●バタフライ・エフェクト
「あなた達に使命を与えます」
ミス・バタフライが、跪いているふたりの配下にそう言った。
ひとりは黒い帽子にだぶだぶの赤い吊りズボン、派手な水玉模様のシャツという、いわゆる道化師風の恰好をした螺旋忍者。顔にはトレードマークの螺旋の面。
もうひとりは、筋肉隆々の体にレスラーの着る黒いシングレットを身に着けて腰には太いベルト、禿頭の怪力大男風だが、やはり面をつけている。
ふたりは、ミス・バタフライの言葉を一言も聞き漏らすまいと、顔を上げた。
「この街に、小銭入れ職人といって小銭入れのみを作ることを生業としている人間がいるようです。その人間に接触して仕事内容を確認、可能ならば習得してから殺害なさい。グラビティ・チェインは略奪してもしなくても構わないわ」
ミス・バタフライの言葉を恭しく聞いていた道化師風の方が、頷いて答えた。
「承知致しました、ミス・バタフライ。我らめにお任せを……、一見、意味の無いこの事件も、巡り巡って、地球の支配権を大きく揺るがす事になるのでしょう」
●小銭入れ職人・ウックさんを守れ
「ミス・バタフライっていう螺旋忍軍が動き出したよ。ミス・バタフライが起こす事件ってね、ちょっと見には大したことないように見えるんだけど、どうも彼女独特の能力らしいんだけど」
ヘリオライダーの安齋・光弦が集まったケルベロスたちに説明を始めた。
一見ちいさな事件が、巡り巡って大きな影響が出るかもしれない、という、ちょっと不思議な事件なのだという。
「今回狙われたのは『小銭入れを専門に作ってる小銭入れ職人』っていう、ちょっと珍しい仕事の人なんだ。世界の国別の小銭入れとか、100円玉専用とかとにかく色々な小銭入れを作ってるんだって」
職人は『ウックさん』という愛称で近隣のひとからも親しまれている、初老の男性である。
「今回はそのウックさんの前にミス・バタフライの配下が現れて、その小銭入れ作りのノウハウとか技術を習得した上で殺してしまおうとする事件なんだ。小銭入れとケルベロスにどういう関係があるのかまでは、残念ながら僕の予知じゃわからないけど、放っておくと何故かケルベロスが不利になるっていう。ほら、あれ。『風が吹くと桶屋がもうかる』みたいなこと? そういう能力なんだねえ」
未知の敵の能力に対する警戒もあるが、一般人が殺される未来を勿論放っておくことはできない。
「皆にはウックさんの保護と、現れるミス・バタフライの配下の撃破をお願いするよ」
●見習い職人?
「敵は、2体で現れる。ウックさんの自宅兼職場は、都内の下町のこぢんまりした一軒家だよ。敵はここに正面きって現れる。いきなり殺すわけじゃなくて、最初は技術を学ぼうとするわけだからね。そこで、囮作戦を提案するよ」
事件発生以前にウックさんを避難させてしまうと狙いが逸れて、被害が別に出てしまう。
幸い今回は、事件発生の3日ほど前からウックさんに接触することが出来るのだという。
「事情を説明すればきっと協力してもらえるはずだ。君たちがウックさんの仕事を学んで、小銭入れ職人を装えれば、狙いをウックさんでなく君たちに変えさせることが出来るかも知れないだろう?」
もっとも、見習いくらいにみせかけるには、かなり頑張って修行をする必要はある。
「ウックさんは時々こども相手の教室とかもやってるらしいから、きっと親切に教えて貰えるんじゃないかな」
この囮作戦に成功すれば、戦いをかなり有利に進めることが出来るだろう。
「うまく騙せれば、ふたりの螺旋忍軍は君たちに教えを乞うてくるわけだからね。これは修行ですよとかなんとか言って、ふたりを分断しちゃうとかさ。変な修行させちゃうとかね」
光弦がちょっと楽しそうに言ってから、さて、と改めてケルベロスたちを見た。
「バタフライ効果って、予測や予知がしづらいから、僕らヘリオライダーにとっても脅威だと思う。どんな被害が出てしまうかわからない事件だし、ウックさんのためにも頑張ってきてね、ケルベロス」
参加者 | |
---|---|
ビスマス・テルマール(なめろう鎧装騎兵・e01893) |
