●羽ばたく蝶の指令
「来ましたね。あなた達に使命を与えます」
螺旋の仮面を被った女は、現れた二人の配下を振り返る。
「あなた達に使命を与えます。この夜の街に、麗華と言うカリスマホステスが居るようです。この女と接触し、その仕事内容を確認・可能ならば習得した後、殺害しなさい。グラビティ・チェインは略奪してもしなくても構わないわ。よろしくて?」
口元に笑みを浮かべながら、仮面の女が聞けば、二人の配下は。
「了解しました、ミス・バタフライ。一見、意味の無いこの事件も、巡り巡って、地球の支配権を大きく揺るがす事になるのでしょう。貴女の意のまままに」
そう返事をすると、二人の配下は、闇に溶ける様に静かに姿を消した。
●簡単な水商売? いえ、違います!
「みんな、集合! お仕事の話を始めるぞ!」
ヘリポートに大淀・雄大(太陽の花のヘリオライダー・en0056)の声が響けば、ケルベロス達が集まって来る。
見ると今日は、雄大と並ぶ様に野木原・咲次郎(金色のジョーカー・en0059)も立っている。
「みんなは、バタフライ効果って知ってるか? 簡単に言うと、どんな小さな現象も巡り巡って大きな影響を及ぼすこと、またはその事象の事なんだけど……」
雄大がスマホの画面の文面を読みながら、ケルベロス達に説明する。
「今回、ミス・バタフライと言う螺旋忍軍が、このバタフライ効果を狙って、事件を起こそうとしているみたいなんだ。事件自体は直接何かの利益になる様には思えないんだけど、巡り巡って、近い未来、ミス・バタフライの利益になるって感じだな」
かなり変則的な作戦と言えるが、螺旋忍軍の作戦だ。
高度な情報が飛び交っているのかもしれない。
「で、ここからは、咲次郎に説明してもらう。予知は伝えてあるし、今回事件が起こる業界は咲次郎の方が詳しいんだ」
そう言うと、雄大は咲次郎に視線を送る。
「今回、ミス・バタフライはじゃな、麗華さんと言う業界ナンバー1ホステスを狙っておってな。彼女のホステスとしてのスキルや情報を習得、或いは、習得した後に殺害しようとするみたいなんじゃ」
咲次郎の言う、業界とは所謂、『お水の世界』である。
「これを阻止せんと、まるで、風が吹けば桶屋が儲かるかの様に、ケルベロスに不利な状況が発生してしまう可能性が高いらしいんじゃ。勿論、麗華さんが殺害されるってのも非常に不味い。ナンバー1ホステスの、殺害事件なんてあってはならん事じゃからな。と言う訳で、みんなには、麗華さんの保護とミス・バタフライが送り込んで来る螺旋忍軍の撃破をお願いしたいんじゃ」
デウスエクスの一般人の殺害、それだけでも防がなければならない問題だが、それがケルベロスの不利な状況へと繋がると言うのであれば、阻止せねばならないだろう。
「螺旋忍軍が麗華さんを襲撃するのは3日後らしいんじゃが、みんなには、その3日間ホステス修行をして欲しいんじゃ」
今回のターゲットである麗華の勤める超高級クラブのオーナーと咲次郎の勤めるホストクラブのオーナーが、親しい関係にある為、麗華の命を絶対に護るという条件で、協力してもらえる事になったらしい。
麗華を事前に避難させてしまった場合は、敵が別の対象を狙うなどしてしまう為、被害を防ぐことができなくなるが、麗華の指導をしっかりと受け、相応のスキルをを持つ人間が替え玉になれば、螺旋忍軍の狙いをケルベロス達に変えさせることができるかも知れないのだと言う。
麗華も自分の命を危険に晒すよりは、ケルベロスに囮になって貰った方が安心との事だ。
「だけどさ、咲次郎。ナンバー1ホステスのスキル習得って簡単な訳? 咲次郎、言ってたじゃん。キャバ嬢とホステスは根本的に違うって」
「問題はそこなんじゃよなあ……」
咲次郎が言うには、一般的なキャバ嬢を模倣することは、さして難しくないが、トップレベルのホステスとなれば話は別らしい。
キャバ嬢とホステスは、そもそも相手にする客層が違う。
