エクスガンナー・デルタ~引き継がれし計画

作者:質種剰

●苛立つ女幹部
 町外れにある工場。
「全く……まさかこの私が敵に背中を見せる事になるなんて……!」
 エクスガンナー・デルタは、今や数少なくなった配下達へ逐一指示を出して、略奪した機械部品を外へ運び出させていた。
「早くなさいっ! また奴らに見つかったら厄介ですわよ! ……ドクターエータはグランネロスと運命を共にしたようですし、残った私達で『エクスガンナー計画』を引き継がないと……」
 デルタの言うエクスガンナー計画とは、ドクターエータも度々口にしていたぐらいに、彼らにとって大切な物らしい。
 彼女は、ケルベロスとの交戦の末に劣勢を悟り、ドクターから命令される前に自ら撤退していったが、他のエクスガンナーの中には、ケルベロスの眼前でドクターから撤退命令を受けた者もいた。
 その時もドクターエータは確かに言っていた。
 エクスガンナー計画推進に必要と思われる行動をせよ——と。
 デルタの命を受けたエクスガンナー・ゼータやガンドロイドが、せっせと雑多な機械部品を運搬しているのは、それが計画に必要な行動だからであろう。
 工場の襲撃と占拠は上手くいった。
 森の中で阿修羅クワガタさんをずっと捜していた配下達の働きのお陰だ。
 しかし、エクスガンナー・デルタは、先の戦いでガードロイド・アイン2体を失っている。
 ゼータやガンドロイド2〜3体分の働きを単騎でもしてくれたアインをケルベロス達に倒されたのは、痛手であった。
「工場へ近づく者は……いないようですわね」
 そのせいで機械部品を運ばせる手駒が足りずに、デルタが自ら工場の周辺を警戒しているのも、思えば滑稽な話である。
 

「ダモクレスの移動拠点グランネロスの撃破後、姿をくらましていたダモクレス、エクスガンナー達が動き出したでありますよ」
 小檻・かけら(袖の氷ヘリオライダー・en0031)が、説明を始める。
「彼らは、グランネロス撃破により中断されたエクスガンナー計画を再始動する為に、必要な機械部品の略奪を企てたのであります」
 エクスガンナー・デルタの場合は、工場襲撃後、数少ない配下の全てを機械部品の運搬にあて、デルタ本人が周辺の警戒に当たるようだ。
「エクスガンナーさえ撃破できれば、敵の計画を潰す事ができますので、皆さんにはエクスガンナー・デルタの撃破をお願いしたいであります!」
 襲撃される工場から一般人は避難済みなので、襲撃後、量産型ダモクレスが機械部品を運び出し始めた後に、攻撃を仕掛けて欲しい。
 この状況で戦闘を仕掛ければ、敵戦力の半分を戦闘から除外する事ができるだろう。
「エクスガンナーと残りのダモクレスは、機械部品を運搬するダモクレスを無事に撤退させようと時間を稼ごうとする為、10分もの間戦闘を行い、その後撤退する模様であります」
 そう断じるかけら。
「皆さんに戦って頂きたいのは、エクスガンナー・デルタと、配下ダモクレスのエクスガンナー・ゼータが3体、ガンドロイドが2体であります」
 エクスガンナー・デルタは、青い遠隔誘導端末を用いた『デルタガラノス』なる遠距離攻撃を仕掛けてくる。
 複数人に命中しては威圧感まで与える、理力に満ちた魔法攻撃だ。
 また、手にした刀で『デルタクシフォス』なる技も浴びせてくる。
 単体へ追撃をも与えてダメージを倍加する、頑健な斬撃である。
「時折、エクスガンナー・ゼータやガンドロイド単体をそのユニット製作能力で改造し、傷を治療する事もあります」
 エクスガンナー・ゼータは、バレットストームとブレイジングバーストを使い分けてくる。
 ガンドロイドの方は、跳弾射撃とガトリングデストラクションを使うようだ。
「こちらからの襲撃のタイミングでありますが、早くした場合は、まだ運搬が始まる前で敵の全戦力が迎撃に回る為、敵の戦闘力が増えてしまうであります」
 反対に襲撃のタイミングを遅くした場合は、向こうの足止めを行う時間が少なくて済む為に、敵が撤退するまでの時間は必然的に少なくなる。
「また、運搬するダモクレスを攻撃した場合、運搬を阻止する事はできましょうが、その分敵全員と戦う事になるでありますよ」
 かけらはそう説明を締め括るや、ぐっと拳を握ってケルベロス達を激励する。
「足止めの際の善戦が効いてか、敵戦力は目に見えて減ってるであります! それでもギリギリの戦いにはなるでありましょうが、エクスガンナーを倒せる目も無い訳ではないので、頑張ってくださいねっ!」