小山内・真奈(おばちゃんドワーフ・e02080) |
ヴァーツラフ・ブルブリス(バンディートマールス・e03019) |
タクティ・ハーロット(重力喰水晶・e06699) |
東雲・凛(角なしの龍忍者・e10112) |
ヴィンセント・ヴォルフ(境界線・e11266) |
鏑木・郁(傷だらけのヒーロー・e15512) |
エルフリーデ・バルテレモン(鉾槍のギャルソンヌ・e24296) |
●ウックさんの修行
「好きなものをね、思い浮かべながら作るといいの」
小銭入れ職人・ウックさんの工房には現在、8人のケルベロスが弟子として詰めていた。
アドバイスを受けて、ビスマス・テルマール(なめろう鎧装騎兵・e01893)が恐る恐る片手を上げた。
「私の好きなものと言えばなめろうなどのご当地モノですが……それでも?」
「いいよ」
「本当に?!」
「ボクは小銭大好きだから、いっつも色んな小銭のこと考えながら作るの」
「な、なるほど、確かに……」
感動するビスマスの隣でエルフリーデ・バルテレモン(鉾槍のギャルソンヌ・e24296)が、型紙を見せながら確認する。
「ウック殿、大きさこれくらいでどうですか?」
「手頃手頃。君にぴったり」
そう言われると、ちょっと嬉しくなる。小銭入れなど、先日初訪問したデパートで見かけたくらいの知識しかないエルフリーデだったが、誰より真面目に貪欲に技術と知識を吸収していた。新しい事への好奇心を抑えきれない、という風情だ。
大きなテーブルを囲む見習い職人全員がケルベロス、というのもなかなかない絵面かも知れない。皆それぞれ動きやすい恰好になり、本腰入れて修行に打ち込んでいる。
「やっぱ、そう簡単にゃいかねえな……」
レザーの素材を綺麗にカットし終えたヴァーツラフ・ブルブリス(バンディートマールス・e03019)が首を左右に倒していると、ウックさんが手元を覗いて頷く。
「器用器用。一服するなら、キッチンね。工房は禁煙」
「オーライだ、ボス」
工房のボスは職人、と弁えているルスカーナ・マフィーヤのボスは、素直にキッチンへ向かう。
ケルベロスたちの作業を見てまわるウックさんは、とても楽しそうだった。背中を丸めて、作業に没頭する余りぎゅっと眉間にしわの寄っている東雲・凛(角なしの龍忍者・e10112)の肩をチョイ、と突いて一言かける。
「リラックス、リラックス。楽にして」
「あっ……? あ、はい!」
言われて、いつもの笑顔を取り戻す凛。慣れない作業に苦労はしているが、凛もこの作業を楽しんでいた。
ふたり肩を並べて真剣に作業するのは鏑木・郁(傷だらけのヒーロー・e15512)と、ヴィンセント・ヴォルフ(境界線・e11266)。どうやらが手先は器用なのはヴィンセントの方だが、熱意では郁も負けていない。そんな様子を眺めて、ウックさんは笑顔で言った。
「君ら、ふたりで工房作ったら?」
「え……?」
意外な言葉にヴィンセントが眉を持ち上げる。
「最初は仲良しの子同士でやると上手くいくの。ボクもそうしてたの」
「そうだったんですね」
ウックさんの言葉に、ふたりは照れくさいような不思議な気分になる。
「ちょっとは、見習いっぽくなってきたってことかな?」
と郁が笑った。
そこへ、修行の合間の息抜き、と称し散歩がてら周辺を探索してきたタクティ・ハーロット(重力喰水晶・e06699)が戻ってきた。
「今戻ったんだぜー、このあたり、昔ながらの店が沢山あって面白いんだぜ」
ほら、とお土産に買ってきたコロッケとお団子の袋を揺らすと、ウックさんが頷く。
「ああ、あそこの美味しいよ。みんなも休憩したら?」
「ほな、おばちゃんがお茶いれたろか」
と、見た目は子ども、中身は関西のおばちゃん、小山内・真奈(おばちゃんドワーフ・e02080)が作業の手を止め、どっこいしょ、と言いながら立ち上がった。
「いいですねえ、昔ながらの地元のコロッケ!」
「あ、おやつだやった!」
と、何だか合宿のような空気の中、瞬く間に三日間の修行期間は過ぎた。
敵の現れる時間が近づくと、すっかりウックさんに懐いたヴィンセントが告げた。
「ウック先生、しばらくの間だけ隠れてて」
