●
清潔感と暖かみを感じる内装。BGMは落ち着いたジャズ。
オススメは、ドリンク付きでワンコインのケーキセット。
一見して普通に見えるカフェは、閉店を間近に控えていた。
「……はぁ。何がいけなかったのかしら」
酷く落ち込んだ様子の女店主が、気晴らしにとサイフォンからコーヒーを注ぐ。
そのまま飲むのもいいが、やはり軽く砂糖くらいは入れておきたいものだ。
ガラスの角砂糖入れを取り出して……。
ちゃぽん。
ちゃぽん、ちゃぽん。
ちゃぽん、ちゃぽん、ちゃぽんちゃぽんちゃぽんちゃぽんちゃぽんちゃぽん――。
「……もっと甘いモノを作ったほうが良かったのかしら」
閉店理由が、そこに垣間見えた。
女店主の味覚は常軌を逸しており、作るもの全てが並の人間にとって『甘すぎた』のだ。
泥のようなコーヒーを、女店主は物憂げな顔でグルグルとかき回す。
そこへ突如として現れる、魔女ドリームイーター集団『パッチワーク』が一人。
第十の魔女・ゲリュオン。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『後悔』を奪わせてもらいましょう」
ゲリュオンが鍵で胸を貫くと女店主は倒れたが、不思議と血は溢れない。
代わりに湧き出るのは、女店主の『後悔』から生まれたドリームイーター。
それは女店主を調理場の奥に放り込むと、鼻歌交じりでケーキを作り出す。
当然、砂糖たんまりのレシピで。
●
「……甘くては駄目なのか」
とんでもない甘党であるラームス・アトリウム(ドルイドの薬剤騎士・e06249)には、もしかしたら閉店理由が理解できなかった、かもしれない。
「私も甘いものは好きだけれど……ねぇ」
件の女店主はよく身体を壊さなかったものだと思いつつ、ミィル・ケントニス(ウェアライダーのヘリオライダー・en0134)は事件の説明を始めた。
「自分のお店を持つ夢を叶えたのに、そのお店を畳むことになって『後悔』をしている人。それを、ゲリュオンの名を持つドリームイーターが襲うわ」
ゲリュオンは『後悔』を奪ってすぐに消えてしまうが、後悔から現実化した新たなドリームイーターが事件を起こそうとしている。
被害が出る前に、このドリームイーターを撃破して欲しいというのが依頼の概要だ。
「被害者の女性店主は店の奥に転がっているみたいね。ドリームイーターを倒せば、目を覚ますはずよ」
現場は、住宅街の裏路地にある小さなカフェ。
ドリームイーターは1体のみで、カフェ店員のような格好をしているという。
「武器は食品を模したモザイクの塊ね。調理で計量したりするからかしら、狙いの正確な攻撃を仕掛けてくるわ。……味覚はズレてるけれど」
このドリームイーターが店の営業を続けているが、元から潰れる間際の店、客は1人も居ない。
殴り込みをかければ戦いになるだろうが、ここは一つ、客として訪れてみてはどうかとミィルは提案する。
「皆がお客さんとして満足した様子を見せると、『後悔』から生まれたドリームイーターは弱体化するようなの。今回の場合、コーヒーとケーキくらいを美味しそうに食べてあげれば、攻撃に正確性がなくなるってことね」
被害者が意識を取り戻した際、抱えていた後悔を薄めることにも繋がる。
ぜひ客として向かって欲しいところだが、やはり難点は飲食物の内容だろうか。
「甘いもの好きだから~なんて考えで行くと、多分吐くわよ。同じくらい極甘党の人ならともかく、普通の味覚を持ってると思う人は『頑張って』完食することになると思うわ」
「でも、甘いものが美味しくないわけないよね」
口を挟んだのはフィオナ・シェリオール(地球人の鎧装騎兵・en0203)。
今回の依頼には、彼女も同行するそうだ。
「……まぁ、味の好みは人それぞれだから、ね。……とにかく、敵を満足させてあげるつもりなら、苦しげな顔とかは見せないようにするのよ」
参加者 | |
---|---|
佐竹・勇華(は勇者になりたい・e00771) |
エルモア・イェルネフェルト(金赤の狙撃手・e03004) |
浅羽・馨(星斗・e05077) |
ラームス・アトリウム(ドルイドの薬剤騎士・e06249) |
シェルナ・オーヴェスト(忘れえぬ幼心・e12071) |
