「がっ――は、はな、せ……」
苦しげな声を漏らす男、彼の首には蔦が絡みついていた。蔦は彼の眼前に立つ男の身体から伸びている。
「てっ、テメェ! ケンジを離せ!!」
男の背後から、彼の仲間がナイフを手に迫る。繰り出したナイフはしかし、別の箇所から伸びた蔦に弾かれた。
「ッ! ば、化けも――ぶへぁ!」
言葉の途中で顔を弾かれ、地面を転がる。
「いいぜぇ……この力があればオレは、この街の支配者になれる!」
そう口にしながら振り返った男の顔は、邪悪に歪んでいた。
「よくも俺たちを裏切りやがって! ふざけんな!」
そこへ、先程張り倒された男を含む、数人の若者が武器を手に飛びかかる。
「うぜぇんだよぉ!」
叫んだ男に応えるように地面が直線状に崩れ、若者たちは崩れた地面に飲み込まれ身動きが取れなくなった。
「チクショウ、化け物め……!」
もがく若者の呟きを聞き流し、男は腕を突き出す。腕の先は花に変化しており、そこへ光が集まったかと思うと弾け、若者を貫いた。
「がああぁぁぁ!!」
「ギャハハハハハ!」
全ての若者を殺すまでの間、異形と化した男は笑い続けていた――。
「茨城県かすみがうら市は、一昔前は多くの自然を残した街でした。
ですが近年急激に発展を遂げた一方、各地のアウトローと呼ばれる者たちが夜ごと、争いを起こすようになってしまいました」
集まったケルベロスたちを前に、ヘリオライダーのセリカ・リュミエールが今回予測された事件の経緯を話す。
「それも問題ではありますが、それだけならば皆さんが関わる必要はありませんでした。
ですがアウトローの中に、デウスエクスによって異形化した者が居るとなれば話は別です」
一行の前に巨大な植物と果実、そして一人の人物が映し出された。
「コードネーム、『デウスエクス・ユグドラシル』。自律行動を可能とする巨大植物である彼らは、他の生物を滅ぼし、全ての世界を自分達のものとするために活動します。
また、彼らの生み出す果実は受け入れた生物を攻性植物化させるのです」
今回の事件は、映像のアウトローが『デウスエクス・ユグドラシル』の果実を受け入れたことで引き起こされたのだとセリカは告げた。
「では、現地の状況説明に入ります。今回発生した攻性植物は、ここに居ます」
セリカの指し示したポイントは、他の地域と比べて開発が遅れている場所だった。アウトローはここを根城としているのだという。
「現地には多数のアウトローが居ますが、彼らは特別力を持たない人間ですので、脅威にはなりません。また周囲は荒れた建物がほとんどですので、建物への被害を気にする必要はありません。
攻性植物は肉体の一部を植物に変化させ攻撃してきます。背中の辺りから蔦を伸ばして皆さんを縛り上げ、腕の先に備えた花からは破壊光線を放ちます。
地面を侵食し、崩す力も持ち合わせています。飲み込まれれば身動きを封じられてしまうでしょう。迅速な回復が必要となります」
特性をひと通り説明した後、一瞬視線を落としたセリカはすぐに顔を上げ、言葉を続ける。
「彼は獲得した力に溺れ、殺人を犯すのも時間の問題です。防ぐ手段はただひとつ……彼を滅ぼすのみです。
皆さんの力と連携があれば、必ず撃ち滅ぼすことが出来ると信じています」
言い終えたセリカは最後に、今回同行する仲間を紹介した。
ジェイド・バスカールと名乗った彼の素顔は、特徴的な仮面に覆われてうかがい知ることができない。
「人々を病の苦しみから解放したい。攻性植物の攻撃は状態異常を引き起こすようだ。必ず役に立てるだろう」
その響く言葉には落ち着きがあり、確かな自信を感じさせるものだった。
「では皆さんを、現地へとお連れいたします」
セリカの案内の下、一行は現地へと向かう――。
参加者 | |
---|---|
ディバイン・ディバイダー(地球人のガンスリンガー・e00175) |
