竜牙兵との激闘!

作者:緒方蛍

 夕方のショッピングセンターの駐車場。事件はそこで起こる。
 夕食の買い物客で賑わうその店の前に、突然巨大な牙が突き刺さった。かと思うと、その牙が突如として人の形に似た化け物へと姿を変えたのだ。
「グラビティ・チェイン……ヨコセ……」
 見た目は落ち武者のような化け物。最終目的は拠点であるグラビティ・チェインの略奪、そして拠点の城ヶ島近辺から人間たちを追い払うこと。
 化け物は壊れたオルゴールのような声でそう言うと、周囲の客たちを無差別に殺戮し始める。
「モット……モットダ……」
 虚ろになった買い物客の血や臓物に塗れた駐車場。化け物の高笑が響き渡った――。
「皆さんに悪いニュースっす」
 ケルベロスたちが揃うなり、黒瀬・ダンテがそう切り出した。
「ドラゴンの勢力が、鎌倉の戦いの後でエインヘリアルとの勢力争いを見据えて城ヶ島に潜伏・集結してたみたいで、三浦半島南端の城ヶ島がドラゴン勢力に制圧されたっす」
 この拠点化の一環として、竜牙兵を城ヶ島周辺の市街地に送り込み、破壊工作を行おうとしているという。
「このままだと多くの人が殺されるだけでなく、グラビティ・チェインも奪われるっす。だから急いでヘリオンで現場に直行、竜牙兵の凶行を阻止して欲しいっす」
 ただし制約があり、今回は事前に周囲への避難勧告ができない、とダンテは眉を寄せた。
「事前にすると、竜牙兵が他の場所に出現してしまうんで、事件を阻止できないばかりか被害が大きくなるっす。だから、竜牙兵が出現してすぐ、ヘリオンから降下して現場に到着した後なら警察とかに避難誘導してもらえるんす。一般人の批難はそっちに任せて、できる限り早くこの竜牙兵を撃破してほしいっす」
 多くの買い物客で賑わうショッピングセンターの駐車場が戦場になりそうだ、とダンテは言った。
「現れる竜牙兵は3体。全員ゾディアックソード装備で攻撃してくるっす。皆さんが現場に到着すると、竜牙兵は人間には目もくれずに皆さんを攻撃してくるっす」
 ただし竜牙兵は劣勢となって敗北しそうな状況になってもなお、戦意喪失などはせずに最後まで戦いを挑んでくる。
「人間ではなくケルベロスである皆さんを先に攻撃してくるのは、ドラゴンの性格的なもので、こういう命令をしているみたいっすね」
 ダンテは地図を睨みながら言う。
「竜牙兵の目的は、拠点である城ヶ島周辺から人間を駆逐することっす。大きな被害が出ればそれだけ不安になった人々が逃げ出して、城ヶ島付近は無人になるかもしれないっす」
 長期的な戦いを見据えるなら、それは好ましくない。次々と戦場を広げるだろうドラゴンたちにより、最終的には日本全土を攻略されてしまうかもしれないからだ。
「それを防ぐために、なんとしてもここで被害を食い止めて欲しいっす。皆さんを信頼してるっす……!」
 ダンテは強い口調で言い切ると、ケルベロスたちへ信頼の眼差しを向けた。


参加者
アイリス・グランベール(烈風の戦姫・e00398)
ウェイン・ロザイク(ドクターロジック・e01222)
柊・紅空(シャドウエルフのウィッチドクター・e01995)
逆黒川・龍之介(剣戟の修練者・e03683)
ヒルデガルト・アイテンブルク(喰らい妨げる拳・e04112)
神寅・闇號虎(ダークダストクルセイダー・e09010)
朽木・紫(未だ檻の中・e13095)
春日・せおり(久遠の記憶・e13596)