クローネ・ラヴクラフト(月風の魔法使い・e26671) |
カスタード・シュー(甘党剣士・e27793) |
ルト・ファルーク(千一夜の紡ぎ手・e28924) |
●
扉を開いた途端に鼻をくすぐる、強烈な甘い香り。
総勢11名のケルベロスたちは、まず嗅覚に先制攻撃を受けていた。
しかし何のこれしき。すっと店の中に入って、ラームス・アトリウム(ドルイドの薬剤騎士・e06249)がゆっくりと息を吸う。
鼻腔を通り抜けた空気は、肺を通して直接、血液に糖分を送り込んでくるようだ。
「……もし、もう少し早くこの店を見つけられていたなら……」
地上の楽園を口惜しげに見回して、しかしラームスは自身の言を否定するように首を振った。
自分一人で足繁く通ったところで、大した延命処置にもならなかっただろう。
それに、もう閉店は決まってしまった事。今はドリームイーター退治という目的に集中しなければ。
思い直したラームスの身体を、寄り添うように付き従っていたシェルナ・オーヴェスト(忘れえぬ幼心・e12071)が小突く。
「お兄さま、あれ……」
ひそひそと囁く異母妹に促されて、見やった方から近づいてくるのは緩い笑みを浮かべた店主。
件のドリームイーターだろう。柔和な雰囲気を醸す女性に見えるそれは、合わせた手を頬の横に添えながら言った。
「……あら、あらあら! お客様?」
年単位で練乳に漬けてきたような甘ったるい声は、元となった女店主のせいだろうか。
誰とはなしに客であることを告げると、ドリームイーターは一段と大きく喜びを露わにして、一行を案内する。
ケルベロスたちは素直に付いていくが、最後に入店した浅羽・馨(星斗・e05077)は静かに扉を閉めてからこっそりと鍵を探して……店外に佇む木下・昇を見つけた。
彼が居るなら、万が一にも一般客が紛れ込む心配はあるまい。
施錠はせずに仲間たちの元へ戻ると、ドリームイーターは気を利かせてテーブルを動かし、全員で囲めるように整えてくれている。
「お水をお持ちしますから、メニューでもご覧になっていて下さいね」
上機嫌で足取りも軽い敵に会釈して、席に着く一行。
「……何があるのかなぁ……」
佐竹・勇華(は勇者になりたい・e00771)が呟きながら、おもむろにメニュー表を捲る。
レザー調の外装で数枚のラミネートされた紙を綴じているそれには、ありふれた菓子類やら飲料の名前が並んでいた。
その中にあって程々に目を引くのは、やはり――。
「あ、これにしよう。ケーキとドリンクのセット!」
「組み合わせ方は……結構、自由ですのね。でしたらわたくしは、コーヒーとチョコレートケーキを」
「ぼくは苺のショートケーキと紅茶にしようかな。皆は何にする?」
早速、注文を決めたエルモア・イェルネフェルト(金赤の狙撃手・e03004)に続いて、クローネ・ラヴクラフト(月風の魔法使い・e26671)が仲間たちに話を振った。
「私は……これと、これとこれと――」
「そんなに食べるでござるか? ……拙者はコーヒーのブラックで」
まず答えたのは、クローネの付き添いとして左右を挟み込む友人二人、長谷川・わかなと岩櫃・風太郎。
「わたしもイチゴのショートに、紅茶でいいかな」
「いちごショートは定番だもんねー。……でも、ボクはカフェオレとモンブラン!」
勇華が指し示したショートケーキの写真に釣られつつ、フィオナ・シェリオール(地球人の鎧装騎兵・en0203)が手を上げる。
「私はコーヒーで……ケーキは、チーズケーキにしよう。ファルーク君は?」
「オレはシェケラートとクロワッサン、だな」
わざわざカフェにまで足を運んでいるのだ。たまにはそういう、気取ったものも悪くないだろう。
馨の問いかけにルト・ファルーク(千一夜の紡ぎ手・e28924)が返すと、お盆いっぱいにお冷を載せて戻ってきたドリームイーターが、慈母のような笑みを湛えて尋ねた。
「お決まりですか?」
「……あぁ。チョコケーキと紅茶を、砂糖多めで」
まるで当たり前だと言わんばかりに、一文を付け加えるラームス。
それを真正面から見つめて、ふと我に返ったシェルナはフルーツタルトとストレートの紅茶を頼み、他の者たちも先ほど決めた組み合わせを繰り返した。
「――クロワッサン、と。……あら、そちらの方は?」
