錆弾

作者:刑部

 北海道は釧路湿原の奥地。
「さぁ、次々と行きましょうか。あなたも市街地に行って暴れてきなさい」
 死神テイネコロカムイの言葉に反応し、怪魚型の死神が踊る様に宙を舞うと、スクラップと思われた錆だらけの機械が、きしみ音を立てながら身を起こす。
 それは両腕が銃にになったダモクレス。
 動く度に茶色い錆片を落とし、怪魚型の死神を引き連れ市街地目指して歩を進めるその後ろ姿を、口角を上げたテイネコロカムイが見送る。
 夜の闇に浮かぶ街の灯り目指して進む襲撃者達。
 このまま放置すれば、街は住人達の血で彩られる事は明白であった。

「釧路湿原の近くで、第二次侵略期以前に死亡したデウスエクスが市街地を襲う事案が次々と起こりよる。案の定、死神にサルベージされたっちゅー案件やな」
 腰に手を当て胸を張った杠・千尋(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0044)が、ケルベロス達を前に切り出した。
「サルベージされたデウスエクス……今回のはダモクレスなんやけど、釧路湿原で死んだ訳や無いみたいで、なんか意図があって釧路湿原に運ばれたんかもしれへんな。このダモクレスは、サルベージした死神に変異強化されとって、4体の怪魚型の死神を引き連れとる。
 予知で街への経路は解っとるさかい、人のおらへん湿原の入口辺りで迎撃すんのがええやろな」
 頷くケルベロス達を見ながら説明を続ける千尋。

「奴さんらが街に向うルートはこうやから、ここかここ辺りで迎え撃つんがえぇと思うけどどうやろ?」
「ここだと拓けてますので障害物はありませんが、奇襲とかは難しそうですね。こちらだと奇襲を仕掛ける事が出来るかもしれませんが、木々が戦闘の邪魔になるかもしれません」
 千尋が地図上で指したポイントを見た桐生・冬馬(レプリカントの刀剣士・en0019) が、顎に手を当て私見を述べる。
「まぁどっちにするかは、みんなで相談して決めてくれたらええわ。
 4体の深海魚型の死神は大した事あれへんけど、サルベージされたダモクレスは錆っ錆で動く度に軋み音を立てよるけど、死神に強化されとる筈やし、見た目で判断すると危険やな。
 話す事もできへんみたいやし、交渉とかも無理っぽいからさっさと潰したんのが、彼……彼女かも知れへんけど、の為やな」
 腕を組んだ千尋が、自分って言ってうんうんと頷いている。

「湿原の奥で悪さしとる奴を引っ張り出したいけど、先ずは襲われる街の人らを助けなあかん。ほなヘリオンかっ飛ばすから、みんな頼んだで!」
「人々の平和の為、また、哀れなダモクレスを解放する為に私も尽力致しましょう」
 千尋がそう言うと、冬馬束ねた白い髪を揺らして立ち上がるのだった。


参加者
クロノ・アルザスター(彩雲に煌く霧の剣閃・e00110)
鵺咬・シズク(黒鵺・e00464)
清水・光(地球人のブレイズキャリバー・e01264)
ソネット・マディエンティ(蒼き霹靂・e01532)
スプーキー・ドリズル(弾雨スペクター・e01608)
紫藤・大輔(繋がれていた鎧装騎兵・e03653)
機理原・真理(フォートレスガール・e08508)
メドラウテ・マッカーサー(雷鳴の憤怒・e13102)