メルキューレ・ライルファーレン(青百合レクイエム・e00377) |
ヴォル・シュヴァルツ(黒狗・e00428) |
クリスティーネ・ユーホルト(流浪の姫・e00751) |
芥川・辰乃(終われない物語・e00816) |
朔頼・小夜(東天紅に浮かぶ月・e01037) |
エルツァーレ・バレンデッタ(サキュバスのブレイズキャリバー・e01157) |
水戸坂・乃々(オラトリオの鹵獲術士・e02051) |
●発展都市の影
「あァン? 何だ、テメェら」
装飾品をうるさく鳴らし、青年が自分たちの縄張りに入ってきたよそ者――ケルベロス――らを睨みつける。威勢はそれなりのものだったが、いかんせん相手が悪すぎた。
「お前らに用はねェ。すッこンでろ」
ヴォル・シュヴァルツ(黒狗・e00428)の言葉と共に拡散する殺気が、取り囲んでいたアウトローの集団に伝わっていく。それだけでほどんどのアウトローは腰を抜かし地面にへたり込み、戦う気を無くしてしまう。
「おほー、すげぇ殺気。ビンビンくるぜぇ」
しかしただ一人、ゆっくりとケルベロスたちへ歩いてくる者が居た。ヴォルの殺気を受けて平然としている彼こそが、今回のターゲット――その身にデウスエクス・ユグドラシルの果実を受け入れ攻性植物と化したアウトローだった。
「お兄ちゃん、その力はニセモノだよ? ニセモノの力を手に入れても、本当の強さは手に入らないと思うの……。
ねぇ、お兄ちゃんはためらいもなく人を殺すような強さがほしかったの?」
水戸坂・乃々(オラトリオの鹵獲術士・e02051)の声に、アウトローは邪悪な笑みを浮かべた。直後アウトローの背中辺りから蔓が伸び、その先端は最初にケルベロスを睨みつけた青年へ迫った。
「くっ!」
蔓が青年を貫くかと思われた直前、飛び込んだ里桜が腕を覆う縛霊手でガードする。
「あの化物はアンタを殺す! 命が惜しければさっさとここから離れろ!」
「ヒ、ヒイッ!!」
転びそうになりながら青年がその場から逃げ出し、後を追うように他のアウトローも逃げ出していく。一人残ったアウトローは複数の蔓をその身から伸ばし、ケルベロスたちと対峙する。
「この力はホンモノだ! テメェらをぶっ殺して、それを証明してやらぁ!」
もはやケルベロスたちの言葉は、殺意に目覚めたアウトローには届かなかった。
(「可哀想……こうなってはもう、倒すしか、ないんだね」)
朔頼・小夜(東天紅に浮かぶ月・e01037)が悲しげに目を伏せ、一瞬の後目を開き、戦う意思をその身に宿らせた――。
●力の証明
「ヒャハハハハ!! 崩れろ、崩れろぉ!!」
アウトローの足が植物の根のように変化し、地面を揺るがし崩していく。飲み込まれればケルベロスといえども逃れるのは困難を極めるだろう。
「紙兵さん、みんなを護って!」
乃々の縛霊手から紙の兵が生み出され、崩落する地面に勇敢に立ち向かい、仲間を被害から救う。使役するサーヴァントの『ノア』も主を支援の後、ブレスで応戦する。
「哀れな男の物語は、ここで綴じてしまいましょう」
メルキューレ・ライルファーレン(青百合レクイエム・e00377)の腕から、アウトローが振り乱す蔓と同質の蔓が伸びて激しく打ち合う。氷の茨と緑の蔓の絡み合いは、操る本数の多いアウトロー優位に進んだ。
「苦戦してるじゃねェか。マジメにやってっか?」
「冗談言ってる暇があるなら加勢してください」
「へっ、言われなくても、そうしてやらァ!」
ヴォルの武器に雷が宿り、接触した蔓の表面が剥がされていく。だが蔓の勢いは衰えず、アウトローの本体に攻撃を当てるには至らない。
「吠ゆる犬……の割にはやる、か。だが結果は同じ」
ディバイン・ディバイダー(地球人のガンスリンガー・e00175)の銃から、地獄の炎を纏った弾丸が放たれる。
