●鋼鉄のビジョン
とある工場で。
休業日であるにもかかわらず、幾つかの人影が忙しなく動き回っていた。そこかしこから機械の部品をかき集め、ダンボールやアーモボックスに詰め込んでいる。
彼らは工員でもなければ、守衛でもない。それ以前に人間ですらない。
ダモクレスのアンドロイドの一団だ。
その数は八体。
黒いソフトとスーツを身に着けた六体のガンドロイド。
甲冑のような姿のガードロイド・アイン五十三号。
そして、シェリフスタイルのガンスリンガーを思わせる出で立ちのエクスガンナー・ラムダ。
暫くして、ガンドロイドたちを監督していた五十三号がラムダのほうを見て、信号を送る。
「よし」
と、ラムダは頷いた。
「じゃあ、ずらかるとするか。五十三号たちは戦利品を持って先に行け。なにがあっても引き返してくるんじゃねえぞ。背後は俺らが守ってやっからよ」
部品が詰め込まれた箱を担いで、五十三号と三体のガンドロイドは退出した。外に通じるドアやシャッターではなく、床に穿たれた穴から。一党はそこから工場に侵入したのだ。
ラムダは残りの三体のガンドロイドとともに留まり、銃を構えて四方を油断なく見回した。
「まあ、なにも起きやしねえだろうけどな」
もちろん、それは間違いだった。
なにも起きないわけがない。
●ザイフリートかく語りき
「グランネロスが撃破された後、エクスガンナーたちが姿をくらましていたことは知っているな? どうやら、奴らが再び動き始めたようだ」
ヘリオライダーのザイフリートがケルベロスたちに語り始める。その背後に備えられたモニターに、シェリフスタイルのアンドロイドが映し出された。
「こいつは、その中の一体――エクスガンナー・ラムダ。学習能力を有した試作機であり、他のエクスガンナーと同様、銃器の扱いに長けている。グランネロス強襲作戦の際にはケルベロス相手に激闘を繰り広げたが、ドクターエータの撤退指示が出る前に戦闘を放棄して逃亡した。しかし、それは臆病風に吹かれたからではない。戦っても無駄だと判断したからだ」
そのように情に流されることなく冷静に決断を下すところはダモクレスらしいと言えるが、一方で妙に人間くさいところもあるという。人間社会に潜伏するための機体として製造されたからかもしれない。
モニターの映像がラムダから工場らしき建物へと切り替わった。
「私が予知したビジョンによると、ラムダは七体の配下を率いて、茨城県日立市の工場に侵入する。『エクスガンナー計画』なるものを再始動するための機器を入手することが目的らしい。七体のうちの四体が機器を運搬し、残りの三体とラムダが周辺の警戒に当たるようだ」
ラムダは慎重を期して運搬班と警戒班を分けたのだろう。しかし、ケルベロスにとっては実に好都合だと言える。なにもしなくても、敵の戦力が分断されるのだから。
「どんなに沢山の機器が集まったとしても、指揮を執るエクスガンナーがいなければ、計画の再始動はできまい。よって、運搬班は放っておいてもかまわない。おまえたちが討つべき相手はラムダのいる警戒班だ。ラムダは手強い相手だが、今回は強力な配下によるサポートがないから、倒せないことはないだろう」
グランネロス強襲作戦の時にラムダが引き連れていたのは二体のガードロイド・アイン。今回は三体のガンドロイド。数は上回っているものの、ガンドロイド三体分の戦闘能力はアイン一体のそれにも及ばないらしい。
「しかし、長丁場になることは覚悟しておけ。運搬班が無事に離脱できるだけの時間を稼ぐため、ラムダは長期戦の構えを取る……そう、グランネロス強襲作戦ではケルベロスがエクスガンナーの足止めをしていたが、今回は逆に奴らがおまえたちを足止めするというわけだ。なんとも皮肉な話だな」
グランネロス強襲作戦において、ケルベロスたちは防御と治癒を重視した布陣でラムダに挑んだ。学習能力のあるラムダはその戦術を取り込んだのだろう(あるいは『臆面もなくパクった』と言うべきか)。