キャバ嬢は学生から一般サラリーマンまで、普通の収入の人間を相手にすることが多いが、高級クラブのホステスともなれば、相手は政財界の重鎮や一流企業の重役が主になる。
求められるのも、若さやノリ、エッチさでは無く、気品、教養、気配り、落ち着き、完璧な美などと言ったものになり、3日間、ナンバー1の指導を受けても資質が無ければ難しいだろうとのことだ。
「まあ、敵も素人じゃし。それっぽく見えれば、ごまかすことは出来るじゃろう。本物のカリスマホステスに会った事も無いじゃろうし。それじゃ、雄大、戦闘の説明を」
「はい、オッケー」
咲次郎が下がると雄大が敵の戦闘力の説明を始める。
「現れる、螺旋忍軍は2体。どちらも女性型で、片方は道化師の様な恰好、もう片方は猛獣使いみたいな格好だな。道化師の攻撃方法は、ナイフの投擲、ナイフのジャグリング、手に持った杖から発するグラビティ光線。猛獣使いの方は、ライオンの幻影、鷲の幻影、コブラの幻影をグラビティとして具現化出来るみたいだな」
トリッキーな攻撃が多いが、体力などはそう高く無いと付け加えられる。
「囮作戦が上手くはまれば、敵を分断したり、こちらからの先制攻撃を加えることも可能になりそうだから、上手く作戦を練って欲しい」
一度優位に立つ事が出来れば、戦力的に螺旋忍軍に劣ることは無いだろうと雄大は言う。
「バタフライ効果で、どんな結果になるかは分からないけど、こっちが不利になるって言うなら、防がなきゃいけない。それに、ターゲットの麗華さんに、もしもの事があれば、悲しむ人も多いだろう。と言う訳で、みんなよろしく頼むな!」
そう言って資料を閉じると、雄大は思い出した様に。
「あ、そうだ。男性ケルベロスは、ホステス無理だから。ホステス役の女性の修行に3日間付き合ってやってくれな」
言うと、雄大と咲次郎は打ち合わせをしながらヘリオンへと向かった。
参加者 | |
---|---|
ケーゾウ・タカハシ(鉄鎖狼の楽忍者・e00171) |
喜屋武・波琉那(蜂淫魔の歌姫・e00313) |
樋口・琴(復讐誓う未亡人・e00905) |
琴宮・淡雪(淫蕩サキュバス・e02774) |
クー・ルルカ(グレている妖精・e15523) |
アオ・ミッドカイン(空を舞い落ちる星・e24484) |
リノン・パナケイア(狂気と後悔に苛まれ・e25486) |
獅子谷・銀子(地球人の螺旋忍者・e29902) |
●特訓
日本でもトップクラスのCLUB。
ケルベロス達が出入りし始めてから二日目になる。
「ボクたちが必ず護るからね! だから、安心してね!」
クー・ルルカ(グレている妖精・e15523)が、麗華にそう言って微笑んだのも昨日の事。
だが、二日目にして既にケルベロス達は今回の任務の、困難さを身に染みて理解していた。
「昨日渡した、資料はすべて頭に入れて来ましたね?」
品のいいスーツを纏った麗華が言えば、5人の女性ケルベロスは、クマのの残った目元で『……ハイ』と答える。
昨日、身代わりになると言う、ケルベロスの女性5人に聖母の様な笑顔を見せた麗華だったが、そこからの修行は彼女達が想像していた以上に厳しいものだった。
「脚は片方の脚の半歩前に上品に落として、頭を揺らさず歩いて下さい」
「はい!」
「返事は、静かに上品に」
まず、ホステスの基本となる歩行訓練では、アオ・ミッドカイン(空を舞い落ちる星・e24484)が苦労する事となった。
アオは、お淑やかと言うより快活な方だ。
だからこそ、上品にと気を使っても、手先や歩き方と言った細部に注意が行かないのである。
「お客様への気配りなどは基本です。それだけを意識していては、私の身代わりなど出来ませんわ」
「笑顔だけでごまかそうとしないで下さい。気配りは重要ですが、相手は自分よりも年齢も地位も高い相手だと言うことを忘れないで下さい」
「は、はい」
ウイスキーの手渡し方に、不満があったのか、麗華が喜屋武・波琉那(蜂淫魔の歌姫・e00313) に注意をする。