■リプレイ

 夕暮れのショッピングセンターは様々な種族が、おそらく夕食の食材などを買うために賑わいを見せていた。それは上空からもショッピングセンターの屋上駐車場に何台も駐車されていることで視認できた。
 予知された竜牙兵の出現を見守っていたケルベロスのひとり、アイリス・グランベール(烈風の戦姫・e00398)がはっとした表情をした。
「……竜牙兵を確認しました。降下します!」
 宣言とともにヘリオンから降下する。それに続き、ケルベロスたちが次々とショッピングセンターの屋上へと降り立った。
 敵であるデウスエクス──竜牙兵は3体。
 突如現れた異質な存在に気付いたショッピングセンターの客たちが悲鳴をあげる。
 長い金の髪をなびかせたアイリスはそのうちの1体、今にも一般人に襲いかかろうとした二刀流の竜牙兵へ烈風のごとき一太刀を浴びせた。
「あなたたちの相手は、私たちケルベロスです」
 鋭い眼差しで睨みつけると、竜牙兵は彼らの目的を阻害した者たち、ケルベロスのほうへ向き直る。まずは気を逸らさせることに成功した。
 その後ろで、アイリスに続いて降下した逆黒川・龍之介(剣戟の修練者・e03683)が、驚き戸惑い混乱する客たちへ、騒ぎを聞きつけてやってきた警察へは春日・せおり(久遠の記憶・e13596)がそれぞれ声をかける。
「俺たちはケルベロスだ。あのデウスエクスは俺たちが葬る。急いで建物の中へ避難してほしい。おまえたちに危害を加えさせることはしない」
「この場は私たちに任せて、あなた方は早く安全な場所へ!」
 駐車場にいる者たちへ声をかけ、避難を促す。年寄りには肩を貸し、建物の中へと導いた。柊・紅空(シャドウエルフのウィッチドクター・e01995)が殺界形成をほどこしたおかげもあり、一般人は速やかにバトルフィールドとなる駐車場から姿を消していく。
 そうして大型乗用車の傍に出現した竜牙兵には朽木・紫(未だ檻の中・e13095)がせおりのビハインド『さくら』と、駐車場の柵近くに出現した二刀流の竜牙兵には神寅・闇號虎(ダークダストクルセイダー・e09010)がヒルデガルト・アイテンブルク(喰らい妨げる拳・e04112)のライドキャリバー『アヒム・グラース』と一緒に対峙する。
 紫と闇號虎がサーヴァントとタッグを組み2体を抑えている間にアイリスが攻撃した1体を他の者たちで倒し、続いてどちらかの竜牙兵を倒していく、高速での各個撃破の構えだ。


