正義の暴力

作者:雨乃香

 市街地にも光のあまり届かない入り組んだ路地裏というものがある。
 深夜ともなれば、通りからもれる微かな光だけが照らす不気味なその空間を、辺りをきょろきょろと見回しながら歩く少年の姿があった。
「三日目です。今日も捜索を始めたいと思います」
 手元のレコーダーに語りかけ、少年は裏路地をゆっくりと歩いていく。
 足元には誰が捨てたのか、ゴミ袋や空き瓶、雑誌といった様々なものが放置され、時折足をとられる。
「些細な悪にも力を持って対抗するというオルトロス仮面の実態を探るべく今日もこうして深夜の街を彷徨っています」
 足音を殺し、耳を澄ませ、少年は歩く。
 ふと、曲がり角の先から空き缶が転がるような音が聞こえた。
 物音を立てないように駆け、建物の影に隠れ、恐る恐る少年は曲がり角の先を覗き込む。
 しかしそこに彼の求めるものの姿はない。肩を落とし、溜息を突いた彼は、その背後に迫る脅威に気づかない。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの興味にとても興味があります」
 その言葉を耳にする間もなく、少年は意識を失い、鍵が引き抜かれるのと同時に、その体は力なくその場に崩れ落ちる。
 そしてその影から立ち上がるように、犬の仮面を被った屈強な男がゆらりと立ち上がる。

「どんな些細な悪すら力を持ってねじ伏せる謎の覆面ヒーロー。皆さんはそんな噂を聞いたことがありますか?」
 ニア・シャッテン(サキュバスのヘリオライダー・en0089)は部屋のカレンダーをめくりつつ、やってきたケルベロス達に軽く視線を向け、そんな風に話を切り出した。
「創作の世界であればよく聞く話ですが、現実にはまずありえない話ですよね。今回はそんな噂話に興味を抱き、調査していた少年がドリームイーターに襲われてしまい、このなんともいえないヒーローが現実に現れてしまったようです」
 まぁ元々この噂話からして微妙にヒーローらしからぬところがあるのですが……と困ったように呟きながら、ニアは詳しい噂話の説明をはじめた。
 なんでもこの噂話が流れている一帯では、煙草のポイ捨てから痴漢、ひったくりから殺人犯まで、悪事の大小にかかわらず、夜の時間帯に悪事を働いたものは皆犬の仮面を被った謎の存在、オルトロス仮面に手酷くいためつけらるのだという。
「そんなわけで、皆さんに今回戦ってもらうのはこの実体化したオルトロス仮面ですね。彼は悪人を見つけると、自らの噂について知っているかどうかを問い、知っていれば殺してしまい、知らなければ、名乗りを上げ、半殺しですますようですね。余程噂を広めたいのでしょうか?」
 確かにそんな存在がいることが広まれば怖くて犯罪など出来なくなるかもしれませんがと、ニアは呆れたようにいいながら、そのドリームイーターの戦闘方法を端的にケルベロス達に伝える。
 基本的に体術だけを使い立ち回ってくるものの、近接戦闘にだけ特化しているわけはなく、オールラウンドに戦え、かなりタフであるということだ。
「何でもかんでも力でねじ伏せればいいというのは、ニアは正直賛成しかねますね。こんな迷惑なヒーローもどきのさらに偽者なんて不快な存在はさっさと片付けて街に本当の平和を取り戻してあげましょう」


参加者
ミリアム・フォルテ(緋蒼を繰る者・e00108)
春日・いぶき(遊具箱・e00678)
フォーネリアス・スカーレット(空を蹂躙する突撃騎士・e02877)
黒谷・理(マシラ・e03175)
螺堂・セイヤ(螺旋竜・e05343)
八神・鎮紅(紫閃月華・e22875)
北條・計都(神穿つ凶兆の星・e28570)