参加者
久我・航(誓剣の紋章剣士・e00163)
スウ・ティー(爆弾魔・e01099)
七種・酸塊(七色ファイター・e03205)
葉月・静夏(戦うことを楽しもう・e04116)
羽丘・結衣菜(マジシャンエルフ・e04954)
チューマ・ウチョマージ(荒野の鉄火・e11970)
近藤・美琴(想い人・e18027)
白刀神・ユスト(白刃鏖牙・e22236)

■リプレイ


 町外れの工場。
 ケルベロス達は、それぞれ工場の周りに潜伏し、突入の機を伺っている。
「グラビティ・チェイン以外のものも狙ってくるとはねー」
 葉月・静夏(戦うことを楽しもう・e04116)は、ダモクレス側の意外な行動に驚いた様子で呟いた。
 実際、阿修羅クワガタさんの強奪事件や、ケルベロスに追い詰められてのグランネロス自爆がなければ、こんな風に工場を襲う事も無かっただろう。
 それだけエクスガンナー側が追い込まれている証拠かもしれない。
「何を企んでいるのであれ、いつものように楽しんで倒してしまおう」
 と、にっこり笑う静夏。
 かつて箱入り娘だった反動か戦闘を心から楽しめる性格の為、その表情には気負いがなく、無邪気で明るい。
 ふさふさと豊かな黒髪のポニーテールや、惜しげもなく白い肌を晒して巨乳や下半身を際立たせた服装が印象的な、色気たっぷりの元お嬢様である。
「ダモクレスとの戦闘は久しぶりです……しっかり倒せると良いのですが」
 一方で、密かに溜め息をつくのは近藤・美琴(想い人・e18027)。
 長い金髪を緩く纏めたオラトリオの女性で、その黒い瞳には拭いきれぬ憂いを帯びているようにも見える。
 それでも以前と変わらぬ穏やかな物腰や、ふわふわした天真爛漫さも健在で。
「本当は、あんまりダモクレスとも戦いたく無いんですけどね」
 美琴はそんな本音を洩らしつつ、突入タイミングを見計らう合間にも、ぶらり再発見をで面白スポットを探す心の余裕を持っていた。
 ウイングキャットのエスポワールも、彼女の後をふわふわ追いかけている。
「あの姫さん自ら見張りをしてるとは……」
 その傍ら、じっと息を潜めている白刀神・ユスト(白刃鏖牙・e22236)は、金の瞳を爛々と輝かせ、楽しそうな表情をしている。
 ワイルドな顔立ちの刀剣士で、ある時より竜派から人派へと転向したドラゴニアンの青年だ。
「よし、剣と銃できっちりエスコートしてやるか」
 かつて傭兵であったユストの胸を占めるのは、一度は逃げられたデルタと再戦にこぎつけた嬉しさであろうか。
「さて、時間的にも余裕はないし、気合入れて行かないとな」
 久我・航(誓剣の紋章剣士・e00163)は、相変わらず冷静な物言いながら、戦いへのやる気を覗かせた。
 彼自身のコンプレックスになるぐらい幼さの残る童顔がトレードマークであり、尚且つ、短めに整えた黒髪が爽やかな風情の少年。
