赤と青の攻防

作者:藤宮忍

●Warning
「出て行けよクロエ。ここは俺たちの根城だぜ」
 鉄パイプを担いだ男が、せせら笑う。
 深夜。根城としている廃ビルの前で。
 訪れた十数名のチンピラたちの前に立ち塞がる十数名。
 この辺りで縄張りを争っているグループふたつの片方が、襲撃を仕掛けた。
「はっ、誰の許可貰ってンだよ。強えヤツが支配者に……決まってンだろ!」
 襲撃を仕掛けた側の男が、ナイフを取り出して切りかかる。
「今日から此処は俺たちミッドナイトブルーの拠点だぜ!」
 ナイフの刃が鉄パイプ男の腕をかすめる。
「ふっざけんな! やっちまえ!」
「おおおお!」
「タツキさんこいつら、アブねえ……!」
 襲撃を仕掛けた側、ミッドナイトブルーの男たちは、刃物を持っていた。
「うぜえ……! おい、レイジは? レイジはいねえのかい?!」
 タツキと呼ばれた、グループの頭らしき男が、辺りを見渡した。
 その次の瞬間、
「ぐはっ……!」
 ナイフの男が、伸びてきた蔓のようなものに首を締め上げられた。
 男はぐったりとして、そして動かなくなる。
「……ココニ居ル。タツキ」
 締め上げた蔓が緩むと、動かなくなった男をどさりと地に落として。
 ゆらりと廃ビルから現れる、植物化した腕をしゅるしゅると蠢かす攻性植物。
 鉄パイプの男、タツキはにやりと口角を上げた。
「おう。レイジ、……こいつら全員遣っちまえ。ここは俺たちクリムゾンの根城だ」

●『予知』
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)はひとつ溜息をついて語りだした。
「皆さん、茨城県かすみがうら市でデウスエクスの事件が起こります」
 近年急激に発展した若者の街、茨城県かすみがうら市。
 この街では、最近、若者のグループ同士の抗争事件が多発しているようだ。
「唯の抗争であれば、ケルベロスが関る必要は無いのですが。その中に攻性植物の果実を体内に受け入れて異形化した者が居ます」
 デウスエクスが関るならば、放ってはおけませんと、セリカは告げる。
「事件の発端は、廃ビルの縄張り争いです。ふたつのグループ、ミッドナイトブルーとクリムゾンは、ここ最近激しくぶつかっていたようです」
 そして、現在廃ビルを根城にしているクリムゾン側に攻性植物を受け入れ、異形化している者が居て、襲撃したミッドナイトブルーのメンバーを反撃で殺してしまうことになる。
「異形化した者の名は、レイジ。彼を撃破して事件を阻止してください」
 なお、攻性植物以外の若者たちは、ただの人間なので脅威ではない。
 彼らは攻性植物とケルベロス達が戦いを始めれば勝手に逃げるだろうから、特に構う必要は無い。
 かすみがうら市の攻性植物は、鎌倉の戦いとは関っていなかった。
 状況は大きく動いていないが、とはいえ見逃すことは出来ない。
「レイジさえ撃破してしまえば、あとの若者達は放置しても構いません」
 ちょっと派手に遣りすぎている若者達なので、多少お灸を据えてあげても良いですよ、と。セリカは小さく付け足した。
「それでは、現地までヘリオンでご案内いたします。皆さんよろしくお願いいたします」


参加者
蒼龍院・静葉(霊宝魂を纏いて・e00229)
日野・怜治(シルバーライン・e00232)
セラス・ブラックバーン(竜殺剣・e01755)
水咲・湧(青流裂刃・e01956)
眞山・弘幸(ドラゴニアンのブレイズキャリバー・e03070)
リーゼン・トラ(さすらいのヤンキードクター・e03420)
シャイン・ルーヴェン(月虹の欠片・e07123)
那谷屋・朗(地球人で自宅警備員・e07689)