「いいよ」
こんな状況でもふわふわマイペースなウックさんを守らなくては。今や本当の弟子の気分であるケルベロスたちの戦意は高まった。
●分断作戦
『ごめんくだしあ。こちら、ウック先生の工房で? 我々、弟子入り希望なのですよ』
姿を現したのは、禿頭の大男を連れた、道化師。どちらも顔には螺旋の面をつけた、まぎれもないデウスエクスである。
出迎えたのは、真奈。
「なんやあんたら、弟子入りかいな?」
『お邪魔致します』
「邪魔すんねやったら、帰って」
『あっほな帰るわ……って、いやいや!』
「ノリツッコミかい。やるやないか」
どこかで聞いたようなやり取りをしつつ、作戦通りに真奈が敵を工房におびき寄せる。
(「何だあいつら……」)
(「ノリノリですね……」)
作業に没頭している体で、思わず目を合わせそっとツッコむヴァーツラフとビスマス。
「それじゃあ、小銭いれの前に、あみぐるみの作り方を教えたろ」
どういう仕組みかはわからないが、この2体はウックさんの小銭入れ作りの技術を学ぶことで事件を起こそうとしている。それなら、全然関係ない知識を与えればいい。
『あ、あみぐるみ? いえいえ私たちは……』
「おばちゃんの言うこと、よくきくことや。これは小銭入れ作るための修行や。ここにいるモンも、みーんなあみぐるみから入ったんや。なあ?」
『ほ、本当に?』
うろたえてケルベロスたちの顔を見回す道化師。凛がもっともらしく頷く。
「そうですよ? 小銭入れと言えば、まずあみぐるみから」
「まあ、常識だよな」
「最初の難関ってとこだ」
と、郁とエルフリーデも調子を合わせる。
「よし、じゃあまずは買い出しに行くんだぜ! ついて来いよ後輩!」
当初の予定通りに、タクティが道化師に向かってそう言った。唐突、とすら言わせないくらいのきっぱり感である。
『か、買い出し? 後輩? しかしまだ私はウック先生にご挨拶も……』
「先生は今作業中ですから、後で大丈夫です」
凛にぐいぐいと背中を押されつつタクティに引っ張られつつ、道化師が工房の外に連れ出されると、怪力男が見た目にそぐわぬ情けない声を出した。
『お、おれはぁ?』
「テメェは残って、あみぐるみだな」
と、怪力男の肩をヴァーツラフが叩く。
「光陰矢の如し、時間がもったいないですからね。ほらこれ、私が今作ってる小銭入れなんですが、ここにあみぐるみ技術が応用されてるんですよ」
『ど、どれえ?』
ビスマスが小銭入れを見せて、工房を抜けた裏手の方へと怪力男をおびき寄せる。その間に、タクティが道化師を連れてその場を離れていった。こうして戦力を分断して、1体ずつ倒す作戦なのである。
とは言え、デウスエクスを本当に商店街に連れていくわけにもいかない。なるべく一般人のいないところを選んで歩き回り、時間を稼ぐタクティ。だが、それもそう長くは続けられない。
『はて先輩、一向に店も見当たらない様子……』
「おっ、そうだ。じゃ先輩として、入門記念に飲み物奢ってやるんだぜ! ホラ、この自販機から好きなのを選ぶといいんだぜ」
ここで慌てては逆効果、と落ち着き払って笑顔を見せる。しかし。
『……先輩、わたくし何やら胸騒ぎがしますのです』
●パシリ退治
工房裏では、残った7人のケルベロスたちが怪力男に先制を仕掛けていた。
『てめえら、だましたな!』
「騙された、ということくらいはわかるんですね。いきますよ!」
ビスマスとナメビスが遠距離斉射を開始し、怪力男の気勢を削ぐ。その隙に、ギュンと前に飛び出した真奈が、至近距離に迫り片手に炎を纏わせる。
「あんたらの思惑はまるっとおみとおしや。ウックさんには手出しさせんで!」
『オガァ!』
真奈の一撃を顔面にまともに食らい、焦げた顔を両手で覆う怪力男。そのタイミングを逃さず、郁とヴィンセントが御業と攻性植物を同時に伸ばし、足元を捕えた。
「いい呼吸だ、私も噛ませてもらうぜ!」
ゲシュタルトグレイブを構えたエルフリーデが跳躍し、ニヤリと不敵に笑って見せた。
「蝶の羽ばたきで未来が変化する、ってか? やらせねぇよ!」
稲妻のようなエルフリーデの一撃がさく裂!