 一般人への誘導を後目に、速く動いたのはヘリオンの中でライドキャリバーに乗ったまま念入りな柔軟をしていたヒルデガルトだ。踏み出す足に力を込め、竜牙兵に肉薄する!
「おまえたちはここで滅びるがいい」
 竜を模したガントレットのうち、左手の竜の上顎を竜牙兵の腹へ叩き込む。超硬度に鍛えられた上顎は、確実に竜牙兵に喰らい付いた。
「ガッハァ……ッ」
 クリティカルとはいかなかったが、腕には確実な手応え。
「あなたたちに差し上げるグラビティ・チェインはありません……!」
 間を置かず、紅空が黒き塊の銃弾を放つ。これは避けられ、肩を掠めたにとどまった。
「有利な状況に持ち込めるに越した事はない。……一撃目、受けてもらおう」
 ウェイン・ロザイク(ドクターロジック・e01222)が影のように気配を消して竜牙兵の脇へ現れ、体のあらゆるところに収納していたメスで攻式手術「解体工程」を展開、反撃しようとしたゾディアックソードを右側のメスのいくつかで受け流すと、左側のアームのメスを竜牙兵の腕へ突き立てる!
 間抜けた声をあげた竜牙兵も、一方的にやられてはくれなかった。
「ギュオオオオ」
 手にしたゾディアックソードがきらめき、星に宿された星座のオーラがウェインをさらに狙う。
「っく……!」
 避けきれず、太腿に食らった。だが傷は浅い。まだ戦える。
 仲間たちの背後で戦況を見ていたせおりが、離れたところで闇號虎と共に戦っているビハインド、さくらにちらりと視線を送った後、眼前の敵を厳しく見つめる。
(「無差別の殺戮など、させるわけにはまいりません。……さくら、頼みます」)
 少なくとも、闇號虎が対峙している竜牙兵を倒すまで。
 そうしてまだ仲間たちへのダメージが少ないと見ると、2枚の符を取り出した。素早く竜牙兵に投げつける。──符の、共振。
「其は揺らぎ、静かなる揺らぎ。集いて猛き波動となり、貴公の敵を破壊する者なり」
 高らかな詠唱。そして竜牙兵へダメージ!
 そこで攻撃の手が止むわけがなかった。
「吹き荒れよ、烈風!」
 機は今と見たアイリスが風魔法を斬霊刀の白煌へ集め、竜牙兵へと踏み込んで叩き込む!
 ぐらりと揺れた竜牙兵にさらなる連撃をと、ヒルデガルトが懐へ飛んだ。青の瞳が夕日を受けてきらきらと輝く。
「貴様の全てを私が打ち砕いてやろう。魂に刻め。その魂を食らい野望を妨げる者、ヒルデガルト・アイテンブルクの名を!!」
 右手の竜の下顎で竜牙兵の顔を殴り体勢を崩させたかと思うと、右手の竜の上顎をみぞおちへ深く食らわせた!
「グア、ガ……」
 二つ折りになった竜牙兵が地に倒れ伏す。びくびくと打ち上げられた魚のように痙攣していた体はやがて静まり、その体が風に吹かれて灰になる。
「よし!」
 残るは2体──!


 闇號虎が竜牙兵と対峙した場所は、幸いにして駐車している車が少なかった。
(「これなら……邪魔にはならんか」)
 他2体と分断され、どう見ても友好的ではない空気をまとったケルベロスとサーヴァントを前に、それらが敵であると見なした竜牙兵が2刀の剣を閃かせる。それを不敵な表情で迎え撃つ構え。
「……来い、叩きのめす」
「ギアアアアアッ」
 挑発に苛立ったように竜牙兵が突進してくる。2刀だが大振りな一撃をかわした。後ろにいるのはさくらだ。彼女が金縛りをかけると、その隙に獣化した腕に力を溜めていた闇號虎が獣撃拳を食らわせた。
「グァ、ハ……ッ」
「お前の力がそれぐらいとは思わん。もっと本気を出せ」
 素早く間合いを取ったのは、2刀による十字斬りを放ってきたからだ。獣化を解いていた腕に食らう。
「……お前達の望みは戦場で死ぬる事か……」
 呟き、鉄塊剣を構え直す。竜牙兵の注意が闇號虎に向いた、その隙を逃さなかった。
「敵はひとりじゃありませんよ!」
 闇號虎の背後からアイリスが飛び出す。鋭い斬撃。袈裟斬りに斬りかかった横から、さらに螺旋状に巻かれ、杭となったケルベロスチェインが放たれた!
「磔られた丘の上から、見下ろす荊棘を知りなさいっ!」
 普段の温厚はなりを潜めた紅空から杭痕ノ十字架(スタウロス)が竜牙兵の肩へ撃ち込まれる。
 闇號虎とて棒立ちになっていたわけではない。仲間達の連撃に乗じてとどめを刺さんと、タイミングを見計らっていたのだ。
「望みは叶える……」
 静かな呟き。そうして紡がれたのは自然のあらゆるものへの祈り。祈りが力となり闇號虎を包み、力を与える──花鳥風月!
 咆哮とともに自らの肉体、手にした得物を使い、竜牙兵を殴り、蹴り、斬る。凄まじい猛攻。その姿は獣の狩りに似て、いや、さらに苛烈を極めた。
「すごい……」
 誰かが感嘆の呟きを漏らしたが、今の闇號虎には届かない。
 そして闇號虎が拳を下ろした時、竜牙兵は灰燼と帰した。残ったのは粗末なゾディアックソードのみ。
「最後です!」
 背後で仲間の回復をしていたせおりが駆け出す。さらに六人の仲間たちは離れた場所で最後に残った竜牙兵を翻弄している紫の元へと続いた。