■リプレイ

●深夜0時の抗争
 やっちまえ、と。タツキがレイジに指示を出した。
 攻性植物はしゅるしゅると植物の腕を伸ばして威嚇する。
 クロエは緊張の面持ちでたじろぎながら、引くに引けぬ状況に舌打ちした。
 と、その時――。
「さぁて、悪ガキどもをとっちめるとしますか」
 ガシャン!
 積み上げられていた廃材が派手に崩れ落ちる。
「おらおらおらっ! 攻性植物ってデウスエクスに寄生されたガキをシメに来たぞゴルァ!」
 指の骨をボキボキと鳴らしながら踏み込んだリーゼントの男、リーゼン・トラ(さすらいのヤンキードクター・e03420)の声が深夜に響き渡る。
 一触即発だったクリムゾンとミッドナイトブルーの面々は、唐突に現れたケルベロス達にざわめいた。
「おー、怖いおにーさん達がいっぱいだ。ちょっと場所空けて貰おうかね」
 那谷屋・朗(地球人で自宅警備員・e07689)は周囲をランプの明かりで照らす。
 廃ビル入口を取り囲むように居たチンピラたちが、怖気づいている。
「な、何者だァ?!」
 タツキと呼ばれていた男が声を張り上げた。
「ただのケルベロスだよ。怪我したいなら残っててもいいけど?」
 ケルベロスチェインをちらつかせて、レイジを倒したら相手してやろう、と朗は言う。
 ざわ……と、チンピラたちが一斉に下がり始めた。
「デウスエクスを確認――排除する。一般人は退去を、留まるなら安全は保障できない」
 日野・怜治(シルバーライン・e00232)は、クイックドロウでレイジを狙い撃つ。
 リボルバー銃の弾丸は蔓に阻まれたが、レイジが廃ビル入口へと下がろうとする。
「こっちは通行止めだぜ」
 しかしそこには既に、セラス・ブラックバーン(竜殺剣・e01755)が佇み、ビル内への退却を阻止していた。
「自分の拳で喧嘩せず、他人の力で戦う。俺はそういうの、大嫌いだ」
 セラスは、廃ビル入口を塞ぐ位置で、タツキらクリムゾンの面々に向けて言う。
「努力して、その結果身についた実力! それで喧嘩するのが楽しいんじゃないか」
 チンピラ達はじりじりと下がりながら、些か気まずい表情になる。
「抗争を他の一般人の迷惑をかけない場所でするのは構いませんが……貴方達、化け物の力を借りてまで強くなりたい、と?」
 殺気全開で呼びかけるのは、蒼龍院・静葉(霊宝魂を纏いて・e00229)だ。
「寄生された奴の強さに憧れたり、その力が欲しい奴も、纏めて教育してやっから覚悟しやがれ」
 トラが威圧的な声を張り上げる。
 半分は脅しだ。だが、本気でそういう奴が居るならば、拳でそんな事は考えられないよう教育してやるつもりでもある。
「う、うるせぇ! まとめてやっちまえよ、レイジ!」
 タツキは言い返しながら、レイジの傍を離れて逃げ出そうとしていた。
 そのタツキへと、怜治は脅しの銃口を向けた。
「奴の、お前達のしたことは犯罪ですらなく侵略加担だ。そしてああなれば地球上の何者からも守られず拒絶される、覚えておくことだ」
 さすがのタツキも、これには黙り込んだ。
「なんの責任も負わずに、自分の物でも無い力に安易に手を伸ばすとね……オレたちが倒しに現れるから。それを忘れないでいてくれると嬉しいかな?」
 水咲・湧(青流裂刃・e01956)は、落ち着いた声でチンピラたちを嗜める。声音は穏やかそうでありながら、隠し切れぬ剣気が滲み出ていた。
 逃げ出そうとするタツキやクロエ、他の面子を追うつもりは無いが、レイジだけは逃がすまいと、徐々に包囲していくケルベロス達。
「貴様たち、おかしな果実を持っていないだろうな……?」
 シャイン・ルーヴェン(月虹の欠片・e07123)は凛とした声で呼びかけた。
 かきあげた銀糸の髪が、月明かりを受けて煌く。
「か、果実……?」
「他に持っている者は居ないだろうな? 隠していると為にならんぞ」
 各々、離れようとするチンピラたちに、眞山・弘幸(ドラゴニアンのブレイズキャリバー・e03070)は少々ドスの効いた低い声で脅しをかけた。
「なっ……何をだよ?」
「攻性植物の果実だ、わかってんだろうが!」
「ひっ! も、持ってねェよ!」
 叫んだタツキが、逃げ出す寸前でレイジの方を見る。
 攻性植物となったレイジの姿から、感情らしきものは窺えない。
「……」
 ケルベロス達に取り囲まれながら、しゅるしゅると蔓を伸ばすレイジに、タツキは僅かに眉を寄せて、そしてその場から逃走した。
「ガキは寝る時間だ、とっとと帰れ」
 弘幸は去り往く者達の背中に、低い声を放った。
 クリムゾン、ミッドナイトブルー、どちらの面々も逃げ散る。
「攻性植物かぁ……果たしてどちらが取り込んでいるんだかって相手だけど、放ってはおけないよね。果実を手に入れて、安易に受け入れようとする輩が増えても困るし」
 残された攻性植物、レイジの姿を見据えて、湧は星辰を宿した剣を構えた。