取りまとめたドリームイーターが首を傾げた事で、ケルベロスたちもそれに気付く。
ただ一人、カスタード・シュー(甘党剣士・e27793)の注文が決まっていない。
好みが多くて目移りしているのだろうか。
そんな想像を、カスタードは威勢の良い言葉で吹き飛ばした。
「このお店で、一番甘い物を下さい!」
●
入店して数分。鼻の方もすっかり慣れてきたらしい。
神経が少しずつ聴覚へと比重を傾けた事で、ジャズの音色も聞こえてきた。
そのまま音楽に身を委ね、注文した品々を待つケルベロスたち。
やがて大仰なカートに全員分の料理を詰め込んで、ドリームイーターがやってくる。
「わぁ、美味しそう……」
目の前に置かれたものを見つめて、勇華は素直な声を漏らした。
黄色と白を交互に重ねた三角形の上に鎮座する、真っ赤な苺。
紛れもなく、それは麗しのショートケーキだ。
ついで、鏡のように艶やかなチョコレートケーキ。しっとりと芳しい香りのチーズケーキ。
紐状のクリームが綺麗に重ねられたモンブラン。宝石を詰め込んだように色鮮やかなフルーツタルト。
食べる前からサクサクと音が聞こえてきそうな、ふっくら菱形のクロワッサンと、次々に並べられる料理はどれも素晴らしい出来栄えに見える。
……なんだ、意外と普通だよ。
一瞬でもそう思わせてくれたテーブルの平穏を、しかし非情な侵略者たちはあっさりとぶち壊した。
「――えっ」
シェルナは目を瞬かせて、見間違いでないことを確かめる。
ストレートティー。これが、ストレートティー……?
カップに入ったそれは琥珀色をした砂糖そのもの。むしろザラメではないかとの疑いもかけられた。
他の仲間に出されたものの中には、純白の砂糖が雪山のようにそびえているカップまである。
甘いものは年相応に好きだと思っているが、これは……と、黙ってラームスに目を向けたシェルナは、この場に限って兄が超えられない境界の向こうに居るものであると悟った。
「……甘い。美味しい」
砂糖――ではなく紅茶を口にした後、チョコレートケーキを一欠片放り込む。
本来なら聞こえてくるはずのない砂利を噛むような咀嚼音を鳴らして、ゆっくりと嚥下したラームスは彼方を見つめながら余韻を味わっていた。
「お、お兄さま……」
これまでに積み上げてきたものがすっかり崩壊――というほどではないにしろ、見たことのない『お兄さま』が出てきてしまっていることに困惑するシェルナ。
彼女を置き去りにしたまま、他の者たちはスプーンやフォークを手に取る。
「さぁ、甘々ティータイムの始まりだね」
「これを全部食べていいなんて幸せー!」
「いただきまーす!」
密やかなクローネの声にわかなと勇華が答えて、恐らく楽しい、お茶の時間が始まった。
「まずはこの、砂糖の入ったコーヒーをかき混ぜ……混ぜ……!?」
黒い塊の一端がファサァ……と音を立てて崩れるのを見るなり、目を輝かせるエルモア。
「あぁ、たまりませんわね! ほら、ご覧になって? カップの中心にストローが刺さりますわ!」
「なんでストロー使ってるの?」
「丁度、こんな状態のコーヒーをストローで飲むキャラクターをアニメで見たのよ。普段は使いませんわ」
フィオナの疑問に答えて、エルモアはストローを口に含んだ。
「……これはこしあんでござるか?」
同じものと対峙していた風太郎が、ペースト状になったそれを訝しみながら突く。
色も相まって、コーヒーは見ているだけで胃がもたれそうな程の重量感だ。
(「く、口の中がじゃりじゃりする……」)
一口啜った馨の口は、もにょもにょと波打つ。
チーズケーキも見た目の加減からは想像がつかない程に甘く、感触はサブレのようだった。
どうして、こんなに甘すぎる食べ物を生み出してしまったのか。
そうでなければ、店を畳まずとも済みそうな程の腕はあるような気がしなくもないのだが。
驚愕と疑問を心の中に押し込めつつ、馨は気合で涼しい顔を浮かべて、前向きな反応を示した。
「これはまた新触感だな!……美味しいぞ!」
「本当ですわ! この砂糖そのものを食べているかの様な甘さ、海外にも通用する味ですわね!」
強引にも半固体のコーヒーをストローで吸い上げ、褒めているのか貶してるのか分からない評価を下したエルモアに、給仕を終えたドリームイーターはニコリと変わらぬ笑みを返す。
