その工場は怪しく軋む

作者:ZOO

 騒音に配慮して、森の中に作られたその工場は忙しく稼働していた。
 人はほとんどいない。オートメーション化された工場には、警備やモニター監視のための人員が数人いる程度だ。
 規則的に機械が動き、美しいフォルムの車が組みあがる。
 その整然とした流れに突如、不協和音が交じる。
「ズドン!」
 爆発音が工場内に響き、工場の人間たちが慌てて、様子を見に来る。
 彼らはそこで、入口に空いた大きな穴と巨大な四本足の機械を見る。
 その機械の腕が工場の人間たちに向く。
 それが銃口であることに気づいたときには、彼らの意識は肉体と共に消え去っていた。
 人間を塵に変え、ダモクレスは無人の工場を悠然と移動する。
 さまざまな計器が並ぶ部屋に入ると、体からコードのような物を出し、機器に差し込んでいく。
 すると、工場内の活動が一斉に止まった。そして、メキメキと音をたてたかと思うと工場内の壁が謎の金属へ変化していく。
 計器類も形を変え、工場全体の形が変わっていく。
 しばらくして、再び工場は動き出す。しかし、美しい車はもう作られず、得体のしれない何かが生み出されていく。
 森の中の工場は怪しく軋みだした。
 ケルベロスたちに黒瀬・ダンテ(オラトリオのヘリオライダー・en0004) が事件の説明を始める。
「愛知県の郊外にある工場の一つがダモクレスに占拠されたっす。工場に潜入して、工場内の人間を全員殺害。オートメーション化された工場を支配下に置いて、非人間型のダモクレスを量産する機械工場を作ろうとしているみたいっすね。この工場が完成すると周辺の住民たちを巻き込んで、ダモクレスへと改造をされてしまうっす。そうなるとここをダモクレスの大きな拠点にされてしまうっすよ。そうなる前に、工場に潜入してこのダモクレスを撃破してほしいっす。」
 一息おいてから、ダンテが再び説明を始める。
「今回、工場を占拠したダモクレスは一体っす。非人間型のダモクレスでサイズは人間の三倍ほど、多脚型っす。武器はバスターライフルを右腕に装備していて、遠距離の攻撃を得意としているようっす。四本の脚を支えにして、強力な砲撃もしてくるようっす。意外と動きは俊敏みたいなんで、気を付けてくださいっす。ダモクレスは工場の中枢にあるコントロールルームにいるっす。工場内の設備は改造されていて、このコントロールルームもダモクレスが自分で戦闘しやすいように広くて見晴らしのいい作りになっているっす。狙い撃ちされないように気を付けてくださいっす。あと、コントロールルームに行くまでに警備ロボが襲い掛かってくる可能性があるっす。皆さんの能力なら問題ないと思うっすけど、気を付けてくださいっす」
 説明を終えたダンテは思い直したように一言付け加える。
「……この工場が作られると、たくさんの人たちが不幸になるっす。皆さんの力でそんな人たちを守ってくださいっす!」


参加者
アルフレッド・バークリー(殲滅領域・e00148)
夜桜・月華(魔術回路に身を任せた剣士・e00436)
朝霧・紗奈江(カフェテラスオーナー・e00950)
ヘイゼル・ハイドランジア(ティアレタヒチ・e01401)
千軒寺・吏緒(ドラゴニアンのガンスリンガー・e01749)
柊・時雨(東奔西走・e03297)
ミスラ・レンブラント(確約者・e03773)
水納守・摩弥(悠遠古今の導き手・e04571)