『フンギャア!』
そこへダッシュでタクティが戻ってくる。その後ろから道化師男も走ってきていた。
「悪い、あんまり時間かせげなかったんだぜ!」
『あぁっ、弟よ! お前らやっぱり職人なんかじゃなかったのですね!』
「何だテメーら、兄弟だったのかよ」
とヴァーツラフ。
「全員ケルベロスですよ!」
凛が力強く告げるのと同時、囲まれていた怪力男が暴れだす! 全員、咄嗟に距離を取った。
『にいぢゃあん!!!』
怪力男が振り回した拳がタクティに飛んだ。咄嗟に左腕をかざし盾でそれを弾いたが、かすめただけでも結構な威力である。サーヴァントのミミックが威嚇するように、蓋をガブガブ鳴らす。
「っく、この体勢で……とんでもねえ力だぜこいつ……!」
「タクティさん、大丈夫ですか?! ……行きます!!」
敵との間に割り込むようにして凛が螺旋手裏剣・改五式を叩きつけた。その威力に今度は怪力男の足元がズンと沈む。
『なんと卑怯な! 最初から我々を分断する作戦だったとはぁあ!』
「罪なき一般人を狙うあなた方に言われたくありません! 文化を担う職人は人類の宝、それに手を掛ける事がどんなに罪深いか思い知りなさい!」
ビスマスがピシャリと言い放った。
「テメェは後だ。先にデカブツをやらせてもらうぜ!」
足蹴りをするヴァーツラフの言葉の通り、ケルベロスたちはまず怪力男から片付けるべく攻撃を集中させた。
はずみの一発をもらってしまったタクティには、真奈がオーラを注ぐ。
「しっかりしいや、飴ちゃんいるか?」
「あ、ありがとう、だぜ……?」
攻撃を重ねられ、錯乱状態になった怪力男が腕を振り回して走り回るのを、エルフリーデのキャノンが狙い撃つ。
「この距離だ、外しゃしねぇ!」
『うわあぁあん兄ちゃぁああんケルベロスがいじめるうぅう!』
『おおお弟よおおおお!』
「うわ!?」
間一髪、突っ込んできた怪力男のハグハグを避ける郁。怪力男はズガァとブロック塀にめり込んだ。
「あーびっくりした。俺じゃないだろ、お前の兄ちゃんはあっちだ」
『お、おぉ弟よ……、ひどいぞ、ひどい……ケルベロスと兄を間違えるなどと……』
面で表情はわからないが、道化師はヨヨ、と座り込んでシクシク泣く真似をしだした。戦意喪失、と見せかけたところから、くるりと回って一転、炎の蹴り!
『くたばれぇッケルベロス!』
「芝居がくせえんだよ、この大根道化が!」
飛んできたつま先を、膝でガードして威力を殺すヴァーツラフ。
思うほど時間が稼げなかったものの、敵の戦力を分断したことにより、怪力男に火力を集中できたのと、敵のコンビネーションなども防げた様である。面白いようにケルベロスたちの攻撃の的になる怪力男に、いける、と見てとったビスマスが、全身フルアーマーユニットでの武装を開始した。
「ウィングユニット展開……ササミストォォォームッ!」
結晶の爪を先端に構え、さながら美しいササミ色の光を帯びたドリルと化したビスマスが、高速回転しながら突っ込む!
