光の翼の戦士の行末

作者:陸野蛍

●魔神……ティネコロカムイの望み
 釧路湿原の奥地で、背筋が凍るような微笑を浮かべる女が、泳ぐ怪魚達に囲まれ、目の前に居る男に言う。
「そろそろ頃合ね、あなたに働いてもらうわ。市街地に向かい、暴れてきなさい……あなたの意志で、私の望みを叶えて」
 女がそう言えば、女の周りを泳いでいた怪魚達が男の周りを泳ぎ出す。
「お言葉通りに致します。ティネコロカムイ様……お任せ下さい」
 虚ろな表情でそう返事すると男は、光輝く翼を大きく広げ、市街地へと向かった。
 かつてと同じ殺戮を、もう一度行う為に……。

●奪われた勇猛さと慈悲の心
「みんな、テイネコロカムイの活動が確認された。説明が終わり次第、北海道に発つぞ」
 ヘリオンから降りて来た、大淀・雄大(太陽の花のヘリオライダー・en0056)は、そう言うとすぐにケルベロス達に依頼の説明を始める。
「釧路湿原近くで、第二次侵略期以前に死亡したデウスエクスを蘇らせ、市街地を襲わせる死神『ティネコロカムイ』が、また1体のデウスエクスを釧路湿原に運び込み、事件を起こすみたいだ。既にティネコロカムイは消えているけど、このままだと多くの一般人が犠牲になる。みんなには、サルベージされたデウスエクスの撃破に向かってもらいたい」
 サルベージされた死神は当然変異強化されており、怪魚型の死神を部下の様に従えて街を襲うとのことだ。
「侵攻経路は、予知で判明済みだから、湿原の入口あたりで迎撃する事が可能だ。周囲に一般人も居ない。戦闘に集中出来るから、迅速な撃破を目指して欲しい」
 そう言って、雄大は資料の紙に一度目を落とす。
「今回の撃破対象は……ヴァルキュリア。但し、男性体だ」
 現在、地球側には多くの男性ヴァルキュリアが存在するが、『シャイターン襲撃』時やエインヘリアルの下で作戦に登用されていたのは、殆どが女性体だった。
 その為、敵として男性ヴァルキュリアと戦った事のあるケルベロスは、そう多くないだろう。
「大きな光の翼が特徴のこの男性ヴァルキュリアは、死神によって変異強化され、生前より強い力を有している。命令を聞くだけの思考はあるみたいだけど、意識は希薄だから、説得や交渉はほぼ不可能だ。……だから、もう一度眠りにつかせてやるのが最善だ」
『分かるよな?』と、雄大は緑の瞳をケルベロス達に向ける。
「このヴァルキュリアの得物は、ゲシュタルトグレイブ。それ以外に、ヴァルキュリアブラスト、ジュデッカの刃を使用可能だ。あと、怪魚型死神が付き従う様に3体居る。こいつらは、主にヒールグラビティでの補助をして来ると思われるから、強敵では無いけど注意しておく様にして欲しい」
 部下として傍らに居るのか、監視として傍らに居るのか……死神の思惑からすれば、おそらく後者だろう。
「ふう……説明は以上だ……。ヴァルキュリアの仲間達が大勢居る今の状態で、進んで戦いたい相手じゃないのは、俺も分かってる。だけど、定命化していない状態で死に、その状態で蘇ったヴァルキュリアは、デウスエクスとしての力をそのまま残している。どれだけ、危険な存在かはみんなも分かってると思う。だから、死神の思惑に利用される前に、このヴァルキュリアに二度と目覚めない死を与えてやってくれ。……頼んだぜ、みんな」
 そう言って、雄大は静かに笑った。


参加者
シヴィル・カジャス(太陽の騎士・e00374)
平・和(平和を愛する脳筋哲学徒・e00547)
ヒスイ・エレスチャル(新月スコーピオン・e00604)
逆黒川・龍之介(剣戟の修練者・e03683)
コンスタンツァ・キルシェ(ロリポップガンナー・e07326)
ラズリア・クレイン(蒼晶のラケシス・e19050)
ジョー・ブラウン(ウェアライダーの降魔拳士・e20179)
ディーネ・ヘルツォーク(蒼獅子・e24601)