ある一族の女王たる資質を持った波琉那には持って生まれた気品があった。地下アイドルとして、ファンとの交流にも自信があった……だが、相手が自分よりも地位が高い相手となると、その所作も変わって来る。
愛くるしい笑顔だけでは、どうやってもごまかしきれないのだ。
(「忍術修行も厳しいと思っていたけど、ホステスも相当ね」)
心の中でそう呟くのは、獅子谷・銀子(地球人の螺旋忍者・e29902) だ。
「貴女は持って生まれた、美貌に頼り過ぎています。確かに貴女の脚線美は、男性を魅了するでしょう。でも、それだけです」
「はい」
「ですが、男性に臆する事無く話せるのは貴女の長所です。貴女には、その美貌で男性を魅了するのを禁止します。貴女の地力で男性を魅了できる様にして下さい」
銀子は麗華に答えると、もう一度最初から修行を始めた。
「あなたは表情が固すぎます。満面の笑顔を浮かべろとは言いません。上品に、相手のお客様を心地よくする笑顔を心がけて下さい」
「ですが、30を過ぎた私が笑顔を浮かべたところでお客様は喜ばれないのでは……?」
「考え方が、そもそも違います」
憂いの瞳で言う、樋口・琴(復讐誓う未亡人・e00905)の言葉を麗華は、ハッキリと否定する。
「こちらに来るお客様は、地位も名誉もある方ばかりです。安いサービスを期待している訳では、ありません。大人の女性にしか出来ない、接客を望まれて、いらっしゃる方も居ます」
琴は、麗華の言葉に感銘すら受ける。
亡き夫を想い続け数年、こう言った場とは無縁だと思って生きて来たが、この麗華と言う女性は、琴自身に価値があると言うことを伝えた上で、この仕事の重要さも教えてくれる。
一方で、思わぬ苦労をしていたのが、琴宮・淡雪(淫蕩サキュバス・e02774)だ。
「日本の閣僚のフルネームとデウスエクスの侵攻の歴史は、全て頭に入れて来ましたよね?」
「あ、えっと、自身はありませんが、多分大丈夫ですわ」
「多分では困ります。お客様様は、教養ある女性との交流を望まれてこちらに来ます。接客は出来て当然。それ以上の会話が出来なければ意味はありません」
麗華の言葉に思わず、淡雪は委縮してしまう。
心からお客様を、もてなす為の技術とそれに伴う心技体を教わりに来たつもりだったが、麗華にはそれでは足りないと言われてしまう。
淡雪自信、学業が出来ない訳ではない。むしろ出来る方と言っていいだろう。
だが、麗華から出された宿題は、政治経済、マネジメント、はたまた建築分野と幅広く、流石の淡雪でも一夜漬けで、どうにかなるものでは無かった。
「男性を容姿だけで落とす女は三流、愛嬌で落とそうとするのは二流、経験、知識、教養で落とすのが一流と覚えておいて下さい」
この場はホステスの戦場、三流は去り、二流は淘汰され、一流だけが生き残る、その意味を真の意味で淡雪は理解する。
その後もケルベロス女子5名への麗華の指導は厳しく行われて行った。
●男衆
「あの修行は厳し過ぎないか?」
怒鳴られてこそいないが厳しく指導されている、女性陣を見ながら、ケーゾウ・タカハシ(鉄鎖狼の楽忍者・e00171)が隣に佇む、野木原・咲次郎(金色のジョーカー・en0059)に声をかける。
ケーゾウ、咲次郎、リノン・パナケイア(狂気と後悔に苛まれ・e25486)、そしてエイティーンを使ったクーは、GLUBのスタッフによる講習を受けていたが、ケーゾウは麗華に指導されている、女性陣が気になる様だ。
「ここの技術を3日で身につけようと言うのです。あれでも足りないくらいです」
咲次郎は、普段からは想像も出来ない様な口調で、丁寧にケーゾウに答える。
「それに、俺達もこのままでは間に合いませんよ」
咲次郎の言う通りだった。
練習台と言う名目の下、女性陣と美味い酒が飲めると、依頼に志願したケーゾウだったが、世の中そんなに甘く無かった。
黒服など、ただのお手伝いと思っていたが、講習内容は覚えなければならないことだらっけだった。