 だが、男子三日会わざれば刮目して見よとの格言通り、高校へ進学してからは、クールな内面が外見へ表出したかのように、少しずつ大人びてきている。
「今回でデルタを仕留められるのが一番だろうしな」
 赤茶の瞳に考え深い光を湛えて、低く呟く航だ。
「さて、一度は逃がしたエクスガンナーシリーズ。時間制限付きだけれど、いよいよ決戦と言ったところかしら」
 他方、自らを奮い立たせるかの如く明るい声を出すのは、羽丘・結衣菜(マジシャンエルフ・e04954)。
 流れるような茶髪のポニーテールや吊り目気味の赤い瞳が可愛らしいシャドウエルフで、マジシャンとしての舞台衣装なのか、ゴシック調のミニドレスをよく身につけている。
 また、低めの背丈には意外な程スタイルが良く、いつも笑顔でいる当人の性格とも相俟って、実に舞台映えする美少女でもある。
「今はデルタとゼータらを倒すことに集中しましょうか、運搬阻止は余裕があればってことで」
 結衣菜は8人で決めた作戦を口の中で再確認するように呟くや、愛用のゾディアックソード二振りをそれぞれの手に構えた。
「やつらが何か始める前に、ここで必ず仕留めてえな」
 七種・酸塊(七色ファイター・e03205)は打倒デルタの決意も新たに、手持ちのタイマーを5分後に鳴るようセットしている。
 口調こそ乱暴だがその態度には仲間への信頼が表れていて、笑顔もよく見せる酸塊。
 戦うのが好きで、中でも真っ正面からの力比べを何より好み、搦め手は苦手だそうな。
 鮮やかな橙色の髪に夜空を切り取ったかのような角を生やす、ざっくばらんとした性格のドラゴニアンである。
 そんな酸塊の後ろには。
「やれやれ、デルタちゃんも短い間に落ちぶれたもんだね」
 目深に被った帽子の下でやはり楽しそうに笑うスウ・ティー(爆弾魔・e01099)がいた。
 帽子やコートの色は黒で統一され、一見するとクールな印象を受けるも、その実賑やかさが好きで饒舌、更には女好きでもある楽天家。
 そんなスウにかかれば精鋭たるエクスガンナーもデルタちゃん扱いである。
 尤も、戦いに於いてもやる気を出す彼の事、デルタ目当てでこの場を訪れた本心には、彼女の美貌のみならず強さを認める気持ちがあったのだろう。
「連中も追い詰められてきているという事か。それとも、命じられたことしか出来ないか」
 さて、小さな背中を丸めて蹲り、気配を殺しているのはチューマ・ウチョマージ(荒野の鉄火・e11970)。
 小柄ながら精悍な肉体を持ち、古びたリボルバー銃とつけヒゲを愛用する壮年のドワーフ男性だ。
「……だとしたらそれはそれで哀れだな。まあ、倒す事に躊躇いはないが」
 年長者の風格か、毛量のたっぷりとしたカイゼル髭を撫で撫で呟くチューマの声音には、人生の酸いも甘いも噛み分けたかのような憐憫と諦観が漂っている。