■リプレイ

●彷徨える光の翼
 秋の短い北海道。
 釧路湿原から、市街地へと続く平原に8人のケルベロス達は降り立っていた。
「テイネコロカムイか……」
 凛々しく、今回の事件の元凶を作った死神の名前を口にするのは、シヴィル・カジャス(太陽の騎士・e00374)。
「いかにも意味ありげな名前だな……いや、実は意味等無いのかもしれないな。ただ『てーいっ! 猫Lord,Come in!』という言葉を格好をつけてアイヌ語風にしてみただけなのかもしれない」
 その言葉を聞いていたケルベロス達は、皆、『そんな訳あるまい』と思っていたが、面倒なので誰も突っ込まない。
 ちなみに、アイヌ語で訳すのであれば、『カムイ』は神を指し、アイヌ民族における神の象徴とは自然だ。
 そして『ティネ』は、濡れた、湿った等の意味を指し、『コロ』は接続詞である。
 つまり、『ティネコロカムイ』を直訳すると、彼女の二つ名である『湿地の魔神』に限りなく近くなる。
 シヴィルが寒いギャグ、もとい……敵の名前への疑問をぶつぶつ言っていると、ゆっくりと青白く光る大きな魚影と、一つの人影が見えてくる。
「……死神と一緒に居るのが、男のヴァルキュリアか」
 まだ、ハッキリとした表情が見えない人影を見ながら、ジョー・ブラウン(ウェアライダーの降魔拳士・e20179)が呟く。
「時代が違えば共に戦う機会も有ったのかねぇ。だがこうして対峙する以上、こちらも手は抜けねぇ。全力で寝かしつけてやるよ」
「男ヴァルキュリアっスか…… ヴァルキュリアとは戦った事あるっスよ。あの時は女だったっスけど……仲間になって男ヴァルキュリアもいるって初めて知ったっス」
 そう言うのは、コンスタンツァ・キルシェ(ロリポップガンナー・e07326)だ。
 カラフルなロリポップキャンディをガリガリ噛みながら、ウェスタンハットのひさしを上げる。
「それにしても、死神って嫌ーい」
 そう、幼げな顔に嫌悪を表すのは、平・和(平和を愛する脳筋哲学徒・e00547)だ。
「なんかこう、肉体は必要だけど、心はいらない! って言ってるみたいでさー。蘇らせるならちゃんと蘇らせろよー。それが出来ないなら、蘇らせたりなんてするなってもんだぜ」
『ぷんすか!』と怒りを隠そうともしない和だが、これでも一応成人男性である。
「あちらの死神さんも、こちらに気付いた様ですね」
 穏やかな表情は崩さず、静かにヒスイ・エレスチャル(新月スコーピオン・e00604)が、攻撃性グラビティを高めていく。
「死神の強化サルベージというのは、厄介ですね。男性のヴァルキュアリアですか……随分前に、女性のヴァルキュリアと戦った時とは……勝手が違いそうです」
「以前、似たようなことをしていた奴を知っているが、死神と言うのは……どこに行っても同じ行動するようだな」
 言いつつ刀を抜くのは、逆黒川・龍之介(剣戟の修練者・e03683)だ。
「まぁ、何を企もうが、今まで通り全て防ぐまでだがな。……利用された者に対して、接点はないが……暴れられても困るしな。二度と目覚めぬよう、眠らせてやろう」
 龍之介は、刀の切っ先を真っ直ぐヴァルキュリアに向ける。
 死神とヴァルキュリアが攻撃範囲内に入った瞬間動いたのは、ラズリア・クレイン(蒼晶のラケシス・e19050)だった。
「このような非道、魂の冒涜、許せませんの……参ります」
 ハッキリと口にすると、ラズリアは星剣『ノーザンクロス・ロサ』を掲げ、己の守護星座を呼び出すと、死神達に冷気のオーラを降り注ぐ。
 身体を冷気で凍えさせる死神に、光の翼を持つ乙女が吠える。
「随分と嘗めた真似してくれるわね……死神さん。虐殺なんて、ヴァルキュリアの誇りを穢す行為、例え亡者だとしても……許すわけにはいかないわ!」
 ディーネ・ヘルツォーク(蒼獅子・e24601)は、その特殊なゲシュタルトグレイブ『クリスタルシュライム』を構える。
「ブリッツシュラーク……展開! こっから先は通さない! 捌かれたい奴から前に出な、三枚に下してやる! 血抜きなんて上品な事はしねえ、燃え尽きろ三下!」
 二又の槍に地獄の炎を乗せて、戦乙女の本質を見せるディーネが、死神に炎の一撃を与える。
 その時、ガラス玉の様な瞳をしていたヴァルキュリアの瞳に炎が灯ったのを、元暗殺人形であるヒスイだけが気付いた。