ホステスの女性をテーブルまでエスコートする洗練された動き、お客によってのデリケートな対応、時にはSPとして動く観察眼も試される。
水商売を生業にしている咲次郎を頼ろうにも、咲次郎は螺旋忍軍が現れた時のフロアマネージャーをする為、二段飛ばしの講習内容を受けている。
同じく、黒服講習を受けているリノンも、もてなしの類いは苦手と裏方に回ると言い、ケーゾウに投げっぱなしである。
クーも頑張って講習を受けてはいるが、何分未成年である。
エイティーンで年齢こそごまかせても、こういう場所に来るのが初めてなら、酒の種類も分からない。
セッティングなどの雑務をこなすのが精一杯となってしまい、そのしわ寄せは全てケーゾウに回って来ていた。
「ケーゾウさん、ボクも頑張るから一緒に頑張ろう♪」
クーの言葉にも、ケーゾウは曖昧な笑みを浮かべるしかなかった。
●実技
「お相手をさせて頂きます、女性方をお連れ致しました。限られた時間でございますが、お楽しみください」
咲次郎に連れられて来たのは麗しい5人の女性達。
リノン、ケーゾウ、クー、ロアを挟む様に女性達は腰を下ろす。
「ボク、こう言う所初めてで……!」
クーが顔を赤くして言えば、波琉那がクーのグラスにウイスキー(中身は烏龍茶)を注ぎながら、瞳を下げ優しく微笑む。
「私もこのお店に来て、慣れて無いのじゃなかった……慣れて無いんです、お客様とでしたら、ゆっくりとした時間が過ごせそうです」
(「危ない、麗華さん睨んでるよ~。言葉遣いだけでもしっかりしないと、今日も宿題出ちゃうよー」)
「お嬢さん可愛いな。店終わったら、俺といい所行かないか?」
セクハラまがいに、ロアがアオの太股に触れながら言えば、アオは微笑みながらもさりげなく、ロアの手をどける。
「お客様にそんな事を言って頂けるなんて光栄ですわ。でも、残念ですけど、この後も予約が入っていますの。よろしければ、またいらっしゃった時に誘って頂けませんか?」
普段とは違う、柔らかい笑顔でアオが言えば、ロアもそれ以上は求めない。
元より、ロアとしては、恥ずかしがり屋のアオがセクハラに動じないようにと手を出しただけなのだ。
アルコールを飲んで、イチャイチャしたいという本音もあったりはしたが。
ロアの思いを知らないアオはと言うと。
(「ロアったら、普段とは違うとはいえ、ボディタッチとかして来るとか聞いてないんだけどっ。この依頼が終わったら、覚えておきなさいよ!」)
グラスをゆっくり空にしていくリノンに、琴は慣れた手つきで静かにワインを注いでいく。
口数の多くないリノンは、琴の練習相手としては最適だった。
琴は、お酒を勧められても飲めないからだ。
だからと言って、琴の一つ一つの動作を見ている麗華の目が厳しくないかと言えば、別である。
女性の和としての美しさも重要だが、GLUBにおいて、お客様をどう楽しませるかも重要である。
琴の消極的な姿勢は、麗華に居残りを決めさせるのに十分だった。
例え、操を立てた相手が居ようが、店に入ってしまえばそんなことは理由にもならないのだ。
「銀子ちゃんも淡雪ちゃんも可愛いねえ。ほら、君達も飲んで~」
一際明るく、酒をあおっているのはケーゾウだ。
明日は螺旋忍軍が襲って来る。
いわば、今日はリハーサルだ。
だからこそ、困ったちゃんの酔払いを演じている。
「あら、気持ちいい飲みっぷりです事。私も一口頂きますわね」
淡雪が淑やかにそう言えば、銀子も普段の気の強さを隠し、お酒の弱いホステスを演じる。
「ケーゾウ様もきっとお悩みが多いんでしょうね。今日は、私達が癒して差し上げられればいいんですけど」
(「ここまでキャラを変えるときついね。舌を噛んじゃいそうだよ」)
銀子が、心の中で呟いていると、かなり酔いが回り始めたケーゾウが黒服、もとい咲次郎に声をかける。
「じゃんじゃん酒持って来てくれな。女の子達みんなと仲良くなりたいから♪」