■リプレイ


「この地に何かがあるのかしらね? ま、それを探る前に復活ダモクレスを解体してあげないとね」
「遠かったわね北海道。……わざわざこんな所まで運んだって言ってたし、って言うか運び過ぎじゃない?」
 手袋を嵌めた手を腰に当てたメドラウテ・マッカーサー(雷鳴の憤怒・e13102)が、そう言って金髪を揺らすと、くせっ毛を弄んでいたクロノ・アルザスター(彩雲に煌く霧の剣閃・e00110)が、北海道まで連れてこられたのだから、何か美味しい物でも食べて帰らないと割に合わないと、唇を尖らせる。
 そんな二人の会話を遮る様に、湿原の方から耳障りな軋み音が聞こえ始め、雲の隙間から指す月明かりにダモクレスと怪魚型死神の姿が見て取れた。
「死んでもまた……その様な様になってまで、操り人形として動かされるのか……」
「死神か……どうも気に入らないな……」
 軋み音を立てて近づいてくるダモクレス『ポートメビウス』を見たソネット・マディエンティ(蒼き霹靂・e01532)は、かっての同輩に憐みを湛えた……それでいて鋭い視線を向けて呟き、ポートメビウス付き従う様に宙を泳ぐ怪魚を睨んだ紫藤・大輔(繋がれていた鎧装騎兵・e03653)も、その口から言葉を漏らし、手にした黒金式大型破壊槌『鉄塊』をくるっと回して肩に担ぐ。
「じゃあ一斉に点灯するよ。3、2、1、点灯!」
 スプーキー・ドリズル(弾雨スペクター・e01608)の掛け声に従い、ケルベロス達が持ち寄った照明が一斉に焚かれ、闇の中にケルベロス達の姿が浮かび上がると、
「ギギギギ……センメ……ツ……エ……ネミー……」
 一瞬動きを止めたポートメビウスが割れたマイクの様な音を立て、銃口を向けて加速し4体の怪魚が慌ててそれに続く。
「話す事も意志の疎通も無理そう、ですか……無理やり生き返らせられてしまってはいるですが、いやいや敵の事より今はとにかく街を守らなきゃですね……」
 駆動音を響かせるライドキャリバー『プライド・ワン』から、猟犬の外套を翻してひらりと舞い降りた機理原・真理(フォートレスガール・e08508)は、迫る敵と振り返って遥かに望む街の灯りに決意を新たにする。
「見せてやろうぜ。魂を込めた剣は銃にも勝るって事をな!」
「えぇ、矜持を乗せた白刃の威力、知らしめてあげましょう」
 双刃の鯉口を切りながら振り返った鵺咬・シズク(黒鵺・e00464)の言葉に、桐生・冬馬(レプリカントの刀剣士・en0019)も頷き斬霊刀を鞘から抜くと、他のケルベロス達も得物を構える。
「草木も眠る丑三つ時に死せるものを退治する……って言う感じやろか……では各々方参りますえ。……この道を修羅道と知り推して参る」
 その二人を見て僅かに口角を上げた清水・光(地球人のブレイズキャリバー・e01264)は、鉄塊剣を振り下ろして号令すると仲間達と共に毛先の炎を揺らめかせて駆け出した。


「僕の力は微力かもしれないけど、ここを抜かせる訳にはいかないんだよ」
 海硝子色の瞳を細めたスプーキーのケルベロスチェインが、前衛陣を守る様に展開される中、射程ギリギリのラインで立ち止まったポートメビウスが銃弾をばら撒き、牙を剥いた死神達が突っ込んで来る。
「街も、仲間も、どっちも私が守るですよ……!」
「あーっ、お気に入りだったのにぃ! 許さないんだよ」
 シールドユニットを展開し、プライド・ワンと共に仲間を庇った真理が、痛撃と共にジクジクと徐々に広がる錆片の痛みに眉を顰めて唇を噛み、弾き損ねた弾丸に穿たれたクロノが穴の開いた風舞のストールを見て声を上げ、口を開けて突っ込んできた死神の横っ面にエクスカリバールの一撃を叩き込む。
「その不躾な銃弾、届かせやしない。光よ、皆を護る盾となれ」
 次々とポートメビウスがばら撒く弾丸から、千夜の裾を翻してスプーキーを庇う様に立ち塞がったトレイシス・トレイズが、スプーキーに青み掛った緑目を向け口角を上げる。
「ギギギッ……」
 ポートメビウスは死神達の後方に陣取り、軋み音を立ててせり出したミサイルポッドから、次々とミサイルを放ってくる。
「―――治療開始。助けて見せるです」
 目の前でミサイルの直撃を受け、片膝をついた冬馬に緊急救命治療術を施す真理に、横合いから口を開け襲い掛かる怪魚。だが、炎を纏ったプライド・ワンが突っ込んだんだところに、
「あー錆片一緒に飛んでくるとかマジ汚い。さっさと片付けてあいつをぶん殴ってやるんだから」
 キッとポートメビウスを睨んで視線を戻したクロノの蹴りが、プライド・ワンの吶喊で体勢を崩した怪魚に見舞われ、メドラウテと光もその怪魚に攻撃を集中する。
「先ずは1匹だね。思ったより銃弾が鬱陶しいし早く片付けてしまわないと……」
「では自分も攻め手に加わるとするか」
 地に落ちて動かなくなった怪魚から、戦場を見渡してソネットに溜めた気力を飛ばしたスプーキーがごちると、トレイシスも前にでて戦線に加わる。

