●
シルクハットに、豊かな金髪。
赤い唇を艶めかしく歪め、女は言った。
「あなた達に使命を与えます」
女の目線の先には、男と女、計2名の配下が立っている。
「この町に、見事なカラクリと旋律を織りなすオルゴール職人が居るようです。その人間と接触し、仕事内容を確認。可能ならば習得した後、殺害しなさい」
「グラビティ・チェインは略奪してもしなくても構わないわ」と言い添えれば、
「あたしたちに任せておきなさいよ、ミス・バタフライ。でも、仕事内容を習得しろだなんて、ずいぶん面倒だこと」
「口をつつしめ、スズメ。一見、意味の無いこの事件も、巡り巡って、地球の支配権を大きく揺るがす事になるのだろう」
スズメと呼ばれた女は「はいはい、ヒタキの言う通りですよー」とぼやいて。
一瞬の後には、二人そろって、その場から姿を消した。
●
「『ミス・バタフライ』という名の螺旋忍軍が、動きだしたようだね」
集まったケルベロスたちを見やり、高辻・玲(狂咲・e13363)が口を開く。
「気になってねむ嬢に調べてもらったところ、次は九東・零時(くとう・れいじ)という老齢の『オルゴール職人』が狙われるということがわかったんだ」
傍らに立つ笹島・ねむ(ウェアライダーのヘリオライダー・en0003)が頷き、事件についての説明を引き継ぐ。
「ミス・バタフライが起こそうとしている事件のひとつひとつは、どれも大したことはないんです。でも、小さな事件がめぐりめぐって、後々大きな影響を与えるかもしれません」
螺旋忍軍は職人のもとを訪れ、仕事の情報を得たり、技術を習得した後で殺そうとするおそれがある。
「どうか一般人の保護と、螺旋忍軍の撃破をお願いします!」
「九東おじいちゃんには連絡済みなので、事件の3日くらい前から、工房にお邪魔することができます。事情を話してオルゴール作りに関する技術を教えてもらえれば、螺旋忍軍の標的をみんなにすり変えることができる……んですけど」
ねむの声が段々小さくなるのに気付き、玲が顔を覗きこむ。
「……九東おじいちゃん、オルゴールをすごく大事にしているみたいで」
店番などの雑用は任せても良いが、誰が来ようとオルゴールには一切触らせないと言いきられたらしい。
「九東さんは、たしか数年前に奥さんを亡くされて、今はお一人で工房を切り盛りしているんだったかな?」
「はい。オルゴールだけじゃなくて、手回しオルガンとか、シンギングバードっていう機械仕掛けの鳥さんも居て、本当に素敵な工房なんです! 『フラワークラウン』っていう工房名も、奥さんと一緒に考えたみたいですよ。……でも、奥さんを亡くしてからすっかり頑なになってしまったって、ご近所のみなさんが言っていました」
ケルベロスたちが囮となるためには、オルゴール職人として見習い程度の技術を習得する必要がある。
となると、まずはどうにかして、九東老人と信頼関係を築かねばならない。
「これは少々、手のかかる任務になるかもしれないね……」
玲は腕を組み、ねむに戦闘についての情報を請うた。
「工房を訪れる螺旋忍軍は、2体です。だれか一人でも囮として職人に成り代わることができれば、螺旋忍軍たちはそのひとを『職人』として見るので、ケルベロスとして怪しむことはありません」
修行と称してこちらに有利な状況を作ったうえで、戦闘を仕掛ければいい。
――ただし。
だれも囮になれなかった場合は、一般人と螺旋忍軍が接触するタイミングを狙い、戦闘を仕掛けるしかない。
もし事前に一般人を避難させてしまった場合は、敵が別の対象を狙うなどしてしまい、今回の作戦が水の泡になるため、注意が必要だ。
「九東おじいちゃんはちょっと気難しい方ですけど……。でも、奥さん想いの、とっても優しい方だったみたいなんです」
工房を訪れた時に聴いた哀し気な手回しオルガンの音色と、機械仕掛けの鳥のうた声が忘れられないと、ねむがうつむいて。