「ラムダが稼ぎだそうとする時間は10分だ」
と、ザイフリートは皆に言った。
「10分が過ぎれば、奴は撤退する。その前に仕留めろ」
参加者 | |
---|---|
ノル・キサラギ(銀架・e01639) |
星野・光(放浪のガンスリンガー・e01805) |
タンザナイト・ディープブルー(流れ落ち星・e03342) |
不破野・翼(参番・e04393) |
サラ・エクレール(銀雷閃・e05901) |
楠森・芳尾(霧隠れ・e11157) |
サーティー・ピーシーズ(十三人目・e21959) |
フローライト・シュミット(光乏しき蛍石・e24978) |
●THE WILD BUNCH
「まあ、なにも起きやしねえだろうけどな」
エクスガンナー・ラムダは視線を巡らせた。
『真昼の決闘』ならぬ真昼の窃盗がおこなわれた工場。そこにいるのはラムダ一党だけ……のはずだった。
「なにか起きるとしても、とち狂ったはぐれロカーストがちょっかいを出してくる程……」
独白が遮られた。扉やシャッターや天窓を突き破る音によって。
そして、音を立てた者たちがラムダの視界に飛び込んできた。
もちろん、『とち狂ったはぐれロカースト』などではない。
八人のケルベロスと一体のサーヴァントだ。
ガンドロイドたちが同時に身構えたが、彼らに構うことなく――、
「天雷を纏え! 雷弾結界!」
――ノル・キサラギ(銀架・e01639)が銃弾型の雷撃群をラムダの周囲に撃ち込んだ。着弾と同時に雷撃は結界となり、ラムダの機動力を鈍らせていく。
そこに銃撃が加えられた。サラ・エクレール(銀雷閃・e05901)による背後からの制圧射撃。
しかし、ラムダには一発も命中しなかった。銃を素早く連射し、攻撃を相殺したのである。
その神業に舌を巻くこともなく、サラは無表情に言った。
「休業日の工場に侵入して盗みを働くなんて……いつから、エクスガンナーはコソ泥になったんですか?」
「しょうがねえだろ。通販で買い揃えるってわけにもいかねえんだ。こちとら、文なしだからよ」
「おまけに宿なしだよね」
と、軽口に軽口で応じたのは星野・光(放浪のガンスリンガー・e01805)だ。
「あんたらの憩いの我が家は――」
ガンドロイドたちに駆け寄り、そのうちの一体に『先手必殺・熾烈の号砲(ヴィクトル・ゴゥズ・ブレイクショット)』を叩き込む。
「――私たちがブッ飛ばしたんだから!」
そう、彼女(だけでなく、ノルも)はグランネロス強襲班に加わっていた。エクスガンナーたちを『宿なし』にした功労者の一人だ。
「家をなくしたからといって、泥棒になるのは感心しないのです」
そう言いながら、タンザナイト・ディープブルー(流れ落ち星・e03342)が鎖を振り回した。その先に繋がっているのは『大星願』と名付けられた巨大な金属塊。
「でも、自ら殿を買って出る殊勝さは評価したいです」
『大星願』からゾディアックミラージュが放たれ、ガンドロイドたちに命中した。
「はぁ? 殊勝とかじゃねーし!」
工場内を駆け回りつつ(棒立ちのままで戦うほどの自信家ではないらしい)、ラムダが怒鳴った。
「ケルベロスどもが来ると判ってたら、残ったりしなかったよ」
「つれねえことを言うなよ、ガンマン」
ラムダとは再戦となるサーティー・ピーシーズ(十三人目・e21959)が笑いかけた。その手に握られたゾディアックソードが一閃し、ゾディアックミラージュが飛ぶ。語りかけた相手はラムダだが、攻撃が向けられた相手はガンドロイドたちだ。
もちろん、ガンドロイドたちも黙っていなかった。凍結した体に鞭打ち、ある者は前衛陣めがけて、ある者は後衛陣めがけて、銃弾の雨を降らせていく。
その雨を浴びるであろう位置には回復役のフローライト・シュミット(光乏しき蛍石・e24978)もいたが、彼女にはただの一発も届かなかった。