■リプレイ


 人の姿の見当たらない深夜の市街地、昼間の喧騒に比べ怖いほどに静かな街の風景はどこか異界じみて不気味に映る。
 唯一明かりを点すコンビニの店員は手持ち無沙汰にゆっくりと進む時計の針を見つめてばかりいる。
 そんなコンビニから数百メートルほど離れた場所に位置する公園には、数人の男女があつまり、とある噂について言葉を交わしていた。
「此処等で何やらとても強い正義の味方とやらが出ると聞いた、其方等は何か知らぬだろうか」
 そのなかでも頭一つ高い、ドラゴニアンの男、ガイスト・リントヴルム(宵藍・e00822)の問いかけに対し、どこか気だるげに黒谷・理(マシラ・e03175)はぶっきらぼうに言葉を返す。
「ああ……オルトロス仮面とかいうふざけたヒーロー気取りだろ?」
 馬鹿にするように笑う彼に対し、八神・鎮紅(紫閃月華・e22875)は気まずげな表情を浮かべながら口を開く。
「悪事の規模に関わらずどんな悪人にも等しく暴力で対応するという話ですが……それがどうかしたんですか?」
「彼の者が底知れぬ強さを秘めた者と耳にしておる、その真否を確かめたくこうして参った次第」
 武人然としたガイストの返答に、理は口の端を吊り上げ、鎮紅は不安げに二人の顔を見つめた。
 それぞれの態度に触れることなくガイストは頭を下げる。
「情報感謝する、くれぐれも夜道には気をつけ――」
「実に興味深いです、その話詳しく聞かせていただきましょう」
 ガイストの言葉を遮り、夜の公園に高らかな声が響き渡る。
「――何奴」
 突然の乱入者に、ガイストは背に鎮紅を庇いつつ、そちらへと視線を向ける。
 鉄製の、四角い枠組みをいくつも組み合わせた遊具の上、月を背に立つ二つの影。
「ふっはっは! 私は怪人串刺し卿。お前達を串刺しにしてやるのだー」
 高笑いと共に、フォーネリアス・スカーレット(空を蹂躙する突撃騎士・e02877)は手にした馬上槍の穂先をガイストたちの方へと向けた。
「話を聞きだした後実験体にするのですから、くれぐれも殺さないようにお願いします」
 落ち着きを払いフォーネリアスを宥めるように春日・いぶき(遊具箱・e00678)は声をかけるも、彼自身もその手に抜き身のナイフを握り、十分な敵意を放っている。
 しかしフォーネリアスはいぶきの言葉を聞いているのかいないのか、遊具から優雅に飛び降りると、三人の前に立ちはだかる。
「さあ、もっと泣き喚け! 串刺しはそれが一番の楽しみだからなぁ~。ハッハッハー」
 怯えた様子を見せる鎮紅の様子に、フォーネリアスは上機嫌で声をあげ、立ちふさがるガイストとの距離を一歩詰めた。


