 剣は防ごうとしたドリームイーターの太刀を腕ごとへし折り、夜の闇に絶叫がとどろく。
「来るか? 俺が盾だ、ここから先は通さないぞ!」
 怒りの目を向ける敵を挑発するように手招きしたヴィだが、敵は冷静さを完全には失わず、
「ケルベロスめ……」
 ヴィを睨み据えながらも、肩を、腕を、おびただしいモザイクで覆い隠していった。
「仕切り直しだね」
 千尋は心と刃とを一体にして、受けた傷を塞いでいった。
 敵は、太刀を青眼に構えてケルベロスたちに襲いかかってくる。
 しかし。ここで冥とレスターとが追いついた。
「周りは封鎖済みだ、存分にやってくれ!」
 レスターが怒鳴る。怒鳴りつつ、左右どちらに敵が跳ぼうと追撃できる位置に移動した。
 放たれた衝撃波を冥が受け止め、彼は額に汗をにじませる。
 反撃に放った『ダブルバスタービーム』を、ドリームイーターは跳躍し、ジャングルジムの上に飛び乗って避けた。
「ハハハハ! 当たるものか、皆、私の姿に驚け、驚いて腰を抜かせッ!」
「……正直、女の子相手はやりにくいと思ってたんですけどね。その姿なら、遠慮もいらないですね。驚きはしませんが」
 と、敵の攻撃で身を痺れさせつつも、冥は嘯く。
「なにぃ!」
「鏡で自分の面、見てみろ。ひでぇ面だ、お前の悪趣味がにじみ出てるぞ」
 レスターは鼻で笑い、立て続けに銃弾を放った。右手を撃たれ、ドリームイーターが得物を取り落とす。
 ジャングルジムから飛び降り、左手で太刀を掴むドリームイーター。
 そこに、千里子が飛び込んだ。その陰に隠れるように、櫻子も続く。
「ち」
 舌打ち。千里子の放った跳び蹴りを、敵はぎりぎりのところで地面に転がるようにして避けたのだ。
 ジャングルジムの鉄の棒を砕き、そこから足を引き抜いた千里子に向かって、敵は太刀を繰り出してきた。しかし、
「いひひ、そうは問屋がおろさないんですね」
「ウラク、か」
 ウラクが割って入り、ブラックスライムを伸ばして太刀を小脇に挟んだ。敵はすぐにそれを振り払い、なおも切りつけてくる。
 敵は、櫻子のことを失念しすぎていた。
「隙だらけです!」
 いったん鞘に刀を納め、そこから目にも留まらぬ早業で抜く。敵の胴を切り裂き、色とりどりのタイルの上に、血が飛び散った。
「ぐおああ、あ、あ、あ、あ!」
 ドリームイーターが膝から崩れ落ち、大の字になって地に伏した。
 全身の傷からおびただしい血が流れ、うつ伏せのままピクリとも動かなくなったドリームイーターに、シメオンは銃を向けつつ近づいた。
「終わりか?」
 そのときだ!
 ドリームイーターの首がグルリと180度回転したかと思うと、ゲタゲタと哄笑しながら全身をバネのようにして飛び起きたのだ!
「くそ……俺の前から、消え失せろ!」
 シメオンが反射的に放った銃弾は敵の全身に1発も逃すことなく吸い込まれたのだが、敵の突きだした太刀も、こちらの胸を割っていた。
 襲い来る、過去の忌まわしい記憶。家族が死ぬ。死んでいく。大切な家族が、妹が。
 耐えようとしても、簡単に耐えられるものではない。顔色を蒼白にしてよろめくシメオン。そこに、さらに敵の攻撃が。
 だが、ビハインド『ディナ』が割って入り、すべてをその身で受け止めた。
「ディナ……」
 振り返ったビハインドが、かすかに笑ったような。
 ウラクから濃縮した快楽エネルギーが飛び、シメオンは再び立ち上がる。
「小賢しい真似を!
 泣き叫べ、異端種! 今ここに、神はいないッ!」
 『ヴァナルガンド・アングリフ』。冥は手にした銃のマガジンを交換し、ありったけの銃弾を敵に叩きつけた。
 少なからぬ銃弾が敵を貫いたが、それでもドリームイーターは跳躍し、残りの弾は滑り台に穴をあけただけに終わってしまった。致命傷には至らない。
 ドリームイーターは、人間ではあり得ない角度に首や手足を曲げ、ケタケタと哄笑して遊具の間を飛び移る。
「あくまで、こっちを驚かせようって腹かい? けどね……!」
 千尋は、肩に突き立った太刀の刀身を掴んで、引っこ抜く。襲い来るトラウマ……かつて、実験機だった頃に墜落死しそうになった記憶。心を持った今となっては、恐ろしく思うそれに苛まれながらも、
「心があるなら、乗り越えられもするんだよ!」
 天に向かって太刀を振るうと、それに切り裂かれたように薬液の雨が降り注ぎ始めた。
「誰も倒させはしないぞ!」
 仲間を庇っていたヴィが、地を蹴って反撃に転じた。黒く、闇に溶けるコートを翻し、
「攻撃目標補足、目標を破壊するッ!」
 叫びつつ、カッと目を見開いた。瞳から強力なメーザー『White flame』が放たれ、敵を貫く。