●ティネコロカムイの下僕
「どうした? 俺はコッチだぜ? 捉えてみろよ!」
 自慢の脚力を活かし、ジョーが死神の周りを跳び回ると、予測出来ない動きで、死神を蹴りあげる。
 それを見て、ヴァルキュリアがジョーに向けて槍を向けるが、そのヴァルキュリアの腕を月の力を借りた、龍之介の刀が切り裂く。
「少しの間、お前の相手は俺達がさせてもらう」
「そう言う訳なんで、よろしくっスよー」
 コンスタンツァの歌声は、ヴァルキュリアの聴覚を刺激するとその瞳を、自分に向ける。
「いっくぞー! てややー!」
 縛霊手を死神に向け気合いを入れると、和は縛霊手の掌から、死神の群れを滅ぼす、巨大光弾を撃ち放つ。
 その光弾は後ろに控えた、死神達に纏めてダメージを与えていく。
「一匹ずつ、仕留めさせてもらいますね。悪戯が過ぎましたね。夢を見るのはお仕舞にしましょう」
 眩い翡翠色の光を纏った雷は、死神に襲いかかると、石にでもせんばかりに、強烈な雷撃となる。
「やはり、回復役ともなると、名乗りも一歩出遅れてしまうな。だが、私は怯まない。太陽の騎士シヴィル・カジャス、ここに見参! まずはこの金色の果実の加護を皆に与えよう!」
 シヴィルの攻性植物から生まれた果実は、最前線で戦う仲間達に、悪しき力に負けぬ、防御障壁を与える。
「オウガメタル……私に力を貸して下さい」
 ラズリアは、地上を滑空するように飛ぶと、右手に銀の生命体を宿し、死神に重い一撃を与える。
 敵の懐に飛び込んだラズリアに、死神が牙を剥き出しにして噛み付こうとするが、すかさず間に入った、ディーネがその牙を受ける。
「お前等の相手を、ちんたらやってる時間は無いんだよ!」
 ディーネが叫び、槍を空へ放ると、二又の槍は天空で分裂すると、刃の雨となって死神達に降り注ぐ。
 槍が、死神を刺し貫く中、ヒスイが妖精弓を構えれば、和が御業を縄と成して死神を縛り上げる。
 ジョーが戦場を飛び回るのをカバーする様に、相棒のビハインド『マリア』が死神の動きを制限する。
 ケルベロス達はスピード勝負を意識していた。
 あくまで、撃破目標は、サルベージされたヴァルキュリア。
 死神の回復力が脅威であるのならば、それを超えるダメージを一気に与え、ヴァルキュリアの援護すら出来ない様にする。
 その為に、和の銀の拳が、ヒスイの翡翠色の雷が、ラズリアの守護星座のオーラが絶えず、死神を追い詰めていく。
「これで終いだぁ!」
 雷を纏ったディーネの槍が、最後の一匹となった死神を刺し貫く。
「魚は下した! 加勢する……!?」
 槍を引き抜いた、ディーネが目にしたのは、体中に癒しきれない程の傷を負った、コンスタンツァと龍之介の姿だった。