 仲間達が2体の竜牙兵と戦っている間、紫も戦っていた。ただし正面からぶつかるのではなく、注意を自分へ引きつけ、体力を少しずつ削り取る戦い方だ。ヒルデガルトのライドキャリバーとタッグを組み、停めてある車の間を縫い、普通なら障害物となるそれらをうまく利用し、右から左から攻撃を加える。
 竜牙兵が苛立っているのはよくわかった。ヘリオンに乗っていた時とは違う、凛々しい赤の目で敵を見据える。今度は右からの一撃か。
「……っ!」
 まさかのフェイント。ゾディアックソードによる重い斬撃は直撃を避けられたが、ダメージは残った。が、すかさずヒールされる。護殻装殻術。せおりだ。
 そうして竜牙兵の傍には、密かに近付いていたウェインの姿。切れ長の金の眼が細められる。
「この距離ならば外すまい。……そのまま、暫し石像となっていて貰おう」
 掴みかかったかと思うとペトリフィケイションを発動させる。これで竜牙兵は徐々に体が重くなっていくはずだ。
「助かりました!」
 ライドキャリバーのアヒム・グラースがスピンを食らわせたのを見ると、紫は地を蹴った。残像は流星の煌めき。美しい弧を描いた蹴りが竜牙兵に炸裂!
「紫、避けろ!」
 龍之介の声に紫が着地と同時に横っ飛びに飛ぶ。重い斬撃がコンクリートに突き刺さった。
 それを隙ありと見た龍之介が間合いに飛び込む。納刀した刀の柄に手をやった。
「毎日打ち込みつづけたこの一撃、受けて見ろ!」
 その斬撃を視認できた者がいたかどうか。──無位の剣閃が竜牙兵の腹に叩き込まれる!
「グゥアア……ッ」
 竜牙兵の体が、壊れたゼンマイ仕掛けの人間のように傾ぐ。膝を着き、前のめりに倒れて。一陣の風に吹かれ、灰となった体がさらわれる。
 ケルベロス達の勝利だ。


「……それほどこの地がほしいのならもっと大勢で来ることだ。無論、黙っていないがな……」
 風に吹かれた灰を見送りながら闇號虎が呟く。
 体を失った竜牙兵の痕跡は、武器であるゾディアックソードだけとなる。龍之介がその傍に膝を着くと検分した。
「……蠍座。だが、戦いに臨む者がこれを持つか、当然の結果だったな」
 溜息と共に、ぼろぼろとなったゾディアックソードを破壊する。まだ残る剣も同じ状態だろう。悪用されることはないだろうが、念のため、すべて破壊する。
 少し離れたところで、せおりはさくらの傍で依頼の成功に深呼吸をしていた。
 アイリスは一般人に被害がないことを確認すると、ショッピングセンターの入口のほうでこちらを窺うような様子の一般人たちをちらりと見る。
(「……私のこと、どう映っているんだろう」)
 強さだけを求め、戦いに身をおく自分は竜牙兵と何が違うのか。だがどう思われても、やることは変わらない。
(「……幼い頃からの誓いのため、願いのため、何より、皆を守るために全力を尽くす」)
 決意を新たにした。
 その隣で紅空とウェインは勝利を喜び合い、ヒルデガルトと周囲の車からガソリンが漏れて危険な状態はないかを確認し、警察に処理を依頼する。
 離れたところにいた紫は、ほっとした表情で顔を隠すようにフードを被ると、一足先にとばかりにヘリオンへ向かった。
 守られたこれからの平穏に安堵したケルベロス達は、紫に続くようにその場を後にしたのだった。

作者:緒方蛍 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2015年9月30日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。