「そこまでにしておけ」
 突如響くその声にその場にいる誰もが自然と視線を引き寄せられた。
 街灯の影の暗がりからゆっくりと現れる、大柄な体。
 全身をぴったりとした黒い布地で覆い、肌の露出するところは一切なく、胸元、腕、足には体系にあった金属製の防具を身につけ、何よりも目を引くのはそれらを同じ材質の頭部を覆う犬の仮面。
 奇抜な姿をしたその男は、いぶき達とも、ガイスト達とも距離をとった場所で足を止めると、フォーネリアスを睨みつけた。
「この街でまだ悪事を働こうと思うものがいるとはな」
 仮面越しだというのにくぐもる事のないその声はどこか呆れたような響きを含んでいる。
「私の楽しみを邪魔するとは……貴様、何者だ!」
「何様か知りませんが僕らの邪魔をしないでください」
 フォーネリアスといぶきが武器を構え威嚇するものの、男が動じた様子はない。
「知らぬのなら教えてやろう。そして、その名を世に広く知らしめるがいい」
 拳から人差し指と中指だけを鉤爪のように曲げた独特の構えを取りそれは名乗る。
「私の名はオルトロス仮面」 
 男が名乗ると同時、混沌とした深夜の公園の様相に、更なる混沌が飛び込んでくる。
「どうも偽オルトロス仮面さん、オルトロス仮面です」
 ライドキャリバーにまたがり赤いマフラーを靡かせ飛び込んできたのは、オルトロス仮面に扮した、北條・計都(神穿つ凶兆の星・e28570)。
「奇遇だな俺もオルトロス仮面……いや、ケルベロス仮面と名乗っておこうか……?」
 さらに、空中より舞い降り、膝を立て着地を決めた螺堂・セイヤ(螺旋竜・e05343)の姿もまたオルトロス仮面に瓜二つ。
「騙されるな! そいつは偽物だ! このマフラーが本物の証拠だ!」
 靡くマフラーを指し声を上げる計都に対し男は動揺した様子も見せず、自らが本物であると名乗りを上げることもない。ただ構えを解くことなく短く息を吐くだけだ。
「本物か偽者かなど些細なこと。目の前に悪がいる、それを滅ぼすことを邪魔するものがいる。ならば、力で押し通すまで。
 勝ったものこそが正義。力こそが絶対に正しいのだ」
 男はそう言いきるとその公園にいる全員をゆっくりと見回す。
「諸悪が二人、それを遮るものが二人、深夜に出歩く不審者が三人……纏めて正義を執行してやる、かかってくるがいい」
 この場にいる者全てを裁くと暴論を振りかざす男に対し、セイヤも構えを取って相対する。
「……本来、俺は正義のヒーローを名乗る等、柄ではないが、貴様の様な輩にヒーローを名乗られるのも気分が悪い……ここで滅ぼしてやる」
 仮面の下、互いに視線をぶつけ合う二人の間で緊張が高まっていく。


 だがオルトロス仮面が注視しているのは正面のセイヤだけではない。周囲の六人に対しても動揺に気を張り、不審な動きがないかを探りつついつでも反応できるよう、呼吸を整えている。
 それは同時に、それ以外の事象に対しての警戒が低下していることを意味する。
 その絶対的な隙を一人隠れ潜んでいたミリアム・フォルテ(緋蒼を繰る者・e00108)は逃さない。
 鹵獲魔術により具現化した黒塗りの弓から放たれた矢は男の背中へと深々と突き立つものの、男の厚い肉の鎧に阻まれ、致命傷にはなりえない。
「これだから脳筋は」
「新手か」
 慌てる様子もなく小さく呟く男。その攻撃を皮切りに、ケルベロス達は一斉に攻撃を仕掛ける。