■リプレイ

●直進
 ケルベロスたちは不気味に軋む工場へと侵入した。
 侵入といっても、ダモクレスが工場に空けた大穴から入るだけで、容易なことだ。
 工場全体が改造されているにも関わらず、入口付近だけはダモクレスが破壊をしたままになっていた。
 まるで、この大穴から入るように誘い込まれたようでもある。
「まさに侵略者の所業……ですね」
 アルフレッド・バークリー(殲滅領域・e00148)が、大きく空けられた工場の穴を見てつぶやく。
「工場内の、構造、変わってないです。まっすぐ、行くだけ。他には、ありません」
 ヘイゼル・ハイドランジア(ティアレタヒチ・e01401)が、事前に調べた工場見取り図と目の前の工場内部を見ながら確認する。
 入口近くの通路からは生産ラインが見える。
 事件前は車の工場だったはずだが、今、生産ラインで作られているものはどう見ても車の部品ではない何かだ。
 奇妙に甲高い、金属の擦れる音が工場内に響いている。
「神出鬼没に工場を乗っ取り、短期間でこれだけのものを完成させる……。改めて奴等の脅威というものをまざまざと思い知らされるな」
 ミスラ・レンブラント(確約者・e03773)が、生産ラインを覗きながら苦い顔をする。
「ダモクレスの脅威もそうですが、易々と奪われるような警備や設備も問題はあるでしょうね。……ともあれ、ダモクレスを壊して安全を確保、ですね」
 柊・時雨(東奔西走・e03297)が、苦言を呈する。
「そうは言っても、一般の人たちにデウスエクスの正面突破を防ぐような設備や警備を求めるのは難しいよね。これ以上の犠牲者を出さないためにも……絶対に倒そうね」
 水納守・摩弥(悠遠古今の導き手・e04571)がみんなに語り掛ける。
「そうです。人々のためにも、この工場を敵の自由にはさせないのです」
 夜桜・月華(魔術回路に身を任せた剣士・e00436)も同調する。
 工場内部の通路の隅には、未だに黒い塵が残っている。
 元は人間であったはずのその塵が攻撃の凄まじさを物語っている。
「……こういう卑劣な行為を行うロボットさんは、本当に許せませんね~。わたし、精一杯、やっつけちゃいます~」
 朝霧・紗奈江(カフェテラスオーナー・e00950)の口調はおっとりとして柔らかいが、その眼差しは真剣だ。
「そうだな。周辺の住民を守るためにも、ここは絶対に阻止しなきゃならん。ダモクレスの野郎の好きにさせてたまるかッ!」
 千軒寺・吏緒(ドラゴニアンのガンスリンガー・e01749)が、力強く決意を固める。
 長く暗い一本道をケルベロスたちは歩いていく。
 まっすぐに、敵に向かって。

●警備システム
 その音は向かう先から、少しづつ聞こえてきた。
 工場の稼働音とは違う、ザザザ……という音だ。
 それは進むに連れて、はっきりとした音になっていく。
「敵の群れが来たようですね」
 道中、ずっと耳をすませていた月華が戦闘の始まりを告げる。
「群れ……ですか、ボクに任せてください。……舞え、『Device-3395x』!」
 アルフレッドがそう叫ぶと、彼の周りから大量の正八面体が飛び出す。
 青く透き通ったそれはケルベロスたちの前に飛び立ち、迎撃の準備を始める。
 すると、間もなく敵の群れが現れた。
 大きな波のように押し寄せるそれらはよく見れば、蜘蛛のような八本脚の機械だった。
 数も数えられないような機械の群れに向かって、アルフレッドの攻撃が火を噴き始める。
 みるみるうちに数を減らしていく敵の警備ロボット。
 それでも、何体かは攻撃をすり抜けてくるようで、ごそごそと這いよって来てはケルベロスたちに飛びかかってくる。
「邪魔だ」
 吏緒が襲い掛かる数体のロボットに向かって、無造作にルーンアックスを振ると、あっさりとロボットたちが叩き割られていく。
 彼の周りには瞬く間にスクラップが山積していく。
「鉄くずになってもらうのですよ」
 月華は刀を抜いて、機械の群れに突っ込んでいき、流れるような動きで敵を切り裂く。
 その後には真っ二つになった機械たちが転がっていく。
「このスピードに追い付けるですか~?」
 紗奈江が戦闘に向いているのかも怪しい色気のある服装で敵集団の中を駆け回る。
 もし、相手が人間の男であれば、紗奈江の動きを見るだけで多少の動揺があっただろう。軽快に動く彼女に合わせて、彼女の豊かな膨らみも上下に動く。
 あいにく、その魅力に気づくことのない機械の軍勢は無機質に飛びかかっていく。
 しかし、その攻撃は当たることなく、代わりに彼女の放つ弾丸がロボットの急所を次々に打ち抜いていく。
「みんな、ケガはない? 焦らず無理せず、確実に行こうねっ!」
 摩弥がみんなを気遣いながら、両手にナイフを持って機械の襲撃に対応している。
 まるで踊るようにステップを踏み、機械をバラバラにしていく。
 美しいその所作は、それが攻撃であることを忘れさせるほどである。
「わ、ちょっ、もう……このロボット、邪魔ですよぅ……!」
 慌てたような声を出している割りには時雨の表情は余裕しゃくしゃくと言った様子だ。
 文句を言いながらも、刀を抜くまでもなく、刀の柄や鞘に覇気を纏わせて、襲い掛かる機械たちに降魔の一撃を叩き込んでいく。
「クリア、行きましょう」
 ヘイゼルは自身のビハインドと共に迎撃を開始する。
 彼女たちの周りでは氷や雷、機械の破片が飛び回り、それらは周りのケルベロスたちを傷つけることなく、機械をただの鉄くずに変えていく。
 そして、その鉄くずもまた攻撃の材料となり、ロボットを打ち砕いていく。
 警備ロボットにとっては明らかに勝てない相手であるはずのケルベロスたち。
 しかし、無機質な彼らには命令以外の行動ができるはずもなく、どんなに周りの機械があっさりと壊れても、構わずに突っ込んでくる。
 彼らには敗走などないのだ。
「このままでは、コントロールルームまでついてきてしまうな。仕方ないが殲滅だ」
 どんなに少なくなっても襲い掛かってくる機械に少し哀しみを感じつつ、ミスラは自身の手から黒い液体を出し、硬質化したそれで敵を払っていく。
 ロボットは粉々になり、塵となって消える。
 波のように押し寄せてきたロボットたちも風前の灯となり、とうとう最後の一体が真っ二つになって沈黙する。
 物量で攻めてきた敵ではあったが、とうとうケルベロスたちの歩を止めることすらかなわずに、コントロールルームの前まで彼らの侵入を許していた。
 ケルベロスたちの前には一枚の扉。
 ここからが本番だと、彼らの表情は真剣なものに変わる。
 扉は開かれる。