「かしこまりました」
咲次郎は顔色を変えず、ソファーの端に座っている淡雪の横を通り過ぎる。
「あの、咲様。咲様は練習しませんの?」
「淡雪さん、俺は、麗華さんとの話もありますから、申し訳ありません。皆様の出来次第で、麗華さんの未来が変わりますから。頑張って下さい」
微笑し、淡雪に答える咲次郎。
「でも~」
「……酔ったケーゾウの対処くらいできんと、麗華さんから合格は貰えんぞ。……頑張れ」
一つウインクをして、咲次郎は麗華の方へ向かう。
「……これもお仕事ですものね。ケーゾウ様、私もおかわり頂きますわね」
あくまで、女性らしく淡雪はグラスに口を付けるのだった。
●本番
「皆さん、準備はよろしいでしょうか?」
スタッフと共に、囮班のコーディネートをしていた、悠乃が女性達に聞く。
麗華や専属メイクに技法を習いながら、仲間達を彩っていた悠乃も数日で学んだ技術が上手くいっているかは自信が無い。
それでも、囮となる5人は、皆煌びやかで美しかった。
麗華からもギリギリの合格を頂き、麗華はスタッフルームへと隠れ、店内はケルベロスのみとなった。
女性陣は二つのテーブル席に分かれ、男性陣はそれぞれ所定の位置に付く。
ケーゾウは黒狼に変身し、琴の脚元に寝そべっている。
そして数十分後、店の扉が開く。
一見して普通のお客では無いと分かる、道化師と猛獣使いの姿をした螺旋忍軍。
だが、扉の前に佇む咲次郎は、笑顔を崩さず。
「失礼ですが、本日はご指名で?」
「麗華と言うホステスが居るらしいな」
「かしこまりました」
咲次郎が、クーとリノンに目配せをすれば、クーが道化師をリノンが猛獣使いをテーブルへとそれぞれ案内する。
『いらっしゃいませ』
「波琉那です」
「琴です……」
「銀子です」
「私は麗華に用があるのですが……」
「みんな麗華だから心配いりませんよ」
波琉那が笑顔でそう言えば、螺旋忍軍は『そう言うものなのか』と疑うことなく、ホステスの極意を聞こうと話し出す。
もう一つのテーブルでは、アオと淡雪が対照的な魅力で、螺旋忍軍にホステスとは何かを教授していた。
「お客さまに快く思ってもらえる接客が……」
「あなたに送った様な視線で殿方を誘惑するのですわ……」
そんな時間が10分程過ぎ、螺旋忍軍達が彼女達を『麗華』と疑わなくなった時に、1人の獣と1人の少年が動いた。
「猟犬の鎖で捕えさせて貰うぜ!」
動物変身を解いたケーゾウが黒鎖を猛獣使いに絡みつかせると、もう一つのテーブルでは、森に伝わる秘術を解き少年の姿へと戻り、戦化粧を施したクーが縛霊手の掌から光弾を道化師に放った。
光弾が放たれる中、クーの髪を結っていた紐がはらりと解け、蒼く長いロングの髪形へ変わる。
「待ってたんだからね。何を狙っているかはわからないけど……例え小さな波紋でも作らせないよ」
そう言うと波琉那は、石化の魔力を開放する。
「ケルベロスか! 騙したな! 許さん!」
猛獣使いは鷲の幻影を呼び出すと、波琉那に向けて放つが、着物の裾を引き破った琴が跳躍するとそれを庇う。
「許さないのはこちらの方です、螺旋忍軍。あの人の……仇。貴女方の命で償って頂きます」
傷を受けながらもハッキリ言うと、琴は、デウスエクスへの怒りと恨みを腕に纏い、復讐鬼の姿へと変貌させる。
「我が怨念、余さず纏めてぶつけましょう。受けなさい、復讐の腕を!」
猛獣使いの身体を抉る様に琴の腕が振り下ろされる。
「螺旋の力も使う人間次第なのよね」
銀子が氷結の螺旋を放つと、リノンが鎌を持った影を呼び出す。
「その生命、私が狩り取ろう」
リノンが呼び出した影の鎌は、猛獣使いの肩口を切り裂いた。
一方、もう一つのテーブルでは、淡雪の蕩ける様な詠唱が響いていた。
「『この身が朽ち果てようとも彼の者達を守りなさい! ひゃっかおうりゃん!!』あぁごめんなさい。噛んじゃったわ♪」
淡雪から溢れ出た桃色の花弁は、仲間達に守りの力を与えていく。