「どうすればご老人の心をひらけるかは、今のところ見当がつかないけれど。できうる限りの力を尽くすと、約束するよ」
玲はそう告げ、任務に赴く仲間たちを頼もしく見やった。
参加者 | |
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エンリ・ヴァージュラ(スカイアイズ・e00571) |
楡金・澄華(氷刃・e01056) |
卯京・若雪(花雪・e01967) |
リコリス・ラジアータ(錆びた真鍮歯車・e02164) |
赤羽・イーシュ(ロックロッカーロッケスト・e04755) |
メアリベル・マリス(グースハンプス・e05959) |
高辻・玲(狂咲・e13363) |
歌枕・めろ(夢みる羊飼い・e28166) |
●
1日目。
ケルベロスたちが訪れた工房は、『フラワークラウン』――花かんむりの名の如く、花咲き乱れる庭を擁する広大な木造家屋だった。
聞けば、一度もヒールをかけたことがないという。
年を経た木材は丁寧に磨きあげられ、自然光を生かすべく造られた屋内は、どこもやわらかな陽光に満ちている。
一方、工房の主である九東・零時(くとう・れいじ)は、白髪でありながら背筋の伸びた厳格な老人だった。
必要最低限の説明を済ませ、作業場に籠もるべく背を向ける。
「ご主人は腕のいい方とお聞きした。ここのオルゴール、私でも直せるようになるだろうか?」
「同じく、機械仕掛けの身として緻密な作品たちに興味があります。作製技術を学ぶことはできないでしょうか」
楡金・澄華(氷刃・e01056)とリコリス・ラジアータ(錆びた真鍮歯車・e02164)が問いかけるも、九東はフンと鼻息をつき、事前に言っておいたはずだと続ける。
「雑用は任せてもいい。だが、工房のオルゴールには触るな」
――技術は努力によって培われるもの。
――本人のやる気がなければ身につくはずもない。
そう言われてしまえば、ぐぅの音も出ず。
ケルベロスたちは各々、指示された作業にとりかかった。
赤羽・イーシュ(ロックロッカーロッケスト・e04755)は修理依頼で届いた大型オルゴールの搬入を手伝いながら、交流を試みる。
「俺はギターでロックを歌ってるけどさ。オルゴールだって、綺麗な歌声を聞かせてくれるんだよなあ」
音楽や職人の技術に対していかに興味があるかを熱心に語るも、
「口を動かす暇があるなら、手を動かせ」
荷物はまだまだ来るぞとにべもなく告げ、老人は次の作業を命じる。
高辻・玲(狂咲・e13363)と卯京・若雪(花雪・e01967)は九東の休憩時間を見計らい、作業場に茶菓子をさしいれた。
「おつかれさまです。気分転換に、お茶やお菓子はいかがですか」
「宜しければ休憩がてら、品々やお店のお名前に篭められた想いを、お聞かせいただけませんでしょうか」
見聞も勉強となりますし、なにより純粋に心惹かれるのですと告げるも、
「工房の名は死んだ妻が付けた。おれが語ることなんざ何もねえよ」
茶菓子はありがたくいただくとぶっきらぼうな声が返り、休憩もそこそこに、作業に戻ってしまう。
2日目。
「おはようございます!」
エンリ・ヴァージュラ(スカイアイズ・e00571)は早起きをして、指定時間よりも早く工房を訪れた。
「もし許可をもらえるなら、工房を開ける時間まで、道具やオルゴールの仕組みについて勉強したいんだ」
九東はしばし押し黙った後、エンリを作業場まで案内する。
部屋には、錆だらけの歯車、切れたゼンマイ、磨きあげられたシリンダーなど、ありとあらゆる部品が散らばっている。
手のひらサイズのオルゴールをさし出し、老人は言った。
「これを全て分解し、組み立て直してみろ」
道具はこの部屋のものを好きに使って良い。
制限時間は工房を開けるまでと告げ、朝食をとってくると言い捨て行ってしまう。
「え? ちょ、直接教えてくれるんじゃないの!?」
ともあれ、悩んでいる時間はない。
エンリは腕をまくり、機器の分解に取り掛かる。