不破野・翼(参番・e04393)が盾となったのである。当然のことながら、盾のままでは終わらない。痛みに屈することなく、降魔真拳をガンドロイドに叩きつけた。
「……」
翼の背中に無言で会釈して(その動作が相手に見えないことは承知の上で)感謝を示し、フローライトはウィッチオペレーションを施した。
彼女のヒールと己のドレインで傷が回復していくのを実感しながら、翼は笑みを浮かべて――、
「この度の一戦もなにとぞよろしくお願いいたします」
――ラムダに向かって一礼した。サーティーと同様、ラムダと戦うのはこれで二度目なのだ。
「よろしくしたくねえよ!」
と、ラムダはまた怒鳴った。
「ホント、しつこい連中だな。どこまで俺につきまとう気だ?」
「どこまでもだ」
愛用の十手『白南風』からエレキブーストを飛ばして仲間を癒しつつ、楠森・芳尾(霧隠れ・e11157)が答えた。彼もまた再戦組である。
「平和を守る保安官としちゃ、ギャング連中をのさばらせたままにゃできねぇからな」
「どこの世界に十手に和服の保安官がいるんだよ! 岡っ引きの間違いじゃねえのか!」
「ははは。御用提灯でも持ってくりゃよかったかなぁ」
言葉だけを聞いていると、気心の知れた悪友たちが軽口を叩きあってるような態だが、芳尾や他のケルベロスたちは真剣に戦っていた。
おそらく、ラムダもそうだろう。
●RIDE THE HIGH COUNTRY
軽口や減らず口が戦場を飛び交い、それ倍する銃弾や魔法が飛び交う。
そのうちの一発――翼の気咬弾を食らって、一体のガンドロイドがよろめいた。
「ガッ……」
ガンドロイドは初めて声を発し(あるいはパーツが軋む音だったのかもしれない)、体勢を立て直そうとしたが、四半秒ほど遅かった。
隙を見逃すことなく、光が気咬弾を撃ち出したのだ。
「はい、一番首!」
光の声に小さな爆発音が重なり、ガンドロイドの頭部が爆散した。
ギャング映画の小道具じみた黒いソフト帽が吹き飛んでいく。
その横を地獄の炎弾が通り過ぎた。タンザナイトのフレイムグリードだ。一体目のガンドロイドが撃破されたことを見届け、狙いをガンドロイド勢からラムダに切り替えている。
しかし、ラムダはかろうじて炎弾を躱した。『かろうじて』が付くのは、ノルが何度も放った『雷弾結界(カラドボルグ)』と轟竜砲によって回避力が低下しているからだ。しかも、ボクスドラゴンのシュタールにボクスブレスを浴びせられているため、状態異常が更に悪化していた。
「まったく、ケルベロスっていうのはいやらしい戦い方をしやがる」
ぼやきながら、ラムダは二丁拳銃を乱射した(パラライズの効果を持つその攻撃も十二分に『いやらしい』ものだが)。
残された二体のガンドロイドたちも主人に負けじと弾丸をばらまいていく。
あちこちで火花が散った。
流れ弾を受けた配電盤が火を噴いた。
なにかの拍子に電源が入ったのか、ベルトコンベアが動き始めた。
そして、雨が降り始めた。
スプリンクラーが作動したのだ。
「フローラ、頼む!」
人工の雨に濡れながら、ノルが後方に声をかけた。
「……判ってる」
フローライトが静かに頷き、なにごとかを始めた。
それに合わせて、芳尾も動く。
すると、雨に別の液体が加わった。二人分のメディカルレインだ。
「あー、楽しくってしかたねえぜ」
癒しの水を全身に浴びながら、サーティーが地獄の炎を斬霊刀『My Sin』に宿した。
「おめえはどうだよ、ガンマン? 楽しくねえか? 血が滾ってこねえか? それとも、その体に流れてるのはオイルだけか? 古臭い漫画に出てくるロボットみてえによ」
問いかけながら、ブレイズクラッシュをガンドロイドに叩きつける。
「ちっとも楽しかねえや!」
攻撃の手を休めて(びしょ濡れになった帽子を絞ってるのだ)、ラムダは答えた。
「一張羅が台無しになっちまったじゃねえか。おまえらを倒したら、今度は工場じゃなくてクリーニング店に忍び込……」
すべてを言い終えることなく、ラムダは飛び退った。