「……あ、少しお行儀が悪かったかしら? ごめんあそばせ」
「いいのよぉ。楽しそうに食べてもらえて嬉しいわぁ」
たーんと召し上がれ。そう言って、ドリームイーターは食事風景から一向に目を離そうとしない。
シェルナは観念して、フルーツタルトに手を付けた。
(「……うへえ、甘すぎて味覚がおかしくなりそうなんだよ」)
見た目こそタルトだが、これは砂糖菓子だ。
カップを傾けても流れない紅茶も口に含んだところで、シェルナは鈍器で殴られたような衝撃を受ける。
「すまない、モンブランを追加で」
兄だ。チョコケーキは、もう無い。
(「どうしてお兄さまは涼しい顔をしているんだよ……」)
啜り泣きそうになりながら、シェルナは敵が離れた隙に、封印箱として置いていたボクスドラゴンのトパーツィオを呼び出してタルトの欠片を食べさせる。
もぐもぐ。もぐもぐ。
激甘タルトに対して特に反応も見せず、しかしトパーツィオは、再び封印箱状態に戻ってしまった。
(「うう、頑張って食べるんだよ……」)
頼れるのは自分だけ。ちょびちょびとタルトをつまみながら、シェルナは仲間を見やる。
(「……クローネ殿が美味しそうに食べているのに、水を差すわけには!」)
ぼそりと呟くなり、九字でも切りそうな雰囲気でブラックコーヒーを掻き込む風太郎は、恐らくこちら側なのだろう。
しかし他の者は大体、兄と同じ世界に片足を突っ込んでいるようだ。
「日本のケーキは甘さ控えめすぎますわ。これくらいで、ちょうどいいと思いますの」
本当は角砂糖を入れるところからやってみたかったと零しつつ、またストローでコーヒーを啜るエルモア。
「……ちょっと甘いけど、美味しい。うん、美味しいね。紅茶も……この甘さがいいよね」
「あのあの! 天辺に乗ってる栗、角砂糖みたいだったよ!」
フォークで切り取った生クリームたっぷりのケーキと紅茶を口に運ぶ勇華に、フィオナが騒ぎ立てている。
「おかわりくださーい!」
「次は何を頼むのかな? ……へぇ、黒糖とか蜂蜜を使ったものもあるんだね。わかな、一口頂戴?」
「もちろん! こんなに美味しいのに、なんでお客さん来ないんだろうねー」
「そうだね。あ、風太郎のコーヒーも、飲む……いや、食べてみたいな」
既に10種類以上のケーキを食べ尽くして、なお糖質の頂を目指すわかなとクローネは恍惚とした表情を見せていた。
「んー! 甘い! 美味しい!」
カスタードに至っては、一体何を食べているのだろうか。
何か粘度の高い液体に包まれた……四角いもの。
(「……落雁?」)
幼い頃から和菓子に馴染みがある馨が好奇の目を向けると、それの正体は程なく、ドリームイーターから明らかにされた。
「お口にあったようでなによりですわぁ。揚げ砂糖のシロップ漬け」
(「何だよそれ……」)
黙々とシェケラート――という名のパフェとしか思えないものを口に運んでいたルトが、ついに若干の恐怖と畏敬の念を覚えてカスタードに視線を送った。
何処かに実在する食べ物なのだろうか。それとも店主の創作料理か。
尋ねるべきか否かと考えて、ルトはより重大な事実に気がついてしまう。
(「……あれ、なんか……」)
砂糖を焼いただけのようなクロワッサンが、妙に美味しく感じる。
きっと強烈な甘さに揉まれた舌が、慣れて麻痺してきているのだろう。
怯えの矛先を自分にも向けつつ、それを気取られないように楽しいティータイムを維持することに努めて、ルトはクロワッサンを頬張り続けた。
●
「ご馳走様」
手を合わせて、丁寧に食後の挨拶を述べる勇華。
楽しみながら、味わいながら、ほんのちょっぴり苦しみながら。
完食を果たしたケルベロスの前には、空のカップと皿が積まれていた。
「まさかこんなに食べて貰えるなんて……」
感極まったのか、ドリームイーターは薄っすらと目を潤ませている。
些か気は引けるが、そろそろ仕事を、次の段階へと進めなければならない。
「たっぷりと味わった事だし、食後の運動といこうか」
仲間を見回し、白毛のオルトロスのお師匠を呼んで、クローネは魔導書を開く。
「ご馳走様の気持ちを籠めて叩き込んであげよう。……あ、ワンコインだから、おつりはいらないよ?」
何を言って……?