●しょせんは紛い物
「ほら、また笑ってみせろ! お前の狂気はそんなものか?」
 レスターが大剣を振り上げて、一気に距離をつめる。
「尽きろ!」
 地獄を宿す刃は荒波の如く。銀炎が飛沫となって、砕けて舞う。これぞ、岩さえ削る猛き連撃、『濤(トウ)』。
 レスターはよろめく敵にさらに刃を打ち付け、さらに踏み込んでいこうとしたが、敵も反撃を忘れてはいない。
「無理は禁物ですよ!」
「どうも、熱くなりすぎたな」
 櫻子の警告を受けて、とっさに立ち止まった目と鼻の先を、衝撃波となったモザイクが襲いかかる。カラータイルが粉々に砕けて飛び散ったが、文字通り一歩間違えば、そうなるのはレスターだった。
「く……!」
 ドリームイーターは憎々しげに顔をゆがめ、ギリギリと歯を噛みしめる。敵は形勢不利を悟ったのか、それともケルベロスたちを誘い込もうとしたのか、大きく跳び下がった。
「驚きが欲しいなら、物陰からわっと飛び出すくらいにしてりゃあ、ひねり潰されることもなかったんじゃないですかね!」」
「逃がしません。これ以上、被害を出すわけにはいかないので」
「おとなしくお縄をちょうだいしろ、ってね!」
 ウラク、冥、ヴィの3人が敵の攻撃を防ぎつつ、周りを囲む。
 彼らからの攻撃をドリームイーターはかろうじて避けていくが、前も後ろも囲まれて、まさに進退窮まった。
「お縄にはしないな」
「そう。人々の血が、ただの一滴も流れる前に。……切り捨てるのみ」
 シメオンの銃弾がみたび、敵に襲いかかる。相手が太刀を構えてそれを防いでいるうちに、千里子は敵と呼吸を同調させた。
「征くぞ」
 その身体の動きの一切を見極め、放たれた『総州十角流・無形鏡』の一撃。
 傷の深さもさることながら、まるで鏡と相対しているかのような錯覚を受ける、ドリームイーター。
 ここが勝機とみた櫻子は、迷いが現れた敵の太刀を大きく弾き、
「これでおしまいですわッ!」
 がら空きになった胴を深々と切り裂いた!
 今度こそ崩れ落ちる……かに見えたが、敵は傷口から身体をくの字に曲げて飛びかかり、心を抉る鍵を突き立てようとした。
「二番煎じなんだよ!
 しょせん、借り物の知識や記憶で、人を驚かせることはできないのさッ!」
 千尋が両手の斬霊刀を高々と掲げる。放たれた衝撃波は木々の枝葉を揺らし大気を引き裂き、ドリームイーターの首を両断した。

「まさか、お前に守られる日が来るとは思わなかったな。礼を言う、ありがとう」
 頭を下げる千里子に、ウラクは緩んだ笑顔を返す。
「いひひ、柄にもないことをするっていうのもねぇ。新鮮で愉快なんですよ。
 礼というなら、ここらの銭湯でひとっ風呂浴びるのにつきあってもらえませんかね?」
「……まぁ、いいだろう。今日くらいは、背中のひとつも流してやろうか」
 と、千里子は肩をすくめた。
「しぶとかったな」
「えぇ。ところで、その……もしかして、そのサーヴァントは」
 『妹』の頬を撫でたシメオンは、汚れた眼鏡を外して拭いていた櫻子に視線を向けた。
「やだ、眼鏡のない顔は見ないでください。……恥ずかしいですから」
 顔を赤らめつつ、事情を聞いた櫻子は大いに嘆息しつつも、
「夢と言えば!
 昨日見た夢はケーキを食べる夢でした。なんだか食べたくなってきましたし、みんなで行きませんか?」
 と、明るい声で呼びかける。
「いいね」
 頷いたヴィだったが、
「まずは、ここを片づけてからだね。
 この惨状では……」
「住人が驚いて、腰を抜かしてしまう、か」
 口数少なく無愛想なレスター。その呟きにさほどの意図はなかっただろうが。
 ケルベロスたちは驚き、顔を見合わせた。

作者:一条もえる 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年9月18日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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