「死神が前に出て、操られる者が後ろとは珍しいな」
 己の金剛・改の放った弾丸を受け、煙を上げるポートメビウスに大輔が目を細める。その視界の端、3体となった怪魚達と刃を交える仲間達。
「テメエらに光は勿体ねぇがくれてやる。とっとと喰らってあの世に行きやがれ」
 黒衣を翻して踏鳴を起したシズクは、自分に襲い掛かった死神の牙が真理の張ってくれた光の盾に阻まれたところに、残光を残した一撃を見舞う。その一撃に身を翻す怪魚に冬馬が追撃を掛けるが、ポートメビウスの放つ錆びた弾丸が、雨の様に降り注ぎ冬馬の刃は虚しく空を斬る。
「受け取れっ! 癒しの力をっ!」
 その後ろから木下・昇が自分で修理したリボルバー銃から、宝石に込められた魔力を弾丸として発射し、錆弾により肌が変色した光を癒すと、スプーキーと真理も回復を飛ばし戦線を支える。
「お、やるね。俺も負けてられないな」
 その直後、ソネットの放ったマルチプルミサイルが全弾怪魚達に命中し痺れさせたのを見た大輔も、賛辞を口にし砲撃形態に変えた『鉄塊』でポートメビウスを狙い撃ち足止めする。後ろからの敵の援護が止まったのを見計らい、一気に攻勢に出るケルベロス達。
 幾人かが腰に吊るした灯りが、その激しい動きに揺れ周囲濃淡を描く中、
「いい加減目障りだ。消え失せな!」
 冬馬の一撃に、そちらに注意を逸らした怪魚に向って、シズクが放つ双手の斬撃を受け、怪魚はドス黒い体液を滴らせて顔から地面に突っ込む様に落ちた。
 直後、再び金属の軋む音が響きポートメビウスが銃口を揃えて放つ一撃がシズクを狙うも、真理が射線に入り衝撃で吹っ飛ばされ、直ぐに昇とスプーキーが回復を飛ばす。

「さあ、多重ロックオン、纏めていくわよ」
 最初にそうメドラウテが4体の怪魚をロックオンし、無数のレーザーを放ってから既に何合目であろうか?
「あと半分や。せやけど油断せんと確実に削って行くよってにな」
 ちらりとポートメビウスに視線を這わした瞬間、放たれた銃弾を鉄塊剣の刃側面で弾いた光は、そのまま流れる様な動きで風に散る花弁の如く怪魚を斬り刻む。……緋色芙蓉一本で修羅道を推し進む光の決意は固い。
「油断する気は無いけど、一気に押し切るわよ」
 その光にそう返したソネットが放つ多数のミサイルが、2体の怪魚を狙い撃ちその動きを停滞させる。
 ソネットをはじめとして放たれた攻撃により、幾重にも刻まれた麻痺などが既に怪魚達の動きを大きく阻害し、最初の頃の勢いはない。ポートメビウスの方は幾分ましではあるが、大輔の攻撃の影響で、此方も当初程の威力を維持してはいなかった。
 ポートメビウスがばら撒く弾丸が、プライド・ワンの掃射と宙でぶつかり、錆の破片を散らし、残った弾丸がシズク達を穿つ傷も、スプーキーとクロノが回復を飛ばし戦線を支える。
「このダモクレスの役目は遠の昔に終わったのよ。他人が……ましてや死神風情が好き勝手使っていいものじゃない」
 牙の並ぶ口を開けて自分に向って来る怪魚を、侮蔑を込めた藍色の瞳で見つめたソネットの巨大な双剣が地獄の炎に包まれ、強襲用追加スラスターが出力を増すと一気に加速して向え撃ち斬撃を見舞う。更に余勢を駆って残る一体をも斬り抜けた。
「――滅ッ」
 砂煙を上げて動きを止めるソネットの後ろで、浄化の炎に包まれた2体の怪魚が宙を焦がしながら地面に落ちる。
「フッ、無様なものね。ま、何にせよ私達がいる限り、死神の好き勝手にはさせないわ」
「まな板の上の鯉やね。さくっと料理したるわ」
 その2体の怪魚に、メドラウテと光が容赦なくトドメを刺す。
 残るはポートメビウスただ一体。守りを失ったポートメビウスにケルベロス達が殺到してゆく。