「うおっ! へへっ、やるじゃねぇか!」
弾丸はアウトローを捉えるが、まだ致命傷とはならない。対してアウトローも腕の先に花を開かせると、光線をディバインへ放つ。こちらも一撃が致命傷とはならなかったものの、次の攻撃を繰り出すことは出来なかった。
「ハル、メルキューレと一旦下がれ!」
命じられたサーヴァントの『ハル』が、疲労の色濃いメルキューレを護衛しながら戦場から一旦離脱する。穴を埋めるようにエルツァーレ・バレンデッタ(サキュバスのブレイズキャリバー・e01157)が前線へ加わった。
「随分とまあ、活きの良いやつだな」
構えたバスターライフルから放たれた炎弾は、蔓の防御壁を貫いてアウトロー本体にダメージを与える。
「あちちちちちち!!」
燃える蔓を振って消して、アウトローがケルベロスたちを睨みつけ、舌打ちする。
「うぜぇな、チクショウ!」
苛立ちを見せたアウトローが再び地面を揺るがす。直接の被害は小さかったものの対処に追われたことで、アウトローが建物の中に逃げ込むのを許してしまう。
「なるほど、建物を盾にするか。突っ込むばかりの脳筋ではないということか。
まぁいい、クリス、追撃するぞ」
「ええ、行きましょ、エルちゃん」
「……この場でその呼び方は、気が抜けるな」
クリスティーネ・ユーホルト(流浪の姫・e00751)とエルツァーレが、逃げたアウトローを追って建物が立ち並ぶ方へと向かっていく――。
●追撃から決着へ
アウトローへの追撃が行われるのと同時に、後方では初段階の戦闘を担当した者たちへの治療が行われる。
「ジェイドさん、メディックの方、お願いします」
「分かった」
芥川・辰乃(終われない物語・e00816)がジェイド・バスカール(サキュバスのウィッチドクター・en0023)の協力の下、負傷した仲間たちへ治療を施す。地面に描かれた守護星座の光が、降り注ぐ薬液の雨がケルベロスたちを一瞬の間に癒やし、再び戦う力を宿らせる。
「ありがとうございます。では、行ってきます」
「あンがとよ! じゃ、行ってくるぜ!」
礼を言い、前線へ戻っていく仲間を見送り、辰乃がふっ、とため息を漏らす。
(「そんな邪なモノまで受け入れて、何故力が必要だったのですか?」)
アウトローにかけようとしていた言葉を心に思う。回答は得られていないが、仲間がかけた同様の言葉にかつての同胞を殺そうとした事で応えた相手だ、自分が言葉をかけても回答が得られるとは思えなかった。
(「力なんて……私は力なんて、なくても良かった」)
ふと浮かんだ言葉を、辰乃が頭を振って打ち消す。主の様子を心配してか、サーヴァントの『棗』が近づいてきた。
「……ふふ。ごめんね、棗。私は大丈夫。
治すこと。それが今、私にできることですから」
ふわふわとした感触を手に受けながら、辰乃が戦況の推移を見守る。
アウトローが潜んでいるであろう建物は、すぐに分かった。その建物だけまるでヒビが入ったような外見をしていたからである。一見ただの自己主張に思えたが、ヒビを形成しているのが蔓であると分かると、アウトローが仕掛けを施しているのではないかという可能性が生まれた。
「迂闊に飛び込むは下策、か。建物自体は殴れば破壊できそうだが」
エルツァーレが縛霊手を軽く建物の壁に当てれば、それだけで新たなヒビが生まれる。とはいえこれだけのものを点で破壊していくのは体力の損耗を招くし、アウトローに次の行動を考えさせる時間を生んでしまう。
「私、が、やってみる……」
小夜が進み出、カードをかざすと何かを小声でつぶやく。するとカードが淡い光を放ちながらひとりでに宙を舞い、建物をくるくると回りながら囲む。やがてカードの放つ光が強くなり、回転も速くなるとまるで光の竜巻のように、建物を巻き込んでいった。
「汝の魂が救われますよう……」