 ガンドロイド2体が機械部品を抱えて工場の外へと出てきたのは、ケルベロス達が工場近辺に到着してから3分後の事だ。
 すぐに8人が工場の前へ近づくや、警戒に当たっていたエクスガンナー・デルタとゼータ達も気づいて。
「へいへい、地獄の番犬ケルベロスのお出ましですよっと。あ、嫌ぁーな顔しやがったな? 傷つくなぁ」
「本当にいつもいつも、嫌なタイミングで現れますのね!」
 軽口を叩くユストを見やり、デルタは露骨に眦を吊り上げて応戦してきた。
 ビシュッ!
 遠隔誘導端末の先端についた緑の球から、光線があらゆる方向へ発射される。
「ふふっ」
 結衣菜を背中に庇って2人分の激痛に耐えつつも、静夏は戦闘開始とあって楽しそうだ。
「デストロイブレイド!」
 叫ぶと同時に叩き込んだのは、退魔の撞木なる鉄塊剣。
 巨大さに違わぬ重みのそれを己が腕力だけで御し、デルタへ単純かつ重厚無比な一撃を見舞った。
「一斉にデルタをタコ殴りすれば勝てるかも……頑張るしかありませんね」
 美琴は絶望の刃をジグザグに変形させて、デルタへ肉薄。
 ——ガキガキィン!
 手足の赤いコートのような装甲を容易には癒えない形状へと斬り刻んだ。
 側では、エスポワールが猫引っ掻きを駆使して、デルタのコートを爪痕だらけにしている。
 ゼータ3体も、それぞれが嵐のように弾丸をばら撒いたり、爆炎の魔力の籠った弾を撃ち出したりと、ケルベロス達へ少なくないダメージを与えてくる。
「前の戦いで俺らは姫さんご自慢の兵隊をブッ倒して、姫さんを撤退させた! つまり俺らの一勝だ!」
 と、高らかに宣言してドラゴニックハンマーを振り下ろすのはユスト。
「だからさ、褒美に一つ聞かせてくれよ……酒瓶、持ってったよな?」
 味、どーだったよ? 美味かったかい?
 生命の『進化可能性』を奪って凍結を齎す、超重の一撃を繰り出して問いかける声音は、妙に親しみが滲んでいる。
「それともさっさと捨てちまったか?」
 自嘲気味に言う彼の声音を、強打と凍傷を喰らう最中に、デルタはどんな心境で聞いたのか。
「味、ですって?」
 憎悪に満ちた緑の眼を、一瞬不思議そうに見開いた。
 だが、すぐに工場の出入りを繰り返しているガンドロイドを一瞥するデルタ。
「今はどんな不純物があろうと——それが敵に恵んで貰った物でも、内燃機関の燃料になり得るアルコールを、捨てるわけ」
 そこまで言いかけて、はっと我に返ったのか、
「だから、敵と馴れ合う気など無いと言ったでしょう!」
 手にした刀を構え直して、刺々しく会話を切り上げた。
「時間稼ぎ上等! だったらまずはお前たちから叩く!」
 一方、雷の霊力帯びし日本刀を正眼に構えるや、航が神速の突きを繰り出す。
 倍加した雷刃突の威力は凄まじく、デルタの赤いロングコート風の外装を、粉々に刺し貫いてみせた。
「みんな、癒しは任せなさい。私が後ろに居る限り、みんなを支えてみせるわ」
 結衣菜は頼もしい態度でメタリックバーストを展開する。
 全身の装甲から光輝くオウガ粒子を放出し、前衛陣の超感覚を覚醒させて傷を塞いだ。
「まさかエクスガンナー様が見張りしてるとはな!」
 他方、威勢よく挑発めいた口を利くのは酸塊。
「手伝いに行かなくていいのか? なんか面白くねえことやるつもりなんだろ」
 すぐにデルタの懐へ飛び込んで電光石火の蹴りを繰り出し、彼女のくびれたウエストをエアシューズで抉り抜いた。
「貴方達さえいなければ、そうしているところでしたのに……!」
 ひしゃげた腹部を抑えて、デルタが呻く。
 ボカーーン!
 スウは、前衛陣の背後に仕掛けたブレイブマインを起爆。
「やぁデルタちゃん。今度はお前さんに逢いたくて来たぜ」
 色鮮やかなの爆炎で戦場を彩りながら、デルタへ相変わらずナンパするかのような気安さで声をかけた。
「確実に攻撃を命中させる為にも、下準備しないとな」
 大地をも断ち割るかの如き強烈な一打をぶちかますのはチューマ。
 普段は見た目と性格双方噛み合ってのムードメーカーだが、戦闘時の現実的かつシビアな判断力は、誇り高き戦士としての年季によるものだろう。
 ドゴォッ!!
 しかと狙い澄ませた地裂撃はデルタの腹部を破壊すると同時に、目論見通りに動きを鈍らせ、攻撃を避けにくくした。