夕暮れ時。
メアリベル・マリス(グースハンプス・e05959)と歌枕・めろ(夢みる羊飼い・e28166)と2人のサーヴァントたちは、前日に引き続き、工房中を徹底的に磨きあげていた。
確認に訪れた九東が頷き、今日はもう終わっていいぞと告げて。
おれも今日は店じまいだと呟いたのを逃さず、少女たちがそろって口をひらく。
「奥様は歌手だったのね。生前好きだった歌や、二人の想い出の歌はあるのかしら?」
「めろも、お歌好きなのよ。九東さんはどんな歌が好きなの?」
「……おまえさんたちはピーチクパーチク。質問ばっかりだな」
続けざまに尋ねられ、老人はうんざりした様子で眉根をひそめて。
そこのオルゴールにこれを入れてみろと、メアリベルに古びたコインを手渡す。
示した先には、柱時計を思わせる木製のディスクオルゴール。
機器にコインを投じれば、微かな駆動音を響かせながら儚げな旋律を奏ではじめて。
めろは回転するディスクに、小さく、メッセージが刻まれていることに気づいた。
――我が最愛の妻、サヨに捧ぐ。
気がつけば、工房内は茜色に染まっており。
2人が旋律に聴き惚れている間に、老人はそそくさと姿を消していた。
●
3日目の朝。
九東老人は一向に心をひらいた様子を見せず、状況はかんばしくない。
ケルベロスたちは意を決し、自分たちの意思を伝える時間が欲しいと九東に頼み、作業場に集まった。
「螺旋忍軍の狙いは想像もつきませんが、要らぬ悪用をされるのは私としても不愉快です」
リコリスは元ダモクレスとして、機械仕掛けのモノたちに親近感を持っているのだと想いを伝え。
「ミスタ九東が作ったオルゴールを見て、その音色を聴けば、奥様のことをどんなに愛してたかすぐわかる」
「奥様との想い出に溢れた工房が、哀しみの音色で満ちているというのは、何とも辛く……。僕たちで、なにか力になることはできませんか」
「ご主人と、奥方との想い出を護りたい。ここは私たちに任せてもらえないだろうか?」
メアリベル、若雪、澄華が、九東の想いに訴えかける。
「頼む。オルゴールとの向きあい方を、俺たちにも教えてくれないか、おやっさん」
「真剣に、純粋に――素晴らしい作品の数々や、そこに宿る想いと向きあいたい。そう思ったからこそ、貴方に習いたいと、そして御身と想いを護りたいと、此処に来たのです」
イーシュ、玲も、切々と語りかけて。
「どうか、信じてはいただけませんか」
念を押すように告げるケルベロスたちを前に、老人は固く閉ざしていた眼をひらいた。
「おまえさんたちの言い分はわかった。この二日間、個々の働きぶりも見ていたからな。皆、真面目によくやっていた」
「だが」と、厳しい表情でケルベロスたちを見やる。
「口ではなんとでもいえる。螺旋忍軍も同じだ。おれに教わるためなら、いくらでも調子のいいことを言ってくるだろう」
おれにはひとの心の機微なんざわかりゃしねえ。
だからもし教えるなら、行動からそれが伝わる者にすると決めていたと続け、エンリを見やる。
「おまえさんには昨日と今日の朝、オルゴールの解体と組み立てを指示した。残り時間で基礎知識を叩きこむ。覚えられるな?」
拒否を許さぬ口調。
それは、ヘリオライダーの申し出を受けた時から。
九東もケルベロスたちも覚悟は完了していると、知っているから。
「はい!」
エンリは力強く頷き、一同の覚悟を一心に背負う。
囮をたてて敵と対峙することを確認し、めろも口をひらいた。
「めろ、ここのオルゴール達とても好きになったの。九東さんもオルゴールも、護りたいな」
だから工房にあるオルゴールを偽物と入れ替えてはどうかと提案するも、「おれたちは逃げも隠れもしねえよ」と、老人は首を横に振る。
「壊れたら直せばいい。失ったなら作ればいい。抱いた記憶がある限り、想い出は何度でもよみがえる。だが、おれが殺されれば、技術も想い出も、全部踏みにじられる。それだけは我慢ならねえ」