●蘇りし戦士の終焉
 時間は数分程遡る。
(「ヴァルキュリアは、アタシ達の仲間で味方っス。でも助けが間に合わず救えなかったヴァルキュリアもいるっス。その事が正直くやしっス……。」)
 そんな思いを込めて、コンスタンツァはリボルバー銃の引鉄を引く。
「毎日打ち込み続けたこの一撃、受けて見ろ!」
 気合いと共に連続の袈裟切りをヴァルキュリアに、与える龍之介。
 だがヴァルキュリアは、その攻撃に動じることも無く、グレイブを頭上に翳すと高速回転させ、コンスタンツァと龍之介を薙ぎ払う。
「こんな攻撃が、死神退治をしてる皆さんに行ったら大変っスね。アンタの敵はアタシっス。よそ見しちゃダメっスよ!」
 今一度、コンスタンツァの歌声が戦場に響くと、ヴァルキュウリの槍は雷を纏いコンスタンツァを刺し貫こうとする。
「コンスタンツァ!」
 咄嗟に庇った龍之介の脇腹から、槍の穂先が出ると紅い鮮血を滴らせる。
「これくらい……」
 ヴァルキュリアの槍を握りしめると、龍之介は素早く刃の如き蹴りを、ヴァルキュリアの首筋に入れる。
「騎士の誓いよ! 盾となって彼の者を癒したまえ!」
 シヴィルが放ったエネルギーは、光輝く太陽の花の様な盾を形成すと、龍之介の傷口を埋めていく。
「これは……出し惜しみ出来ないっスね。GO、ロデオGOっス!」
 猛り狂う闘牛のオーラを纏い、跳躍したコンスタンツァは、真っ赤に光り輝く魔法の弾丸を撃ちだす。
 その弾丸は、二本の雄々しい角を振り立てた雄牛のオーラを纏い、猛追する様に、ヴァルキュリアに襲いかかる。
 だが、コンスタンツァの弾丸は、ヴァルキュリアにコンスタンツァを倒すべき敵だと更に認識させる。
 ヴァルキュリアは身体を光の粒子に変えると、コンスタンツァを貫く光となる。
「シヴィル! コンスタンツァの回復を! 死神が殲滅出来るまで……ここは俺が凌ぐ!」
(「私も攻撃に移るか……だが……」)
 シヴィルは迷いの中にありながらも自らの、グラビティ・チェインをコンスタンツァに注ぎ込む。
 ヴァルキュリア優勢の中、『魚は下した!」と声が聞こえた瞬間、ヴァルキュリアの冷気を帯びた手刀が龍之介に振り下ろされた。
「始原の楽園を崩壊に導きし剣たちよ。我が求めるは力なり。混沌を破壊せし星となりて敵を討て!」
 アズリアは自分の周囲に魔法陣を幾つも展開すると、その魔法陣から、無数の魔力を秘めた輝く剣を生みだし、流星群の様にヴァルキュリアに降らせる。
「おいおい、死神の殲滅にそんなに時間がかかった訳じゃねえのに、この惨状かよ。マリア! お前は、攻撃を途絶えさせるな。俺は、回復に回る」
 マリアに指示すると、ジョーは満月に似たエネルギー光球を呼び出し、龍之介のグラビティ・チェインの流出を止める。
「ここまで、力がありましたか……」
 影に溶け込み、ヴァルキュリアに鋭い一撃を与えながら、ヒスイが呟く。
(「死神は相変わらず性質が悪いですね。きっと、本来なら望まない事を強要されるわけですから。憐れとは思いますが、だからこそ慈悲はかけてあげられません。楽しみにしていた相手ですが、早く決着を付けた方が良さそうですね」)
「ヒスイー、どいてー! みんなをこんな目に……よくもやってくれたなー! お返しだー!」
 怒りを顕わにすると、和が両手を掲げる。
「詠唱省略! 必殺のー……事典の角攻撃ー!」
 和の頭上に現れた、巨大な一冊の本はその質量をもって、ヴァルキュリアを押し潰す様に打撃を与える。主に角で!
 強烈な攻撃を連続で受けてもなお、ヴァルキュリアは頭上に槍を投げ、槍の雨をケルベロス達に降らせる。
 ディーネがラズリアを、ギリギリ身体が動く様になった龍之介がヒスイを庇うが、回復しきれていなかったコンスタンツァにも槍は降り注ぐ。
「ジョー、回復を任せる。所詮は死神共の操り人形。意志の無い刃では、私達誇りあるケルベロスには勝てないと言うことを思い知らせてやろう!」
「ちょっと待てって! クソッ!」
 紙兵を仲間達に纏わせながら、カジャスの言葉にジョーが声をあげる。
(「一番、軽傷の私が」)
 その想いが、シヴィルの身体を動かしたのだ。
「カジャス流奥義、サン・ブラスト!」
 シヴィルの翼が大きく開くと、翼は風を味方に付けて勢いを増す。
 暴風の主となった、シヴィルはそのまま、ヴァルキュリアに捨て身の突撃をする。
「グハッ!」
 ヴァルキュリアから思わず声が出る。
「teiwaz……いい加減、眠れェェェェッ!!」
 光の翼から地獄の炎を吹き上げ、一気に加速したディーネは、ブリッツシュラークを深く突き刺し、次の瞬間、槍の穂先を二つに割り、ヴァルキュリアの内側に最大級のグラビティを流し込む。
 逆手に構えたブラックスライム『クリスタルシュライム』を暴食の形へ変えると、ヴァルキュリアの命を貪り喰わせる。
 それでも倒れない、ヴァルキュリア……その眉間に一発の銃弾が撃ち込まれる。
 足元から、崩れ落ちるヴァルキュリア。
「……助けられなくて、ごめんなさいっス。……今度こそお休みなさいっス」
 傷だらけの身体で悲しそうにリボルバーを握る、コンスタンツァの弾丸で、ヴァルキュリアは今度こそ眠りについた。