●無機質な悪魔
 扉を開けるとその奥には四脚の脚を持つ機械が待っていた。
 それは頭部のレンズでこちらを確認したかと思うと即座に右手の銃口をこちらに向ける。
「散開だ!」
 攻撃を察知したミスラがいち早く叫ぶ。
 ケルベロスたちがそれぞれの方向に散らばり、敵の射線から離れる。
 一瞬の後、ケルベロスたちがいた扉はダモクレスの砲撃で吹き飛ぶ。
「まずは防御ですね……ヒールドローン!」
 アルフレッドの青く澄んだ正八面体が今度は味方を守るように飛んでいく。
「工場の人たちの無念、わたしたちがはらします~!」
 言ってから紗奈江は勢いよく右手を振る。
 勢いよく放たれた独特の形をした手裏剣が敵に向かって飛んでいく。
 しかし、当たるかに思われた攻撃は意外なほどに俊敏なダモクレスの動きによって避けられる。
「テメーの好きにはさせねーよ、バラしてやる!」
 ダモクレスの避けた進路の先にいた吏緒が斧をかざして見栄を切る。
 ところが、ダモクレスはレンズを一瞬向けただけで、一目散に反対側に逃げ出す。
「やっぱり機械に挑発なんか通じねえか」
 苦笑しながらも、ダモクレスに向かって飛びあがり、敵の脚部に向かって飛び蹴りを放つ。
「スターゲイザー!」
 ガツンと大きな音がしたもののダモクレスは間一髪で脚を引き、吏緒の攻撃を避ける。
 地面に大穴を開けたものの敵にダメージを与えることはできなかった。
 対して、ダモクレスは避けながら右手を上げ、砲撃を放つ。
「ぐうぅ!」
 吏緒は何とかルーンアックスを盾にしたものの大きく吹き飛んでいく。
 幸いなことにアルフレッドのヒールドローンも敵の攻撃を和らげてくれていたのでダメージは大きくない。
「この僕と速さで勝負ですか。……愚かなことです!」
 時雨が二本の刀を抜いて走り出す。
 敵のダモクレスは器用にも顔を時雨に向けたままで後ろ向きに逃げながら走り出す。
「遅い! ……深淵を切り裂く幻影の刃、その身で味わってみますか?」
 時雨が敵の脚部に向かって、紅く染まった刀身を振るう。真っ赤な斬撃がダモクレスを襲う。
 ダモクレスの背後はすでに壁が迫っており、見事に攻撃が当たる。
 はずだった。
 ダモクレスを切り裂くはずだった攻撃は見事に壁を切り裂いており、そこに敵はいなかった。
「どこに!?」
 カチャカチャという金属音が上から聞こえる。
 なんと、ダモクレスは壁に四本の脚を張り付けて移動をしていたのだ。
「まるで蜘蛛ですね」
 時雨が苦々しく声を出す。
「大丈夫、ダモクレスを、追いつめています」
 そこへ、ヘイゼルが杖を持って飛び出す。
「ライトニングボルト!」
 さすがに幾度の攻撃に耐えられず、ダモクレスが雷に打たれる。
 地面に転がりおち、少し動きづらそうに立ち上がる。
「旋刃脚!」
 すかさず、ミスラが追い打ちをかける。
 それを何とか避けるダモクレス。
 しかし、これ以上避けられないと悟ったのか、四本の脚でガッシリと地面に立つと、両腕を合わせて変形させていく。
 するとダモクレスの両腕は一本の巨大な砲台となり、撃つ構えを見せる。
「動きを止めたか……その隙が命取りだ! 撃ち初めの隙を狙う……未だ! 奴の脚を狙え!」
 ダモクレスの動きを見てミスラが叫ぶ。
「待っていました……今日もよく斬れるのです」
 月華が二本の刀をすでに構えており、準備が整っていた。
 走り出し、ダモクレスをとらえる。
「この距離なら、はずさないのですよ。タイミングがぴったりなのです。……魔力があふれてくるのです。みなぎる無限の魔力をうけるのですよ。月華神気乱舞!」
 彼女の武装は魔力によって、さらに強化され、魔法の斬撃が輝きと共にダモクレスを襲っていく。
 しかし、ダモクレスの砲撃も準備が整っており、砲身はすでに光り輝いて、今にも強大な攻撃が放たれる寸前だ。
 一瞬。ほんの一瞬の差だ。
 月華の攻撃が、とうとう狙いに狙った脚部を切り裂く。
 瞬間、ダモクレスのバランスは崩れ、後ろに倒れる。
 砲身は真上を向き、そこで極大の魔力が放出された。
 ズドンという、耳の痛くなるほどの爆発音が響き、工場の天井がまるまる無くなった。
 それでも、残った三本の脚で再び体勢を整え、銃口を構えるダモクレス。
 だが、その攻撃が放たれることはなかった。
「……逃がしはしないっ! インフィニット・レイ!」
 摩弥の背中の羽が強く輝き、その輝きは石を持つように敵に向かって飛んでいく。
 光の束は狙いすましたかのようにダモクレスの構えた砲身に向かう。
 光が当たった瞬間、砲身は大きな音をたてて爆散し、その勢いでダモクレスの上半身ごと吹き飛んだ。
 最後に残った三本足の下半身は未練がましく、地面でバランスを取っていたが、とうとう崩れ落ちた。
 工場を乗っ取ったダモクレスの上半身は奇しくも、彼が人間たちにしたのと同じように塵となって工場の隅に散らばった。