 先手を取ったセイヤの頭部を狙う蹴りを男は腕を立て受ける。がっしりと構えた男の体は揺るぐことなく、その一撃を受け止める。
 仮面の下セイヤは思わず、口元を緩め、体が震えるのを感じた。
 その隙に背後からと周り、両の手のナイフを握り締めた理が切りかかる。瞬間、男の体が理の目の前から掻き消え、その数メートル先に男の姿が現れる、まさに驚異的な移動速度。
「一つ手合わせ願おうか」
 対面する敵の実力にガイストは笑みを浮かべ、繰り出すのは指を伸ばした突きの一撃。
 敵の気脈を断ち、肉体を硬化させるその一撃が男の体に突き立つ。
 返る衝撃は肉を貫く感触ではない。鋼を突いたかのような衝撃にガイストは顔を顰める。
 仮面より漏れ聞こえる犬のような荒い呼吸の音。特殊な呼吸によって体を硬質化させ、男はその攻撃を防いでいた。
 お返しとばかりに男の繰り出す突きを回避したガイストの頭上を、いぶきの投射したカプセルが越え、男へと直撃。
 衝撃と共にそれはデウスエクスだけを対象とするするウイルスを周囲へと散布し、先程男の見せた呼吸法を一時的に封じ込める。
「確かにこれは正義の味方とは言いがたい。しかし、勝てば正義。負ければ悪のデスマッチ。解りやすくていいでしょう」
 先程までの演技と同様に、やや飄々とした口調でいぶきは言いながら、男の動きを注視しつつ、最前線から少し距離をとる。
 男は得体の知れないカプセルの効果範囲から逃れようと移動し、それ追って計都はライドキャリバー、こがらす丸のアクセルを回す。
 車体と計都が炎を纏い男へと向けて突撃する。車体重量と速度を乗せた強烈な蹴りが男の体を襲う。
 咄嗟にその一撃を受け止めた男の体が衝撃に揺れ、炎がその巨体を包む。だが男は怯まない、旋回し、離脱しようとする計都へと向かい、腕を突き出す。
「煌めく星々の加護を、此処に」
 鎮紅が手にしたダガーに魔力を通し、剣を投影する。それを地に突き立てると同時、地に浮かび上がる魔方陣が瞬く間に広がり、男の手を阻むように守りの加護を展開する。
 男はそれ以上の追撃を諦めると手を引き、再び構えを取り直す。その手から逃れた計都もまた、ライドキャリバーを止め、男へと視線を向け、自らのマスクに手をかけた。
「何がオルトロス仮面だふざけやがって!」
 叫びと同時、音を立てて叩き付けられたマスクが点々と地を跳ねる。その様子を唖然として眺めるのはむしろ仲間であるケルベロス達だ。
「男なら……素顔一つで勝負せんかい!」
 八月も終わったとはいえまだ蒸し暑い夜が続く中、マスクと炎のサウナ状態が相当堪えたのか、言葉遣いまでもがどこかおかしい。
「彼、関西圏の出身だっの?」
「いや、どうだったかな……」
 遠巻きにその様子を眺め、困惑するミリアムとセイヤの事など異にも解さず、オルトロス仮面は至極まっとうに言葉を返す。
「茶番はお終いか? 嘘に塗れた者どもよ。なれば一人ずつ順に正義を騙ったその罪償ってもらうぞ」
「できるものならやってみなさいよ」
 もはや演技など必要ないと、フォーネリアスは盾を突き出し、槍を体の脇に寝かせるように構える。
「確かに怪人ってのは嘘だけど、アンタを串刺しに来たのは本当よ!」
「後悔するな、女子供が相手であろうと私は加減などせぬぞ」
「騎士を見た目で判断すると痛い目みるわよ」
 言葉と共に、フォーネリアスは地を蹴り、翼を羽ばたかせ加速する。