「敵対象拘束を確認……コレで穿ち抜きますっ! 鳥沖膾スピィィーンッ!」
『ウギャアぁああーー!』
『弟よおぉーー!』
「人の心配しとる暇はないで」
鳩尾をブチ抜かれ、塵と化した怪力男に向かって叫ぶ道化師に、真奈の炎の竜が襲いかかる。
孤立無援となった道化師が、ギロリとタクティを睨みつける。
『おのれ、よくも……優しい先輩だと思っていたのにッッ』
「えっ……マジで? それは、かなりチョロいんだぜ……?」
「お前、絶対パシリにされるタイプだろ」
と、ヒールを受けていたヴァーツラフも言う。考えてみればこの道化師、ミス・バタフライのパシリみたいなものである。
『うるさいうるさいうるさいッ! 怒りの舞踏を見よおぉおッ!』
叫ぶや、背中を地面につけ、激しく回転しながらケルベロスたちの足元を狙う道化師。後先を考えずに、力の限り踊るつもりのようだった。なんとかその足を止めようと凛が今一度、今度は日本刀に螺旋の力を纏わせた一撃を叩き込む。
「この、一撃で……!」
「チッ、しつけえぞパシリヤローが!」
ヴァーツラフの散弾が派手に放たれたのを合図に、全員が攻撃にまわる。
狙いすましていたのは、攻撃の要を担う郁。
「……ここだ、仕留めるぞヴィンス」
低く呟いた郁の体から、炎の如きグラビティが立ちのぼる。獣を形作った漆黒の影は、敵の頭上から。そして。
「己が影に沈め――」
視線すら合わせず、だが完璧なタイミングでヴィンセントが動きを合わせていた。敵の足元に走り込む、白い獣。
「喰らい尽くせ!」
「喰らい尽くせ」
ふたりの命じる声が重なり、二頭の獣が吼えた。道化師の体は牙と爪に引き裂かれ、悲鳴とともに消え去っていったのだった。
●職人魂
「他には、妖しい連中は見当たりませんでしたね……ミス・バタフライの痕跡も残念ながら」
戦闘後。念には念をと周囲を見回った凛が戻ってそう報告した。
「お疲れ、お茶どうぞ」
狙われていた自覚があるのかないのか、相変わらずほわほわした様子でウックさんは人数分の紅茶を淹れてくれた。
「あれ? あとふたりくらいいたような……」
「先生、あれは敵や」
「そうなの?」
真奈に言われても、ほわほわのウックさん。
だが。
「ところで先生、俺に小銭入れ、作ってもらうことってできますか?」
とのタクティのお願いには、ウックさんの目がキラッと光る。シュパッ! 手元が閃いたかと思えば、なんとテーブルの上には完成品の小銭入れが! しかも細工に雑なところは一切ない。ウックさん印の刺繍も美しく入っている。
「はい、どうぞ」
「えぇえ?! もう出来たんだぜ?!」
「我々が3日かかった工程を、5秒くらいで……」
やはりこの職人、只者ではないとビスマスが白目になった。
「先生、俺のロゴも見てもらっていい?」
「あ、俺も俺も」
郁とヴィンセントは、完成にこぎつけた作品の仕上げを見てもらう。
「凄いな、ウック殿は。やっぱ職人技ってのはただもんじゃねえ! 私も、もっと小銭入れ作っていたかったよ」
ほんの少し寂しげな笑顔でエルフリーデが言えば、ウックさんも笑顔で言った。
「戦うの終わったら、またきてね。みんな、きっといい職人になれるよ」
「……ああ。終わったらな、ボス。なかなか楽しかったぜ」
ヴァーツラフが、満更お世辞でもなくそう告げた。
戦いの終わりがまだまだ先であることは、皆わかっていた。それでもケルベロスたちは笑顔を返す。ウックさんのような職人が安心して暮らすためにも、戦い続けなくてはならない。
決意を新たに、一同は工房を後にしたのだった。
作者:林雪 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2016年9月16日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 5
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