●それぞれの行末
「今度こそ安らかに眠って頂戴」
 横たわるヴァルキュリアの身体が、グラビティ・チェインの枯渇によって霧散して行く中、ディーネは、同胞の次の眠りが永遠になる様に祈った。
「すまないな。これで、身体は十分に動く筈だ」
 シヴィルが、負傷の酷かった、龍之介とコンスタンツァを癒し、少しばつが悪そうに謝罪する。
 コンスタンツァは、和の肩を借り、ヴァルキュリアに歩み寄る。
「アンタも、もう少し早く解放されてれば……いや……こーゆーのアタシらしくねっスよね、あはは」
 消え行くヴァルキュリアに声をかけながら、コンスタンツァは悲しげに笑う。
「おい、お前まで……大丈夫かよ。傷が浅いとは、言い難いぜ」
 ジョーがそう言うも、龍之介は首を振る。
「どうしても、しておきたいことがある」
 仕方ないと、頭を掻きながら、ジョーは龍之介に肩を貸す。
 ゆっくりと、ヴァルキュリアに近づくと、龍之介はヴァルキュリアの傍らに並ぶ、ゲシュタルトグレイブに刀を振り下ろした。
「主と共に逝け。それが俺からの手向けだ」
 砕け散ると、主の様に空へと吸い込まれていく、ゲシュタルトグレイブ。
 龍之介は静かに、手を合わせた。
(「死神は、死者の眠りを妨げる、許せない敵……けれど彼は」)
「……どうか、今度こそ安らかに眠られますように」
 ラズリアの蒼い瞳から一筋の涙が零れた。
(「こんな形で目覚めさせられるのは、不本意でしたよね?  願わくば、もう2度と目覚めないことを……あなたが安らかに眠れますように」)
 柔和な笑顔は崩さない、それでもヒスイは真摯に彼の永遠の眠りを願った。
 ケルベロス達の祈りに導かれる様に、ヴァルキュリアはグラビティ・チェインの最後の輝きを残して消えた。
 ほんの少しの静寂の後、仲間達にヒスイは疑問を投げかけた。
「それにしても、何故、北海道なんでしょうね? わざわざ移動させてまでなんて、おかしいですよね?」
 その疑問は、皆思っていたこと。
 けれど、その答えを知る者は居ない。
 ……ティネコロカムイ……『湿地の魔神』を除いて。
 事件の行く末はまだ見えない……。

作者:陸野蛍 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年9月15日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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