 取り回しの効かない武器とその小柄な体では自然動きは直線的になる。加速しつつ真っ直ぐに進むその攻撃の軌道を読むのは男には容易い。
 槍の穂先が虚空を貫き、フォーネリアスの体が男の脇をぬける。その体を捕らえようとした振り替える男の視界に彼女の姿はない。
 男の背後に抜け、斜め上方へと駆け上がりターンを決めたフォーネリアスの体は既に男の頭上。死角からの急降下突撃が男を襲う。
「ぬっ!」
 呼吸による鋼体化も回避も許さない一撃が男の胸元を貫く。
 男の体へと両足で着地、同時に膝を曲げ衝撃を押し付けつ、伸び上がる反動で槍を引き抜き、フォーネリアスは離脱する。
 大きく男の右胸に開いた穴、その傷口から覗く不気味に蠢くモザイクの断面。 
 どうだ、とばかりに振り向いたフォーネリアスの視界を犬の仮面が一杯に埋め尽くしていた。
 驚く間もなく衝撃がその胸を貫く。
 鎧すらも貫通した突き出された二本の指は体内に侵入すると同時、再び鉤のように曲げられ、傷口を広げ引き戻すと同時、周囲の肉を引きちぎり、激痛を与える。
 声を上げなかったのを彼女の持ち前の精神故か、しかし、意識と体が男の動きへとついていかない、引き戻される右腕と入れ替わるように、左の突きが既に繰り出されている。
 フォーネリアスの目を抉り取るべく放たれた一撃は彼の予想を外し、こがらす丸に跨り割り入った計都の肩口を掠めた。衝撃に車体を揺らし、計都は顔を顰めつつも、フォーネリアスの体を片手で抱きかかえると、旋回し男から距離を取ろうとする。
 そうはさせまいと踏み出す男の体にセイヤの突き出した拳が襲い掛かる。
 両の腕を十字に組み、受けた男の体が、数歩後ずさる。
 続く理の電光石火の足技が男のガードを跳ね除け、穴の開いた胸元をがら空きにさせる。
 そこへ叩き込まれる、ガイストの爪による一撃。内から引き裂くように振るわれた爪は男の体を深く抉りとる。
 しかし、男はまだ沈まない。他の一切を切り捨て自らの体だけで戦うそれは、咆哮をあげ渾身の蹴りを放つ。間合いをつめていたケルベロス達を一撃で纏めて吹き飛ばすその威力。
 オルトロス仮面がそのまま向かうのは、いまだいぶきの治療を受けるフォーネリアスの元。それに気づきつつも迎撃に手を回せないいぶきを守るように、ミリアムが男の前に立ち塞がる。
 とにかく注意を惹きつける。そんな意図がありありと読み取れる怒涛の攻撃。
 黒鎖を打ち出し、槍を突き出し、蹴りを放つ。攻撃に攻撃を重ねるミリアムの連撃を男は無視する。目の前の攻撃は目くらましであり、優先すべきは手負いを確実に排除することだと、男の中でははっきりと優先度が決定付けられていた。
「頭が足りてないわね」
 その視野の狭さが仇となるとも知らず。
 確かにミリアムの攻撃は目くらましであり、注意をひきつけるためのものに過ぎなかったが、それはいぶき達を守るためではない。本命は、その背後へと忍び寄っている鎮紅の行動を気づかせないため。
 鎮紅が指差すように男の方へ腕を突き出すと同時、その意志に従い、黒い流体は大きく口を開いて男を丸呑みにする。力では引きちぎることの出来ない粘性の液体の拘束。
「一発で駄目ならもう一発、それでも駄目なら全弾撃ち込む……!」
 動きを封じられた男の胸元に計都は狙いをつけ、立て続けに引き金を引き絞る。込められた弾丸全てを吐き出し、硝煙を立ち上らせる銃口の先では、ついに男が膝をついた。
「正義を行動で示すのはいいと思うけど、結局最後に負けたアンタは正義じゃあないわ。正義を名乗る資格があるのは常に、勝者だけよ」
 いぶきの言葉も聞かず治療もおざなりに男の前にフォーネリアスは立つ。
「そうだ、それでいい……力こそが正義。私の考えは貴様等が体現していくことになる……」
 顔を伏したままそういう男に、もはや抵抗の意思は感じられない。フォーネリアスの槍が男の体を貫き、地へと突き立つ。
 その体はノイズがはしるかのように、モザイクに掻き消え、跡形もなく消え去る。音を立てて地に落ちた仮面すらもモザイクに飲まれて夜の闇へと消えていった。

● 
 周囲の復元を終え、ケルベロス達は帰路へとつく。
 静寂を取り戻した夜の街ではすれ違うものも居らず、平和な景色が広がっている。
「しかしこんな荒唐無稽な噂、いったいなんで流れたんだ?」
「最近ではあまり聞きませんが、お天道様が見てる、というのと一緒なのでは?」
 いぶきの言葉にセイヤは周囲に視線をめぐらせる。たしかにその言葉通り、夜に出歩く人影が見られないのは確かなことだ。例え信じていなくても、人というのは噂に少なからず影響を受ける。
「あるいは本当にモチーフとなった人物がいた可能性も否定できないでしょう」
 いつの間にか投げ捨てたマスクを回収し被りなおしている計都のその姿を仲間達はあえて無視し歩を進める。
「真に存在するのであれば、是非とも手合わせを願いたいところだ」
「夢を見るのはいいけど、興味は奪われないようにしてね。あんなのそうなんどもみたくないわよ」
 ガイストの言葉にミリアムが冗談めかして返すと、小さく笑いが漏れる。
 寝静まった街の中、その活躍を知るものの少ないヒーロー達の夜はゆっくりと更けていく。

作者:雨乃香 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年9月9日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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