だから改めて依頼すると続け、8人を見据える。
「おれの命を、おまえたちに託したい」
言われるまでもない。
8人は頷きあい、さっそく、翌日の準備にとりかかった。
●
4日目の昼過ぎ。
予知通りスーツ姿の男女――ヒタキとスズメが工房を訪れ、出迎えた九東に言った。
「我々はあらゆる職人の技術を後世に伝えるべく、記録に遺す仕事をおこなっています」
「九東さまの腕はたしかなものと伺っておりますわ。それでぜひとも、ご協力をお願いしたく参りましたの」
「お話はわかりました。喜んで協力しましょう。ただ、わたしは仕事がありますので」
九東はそう告げ、店の奥からひとりの少女を呼びつける。
「まだ若いが、筋の良い弟子がおります。詳細は、この子に聞いてください」
「さあ、作業場はこっちだよ」
案内を引き継ぎ、職人の弟子――もといエンリが2人を裏口から庭へと連れ出して。
ふいに花に満ちあふれた庭の真中で立ち止まり、赤毛を揺らして振り返る。
「さぁクルル、ともに舞おう!」
声とともにヒタキめがけ降魔の一撃を撃ちこめば、淡い金の毛並みを持つボクスドラゴンが花影から飛びだし、挟み撃ちにするべくブレスをはなつ。
「貴様ケルベロスか! スズメ!」
不意打ちを避けきれず相棒に呼びかけるも、
「わかってるわよ!」
先ほどの老人が本物の職人と気づき工房に戻ろうとするも、時すでに遅し。
2人の周囲は、8人のケルベロスとサーヴァントによって囲まれている。
「私もくノ一だ、仲よく殺しあおうぞ……!」
真っ先に動いたのは、澄華。
「この技、避けきれるかな――?」
スズメの周囲に多数の魔方陣を形成したかと思うと、鋭い閃光で間断なく相手を追い詰めて。
ヒタキが駆け寄ろうとするも、耳に届いたのはリコリスの外道祭文『鉄骨の唄』。
「骨を晒して空を眺めるモノ共よ。喚け、笑え、叫べ、想いを散らせ」
この世のどこかで廃棄された自動演奏楽器のカラクリを召喚し、次々と己が身に組みこんでいく。
やがて、ディスクオルゴールに剥き出しの歯車を組み合わせたかのような拷問器具へと変貌して。
「――世界を、お前の声で揺るがせよ」
リンゴロンと鈍い旋律が響いた瞬間、ヒタキの身を幾重にも抉り斬り刻む。
「君たちには何ひとつ、渡しはしない。無粋な盗人には、散っていただこう」
続く玲も己の頭に戴いた花冠にそっと触れ、抜刀。
雷の霊力を帯びた日本刀で神速の突きを繰りだし、ヒタキへと追い撃ちをかけて。
身動きの取れない相棒を見やり、スズメは舌打ちをして、叫んだ。
「調子に乗るんじゃないわよ、ケルベロス!」
怒りにまかせはなったスズメの蹴りが、炎をまとう。
しかし、
「螺旋忍軍のお姉さん。おいたはそこまでなのよ」
めろが心を貫くエネルギーの矢をはなち、攻撃を相殺。
「職人の技術をパチるってのもロックじゃねぇが、それを自分達のものにしようってのは、もっとロックじゃねぇ!」
催眠状態に陥ったスズメの表情が、イーシュを見やり恐怖に歪んだ。
「ヒイイィ! お許しください、ミス・バタフライ!」
「お望み通り、ロックにぶちのめしてやるぜ!」
逃げようと駆けだすも、ぶん投げたエクスカリバールはぴったりとその背を追従し、スズメの後頭部に直撃。
力尽きた瞬間、コギトエルゴスムと化し、地に落ちて四散する。
ボクスドラゴン『ロック』が、小躍りしながら仲間たちの体力を回復すれば、形成は完全にケルベロス優位だ。
「くっ、散ったか……!」
仲間の死を察しヒタキが眉根を寄せるも、その死をいたむ余裕はない。
決死の覚悟でふたつの大竜巻を生みだすも、すかさずメアリベルが身を投げだし、若雪をかばった。
その間にも、ビハインド『ママ』がポルターガイストを引き起こし、足止め。
ボクスドラゴン『パンドラ』の回復を受けたメアリベルはすぐさま凶悪な形状をした巨大斧を振りかぶり、不敵に笑った。
「リジー・ボーデン斧を振りあげ、お母さんを40回滅多打ち! メアリは41回滅多打ち!!」