一瞬前まで彼がいた場所を炎が通過する。雨を蒸発させながら。
サラがグラインドファイアを仕掛けたのだ。
「もうどこにも忍び込めませんよ。貴方はここで終わります」
「いや、終わるのはおまえらのほうだ」
帽子を頭に戻して、反撃を開始するラムダであった。
その後も激しい戦い(と軽口の応酬)が続いた。
そして、ついに――、
「二番首かな?」
――ノルの言葉とともに二体目のガンドロイドが倒れ伏した。タンザナイトが標的を変えたようにノルも標的をガンドロイドに変えていたのだ。
「三匹目ももうすぐ焼きあがるよ」
光がリボルバー銃『FerriSeptentrion』をファニングで連射した。無造作に撃っているように見えるが、実は高速演算を用いた破鎧衝である。
ガンドロイドを蜂の巣にすると、銃口で帽子の鍔をもたげて、光は横に目をやった。
「最後の味付けは任せる」
「はい」
と、答えたのは翼だ。惨殺ナイフを振り下ろし、血襖斬りを見舞う。
穴だらけの体から血(に相当する液体)を噴き上げて、三体目のガンドロイドは頽れた。
その血を浴びながら、翼は拳を突き出した。
ラムダのいる場所に向かって。
「まだまだ、いけますよ」
ニッと笑ってみせる。
本当は笑えるような状況ではなかった。シュタールとともに盾役として奮闘してきたため、彼女の全身は傷だらけになっている。芳尾とフローライトのヒールや自前のドレインがなければ、とっくに倒れていただろう。
「下っ端どもはもう全滅か? 天下のデウスエクス様も質の差が激しいなあ」
キャットウォークに陣取った(スターゲイザーを見舞うために登ったのだ)サーティーがラムダに冷笑をぶつけた。
「こないだの頼もしい二人組のデカブツはどうしたよ。おっと、いけねえ。もう二人組じゃなかったな。一人は俺らがスクラップにしちまったんだっけ」
「黙ってろ!」
「……うぉっ!?」
怒声とともに飛来した銃弾に足場を破壊され、サーティーは蹴りを放つ間もなく落下した。
その醜態を当のラムダは見ていない。何者かの動きを察知し、瞬時に振り返っていたからだ。
視線の先にいた『何者か』は芳尾だった。
今度はラムダのほうが遅きに失した。拳銃が火を噴くよりも早く、芳尾の十手から電撃が飛ぶ。
しかし、それはラムダの脇をすり抜けて、虚しく回り続けていたベルトコンベアの縁に命中した。
「どこ狙ってんだ、毛玉野郎」
「俺を狙ったのさ、ブリキ野郎」
と、ラムダの嘲弄に答えたのは芳尾ではない。
ベルトコンベアの上に落下していたサーティーだ。
「……!?」
ラムダはまたもや振り返ったが、またもや遅きに失した。
鋼の体の一部が燃え上がる。
ベルトコンベア上のサーティーがすれ違いざまにブレイズクラッシュを放ったのだ。芳尾がベルトコンベア伝いに付与したエレキブースト(そう、あの電撃はライトニングボルトではなかった)によって、その威力は上昇している。
「くそっ……」
と、吐き捨てるラムダに芳尾が言った。
「おいおい。毒づくと、ツキが落ちるぞぉ。こういう困難な時こそ、ニヤリと笑ってよぉ。あの台詞を吐いて、自分を鼓舞するもんだぜ」
「……」
ラムダの仮面のミラーグラス。目に相当するであろうその部位が芳尾に向けられる。
芳尾はニヤリと笑ってみせた。ラムダに向かって。ミラーグラスに映る自分に向かって。
一瞬、表情がないはずのラムダの顔にも同じような笑みが浮かんだように見えた。
そして、二人は同時に『あの台詞』を叫んだ。
「面白くなってきやがった!」
●THE DEADLY COMPANIONS
突然、アラームが鳴り響いた。戦闘が開始してから八分が経過したことを告げる合図。ノルが事前にセットしていたのだ。
「手筈通りに――」
周囲に散らばっている仲間たちの位置を確認しつつ、光がもう一丁の銃『ハウリングリボルバー』を抜いた。
「――総攻撃といくか」
二丁拳銃による破鎧衝がラムダの防御力を削っていく。