 ケルベロス達は、予め打ち合わせた通りにデルタを集中攻撃するのへ努めたが、ゼータ達には時々足止め等を試みるだけで相手にしない。
 その甲斐あってか、戦闘が始まって5分、ようやくデルタに疲労の色が見えてきた。
 しかし、こちらも縦横無尽に動き回って敵全体の注意を引き付けんと頑張っていたエスポワールが、やはりディフェンダーとして2人分のダメージに耐え切れなかったのか、ゼータのブレイジングバーストの前に敗れている。
「皆、デルタへ総攻撃だ!」
 タイマーで戦闘可能な10分——その内3分はガンドロイドを見逃すべく待機に当てられた——を計っていたユストが、残り時間2分切ったのを機に号令をかける。
「総攻撃……? 笑わせてくれますわね」
 そうはさせじとデルタは例の遠隔誘導端末を展開、雨のように光線を降り注がせて、前衛陣に強い威圧感を齎す。
 プレッシャーで足を竦ませ、攻撃の手数を減らそうという魂胆だろう。
 だが、デルタは気づいていない。
 威力に勝るデルタクシフォスでケルベロスの頭数を減らすのではなく、デルタガラノスの追加効果に頼って時間稼ぎをしている時点で、防戦一方、もはや勝利の目は無いと言う事に、彼女は気づいていなかった。
 現に、ケルベロス達の意識の表層に蔓延る威圧感も、結衣菜が既に守護星座を描いて対策済み、攻撃時には自然と頭の霧が晴れるように耐性を付けてあった。
 けれどもゼータ達が連射する爆炎が痛くない筈も無いので、戦闘開始からずっと、スターサンクチュアリとジョブレスオーラの使い分けに忙しい結衣菜である。
 そして1分が過ぎ。
「暑い夏は冷えたスイカがいいよね!」
 静夏は、上半身を大きく反らして力を溜め、凄まじい勢いのお辞儀という形で、渾身の頭突きをお見舞いする。
 グラビティ・チェインで冷やした頭のお陰か、命中したデルタの腕がビキビキと凍りついた。
「ずっと、私の、そばにいて」
 美琴の振るう惨殺ナイフ——絶望から漏れ出す亡者の声が、苦痛を与えるのみならず、デルタの意識を眠りへ引き込もうとした。
「俺の一族もよ、元は強大なデウスエクスだった訳でな」
 右腕から冥く紅きグラビティの豪刃を迸らせて尚、ユストはデルタへ親しげに声をかけ続けた。
「だからこの星に馴染めるなら、それに越した事はねえと思ってんだよ……ま、空振りばっかなんだけどな?」
 それでも、斬りつける真紅の魔斧——黄道十二星剣の刃筋からは気持ちの乱れなど感じられず、星をも屠ると謳われる威力でデルタの胸を深々と斬り裂く。
「貫け! 流星牙!」
 紋章の力を借りての突きを繰り出すのは航。
 エンブレムミーティアからヒントを得て会得したという神速の攻撃は、目にも止まらぬ追撃と共に、デルタの体力を大幅に削った。
「さあ、遠慮はいらない。思いっきり畳みかけましょう!」
 と、結衣菜も一斉攻撃に参加すべく、辺り一帯へ魔術を施す。
「音も、光も、そして拍手も無いマジックショーの開幕よ」
 光を曲げ、音を歪めるなど環境を操作する事で、自らの音と気配を極限まで殺し、己が姿をも消したままデルタへ一撃を喰らわせた。
「アタシらが相手してんだ、もっと喜べよ!」
 酸塊は全身を覆うオウガメタルを『鋼の鬼』へ変じさせる。
 その鋼鉄に劣らぬ硬さの拳で、デルタを思いっきり殴りつけた。
「がはっ……!」
 苦しそうに咳込むデルタ。
 もはや彼女のロングコート型の外装は、見る影もなく砕かれている。
「エクスガンナー計画ってさ……いや、教えてはくれないよな」
 スウはそう問いかけながらも、笑って自己完結させる。
 同時に、浮遊した水晶型の爆弾を透明化させ、緩やかな速度でデルタへけしかけた。
「当たり前で——」
 デルタの否定が爆音に掻き消される。
 見えない機雷の自律爆破によって、既に身体を蝕んでいた凍傷の痛みまでが増したようだ。
「超銃器神! ガンッ! グリッ! オォォォォン!!!」
 チューマは義侠心を炎の如く燃え上がらせ、光と化した唱銃GOSPELで、天の彼方から銃の幻獣たる超銃ガングリフォンを召喚。
「マシナリーシュート!」
 そのままガングリフォンと超銃合身して、最大火力の銃弾をデルタの胸へと撃ち込んだ。
「うぐっ……!」
 遂にがくりと膝を着き、地面へ倒れ伏したデルタ。
「……こんなところ、で死ぬ訳に、いかな……私は、ドクターに代わり、計画、を……ゲホッ!」
 血泡のような体液を吐きながら、息も絶え絶えに計画への執着を表したが最後、二度と動かなくなった。
 殆ど時を同じくして、エクスガンナー・ゼータ3体と、機械製品の運び出しに専念していたガンドロイド達が、工場もデルタも捨ておいて撤退していく。
 ケルベロス達がデルタを倒せたのは、時間の上で本当にギリギリだったと判る。
「……残念だよ。もっと違う形でお前さんを口説きたかった」
 次第にサラサラと頽れていくデルタの遺骸へ、帽子の影から真摯な視線を注いで、スウが呟いた。
「ーー手向けだ、持っていきなよ」
 ユストは白い灰の上へそっと花束を投げた。
 その声に呼応するかのように、さぁっと一陣の風が吹いて、花びらと灰を巻き上げていった。

作者:質種剰 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年9月20日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 3
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。