小首を傾げるドリームイーターの身体を、ドラゴンの幻影が襲った。
壁に叩きつけられてグラビティを受けたのだと理解したときには、次の攻撃が放たれている。
「さぁ、狙い撃ちますわよー!」
エルモアがバスタービームを発射するのに合わせて、フィオナも両手に持つバスターライフルの引き金を引いた。
三条の光線がドリームイーターを包み込み、それが消え失せるのを待たず勇華とルトが詰め寄っていく。
「がつんといくよ!」
まずは勇華が敵の構造を解析しつつ、上腕部のない改造和服の袖を振りながら全力の掌底を一撃。
すぐさま飛び退けば、今度はルトがバールのようなものの先端を思い切り叩き込んだ。
「これでもかってくらいエネルギーは補給したからな。……攻撃あるのみだぜ!」
摂取したカロリーを全て注ぎ込むような勢いで、ぼこすこに打撃を喰らわせていくルト。
装甲と言うべき衣服を乱れさせたドリームイーターは、そこでようやくまともな抵抗を始めてルトを振り払い、何やら黒々とした液体を生み出して放った。
だが、その攻撃は粗雑極まりない。
半分程度は明後日の方向へ飛んでいき、残りは――。
「ツィオ、お兄さまを守るんだよ!」
トパーツィオと共に立ちはだかったシェルナ、そしてお師匠と馨に防がれてしまう。
「大したことはなさそうだな」
服についた液体を払う馨。
ジャズに変わって響く、わかなの『紅瞳覚醒』に心が奮起するのを感じれば、戦闘になったことで店内に突入してきた昇が、宝石に封じられた魔力を弾丸に変えて飛ばし、傷を癒やしてくれた。
その後にはラームスが薬液の雨まで振らせて、身体は綺麗サッパリ、もう何ともない。
満足して弱体化したドリームイーターの攻撃なら、このまま十分に耐えきれそうだ。
次の攻撃は警戒しつつも、馨は左手に聖なる光でドリームイーターを引き寄せ、右手に纏った漆黒の闇を叩きつける。
「今度は、お兄さまに力を分けてあげるんだよ」
ツィオに指示して、シェルナも時空を凍結する弾丸を撃ち出した。
着弾点をカスタードが小刀で切り裂くと、返り血の代わりに大量の砂糖が吹き出してくる。
「あぁっ……」
抜けていく力を埋めるべく、ドリームイーターは砂糖の袋そのものを生み出して千切り、水でも飲むかのように口へ注ぎ始めた。
しかし、それで弱まった力を取り戻すことは出来ない。
「モノの限度を知れ、愚か者め!」
魔人に変貌した風太郎が叫び、螺旋を籠めたエネルギー光球を左足でボレーシュート。
銃弾が金属をぶち抜いたかのような衝撃音を立て、炸裂した一撃にまた壁際にまで追いやられたドリームイーターを、和服の短い丈から黒いスパッツを見せつけるように勢い付けた勇華の、振り下ろしの蹴りが襲う。
薄いピンクのブーツが容赦なく叩きつけられ、ふらりと倒れそうになった所で轟く雷霆。
「貫き穿つ! お前の体も、その魂も!」
ルトが腰に携えたジャンビーアで開く扉から、迸る雷鳴を掴み上げて槍のように。
そのまま全身全霊を籠めて投げつけると、心の臓があるべき部分を貫かれたドリームイーターは、さらさらと白い粉になって崩れ落ちていった。
「確かに甘いものは美味しいよな。ついつい色んな物を甘くしちゃう気持ちはよくわかる」
店内をヒールした後、本物の店主を見つけたケルベロスたち。
馨が普通のコーヒーを啜る横で、ルトがこんこんと、店主を諭している。
「でも世の中には甘いのが苦手な人もいるだろうし、ダメ元で砂糖控えめのメニューも作ってみたらどうだ?」
提案にカルチャーショックを受け、固まる店主にラームスがそっと、ケルベロスカードを手渡した。
「……甘いメニューは、隠しメニューにしておいたほうがいい」
二度目の衝撃。そんなに酷かったかと茫然自失の店主。しかし。
「もしあなたがもう一度店を出したなら……、その時は、また来よう」
「お店の経営はケーキと違って甘くはないですが、きっとまた食べにいきますから!」
「今度はぼくも、ケーキセットのおかわり、させてほしいな」
続くラームスとカスタード、クローネの言葉に、店主は緩やかな笑みを返して再起を誓う。
「……はぁ。ここのケーキ美味しかったなぁ……」
最後に店の外観をしげしげと眺めて、零す勇華。
すっかり甘さに飲まれてしまったか、何人かは後ろ髪引かれる想いを抱きつつ、カフェを後にしていくのだった。
作者:天枷由良 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
|
種類:
公開:2016年9月17日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
|
||
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 6
|
||
あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
|
||
シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
|