小さく紡がれた言葉は、この建物で命を落とした者への鎮魂の言葉。であると共にアウトローの撃滅を期待した言葉でもあったが――。
「うおおおぉぉぉ!!」
崩落する建物の屋上から、光の風に巻き上げられてアウトローが宙を舞い、地面に落ちる。身体のあちこちに裂傷を負っており、表情には企みを阻まれたことで焦りの色が浮かんでいた。
「ムチャクチャやりやがって!」
怒りに任せた蔓の攻撃が、大技発動直後の小夜を狙う。そのままだと大ダメージの可能性があったが、間にエルツァーレが入り攻撃を受け止める。その間に次の建物へ逃げ込もうとするのを、クリスティーネが的確な狙撃で防いだ。
「同じ手を二度も使わせると思って? さあ、もう逃げ場は無いわ」
クリスティーネに銃口を向けられ、アウトローが顔を歪ませる。そこへ回復に戻っていた前衛メンバーも戦線に復帰し、フルメンバーで迎え撃つ準備が整った。
「……ッざけんなぁぁぁ!!」
咆哮に合わせ、アウトローの足元から伸びる根が地面を崩落させながらケルベロスに迫る。だが既に二度も使われた手を今の彼らがまともに食らうはずもなく、各人の回避と乃々の紙兵で無効化される。
「先程は不覚を取りましたが、今度はそういきません。
氷像にするのは美しくありませんので控えますが――凍りつかせて差し上げます」
メルキューレの一層力強くしなる蔓が、今度はアウトローの振るう蔓を圧倒していく。一部の蔓は接触後凍らされ極度に動きを鈍らされ、そこをヴォルの電撃ほとばしるチェーンが引き裂いていく。
「なんなんだよテメェらは!」
劣勢に追い込まれつつも、腕の先から放った光線はディバインを捉えたかに見えた。だが彼の瞳が炎を宿らせると、最小限の回避動作で攻撃を避ける。
「俺か? 俺はケルベロス――獲物を狩る狂犬だ」
喋るディバインを黙らせる意図で放った光線が、しかしディバインの顔を撃ち抜くことなく過ぎ去る。
「狂犬の刃――しっかり味わえ」
左手で銃を抜き、一瞬で狙いを定めて放った地獄の弾丸が、驚愕に歪んだアウトローの顔を撃ち砕いた。
人間にとっての致命傷――だがアウトローの動きは止まらない。ケルベロスたちの間に動揺が走るが、お腹の辺りに妖しく光る膨らみが出現したことで、そこが『本体』であると悟る。
「そこがターゲットか。いけクリス、私が合わせる」
「よぉし、合わせるわよエルちゃん!」
エルツァーレとクリスティーネ、二人のガンスリンガーが呼吸を合わせて放った弾丸は、見事明滅する膨らみを撃ち抜いた。力を失い崩れ落ちると同時に全身に炎が回り、ほどなく灰となって地面に積まれていった――。
●戦い終わって
一人のアウトローといくつかの建物が破壊された以外は、周囲への影響も無く戦闘は終わった。この場所をたまり場にしていたアウトローたちは、しばらくここに寄り付くことは無いだろう。
「終わっ、た……」
小夜がぺたん、とその場に座り込み、長いようで短かった戦いの時間を振り返る。見下げる手、ほんの少し前この手で他者を滅ぼす力を生み出した――。
「手に入れた、力……それはとても恐ろし、い……力……」
つぶやいた言葉は、アウトローに投げかけた言葉。そのアウトローはケルベロスたちの手で、小夜の目の前に積まれる灰と化した。
(「私の、力も……」)
ぶるっ、と小夜が身震いする。それは決して、夏の終わりの風がもたらしたものではなかった――。
作者:猫宮烈 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2015年9月7日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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