その間に他の面々はラムダを取り囲み、退路を断った。
「俺は銃使いのレプリカントで、おまえは銃使いのダモクレス。どちらも似たような存在だよな」
ラムダに語りかけながら、ノルが間合いを詰め、腕を伸ばした。その手に握られているのはリボルバー銃。用いるグラビティはヘッドショット。敏捷に基づく技が不利であることを知った上で勝負を挑んでいるのだ。
ラムダも同じように銃を構えた。
両者は互いに銃を突き付けあって――、
「もし、俺たちに違いがあるとすれば、それは……」
「なんだってんだ?」
――同時にトリガーを引いた。
二つの銃声が重なり、一瞬の間を置いて、ノルが倒れ伏した。だが、一方的にやられたわけではない。彼の銃弾はラムダの側頭部を抉り、ついでに帽子を吹き飛ばしていた。
「ちきしょー。お気に入りの帽子だったのによ」
よろめきながらも、ラムダはなんとか踏ん張り、次なる攻撃に備えた。
「予定変更。クリーニング店じゃなくて帽子屋に忍び込むぜ」
「貴方のその調子の良さ、嫌いじゃないですよ。プログラムでなければ!」
タンザナイトが叫びざまに『アセンションブレイズ』を発動させた。足元から光が噴きあがる。
その光にダメージを受けながらも、ラムダは飛び退った。
「なに言ってやがる。ニンゲン様の心だって脳ミソが走らせてるプログラムに過ぎねえだろうが。しかも、かなり出来の悪いプログラムだよな。ハードばかりかソフトもお粗末な不良品――それがおまえら人間だ」
「でも、ラムダさんも充分に人間らしいですね……と言うと、侮辱にしか聞こえないかもしれませんが」
翼が素早く四肢を動かし、二発の拳撃と二発の蹴りを繰り出した。『終の千鳥(ツイノチドリ)』という名のグラビティである。
「戦士として、こうやってラムダさんと相見えることができて嬉しいです」
「俺ァ、ちっとも嬉しくねえよ!」
叫びながら、ラムダは再び後方に飛ぼうとした。
だが、飛べなかった。
蹴りの一発を食らった膝がスパークし、ありえない方向に曲がっている。
そこにサラが踏み込み、愛刀『異形切安綱』の抜き打ちを見舞った。更に何回もの刺突が続く。目に止まらぬ速さで。
「コソ泥ではなく、一人の戦士として葬らせていただきます」
その奥義『一閃改死(イッセンカイシ)』を誇ることもなく、サラは静かに刀を鞘に戻した。
「オムォ……シィ……」
満身創痍のラムダがなにか応じたが、言葉になっていない。もうまともに喋ることもできないのだろう。だが、銃を持つ手が上がっている。ゆっくりと、ゆっくりと。戦う意志は残っているらしい。
しかし、その腕が水平になる前に――、
「アームドフォート・ブースト用意……葉っさん、いくよ……」
――フローライトが『小楯形態(バックラー・フォーム)』を発動させた。右肩に装着していた攻性植物製のバックラー『葉っさん』を前面に構え、アームドフォートの砲門を背後に向けて撃ち放ち、ラムダめがけて突進する。
「……ッ!」
声にならない声だけをその場に残し、ラムダは弾き飛ばされた。巨大な砲弾と化したフローライトによって。
スクラップ同然と化した体が弧を描き、床に落ち、『古臭い漫画に出てくるロボット』を思わせるパーツやオイルが撒き散らされた。
「貴方の豊かな感情……」
息絶えたラムダを見下ろし、フローラは呟いた。
「少し……羨ましかった……」
スプリンクラーの雨が止んだ。
作者:土師三良 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2016年9月20日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 18/感動した 1/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 0
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