お返しとばかりに赤黒い刃を振りおろせば、鋭利な斬風が肉を穿ち、骨を断つ。
不意打ちに先制攻撃。
あげく仲間と戦場を分断され、退路を断たれれば、いかに屈強な大男とて太刀打ちできるはずもなく。
刀を手にした若雪が伏したヒタキの前に立ち、告げる。
「想い出も、技術も。長い歳月と心をかけて、築きあげられたもの。その重みも解さぬ貴方には、早急にお引きとり願いましょう」
花の上に血まみれで横たわる男は、全身に走る痛みに耐えながら、口の端をもたげた。
「戯れ言を。もとより、帰すつもりなどなかろうに」
さもありなん。
青年は微かにうつむき。
白藤の花咲く髪を風に揺らし、唱えた。
「――どうか、加護を」
瞬間、花や蔦がヒタキの身体に絡み咲き、その動きを封じて。
大地の霊力と御業を乗せ、一閃。
心臓に重力の鎖を叩きこまれた男の身体は、瑠璃の宝石と化し。
キンと音をたて、粉々に砕けて、消えた。
●
戦闘終了後。
九東老人が工房から姿を現し、荒れ果てた庭を見やった。
ヒールをかけようとするエンリを、手で直すからそのままにしておいてくれと頼む。
メアリベルとビハインドは崩れた花壇から茎の折れた花を集め、手早く花冠を編みあげて。
「皆に笑顔になってほしくてオルゴールを作り続けてきたミスタ九東が笑顔を忘れちゃ、天国のミセス九東が哀しむわ」
スターチスの花言葉は『変わらぬ心と途絶えぬ記憶』だと告げ花冠を手渡すも、
「おい、待て。だれが『皆に笑顔になってほしくてオルゴールを作ってる』なんて言った?」
おまえさんちょいと夢見がちじゃないかと苦言を呈したうえで、訂正する。
「おれがオルゴールを作りはじめたのは、小夜のためだ。小夜が好きだというから贈った。小夜が嬉しいというから作った。小夜が素敵だというから、工房を持った。それだけだ」
「『小夜』さんというのは、亡くなられた奥方の名でしょうか」
「良いねぇおやっさん。ロックじゃねーか!」
リコリスの言葉に、イーシュと相棒のボクスドラゴンが手を叩き、はやしたてる。
「ともあれ、この度はご協力と技術伝授に感謝を」
澄華が一同を代表して謝意を告げれば、
「また改めて、作品を鑑賞に伺っても良いでしょうか」
「僕もまた、落ち着いて九東さんや作品とお会いできると嬉しいです」
玲と若雪へ向け、老人は「好きにしろ」と短く返す。
「それなら、めろもパンドラと一緒に、今度はお客様として遊びにくるわ!」
先日コインを入れて聞いた曲を、もう一度聴きたいのだと言う。
「そういえばあの曲、『花かんむり』って言うんだよね」
技術習得のための特訓を受けた際にそう聞いたと、エンリが笑って。
「奥さんの歌、オルゴールの音色にあわせてみんなで一緒に歌ってみたいな。もちろん、歌詞は教えてくれるよね、おじいさん?」
はしゃぐ少年少女たちを見やり、ふいに蘇ったのは穏やかに微笑む妻の姿。
工房を建てる、ずっと昔。
――いつか貴方のオルゴールにあわせて、わたしの歌をうたうの。
――そうして穏やかに過ごせる、憩いの場があったら素敵だわ。
九東はたまらず目頭を押さえ、二度と戻らぬ日々を想い、涙する。
「好きにしろ」
それだけを告げ、ケルベロスたちに背を向けた。
あの日、白無垢に身をつつんだ歌姫は、孤独な王に言ったのだ。
『貴方に、永遠に散ることのない「花かんむり」を贈るわ』
願わくば、この先も。
優しくあたたかい音色が、末永く、貴方とともに在りますように、と――。
作者:西東西 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2016年9月20日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 1/感動した 1/素敵だった 5/キャラが大事にされていた 0
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