(「いつもと違う雰囲気かと思ったら、中身はやっぱり淡雪だね。それでも、絶対に守ってあげるよ、女王様」)
心の中で呟いて、黒いスーツのアガサが流星の軌跡を描く蹴りを道化師に放つ。
「聞いてみる? 大気に満ちる風の音を」
ドレスの裾を靡かせながら、アオが風の精霊に呼びかければ、新緑の風が道化師を巻きこんで行く。
反撃に出ようとした、道化師の頭を昇のリボルバーが狙い撃ちにする。
その時、アオの耳に大きな音が響く。
もう一つのテーブルで戦っていた猛獣使いが、琴と銀子の攻撃を同時に受け、息絶えていた。
「……待たせたな」
リノンが道化師に一気に駆けより、刃の如き蹴りを放つ。
「咲次郎、全体ヒール! 俺は……」
ケーゾウの言葉で咲次郎は癒しの雨を降らせる。
その間も、波琉那、アオが道化師に連続で攻撃を決めていく。
道化師もナイフを雨の様に降らせるが、即座に淡雪のヒールが広がって行く。
「再装填と守りは任せとけ。何、他に気を取られず集中さえすればどんな堅固な相手だろうと貫けるさ。ショータイムだ」
ケーゾウは、己の武器、闘気、魔力。それらを結界としてクーに纏わせる。
ケーゾウの力がクーの集中力を更に高めていく。
「熱いの、寒いの、どっちがいい? でもね、君には選べないよ。だって、ボクは冷やすことしかできないから! 氷漬けになっちゃえぇ!!」
全身を震わせて渾身の叫びをクーが放つと、魔力を伴ったその音声は、道化師の周囲の空気を凍り付かせ、瞬時に道化師を氷の檻へと閉じ込めた。
そして数秒後『バキン』と音を発てて道化師ごと氷棺は砕けた。
螺旋忍軍の企みも砕け散った瞬間だった。
●幕引き
リノンなどからヒールの申し出があったが、CLUB側はそれを丁寧に断った。
何故なら、ヒールしてしまうと予期せずファンタジックな内装になってしまう為、店側としては、人の手で直した方がいいとのことだった。
だが、麗華は自分の身を守ってくれたケルベロス達に心から礼を言った。
クーから受け取った人形を大事そうに受け取り、姉の様に感じてしまったと言う波琉那を力を込めて抱きしめた。
銀子の『いずれまた』と言う言葉には握手で答えた。
アオの感謝の言葉も『こちらこそありがとう』と優しく返していた。
何も言えずに居た、琴にもさりげなく近づくと優しく微笑んだ。
「じゃあ、報告に帰るか」
ケーゾウの言葉で、CLUBを後にするケルベロス達だったが、後ろを歩いていた、咲次郎のスーツを淡雪の手が引き止めた。
「なんじゃ?」
「私、今回のことで、ホステスやホストの大切さも多少は理解出来たと思いますの」
「ん?」
「キャバクラでは得られない満足感は確かに費用が高いだけはあると思いましたの……ですから、咲様。いつもシャンパンタワーって煩くしててごめんなさい。淡雪は、咲様が自主的にやって下さるのをいつでも待ってますわ」
不思議顔の咲次郎にそう言うと、淡雪はカリスマホステス直伝の笑顔で微笑んだ。
だが、咲次郎が淡雪のシャンパンタワーのおねだりを断り続けているのにも、理由があった。
(「ケルベロスが、ホスト通い始めると、ホストがカモにするんじゃよなあ」)
ケルベロスが現金を持ち歩いている訳ではないが、気にいったホストにケルベロスカードを渡してしまえば、身の破滅になってしまうのだ。
いくらでも、財産がケルベロスの名義で引き出せるカードなのだから。
(「やっぱり、気にかけてるお嬢さんが、ホスト通いする切っ掛けは作りたくないからのう」)
そんな、思いは顔にも出さず咲次郎は『了解じゃ』と笑うのだった。
作者:陸野蛍 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2016年9月13日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 5
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