●攻性植物
「宵闇を照らす蒼き月の加護を私達に……参ります!」
 静葉は薄翠色の双星剣を下段に構える。
 レイジは、地面に接する体の一部を、大地に融合していく。
 徐々に埋葬形態に変形させ、戦場を侵食し静葉、トラ、朗を狙った。
 ケルベロス達を飲み込み、侵食された大地はいびつに抉られた。
「あれ、まさかそんな遠くからじゃないと攻撃できないとかないよね?」
 朗は挑発めいた言葉と共にロッドからほとばしる雷を放った。
 ライトニングボルトの眩い電光がレイジへと向かい、植物の蔓を一本麻痺させる。
「ウ……ヴヴ……っ」
 レイジはゆらりと進み出て、身体に光を集め始めた。
「お前だって、攻性植物が自分の命を削るモノだって分かってるだろ? 何のためにそんな力を欲しがったんだ」
 セラスのブレイズクラッシュ。炎を纏った竜殺剣ラグナブレイズが、植物の幹に叩きつけられる。葉の一部に炎が移り、燃え盛る。
 レイジの答えは無い。ただ、クリムゾンの面子が走り去った方角を見ていた。
「仲間のため……なのか?」
 明確な答えは無いものの、セラスは溜息ひとつ。
「後で不良グループに伝えてやるさ。間違った力だけどな」
 ラグナブレイズを握る手に、力を込めた。
 湧は雷刃突を放つ。雷の霊力を帯びた二振りのゾディアックソードで、神速の突きを繰り出した。その剣が宿す星辰は『射手座』。
「グアア……」
「しかし力加減の分からねぇガキが増えたもんだな」
 弘幸はぼやくように零し、レイジへと蹴りを繰り出す。零距離業火。
「避けられるもんなら避けてみな」
 地獄の業火を纏った左脚が、零距離から繰り出す渾身の蹴り。その勢いがレイジを叩き伏せて、間合いに入り込む弘幸。
 蹴りは確実に決まる。レイジは炎に包まれた。が、距離が近い。
 敵は別角度から蔓を伸ばして、弘幸に絡みつき、締め付ける。
 だが、ディフェンダーとして攻撃をひきつけるのも、戦術のうち。
「貴様は越えてはならない一線を越えてしまった。だから私達が貴様を倒す」
 シャインの螺旋掌。
 螺旋を籠めた掌で軽く触れれば、敵を内部から破壊してゆく。
 レイジは炎に包まれながら内側からも破壊され、苦悶の唸り声をあげた。
「だから私達が貴様を倒す」
 シャインの足元で、ロングドレスのスリットがひらめく。
 静葉が禁縄禁縛呪で敵を捕縛する。
「華には月光、雲に風、舞い上がるは常勝の旋律を」
 レイジの蔓が緩んで、弘幸は離れる。
「待ってろよ。今、治してやっからな」
 トラは自慢のリーゼントに癒しの力を溜め、光弾として拡散放出する事で対象を回復する。回復された弘幸は、光弾が当たりまくって結構痛い思いをしたかもしれない。
 これが、再生理威全斗芙羅射(リバイブリーゼントフラッシャー)である。
「如何なる動機、経緯があったのかは知らないし興味もない。だがお前は人へと明確な殺意を向けた――もはや見過ごせぬ『敵』だ」
 怜治は背中・肩・手足等からミサイルポッドを出し、レイジに大量のミサイルを浴びせる。ミサイルが葉や根を破壊していく。