 怪魚達という防壁を失い、軋み音を立てながら後退しつつ、弾丸をばら撒くポートメビウス。
「主役を支えるのが俺の仕事です」
「戦略的には正しい判断かもしれないけど、そう簡単に見逃す訳ないでしょ。さ、鉄くずに還ってもらうわよ」
 昇の放つ弾丸が足止めし、メドラウテの放った冷凍光線が関節部分を凍らせ、敵の動きが更に鈍ると、
「簡単に逃がさへんよ」
 その隙に光がポートメビウスの後ろへと回り込む。
 逃げられないと判断したのか、その場で足を止め、上半身を回転させながら弾丸をばら撒くポートメビウス。
「私がっ……全部、支える、です!」
 その弾丸を受けながらも、歯を食いしばってプライド・ワンを突っ込ませ、光の盾を展開する真理。
「往生際の悪い……」
「だが、あと一押しだよ」
 顔目掛けて飛んで来た弾丸を曼珠沙華の刀身で防いだトレイシスは、散った錆片に裂かれた頬の浅い傷を指でなぞってごち、そのまま距離を詰め、後ろからスプーキーが溜めた気力を飛ばしてトレイシスを支え、
(「君も僕も老いた銃使いだが……」)
 その頼もしき相棒の背中越しに冬馬相手に足掻くポートメビウスの姿に、目を細めるスプーキー。
「内蔵機関起動! やってやるぜぇぇ!」
 更に畳み掛けるケルベロス達。大輔の体にスパークが爆ぜ、加速吶喊しつつ腕に収束するエネルギー。振るわれるラリアットが、思わずガード行動をとったポートメビウスの右腕をふっ飛ばし、くるくると宙で回った銃身が少し離れた地面に突き刺さる。
「もう回復は任せていいよね? 私もいっくよー」
「ほな、終わりにしよか。いざ仮初の命、散り乱れ、北地の闇夜に緋色の花を咲かせ!」
 攻撃力を半減されたポートメビウスにクロノと光の挟撃。
 クロノの振るう得物がポートメビウスの装甲を砕き、光の多重斬撃が更なる出血を強いる。
「二度とこんな真似させることの無い様、二度と誰かに利用されることの無い様……」
 そのクロノに向けた左腕の銃口をソネットの剛剣が斬り落とした。
「なかなかの退屈しのぎだったぜ、ゆっくり休みな」 
 攻撃手段を失ったポートメビウスを、ポニーテールを躍らせたシズクの双刃が裂くと、内部で小さな爆発が起こる。
「エラー……キノウ……イ……ジフ……ノウ……」
 マイクの割れた様な音声を発し煙を上げたポートメビウスは、糸が切れた様に膝から崩れ落ち、そのまま前のめりに倒れて動かなくなったのである。

「……ふぅ」
「……操られて生きるより、その方がましでしょうよ」
 大きく息を吐いたシズクが両刃の露を払って鞘に納める隣、ソネットも動かなくなったポートメビウスを見ながらゆっくりと刃を下す。
(「僕にはまだ、数多の凶弾から未来ある者達を護る仕事が残っていてね。先に逝って観ていてくれ、この星の行末を……」)
 その後ろでスプーキーはそう心の中で語り掛ける。
「終了終了っと、観光したいから置いて帰ってもらうってのはありかな? 釧路の名物って何かあったっけ」
「まったく、切り替えが早えな」
 いそいそとガイドブックを取り出すクロノに、ツッコミを入れる大輔。
「その前に目視確認ぐらいは、しっかりとしとかんとやな」
 その2人に背を向け、灯りを掲げて湿原側に目を凝らす光。
「テイネコロカムイ……絶対、このまま好きにはさせないですよ」
「そうそう、何を考えてるか知らないけど、引っ張り出してやらないとね」
 その灯すら飲む込む闇の湿原に目を凝らし真理が呟くと、腕を組んだメドラウテも同じ様に鋭い眼光を闇に向ける。
「では戻りましょう。軽挙妄動するならまた片付けるまでです」
 冬馬が踵を返すと皆もそれに続く。
 こうして錆つき朽ちゆく眠りから無理やり醒まされた哀れなダモクレスを屠り、一行は湿原を後にしたのだった。

作者:刑部 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年9月20日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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