●星空
「皆、お疲れさん」
 吏緒が、みんなに声をかける。
 ダモクレスを倒し、戦士たちはしばし、休息を取っていた。
「おかし、食べます~?」
 紗奈江が自分の胸元からお菓子を取り出す。
「え、いや、ボクは菜食主義ですから……あの、今お菓子って、どこから出しました?」
 アルフレッドが少し顔を赤くする。
「ありがとうございます! 甘いもの欲しかったのですよ!」
 月華が気にせず、お菓子を受け取る。
「私も、欲しいの」
 ヘイゼルも平然とお菓子を食べる。
「す、少し恥じらいがあった方がいいのではないか? ……私も貰おう」
 少し赤面しつつもお菓子を受け取るミスラ。
「ちょっと見回りましたが残党はいないようです。生産ラインもしっかり止まってます。……あれ? 何かあったんですか?」
 工場の確認をしていた時雨がこの場の空気に少し違和感を感じる。
「何もないよ。紗奈江さんがちょっと独特な方法でお菓子を配っていただけ。……それよりほら、星がきれいよ」
 ストレッチをしながら、多少強引に話を逸らす摩弥。
 ケルベロスたちが空を見上げる。
 ダモクレスが開けた天井の大穴からはきれいに星空が覗いていた。
 その景色に今だけは疲れを忘れて見入るケルベロスたち。
 静寂が訪れる。
 そう、静かな時が流れていた。
 この工場が怪しげに軋むことはもう、ない。

作者:ZOO 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2015年10月4日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 0
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