●成れの果て
「たかだか縄張りひとつで抗争とかよくやるな、他探せばいいのに。あ、でも居心地いい所は譲りたくないよね確かに」
 あの廃ビルの居心地は如何程のものだろうか、朗はビルをちらりと見上げ、そして黒き鎖を手繰り寄せた。
「お前の蔓より僕の鎖の方が頑丈だから」
 そう言うと、念道力によって操られる黒き鎖がのばされ、レイジの幹を締め上げた。
「グ、グゥ……」
「水咲の剣よ、裂き誇れ」
 湧が間合いへと踏み込む。流れるような滑らかな動きで。そして射手座の星辰を宿す剣を掲げる。
「――キリサメ」
 剣の周囲に無数の刃を生み出して、一斉に振り下ろす。無数の刃は敵を斬り裂いてゆく。其れは刃の雨。戦技『斬雨』(シルバーレイン)。
 攻性植物となったレイジの身体が刻まれ、蔓や葉が散り落ちてゆく。
 レイジは太い幹に、光を集めた。光花形態となると、枝葉をぶわりと異形化させて膨れ上がり、破壊光線を放った。
 放たれた光線は、怜治を撃つ。
 奇しくも、おなじ名を持つ男だった。
「加速装置(アクセラレーター)―――起動(イグニション)!!」
 怜治は思考加速と共に戦闘外の余剰情報を遮断。
 ただ同じ名を持つ男を殺すためだけに、自身を最適化し高速戦闘を開始する。
 トラのウィッチオペレーションが、負傷を大幅に癒した。
「私と共に踊れ!」
 シャインの舞踏乱舞。機動力で敵を撹乱し、乱舞攻撃を叩き込む。シャインがステップを踏むたびに、白のロングドレスの裾がひらめいてしなやかな美脚が覗く。細い身体の流麗な動きながら、その一撃一撃は、重い。
「グアァ……」
 攻性植物が仰け反って苦しむ。
「お前は力に振り回されてる。借り物の力だから、十分に使いこなせてないんだ。見せてやるよ、レイジ。借り物じゃない力を! こいつが『本当の力』の重さだぜ!」
 セラスは真紅の瞳で、まっすぐに敵の姿を見据える。
「全部纏めて焼き尽くす!」
 生命力を地獄の炎へと変換する。セラスの体を覆うように不死鳥の黒炎が形成されて、レイジへと向けて突撃してゆく。
 不死鳥の黒炎は、攻性植物を包み込んだ。
 炎は燻り、敵に追撃を与える。
 弘幸の旋刃脚。電光石火の蹴りが、黒炎に包まれたレイジの急所を貫く。
「そんな姿になってまで仲間に尽くしたいか」
 朗は言い放つ、そして大器晩成撃で氷を纏う一撃を叩き付けた。
 苦しみもがきながら、レイジは蔓をしゅるしゅると伸ばす。
「もうここまでにしときなよ」
 朗が蔓をケルベロスチェインで弾く。
 そこへ怜治のクイックドロウが目にも止まらぬ速さで放たれ、枝のひとつを撃ち砕く。
 トラが気咬弾を撃ち、オーラの弾丸はレイジに喰らいついた。
「グアアアア!」
 嗄れた声が絶叫する。
 全方位をケルベロスに囲まれて、逃げ場もない。
「ここで決めるっ! 天を断ち斬れ、白金の光、四天・弧月無影閃っ!!」
 静葉の刀剣から繰り出される、白狐の一閃。その太刀筋には、音も影も無く、防ぐ事は至難の業だ。
 レイジの枝葉は無残に刻まれてゆく。
 深手を負ったその巨体が、傾く。
「くらえ、この研ぎ澄まされた刃を」
 シャインの二刀斬霊波。霊体のみを斬る衝撃波が、追い討ちをかけた。
「引導を渡してやる」
 朗のケルベロスチェインの黒き鎖が、レイジを締め上げ、捕縛する。
 黒き鎖とタイミングをあわせて、弘幸は指天殺を放った。
 指一本の突きで、敵の気脈を断つ。レイジの身体がまるで石化したように固まっていく。
「グアアアアア!!」
 攻性植物は雄叫びを上げて、炎に燻りながら地面に崩れ落ちた。
「若気の至りは後々笑って話せるので済ませとけってんだ。……分からねぇから若気の至りなのか?」
 攻性植物の姿が動きを止めるまで、ケルベロス達は見守っていた。

●廃ビルにて
 戦いを終え、ケルベロス達は、念のためにと廃ビルの内部を探索する。
 攻性植物の果実。
 元凶である果実がまだ残されていないかを、念のためにと確認する。
 ビル内は閑散としており、それらしきものは見つからなかった。
「手がかりになりそうなものは、ないな……」
 シャインは髪をかきあげ、仲間たちを振り返る。
「逃げた奴ら、またここに戻ってくるのかねえ……」
 朗は廃ビルの窓から、夜の街を眺める。
 景色は何事もなかったかのように静かで、僅かな灯かりが彩っている。
「まぁ、果実はもう無いみたいだから、大丈夫かな」
 湧は遠くの灯りに目を細める。
 空はまだ暗い夜の色。だがそれももうじき朝焼けの色に変わっていくだろう。
「戻ってきたら、そいつらも果実を隠し持っていないか、チェックだぜ」
 レイジが仲間の為に力を求めたこと、その末路を、セラスは彼らにしっかりと教えて、二度とおなじ事件が起こらない様にしたい。
「特におかしなものはみつかりませんでした。戻りましょうか」
 廃ビル内を念入りに調べていた静葉が戻ってきて、声をかけた。
「そうしよう。お疲れさんだな、帰りにバーにでも行くか」
 弘幸はゆっくりと歩き始める。
 ケルベロス達は廃ビルを出ると、それぞれ帰路につく。
 夜のとばりは抗争など忘れたかのように、ただ静寂で辺りを満たしていた。

作者:藤宮忍 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2015年9月30日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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